説明

余りモルタル又はコンクリート用固結抑制剤及び余りモルタル又はコンクリートの処理方法

【課題】 施工・打設現場などで余りモルタルやコンクリートに添加すればその凝結硬化を長時間に渡って抑制でき、特に従来困難とされてきたカルシウムアルミネート等の速硬成分を含む余りモルタル・コンクリートでも長時間に渡って凝結硬化を抑制でき、また分散成分が存在しても流動性を低減させることなく使用可能な、余りモルタル・コンクリート用固結抑制剤と、これを用いた余りモルタルやコンクリートの処理方法を提供する。
【解決手段】 オキシカルボン酸又はその塩と、リン酸塩又はリン酸水素塩とを有効成分とする余りモルタル・コンクリート用固結抑制剤を余りモルタル・コンクリートに該モルタル・コンクリートが凝結する前に添加し、混合・撹拌しつつ車両で処理施設又は処分場まで搬送することを特徴とする余りコンクリートの処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、現場施工・打設等で余剰となったモルタル又はコンクリート(余りモルタル・コンクリート)の処理に用いるための固結抑制剤及びこれを用いた余りモルタル又はコンクリートの処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
モルタルやコンクリートを現場施工・打設する場合、施工・打設現場でセメント、骨材及び水等を配合してモルタル・コンクリートを作製する他、生コン工場等で予め作製したフレッシュ状態のモルタル・コンクリートを混練し乍ら施工・打設現場へアジテーター車で搬送することが多い。施工・打設後に余剰となったモルタル・コンクリート(余りモルタル・コンクリート)は、現場にピット等を施設し一時貯留した後処理することもあるが、通常は、流動性を保った状態で処理施設や処分場までアジテーター車や混合・攪拌機を備えた回収タンクを搭載した車両で搬送している。搬送中の硬化を防ぐため、余りモルタル・コンクリートに大量の水を加え、回転混合や撹拌し乍ら搬送することが行われている。また、搬送中に流動性が低下すると、処理場でアジテーター車などの回収車両から余りモルタル・コンクリートを排出した後も、一部がアジテーター車のドラム内壁やタンク内の撹拌羽根に付着したまま留まり易くなる。これを放置すると固結し、内壁や撹拌羽根を傷め装置機能に支障を及ぼすことになる。硬化した付着物を除去するには、例えばはつりをするなどの多大な作業負担がかかる。特に、カルシウムアルミネートなどの速硬成分を含むモルタルやコンクリートの場合は、作製から凝結開始までの施工・打設可能な可使時間が短いため、搬送に耐えうるような時間的猶予も得難く、大量の水を加えても硬化させずに処理施設まで持ち帰ることは甚だ困難であった。クエン酸、酒石酸などのオキシカルボン酸類やその塩、アルカリ土類金属の炭酸塩又は水酸化物等の凝結遅延剤を余りモルタルやコンクリートに加えると凝結・硬化を抑制できる可能性があるものの、速硬成分を含むモルタル・コンクリートでは大量に凝結遅延剤を使用しないと硬化抑制はできず、抑制できてもせいぜい30分〜1時間程度が限界で、処理上の制約となっている。(例えば、特許文献1〜2参照。)加えて、分散剤、減水剤、高性能減水剤などの水硬性粒子凝集を防ぐ為の分散成分を含むモルタルやコンクリートでは、モルタル・コンクリートに広く使用されているオキシカルボン酸類やその塩、アルカリ土類金属の炭酸塩又は水酸化物等の凝結遅延剤の使用量増加に連れて分散成分の効力が低下して水硬性粒子が凝集し、遂には流動性が喪失することがある。(例えば、非特許文献1参照。)速硬性成分を含むモルタル・コンクリートは短時間強度を確保する上で起こる粘性上昇による混練抵抗を軽減させるため、分散剤の使用が不可欠であることから、大量の凝結遅延剤の使用はできず、時間がかかる車両搬送には適していない。この場合、施工・打設現場でそのために貯留施設を設け、そこで余りコンクリート等を硬化させた塊を遠方の埋立処分場まで搬送するなど手間とコストのかかる制約された方法で処理せざるを得なかった。
【特許文献1】特開昭60−108352号公報
【特許文献2】特開昭61−155239号公報
【非特許文献1】竹内徹、他3名,「コンクリートのスランプの長時間保持に関する実験的研究」,土木学会論文集,社団法人土木学会,平成9年8月,第36巻,第571号,p.15−25
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、余りモルタル・コンクリートの長時間の搬送による処理上の上記実情に鑑み、施工・打設現場などで余りモルタルやコンクリートに添加すればその凝結硬化を長時間に渡って抑制でき、特に従来困難とされてきたカルシウムアルミネート等の速硬成分を含む余りモルタル・コンクリートでも長時間に渡って凝結硬化を抑制でき、また分散成分の存在下でも流動性を喪失させることなく使用可能な、余りモルタル・コンクリート用固結抑制剤を提供すると共に、これを用いた余りモルタルやコンクリートの処理方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者等は、前記課題解決のため検討を重ねた結果、オキシカルボン酸又はその塩と、特定の無機塩を余りモルタル・コンクリートに加えることで、カルシウムアルミネート等の速硬成分を含む余りモルタル・コンクリートでも凝結硬化を抑制でき、長時間に渡って流動性を容易に確保できるという知見を得、余りモルタル・コンクリート処理上の制約が飛躍的に改善されたことから本発明を完成するに至った。
【0005】
即ち、本発明は、次の(1)〜(4)で表す余りモルタル・コンクリート用固結抑制剤である。(1)オキシカルボン酸又はその塩と、リン酸塩又はリン酸水素塩とを有効成分とする余りモルタル・コンクリート用固結抑制剤。(2)更にアルカリ金属炭酸塩を含有する前記(1)の余りモルタル・コンクリート用固結抑制剤。(3)余りモルタル・コンクリートが速硬成分を含有したものである前記(1)又は(2)の余りモルタル・コンクリート用固結抑制剤。(4)余りモルタル・コンクリートが分散成分を含有したものである前記(1)〜(3)何れか記載の余りモルタル・コンクリート用固結抑制剤。
【0006】
また、本発明は、次の(5)で表す余りモルタル・コンクリートの処理方法である。(5)余りモルタル・コンクリートに該モルタル・コンクリートが凝結する前に前記(1)〜(4)何れかの余りコンクリート用固結抑制剤を添加し、混合・撹拌しつつ車両で処理施設又は処分場まで搬送することを特徴とする余りコンクリートの処理方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、施工・打設現場等から処理場まで余りモルタル又はコンクリートの車両搬送に長時間かかるような場合でも、固結を十分抑制でき、また高い流動性を長時間に渡って維持できるので、処理場での余りモルタル又はコンクリートの排出や搬送回収用タンクの洗浄も容易に行うことができる。特に、従来車両搬送が甚だ困難とされてきた速硬成分或いは速硬成分と分散成分を含む余りモルタル又はコンクリートの比較的長時間の車両搬送も可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明で対象とする余りモルタル又はコンクリートは、施工・打設等で余剰となったモルタル又はコンクリートで、注水されて実質凝結開始前の状態のものであれば良い。また、その組成は特に限定されるものではないが、アルミナセメントを含むカルシウムアルミネート類、硫酸アルミニウム、アルミン酸ナトリウム、水ガラス等の速硬成分を含有する組成のものであるか、分散剤、減水剤、高性能減水剤、高性能AE減水剤又はAE減水剤などと称される分散成分を含有する組成のものが好適であり、該速硬成分と分散成分を共に含有する組成のものがより好適である。
【0009】
本発明の余りモルタル・コンクリート用固結抑制剤は、オキシカルボン酸又はその塩と、リン酸塩又はリン酸水素塩とを有効成分とするものである。オキシカルボン酸又はその塩としては特に限定されるものではなく、例えばクエン酸、リンゴ酸、グルコン酸、酒石酸、ヘプトン酸やこれらのナトリウム塩、カリウム塩等の塩を挙げることができる。オキシカルボン酸又はその塩は、セメント等の水硬性物質の凝結を遅延させる作用を有する。また、リン酸塩又はリン酸水素塩も特に限定されるものではなく、例えばリン酸塩としては、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム等が挙げられ、リン酸水素塩としては、リン酸水素2ナトリウム、リン酸水素2カリウム、リン酸2水素ナトリウム、リン酸2水素カリウム等が挙げられる。リン酸塩又はリン酸水素塩は、流動性低下抑制作用を伴う凝結遅延作用を有し、特に速硬成分を含むモルタル・コンクリートへの長時間に渡る可使時間確保には混合・撹拌操作を加えることが不可欠となるので、混合抵抗の増加を抑えることができるので好都合である。本発明の余りモルタル・コンクリート用固結抑制剤は、オキシカルボン酸又はその塩の含有量100重量部に対し、リン酸塩又はリン酸水素塩を200〜10000重量部含有したものとするのが好ましい。リン酸塩又はリン酸水素塩が200重量部未満では粘性が上昇し、流動性が低下する虞があり、またリン酸塩又はリン酸水素塩が10000重量部を超えると凝結時間が短くなることがあるので適当でない。
【0010】
本発明の余りモルタル・コンクリート用固結抑制剤は、更にアルカリ金属炭酸塩を含有するものであっても良い。アルカリ金属炭酸塩の中でも、炭酸リチウムが固結抑制時間を最も長くすることができるので好ましい。本発明の余りモルタル・コンクリート用固結抑制剤中のアルカリ金属炭酸塩の含有量は、オキシカルボン酸又はその塩の含有量100重量部に対し、2000重量部以下が好ましく、1〜1000重量部がより好ましい。1000重量部を超えると強固な固結体を形成し易くなることがあるため適当でない。
【0011】
本発明の余りモルタル・コンクリート用固結抑制剤は、オキシカルボン酸又はその塩と、リン酸塩又はリン酸水素塩とが合計で、約1〜80重量%含むものが好ましい。アルカリ金属炭酸塩を含む場合はこれを加えての合計での含有値とする。約1重量%未満では、有効成分量を確保するため、大量の余りモルタル・コンクリート用固結抑制剤を使用せねばならず、増容となって処理効率が低下するので適当でない。また、残部は水であることが好ましく、従って、本発明の余りモルタル・コンクリート用固結抑制剤は、水溶液又は懸濁液の状態であることが、固結抑制作用を速やかに及ぼすことができ、且つ添加時の混合性にも優れているので望ましい。また、本発明による効果を著しく低減しない限り、残部には水以外の他の物質が含まれていても良い。
【0012】
また、本発明の余りモルタル・コンクリートの処理方法は、施工・打設現場等の使用で余ったモルタルやコンクリートを、その場で処分できないような場合で、これを現場から離れた処理施設や処分場に車両搬送するのに適した方法である。即ち、余りモルタルやコンクリートが凝結を開始する前に、これに前記の余りモルタル・コンクリート用固結抑制剤を加える。フレッシュ状態の余りモルタル・コンクリートに水を加えて処理する場合は、前記の余りモルタル・コンクリート用固結抑制剤を当該水を加える前、後或いは当該水を加えるのと同時の何れの方法でも加えることができる。望ましくは、当該水を加える前に添加すると速硬成分含有濃度が高いものでも、より確実に固結抑制を行うことができるので適当である。
【0013】
余りモルタル・コンクリート用固結抑制剤の使用量は、処理対象となるモルタル・コンクリートが速硬成分を含まないものでは、含有するセメント100重量部に対し、0.05〜10重量部が推奨され、また、速硬成分を含むモルタル・コンクリートを対象とする場合は、セメントと速硬成分の合計含有量100重量部に対し、0.2〜20重量部が推奨される。何れも推奨範囲未満の使用量では固結抑制作用が弱くなるため適当でない。また、何れも推奨範囲を超える量を使用しても、それ以上は固結抑制作用は殆ど向上しない。尚、処理対象となるモルタル・コンクリートが分散成分を含む場合でも前記使用量の推奨値は変わらない。
【0014】
該固結抑制剤を加えた後の余りモルタル・コンクリートは、これを例えばアジテーター車のドラムなど、混合又は撹拌機能を備えた適当な車両搬送用回収タンクに入れて回収する。ドラムや回収タンクで回収の際は、従来より行われているようにフレッシュ状態の余りモルタル・コンクリートに水を加えるのが望ましい。この水の量は限定されず、回収タンク等の容量や回収物の流動状況等を考慮して適宜定めれば良い。回収後は、回収物を混合又は撹拌しながら目的地まで搬送する。搬送時間は、速硬成分を含まない余りモルタル・コンクリートでは特に制限されず、また速硬成分を含む余りモルタル・コンクリートでは概ね3時間以内とするのが適当である。搬送後は流動化状態の余りモルタル・コンクリートを取出し、例えばフィルタープレス等で固液分離し、固形分は硬化させて埋立処分に、液分は排水処理する等、適宜処理すれば良い。また、余りモルタル・コンクリートを取出し後のタンク内壁や撹拌羽根等に付着した残分は、固結する前に洗浄水を入れて再度混合・撹拌すれば除去できる。より望ましくは、高圧水洗浄等を行うと良い。
【実施例】
【0015】
以下、実施例により本発明を具体的に詳しく説明するが、本発明はここで表す実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
次に記す各原料(何れも市販試薬)及び水を表1に表す配合量となるよう、レーディゲミキサを混合機に用い、約1分間混合し、混合物A〜Mを作製した。
・クエン酸
・酒石酸
・酒石酸ナトリウム
・リン酸ナトリウム
・リン酸カリウム
・リン酸水素2ナトリウム
・リン酸2水素ナトリウム
・炭酸リチウム
・炭酸ナトリウム
・水酸化カルシウム
【0016】
【表1】

【0017】
前記の如く作製した混合物A〜M100重量部に水37.5重量部を加え、水溶液又は懸濁液にした。次いで、この水溶液又は懸濁液を、内容積50リットルの円筒形タンクに収納した表2に表す組成のフレッシュ状態のモルタル1〜3各10Kgに、それぞれ275、412又は550gずつ添加し、添加時からスクリュー型撹拌装置を用いて約20℃の温度下で撹拌混合(撹拌羽根の回転数750rpm)を行った。
【0018】
【表2】

【0019】
混合2時間経過後の各モルタルについて、JIS R5201「セメントの物理試験方法」に基づきフロー試験を行い、モルタルフローの値を調べることで流動性を評価し、またJIS R5201「セメントの物理試験方法」に基づき凝結試験を行い、凝結始発発生の有無を評価した。流動性の評価は、モルタルフローの値が150mm以上を流動性良好と判断して○で表記し、それ以外を流動性不良と判断してXで表記した。以上の結果を表3に表す。
表3の結果から、本発明による余りモルタル・コンクリート用固結抑制剤を使用したモルタルは、その含有成分に拘わらず、高い流動性が維持され、長時間に渡って凝結が抑制されたことがわかる。
【0020】
【表3】

【0021】
[実施例2] 打設現場で調合した前記表2に表す配合の速硬コンクリートの打設残分約1m3を、アジテーター車のドラムにフレッシュ状態で回収し、これに実施例1の表1に記載した混合物Jを32Kgと水を12Kg加え、ドラムを回転させながら処理施設まで搬送した。コンクリート調合から約2時間経過した時点でドラムから回収物を取り出し、実施例1と同様の方法で凝結発生有無を調べた。更に、取り出した回収物5mm目の篩を通して粗骨材を除去したもののについて、実施例1と同様の方法で流動性を調べた。その結果、モルタルフローの値は約200mmで、良好な流動性を保ち、凝結の発生も見られなかった。また回収物を取り出した後のアジテーター車ドラムに水をドラム内容積のおよそ20%となるよう入れ、約10分間ドラムを回転し、その後ドラム内の水を抜き取った。ドラム内壁の付着物は目視では見られず、ドラム内洗浄ができていることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明による余りモルタル・コンクリート用固結抑制剤は、余りモルタル・コンクリートの処理用以外にも、例えばセメント系の二次製品や建材の製造などでスラリー状の原料を使用し、当該スラリー状の原料を長時間安定した流動状態に保ちたい場合に混和剤として使用できる可能性が高い。特にこのような原料が速硬成分と分散成分を含む場合には、分散状態を保ちつつ凝結のみを大幅に遅らせ、凝結開始以降は急速に硬化させる作用を喪失させることなく、また強度低下等も起こり難いため好適である。更に水配合比が著しく低い高強度乃至超高強度モルタル・コンクリート等の凝結遅延成分としても、短時間強度発現性も良好であることから、使用できる可能性が高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オキシカルボン酸又はその塩と、リン酸塩又はリン酸水素塩とを有効成分とする余りモルタル・コンクリート用固結抑制剤。
【請求項2】
更にアルカリ金属炭酸塩を含有する請求項1記載の余りモルタル・コンクリート用固結抑制剤。
【請求項3】
余りモルタル・コンクリートが速硬成分を含有したものである請求項1又は2記載の余りモルタル・コンクリート用固結抑制剤。
【請求項4】
余りモルタル・コンクリートが分散成分を含有したものである請求項1〜3何れか記載の余りモルタル・コンクリート用固結抑制剤。
【請求項5】
余りモルタル・コンクリートに該モルタル・コンクリートが凝結する前に請求項1〜4の何れか記載の余りコンクリート用固結抑制剤を添加し、混合・撹拌しつつ処理施設又は処分場まで車両搬送することを特徴とする余りコンクリートの処理方法。

【公開番号】特開2007−145618(P2007−145618A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−339683(P2005−339683)
【出願日】平成17年11月25日(2005.11.25)
【出願人】(501173461)太平洋マテリアル株式会社 (307)
【Fターム(参考)】