説明

余寿命推定システム、余寿命推定方法、コンピュータプログラム、記録媒体

【課題】発電プラント等の設備において高温に曝される部材の余寿命を、当該設備の運転を停止することなく推定できるようにする。
【解決手段】余寿命推定システム10は、高温に曝される部材に生じた歪に応じた信号を出力する歪センサ100が接続され、歪センサ100より入力された信号に基づき、所定の測定時期ごとに部材に生じた歪を測定する歪測定制御部210と、前記部材についての高温に曝された累積時間t(i=1、…、n)と、累積時間tにおける前記部材に生じた歪εとが対となった累積時間―歪データが記録され、測定時期に対応する累積時間tと、歪測定制御部210により測定された歪εとが対になって新たに記録されることにより、累積時間―歪データが所定の時間間隔で更新される歪履歴情報データベース231と、歪履歴情報データベース231を参照して、累積時間―歪データを取得する歪履歴情報取得部232と、取得した歪―累積時間データに基づき、余寿命を推定する余寿命推定部240と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボイラ、蒸気タービン、配管等の高温に曝される部材の余寿命を推定するシステム及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発電プラント等のボイラや蒸気タービン等の高温・高圧下に長時間曝される部材は、運転中に熱応力によりクリープや疲労等の損傷を受ける。このような部材について、予め、補修や交換を行うことができるように、従来より、ボイラや蒸気タービン等を停止して表面を超音波等で疲労状態を調査し、この調査結果を用いて、例えば、特許文献1記載の方法を用いて、余寿命診断を行っている。
【特許文献1】特開2004−144549号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記の方法は、発電プラントを停止して、非破壊検査を行わなければ、余寿命を算出することができない。また、このように発電プラントを停止して検査を行う方法では、検査を頻繁に行うことができないため、寿命後半において検査の実施間隔が長くなってしまうと、タイプIVクリープ損傷のように進行の早い損傷は、前回の検査では発見できなかったが、次の検査の際には損傷が進行してしまった状態で発見されるということが起こりうる。
【0004】
本発明は上記の問題に鑑みなされたものであり、発電プラント等の設備において高温に曝される部材の余寿命を、当該設備の運転を停止することなく推定できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の余寿命推定システムは、高温に曝される部材の余寿命を推定するシステムであって、前記部材に生じた歪に応じた信号を出力する歪センサが接続され、前記歪センサより入力された信号に基づき、所定の測定時期ごとに前記部材に生じた歪を測定する歪測定制御部と、前記部材についての高温に曝された累積時間t(i=1、…、n)と、前記累積時間tにおける前記部材に生じた歪εとが対となった累積時間―歪データが記録され、前記測定時期に対応する累積時間tと、前記歪測定制御部により測定された歪εとが対になって新たに記録されることにより、前記累積時間―歪データが前記所定の時間間隔で更新される歪履歴情報データベースと、前記歪履歴情報データベースを参照して、前記累積時間―歪データを取得する歪履歴情報取得部と、前記取得した歪―累積時間データに基づき、余寿命を推定する余寿命推定部と、を備えたことを特徴とする。
【0006】
上記の余寿命推定システムにおいて、前記余寿命推定部は、前記歪―累積時間データに基づき、前記累積時間tと歪速度ε´とが対となった累積時間―歪速度データを算出し、前記算出した累積時間―歪速度データに基づき、モンクマングラント法により余寿命を算出する第1の余寿命算出手段を備えてもよい。
【0007】
また、前記余寿命推定部は、前記累積時間―歪データに基づき、前記歪εと歪速度ε´とが対となった歪―歪速度データを算出し、前記算出した歪―歪速度データに基づき、Ω法により余寿命を算出する第2の余寿命算出手段を備えてもよい。
【0008】
また、前記余寿命推定部は、前記歪―累積時間データに基づき、前記累積時間tと歪速度ε´とが対となった累積時間―歪速度データを算出し、前記算出した累積時間―歪速度データに基づき、モンクマングラント法により第1の余寿命Tを算出する第1の余寿命算出手段と、前記累積時間―歪データに基づき、前記歪εと歪速度ε´とが対となった歪―歪速度データを算出し、前記算出した歪―歪速度データに基づき、Ω法により第2の余寿命Tを算出する第2の余寿命算出手段と、前記第1の余寿命算出手段と、前記第2の余寿命算出手段とにより算出された第1の余寿命T及び第2の余寿命Tのうち短い方の余寿命を推定余寿命として採用する余寿命判定部と、を備えてもよい。
【0009】
また、本発明の余寿命推定方法は、高温に曝される部材に生じた歪に応じた信号を出力する歪センサが接続され、前記高温に曝される部材についての高温に曝された累積時間t(i=1、…、n)と、前記累積時間tにおける前記部材に生じた歪εとが対となった累積時間―歪データが記録された歪履歴情報データベースを備えたコンピュータにより、前記部材の余寿命を推定する方法であって、前記コンピュータが、前記歪センサより入力された信号に基づき、所定の測定時期ごとに前記部材に生じた歪を測定し、前記歪履歴情報データベースに、前記測定時期に対応する累積時間tと、前記測定した歪εとを対になって新たに記録することにより、前記累積時間―歪データを前記所定の時間間隔で更新し、前記歪履歴情報データベースを参照して、前記累積時間―歪データを取得し、前記取得した歪―累積時間データに基づき、余寿命を推定することを特徴とする。
【0010】
また、本発明のコンピュータプログラムは、高温に曝される部材に生じた歪に応じた信号を出力する歪センサが接続され、前記高温に曝される部材についての高温に曝された累積時間t(i=1、…、n)と、前記累積時間tにおける前記部材に生じた歪εとが対となった累積時間―歪データが記録された歪履歴情報データベースを備えたコンピュータに前記部材の余寿命を推定させるためのコンピュータプログラムであって、前記コンピュータに、前記歪センサより入力された信号に基づき、所定の測定時期ごとに前記部材に生じた歪を測定するステップと、前記歪履歴情報データベースに、前記測定時期に対応する累積時間tと、前記測定した歪εとを対になって新たに記録することにより、前記累積時間―歪データを前記所定の時間間隔で更新するステップと、前記歪履歴情報データベースを参照して、前記累積時間―歪データを取得するステップと、前記取得した歪―累積時間データに基づき余寿命を推定するステップと、を実行させることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の記録媒体は、上記のコンピュータプログラムが記録されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、発電プラント等の設備において高温に曝される部材の余寿命を、当該設備の運転を停止することなく推定することができる。このため、進行の早い損傷も検出することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の余寿命推定システムの一実施形態を図面を参照しながら、詳細に説明する。
図1は、本実施形態の余寿命推定システム10の構成を示す図である。本実施形態の余寿命推定システム10は、発電所内のボイラ、タービン、及び配管などの高温に曝され、クリープ損傷を生じる部材の余寿命を推定するためのものである。
同図に示すように、余寿命推定システム10は、余寿命の推定の対象となる各部材に取り付けられた複数の歪センサ100と、各歪センサ100の電圧信号を適宜増幅して出力する複数のアンプ110と、各アンプ110から出力された電圧信号をA/D変換する複数の変換部120と、変換部120から歪センサ100における歪の大きさに対応した電圧信号が入力されるコンピュータ200と、から構成される。
【0014】
歪センサ100としては、高温状態でも精度良く歪を測定することができるものを用いている。このような歪センサ100としては、例えば、本願出願人らが特願2006−144074及び特願2006−144075において提案している静電容量型の歪測定装置などを用いるとよい。歪センサ100は、取り付けられた部位に歪が生じると、この歪の大きさに応じた信号を出力する。歪センサ100より出力された信号は、アンプ110において適宜増幅され、変換部120においてA/D変換されて、コンピュータ200に入力される。
【0015】
なお、本実施形態では、各歪センサ100に対して、アンプ110及び変換部120を設ける構成としているが、複数の歪センサ100に対して、共通のアンプ110及び変換部120を設けてもよい。
【0016】
コンピュータ200は、歪測定制御部210と、校正情報データベース221と、校正情報取得部220と、歪履歴情報データベース231と、歪履歴情報記録部230と、歪履歴情報取得部232と、余寿命情報記録部260と、余寿命情報取得部262と、余寿命データベース261と、余寿命推定部240と、入力部250と、画面出力部251と、印刷出力部252と、を備える。これらの各構成部210〜252の機能は、コンピュータ200が記録媒体に記録されたプログラムを実行することにより実現される。
【0017】
校正情報データベース221には、予め、高温下における試験により得られた、各歪センサ100についての歪の大きさと、出力される電圧信号との関係を示す校正情報が記録されている。校正情報取得部220は、校正情報データベース221を参照して校正情報を取得することができる。
【0018】
このような、校正情報データベース221に記録されている校正情報は、以下のようにして画面出力部251により表示部253に画面表示させて確認できる。まず、作業員が入力部250に校正情報を確認する歪センサ100の指定を含む校正情報を画面表示する旨の入力を行う。入力部250が歪センサ100の指定を含む校正情報を画面表示する旨の入力を受け付けると、校正情報取得部220が校正情報データベース221を参照して、指定された歪センサ100の校正情報を取得する。そして、画面出力部251が取得した校正情報を、ディスプレイ装置である表示部253により表示可能な形式に変換し、表示部253が、例えば、図2に示すように、画面出力する。
【0019】
歪履歴情報データベース231には、各歪センサ100について、歪センサの識別情報に対応付けて累積時間と歪の値とが対となった累積時間―歪データ{(ti、εi)|i=1、2、…、n}が記録されている。なお、累積時間とは、歪センサ100が取り付けられた部位が含まれる装置の総運転時間(すなわち、この部位が高温に曝された時間)であって、この装置の起動時間を予め記録しておくことにより、測定時期と起動時期との時間差をとり、この時間差から装置が停止された停止時間を引くことで求められる。また、停止時間は、例えば、装置に温度センサを取り付けておき、この温度センサにより測定された温度をコンピュータに入力し、コンピュータが温度センサにより測定された温度が所定の温度以下となった場合には、装置が停止していると判定することにより自動的に求めることができる。
歪履歴情報データベース231に記録された情報は、歪履歴情報取得部232より取得することができる。また、後述するように、歪履歴情報記録部230が、新たに歪測定制御部210により測定された歪の値と累積時間とを対として記録する。これにより、歪履歴情報データベース231に記録された累積時間―歪データ{(ti、εi)|i=1、2、…、n}は、所定の時間間隔で更新されることとなる。
【0020】
歪測定制御部210には、予め、歪センサ100ごとに設定された測定時期が記録されており、この測定時期ごとに、該当する歪センサ100による歪の測定結果を変換部120から取得する。
【0021】
以下、歪測定制御部210が歪センサ100により測定された部材の歪を取得し、歪履歴情報データベース231を更新する処理の流れを図3に示すフローチャートを参照しながら説明する。
まず、ステップ50において、歪測定制御部210が、測定時期になると測定の対象となる歪センサ100からアンプ110及び変換部120を介して送られた測定信号を取得する。
【0022】
また、これとともに、ステップ52において、歪測定制御部210は、該当する歪センサ100に対応する校正情報を取得する。すなわち、まず、歪測定制御部210が、校正情報取得部220に測定の対象となる歪センサ100の識別情報を含む情報要求信号を送信する。校正情報取得部220は、指令信号を受信すると、校正情報データベース221を参照して、情報要求信号に含まれる歪センサ100の識別情報に該当する歪センサ100の校正情報を取得し、歪測定制御部210に送信する。
次に、ステップ54において、歪測定制御部210は、校正情報を受信すると、この校正情報に基づき上記取得した測定信号を歪の値に変換する。
【0023】
このようにして、歪測定制御部210により測定された歪は、測定時期に対応する累積時間と対にして歪履歴情報記録部230に送信される。そして、ステップ56において、歪履歴情報記録部230が、受信した歪と累積時間とを対にして歪履歴情報データベース231に記録する。
【0024】
上記の工程を各歪センサ100について、繰り返し行うことにより、歪履歴情報データベース231には、各歪センサ100について、累積時間と歪の値とが対となった累積時間―歪データ{(ti、εi)|i=1、2、…、n}が記録される。
【0025】
このようにして、歪履歴情報データベース231に記録された累積時間―歪データは、画面出力部251に接続された表示部253に画面表示させて確認することができる。まず、作業員が入力部250より、歪センサ100の指定を含む累積時間―歪データを画面表示する旨の入力を行い、これに応じて、入力部250は、歪履歴情報取得部232に歪センサ100の識別情報の指定を含む要求信号を送信する。歪履歴情報取得部232は要求信号により指定された歪センサ100の累積時間―歪データを取得し、取得した累積時間―歪データを画面出力部251に供給する。画面出力部251は累積時間―歪データを受信すると、表示部253に、例えば、図4に示すように、画面表示する。
【0026】
余寿命推定部240は、第1の余寿命算出部241と、第2の余寿命算出部242と、判定部243とを備える。第1の余寿命算出部241は、モンクマングラント法により余寿命を算出する。また、第2の余寿命算出部242は、Ω法により余寿命を算出する。そして、判定部243は、第1の余寿命算出部241及び第2の余寿命算出部242の算出結果に基づき余寿命を決定する。
【0027】
余寿命情報データベース261には、余寿命情報記録部260により各部材の余寿命を含む余寿命情報が記録される。余寿命情報取得部262は、余寿命情報データベース261を参照して余寿命情報を取得することができる。
【0028】
以下、余寿命推定部240が、累積時間―歪データに基づき余寿命を推定する処理の流れを図5に示すフローチャートを参照しながら説明する。なお、以下の処理は、コンピュータ200が記録媒体に記録されたコンピュータプログラムを実行することにより行われる。
【0029】
まず、ステップ10において、入力部250が、余寿命推定の対象となる部位の指定情報の入力を受け付ける。
次に、ステップ12において、歪履歴情報取得部232が、歪履歴情報データベース231を参照して指定情報に該当する部位にとりけられた歪センサの累積時間―歪データを取得する。
【0030】
次に、ステップ14において、第1の余寿命算出部241が、取得した累積時間―歪データに基づき、モンクマングラント法により余寿命を算出する。
モンクマングラント法では、部材の余寿命Tを以下の式(1)により算出する。
【数1】

なお、式中のεは歪[%]を、ε´minは歪速度の最小値(1/時間)を、trは破断時間を、tは累積時間を示す。
【0031】
以下、ステップ14における、第1の余寿命算出部241が、モンクマングラント法により余寿命を算出する方法を詳細に説明する。図6は、ステップ14におけるモンクマングラント法による余寿命を算出する流れを示すフローチャートである。なお、図中第1の余寿命算出部241が行う工程は実線で、それ以外の構成部が行う工程は破線で記す。
【0032】
まず、ステップ100において、累積時間―歪データ{(t、ε)|i=1、…、n}に基づき、累積時間と歪速度とが対となった累積時間―歪速度データ{(t、ε´)|i=1、…、n}を算出する。なお、歪速度は、例えば、以下の式のように、前後の測定データにおける歪の変化量を、前後の累積時間の間隔により割ることで算出すればよい。
【数2】

【0033】
このようにして得られた累積時間―歪速度データは、ステップ120において、画面出力部251が表示部253にグラフ表示する。図7は、画面出力部251による累積時間―歪速度データの画面表示の一例である。同図に示すように、画面出力部251は、縦軸に歪速度の対数を、横軸に累積時間の対数をとったグラフにより表示する。同図のグラフに示すように、歪速度の対数は、累積時間の対数がlog(T)以下では、略一定の値である(すなわち、グラフが水平方向に分布する)が、所定の値を超えると、累積時間の対数に対して比例的に増加する。
【0034】
次に、ステップ102において、式(1)における定数constを決定する。定数constは、余寿命算出の対象となる金属の特性により決定される定数であり、予め、第1の余寿命算出部241に設定されているが、適宜なタイミングで作業員が新たな定数constの値を入力部250入力することにより、値を変更することができる。
そして、ステップ122において、画面出力部251が、このようにして決定された定数constを上記のグラフとともに表示する。
【0035】
次に、ステップ104において、式(1)におけるε´minを決定する。ε´minは、例えば、データのばらつきを考慮して、図7に示すグラフにおいて、歪速度の対数値が略一定の領域のデータの近似直線(横軸に平行な直線)を最小二乗法により求め、この近似直線に基づき算出すればよい。
そして、ステップ124において、画面出力部251がステップ104において決定したε´minを上記のグラフとともに表示する。
【0036】
次に、ステップ106において、上記決定した定数const及びε´minを式(1)に代入するとともに、最新のtをtとして式(1)に代入し、部材の余寿命Tを算出する。そして、ステップ108において、画面出力部251が、算出した部材の余寿命Tを上記のグラフとともに表示する。
【0037】
そして、ステップ110において、余寿命情報記録部260が、上記のようにして算出された余寿命Tを、その際に用いた定数const及びε´minとともに余寿命情報データベース261に記録する。
【0038】
図5に戻り、ステップ16において、第2の余寿命算出部242がΩ法により余寿命Tを算出する。なお、ステップ14における工程と、ステップ16における工程は、何れか一方を先行して行ってもよいし、並行して行ってもよい。
以下、Ω法により、余寿命Tを算出する流れを図8を参照しながら詳細に説明する。
まず、Ω法では、歪εと歪速度の自然対数ln(ε´)とが対となった歪―歪速度対数データ{(ε、ln(ε´))|i=1、…、n}が必要となるため、ステップ200において、累積時間―歪データに歪―歪速度対数データ{(ε、ln(ε´))|i=1、…、n}を算出する。
歪速度の自然対数を算出する方法としては、例えば、以下の式(3)により歪速度の自然対数ln(ε´)を算出する方法などを用いればよい。
【数3】

【0039】
図9は、上記のようにして算出された歪―歪速度対数データを示すグラフであり、縦軸に歪速度の自然対数を横軸に歪をとって表示している。同図に示すように、歪―歪速度対数データは、歪εが第1の値ε未満の領域では、歪速度の自然対数ln(ε´)が一定(すなわち、傾き0)となり、第1の値ε以上、かつ第2の値ε未満の領域では、歪εに対して所定の傾きで増加し、第2の値ε以上の領域では、さらに大きな傾きで増加する。
【0040】
Ω法では、余寿命Tを以下の式(4)により算出する。なお、式中のαは定数を、ε´はひずみ速度を示す。なお、式中のtrは破断時間を、tは累積運転時間を示す。また、Ωは、上記のグラフにおける歪εの増加に対して、歪速度の自然対数ln(ε´)が増加に転じた後の歪εに対する歪速度の自然対数ln(ε´)の増加の割合を示す。
【数4】

【0041】
本実施形態では、このようなΩの値を以下のようにして、算出する。
まず、図8のステップ202において、入力部250が、ステップ104における歪―歪速度対数データを近似する近似関数を算出する際に必要となる近似幅s及び近似関数を指定する入力を受け付ける。
【0042】
次に、ステップ204において、余寿命算出部240が、歪―歪速度対数データを、近似する近似関数を算出する。本実施形態では、歪―歪速度対数データの傾向を示す近似関数が未知であるとして、歪―歪速度対数データの各点に対して、周囲の歪―歪速度対数データを用いて近似関数を求める方法を採用する。すなわち、各iに対して、(εi―s、ln(ε´i―s))から、(εi+s、ln(ε´i+s))までの2s+1個のデータに対して、最小二乗法を適用し、近似関数f(ε)を求める。これにより得られた集合{ε、f(ε)|i=1、…、n}が、歪―歪速度対数データを近似する近似関数となる。なお、近似幅sは、近似の精度と、計算時間等を考慮して決定すればよく、近似関数としては、指数関数や多項式関数などを採用することができる。なお、歪―歪速度対数データは、予めデータマイニングにより予めデータ整理を行っておいてもよい。また、歪―歪速度対数データ全体の傾向がわかる場合には、これを近似するのに適した指数関数や多項式などの近似関数によりデータ全体を近似してもよい。
【0043】
次に、ステップ206において、上記算出した近似関数の傾きが所定の値を超える点を求め、この点の歪εの値を第1の値εとする。すなわち、近似関数f(ε)の各εにおける傾きf´(ε)を算出し、この傾きf´(ε)が所定の値以上となる点を求める。なお、傾きf´(ε)は近似関数f(ε)の微分関数を求めてもよいし、近似関数f(ε)のε近傍の値の差分を算出してもよい。
【0044】
次に、ステップ208において、余寿命算出部240が、歪εが第1の値ε以下の領域の歪―歪速度対数データを近似する傾きが0である(すなわち、グラフにおいて横軸と並行な)近似直線Aを最小二乗法により求める。なお、近時直線Aは、グラフ上に表示するために必要となるものであり、Ωの値を算出する上で必要なものではない。
【0045】
次に、ステップ210〜216おいて、余寿命算出部240が、歪εが第1の値ε以上となる領域の歪―歪速度対数データを近似する近似関数を求める。本実施形態では、歪εが第1の値ε以上、第2の値ε未満の領域を近似する近似直線Bと、歪εが第2の値ε以上の領域を近似する近似直線Cと、により近似するものとした。
【0046】
まず、歪εが第1の値ε以上となる領域の歪―歪速度対数データを{ε、ln(ε´)|i=x、…、n}とし、k=x+1、…、n−1の各kに対して以下のステップ210〜214の工程を行う。
ステップ210において、x≦i≦kとなる領域の歪―歪速度対数データを{ε、ln(ε´)|i=x、…、k}を近似する仮の近似直線B´を算出する。なお、この近似直線をln(ε´)=u(ε)とする。
また、ステップ212において、k+1≦i≦nとなる領域の歪―歪速度対数データを{ε、ln(ε´)|i=k+1、…、n}を近似する仮の近似直線C´を算出する。なお、この近似直線をln(ε´)=v(ε)とする。
【0047】
次に、ステップ214おいて、これらの仮の近似直線B´及びC´と、歪―歪速度対数データとの残差の二乗和Sを以下の式により算出する。
【数5】

【0048】
そして、ステップ216において、k=x+1、…、n−1の各kに対して上記のステップ210〜214を行うことにより得られた残差の二乗和S(k=x+1、…、n−1)のうち、最小となる場合のkを求め、このときの仮の近似直線B´及びC´を近似直線B及びCとして採用する。また、近似直線B及びCの交点の歪εの値が上記の第2の値εとなる。
【0049】
そして、ステップ218において、近似直線Bの傾きをΩの値とする。
次に、ステップ220において、上記算出したΩの値を用いて、式(4)により、余寿命を算出する。なお、式中の定数αは、通常は1.0として計算すればよく、適宜、変更することも可能である。
次に、ステップ222において、画面出力部251がこのようにして算出した部材の余寿命Tを上記のグラフとともに、例えば、図10に示すように、表示部253に画面表示させる。
【0050】
そして、ステップ224において、余寿命情報記録部260が、上記のようにして算出されたTを、その際のΩの値及びαの値とともに余寿命情報データベース261に記録する。
【0051】
図5に戻り、ステップ18において、判定部243がステップ14においてモンクマングラント法により算出した余寿命Tと、ステップ16においてΩ法により算出した余寿命Tとを比較して、余寿命の短い方を余寿命Tとして採用する。
【0052】
次に、ステップ20において、上記のようにして採用された余寿命を画面出力部251が表示部253に、例えば、図11に示すように、累積時間―歪データを示すグラフとともに画面表示する。また、このようにして推定した余寿命などのデータは印刷出力部252により印刷出力することができる。
【0053】
以上説明したように、本実施形態の余寿命の推定方法によれば、発電所の各部位に取り付けられた高温下でも精度良く歪を測定することのできる歪センサを用いて、予め設定された測定時期ごとに各部位の歪を測定し、この測定情報に基づき、余寿命を推定できるため、発電所を停止することなく余寿命を算出することができる。
【0054】
また、このように発電所を停止することなく、測定を行うことができるため、測定時期の間隔を適宜短く設定することにより、例えば、タイプIVクリープ損傷のような進行の早い損傷であっても、損傷が進行する前に発見し、これを余寿命の推定に反映することができるため、余寿命の推定精度が向上する。
【0055】
また、モンクマングラント法では、部材の総寿命の初期から中期において精度よく余寿命を算出することができるが、後期には余寿命が大きく算出される傾向がある。また、Ω法では、部材の総寿命の中期から後期において精度よく余寿命を算出することができるが、初期には余寿命が大きく算出される傾向がある。このため、本実施形態のようにモンクマングラント法とΩ法を用いて余寿命を算出し、夫々の方法により算出された余寿命のうち短い方を余寿命として採用することにより、余寿命の推定精度を向上することができる。
【0056】
また、上記のようにして余寿命情報データベース261に記録された余寿命情報を余寿命情報取得部262により取得し、算出した余寿命とモンクマングラント法における定数const及びε´minや、Ω法におけるΩの値及び定数αとを比較することにより、より精度良く余寿命を推定できる定数constや定数αの値を検討することが可能となる。また、この情報に基づき、累積時間に対するモンクマングラント法及びΩ法により余寿命推定の精度を検討し、累積時間ごとに何れかの方法を選択することも可能となる。
【0057】
なお、本実施形態では、モンクマングラント法及びΩ法により余寿命を算出することとしたが、これに限らず、何れか一方の方法のみで余寿命を算出してもよい。ただし、上記のように両方により余寿命を算出し、算出された余寿命のうち短い方を採用することで算出精度を向上することができる。さらに、余寿命の算出方法は、これらに限らず、測定時期と歪とが対となったデータに基づき、算出することが可能な方法であれば採用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本実施形態の余寿命推定システムの構成を示す図である。
【図2】公正情報の画面出力の一例である。
【図3】歪測定制御部が歪センサにより部材に生じた歪を測定し、歪履歴情報データベースを更新する流れを示すフローチャートである。
【図4】累積時間―歪情報の画面出力の一例である。
【図5】余寿命推定部が、累積時間―歪データに基づき余寿命を推定する流れを示すフローチャートである。
【図6】第1の余寿命算出部が、モンクマングラント法による余寿命を算出する流れを示すフローチャートである。
【図7】累積時間―歪速度データの画面表示の一例である。
【図8】第2の余寿命算出部が、Ω法により余寿命を算出する流れを示すフローチャートである。
【図9】歪―歪速度対数データを示すグラフである。
【図10】歪―歪速度データの画面表示の一例である。
【図11】累積時間に対するひずみのグラフとともに余寿命を表示した画面表示の一例である。
【符号の説明】
【0059】
10 余寿命推定システム
100 歪センサ
110 アンプ
120 変換部
200 コンピュータ
210 歪測定制御部
220 校正情報取得部
221 校正情報データベース
230 歪履歴情報記録部
231 歪履歴情報データベース
232 歪履歴情報取得部
240 余寿命推定部
241 第1の余寿命算出部
242 第2の余寿命算出部
243 判定部
250 入力部
251 画面出力部
252 印刷出力部
253 表示部
260 余寿命情報記録部
261 余寿命情報データベース
262 余寿命情報取得部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高温に曝される部材の余寿命を推定するシステムであって、
前記部材に生じた歪に応じた信号を出力する歪センサが接続され、前記歪センサより入力された信号に基づき、所定の測定時期ごとに前記部材に生じた歪を測定する歪測定制御部と、
前記部材についての高温に曝された累積時間t(i=1、…、n)と、前記累積時間tにおける前記部材に生じた歪εとが対となった累積時間―歪データが記録され、前記測定時期に対応する累積時間tと、前記歪測定制御部により測定された歪εとが対になって新たに記録されることにより、前記累積時間―歪データが前記所定の時間間隔で更新される歪履歴情報データベースと、
前記歪履歴情報データベースを参照して、前記累積時間―歪データを取得する歪履歴情報取得部と、
前記取得した歪―累積時間データに基づき、余寿命を推定する余寿命推定部と、を備えたことを特徴とする余寿命推定システム。
【請求項2】
前記余寿命推定部は、
前記歪―累積時間データに基づき、前記累積時間tと歪速度ε´とが対となった累積時間―歪速度データを算出し、
前記算出した累積時間―歪速度データに基づき、モンクマングラント法により余寿命を算出する第1の余寿命算出手段を備えることを特徴とする請求項1記載の余寿命推定システム。
【請求項3】
前記余寿命推定部は、
前記累積時間―歪データに基づき、前記歪εと歪速度ε´とが対となった歪―歪速度データを算出し、
前記算出した歪―歪速度データに基づき、Ω法により余寿命を算出する第2の余寿命算出手段を備えることを特徴とする請求項1記載の余寿命推定システム。
【請求項4】
請求項1記載の余寿命推定システムであって、
前記余寿命推定部は、
前記歪―累積時間データに基づき、前記累積時間tと歪速度ε´とが対となった累積時間―歪速度データを算出し、前記算出した累積時間―歪速度データに基づき、モンクマングラント法により第1の余寿命Tを算出する第1の余寿命算出手段と、
前記累積時間―歪データに基づき、前記歪εと歪速度ε´とが対となった歪―歪速度データを算出し、前記算出した歪―歪速度データに基づき、Ω法により第2の余寿命Tを算出する第2の余寿命算出手段と、
前記第1の余寿命算出手段と、前記第2の余寿命算出手段とにより算出された第1の余寿命T及び第2の余寿命Tのうち短い方の余寿命を推定余寿命として採用する余寿命判定部と、を備えることを特徴とする余寿命推定システム。
【請求項5】
高温に曝される部材に生じた歪に応じた信号を出力する歪センサが接続され、前記高温に曝される部材についての高温に曝された累積時間t(i=1、…、n)と、前記累積時間tにおける前記部材に生じた歪εとが対となった累積時間―歪データが記録された歪履歴情報データベースを備えたコンピュータにより、前記部材の余寿命を推定する方法であって、
前記コンピュータが、
前記歪センサより入力された信号に基づき、所定の測定時期ごとに前記部材に生じた歪を測定し、
前記歪履歴情報データベースに、前記測定時期に対応する累積時間tと、前記測定した歪εとを対になって新たに記録することにより、前記累積時間―歪データを前記所定の時間間隔で更新し、
前記歪履歴情報データベースを参照して、前記累積時間―歪データを取得し、
前記取得した歪―累積時間データに基づき、余寿命を推定することを特徴とする余寿命推定方法。
【請求項6】
高温に曝される部材に生じた歪に応じた信号を出力する歪センサが接続され、前記高温に曝される部材についての高温に曝された累積時間t(i=1、…、n)と、前記累積時間tにおける前記部材に生じた歪εとが対となった累積時間―歪データが記録された歪履歴情報データベースを備えたコンピュータに前記部材の余寿命を推定させるためのコンピュータプログラムであって、
前記コンピュータに、
前記歪センサより入力された信号に基づき、所定の測定時期ごとに前記部材に生じた歪を測定するステップと、
前記歪履歴情報データベースに、前記測定時期に対応する累積時間tと、前記測定した歪εとを対になって新たに記録することにより、前記累積時間―歪データを前記所定の時間間隔で更新するステップと、
前記歪履歴情報データベースを参照して、前記累積時間―歪データを取得するステップと、
前記取得した歪―累積時間データに基づき余寿命を推定するステップと、を実行させることを特徴とするコンピュータプログラム。
【請求項7】
請求項6記載のコンピュータプログラムが記録されたことを特徴とする記録媒体。

【図1】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図9】
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【図2】
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【図4】
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【図7】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−20074(P2009−20074A)
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−184890(P2007−184890)
【出願日】平成19年7月13日(2007.7.13)
【出願人】(000211307)中国電力株式会社 (6,505)
【Fターム(参考)】