説明

作業機の固定治具

【課題】複数の突起を有する構造物の取付面に対しても、作業機を容易に設置して効率的に各種作業を実施し得る作業機の固定治具を提供する。
【解決手段】リベット3を除去するための作業機としての穴あけ機10を、構造物の取付面4に着脱自在に取付けるための固定治具20であって、穴あけ機10が着脱自在に固定設置される基台部21と、基台部21に設けた複数の脚部22であって、取付面4と接触する磁力作用面23aを着磁状態と非着磁状態とに切替可能な磁石ユニット23を有し、取付面4に取付けた状態で、リベット3の頭部3aと接触しないような位置関係に基台部21に配置されるとともに、基台部21が頭部3aと接触しないように、取付面4から設定間隔をあけて基台部21を支持する複数の脚部22とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、橋梁などの鉄骨構造物の柱や梁に対して穴あけ機やナットランナーなどの各種作業機を固定するのに好適に利用可能な作業機の固定治具に関する。
【背景技術】
【0002】
橋梁の補修工事として、橋梁の耐震強度を高めるため、古いリベットに代えてトルシア形高力ボルトで柱や梁を結合し直したり、腐食した古いリベットをトルシア形高力ボルトに交換したりするという、補修工事が広く実施されている。
【0003】
既設のリベットの除去方法としては、例えば、特許文献1記載のような穴あけ機を用い、ガス切断により数本のリベットを除去して該穴あけ機を設置するためのスペースを形成した後、該スペースに穴あけ機を磁力で固定して、リベットにその軸部分と略同じ径の穴をあけることによって、リベットを順次除去する方法が広く採用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−298967号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、前述のように、穴あけ機の設置スペースを確保するため、ガス切断によりリベットを除去する場合には、ガス切断を扱える作業者が必要となり、人材確保が難しくなったり、作業効率が低下したり、作業コストが高くなったりするという問題がある。しかも、ガス切断時の熱により、鉄骨の強度が低下することも考えられる。また、穴あけ機を用いたリベットの除去作業は、1本ずつのリベットに対して穴あけ機を位置合わせして行なう必要があることから、穴あけ機の位置調整に多くの作業時間を要するという問題がある。
【0006】
本発明の目的は、複数の突起を有する構造物の取付面に対しても、作業機を容易に設置して効率的に各種作業を実施し得る作業機の固定治具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る作業機の固定治具は、表面に複数の突起を有する構造物の取付面に着脱自在に取付けられる作業機の固定治具であって、前記作業機が着脱自在に固定される基台部と、前記基台部に設けた複数の脚部であって、前記取付面と接触する磁力作用面を着磁状態と非着磁状態とに切替可能な磁石ユニットを有し、前記取付面に取付けた状態で、前記突起と接触しないような位置関係に前記基台部に配置されるとともに、前記基台部が突起と接触しないように、前記取付面から設定間隔をあけて前記基台部を支持する複数の脚部とを備えたものである。
【0008】
この固定治具を用いて作業機を構造物に取付ける際には、磁石ユニットを着磁状態に切換えて、固定治具を構造物の取付面に固定してから、固定治具に対して作業機を固定設置するか、あるいは作業機を固定治具に固定設置した状態で、磁石ユニットを着磁状態に切換えて、固定治具とともに作業機を取付面に固定することになる。また、構造物から作業機及び固定治具を取外す際には、作業機を固定治具から取り外した状態、または作業機を固定治具に固定設置した状態で、磁石ユニットを非着磁状態に切換えて、構造物の取付面から作業機及び固定治具を取外すことになる。
【0009】
このように、この固定治具を用いると、構造物の取付面に形成されている突起を考慮することなく、構造物の任意の位置に作業機を固定設置することが可能となり、構造物に対する各種作業を作業機により効率的に行なうことが可能となる。具体的には、橋梁等の鉄骨構造物のリベットを除去する場合において、リベットの頭部が密集して配置されることから作業機の設置スペースを確保できない場合でも、該取付面に固定治具を固定し、この固定治具に対して作業機を固定設置することで、作業機の設置スペースを容易に確保できる。このため、リベットをガス切断したりすることなく、作業機を固定設置することが可能となり、ガス切断のための作業要員が不要になるとともに、ガス切断時における熱で鉄骨の強度が低下するという問題の発生も防止できる。また、作業機の移動も、固定治具における作業機の固定設置面内において自由にできるし、取付面に対する固定治具の取付位置を変更することでも容易に位置調整できる。
【0010】
ここで、前記基台部が、スライド自在に連結される1組の可動部を有し、両可動部に脚部をそれぞれ設け、一方の可動部に作業機の固定設置部を形成することが好ましい実施の形態である。基台部としては、取付面に固定される固定台と、固定台にスライド自在に支持される可動台とを有するものを用いることも可能である。このように構成すると、可動台のスライド範囲内において作業機を容易に移動させることができる。しかし、スライド範囲外へ作業機を移動させるときには、作業機を固定治具とともに移動させる必要があり、その作業が煩雑になる。本発明では、例えば、両可動部を伸長させた状態で、固定設置部を有する一方の可動部の磁石ユニットを非着磁状態に切換えて、他方の可動部で作業機及び固定治具の荷重を受け止めながら、作業機を一方の可動部とともに他方の可動部側へ移動させて、両可動部を収縮させながら作業機の位置を調整できる。また、両可動部を収縮させた状態から、他方の可動部の磁石ユニットを非着磁状態に切換え、両可動部を伸長させ、前記と同様にして、作業機の位置を順次調整することができる。
【0011】
前記構造物が鉄骨構造物であり、前記突起がリベットの頭部であり、前記作業機がリベットを除去するための穴あけ機であることが好ましい実施の形態である。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る作業機の固定治具によれば、構造物の取付面に形成されている突起を考慮することなく、構造物の任意の位置に作業機を固定設置することが可能となり、構造物に対する各種作業を作業機により効率的に行なうことが可能となる。具体的には、橋梁等の鉄骨構造物のリベットを除去する場合において、リベットの頭部が密集して配置されることから作業機の設置スペースを確保できない場合でも、該取付面に固定治具を固定し、この固定治具に対して作業機を固定設置することで、作業機の設置スペースを容易に確保できる。このため、リベットをガス切断したりすることなく、作業機を固定設置することが可能となり、ガス切断のための作業要員が不要になるとともに、ガス切断時における熱で鉄骨の強度が低下するという問題の発生も防止できる。また、作業機の移動も、固定治具における作業機の固定設置面内において自由にできるし、取付面に対する固定治具の取付位置を変更することでも容易に位置調整できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】穴あけ機を固定設置して既設のリベットを除去する場合の固定治具の使用方法の説明図
【図2】固定治具の斜視図
【図3】固定治具の平面図
【図4】固定治具の底面図
【図5】固定治具の正面図
【図6】固定治具の背面図
【図7】(a)(b)は固定治具の移動方法の説明図
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照しながら説明する。
図1に示すように、旧式の橋梁等の鉄骨構造物において、H形鋼などの鉄骨1を接続するときには、接続する鉄骨1の外面側にわたってガセットプレート2を配置させ、両鉄骨1のフランジ部1aをガセットプレート2に複数のリベット3でそれぞれ結合して接続するという方法が広く採用されている。しかし、リベット3を用いた鉄骨1の接続構造は、トルシア形ボルトを用いた鉄骨1の接続構造と比較して、耐震強度が低いことから、最近では、既設のリベット3に代えて、トルシア形高力ボルトで柱や梁を構成する鉄骨1を結合し直したり、腐食した既設のリベット3をトルシア形高力ボルトに交換したりする補修作業が行なわれている。
【0015】
また、鉄骨1からリベット3を除去する方法としては、図1に示すように、作業機としての穴あけ機10のドリル11で、リベット3にその軸部と略同じ径の貫通穴を開けて、除去する方法が採用されている。本発明に係る固定治具20は、表面にリベット3の頭部3aからなる複数の突起が突出状に設けられる鉄骨構造物の取付面4に、穴あけ機10を固定設置するためのものである。ただし、この固定治具20は、穴あけ機10以外の加工機や電動工具などの各種作業機を鉄骨構造物の表面に固定するための治具として用いることもできる。
【0016】
穴あけ機10は、ドリル11と、ドリル11を減速回転駆動する駆動手段12と、ハンドル13の操作により駆動手段12とともにドリル11をその軸心方向に送り操作する送り操作手段14と、電磁石により穴あけ機10を着脱自在に固定設置するための磁気吸着手段15とを備えた周知の構成のものである。ただし、穴あけ機10の設置方法は、磁気吸着手段15を用いた以外の固定方法、例えばボルトやナットを用いた固定方法を採用することも可能である。
【0017】
固定治具20は、穴あけ機10が着脱自在に固定設置される基台部21と、基台部21に設けた複数の脚部22であって、取付面4と接触する磁力作用面23aを着磁状態と非着磁状態とに切替可能な磁石ユニット23を有し、取付面4に取付けた状態で、頭部3aと接触しないような位置関係に基台部21に配置されるとともに、基台部21が頭部3aと接触しないように、取付面4から設定間隔をあけて基台部21を支持する複数の脚部22とを備えたものである。この固定治具20は、図1に示すように、鉄骨構造物の水平な取付面4の上側や下側に固定することもできるし、図7に示すような鉛直状や傾斜状の取付面4に固定することもできる。なお、本実施の形態では、水平な取付面4の上側に固定治具20を取付けた、図1を基準に上下方向及び前後左右報告を定義して説明する。
【0018】
基台部21は、第1可動部24と第2可動部25とを備え、両可動部24、25は、図2に実線で図示の収縮位置と、仮想線で図示の伸長位置とにスライド自在に連結され、両可動部24、25にそれぞれ2個ずつ設けた計4個の磁石ユニット23により取付面4に着脱自在に取付けられる。
【0019】
第1可動部24について説明すると、鉄板などの強磁性体からなる上面板26が設けられ、上面板26の右側部分には穴あけ機10を着脱自在に固定するための固定設置部26aが形成され、上面板26の左側部分には穴あけ機10のドリル11が挿通する開口部26bが形成されている。開口部26bの形状は任意に設定可能で、図1に示すように長方形状に形成してもよいし、長方形以外の多角形状や円形や楕円形や小判形などに形成することも可能である。上面板26の下面側の左端角部には直方体状の前後1対の脚ブロック27が固定され、両脚ブロック27の下面には磁石ユニット23が磁力作用面23aを下側にしてそれぞれ固定され、第1可動部24は脚ブロック27と磁石ユニット23とからなる1対の脚部22により取付面4に着脱自在に固定される。
【0020】
上面板26の下面の前後両側部には脚ブロック27の配設位置を除いた略全長にわたって左右方向に延びる略L字状のガイド部材28が倒立状に固定され、上面板26の下面の開口部26bよりも右側部分には左右方向に延びる略L字状の前後1対のガイドレール29がガイド部材28と平行に設けられ、ガイド部材28とガイドレール29間にはL字状のガイド溝30が形成されている。
【0021】
第2可動部25について説明すると、ガイド溝30に対して左右方向にスライド自在に内嵌合する前後1対のガイドロッド31が設けられ、両ガイドロッド31の右半部の下面は連結板32で一体的に連結されている。連結板32の下面側の前後両側部には磁石ユニット23が磁力作用面23aを下側にして固定され、第2可動部25は磁石ユニット23からなる1対の脚部22により取付面4に着脱自在に固定される。
【0022】
基台部21の伸長量を収縮位置と伸長位置間の任意の位置で固定するため、第1可動部24の後側のガイド部材28には左右方向の細長いガイド穴33が形成され、第2可動部25の後側のガイドロッド31にはガイド穴33を挿通する蝶ネジ34が螺合され、ガイド穴33の形成範囲内でガイドロッド31をスライド操作できるとともに、蝶ネジ34を締結することで所望の位置でガイドロッド31を固定して、基台部21の伸長量を固定できるように構成されている。
【0023】
上面板26の左端部には落下防止用ワイヤ35がボルト36で固定され、この落下防止用ワイヤ35に脱落防止用ロープ37のフック38を引っ掛けて、脱落防止用ロープ37を図示外の親綱などに引っ掛けることで、固定治具20の落下を防止できるように構成されている。
【0024】
磁石ユニット23は、操作つまみ23bを約90°回転させて、着磁状態と非着磁状とに磁力作用面23aを切替可能なブロック状の周知の構成のもので、例えば、外周部にN極とS極とを180°の角度を付けて着磁させた円柱状の永久磁石(図示外)を有し、操作つまみ23bでこの永久磁石を90°回転操作することで、永久磁石の一方の磁極が磁力作用面23aに対面する着磁状態と、両磁極が磁力作用面23aから離間する非着磁状態とに切替可能に構成したものである。磁石ユニット23としては、例えばマグネットホルダ台MB−PS(カネテック社製)などを好適に採用できる。
【0025】
基台部21に対する磁石ユニット23の配設位置は、固定治具20を取付面4に取付けた状態で、磁石ユニット23がリベット3の頭部3aと接触しない位置関係、即ち隣接するリベット3間に配置されるような位置関係に設けられている。なお、本実施の形態では、磁石ユニット23を4個設けたが、磁石ユニット23の個数は、作業機の重量などに応じて任意に設定することができる。
【0026】
この固定治具20を用いて穴あけ機10を鉄骨構造物の取付面4に固定する際には、磁石ユニット23を着磁状態に切換えて、固定治具20を構造物の取付面4に固定してから、固定治具20に対して穴あけ機10を固定設置するか、あるいは穴あけ機10を固定治具20に設置固定した状態で、磁石ユニット23を着磁状態に切換えて、固定治具20とともに穴あけ機10を取付面4に固定することになる。そして、除去するリベット3の中心に穴あけ機10のドリル11の中心を位置合わせして、該リベット3に貫通孔をあけ、該リベット3を除去することになる。
【0027】
また、次のリベット3を除去する際には、固定治具20上において穴あけ機10を前後左右に移動させたり、第1可動部24の磁石ユニット23を非着磁状態に切替えて、穴あけ機10を第1可動部24とともに移動させたりして、次に除去するリベット3の中心に穴あけ機10のドリル11の中心を位置合わせすることになる。また、鉛直な取付面4のリベット3を除去する際には、例えば図7(a)に示すように、第2可動部25の磁石ユニット23を非着磁状態にして、第1可動部24の磁石ユニット23により第1可動部24及び穴あけ機10を支持した状態で、第2可動部25を下側へ移動させて可動台を伸長させ、次に第2可動部25の磁石ユニット23を着磁状態にしてから、第1可動部24の磁石ユニット23を非着磁状態にして、図7(a)に示すように、穴あけ機10を第1可動部24とともに下側へ順次移動させて、次に除去するリベット3の中心に穴あけ機10のドリル11の中心を位置合わせすることで、穴あけ機10及び固定治具20の荷重の一部を取付面4に支持させながら、穴あけ機10を移動できるので、作業者の肉体的な負担を軽減できる。
【0028】
また、構造物から穴あけ機10及び固定治具20を取外す際には、穴あけ機10を固定治具20から取り外した状態、または穴あけ機10を固定治具20に固定設置した状態で、磁石ユニット23を非着磁状態に切換えて、構造物の取付面4から穴あけ機10及び固定治具20を取外すことになる。
【0029】
尚、両可動部24、25は、前述した以外の任意の構成のスライド構造で、スライド自在に連結することができる。また、本実施の形態では、前後の磁石ユニット23の間隔を固定的に設定したが、リベット3の配設ピッチ等に応じて、磁石ユニット23を前後方向に位置調整可能に設けることも好ましい実施の形態である。
【符号の説明】
【0030】
1 鉄骨 1a フランジ部
2 ガセットプレート 3 リベット
3a 頭部 4 取付面
10 穴あけ機 11 ドリル
12 駆動手段 13 ハンドル
14 送り操作手段 15 磁気吸着手段
20 固定治具 21 基台部
22 脚部 23 磁石ユニット
23a 磁力作用面 23b 操作つまみ
24 第1可動部 25 第2可動部
26 上面板 26a 固定設置部
26b 開口部 27 脚ブロック
28 ガイド部材 29 ガイドレール
30 ガイド溝 31 ガイドロッド
32 連結板 33 ガイド穴
34 蝶ネジ 35 落下防止用ワイヤ
36 ボルト 37 脱落防止用ロープ
38 フック


【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に複数の突起を有する構造物の取付面に着脱自在に取付けられる作業機の固定治具であって、
前記作業機が着脱自在に固定される基台部と、
前記基台部に設けた複数の脚部であって、前記取付面と接触する磁力作用面を着磁状態と非着磁状態とに切替可能な磁石ユニットを有し、前記取付面に取付けた状態で、前記突起と接触しないような位置関係に前記基台部に配置されるとともに、前記基台部が突起と接触しないように、前記取付面から設定間隔をあけて前記基台部を支持する複数の脚部と、
を備えたことを特徴とする作業機の固定治具。
【請求項2】
前記基台部が、スライド自在に連結される1組の可動部を有し、両可動部に脚部をそれぞれ設け、一方の可動部に作業機の固定設置部を形成した請求項1記載の作業機の固定治具。
【請求項3】
前記構造物が鉄骨構造物であり、前記突起がリベットの頭部であり、前記作業機がリベットを除去するための穴あけ機である請求項1又は2記載の作業機の固定治具。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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