説明

作業機の耕起装置取付構造

【課題】 耕起作業に要する労力の軽減や畦塗り作業の容易化などを図れる作業機の耕起装置取付構造を提供する。
【解決手段】 走行機体Aに連結装備される耕起装置Bを、走行機体Aの左右中央側に位置する標準作業位置と、走行機体Aの左右一側方に偏倚した畦際作業位置とにわたって位置変更可能に、かつ、畦際作業位置での耕起幅W2が標準作業位置での耕起幅W1よりも狭くなるように構成してある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行機体による牽引に伴って耕起する耕起装置を備えた作業機の耕起装置取付構造に関する。
【背景技術】
【0002】
上記のような作業機の耕起装置取付構造としては、田畑の畦から畦までの間の広い部分に対する耕起作業では、走行機体に連結装備した耕起装置の位置を、その耕起装置に備えた複数のプラウが、走行機体の左右一側部から左右中間部にわたって、その前側のものほど機体の左右一側方に位置するように、機体の左右一側方に偏倚させた位置(標準作業位置)に変更でき、又、畦際に対する耕起作業では、耕起装置の位置を、その耕起装置に備えた複数のプラウが、走行機体の左右一側部から左右中間部にわたって、その前側のものほど機体の左右中央側に位置するように、機体の左右一側方に偏倚させた位置(畦際作業位置)に変更できるように構成したものがある(例えば特許文献1参照)。
【特許文献1】特公昭40−28521号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記の構成では、標準作業位置と畦際作業位置のいずれにおいても、耕起装置を、走行機体の左右一側方に偏倚させることから、田畑の畦から畦までの間の広い部分、言い換えると、圃場における畦から離れた中央側の領域、に対して耕起作業を行う場合に、そのときの作業負荷で機体が耕起装置の配置側に振られることになり、直進状態の維持にかなりの労力を要することになる。
【0004】
又、標準作業位置と畦際作業位置のいずれにおいても、耕起装置は、その複数のプラウが走行機体の左右中央部から左右一側部にわたって位置することで、標準作業位置と畦際作業位置とに関係なく耕起幅が広くなることから、圃場の畦際領域に対して耕起作業を行う場合にも、耕起幅が広くなるとともに畦際に形成される溝幅も広くなり、その溝の圃場側に盛られた土と畦との距離が長くなる。そのため、その畦際の溝に張った水で、溝横の圃場部分に盛られた土を柔らかくして、畦の斜面に塗り付けていく、といった畦からの鍬などを用いた畦塗り作業が行い難くなる。
【0005】
本発明の目的は、耕起作業に要する労力の軽減や畦塗り作業の容易化などを図れる作業機の耕起装置取付構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のうちの請求項1に記載の発明では、走行機体に連結装備される耕起装置を、前記走行機体の左右中央側に位置する標準作業位置と、前記走行機体の左右一側方に偏倚した畦際作業位置とにわたって位置変更可能に、かつ、前記畦際作業位置での耕起幅が前記標準作業位置での耕起幅よりも狭くなるように構成してある。
【0007】
この構成によると、圃場における畦から離れた中央側の領域に対して耕起作業を行う場合には、耕起装置を標準作業位置に設定すれば、耕起装置が走行機体の略左右中央に位置することから、耕起装置を走行機体の左右一方側に偏倚させる場合に比較して、そのときの作業負荷で機体が耕起装置の配置側に振られる、といった不具合が生じ難くなり、これによって、直進状態の維持が行い易くなり、直進状態の維持に要する労力が軽減される。
【0008】
又、この耕起装置を標準作業位置に設定した状態では、畦際作業位置に設定した状態よりも広い耕起幅を得られることから、圃場の中央側領域での耕起を効率良く行える。
【0009】
一方、圃場の畦際領域に対して耕起作業を行う場合には、耕起装置を畦際作業位置に設定すれば、耕起装置が走行機体の左右一側方(畦側)に偏倚することで、そのときの作業負荷で機体が隣接する畦側に振られるようになり、又、耕起装置を畦際作業位置に設定した状態では、標準作業位置に設定した状態よりも耕起幅が狭くなることで、そのときの作業負荷が軽減されることになり、結果、そのときの作業負荷で機体が適度に隣接する畦側に振られるようになることから、その隣接畦を指標にして機体を畦に沿って走行させる畦際走行が行い易くなり、畦際走行に要する労力が軽減される。
【0010】
そして、この耕起装置を畦際作業位置に設定した状態では、標準作業位置に設定した状態よりも耕起幅が狭くなることで、畦際に形成される溝幅も狭くなり、その溝の圃場側に盛られた土と畦との距離が短くなることから、その畦際の溝に張った水で、溝横の圃場部分に盛られた土を柔らかくして、畦の斜面に塗り付けていく、といった耕起作業後の畦からの鍬などを用いた畦塗り作業が行い易くなる。
【0011】
従って、圃場の中央側領域や畦際領域に関係なく耕起作業に要する労力の軽減を図れ、圃場の中央側領域での耕起作業において高い作業効率を確保できる上に、その耕起作業後に行われる畦塗り作業の容易化を図れることになる。
【0012】
本発明のうちの請求項2に記載の発明では、上記請求項1に記載の発明において、前記走行機体に左右向きに連結される固定フレームに、複数の耕具を支持する支持フレームの一端部を位置変更可能に連結するとともに、前記固定フレームの一端部から前記支持フレームの他端側にわたって補強フレームを架設し、前記固定フレームに対する前記支持フレームの位置変更で、前記走行機体に対する前記耕起装置の位置を変更するように構成してある。
【0013】
この構成によると、標準作業位置と畦際作業位置とにわたる耕起装置の位置変更を、固定フレームに対する支持フレームの連結位置を変更するだけで簡単に行える。
【0014】
又、固定フレームと支持フレームと補強フレームによってトラス状の骨組みが形成されることになり、もって、耕起作業時の作業負荷に十分に対応できる高い強度を確保できるとともに、がたの少ない精度の高い安定した耕深で耕起できる。
【0015】
従って、耕起装置の位置変更を簡単に行えるものでありながら耐久性や耕起精度の向上を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
図1にはトラクタ(走行機体の一例)Aの全体左側面が、図2にはその全体右側面が、図3にはその全体平面が、図4には右前方から見た全体斜視が、図5には左後方から見た全体斜視が、又、図6にはその概略全体左側面がそれぞれ示されており、このトラクタAは、帯鋼材などで枠状に形成された機体フレーム1、その後部側に形成される搭乗運転部2、機体フレーム1の前部に搭載されるエンジン3、機体フレーム1の後端部に連結されるフレーム兼用のミッションケース4、機体フレーム1の前部左右に配備される前輪5、ミッションケース4の左右に配備される後輪6、ミッションケース4の上方に配備される油圧式のリフトシリンダ7、及び、このリフトシリンダ7の作動で上下揺動する左右一対のリフトアーム8、などによって構成され、その後部には、作業装置やトレーラなどの連結を可能にする3点リンク機構9が備えられている。
【0017】
搭乗運転部2は、機体フレーム1の後部側に敷設される搭乗ステップ10、左右の前輪4を操向するステアリングホイール11、及び、そのステアリングホイール11から所定間隔を隔てた後方に配備される運転座席12、などによって形成されている。
【0018】
図1〜9に示すように、エンジン3は、その出力軸13が機体の左方に向けて延出する姿勢で、その全体が搭乗ステップ10よりも高い位置に位置するように、機体フレーム1の前部に搭載された横型ディーゼルエンジンであり、その動力が、ベルト式伝動装置14と乾式多板形の主クラッチ15とを介して、ミッションケース4の入力軸16に伝達される。
【0019】
図1〜5及び図8〜11に示すように、ミッションケース4には、搭乗運転部2における運転座席12の左方に配備した主変速レバー17の操作に基づいて、入力軸16に入力された動力を、後進用に逆転させる状態と、ロータリ耕耘作業用の低速に変速する状態と、プラウ作業用の中速に変速する状態と、トレーラ作業用の高速に変速する状態とに切り換えるギヤ式の主変速装置18、主変速レバー17の後方に配備した副変速レバー19の操作に基づいて、主変速装置18による変速後の動力を高低2段に切り換えるギヤ式の副変速装置20、副変速装置20による変速後の動力を左右の中継軸21にそれらの差動回転を許容する状態で伝達する後輪用差動装置22、搭乗運転部2における運転座席12の右下方に配備されたデフロックペダル23の踏み込み操作に基づいて、後輪用差動装置22による左右の中継軸21の差動を許容する状態から阻止する状態に切り換えられるロック機構24、及び、左右の中継軸21を対応する走行用の出力軸25としての後車軸に伝達する伝動ギヤ26、などが走行伝動系27として内蔵されている。
【0020】
図7〜11に示すように、ミッションケース4は、第1〜4のケース体28〜31に機体の左右方向に分割可能な4分割構造で、第1ケース体28と第2ケース体29とで、その前端部に配備される入力軸16を、機体の左方に向けて延出する状態に支持し、第1ケース体28と第2ケース体29との間に、主変速装置18と副変速装置20と後輪用差動装置22とを収容し、第1ケース体28と第3ケース体30との間に、ロック機構24と左側の中継軸21及び伝動ギヤ26を収容するとともに、第1ケース体28と第3ケース体30とで、左側の後車軸25を機体の左方に向けて延出する状態に支持し、第2ケース体29と第4ケース体31との間に、右側の中継軸21及び伝動ギヤ26を収容するとともに、第2ケース体29と第4ケース体31とで、右側の後車軸25を機体の右方に向けて延出する状態に支持するように構成され、かつ、左右の後車軸25や伝動ギヤ26を備える出力部32がその最後部の最下位に位置し、入力軸16を備える前端部側ほど上方に位置する前上がりの傾斜形状に形成されるとともに、入力軸16などを備える上半部が、搭乗ステップ10よりも高い位置に位置するように配備されている。
【0021】
図8〜11に示すように、ミッションケース4の上部には、主変速装置18の第1シフトギヤ33を、第1シフトフォーク34を介して後進位置R1,R2とロータリ耕耘作業用の低速位置F1,F2とにわたって摺動操作する第1操作軸35、主変速装置18の第2シフトギヤ36を、第2シフトフォーク37を介してプラウ作業用の中速位置F3,F4と、トレーラ作業用の高速位置F5,F6とにわたって摺動操作する第2操作軸38、副変速装置20のシフトギヤ39を、第3シフトフォーク40を介して低速位置Lと高速位置Hとにわたって摺動操作する第3操作軸41、及び、ロック機構24のシフト爪42を、第4シフトフォーク43を介してロック位置と解除位置とにわたって摺動操作する第4操作軸44、などが配備されている。
【0022】
そして、図3及び図12に示すように、第1操作軸35と第2操作軸38とが主変速レバー17に、第3操作軸41が副変速レバー19に、第4操作軸44がデフロックペダル23に、それぞれ対応する図外の連係機構を介して連係されており、変速レバー17をH字状に形成されたガイド溝45に沿って、後進位置R1,R2、ロータリ耕耘作業用の低速位置F1,F2、プラウ作業用の中速位置F3,F4、又は、トレーラ作業用の高速位置F5,F6に操作することで、後進状態と、ロータリ耕耘作業用の低速状態と、プラウ作業用の中速状態と、トレーラ作業用の高速状態とを切り換え現出することができ、又、それらのいずれかの状態を現出した上で副変速レバー19を前後の低速位置L又は高速位置Hに操作することで、それらの各状態を更に高低2段に切り換えられるようになっている。
【0023】
ちなみに、ロータリ耕耘作業用の低速状態での速度は約1.1km/hに、ロータリ耕耘作業用の高速状態での速度は約1.7km/hに、プラウ作業用の低速状態での速度は約3.8km/hに、プラウ作業用の高速状態での速度は約5.9km/hに、トレーラ作業用の低速状態での速度は約13.7km/hに、トレーラ作業用の低速状態での速度は約21.6km/hに、それぞれ設定してある。
【0024】
図2〜4、図8及び図9に示すように、第1ケース体28と第3ケース体30との間、及び、第2ケース体29と第4ケース体31との間には、搭乗運転部2の右前部に配備した左右一対の対応するブレーキペダル46の踏み込み操作に基づいて、その操作量に応じた制動力を、対応する中継軸21に付与する湿式多板形のブレーキ47がそれぞれ収容されている。
【0025】
図8及び図9に示すように、第3ケース体30と第4ケース体31には、対応するブレーキ47を制動操作する操作軸48が装備され、それらの操作軸48とそれらを支持する第3ケース体30及び第4ケース体31の支持部との間には、オイルシール49が、ミッションケース4の外部からの着脱が可能となるように介装されている。
【0026】
又、図11に示すように、前述した第1〜4の各操作軸35,38,41,44とそれらを支持する第1ケース体28の支持部との間にも、オイルシール49が、ミッションケース4の外部からの着脱が可能となるように介装されている。
【0027】
図8及び図13に示すように、左側の後車軸25とその外方側を支持する第3ケース体30の支持部との間、及び、右側の後車軸25とその外方側を支持する第4ケース体31の支持部との間には、それぞれ2つのオイルシール50,51が並設されており、それらのオイルシール50,51のうち、機体外方側に配備されるオイルシール51は、ミッションケース4の外部からの着脱が可能となるように構成されている。
【0028】
そして、第3ケース体30及び第4ケース体31における各支持部の外側端には、左右の後車軸25と各支持部との間への泥水などの付着や浸入を防止するカバー52がそれぞれ装着されている。
【0029】
図7〜10に示すように、第1ケース体28は、主変速装置18と副変速装置20と後輪用差動装置22の略全体を収納する大きい容積を有するように深く形成されるとともに、その後端部には、動力取出ユニット53を着脱可能に装備する動力取出部54が備えられている。
【0030】
図10に示すように、動力取出ユニット53は、第1ケース体28にボルト連結される略筒状の支持体55に、第1ベアリング56と一対のオイルシール57,58とを介して、作業装置などへの伝動を可能にする動力取出軸59を支持させるとともに、その動力取出軸59におけるミッションケース4側の端部に、ベベルギヤ60と第2ベアリング61とを装着して構成されている。
【0031】
そして、一対のオイルシール57,58のうち、機体外方側に配備されるオイルシール58が、ミッションケース4の外部からの着脱が可能となるように構成されている。
【0032】
図8〜11及び図14に示すように、第2ケース体29は、入力軸16やそれと平行に配備される主変速装置18及び副変速装置20の各伝動軸62〜65の各右端部を支持する程度の蓋状に浅く形成されるとともに、その上部の前後には、入力軸16から動力取出軸59への伝動を可能にする補助伝動系66を着脱可能に支持する支持体67が備えられ、それらの支持体67は、第2ケース体29にボルト連結される第1支持部68と、その第1支持部68とともに第2ケース体29にボルト連結される第2支持部69との2分割構造に構成されている。
【0033】
補助伝動系66は、入力軸16並びに主変速装置18及び副変速装置20の各伝動軸62〜65などに対する直行姿勢で配備される補助伝動軸70の両端にベベルギヤ71,72を装備した軸伝動式に構成され、その補助伝動軸70が前後の支持体67にベアリング73を介して支持され、一端側のベベルギヤ71が入力軸16に装備したベベルギヤ74に噛合し、他端側のベベルギヤ72が動力取出ユニット53のベベルギヤ60に噛合する。
【0034】
入力軸16とベベルギヤ74との間には、入力軸16から動力取出軸59への伝動状態を切り換える補助クラッチ76が介装され、第1ケース体28と第2ケース体29の上部には、その補助クラッチ76のシフト部材77を、第5シフトフォーク78を介して伝動入り位置と伝動切り位置とにわたって摺動操作する第5操作軸79が配備され、この第5操作軸79は、搭乗運転部2における運転座席12の右方に配備した補助クラッチレバー80(図1、図2及び図4参照)に図外の連係機構を介して連係されている。
【0035】
又、図示は省略するが、第5操作軸79とそれを支持する第1ケース体28及び第2ケース体29の支持部との間にも、オイルシール49が、ミッションケース4の外部からの着脱が可能となるように介装されている。
【0036】
以上の構成から、ミッションケース4は、先ず、その第1ケース体28に、入力軸16、主変速装置18、副変速装置20、後輪用差動装置22、左側の後車軸25、動力取出ユニット53、及び補助クラッチ76などを支持装備した後に、右側の後車軸25や補助伝動系66などを支持装備した第2ケース体29をボルト連結し、後輪用差動装置22における左側の中継軸21にロック機構24とブレーキ47とを装備し、かつ、左側の後車軸25に伝動ギヤ26を装着した後、第1ケース体28に第3ケース体30をボルト連結し、後輪用差動装置22における右側の中継軸21にブレーキ47を装備し、かつ、右側の後車軸25に伝動ギヤ26を装着した後、第1ケース体28に第4ケース体31を第2ケース体29とともにボルト連結することなどによって、比較的簡単に組み立てられるようになっている。
【0037】
又、内方側のオイルシール50,57以外の各オイルシール49,51,58は、ミッションケース4を分解することなく、ミッションケース4の外部から容易に交換することができ、又、オイル面より下方に位置するシール部を二重構造にしたことで、外側のオイルシール51,58の交換時に、ミッションケース4内のオイルを抜く手間などを要することがなく、結果、オイルシール49,51,58の損耗に対する対処を迅速に行える。
【0038】
図1〜6、図8及び図9に示すように、ベルト式伝動装置14は、エンジン3における出力軸13の延出端部に装着した出力プーリ81と、ミッションケース4における入力軸16の延出端部に装着した入力プーリ82とにわたって、伝動ベルト83を、搭乗ステップ10のフロア面84上における搭乗ステップ10の左前部に配備した主クラッチ操作用のクラッチペダル85の左外側を通るように回し掛けることで、搭乗ステップ10に形成したペダル操作部86を迂回するように搭乗ステップ10の左側部に変位させた状態に配備され、又、その伝動カバー87における伝動下手側部位がフロア面84に沿う姿勢でフロア面84に載置されるように、その中間部を下方に変位させたくの字状に屈曲形成されている。
【0039】
図6に示すように、ベルト式伝動装置14よりも搭乗ステップ10の中央部寄りとなるベルト式伝動装置14の右側方には、エンジン3の左後下方に位置するとともに、ベルト式伝動装置14の右側に隣接配備されたベルト伝動式の補助伝動装置88を介したエンジン3からの動力で駆動されるギヤポンプ89が、搭乗ステップ10のフロア面84よりも上方に位置する状態で配備されている。
【0040】
以上の構成から、エンジン3の出力軸13やその周辺部位、ミッションケース4の入力軸16や各操作軸35,38,41,44,48,79又はそれらの周辺部位、ベルト式伝動装置14、補助伝動装置88、及びギヤポンプ89などは、搭乗ステップ10の高さ位置よりも高い位置に位置することになっており、これによって、このトラクタを泥水の多い水田などで走行させた場合であっても、その走行に伴って前後の車輪5,6で跳ね上げられる泥水が、エンジン3の出力軸13やその周辺部位、ミッションケース4の入力軸16や各操作軸35,38,41,44,48,79又はそれらの周辺部位、ベルト式伝動装置14、補助伝動装置88、及びギヤポンプ89などに対して付着し難い状態になることから、泥水の多い水田などで使用しても、それらの箇所などに対する泥水の付着を効果的に抑制できて、泥水が、エンジン3における出力軸13とその支持部との間、ミッションケース4における入力軸16や各操作軸35,38,41,44,48,79とそれらの支持部との間、ベルト式伝動装置14の各プーリ81,82と伝動ベルト83との間、あるいは、補助伝動装置88やギヤポンプ89の各部材間などに入り込んで、それらの間に介装されるオイルシール49,51,58や伝動ベルト83などに対して損耗などの悪影響を及ぼす虞を防止できる。
【0041】
又、搭乗ステップ10のフロア面84上にベルト式伝動装置14を配備することで、ベルト式伝動装置14を搭乗ステップ10の横外方に配備する場合に生じる機体左右幅の増大を防止できるとともに、ベルト式伝動装置14に対する支持構造の簡素化を図れることになり、しかも、搭乗ステップ10のフロア面84上にベルト式伝動装置14を配備するようにしながらも、そのベルト式伝動装置14によって搭乗ステップ10に備えた各操作ペダル23,46,85の操作が阻害される不都合を回避できるとともに、搭乗ステップ10のフロア面84上に位置するベルト式伝動装置14の伝動下手側部位を、フロア面84から所定距離を隔てた高い位置に位置させる場合に比較して、搭乗運転部2の操縦者に与える開放感を向上させることができる。
【0042】
図10に示すように、動力取出ユニット53は、ミッションケース4内における左右の伝動ギヤ26の間に形成される隙間を有効利用して配備され、又、補助伝動系66は、その補助伝動軸70が、ミッションケース4内における主変速装置18及び副変速装置20の各伝動軸62〜65と各操作軸35,38,41,44などとの間に形成される隙間を有効利用して、その隙間を通るように配備されており、これによって、ミッションケース4からの作業用などの動力の取り出しを可能にする補助伝動系66を装備しながらも、それに起因したミッションケース4の大型化を抑制でき、もって、ミッションケース4を、泥水の付着を抑制できる比較的高い位置に配備しながらも、機体重心が高くなることに起因した安定性の低下を回避できる。
【0043】
又、動力取出ユニット53及び補助伝動系66は、ミッションケース4に対して着脱可能であることから、例えば、プラウ作業やトレーラ作業などのように、ミッションケース4からの作業用動力の取り出しが不要な作業しか行わないユーザーを対象にする場合には、動力取出ユニット53及び補助伝動系66などを取り外した安価な仕様を提供できる。
【0044】
図1〜7に示すように、機体の左右中心上に搭載されるエンジン3の上部には燃料タンク90やマフラ91などが、又、そのエンジン3の前下部にはバッテリ92が配備されている。一方、エンジン3の真下には、泥水の付着を抑制できる比較的高い位置にエンジン3を配備することによって得られるエンジン3の下方空間を有効利用して、泥水の付着による悪影響を受け難い作動油タンク93が配備されている。
【0045】
つまり、比較的に重量の大きいバッテリ92及び作動油タンク93を、機体の前部側で、かつ、エンジン3の下側に配備することで、機体後部に作業装置などを連結した際の前後バランスの向上を図れるとともに、エンジン3を比較的に高い位置に配備しながらも機体の重心位置を低くすることができ、もって、機体の安定性の向上を図れるようになっている。
【0046】
図6及び図15に示すように、作動油タンク93は、機体フレーム1における左右のメインフレーム部材94の間で、かつ、それらのメインフレーム部材94を繋ぐ前後の連結フレーム部材95の間において、左右のメインフレーム部材94にボルト連結される左右の受け金具96によって受け止め支持されている。
【0047】
図6及び図7に示すように、エンジン3とその後方に立設されたステアリングポスト97との間には、それらの間に形成される空間を有効利用して、エアークリーナ98が配備されている。
【0048】
図6及び図16に示すように、リフトシリンダ7は、ミッションケース4の上方に、その上面に沿う後下がり姿勢でが配備され、左右一対のリフトアーム8とともに、ミッションケース4にボルト連結される左右一対のブラケット99によって支持されており、これによって、ミッションケース4にリフトシリンダ7を一体装備する場合に比較して、ミッションケース4の形状及び構成の簡素化を図ることができる。
【0049】
又、左右の各ブラケット99は、その下縁部100がミッションケース4の上面部101で受け止め支持されるようになっており、これによって、ミッションケース4に左右の各ブラケット99を連結する各ボルトが、作業装置などの荷重で剪断する虞を回避してある。
【0050】
尚、図6における符号102は、ミッションケース4に装備した各操作軸35,38,41,44,48,79やそれらに連係される各連係機構などへの泥水の付着を抑制する左右一対の泥水カバーである。
【0051】
図1〜3、図5及び図6に示すように、3点リンク機構9は、ミッションケース4の後端上部に、上部ブラケット103を介して上下揺動可能に連結される上部リンク104、ミッションケース4の後端下部に、下部ブラケット105を介して上下揺動可能に連結される左右一対の下部リンク106、及び、左右の対応するリフトアーム8と下部リンク106とにわたってそれらを連動揺動させる左右のロッド107、などによって構成されている。
【0052】
図17〜21に示すように、このトラクタAは、その後部に備えた3点リンク機構9を介して耕起装置Bを連結装備することで、耕起用の作業機に構成することができ、その耕起装置Bには、トラクタAによる牽引に伴って、耕起用として皿状に形成された3枚の円盤(耕具の一例)108が自転して、それらの凹部で土をかき上げて耕起するディスクプラウが採用されている。
【0053】
ディスクプラウBは、3点リンク機構9に左右一対の連結リンク109などを介して左右向きに連結される固定フレーム110、この固定フレーム110から後方に向けて延出する支持フレーム111、及び、固定フレーム110と支持フレーム111とにわたって架設される補強フレーム112、によってトラス状の骨組みが形成され、その支持フレーム111に、その延出方向に沿って所定間隔を隔てる状態で3枚の円盤108が整列装備されている。
【0054】
固定フレーム110は、支持フレーム111の前端に備えた連結用のボス111Aや、補強フレーム112の前端に備えた連結用の第1ボス112Aが係入される溝110Aを備え、又、その右端部と左端部近傍箇所のそれぞれに、支持フレーム111のボス111Aを上下向きの連結ピン113を介して連結するための連結孔110a,110bが穿設され、その左端部に、補強フレーム112の第1ボス112Aを上下向きの固定ピン114を介して枢支連結するための連結孔110cが穿設されている。
【0055】
支持フレーム111は、その延出方向に所定間隔を隔てる状態で、下方に向けて垂下する3本の支持アーム115が並設され、それらの各支持アーム115の下端部に、対応する円盤108が遊転自在に所定姿勢で装備されている。又、支持フレーム111の略中間部には、補強フレーム112の後端に備えた第2ボス112Bが上下向きの固定ピン116を介して枢支連結されるコの字状のブラケット111Bが装備され、支持フレーム111の後部には、最後尾の支持アーム115にアーム117やロッド118を介して支持された土寄せ用の円盤119が装備されている。
【0056】
つまり、このディスクプラウBは、固定フレーム110に対する支持フレーム111の連結位置を、単一の連結ピン113によって、固定フレーム110の右端部と、補強フレーム112が連結される左端部の近傍箇所とに簡単に変更できるように構成されている。
【0057】
そして、支持フレーム111を固定フレーム110の右端部に連結すると、支持フレーム111とともに3枚の円盤108がトラクタAの左右中央側に位置する標準作業位置となり、この標準作業位置では、機体進行方向に対する支持フレーム111の傾斜角が大きくなって3枚の円盤108による耕起幅W1が広くなる(図18参照)。
【0058】
又、支持フレーム111を固定フレーム110の左端部近傍箇所に連結すると、支持フレーム111とともに3枚の円盤108がトラクタAの左方に偏倚する畦際作業位置となり、この畦際作業位置では、機体進行方向に対する支持フレーム111の傾斜角が小さくなって3枚の円盤108による耕起幅W2が狭くなる(図19参照)。
【0059】
要するに、このディスクプラウBは、単一の連結ピン113で、固定フレーム110に対する支持フレーム111の連結位置を変更するだけで、トラクタAに対する左右方向の位置を、トラクタAの左右中央側に位置する標準作業位置と、トラクタAの左方に偏倚した畦際作業位置とに簡単に変更できるように構成されている。
【0060】
そして、圃場における畦から離れた中央側の領域に対して耕起作業を行う場合には、ディスクプラウBを標準作業位置に設定すれば、ディスクプラウBがトラクタAの左右中央側に位置することから、そのときの作業負荷による直進性の低下を抑制でき、しかも、広い耕起幅W1を得られることから作業効率が向上する。
【0061】
又、圃場の畦際領域に対して耕起作業を行う場合には、ディスクプラウBを畦際作業位置に設定すれば、ディスクプラウBがトラクタAの左方に偏倚することから、そのときの作業負荷で機体が隣接する畦側に振られるようになり、又、耕起幅W2が狭くなることで、そのときの作業負荷が軽減されることになり、結果、そのときの作業負荷で機体が適度に隣接する畦側に振られることになり、畦に沿った畦際走行が行い易くなる。
【0062】
しかも、そのときの耕起幅W2が狭くなることで、畦際に形成される溝幅も狭くなって、その溝の圃場側に盛られた土と畦との距離が短くなることから、その畦際の溝に張った水で圃場側の溝横に盛られた土を柔らかくして、畦の斜面に塗り付けていく、といった畦からの鍬などを用いた畦塗り作業が行い易くなる。
【0063】
尚、図17〜21に示す符号120は、左右の連結リンク109の上部に支持されたボス109Aと、支持フレーム111の略中間部に装備されたブラケット111Cとにわたって架設される補強リンクであり、その前端には、ボス109Aに挿通されるピン120Aが装備され、又、ブラケット111Cに横向きの連結ピン121を介して連結される後部には、ディスクプラウBの位置変更に応じた支持フレーム111との連結位置の変更を可能にする2つの連結孔120a,120bが穿設されている。
【0064】
又、図17〜20に示す符号122は、水の多い圃場において十分な推力を得られるようにするために後輪6の外側部に一体装備される補助車輪である。
【0065】
〔別実施例〕
以下、本発明の別実施形態を列記する。
【0066】
〔1〕走行機体Aとしては、トラクタ以外の例えば多目的形に構成された田植機の走行機体などであってもよい。
【0067】
〔2〕図22及び図23に示すように、耕起装置Bとしては、支持フレーム111に、その延出方向に沿って所定間隔を隔てる状態に4枚の円盤108を整列装備して構成されたものであってもよく、又、図示は省略するが、4枚以上又は2枚以下の円盤108を備えて構成されたものであってもよい。
【0068】
〔3〕耕起装置Bとしては、はつ土板プラウや犂などであってもよく、又、単一のり体を備えて一連式に構成したものや、複数のり体を備えて多連式に構成したものであってもよい。
【0069】
〔4〕耕起装置Bとしては、標準作業位置と畦際作業位置との間への位置変更が可能となるように、固定フレーム110の右端部と左端部近傍箇所との間に、支持フレーム111のボス111Aに対する連結用の連結孔が穿設されたものであってもよい。尚、固定フレーム110の右端部と左端部近傍箇所との間の位置に穿設する連結孔の数量は種々の変更が可能である。
【0070】
〔5〕固定フレーム110に支持フレーム111の前端を左右方向に相対摺動可能に連結するとともに、その支持フレーム111の固定位置を、固定フレーム110の右端部と左端部近傍箇所との間において任意に設定できるように構成してもよい。
【0071】
〔6〕固定フレーム110に対する支持フレーム111の位置固定を、連結ピン113以外の例えばボルト・ナットなどで行うようにしてもよい。
【0072】
〔7〕耕起装置Bを畦際作業位置に設定した状態では、耕起装置Bが走行機体Aの右方に偏倚するように構成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】トラクタの全体左側面図
【図2】トラクタの全体右側面図
【図3】トラクタの全体平面図
【図4】右前方から見たトラクタの全体斜視図
【図5】左後方から見たトラクタの全体斜視図
【図6】トラクタの概略全体左側面図
【図7】エンジン及びミッションケースなどの配置を示す要部の斜視図
【図8】ミッションケースの縦断背面図
【図9】ミッションケースの要部の縦断背面図
【図10】ミッションケースの縦断側面図
【図11】ミッションケースの要部の展開横断平面図
【図12】主変速レバーのガイド溝の形状を示す要部の平面図
【図13】ミッションケースでの走行用出力軸の支持部に対するシール構造を示す要部の縦断背面図
【図14】ミッションケースでの補助伝動系の支持構造を示す要部の縦断背面図
【図15】作動油タンクの配置及び支持構造を示す要部の斜視図
【図16】リフトシリンダ及びリフトアームの配置及び支持構造を示す要部の斜視図
【図17】ディスクプラウを装備した状態を示す要部の左側面図
【図18】ディスクプラウの標準作業位置を示す要部の平面図
【図19】ディスクプラウの畦際作業位置を示す要部の平面図
【図20】ディスクプラウの背面図
【図21】ディスクプラウのフレーム構造を示す要部の斜視図
【図22】別実施形態でのディスクプラウの標準作業位置を示す要部の平面図
【図23】別実施形態でのディスクプラウの畦際作業位置を示す要部の平面図
【符号の説明】
【0074】
108 耕具
110 固定フレーム
111 支持フレーム
112 補強フレーム
A 走行機体
B 耕起装置
W1 標準作業位置での耕起幅
W2 畦際作業位置での耕起幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行機体に連結装備される耕起装置を、前記走行機体の左右中央側に位置する標準作業位置と、前記走行機体の左右一側方に偏倚した畦際作業位置とにわたって位置変更可能に、かつ、前記畦際作業位置での耕起幅が前記標準作業位置での耕起幅よりも狭くなるように構成してある作業機の耕起装置取付構造。
【請求項2】
前記走行機体に左右向きに連結される固定フレームに、複数の耕具を支持する支持フレームの一端部を位置変更可能に連結するとともに、前記固定フレームの一端部から前記支持フレームの他端側にわたって補強フレームを架設し、前記固定フレームに対する前記支持フレームの位置変更で、前記走行機体に対する前記耕起装置の位置を変更するように構成してある請求項1に記載の作業機の耕起装置取付構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【公開番号】特開2006−158219(P2006−158219A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−349955(P2004−349955)
【出願日】平成16年12月2日(2004.12.2)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【出願人】(504231405)ザ・サイアム・クボタ・インダストリー・カンパニー・リミテッド (12)
【氏名又は名称原語表記】THE SIAM KUBOTA INDUSTRY CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】101/19―24 MOO20 NAVANAKORN KHLONGNEUNG KHLONGLUANG PATHUMTANI 12120 THAILAND
【Fターム(参考)】