説明

作業装置、作業装置を装着した軌道走行車両

【課題】線路等級が低い路線を走行する場合でも、軌道車両に装着された作業装置が地上機器と接触することを防止する。
【解決手段】車両本体101に装着されたラッセル除雪装置110の前面中央部にはフランジャ112が装備されている。フランジャの本体113は、エアシリンダ121により昇降可能となっている。フランジャ本体113の幅方向両側には、下端部の底面にレール接触用ガイド部材116を取り付けた過下降規制部材114が固定されている。線路等級が低い路線で車体が傾いた場合、過下降規制部材114(レール接触用ガイド部材116)がレール上面に当接することで、フランジャ最下端部が軌道上面から所定値を超えて下降しないように規制される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軌道モーターカーや鉄道車両に装着される作業装置による地上設備の破損を防止する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
雪国の鉄道では、降雪・積雪時に機関車や軌道モータカーなどの端部に除雪装置を装着して除雪・排雪作業を行なっている。ラッセル除雪装置や除雪プラウなどにおいては、前頭部の最下端にフランジャと呼ばれる可動式の部材を備えるものがあり、踏切や分岐器等支障のある個所以外ではフランジャを下ろして軌道のレール間(線路間)に溜まった雪を排雪する。特開平6−280229号公報(特許文献1)には、フランジャを備えたラッセル除雪装置を装着した軌道除雪車が開示されている。このような除雪用フランジャは、通常はレール面以下30mm程度を限度に(フランジャ下端がレール上面から30mm以上降下しないように)調整されるが、車体が前後方向に傾いたときに、それ以上に下がる場合がある。
【0003】
一方、軌道のレール間には、ATS(自動列車停止装置)やATC(自動列車制御装置)の地上子(情報伝送用コイル)等の地上設備が設置されている個所があり、除雪車両により除雪作業を行う際に、上記フランジャをレール面より下げて除雪を行う場合に、車両のオーバーハングが大きいとレールの高低差によって地上設備を破損する恐れがあった。
【0004】
実際、JR北海道の4級線(線路等級)にて、レール間に埋設してある地上子とフランジャが接触する事故が発生したことがある。事故例は、車両のオーバーハングが5320mm、静止状態でのフランジャ〜地上子間が14mm、時速25km/hで通過時に接触が発生した。
【0005】
なお、4級線レール状態は、最悪時に5mの距離で以下の寸法までの高低差が有っても認められる。
整備目標値、高低差:動的19mm、静的:11mm
整備基準値、高低差:動的30mm、静的:22mm
【0006】
最悪の場合を考えると、整備基準値の30mmの高低差が、今いる車輪の前後にある場合(レールにより形成されるV字の谷間に車輪がある場合が想定される)、水平時にレール下30mmにあるフランジャはレール下84mmの位置まで下がる可能性がある。地上子の埋設高さは、レール下70mm±5mmのため、上記条件のところに地上子があれば、接触する。
【0007】
これを防ぐには、フランジャ先端までの車輪からの距離を、3000mm以内にするという方法がある。すなわち、車両のオーバーハングを小さくして接触を防ぐという方法である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、旧ハイモ(保線用のモーターカーにラッセルヘッドを取り付けた排雪モーターカー)等、ラッセル翼を機関室に重ねる構成(オーバーハングを小さくする方法)は可能だが、以下のデメリットがある。
・ラッセル(雪飛び)性能の低下(すくい角が0度になる)。
・翼を都度開かないと機関室内の点検が困難。及び、脱着時のボルト締結作業ができず、
簡易脱着の利点が低下する。
・プラウへ装着する簡易脱着車輪の前後寸法が短くなり、取り外し時の安定性が低下する

・段切り装置への対応が困難。
【0009】
したがって、オーバーハングにかかわらず、作業装置の地上機器への接触を防止することができれば好適である。
なお、ここではラッセル除雪装置で説明したが、ロータリ除雪装置や土木掘削装置等、軌道走行車両の端部に装着される作業装置においては、線路状況により作業装置と地上機器とが接触する恐れがあることはラッセル除雪装置の場合と同様である。
【0010】
本発明は、従来の軌道車両に装着される作業装置における上述の問題を解決し、線路等級が低い路線においても地上機器との接触を確実に防止することのできる作業装置およびその作業装置を装着した軌道走行車両を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記の課題は、本発明により、軌道走行車両の端部に装着される作業装置であって、昇降可能なフランジャを備え、該フランジャを下降させた場合の軌道間における最下端部が軌道上面よりも下方に位置する作業装置において、前記フランジャ最下端部が軌道上面から所定値を超えて下降しないように規制する過下降規制部材を設けたことにより解決される。
【0012】
前記過下降規制部材が、前記フランジャ本体の幅方向両側に設けられてその下端部が軌道上面に当接することで前記フランジャの過下降を規制する部材であると好適である。
前記過下降規制部材の軌道との当接部に絶縁性を有するレール接触用ガイド部材が取り付けられていると好適である。
【0013】
前記レール接触用ガイド部材が所定の硬度及び弾性を有すると好適である。
前記レール接触用ガイド部材が、硬質ウレタンゴム製であると好適である。
当該作業装置がラッセル式除雪装置であると好適である。
【0014】
また、前記の課題は、本発明により、請求項1〜6のいずれか1項に記載の作業装置を車両端部に装着したことを特徴とする軌道走行車両により解決される。
【発明の効果】
【0015】
本発明の作業装置および作業装置を装着した軌道走行車両によれば、線路等級に関わらずフランジャが地上設備に接触することを確実に防止することができる。また、フランジャに過下降規制部材を設けたことにより、作業装置のオーバーハングを小さくすることなく地上設備の破損を防止することができるため、作業性能の低下や点検性の低下、あるいは作業装置の着脱性の低下などを招くこともない。さらに、構成が簡単なため、コスト上昇を極力抑えることができるとともに、既納車への対応(従来型作業装置への後付け改良)も容易である。
【0016】
請求項2の構成により、過下降規制部材が軌道上面に当接することでフランジャの過下降を確実に防止することができる。
請求項3の構成により、左右軌道間の短絡を防止することができる。
【0017】
請求項4の構成により、軌道面の傷付きを防止することができる。また、フランジャ側へのショックを緩和することができる。
請求項5の構成により、レール接触用ガイド部材を低コストに実現できる。
【0018】
請求項6の構成により、ラッセル式除雪装置のフランジャによる地上設備の破損を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係る除雪作業装置を備えた軌道除雪車の一例を示す平面図である。
【図2】その軌道除雪車の側面図である。
【図3】その軌道除雪車の正面図である。
【図4】ラッセル除雪装置の構成を示す、側面方向から見た断面図である。
【図5】フランジャ及びラッセル翼を車両前方から見た正面図である。
【図6】フランジャを車両側方から見た側面図である。
【図7】フランジャの支持部を示す正面図である。
【図8】フランジャ本体を最大に上昇させた状態で示す除雪装置の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明に係る除雪作業装置を備えた軌道除雪車の一例を示す平面図である。また、図2はその軌道除雪車の側面図、図3はその軌道除雪車の正面図である。これらの図において、軌道除雪車100は、車両本体101の前端部に、本発明を適用した作業装置であるラッセル除雪装置110を装着している。また、反対側の車両後端部には、ロータリ除雪装置150を装着している。
【0021】
車両本体101は一般的なディーゼル機関車であり、その構成は従来より周知である。また、ロータリ除雪装置150も従来周知な構成のものであるため、説明を省略する。
図1〜3に示すように、ラッセル除雪装置110はラッセル翼111を有しており、そのラッセル翼111の前面中央部にはフランジャ112が装備されている。ラッセル翼111は中途から先の翼先端部分111a,111aが回動可能に設けられており、図に破線で示す除雪作業時の展開状態から、図に実線で示すように折り畳むことができるようになっている。図3の正面図は、翼先端部分111a,111aを折り畳んだ回送時の状態である。除雪作業時には、図1,2のように翼先端部分111a,111aを拡げて除雪・排雪作業を行なう。
【0022】
図4は、ラッセル除雪装置110の構成を示す、側面方向から見た断面図である。この図に示すように、ラッセル除雪装置110は、ラッセル翼111を支持するフレーム120を備えており、このフレーム120が車両本体101のフレームに装着されることによってラッセル除雪装置110が軌道除雪車100前端部に装着支持される。本実施例では、車両本体のフレーム前端からフランジャ112先端までの距離は3012mmであり、この場合、車輪(車両本体101の前輪)からフランジャ先端までの距離(オーバーハング)は4500mm程度となる。
【0023】
図5は、フランジャ112(及びラッセル翼111)を車両前方から見た正面図である。また、図6は、フランジャ112を車両側方から見た側面図である。そして、図7は、フランジャの支持部を示す正面図である。
【0024】
これらの図に示すように、フランジャの本体113の車両幅方向の両側(左右両側)にガイドエッジ114,114がボルトにて固定されている。なお、ボルト固定に限らず、溶接などにより固定しても良い。あるいは、本体113とガイドエッジ114,114を一体的に構成することも可能である。そして、そのガイドエッジ114,114が、プラウ本体(ラッセル翼111の裏側)に溶接されたスライドガイド115,115にはまり込み、グリス潤滑されて上下方向(スライドガイド115によりガイドされる斜め上下方向)に移動可能となっている。さらに、フランジャ本体113とラッセル除雪装置のフレーム120との間にはエアシリンダ121が配設されており、該エアシリンダ121を伸縮させることによってフランジャ本体113(及びガイドエッジ114,114)が上下にスライド可能(昇降可能)に構成されている。エアシリンダは作動速度が速く、本実施形態ではフランジャ本体を昇降させるアクチュエータとしてエアシリンダを用いている。なお、図4〜7は、フランジャ(本体113及びガイドエッジ114,114)を設定寸法(最大値)まで下降させた状態で示してある。
【0025】
図5あるいは図7を見ると分かるように、ガイドエッジ114,114は、前から見ると「L」字、あるいは「逆L」字形をしており、フランジャ本体113の両側にガイドエッジ114を取り付けたときに、ガイドエッジ114の張出部114a(「L」字あるいは「逆L」字の横棒部分)がレールの上に位置するように設けられている。そして、このガイドエッジ張出部114aのレール上面と対向する面(張出部114aの底面)に、絶縁材料で作られたレール接触用ガイド部材116が取り付けられている(図5,6,7)。本実施例ではレール接触用ガイド部材116はウレタン製であり、以下、ウレタンガイドエッジ116と記す。なお、レール接触用ガイド部材116としては、ウレタン製に限るものではなく、絶縁性及び適度な強度を持っていれば良く、適宜な材質を選定することができる。
【0026】
上述したようにガイドエッジ114,114はフランジャ本体113に固定されており、エアシリンダ121によりフランジャ本体113を昇降せるときにガイドエッジ114,114も一体的に移動(昇降)するものであり、以下の説明では記載の煩雑を避けるために、フランジャ本体113とガイドエッジ114,114を昇降させることを、単に「フランジャ本体113」を昇降、と記す。
【0027】
さて、本実施形態では、上記ウレタンガイドエッジ116下面とレール上面間の距離(隙間)は、フランジャ本体113を設定寸法まで下降させたときに25mmの隙間を有するように設定されている。したがって、通常は、フランジャ本体113を一番下まで(設定寸法まで)下降させても、ウレタンガイドエッジ116がレールに接触することはない。しかし、線路状態によっては、走行時に車体が前後方向に傾いてフランジャ先端(本体113の先端)がレール面以下30mmを超えて下がろうとする場合がある。たとえば、整備基準値の30mmの高低差が、今いる車輪の前後にある場合などである。そのような場合でも、本実施形態においては、フランジャ本体113に固定されたガイドエッジ114,114の張出部114a底面(に備えられたウレタンガイドエッジ116)がレール上面に当接することによってフランジャ本体113がそれ以上下降することがなく、フランジャ112による地上設備の破損を防止することができる。
【0028】
すなわち、図4に示すように、本実施例では、フランジャ先端(本体113の先端下部)からウレタンガイドエッジ116(中心)までの距離が536mm(車両本体101のフレーム先端からフランジャ先端までの距離は3012mm、オーバーハングは約4500mm)となっている。図4には、平坦な(正常な)線路面RLを実線で示しており、4級線で考えられる最大傾斜角度(0.71度と想定)を一点鎖線で示している。正常な線路面RLではウレタンガイドエッジ116下面とレール上面間の距離(隙間)は25mmで、この状態ではフランジャ112の先端(下端)位置はレール面下30mmである。一方、一点鎖線で示す4級線で考えられる最大傾斜角度の場合、ウレタンガイドエッジ116が線路面(この場合は一点鎖線)に当接して隙間が0(ゼロ)となり、このとき、フランジャ先端はレール面下60.5mmまで下がるが、レール面下65mmに埋設してある地上子上面とは干渉せず、地上設備の破損を回避できる。
【0029】
本実施形態においては、ウレタンガイドエッジ116を備えるガイドエッジ114,114が走行時の線路状態によってレール上面に当接することでフランジャ最下端部の地上設備への接触を防止する。つまり、ガイドエッジ114,114が、フランジャ最下端部が軌道上面から所定値を超えて下降しないように規制する過下降規制部材である。ただし、左右レール間の短絡防止およびレール面の傷付き防止のためにガイドエッジ114の底面に絶縁材料によるレール接触用ガイド部材116(実施例ではウレタンガイドエッジ116)を設けている。
【0030】
なお、図7に示すように、レール接触用ガイド部材(ウレタンガイドエッジ116)の幅(車両幅方向の大きさ)は、線路の最小曲線半径160m(160R)を想定して最低180mmを確保するように構成している。これにより、曲率半径の小さな急曲線においてもレール接触用ガイド部材116が線路面から外れることがなく、フランジャによる地上設備の破損を常に防止することができる。本実施例で用いているウレタンガイドエッジ116は、硬度92〜96°(ショアA硬度)、反発弾性55%以上で、厚さ約50mmの硬質ウレタンゴム製のものをガイドエッジ114の底面に取り付けている。
【0031】
図8は、フランジャ本体113(両側のガイドエッジ114,114は図示省略)を最大に上昇させた状態で示す除雪装置の正面図である。このとき、本実施例ではフランジャ112の最下端部はレール上面から95mm上方に位置している。設定寸法(最大値)まで下降させると、図4〜7で説明したように、フランジャ最下端部はレール面下30mmまで下降する(正常な線路の場合)。4級線で考えられる最悪の場合は、上記のようにレール面下60.5mmまで下がる可能性があるが(最悪の場合でもフランジャ最下端部の最大下降量がレール面下60.5mmに規制されるので)、レール面下65mmに埋設してある地上子上面とは干渉しない。
【0032】
上記説明したように、本実施形態の除雪作業装置(ラッセル除雪装置110)においては、ラッセル除雪装置に装備したフランジャに地上設備の破損を防止する機構(過下降規制部材)を設けたことにより、線路等級に関わらずフランジャが地上設備に接触することを確実に防止することができる。また、フランジャに過下降規制部材を設けたことにより、除雪装置(作業装置)のオーバーハングを小さくすることなく地上設備の破損を防止することができるため、除雪性能(作業性能)の低下や点検性の低下、あるいは除雪装置(作業装置)の着脱性の低下などを招くこともない。さらに、構成が簡単なため、コスト上昇を極力抑えることができるとともに、既納車への対応(過下降規制部材を備えていない従来型作業装置への後付け改良)も容易である。
【0033】
以上、本発明をラッセル型除雪装置を例にとって説明したが、本発明はこれに限らず、ロータリ除雪装置や土木掘削装置等、軌道走行車両の端部に装着される作業装置に適用可能であり、これらの作業装置による地上設備の破損を確実に防止することが可能である。
【0034】
また、実施形態における各部の寸法等は一例であり、作業装置のオーバーハング量や作業装置の下降量等を含め、適宜に設定できるものである。
また、除雪装置おけるフランジャを昇降させるアクチュエータもエアシリンダに限るものではなく、油圧シリンダやモータなど、適宜なアクチュエータの採用が可能である。アクチュエータの数や取り付け位置なども任意である。フランジャの形状や大きさなども適宜設定可能なものである。さらに、フランジャはスライド移動する方式に限らず、回動式のものも可能である。
【符号の説明】
【0035】
100 軌道除雪車
101 車両本体
110 ラッセル除雪装置
111 ラッセル翼
112 フランジャ
113 フランジャ本体
114 ガイドエッジ(過下降規制部材)
114a 張出部
115 スライドガイド
116 レール接触用ガイド部材(ウレタンガイドエッジ)
121 エアシリンダ
【先行技術文献】
【特許文献】
【0036】
【特許文献1】特開平6−280229号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軌道走行車両の端部に装着される作業装置であって、昇降可能なフランジャを備え、該フランジャを下降させた場合の軌道間における最下端部が軌道上面よりも下方に位置する作業装置において、
前記フランジャ最下端部が軌道上面から所定値を超えて下降しないように規制する過下降規制部材を設けたことを特徴とする作業装置。
【請求項2】
前記過下降規制部材が、前記フランジャ本体の幅方向両側に設けられてその下端部が軌道上面に当接することで前記フランジャの過下降を規制する部材であることを特徴とする、請求項1に記載の作業装置。
【請求項3】
前記過下降規制部材の軌道との当接部に絶縁性を有するレール接触用ガイド部材が取り付けられていることを特徴とする、請求項2に記載の作業装置。
【請求項4】
前記レール接触用ガイド部材が所定の硬度及び弾性を有することを特徴とする、請求項3に記載の作業装置。
【請求項5】
前記レール接触用ガイド部材が、硬質ウレタンゴム製であることを特徴とする、請求項3又は4に記載の作業装置。
【請求項6】
当該作業装置がラッセル式除雪装置であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の作業装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の作業装置を車両端部に装着したことを特徴とする軌道走行車両。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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