説明

作業車両

【課題】油圧タンクから供給される作動油によって各部を駆動させる油圧装置を備えた作業車両において、該油圧装置全体の異常診断を高精度で行うことが可能な作業車両を提供する。
【解決手段】油圧タンク9から供給される作動油によって各部を駆動させる油圧装置8を備え、作動油の圧力又は作動油の流量を検出する検出手段26を設け、検出手段26の検出結果に基づいて油圧装置8の異常診断を行う作業車両であって、検出手段26を、油圧タンク9に作動油を戻すリターン回路14に設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、油圧タンクから供給される作動油によって各部を駆動させる油圧装置を備えた作業車両に関する。
【背景技術】
【0002】
油圧タンクから供給される作動油によって各部を駆動させる油圧装置を備え、作動油の圧力又は作動油の流量を検出する検出手段を設け、該検出手段の検出結果に基づいて油圧装置の異常診断を行う特許文献1に示す作業車両が公知になっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開昭60−22566号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記文献の作業車両は、油圧タンクの作動油を各部に圧送する油圧ポンプ側に検出手段を配置しているため、作動油が送られる各部の何れかに漏れ等の異常が生じた場合、作動油が外部に漏れ出して、油圧タンク内の作動油の量が不足し、油圧ポンプによる作動油供給に異常が発生するまで、この異常を検出することができず、油圧装置全体の異常診断を正確に行えない場合がある。
本発明は、油圧タンクから供給される作動油によって各部を駆動させる油圧装置を備えた作業車両において、該油圧装置全体の異常診断を高精度で行うことが可能な作業車両を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、第1に、油圧タンク9から供給される作動油によって各部を駆動させる油圧装置8を備え、作動油の圧力又は作動油の流量を検出する検出手段26を設け、該検出手段26の検出結果に基づいて油圧装置8の異常診断を行う作業車両であって、前記検出手段26を、油圧タンク9に作動油を戻すリターン回路14に設けたことを特徴としている。
【0006】
第2に、リターン回路14に絞り弁27を設け、該絞り弁27よりも上流側に前記作動油の圧力を検出する検出手段26を配置したことを特徴としている。
【0007】
第3に、油圧タンク9内の作動油がリターン回路14を介して各部に逆流することを防止するエア吸込み部31aを、該リターン回路14に設けたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0008】
上記構成によれば、作動油の圧力又は作動油の流量を検出する検出手段を、油圧タンクに作動油を戻すリターン回路に設けているので、油圧装置の各部の何れかに漏れ等の異常が生じた場合でも、リターン回路側の検出手段によって、該異常を検出することが可能になり、油圧装置の全体の異常診断精度が向上するとともに、各部に検出手段を個別に設ける必要もないため、コストを低く抑えることができる。
【0009】
また、リターン回路に絞り弁を設け、該絞り弁よりも上流側に前記作動油の圧力を検出する検出手段を配置すれば、正常時には作動油の圧力が所定以上に安定的に保持され、検出手段により異常検出を、より高精度で行うことが可能になる。
【0010】
さらに、油圧タンク内の作動油がリターン回路を介して各部に逆流することを防止するエア吸込み部を、該リターン回路に設ければ、メンテナンス時や配管破損時、油圧タンクからの逆流によって、作動油が大量に流出することを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明を適用した農業用のトラクタの全体斜視図である。
【図2】油圧装置の構成を示す油圧回路図である。
【図3】リターン回路の構成を示す外観図である。
【図4】マイコンのブロック図である。
【図5】リレー回路の構成を示す回路図である。
【図6】マイコンが行う油圧装置の異常診断の処理フロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は、本発明を適用した農業用のトラクタの全体斜視図である。作業車両の一種であるトラクタは、左右一対のクローラ式走行装置(走行部)1L,1Rによって支持された走行機体2と、走行機体2の後方に昇降自在且つ着脱自在に連結されるロータリ耕耘装置等の作業機(図示しない)とを備えている。走行機体2は、前後方向のシャーシフレーム3が左右のクローラ式走行装置1L,1Rに支持され、シャーシフレーム3上の前部側にエンジン4(図2参照)を開閉自在に覆うボンネット6を設け、ボンネット6の後方にオペレータが乗込む操縦部を覆うキャビン7が立設されている。
【0013】
走行機体2には、左右のクローラ式走行装置1L,1Rを走行駆動させるととも作業機を昇降駆動させる油圧装置8(図2参照)が設けられている。
【0014】
図2は、油圧装置の構成を示す油圧回路図である。油圧装置8は、作動油が注入された油圧タンク9と、外部取出バルブユニット11と、作業機バルブユニット12と、該油圧タンク9内の作動油を外部取出バルブユニット11及び作業機バルブユニット12に圧送する油圧ポンプ13と、エンジン動力が伝動される油圧式無段階変速装置であるHSTと、外部取出バルブユニット11及び作業機バルブユニット12から排出された作動油を油圧タンク9に戻すリターン回路14とを備えている。
【0015】
なお、作動油が流動する順番に、油圧ポンプ13と、外部取出バルブユニット11と、作業機バルブユニット12とは、直列的に接続されているため、油圧ポンプ13から圧送される作動油は、外部取出バルブユニット11→作業機バルブユニット12の順に流動する。
【0016】
上記外部取出バルブユニット11は、油圧装置8内の作動油を取出して外部油圧駆動装置(図示しない)に供給するとともに、外部油圧駆動装置内の作動油を油圧装置8内に戻すことが可能な油圧バルブ11aを複数備えている。この油圧バルブ11aを介して、外部油圧駆動装置から戻されてきた作動油は、上述のリターン回路14を介して、油圧タンク9に戻される。
【0017】
上記作業機バルブユニット12は、油圧式の昇降シリンダ16への作動油の供給・排出を行うことによって該昇降シリンダ16を伸縮作動させる上昇バルブ12a及び下降バルブ12bと、油圧式のリフトロッドシリンダ17への作動油の供給・排出を行うことによって該リストロッドシリンダ17を伸縮作動させる傾斜バルブ12cとを備えている。
【0018】
昇降シリンダ12aの伸縮によって作業機が走行機体2に対して昇降される他、リフトロッドシリンダ17の伸縮によって作業機が左右傾斜作動(ローリング作動)される。ちなみに、下降バルブ12a等を介して昇降シリンダ16aから排出される作動油及び傾斜バルブ12cを介してリフトロッドシリンダ17から排出される作動油は、上述のリターン回路14によって、油圧タンク9に戻される。
【0019】
上記HSTは、クローラ式走行装置1L,1R毎に1個づつ設けられている。この一対の各HSTは、エンジン動力によって駆動される可変容量式の油圧ポンプである走行ポンプ18と、走行ポンプ18からの作動油によって回転されてクローラ式走行装置1L,1Rを走行駆動させる可変容量式の油圧モータである走行モータ19とから構成されている。クローラ式走行装置1L,1Rを走行駆動させる走行モータ19を無段階で変速させるために、該HSTは、斜板によって、走行ポンプ18から走行モータ19への作動油の供給量を無段階で変更する。
【0020】
また、各走行ポンプ18には、エンジン4からの動力によって駆動され且つ走行ポンプ18内に油圧タンク9から作動油を取入れる補助ポンプ21と、内部の作動油による圧力が所定以上になった場合に油圧タンク9への作動油の排出を行うリリーフ弁22とが設けられている。
【0021】
さらに、一方の走行ポンプ18の作動油は、両走行モータ19,19の変速切換を行う変速切換バルブ23と、両走行モータ19,19に制動力を作用させるブレーキバルブ24とに供給され、この変速切換バルブ23及びブレーキバルブ24から排出される作動油も、上述したリターン回路14を介して、油圧タンク9に戻される。
【0022】
上記リターン回路14は、前述した通り油圧タンク9に作動油を戻すように構成され、このリターン回路14には、油圧装置8内の作動油の圧力を監視することによって、異常の検出を行う圧力センサ(検出手段)26が配設されている。さらに詳しくは、リターン回路14は、絞り弁27を介して、各部から排出された作動油を、油圧タンク9に戻すように構成されており、この絞り弁27の作動油流動上流側近傍に圧力センサ26を設けている。
【0023】
図3は、リターン回路の構成を示す外観図である。リターン回路14は、上述のように各部から排出された作動油を油圧タンク9に向けて送る複数の排油配28と、該複数の排油管28を1つにまとめるマニュホールド29と、排油管28からマニュホールド29内に流入された作動油を油圧タンク9に戻すリターン配管31等とから構成されている。このマニュホールド29は、油圧タンク9内の作動油の液面Mよりも高い位置に配置され、リターン配管31は流動方向下方側に向かって延びている一方で、複数の各排油管28は、液面Mよりも低い位置からマニュホールド29に向かって配管されている。
【0024】
このため、エンジン4の停止時、油圧タンク9内の空気が温められて内圧が上昇すると、サイフォン現象によって、油圧タンク9内の作動油が排油管28に逆流する虞がある。これを防止するため、リターン配管31のマニュホールド29近傍箇所には、エア吸込み孔(エア吸込み部)31aが穿設され、排油管28内の圧力と、油圧タンク9内の圧力とに所定以上の圧力差が生じないようにしている。
【0025】
以上のような構成の圧力センサ26の検出結果に基づいて、油圧装置8の異常診断を行うマイコン(制御部)32が、本トラクラには、搭載されている。
【0026】
図4は、マイコンのブロック図である。マイコン32の入力側には、圧力センサ26の他、エンジン4の回転数測定も含めた回転検出を行うエンジン回転検出手段であるピックアップセンサ33が接続されている。一方、マイコン32の出力側には、ブザー音を鳴動させるブザー(報知手段)34と、エンジン停止を行うリレー回路(エンジン停止手段)36とが接続されている。
【0027】
図5は、リレー回路の構成を示す回路図である。リレー回路36には、エンジン始動操作具であるスタータスイッチ37と、エンジン4への燃料の供給をカットする燃料カットソレノイド38とが接続されている。そして、リレー回路36は、スタータスイッチ37によってエンジン始動操作が行われている際には、燃料カットソレノイド38をOFF作動させ、エンジン4を始動可能な状態にする一方で、マイコン32からのエンジン停止信号が入力された場合には、燃料カットソレノイド38をON作動させ、エンジン4を停止させるように構成されている。言換えると、マイコン32は、リレー回路36を介して、エンジン4を停止させることができる。
【0028】
図6は、マイコンが行う油圧装置の異常診断の処理フロー図である。マイコン32は、処理が開始されると、ステップS1に進む。ステップS1では、各種センサの値を読込み、ステップS2に進む。ステップS2では、ピックアップセンサ33を介して、エンジン4が回転しているか否かを確認し、回転中であれば、油圧装置8内で、作動油が循環している状態であって、各部が油圧作動している状態であり、該状態をチェックする必要があるため、ステップS3に進む。
【0029】
ステップS3では、圧力センサ26を介して、リターン回路14の作動油の圧力チェックを行い、圧力が低下していれば、油圧装置8の何れかの箇所で漏れ等が生じている可能性が高いため、ステップS4に進む。ちなみに、圧力センサ26の下流側に絞り弁27を設けているため、エンジン4が駆動されている状態であれば、正常時、作動油の圧力が所定以上に保持されるため、ステップS3での油圧チェックを精度高く行うことが可能になる。
【0030】
ステップS4では、既にタイマがセットされているか否かをチェックし、タイマがセットされていなければ、ステップS5に進む一方で、既にセットされていれば、ステップS6に進む。ステップS5では、ブザーによるブザー音の鳴動を開始させ、油圧装置8の異常を報知するとともに、タイマをセットしてカウントを開始し、ステップS6に進む。
【0031】
ステップS6では、タイマのカウントをチェックし、タイムアップしている状態であれば、ステップS7に進む一方で、まだカウント中であれば、ステップS1に処理を戻す。ステップS7では、リレー回路36を介して、エンジン4を停止させ、ステップS1に処理を戻す。
【0032】
ステップS2において、エンジン4が停止している状態であれば、油圧装置8内を作動油が循環している状態ではないため、故障診断を行う必要が無いか、或いは行えない状態であるため、ステップS8に進む。ステップS8では、タイマのリセットを行い、ステップS1に処理を戻す。
【0033】
ステップS3において、リターン回路14の作動油の圧力が低下していない状態であれば、油圧装置8が正常に動作している状態であると推定できるため、ステップS8に処理を進め、タイマのリセットを行う。
【0034】
以上のような処理によれば、油圧装置8に異常が生じた場合、まず、ステップS1→ステップS2→ステップS3→ステップS4→ステップS5→ステップS6→ステップS1と処理が進み、異常報知が開始され、それ以降、圧力センサ26による検出値が異常な値が示している間は、タイマによるカウントがタイムアップするまで、ステップS1→ステップS2→ステップS3→ステップS4→ステップS6→ステップS1→・・・と処理が繰替えされる一方で、圧力センサ26による検出値が正常な値に戻るか、或いはエンジン4が停止されれば、ステップS8に処理が進み、タイマがリセットされる。
【0035】
また、圧力センサ26による異常検出後、所定時間が経過するまで(タイマがタイムアップするまで)、圧力センサ26の検出値が異常な値を示し続けていれば、油圧装置8の故障が深刻化することも考えられるので、ステップS6→ステップS7と処理を進め、エンジン4の停止を行う。
【0036】
なお、圧力センサ26の代えて、リターン回路14に戻される作動油の流量を検出する流量センサを設けてもよい。この場合には、油圧タンク9から供給されている作動油の流量と、該油圧タンク9に戻される作動油の流量とを比較することによって、油圧装置8の異常診断を行うことが可能になる。
【符号の説明】
【0037】
1L,1R クローラ式走行装置
2 走行機体
3 シャーシフレーム
4 エンジン
6 ボンネット
7 キャビン7
8 油圧装置
9 油圧タンク
11 外部取出バルブユニット
11a 油圧バルブ
12 作業機バルブユニット
12a 上昇バルブ
12b 下降バルブ
12c 傾斜バルブ
13 油圧ポンプ
14 リターン回路
16 昇降シリンダ
17 リフトロッドシリンダ
18 走行ポンプ(油圧ポンプ)
19 走行モータ(油圧ポンプ)
21 補助ポンプ
22 リリーフ弁
23 変速切換バルブ
24 ブレーキバルブ
26 圧力センサ(検出手段)
27 絞り弁
28 排油管
29 マニュホールド
31 リターン配管
31a エア吸込み孔(エア吸込み部)
32 マイコン(制御部)
33 ピックアップセンサ(エンジン回転検出手段)
34 ブザー(報知手段)
36 リレー回路(エンジン停止手段)
37 スタータスイッチ(エンジン始動操作具)
38 燃料カットソレノイド
M 液面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油圧タンク(9)から供給される作動油によって各部を駆動させる油圧装置(8)を備え、作動油の圧力又は作動油の流量を検出する検出手段(26)を設け、該検出手段(26)の検出結果に基づいて油圧装置(8)の異常診断を行う作業車両であって、前記検出手段(26)を、油圧タンク(9)に作動油を戻すリターン回路(14)に設けた作業車両。
【請求項2】
リターン回路(14)に絞り弁(27)を設け、該絞り弁(27)よりも上流側に前記作動油の圧力を検出する検出手段(26)を配置した請求項1記載の作業車両。
【請求項3】
油圧タンク(9)内の作動油がリターン回路(14)を介して各部に逆流することを防止するエア吸込み部(31a)を、該リターン回路(14)に設けた請求項1又は2の何れか記載の作業車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−202433(P2012−202433A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−65366(P2011−65366)
【出願日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(000001878)三菱農機株式会社 (1,502)
【Fターム(参考)】