説明

作業適性判定システム

【課題】 より具体的な作業に対する適性をより正確に判定できるシステムを提供することである。
【解決手段】 演算部1は、テスト作業に対して、被検者から入力された作業データに基づいて算出した作業精度を算出するとともに、上記テスト作業の実行に対応して入力された被検者の音声データから大脳新皮質の活性度指数を算出し、上記作業精度と大脳新皮質の活性度指数とを対応づけて、特定のテスト作業の要求作業精度を満足する大脳新皮質の活性度指数範囲を特定して出力するようにした。なお、音声データから算出する大脳新皮質の活性度指数とは、被検者の音声データを基にSiCECAアルゴリズムによって算出される値である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、被験者の、作業適性を判定するシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
精神作業検査法等を利用して、職業適性を判定する考え方は従来から知られている。これらの方法は、予め採点基準を定めて、その基準に応じて職業適性を判定するものである。つまり、この従来の方法は、あくまでも職業適性を判定するものであって、より具体的な作業適性までも判定するものではなかった。
【0003】
また、実際の作業中に、時間とともに変化する作業精度を測定して、作業適性を判定する方法も考えられる。具体的には、特定の作業を一定時間以上、連続して行なわせ、必要な作業精度のレベルを、どれだけ持続できるかを見るのである。
習熟度がそれほど問題にならない簡単な作業の場合には、はじめから高い作業精度が得られる。しかし、ある程度の習熟度が求められる複雑な作業の場合には、その作業に慣れるまでに少し時間が必要で、その間はそれほど作業精度が上がらないのが実情である。
いずれにしても、あるレベルまで作業精度を達成できたとしても、ある程度の時間が経過すると、疲れたり、飽きてきたりして、作業精度が落ちてしまうのが通常である。
そこで、求められる作業精度がどのくらいの時間持続できるかどうかで、その者の作業適性を判定することができる。
【特許文献1】特開2001−290926号公報
【非特許文献1】塩見格一、「発話分析から考える脳機能モデル」、感性工学研究論文集、日本、日本感性工学会、2004年2月、第4巻、1号、p.3−12
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のように従来の精神作業検査法を用いた適性判定方法は、職業的な適性を判定するものであるが、具体的な職業を前提にするものではなく、例えば、その性格や手先の器用さなどから、適性職業を類推するものであった。このように抽象的な職業適性を類推するだけなので、具体的な作業の適性を判定することができず、その正確性に欠けるという問題があった。
【0005】
また、一定の作業精度を維持しているかどうかを、作業精度の経時的な変化で作業適性を判定しようとすると、正確な判定ができないことがある。例えば、テストという特別な環境の下で、被験者が自らを鼓舞しながら適度な緊張状態を維持していれば、ある程度の時間作業精度を維持することができる。しかし、通常の仕事などでは、意識的に緊張状態を維持することはかなり難しいことである。従って、意識的に緊張状態を維持した結果、その作業精度をクリアできたとしても、それが被験者の適性とは限らない。なぜなら、このような人は、少しでも緊張状態が解かれてしまえば、同じような作業精度を維持できるかどうか分からないからである。
このようなことから、時間と作業精度との相対関係だけで適性を判定しようとする従来の判定方法では、必ずしも正確な判定ができないという問題があった。
この発明の目的は、外見的な条件と、内面的な条件との相関性を基にして、より具体的な適性を正確に判定できるシステムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明は、作業精度の評価基準を記憶した評価基準記憶部と、テスト作業のシナリオを記憶したテストシナリオ記憶部と、特定の作業に応じて予め設定された要求作業精度を記憶した要求作業精度記憶部と、上記評価基準記憶部、テスト作業シナリオ記憶部、及び要求作業精度記憶部に連係した演算部と、この演算部に、被験者のテスト作業の結果である作業データを入力する作業データ入力部と、上記演算部に、被験者の生体情報を入力する生体情報入力部と、データ出力部とを備えている。
【0007】
そして、上記演算部は、テストシナリオ記憶部が記憶しているシナリオを進行させ、このシナリオに応じて被験者がテスト作業を実行するとともに、テスト作業の実行に従って、上記作業データ入力部から入力された作業データを、評価基準記憶部に予め記憶された上記評価基準に基づいた正解数や処理時間等と対比して、シナリオの進行に応じた単位長さあたりの作業精度を算出し、生体情報入力部から入力された生体情報から大脳新皮質の活性度指数を算出し、この大脳新皮質の活性度指数と上記作業精度とを対応づけた対応テーブルを作成し、作成した対応テーブルから、上記要求作業精度記憶部に予め記憶されている要求作業精度を満足する大脳新皮質の活性度指数範囲を特定し、この特定された大脳新皮質の活性度指数範囲をデータ出力部へ出力する。
なお、上記テスト作業とは、適性を判定する特定の作業に要求される能力を求められる作業が適切である。例えば、当該作業そのものや、作業の種類を同じにした模擬作業あるいは作業の種類が異なっても要求される能力が同じ作業などが含まれる。
【0008】
第2の発明は、上記生体情報入力部が、被験者の音声信号を入力する音声データ入力部であり、演算部は、上記作業の実行に対応して、音声データ入力部から入力された音声データを基にして上記単位長さに対応した被験者の大脳新皮質の活性度指数を算出し、この大脳新皮質の活性度指数と上記作業精度とを対応づけた対応テーブルを作成するものである。
なお、上記音声データから算出する大脳新皮質の活性度指数は、非特許文献1に記載されたSiCECAアルゴリズムによって算出される脳活性度指数のことである。
【0009】
第3の発明は、上記演算部が、単位時間当たりの作業精度を演算するとともに、この作業精度と単位時間に対応づけられた大脳新皮質の活性度指数とを関連付けて、対応テーブルを作成するものである。
第4の発明は、演算部が、シナリオの単位長さ当たりの作業精度を演算するとともに、この作業精度とシナリオの単位長さに対応づけられた大脳新皮質の活性度指数とを関連付けて、対応テーブルを作成するものである。
【0010】
第5の発明は、第2〜第4の発明を前提とし、上記テストシナリオ記憶部には、発声タイミングが予め特定されたテストシナリオを記憶させ、演算部は、上記テストシナリオで特定された発生タイミングに発声誘引信号を出力するものである。
【0011】
第6の発明は、上記テストシナリオ記憶部に記憶されているシナリオで特定されるテスト作業が実際の作業そのものである。
第7の発明は、ディスプレイを備えるとともに、このディスプレイには、テストシナリオ記憶部に記憶されているシナリオに基づいた作業ストーリーを表示させ、この作業ストーリーに基づいて被験者が模擬作業を実行するものである。
【発明の効果】
【0012】
第1〜7の発明によれば、実際の作業またはその実際の作業に近いテスト用の実作業もしくは実作業に近い模擬作業を行いながら、より具体的で正確な作業適性を判定できる。
また、この発明では、大脳新皮質の活性度から見て余裕のある状態で、要求作業精度を維持しているのかどうかを判定できるので、被験者の内面的要素を加味した正確な作業適性が分かることになる。
【0013】
第2の発明によれば、大脳新皮質の活性度指数を音声データに基づいて算出するので、脳血流などを測定する他の生体情報を利用する方法と比べて、被験者の大脳新皮質の活性度を検出するための生体情報の入力部を単純、かつ、小型化できる。
第3の発明によれば、作業精度と大脳新皮質の活性度指数との相対関係をいつも正確に保つことができる。
第4の発明によれば、作業進捗度に応じて作業精度と大脳新皮質の活性度指数との相対関係を正確に保つことができる。
【0014】
第5の発明によれば、被験者の発声のタイミングを制御することができるので、必要な音声データを確実に取り込むことができる。また、音声データの入力タイミングが予め決められているので、作業精度との対応づけが簡単にできる。
第6の発明によれば、作業適性を判定するために、被験者が行なうテスト作業が実際の作業そのものなので、その作業に対する適性をより正確に判定することができる。
第7の発明によれば、現実性の高い模擬作業に基づいて適性を判定できるので、テストをするのに大がかりな設備等を必要としない。しかも、判定する適性に応じて適切なストーリーを自由に構築することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1〜図4に、この発明の実施形態を示す。この実施形態の作業適性判定システムは、被験者にテスト作業を実行させて、このテスト作業に対する適性を判定するものである。
そして、この実施形態のシステムは、データを処理する演算部1を備え、この演算部1には、被験者の音声データを入力するための音声データ入力部2と、テスト作業の実行結果である作業データを入力する作業データ入力部3とを接続している。
上記音声データ入力部2は、この発明の生体情報入力部を構成するもので、後で説明する被験者の大脳新皮質の活性度指数を算出する基になる音声データを取り込むためのものである。具体的にはマイクロホンと、A/D変換手段とからなる。また、作業データ入力部3には、被験者が作業データを入力するための、マウスやキーボードなどの操作部4を接続している。
【0016】
さらに、上記演算部1には、このシステムで実行するテスト作業のシナリオを記憶したテストシナリオ記憶部5と、テスト作業の結果を評価するための評価基準を記憶した評価基準記憶部6と、テスト作業に要求される作業精度を記憶した要求作業精度記憶部7と、上記音声データ入力部2及び作業データ入力部3から入力されたデータを記憶するデータ記憶部8と、データ出力部9とを接続している。
データ出力部9は、演算部1での処理結果などを出力する機能を備えている。この実施形態では上記データ出力部9にディスプレイ10を接続し、演算部1での処理結果をこのディスプレイ10に表示させるようにしている。ただし、このディスプレイ10には、上記処理結果だけでなく、被験者に実行させる模擬のテスト作業も表示させるようにしている。
【0017】
上記模擬のテスト作業とは、ディスプレイ10に表示された画像を基にして実行できるもので、適性を判定したい実作業の代わりになるものである。
図2に示すテスト作業画面は、例えば、交通速度違反の取締りで違反者を認定する担当警察官用のテスト作業を示すもので、動画に表示された自動車の情報を、作業者に入力させるようにしたものである。なお、作業者が入力すべき自動車の情報とは、走行中の車線や、大型車、普通車、軽自動車などの別、あるいは色、ナンバーなどである。自動車が通過している道路を映した動画で、この動画に表示された自動車の情報を、被験者に入力させるようにしたものである。なお、被験者が入力すべき自動車の情報とは、走行中の車線や、大型車、普通車、軽自動車などの別、あるいは色、ナンバーなどである。
【0018】
上記ディスプレイ10には、動画ウインドウ10aのほかに、車線を特定する「1」、「2」、「3」からなる車線番号入力ボタン10bや、「大」、「普」、「軽」からなる自動車の型入力ボタン10c、「濃」、「中」、「淡」からなる色入力ボタン10d、「0」〜「9」の数字からなるナンバー入力ボタン10eなどを表示するようにしている。
そして、被験者は、これらの入力ボタンをマウスでクリックした後に、エンターボタン10fをクリックして、動画エリア10a内を通過する自動車の情報を入力するようにする。ここでは、車線番号入力ボタン10bがクリックされると、一時的に動画が停止して自動車を静止させて見え易くする。また、型入力ボタン10c、色入力ボタン10d、ナンバー入力ボタン10eをクリックしてエンターボタン10fをクリックすると動画が再起動されるようにしている。
なお、図中符号10gは、入力されたナンバーを表示するナンバー表示欄であり、符号10hは、入力データを訂正するためのクリアボタンである。
【0019】
この実施形態では、動画を見ながら自動車情報を入力することが、テスト作業であり、被験者が入力する自動車情報がこの発明の作業データである。
そして、上記テスト作業のための画面を表示させ、被験者によって入力される作業データに応じて、動画を停止させたり再生したりするプログラムは、テスト作業のシナリオとして、上記テストシナリオ記憶部5に予め記憶させておく。
また、上記評価基準記憶部6には、動画中に現れる全ての自動車に関する上記情報を、例えば、動画の再生開始からの経過時間や、動画の進行などに対応づけ、正解データとして記憶させておく。上記演算部1は、この正解データと被験者が入力した作業データとを対比して、後で説明する作業精度を算出する。
【0020】
また、上記テストシナリオ記憶部5に記憶されているテストシナリオには、テスト作業中の被験者に、発声を促すための発声誘引信号を出力するタイミングも設定されている。演算部1は、このテストシナリオに設定されている発声誘引信号の出力タイミングに、発声誘引信号を出力する。上記発声誘引信号の出力とは、例えば、被験者に朗読させる言葉をディスプレイ10に表示させたり、発声を促す音声信号を例えばスピーカなどから出力したりするものである。
【0021】
なお、このテスト作業中に、上記音声データ入力部2が取り込む音声データは、被験者が発する音声ならどのようなものでもかまわないが、例えば、交通速度違反の取締りで違反者を認定する担当警察官の場合には、走行中の車線や、大型車、普通車、軽自動車などの別、あるいは色、ナンバーなどを発声させるようにする。
そして、演算部1は、上記発生誘引信号を出力するとともに、それと同時に音声データ入力部2の機能をオンにして、被験者の音声を取り込めるようにしている。
【0022】
以下には、この実施形態の作業適性判定システムにおいて図2に示す画面を用いたテスト作業を実行して被験者の作業適性を判定する手順を説明する。
演算部1は、スタート信号が入力されると、テストシナリオ記憶部5が記憶しているシナリオに基づいて、ディスプレイ10に、動画ウインドウ10aを含むテスト作業画面を表示させる。
被験者は、マウスなどの操作部4を操作して必要情報を入力するが、テスト作業を開始する前に、被験者情報も入力するようにしている。被験者情報とは、氏名や性別などで、テスト作業を実行する被験者を特定するための情報である。ただしこのシステムに予め被験者属性などを記憶させておいて、テスト作業時には、被験者IDだけを入力させるようにしてもよい。
【0023】
テスト作業が開始し、被験者が作業データを入力すると、その作業データは作業データ入力部3を介して演算部1に入力される。演算部1は、入力された作業データを、上記シナリオの進行度、例えば動画の再生時間や、動画データのコマ数などと対応づけてデータ記憶部8に記憶させる。そして、このシナリオの進行度をテスト作業の進行度とすることもできる。
また、演算部1は、上記シナリオを進行させながら、上記した発声誘引タイミングになったときには、発声誘引信号として朗読画面をディスプレイ10に表示させ、音声データ入力部2から音声データを取り込む。演算部1は、取り込んだ音声データも、シナリオの進行度に対応づけて上記データ記憶部8に記憶させる。
【0024】
上記シナリオに従って全てのテスト作業が終了したら、演算部1は、データ記憶部8に蓄積した作業データ及び音声データを基に次のような処理を実行する。
まず、演算部1は、収集した作業データを、上記評価基準記憶部6が記憶している正解データと対比して、シナリオの進行に応じた単位長さあたりの作業精度を算出する。なお、この単位長さは、時間やコマ数など、テスト作業ごとに設定しておくことができる。
そして、作業精度は、上記単位長さ中に入力された作業データと、その単位長さ中に入力されるべき正解データとを対比して、被験者が入力した作業データの正誤、入力データ数の過不足、データ入力タイミングなどから算出されたもので、特定のテスト作業をどれだけ正確にできたかを示す値である。そして、正解と判断する基準や、作業精度の算出方法は、テスト作業ごとに、予め評価基準記憶部6に記憶させておく。
【0025】
図2に示した動画中に走行する自動車を観察して、その情報を入力するテスト作業の場合、入力された作業データに対応した自動車の台数についての評価基準、入力情報内容の正誤についての評価基準、入力タイミングについての評価基準などを、それぞれ定めている。なお、上記入力タイミングについての評価とは、同じ正解データが入力されても、動画ウインドウ10a内に自動車が現れてすぐに作業データが入力された場合と、動画ウインドウ10aから消える寸前に入力された場合とでその反応速度が異なるので、その反応速度ごとに評価を変えるということである。
そして、項目ごとに、その評価基準によって作業データを評価し、その結果を総合化したものを作業精度として算出する。
さらに、演算部1は、収集した音声データから、非特許文献1に記載されたSiCECAアルゴリズムに従って大脳新皮質の活性度指数を算出する。
【0026】
そして、演算部1は、算出した大脳新皮質の活性度指数を、その基になる音声データの入力時に従って、上記単位長さ当たりの作業精度に対応づける。これらのデータの対応づけは、次のようにしている。
図3に示すように、テスト作業が連続的に行われ、テスト作業データも連続的に入力された場合、演算部1は、テスト作業の進行時間を単位時間Δt1、Δt2、・・・に区切って、この単位時間ごとに作業精度を算出する。一方、音声データV1がΔt1内に入力され、別の音声データV2がΔt2内に入力された場合、上記音声データV1に基づいて算出した大脳新皮質の活性度指数を単位時間Δt1の作業精度に対応づけ、音声データV2に基づいて算出した大脳新皮質の活性度指数を単位時間Δt2の作業精度に対応づける。
【0027】
ただし、テスト作業のシナリオによっては、作業データが入力されている単位時間外に、音声データが入力される場合もある。例えば、作業が一区切りするたびに発声誘引信号が出力されて、そのたびに音声データが入力される場合には、音声データが入力された直前または直後の単位長さあたりの作業精度を、上記音声データを基にした大脳新皮質の活性度指数に対応づけるようにする。なお、音声データが入力された直前または直後のいずれを選択するからは、予め設定しておくものである。
【0028】
演算部1は、上記のようにして算出した作業精度と大脳新皮質の活性度指数との対応テーブルを作成する。この対応テーブルの値は、横軸を大脳新皮質の活性度指数、縦軸を作業精度Aとした、図4のグラフで表すことができる。そして、図4に示したグラフG1は、特定の被験者のテスト作業に関するデータである。そして、グラフG1は、各シナリオ進行の単位長さに基づいて対応させた作業精度と大脳新皮質の活性度指数とを表す複数の点P1、点P2、P3・・・Pmをプロットしたものの集合で、大脳新皮質の活性度指数Sと作業精度Aとの相関を表している。また、グラフG2は、別の被験者のデータである。
【0029】
なお、横軸や縦軸には、テスト作業の進行にかかわる時間要素が含まれていない。従って、図4に示すグラフには作業精度の経時的な変化は表れていない。時間的な変化との相関性が一切ない。
ただし、大脳新皮質の活性度指数が高い状態は緊張常態であり、低い常態は弛緩状態ということができるので、特定作業を長時間継続した場合には、疲労により弛緩状態になり、大脳新皮質の活性度指数が低くなる傾向がある。
また、この作業適性判定システムとは別の実験によって、同一被験者の場合、同一作業を行なっている間、作業時間にかかわりなく、大脳新皮質の活性度指数が同じなら作業精度がほとんど同じであることを確認している。従って、大脳新皮質の活性度指数と作業精度との相関を示した図4に示すグラフ特性は、当該作業における個人の基本的な能力を表すものと考えられる。
【0030】
図4のグラフに示す対応テーブルを作成したら、演算部1は、上記要求作業精度記憶部7から、このテスト作業に応じた要求作業精度を特定し、これを満足する大脳新皮質の活性度指数範囲を特定する。そして、演算部1は、上記特定した大脳新皮質の活性度指数範囲をデータ出力部9へ出力する。
例えば、上記要求作業精度をA1とした場合、図4のグラフG1が、これを満足する大脳新皮質の活性度指数範囲はSxということになる。言い換えれば、この被験者は、大脳新皮質の活性度指数が上記活性度指数範囲Sx内にあるとき、このシステムで実行したテスト作業の要求作業精度を満足することになる。
上記大脳新皮質の活性度指数範囲Sxが、データ出力部9を介してディスプレイ10に表示されれば、この値によって被験者が上記テスト作業に対して適性を備えているかどうか判定することができる。
【0031】
上記大脳新皮質の活性度指数範囲Sxが広ければ、上記要求作業精度A1を満足する大脳新皮質の活性度指数の範囲が広いということであり、それに伴って大脳新皮質の活性度指数の変動許容範囲も広くなるので、大脳新皮質の活性度が多少変動しても、要求作業精度A1を維持できることを意味する。大脳新皮質は、作業者の作業を制御する部分であり、その活性度は環境や体調などによっても変化するし、疲労度とも関連することが分かっている。従って、上記要求作業精度A1を満足する大脳新皮質の活性度指数範囲Sxが広い被験者は、体調や外部環境などの条件が変化しても、高い作業精度を維持できる。このように体調や外部環境などが変化しても高い作業精度を維持できるということは、この作業に対する適性があると判断できる。
【0032】
一方、図4に示すグラフG2に示す別の被験者の場合には、要求作業精度A1を満足する大脳新皮質の活性度指数範囲Syが上記活性度指数範囲Sxと比べて狭いため、大脳新皮質の活性度が少しでも変化すれば、必要な作業精度を安定的に維持できないことになる。従って、このテスト作業に対する適性は不十分であると判定することもできる。
上記の作業適性の判定基準に関しては、上記要求作業精度を満足する大脳新皮質の活性度指数範囲がどれだけあれば適性があるとするかを実験的に決めておくことができる。
上記したように、大脳新皮質の活性度指数と作業精度との相関特性は、個人の能力を表すものと考えることができ、この実施形態の判定システムでは、このような能力を作業精度と大脳新皮質の活性度指数とによって定量的に評価できるようになったので、作業適性を定量的に評価できることになる。
【0033】
なお、従来のように作業精度を経時的な変化で捉えた場合に、例えば、意識的に適度な緊張度を維持して高い作業精度を保っていれば、外見的には適性があるように見える。しかし、大脳新皮質の活性度指数と作業精度との相関を見れば、脳に余裕がないことがはっきりする。このように作業精度が一定時間維持されたとしても、脳に余裕がない場合には、その作業に対する適性があるとはいえないはずである。しかし、従来のように作業精度の経時変化だけを見ていたのでは、このような適性のない被験者を見抜くことができなかった。
この実施形態によれば、外見的なことだけでなく、内面的なことも判断材料にできるので、従来のような問題は発生せず、正確な適性判定ができる。
【0034】
従って、この実施形態によれば、複数の被験者のなかから、上記要求作業精度を満足する大脳新皮質の活性度指数範囲が広い人を選ぶことによって、作業者として最適な人を選ぶことができる。
なお、上記実施形態では、一定の速度で変化するシナリオを用いて、瞬間的な認識力や判断力をテストするのに適したテスト作業を実行させるようにしたが、実作業に近い模擬テスト作業や、実作業そのものをテスト作業として実行させてもよい。
【0035】
また、テスト作業中に入力する作業データも、被験者がマウスなどの操作部4を操作して入力するものに限らず、実作業中に自動的に入力されるようにしたデータでもよい。例えば、車両の運転の適性を判定する場合に、実際にテスト車両を運転させて、運転状況を作業データとして演算部1に自動的に入力してもよい。また、調剤作業の適性を判定する場合に、薬剤の秤量データを電子天秤から演算部1に自動的に入力するようにしてもよい。
いずれにしても、この発明においては、作業データの入力は、被験者が手動で入力してもよいし、作業中に発生するデータを自動的に入力するようにしてもよい。
【0036】
さらに、作業中に入力する音声データも、どのような言葉でもよいが、発話すること自体に、被験者の意識が必要以上に集中してしまうことがないようにすることが好ましい。
なお、上記実施形態では、テスト作業のシナリオに、発声誘引タイミングを設定しているが、テスト作業が発話を伴う作業の場合には、被験者が必然的に発生せざるを得ないので、特別な発声誘引信号は不要である。
【0037】
なお、上記実施形態では、音声データを基にして大脳新皮質の活性度指数を算出しているが、大脳新皮質の活性度指数の検出方法は、音声データに基づくものに限らない。例えば、大脳新皮質の血流量や、酸素消費量を計測して、その計測結果を基に大脳新皮質の活性度指数を算出するようにしてもよい。上記脳の血流量は、PET(positron emission tomography)やトポグラフ装置などによって測定可能である。また、被験者の呼気から酸素消費量を計測し、脳における酸素消費量を推測する方法なども考えられる。
ただし、これらの方法では、上記実施形態のように音声データを基に大脳新皮質の活性度指数を算出する方法と比べて、生体情報入力部が大型化してしまううえ、検出装置を取り付けることによって被験者に負担をかけるという欠点がある。
なお、異なる生体情報を基にして算出した大脳新皮質の活性度指数を対比する場合には、両者のスケールを合わせる必要がある。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】実施形態のシステム構成図である。
【図2】実施形態のテスト作業画面の一例を示した図である。
【図3】音声データ入力タイミングを説明するための図である。
【図4】大脳新皮質の活性度指数と作業精度との対応関係を示したグラフである。
【符号の説明】
【0039】
1 演算部
2 音声データ入力部
3 作業データ入力部
5 テストシナリオ記憶部
6 評価基準記憶部
7 要求作業精度記憶部
9 データ出力部
V1,V2 音声データ
Δt1、Δt2 単位時間
S 大脳新皮質の活性度指数
A 作業精度
A1 要求作業精度
Sx、Sy 活性度指数適性範囲

【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業精度の評価基準を記憶した評価基準記憶部と、テスト作業のシナリオを記憶したテストシナリオ記憶部と、特定の作業に応じて予め設定された要求作業精度を記憶した要求作業精度記憶部と、上記評価基準記憶部、テスト作業シナリオ記憶部、及び要求作業精度記憶部に連係した演算部と、この演算部に、被験者のテスト作業の結果である作業データを入力する作業データ入力部と、上記演算部に、被験者の生体情報を入力する生体情報入力部と、データ出力部とを備え、上記演算部は、テストシナリオ記憶部が記憶しているシナリオを進行させ、このシナリオに応じて被験者がテスト作業を実行するとともに、テスト作業の実行に従って、上記作業データ入力部から入力された作業データを、評価基準記憶部に予め記憶された上記評価基準に基づいた正解数や処理時間等と対比して、シナリオの進行に応じた単位長さあたりの作業精度を算出し、生体情報入力部から入力された生体情報から大脳新皮質の活性度指数を算出し、この大脳新皮質の活性度指数と上記作業精度とを対応づけた対応テーブルを作成し、作成した対応テーブルから、上記要求作業精度記憶部に予め記憶されている要求作業精度を満足する大脳新皮質の活性度指数範囲を特定し、この特定された大脳新皮質の活性度指数範囲をデータ出力部へ出力する作業適性判定システム。
【請求項2】
上記生体情報入力部が、被験者の音声信号を入力する音声データ入力部であり、演算部は、上記作業の実行に対応して、音声データ入力部から入力された音声データを基にして上記単位長さに対応した被験者の大脳新皮質の活性度指数を算出し、この大脳新皮質の活性度指数と上記作業精度とを対応づけた対応テーブルを作成する請求項1に記載の作業適性判定システム。
【請求項3】
上記演算部は、単位時間当たりの作業精度を演算するとともに、この作業精度と単位時間に対応づけられた大脳新皮質の活性度指数とを関連付けて、対応テーブルを作成する請求項1または2に記載の作業適性判定システム。
【請求項4】
上記演算部は、シナリオの単位長さ当たりの作業精度を演算するとともに、この作業精度とシナリオの単位長さに対応づけられた大脳新皮質の活性度指数とを関連付けて、対応テーブルを作成する請求項1に記載の作業適性判定システム。
【請求項5】
上記演算部は、テストシナリオ記憶部には、発声タイミングが予め特定されたテストシナリオを記憶させ、演算部は、上記テストシナリオで特定された発生タイミングに発声誘引信号を出力する請求項2〜4のいずれかに記載の作業適性判定システム。
【請求項6】
テストシナリオ記憶部に記憶されているシナリオで特定されるテスト作業が、実際の作業そのものである1〜5のいずれかに記載の作業適性判定システム。
【請求項7】
ディスプレイを備えるとともに、このディスプレイには、テストシナリオ記憶部に記憶されているシナリオに基づいた作業ストーリーを表示させ、この作業ストーリーに基づいて被験者が模擬作業を実行する1〜6のいずれかに記載の作業適性判定システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−104660(P2010−104660A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−281298(P2008−281298)
【出願日】平成20年10月31日(2008.10.31)
【出願人】(501152352)独立行政法人電子航法研究所 (44)
【出願人】(595106730)
【Fターム(参考)】