説明

作物用品質向上剤

【課題】作物の品質向上の効果に優れた作物用品質向上剤を提供する。
【解決手段】亜鉛とペプチドを有効成分として含有することを特徴とする。作物用品質向上剤に含有されるこの亜鉛とペプチドを作物に吸収させることによって、作物中の塩類濃度を増加させ、作物重量の増加や果実の糖度の増加など、品質を大きく向上させることができるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、種々の作物に好適に使用される品質向上剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
作物の品質を向上するために、農業生産現場では、例えばトマトにおいては水分制限、ミカンにおいてはシート被覆栽培など、水分ストレスをかける方法が行なわれている。このように作物にストレスをかける方法では、品質は向上しても、そのストレスによって果実肥大の減少や樹勢の低下をまねくおそれがある。またシートの被覆作業など、多大な労力も必要になる。
【0003】
そこで、栽培土壌に施肥することによって作物の品質を向上するようにした肥料(例えば特許文献1参照)や、作物に散布することによって品質を向上するようにした品質向上剤(例えば特許文献2等参照)などが従来から提案されている。
【特許文献1】特開平10−265289号公報
【特許文献2】特開2002−265306号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のように肥料や品質向上剤などを用いる場合には、作物にストレスを与えることなく、また多大な労力を要することなく、作物の品質を向上することが可能であるが、上記の特許文献のものでは作物の品質向上の効果が必ずしも十分とはいえず、改良の余地があるのが現状である。
【0005】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、作物の品質向上の効果に優れた作物用品質向上剤を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る作物用品質向上剤は、亜鉛とペプチドを有効成分として含有することを特徴とするものである。
【0007】
この発明によれば、作物用品質向上剤に含有される亜鉛とペプチドを作物に吸収させることによって、作物中の塩類濃度を増加させ、作物重量の増加や果実の糖度の増加など、品質を大きく向上させることができるものである。
【0008】
また本発明において、上記ペプチドは、動物由来あるいは植物由来の蛋白を加水分解して得られたものであることを特徴とするものである。
【0009】
この発明によれば、蛋白を加水分解することによって、作物に吸収され易い各種のペプチドの形態で含有させることができ、品質向上の効果を高く得ることができるものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、作物用品質向上剤に含有される亜鉛とペプチドを作物に吸収させることによって、作物中の塩類濃度を増加させ、作物重量の増加や果実の糖度の増加など、品質を大きく向上させることができるものである。
【0011】
また本発明の作物用品質向上剤は、作物に散布するという処理だけで作業をすることができるので、作業労力を軽減することができると共に、作物にストレスをかけることもなく、省力的且つ経済的に品質を向上することができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【0013】
本発明に係る作物用品質向上剤は、水を媒体として亜鉛とペプチドを配合して含有させたものであり、水溶液状の形態で使用されるものである。
【0014】
亜鉛は、硝酸亜鉛や硫酸亜鉛などの、亜鉛塩として配合されているものである。亜鉛塩の化合物形態としては勿論これらに限定されるものではない。
【0015】
またペプチドは、動物由来の動物性蛋白や植物由来の植物性蛋白を加水分解することによって生成されたものを用いることができるものである。動物性蛋白としては、特に限定されるものではないが、魚類、牛・豚・羊等の家畜類、家禽類、蛹油などから得られる蛋白類を用いることができる。また植物性蛋白としては、特に限定されるものではないが、大豆、菜種、落花生、とうもろこしなどを用いることができる。
【0016】
本発明に係る作物用品質向上剤に含有されるペプチドの種類は、加水分解する蛋白の種類に依存するが、例えば家畜の毛や家禽の羽毛などに由来するケラチンを加水分解すると、グリシン、アルギニン、バリン、プロリン、セリンなどのアミノ酸が結合したペプチドを得ることができる。またこのようにペプチドは蛋白を加水分解して得られたものであるので、他のアミノ酸も多く含まれている。
【0017】
蛋白を加水分解する方法は特に限定されるものではないが、例えば苛性ソーダなどのアルカリ物質でアルカリ分解する方法や、塩酸などの酸性物質で酸分解する方法が挙げられる。
【0018】
本発明の作物用品質向上剤において、亜鉛の含有量やペプチドの含有量は特に限定されるものではないが、水で希釈する前の原液中、亜鉛は亜鉛元素に換算して0.1〜0.2質量%、ペプチドはN換算値で0.2〜1.0質量%の範囲で含有していることが好ましい。
【0019】
本発明の作物用品質向上剤には、これらの亜鉛やペプチドの他に、作物の栄養になる窒素、燐酸、加里、苦土などの肥料成分や、マンガン、ホウ素などを配合することができるものであり、さらに必要に応じて界面活性剤、葉茎に付着させるための展着剤、防腐剤などを配合することもできる。
【0020】
そして作物用品質向上剤の原液を水で200〜500倍に希釈し、亜鉛濃度が20〜60ppm、ペプチド濃度がN換算値で10〜50ppmになるように調整して使用するものであり、作物の茎葉に直接散布する茎葉散布することによって、作物に付与することができるものである。亜鉛濃度やペプチド濃度が高すぎると、果実果皮の障害など作物に障害が生じるおそれがあるので、亜鉛濃度やペプチド濃度をこの範囲に調整して使用するのが好ましい。
【0021】
本発明の作物用品質向上剤は、野菜や果物など農作物の全般は勿論、園芸用の作物にも適用することができるものであり、作物に葉面散布すると、作物用品質向上剤の有効成分、特に亜鉛やペプチドは葉面から作物に吸収され、作物中の塩類が増加して、生育を増進して作物の重量を増加させ、また果実植物の場合は果実の糖度を増加させることができるものであり、作物の品質を向上することができるものである。
【0022】
作物用品質向上剤の散布量は、作物の種類や生育程度によって異なるものであり、例えば桃などは樹の容積が大きいので散布量が多くなり、トマトなどは樹の容積が小さいので散布量は少なくなる。
【0023】
また作物用品質向上剤の使用時期は特に限定されるものではないが、例えばトマトなど果菜類では果実の着色時期に、ミカンなどの果樹類では肥大時期の終わりまでに、2回以上、好ましくは3回使用するのがよい。
【実施例】
【0024】
次に、本発明を実施例によって具体的に説明する。
【0025】
(実施例1)
1N苛性ソーダ水溶液に豚の毛を浴比1:2で浸漬して溶解させ、これをアンモニア水で中和することによって、豚の毛に由来する蛋白を加水分解したペプチドを得た。
【0026】
そして水100質量部に、硝酸亜鉛を0.6質量部、上記のペプチドを2.7質量部配合することによって、作物用品質向上剤の原液を調製した。
【0027】
(比較試験1)
黒ボク土900gに、無機肥料窒素とリン酸とカリをそれぞれ80mgずつ加えて混合し、これを表面積100平方センチメートルのポットに充填した。このポットにコマツナ(品種:照葉)を1ポット当り3株定植した。これをハウス内で葉齢6枚まで育成した。
【0028】
そして実施例1で得た作物用品質向上剤の原液を水で300倍に希釈し、1ワグネルポット当り50ccを5日置きに3回、茎葉散布した。
【0029】
また比較のために、水100質量部に、硝酸亜鉛を0.6質量部配合したものを用い(比較例1とする)、これを300倍に希釈して同様に茎葉散布した。
【0030】
上記の茎葉散布を終了した後、5日後に、コマツナの草丈を測定し、またコマツナを根元から刈り取って、刈り取り直後のコマツナの生重量である新鮮重を測定した。さらにコマツナの茎葉部をニンニク絞り機を用いて搾汁し、この汁の糖度(BRIX)をアタゴ社製アタゴ自動補正式屈折計で測定した。これらの結果を表1に示す。尚、表1には、コマツナ各区9株について測定した平均値を示す。
【0031】
【表1】

【0032】
表1にみられるように、茎葉長や新鮮重において、実施例1と比較例1は有意な差はみられなかったが、糖度(甘み)については実施例1のものは上昇しており、品質向上の効果が得られることが確認された。
【0033】
(実施例2)
1N苛性ソーダ水溶液に豚の毛を浴比1:2で浸漬して溶解させ、これをアンモニア水で中和することによって、豚の毛に由来する蛋白を加水分解したペプチドを得た。
【0034】
そして水100質量部に、硝酸亜鉛を0.6質量部、上記のペプチドを2.6質量部配合し、また展着剤(三井製糖(株)製「ショ糖」)を2.0質量部、防腐剤(日本油脂(株)製「アノンLG」)を0.04質量部を配合し、さらに肥料成分を配合することによって、作物用品質向上剤の原液を調製した。この作物用品質向上剤の原液を分析したところ、含有組成は、亜鉛0.12質量%、ペプチド0.2質量%、窒素2質量%、燐酸8質量%、加里6質量%、苦土1質量%、マンガン0.06質量%、ホウ素0.05質量%、展着剤由来の糖分2質量%であった(防腐剤0.04質量%を含む)。
【0035】
(比較試験2)
1万分の1ワグネルポットに肥料を調整した培土を充填し、別途に発芽育苗したコマツナ(品種:照葉)を1ポット当り3株定植した。これをハウス内で葉齢6枚まで育成した。
【0036】
そして実施例2で得た作物用品質向上剤の原液を水で300倍に希釈し、1ワグネルポット当り50ccを5日置きに3回、茎葉散布した。
【0037】
また比較のために、亜鉛とペプチドを含まない他は実施例2と同じ組成の作物用品質向上剤の原液を調製し(比較例2とする)、これを300倍に希釈して同様に茎葉散布した。
【0038】
上記の茎葉散布を終了した後、4日後に、コマツナの草丈を測定し、またコマツナを根元から刈り取って、刈り取り直後のコマツナの生重量である新鮮重を測定した。またこのコマツナの茎葉部をニンニク絞り機を用いて搾汁し、この汁の電気伝導度(EC)を測定した。これらの結果を表2に示す。尚、表2には、コマツナ各区9株について測定した平均値を示す。
【0039】
【表2】

【0040】
表2にみられるように、亜鉛とペプチドを含有する実施例2の作物用品質向上剤を散布することによって、亜鉛とペプチドを含有しない比較例2の場合と比べて、草丈が高く、また新鮮重が増加しており、品質向上の効果が顕著にみられるものであった。ここで、コマツナの茎葉部から搾汁した汁の電気伝導度(EC)は、亜鉛とペプチドを含有する実施例2の作物用品質向上剤を散布することによって高くなっており、これはコマツナ中の塩類濃度が増加していることを意味するものであり、この塩類濃度の増加によって、コマツナの栄養価が高まり、品質向上の効果がみられるものである。
【0041】
(比較試験3)
実施例2で得た作物用品質向上剤の原液を水で300倍に希釈し、農家圃場の5箇所の区画において、生育途中のトマト(品種:桃太郎エイト)に茎葉散布した。散布は、10アールあたり150リットルccの希釈液を、7日置きに、3回行なった。
【0042】
そして最後の茎葉散布を終了した後、7日後にトマト果実を採取し、果実の新鮮重と果汁の電気伝導度(EC)を測定した。また比較のために、同じ区画において、作物用品質向上剤を散布しないトマトについても、同時期にトマト果実を採取し、果実の新鮮重と果汁の電気伝導度(EC)を測定した。これらの結果を表3に示す。尚、表3には、トマト果実13個について測定した平均値を示す。
【0043】
【表3】

【0044】
表3にみられるように、亜鉛とペプチドを含有する実施例2の作物用品質向上剤を散布することによって、散布しないものに比較して、トマト果実の新鮮重や糖度が増加している。糖度が増加することによって、果実の甘みが高まり、食味が向上するものであり、品質向上の効果が確認される。また亜鉛とペプチドを含有する実施例2の作物用品質向上剤を散布することによって果汁の電気伝導度(EC)が高くなっており、塩類濃度の増加によってトマト果実の栄養価が高まり、さらにこの塩類濃度の増加と糖度の増加によって、日持ちが良いトマト果実を得ることができるものである。
【0045】
(比較試験4)
実施例2で得た作物用品質向上剤の原液を水で500倍に希釈し、農家圃場の5箇所の区画において、生育途中のミカン(品種:青島)に茎葉散布した。散布は、10アールあたり300リットルの希釈液を、7日置きに、2回行なった。
【0046】
そして最後の茎葉散布を終了した後、30日後にミカン果実を採取し、果実の新鮮重と果汁の電気伝導度(EC)を測定した。また比較のために、同じ区画において、作物用品質向上剤を散布しないミカンについても、同時期にミカン果実を採取し、果実の新鮮重と果汁の電気伝導度(EC)を測定した。これらの結果を表4に示す。尚、表4には、ミカン果実15個について測定した平均値を示す。
【0047】
【表4】

【0048】
表4にみられるように、亜鉛とペプチドを含有する実施例2の作物用品質向上剤を散布することによって、散布しないものに比較して、ミカン果実の糖度が増加しており、品質向上の効果が確認される。一部の区画において果実新鮮重が低下したものがあるが、過度の低下ではなく、他の多くのものは果実新鮮重は増加している。また亜鉛とペプチドを含有する実施例2の作物用品質向上剤を散布することによって果汁の電気伝導度(EC)が高くなっており、塩類濃度の増加によってミカン果実の栄養価が高まっている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜鉛とペプチドを有効成分として含有することを特徴とする作物用品質向上剤。
【請求項2】
ペプチドは、動物由来あるいは植物由来の蛋白を加水分解して得られたものであることを特徴とする請求項1に記載の作物用品質向上剤。

【公開番号】特開2009−269852(P2009−269852A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−121129(P2008−121129)
【出願日】平成20年5月7日(2008.5.7)
【出願人】(397015496)福栄肥料株式会社 (5)
【Fターム(参考)】