説明

使い捨て保温具用不織布の製造方法

【課題】柔軟で繊維触感を持ちながら、発熱体の熱を有効に活かす、保温効率の良好な使い捨て保温具用不織布の製造方法を提供することである。
【解決手段】ポリエステル系またはポリプロピレン系合成繊維を含む不織布を、該不織布の温度20℃、湿度65%雰囲気下の定常保温効率が60%以上になるように、水流交絡によって接合することを特徴とする使い捨て保温具用不織布の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、使い捨てカイロをはじめとした使い捨て保温具の包材に用いる不織布の製造方法に関し、特に柔軟で保温性の良好な同保温具用不織布の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
使い捨てカイロをはじめとした使い捨て保温具は、一般的に空気中で発熱する組成物を、不織布あるいは紙にポリエチレン等のフィルムをラミネートした材料で包んだもので、フィルムを有孔、微孔フィルムまたラミネート後に孔あけして通気性を持たせたものである。フィルム単体では硬いものの、不織布を積層することにより、フィルム特有の貼りついた触感、ゴワゴワする肌触り等を防ぎ、布的触感を持たせると共に、繊維層の裂けにくさを付与するものである。しかしながら、従来の保温具の包材に用いる不織布は、破袋等の点で強力面を配慮しつつ、繊維触感を持ち、人体との接触面において、心地よい伝熱媒体となるが、強力面および使用時の毛羽立ちを考えると、保温のためには空気層を持たせて断熱する考えと相反する点も多く、人体に感知する温度を適温にするなど、発熱体の発熱を有効に活かす工夫は充分とは言い難く、発熱体の維持温度を高めに設計することが必要になるなど、熱効率が低いという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開昭61−24026号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、上記問題点を解消し、特に柔軟で繊維触感を持ちながら、発熱体の熱を有効に活かす、保温効率の良好な使い捨て保温具用不織布の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、前記課題を解決するため、種々検討した結果、繊維触感および適性な強力を持ちながら、熱ロスが少なく、発熱体の熱を有効に活かすために、各種包材の熱伝導率に着目し、これに基づいて使い捨て保温具用不織布に適した保温効率の測定方法を開発し、さらに該保温効率が良好な不織布包材について種々検討した結果、下記の製法により製造した不織布が使い捨て保温具の保温効率を高める上で極めて有効であることを見出し、本発明に到達したものである。
すなわち、本願で特許請求される発明は下記のとおりである。
【0006】
(1)捲縮数が10〜40個/インチのポリエステル系またはポリプロピレン系合成繊維を含む不織布を、該不織布の温度20℃、湿度65%雰囲気下の定常保温効率が60%以上になるように、水流交絡によって接合することを特徴とする使い捨て保温具用不織布の製造方法。
(2)前記ポリエステル系またはポリプロピレン系合成繊維が異型断面糸および/または捲縮繊維であることを特徴とする(1)に記載の使い捨て保温具用不織布の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、柔軟で繊維触感を持ちながら、発熱体の熱を有効に活かす、保温効率の良好な不織布を包材とした使い捨て保温具および包材用不織布を提供することができる。
【0008】
本発明の使い捨て保温具は、フィルムをラミネートした不織布を少なくとも一面に有する包材に空気中で発熱する組成物を封入し、かつ該包材に通気性をもたせたものからなり、かつ該不織布は、疎水性合成繊維を含み、温度20℃、湿度65%雰囲気下の定常保温効率が60%以上となるように流体絡合により接合されてなるものである。
【0009】
本発明において、不織布に使用する繊維としては、ポリプロピレン系繊維、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系繊維が疎水性、強度あるいは可撓性の観点から好適であり、また保温性の観点から、熱を伝えにくく、熱伝導性が低いので好ましい。
【0010】
また不織布の寸法安定性、剛性、耐熱性の点からはポリエステル系繊維、疎水性、柔軟性の点からはポリプロピレン系繊維が好ましい。必要に応じて、これらの複合繊維、混合繊維、さらにはセルロース系繊維、その他特殊機能を持つ繊維との混合も有効である。
【0011】
不織布は、抄紙法、カード機などによる短繊維不織布、スパンボンド方式等の長繊維不織布等、特に限定されるものではないが、適性強力の点から、長繊維不織布が好ましく、例えば、スパンボンド法により溶融紡糸された連続長繊維をウェブとし、これを水流等で繊維を交絡させる流体交絡により接合することにより形成される。
【0012】
本発明に用いる不織布は、温度20℃、湿度65%雰囲気下の定常保温効率が60%以上であることが必要である。本発明でいう保温効率は、モデル的に説明すると次の通りである。つまり、熱板と不織布試料を重ね、熱板から不織布を通して移動する熱量を測定するために、熱板が一定温度(40℃)を維持するように、熱板に供給される熱量を測定し、これを数値化することで、保温効率を算出する。すなわち、本発明でいう定常保温効率は、一定温度(20℃)に維持された熱板A(5cm角)上に不織布試料片を置き、その上に前記一定温度よりも高い温度(40℃)に維持された熱板Bを重ね、該試料片を通して伝わる熱量を熱板Bの温度を維持する熱量Cとして測定し、一方、前記試料片を置かない場合の維持熱量Dを測定し(後述の実施例では、D=14.06W/25cm・20℃)、下式により算出したもので、使い捨て保温具用不織布の実用上の保温性を表す。この数値が大きい程、不織布の保温性が高い。
定常保温効率(%)={(D−C)/D}×100
【0013】
なお、現在市販されている使い捨てカイロの包材用不織布の定常時保温効率は35%前後であり、発熱体の熱量が散逸し、有効に活かされておらず、保温効率が良好とは言えないことがわかった。
【0014】
本発明に用いる不織布の保温効率は60%以上、特に好ましくは82%以上である。
不織布の保温性を改良するには、例えば、同じ目付でも不織布の厚みを厚く、不織布表面層繊維の接触面積を少なくすることによって達成することができる。
【0015】
さらに、流体絡合処理によって高圧流体で繊維同士を絡ませることで嵩高くすることも保温性の観点から好ましい。
流体絡合は通常水流を用い、ノズル径0.05〜0.5mm、ノズル間隔を0.2〜10mmになるよう配置し、1〜15MPaの水流が好ましい。
【0016】
繊維の断面形状として、C型、Y型、V型等の異形断面糸を用いたり、捲縮繊維例えば、捲縮数が10〜40個/インチを持つ複合系繊維あるいは異形で捲縮を持たせた繊維等を活用したりすることが嵩高性、保温性の観点から好ましい。
【0017】
不織布構造体として、不織布の嵩高性が持つ空気層の保温効果や、素材自体の熱伝導特性からくる保温効果の、その両者の合わさった保温効果が、実用上の保温効果であり、本発明では、これを前述の測定法で求め、定常時保温効率として示している。
【0018】
繊度は、強度、柔軟性等の点から、0.8〜5dtexが好ましいが、嵩高保持性を重視する場合は2〜8dtexが好ましい。適用される不織布の目付は使い方により設定するが、30〜100g/mが実用強度、触感の点から好ましい。
これらの不織布は人体との接触面が細かな繊維であり、心地よい伝熱媒体となる。
【0019】
不織布と貼り合わせるフィルムは、LD、LLD、HDまたメタロセン系触媒PE等の各種ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系、EVA及びエチレン、プロピレン、ブテン等の各種共重合ポリプロピレン等のポリオレフィン共重合系、ポリアミド系、ポリエステル系のものでもよく、透湿性を有した微多孔フィルムであってもよい。柔軟性、シール性、価格の点から、ポリエチレンあるいはその共重合系オレフィンフィルムが好ましい。また、繊維層との相性、また包材周辺のシール性の点から2〜3層のフィルムを組み合わせたものでもよい。
【0020】
不織布とフィルムとの貼り合わせは、ヒートシール、熱接合あるいはホットメルト剤等の接着剤で積層される方法でもよく、全面接合、柔軟性を保つために部分接合であってもよい。
使い捨て保温具として必要な通気孔はラミネート後孔あけ、あるいは予め有孔、微孔のフィルムを用いるのが一般的である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、実施例及び比較例によって本発明をさらに説明する。
なお、測定法、評価方法は下記の通りである。
(1) 不織布の目付
10cm角試料で重量を測定、目付(g/m)した。
(2) 不織布の強力および5%伸長時応力
JIS L−1906に準じて測定した。
(3) 不織布の定常保温効率
【0022】
20℃、湿度65%の環境下で、恒温水槽から水循環され20℃で維持されるように設定された熱板A(5cm角)上に、同寸法の試料片を置き、更にその上に5cm角で40℃の熱板B(6g/cm)を重ね、試料を通して伝わる熱量を熱板Bの温度を維持する熱量として測定し、試料の熱伝導度とした。試料を置かない場合の維持熱量14.06W/25cm・20℃を保温効率0%とし、次の(1)式による値を定常保温効率(%)とした。
【0023】
定常保温効率(%)={(14.06−試料の熱伝導度)/14.06}×100…(1)
また、40℃の熱板B上に置いた試料の反熱板面の試料表面温度も熱伝導性の目安とした。
【0024】
[実施例1]
ポリエステル短繊維(2.0dtex、53mm長)80%とレーヨン短繊維(1.2dtex、53mm長)20%で形成したカードウェブを80メッシュの金網に載せて、150rpm搖動する水流絡合装置(ノズル径0.15mm、ノズル間隔5mm×5列、水圧6MPa)に表裏3回通し、目付70g/mのスパンレース不織布を得た。この不織布の性能は表1に示す。
【0025】
得られた不織布の表面にLDPEとメタロセン触媒系ポリエチレン(シール面)とを半々積層した40μフィルムをラミネートした後、通常通り、針ロールで窄孔(約6%)し、カイロ用包材とした。この不織布を上被層とし、下被層は無孔の同ラミネート品を用い、フィルム面を内側に、発熱組成物を充填し、周囲をヒートシールした使い捨てカイロを製作した。得られた使い捨てカイロは表面の繊維が活きた、滑らかで、一段とソフトな触感のカイロであった。
【0026】
[比較例1]
比較例として、現在、市販されている使い捨てカイロの不織布に使用されているポリエチレンテレフタレート繊維(2.0dtex)の各織目柄(圧着面積率22%)の不織布を製作し、性能比較を行った。不織布の性能を表1に示す。比較例1の不織布の定常保温効率は40%未満であり、実施例に比べて、保温効率が低かった。
上記実施例によれば、水流交絡による不織布は、定常時の保温効率が良好であり、使い捨てカイロとして柔軟な繊維触感を有し、発熱体としての保温効率が良好であるといえる。
【0027】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル系またはポリプロピレン系合成繊維を含む不織布を、該不織布の温度20℃、湿度65%雰囲気下の定常保温効率が60%以上になるように、水流交絡によって接合することを特徴とする使い捨て保温具用不織布の製造方法。
【請求項2】
前記ポリエステル系またはポリプロピレン系合成繊維が異型断面糸および/または捲縮繊維であることを特徴とする請求項1に記載の使い捨て保温具用不織布の製造方法。

【公開番号】特開2009−197385(P2009−197385A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−131791(P2009−131791)
【出願日】平成21年6月1日(2009.6.1)
【分割の表示】特願2005−244175(P2005−244175)の分割
【原出願日】平成14年7月9日(2002.7.9)
【出願人】(303046303)旭化成せんい株式会社 (548)
【Fターム(参考)】