説明

使用済触媒処理用キルンの操業方法

【課題】廃触媒などのソーダ焙焼を行う焙焼炉において、適切なソーダ化反応を生じさせることができる使用済触媒処理用キルンの操業方法を提供する。
【解決手段】有価金属、油分、非揮発性炭素分および硫黄分を含有する被処理物をアルカリ金属化合物とともに焙焼する使用済触媒処理用キルンの操業方法であって、焙焼炉が、向流式キルンであって、供給側端部から排出側端部に向かって、被処理物の脱油処理を行う脱油処理領域Z1と、脱油された前記被処理物から炭素および硫黄の除却処理を行って硫黄除去後処理物を生成する炭素硫黄除却領域Z2と、有価金属のソーダ化反応処理を行うソーダ化反応領域Z3とが、ソーダ化反応領域Z3における炉内温度が950℃以上1100℃以下の範囲に維持され、排出側端部とソーダ化反応領域Z3との中間位置の炉内温度が100℃以上900℃以下の範囲に維持されるように制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、使用済触媒処理用キルンの操業方法に関する。さらに詳しくは、石油精製所における脱硫に使用された廃触媒などのソーダ焙焼を行う使用済触媒処理用キルンの操業方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石油精製所における脱硫塔では、脱硫触媒によって各種石油留分の水素化脱硫が行われる。
かかる脱硫触媒による脱硫は、石油を高圧水素と脱硫触媒上で反応させ、硫黄化合物を硫化水素に変えて除去する水素化脱硫によって行われる。しかし、かかる水素化脱硫作業を行うにつれ、脱硫触媒はその触媒活性が低下するので、触媒活性を失った脱硫触媒(廃触媒)は適宜新しい脱硫触媒と交換される。
【0003】
ここで、水素化脱硫の反応によって、石油中に含まれていたバナジウム等の有価金属が石油から脱硫触媒に移動する。また、脱硫触媒は、もともとモリブデン等の有価金属を含有している。例えば、代表的な廃触媒である脱硫触媒には、モリブデンが3〜9%、バナジウムは15%以下の量が含まれている。また、かかる脱硫触媒には、モリブデン、バナジウム以外にも、ニッケルが4%以下、コバルトが3%以下、燐が3%以下、硫黄が2〜12%、アルミニウムが10〜40%、非揮発性炭素分が4〜18%、油分が5〜25%程度含まれている。
以上のごとく、廃触媒には、バナジウムやモリブデン等の有価金属がある程度含まれているので、廃触媒から有価金属を回収して有価金属を再利用することが行われている。
【0004】
上記のごとき廃触媒から有価金属を回収する方法として、有価金属を水に溶解する可溶性塩としてから回収することが行われている(例えば、特許文献1)。
具体的には、廃触媒と、アルカリ金属、アルカリ土類金属の塩(以下、ソーダ灰という)とを、酸素が存在する雰囲気においてロータリーキルンによって焙焼する。すると、廃触媒中のモリブデンやバナジウムなどの有価金属は、酸化しかつソーダ灰と反応(ソーダ化反応)して可溶性塩(水溶性化合物)となる。この可溶性塩となった有価金属を含む焙焼物を水浸出すると、有価金属の水溶液が得られるので、この水溶液に塩析・酸沈法や溶媒抽出法を適用すれば、MoOやVなどを得ることができる。
【0005】
この特許文献1の技術では、ロータリーキルン内において、廃触媒などが移動する方向と、酸素を含有する反応気体が流れる方向とが逆方向になるように操業する。つまり、ロータリーキルン内において、廃触媒などと反応気体とを向流で接触させるように操業している。しかも、ロータリーキルン内に、使用済触媒が供給される装入端から順に、廃触媒に含まれる油分が揮発除去される油分揮発ゾーンと、廃触媒に含まれる非揮発性炭素分および硫黄が燃焼されて除去される硫黄炭素分燃焼ゾーンと、廃触媒中の有価金属をソーダ化反応により可溶性塩とするソーダ化反応ゾーンと、が形成されるように、反応気体の酸素濃度および気体温度が調整されている。すると、油分が装入端近傍で燃焼しないので、ソーダ灰が溶融した溶融物がロータリーキルン内壁に融着すること、また、ソーダ灰が有価金属のソーダ化反応以外に使用されることを防ぐこと、を抑えることができる。
【0006】
特許文献1の技術では、上記のごとき各ゾーンの形成を反応気体の酸素濃度および気体温度によって調整しているが、かかるゾーンを適切に維持し、適切なソーダ化反応を生じさせるには、ロータリーキルン内部の温度制御、とくに、ソーダ化反応を生じさせる位置における温度制御が重要となる。
【0007】
例えば、ソーダ化反応ゾーンにおけるロータリーキルン内部の温度が低い場合には、ソーダ化反応が不充分な状態で廃触媒がロータリーキルンから排出されてしまう。すると、次工程において廃触媒からバナジウム,モリブデンを水浸出する際の浸出率が低下してしまうので、廃触媒中に有価金属が残留し、残留した有価金属をロスしてしまう。
反対に、ソーダ化反応ゾーンにおけるロータリーキルン内部の温度を高くすると、ソーダ化反応を促進することができるものの、必要以上に温度が高くなった場合には、エネルギーコストが著しく上昇したり、炉寿命の短縮をもたらしたりするため、好ましくない。
【0008】
したがって、ソーダ化反応ゾーンにおける適切なソーダ化反応を生じさせることができるように、ロータリーキルンなどの焙焼炉におけるその炉内部の温度を把握し、その温度に炉内温度が維持されるように管理することが重要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2003−284955号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記事情に鑑み、廃触媒などのソーダ焙焼を行う焙焼炉において、適切なソーダ化反応を生じさせることができる使用済触媒処理用キルンの操業方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
第1発明の使用済触媒処理用キルンの操業方法は、有価金属、油分、非揮発性炭素分および硫黄分を含有する被処理物をアルカリ金属化合物とともに焙焼する使用済触媒処理用キルンの操業方法であって、該焙焼炉が、前記被処理物を供給する供給側端部から排出側端部に向かって該被処理物を移動させながら焙焼する焙焼炉であって、酸素を含有する反応気体が該被処理物の移動方向と逆方向に流れるように供給されるものであり、該焙焼炉を、前記供給側端部から前記排出側端部に向かって、前記被処理物の脱油処理を行う脱油処理領域と、脱油された前記被処理物から炭素および硫黄の除却処理を行う炭素硫黄除却領域と、有価金属のソーダ化反応処理を行うソーダ化反応領域とが、この順で形成され、該ソーダ化反応領域における炉内温度が950〜1100℃の範囲に維持されていることを特徴とする。
第2発明の使用済触媒処理用キルンの操業方法は、第1発明において、前記排出側端部と該ソーダ化反応領域との中間位置の炉内温度が100〜900℃の範囲に維持されるように制御することを特徴とする。
第3発明の使用済触媒処理用キルンの操業方法は、第1または第2発明において、前記ソーダ化反応領域の温度を非接触式温度計により測定し、測定された温度に基づいて、前記ソーダ化反応領域の温度が前記温度範囲に維持されるように制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
第1発明によれば、有価金属のソーダ化反応処理を行うソーダ化反応領域における炉内温度が、ソーダ化反応に適した温度範囲に維持されているので、被処理物中の有価金属を確実にアルカリ金属化合物と反応(ソーダ化反応)させて、可溶性塩とすることができる。
第2発明によれば、被処理物中の有価金属とアルカリ金属化合物との反応(ソーダ化反応)を確実に完了させることができるので、有価金属の浸出率を高くすることができ、有価金属の回収率を高くすることができる。
第3発明によれば、非接触で炉内温度を測定するので、温度の測定精度を向上させることができる。そして、測定された炉内の温度に基づいてソーダ化反応領域の温度を制御するので、被処理物中の有価金属を安定した状態でソーダ化反応させることができ、焙焼炉の操業を安定化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】(A)は本発明の使用済触媒処理用キルンの操業方法に使用されるロータリーキルン1の概略説明図であり、(B)はロータリーキルン1内における気体温度および酸素濃度の分布を示した図である。
【図2】本発明の使用済触媒処理用キルンの操業方法によって廃触媒を焙焼した場合において、焙焼物を浸出した場合におけるバナジウムの浸出率と、ロータリーキルン1の排出端より約3m位置における温度との関係を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
本発明の使用済触媒処理用キルンの操業方法は、廃触媒等のように、モリブデン、バナジウムなどの有価金属を含有する被処理物をアルカリ金属化合物と混合して焙焼炉内で焙焼(ソーダ焙焼)する場合における使用済触媒処理用キルンの操業方法であって、炉内の温度が適切な温度となるように制御するようにしたことに特徴を有している。
【0015】
本発明の使用済触媒処理用キルンの操業方法(以下、本発明の方法という)において、アルカリ金属化合物とともに焙焼される被処理物は、有価金属、油分、非揮発性炭素分および硫黄分を含有する被処理物であればよい。例えば、石油精製所等において使用される脱硫触媒、硫酸製造用の使用済触媒等の廃触媒、廃触媒から有価金属を回収するプロセスにおける工程中間生成物(例えば、炉内付着物、煙道堆積物等)、また、触媒再生会社で発生する再生屑・再生微粉、触媒製造会社で発生する触媒屑などを挙げることができるが、これらに限定されるわけではない。
【0016】
なお、本発明の方法において、被処理物とともに焙焼されるアルカリ金属化合物、アルカリ土類化合物は、炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウムなどのナトリウム化合物など挙げることができるが、これらに限定されるわけではない。
【0017】
また、本発明の方法に使用される焙焼炉は、被処理物が供給される供給側端部から焙焼物を排出する排出側端部に向かって被処理物を移動させながら焙焼することができ、しかも、酸素を含有する反応気体が被処理物の移動方向と逆方向に流れるように供給することができるものであれば、とくに限定されない。例えば、ロータリーキルンや流動焙焼炉などを採用することができる。
以下では、本発明の方法に使用する焙焼炉として、ロータリーキルンを使用する場合を代表として説明する。
【0018】
(ロータリーキルン1の説明)
まず、ロータリーキルン1の基本構造を説明する。
図1(A)において、符号1は本発明の方法に適したロータリーキルンを示している。このロータリーキルン1は、一般的な向流式ロータリーキルンであり、回転胴部2を備えており、この回転胴部2内において被処理物と、酸素を含有する反応気体の気流とが逆方向に移動するように構成されている。
【0019】
具体的には、回転胴部2内に被処理物を供給するための投入口1hが、ロータリーキルン1の左端(供給側端部)に設けられている。
逆に、ロータリーキルン1の右端(排出側端部)には、供給手段5が設けられている。この供給手段5は、回転胴部2内に反応気体を供給するためのものであり、回転胴部2内に供給する反応気体の流量、酸素濃度を制御できるものである。
また、ロータリーキルン1の右端には、バーナー6も設けられている。このバーナー6は、回転胴部2内の空間において炭素および硫黄の燃焼によって発生する熱量だけでは炭素硫黄除却処理、有価金属のソーダ化反応処理に必要な熱量を充足することができない場合に、必要な熱量を供給するためのものである。このバーナー6は、例えば、液化石油ガスなどの可燃性ガスを使用するバーナーであって、流量制御できるものが好ましい。
【0020】
ロータリーキルン1は以上のごとき構造であるので、反応気体の酸素濃度や気体温度を調整することによって、回転胴部2内には、投入口1hから排出側端部に向かって、以下のごとき(1)〜(4)反応領域がこの順で形成することができる(図1参照)。
(1)被処理物の脱油処理を行う脱油処理領域Z1
(2)脱油された被処理物から炭素および硫黄の除却処理を行って硫黄除去後処理物を生成する炭素硫黄除却領域Z2
(3)硫黄除去後処理物中の有価金属についてソーダ化反応処理を行うソーダ化反応領域Z3
(4)ソーダ化された焙焼物を冷却する冷却領域Z4
【0021】
そして、上記のごとき領域が回転胴部2内に形成されるようにロータリーキルン1を稼働すれば、被処理物中に油分や炭素化合物などが存在している場合(被処理物が石油精製所における脱硫に使用された廃触媒である場合など)でも、これらの揮発や燃焼が生じた後でアルカリ金属化合物などを添加することができる。すると、アルカリ金属化合物などの溶融を抑制することを防ぐことができるから、かかる溶融物が処理容器内に融着すること、処理容器内に溶融物が付着したことに起因する処理容器の損傷が発生すること、を防止することができる。
【0022】
なお、回転胴部2における供給側および排出側の両端部には、被処理物の移動の抵抗となるように、回転胴部2内面に立設されたダムを設置してもよい。かかるダムを設け、供給側端部から排出側端部に向かってなだらかに回転胴部2が下傾するようにしておけば、排出側端部に被処理物を厚く溜めることができる。すると、被処理物中の有価金属がソーダ化反応するための時間を十分に取ることができるから、有価金属の可溶性塩とすることができ、有価金属の回収効率を向上させることが可能となる。
【0023】
また、油分を有しない被処理物、または、油分を少ししか含有しない被処理物が供給される場合には、炭素硫黄除却領域Z2、ソーダ化反応領域Z3、冷却領域Z4だけが形成されるように、回転胴部2内に供給する反応気体の酸素濃度、気体温度を調整すればよい。
【0024】
さらに、回転胴部2内に形成される反応領域の位置や、各反応領域の温度を制御する方法は、反応気体の酸素濃度、気体温度を調整する以外に、以下の方法で制御することができる。例えば、回転胴部2への反応気体の送風量(供給流量)、回転胴部2から排出される排ガスを吸引する風量(排気流量)、バーナー6への燃料の供給量(外部から供給する熱量)、回転胴部2への被処理物などの装入量(供給量)などを、単独で、または、2以上の方法を組み合わせて、回転胴部2内に形成される反応領域の位置などを制御することができる。
【0025】
(ロータリーキルン1の操業方法)
つぎに、本発明の方法により上述したロータリーキルン1を操業する方法の一例を説明する。
【0026】
本発明の方法では、ソーダ化反応領域Z3における回転胴部2内の気体温度が、950〜1100℃の温度の温度範囲に維持されるように、ロータリーキルン1を稼働させる。有価金属(例えば、モリブデン、バナジウムなど)とアルカリ金属化合物との間でソ−ダ化反応を生じさせて、有価金属を可溶性塩とするためには、950〜1100℃の温度が必要だからである。
【0027】
(被処理物について)
上記のごとき状態に制御する上では、被処理物の成分をほぼ一定な状態に保つことが重要である。なぜなら、被処理物中の成分が変化すれば、同じ量の被処理物を回転胴部2内供給し他の条件を一定にしても、回転胴部2内の状態を一定にすることが困難だからである。そして、被処理物の成分がほぼ一定な状態に保たれていれば、上述したように、回転胴部2への被処理物の装入量を制御することによって、回転胴部2内に形成される反応領域の位置などを制御することができる。
【0028】
具体的には、被処理物中の有価金属、油分、非揮発性炭素分、硫黄分の含有率は使用する被処理物(例えば触媒種など)により異なるため、被処理物の成分分析を行ない、複数の被処理物を調合して、回転胴部2に供給する被処理物を調製する。すると、回転胴部2に供給する被処理物の成分を安定させることができるので、ロータリーキルン1の操業条件を安定化することができる。
【0029】
そして、被処理物の成分が把握できれば、その結果に基づいて、回転胴部2に供給する被処理物の量に応じて、非揮発性炭素分の燃焼により発生する熱量、硫黄分の燃焼により発生する熱量、有価金属の酸化に必要な反応気体の空気量を計算することができる。そして、上述した各領域を適切な位置に形成するために最適な反応気体の流量も把握することができる。
すると、各領域を適切な位置に形成でき、しかも、ソーダ化反応領域Z3における回転胴部2内の気体温度を、950〜1100℃の温度の温度範囲に維持することができる。
【0030】
(アルカリ金属化合物の供給量について)
さらに、被処理物の成分が把握されていれば、被処理物中の有価金属のソーダ化反応に必要なアルカリ金属化合物の量を適切に調整することができる。
例えば、被処理物が廃触媒であって有価金属がモリブデンおよび/またはバナジウムであり、アルカリ金属化合物としてナトリウム化合物を使用する場合であれば、アルカリ金属化合物は、被処理物中のモリブデンおよび/またはバナジウムが可溶性塩となるのに必要な反応当量の1.8倍程度を添加することが好ましい。すると、被処理物とともに回転胴部2に供給するアルカリ金属化合物の量を、上記の量に調整すれば、被処理物中のモリブデンおよび/またはバナジウムを適切に可溶性塩とすることができる。
【0031】
(回転胴部2内の温度制御について)
ソーダ化反応領域Z3を上記の温度範囲に維持できる条件を把握しておけば、被処理物の成分および供給量と反応気体の酸素量および供給量とを調整することによって、ソーダ化反応領域Z3を上記の温度範囲に制御することができる。
【0032】
しかし、ソーダ化反応領域Z3を上記の温度範囲をより適切に維持する上では、回転胴部2内の温度をリアルタイムで測定することが好ましい。例えば、可視モニターやサイドガラスを用いて回転胴部2に内を目視観察したり、回転胴部2に内に熱電対を設けたりして、回転胴部2に内の温度を測定し管理することも可能である。
【0033】
とくに、サーモトレーサー型炉内監視装置のモニターなどの非接触式温度計によって炉内の温度を測定するようにすることが好ましい。
具体的には、図1(A)に示すように、非接触式温度計3をロータリーキルン1の排出側端部に設け、回転胴部2の排出側端部からその内部の温度を測定できるように配置する。すると、非接触かつ直接的に回転胴部2内における所定の位置の温度を測定することができるので、温度の測定精度が向上する。
しかも、この温度に基づいて、ソーダ化反応領域Z3の温度が所定の温度範囲になるようにロータリーキルン1の操業を制御できるので、被処理物中の有価金属を安定した状態でソーダ化反応させることができ、ロータリーキルン1の操業も安定化することができる。
【0034】
(ソーダ化反応領域Z3の終了位置について)
また、回転胴部2内において、ソーダ化反応領域Z3と排出側端部との中間位置(図1では排出端から距離L1だけ離れた位置)の炉内温度が、100〜900℃の範囲、好ましくは、850〜900℃の範囲に維持されるように、ロータリーキルン1を稼働させることが好ましい。つまり、ソーダ化反応領域Z3と排出側端部との中間位置までに、ソ−ダ化反応が終了するようにロータリーキルン1を稼働させることが好ましい。
ソ−ダ化反応が終了していない場合には、ソ−ダ化反応に伴う発熱が起こり温度低下は生じないのであるが、上記位置において上記のごとき温度となる場合には、全てのソ−ダ化反応が終了している状態となる。つまり、上記位置において上記のごとき温度となるように操業すれば、被処理物中の全ての有価金属とアルカリ金属化合物とのソーダ化反応を確実に完了させることができるので、有価金属の浸出率を高くすることができ、有価金属の回収率を高くすることができる。具体的には、有価金属の浸出率を60%以上とすることも可能となる。
【実施例】
【0035】
(実施例1)
本発明の使用済触媒処理用キルンの操業方法により、有価金属の浸出率を高くすることができることを確認するために、炉内温度とバナジウムの浸出率との関係を確認した。
【0036】
実験では、ロータリーキルンによって廃触媒を焙焼した場合において、排出側端部とソーダ化反応領域との中間位置の炉内温度を変化させて、水を浸出液として使用して焙焼物からバナジウムを浸出した場合における浸出率を比較した。
なお、浸出率は、廃触媒中のバナジウムの量に対する浸出液中に浸出されたバナジウムの量を示している。
【0037】
ソーダ化反応が生じている位置は、事前に同じ条件でロータリーキルンによって廃触媒を焙焼した結果に基づいて定めた。具体的には、同じ条件でロータリーキルンによって廃触媒を焙焼し、炉内から焙焼物をサンプリングしてソーダ化反応の有無を確認した。すると、排出端より約6mの地点でソーダ反応が生じていることが確認されたので、この位置と排出側端部との中間位置(排出端より約3mの地点)が生じている領域とした。そして、この位置の炉内温度を変化させて、この位置の炉内温度を放射温度計によって測定した。
なお、炉内温度は、廃触媒の供給量や炉内へ吹き込むフリーエアー量を変化させて調整した。
【0038】
実験に用いたロータリーキルンは、図1に示すような構成を有する外熱式炉芯管回転式の管状炉であり、この管状炉を向流式キルンとして使用した。使用した管状炉のスペックは、以下の通りである。
炉芯管内径:700mmφ
長さ:10.5m
【0039】
また、廃触媒の成分、管状炉の運転条件は、以下の表1に示すとおりである。
【表1】

【0040】
結果を図2に示す。
図2に示すように、排出端より約3mの地点の温度(つまり、排出側端部とソーダ化反応領域Z3との中間位置の温度)が高くなるにつれ、バナジウムの浸出率が低下していることが確認できる。そして、実際の操業を行う場合、バナジウムの浸出率が60%以上必要であるが、測定位置の温度が900℃以下の場合には、上記のごとき高い浸出率を維持でき、しかも、浸出率のばらつきも小さくできることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明の使用済触媒処理用キルンの操業方法は、廃触媒などのソーダ焙焼を行う焙焼炉の操業方法として適している。
【符号の説明】
【0042】
1 ロータリーキルン
2 回転胴部
5 供給手段
Z1 脱油処理領域
Z2 炭素硫黄除却領域
Z3 ソーダ化反応領域
Z4 冷却領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有価金属、油分、非揮発性炭素分および硫黄分を含有する被処理物をアルカリ金属化合物とともに焙焼する使用済触媒処理用キルンの操業方法であって、
該焙焼炉が、
前記被処理物を供給する供給側端部から排出側端部に向かって該被処理物を移動させながら焙焼する焙焼炉であって、
酸素を含有する反応気体が該被処理物の移動方向と逆方向に流れるように供給されるものであり、
該焙焼炉を、
前記供給側端部から前記排出側端部に向かって、前記被処理物の脱油処理を行う脱油処理領域と、脱油された前記被処理物から炭素および硫黄の除却処理を行って硫黄除去後処理物を生成する炭素硫黄除却領域と、有価金属のソーダ化反応処理を行うソーダ化反応領域とが、この順で形成され、
該ソーダ化反応領域における炉内温度が950〜1100℃の範囲に維持されている
ことを特徴とする使用済触媒処理用キルンの操業方法。
【請求項2】
前記排出側端部と該ソーダ化反応領域との中間位置の炉内温度が100〜900℃の範囲に維持されるように制御する
ことを特徴とする請求項1記載の使用済触媒処理用キルンの操業方法。
【請求項3】
前記ソーダ化反応領域の温度を非接触式温度計により測定し、
測定された温度に基づいて、前記ソーダ化反応領域の温度が前記温度範囲に維持されるように制御する
ことを特徴とする請求項1または2記載の使用済触媒処理用キルンの操業方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−126926(P2012−126926A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−276641(P2010−276641)
【出願日】平成22年12月13日(2010.12.13)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】