説明

供用下における鋼構造物の溶接による補修補強方法

【課題】比較的簡便な方法で、変動荷重が繰り返し作用している供用下の鋼構造物の溶接部などの損傷個所を溶接により補修補強する方法を提供する。
【解決手段】変動荷重が繰り返し作用している状況下にある補修補強個所での開口変位量の変化が0.5mm以下の状態で、該補修補強個所を片面から溶接部での割れの発生に拘わらず溶接し、この溶接後にその溶接した補修補強個所を裏面からのハツリ操作で割れを除去し、この割れ除去を確認したのちハツリ個所を完全溶け込み溶接するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、供用下にある鋼構造物の溶接による補修補強方法に関し、特に、変動荷重が繰り返し作用する状況下での鋼構造物の溶接による補修補強方法に関する。
【背景技術】
【0002】
交通量の多い橋梁など、振動等の影響を受ける鋼構造物では、静荷重と動荷重とが重畳して作用することによって、損傷を受け易い状況下にある。そして、このような鋼構造物の溶接部分に損傷や金属疲労による欠陥が発生した場合には、その対象個所を健全なものに変更することが求められる。
【0003】
その場合、橋梁等では、交通を遮断した状態での鋼構造物を取り換える方式、鋼構造物の一部を交換する方式、一部を補修補強する方式と、交通を許容した状態(供用状態)のまま鋼構造物の対象部分を交換する方式あるいは、溶接等によって補修・補強する方式とがある。
【0004】
そして、供用状態下で鋼構造物の欠陥部分を溶接により補修補強するものとして、従来、特許文献1に示すものが提案されている。この特許文献1に示すものでは、供用下にある鋼構造物の溶接対象個所について、振動及び変位変動を計測し、その計測により得られた情報と、溶接継手情報、板厚、鋼種、適用溶接棒とに基き、溶接施工時に欠陥が生じるか否かを判定し、この判定での評価係数が設定値以下である場合に、溶接対象個所の溶接を開始するようにしている。
【特許文献1】特開平6−170539号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述の供用下での鋼構造物の欠陥部溶接補修技術では、溶接開先部分を溶接する際に、溶接対象個所での振動及び変位変動を計測し、その計測により得られた情報と、溶接継手情報、板厚、鋼種、適用溶接棒とに基き、溶接施工時に欠陥が生じるか否かを判定し、この判定での評価係数が設定値以下であることを確認して溶接することで、溶接金属に割れが生じないようにするものであるが、変動荷重が作用している供用下の鋼構造物では、溶接金属に割れが生じない状態を維持することが非常に困難であるという問題があった。
【0006】
本発明は、このような点に着目して、比較的簡便な方法で、変動荷重が作用している供用下の鋼構造物の損傷個所を溶接により補修補強する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の目的を達成するために本発明は、変動荷重が繰り返し作用している状況下にある補修補強個所に開先を形成し、この補修個所での開口変位量の変化が0.5mm以下の状態で、当該補修補強個所を片面から溶接部での割れの発生に拘わらず開先部分を溶接し、この溶接後にその溶接した補修補強個所を裏面からのハツリ操作で割れを除去し、この割れを除去したハツリ個所を完全溶け込み溶接することを特徴としている。
【発明の効果】
【0008】
本発明では、変動荷重下で溶接することにより、その溶接部分に割れが生じたとしても、その割れが発生した部分を裏面からハツリとり、そのハツリとった部分を裏面から完全溶け込み溶接することで、溶接部分は欠陥のない状態で補修補強することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明に係る変動荷重が作用している供用下での鋼構造物の溶接により補修する方法の実施形態を、図を参照しながら説明する。
【0010】
図1は補修溶接部での補修手順を模式的に示す図である。
本発明に係る補修方法では、まず、変動荷重が繰り返し作用している鋼構造物での補修個所である欠陥発生部をエアガウジングやグラインダーによる研削等でハツリとることにより欠陥が生じている溶接金属部分を取り除き、新たに溶接用開先(1)を形成する。
【0011】
ついで、新たに形成した溶接開先(1)での開口変位量の変化が0.5mm以下となる状態にして炭酸ガス溶接法を用いて溶接する。このとき、開口変位量の変化が0.5mmを超える場合には、図示を省略した拘束具で溶接母材(2)を拘束し、開口変位量の変化が0.5mm以下となるようにする。
【0012】
このこのように開口変位量が変化する状態で溶接すると、溶接金属の初層部分に割れ(3)が生じることがあるが、この割れが生じている部分を裏面側からハツって溶接金属を除去し、裏面側開先(4)を形成する。また、割れ(3)が第2層以上に達していることがあるが、その場合には、その割れが到達している部分まで除去する。
【0013】
ついで、この裏面からのハツリにより溶接金属の割れが除去された裏面側開先(4)部分を裏面側から溶接で完全溶け込み溶接する。
【0014】
なお、上述の実施形態では、溶接方法として炭酸ガス溶接法を例示しているが、MIG溶接やMAG溶接の自動溶接や半自動溶接、あるいは手溶接等各種の溶接方式を採用することができる。また、欠陥発生部に形成する溶接用開先(1)(4)としてはレ形やV形、U形、J形などの各種形状を採用することができる。
【実施例】
【0015】
変動荷重が繰り返し作用している状況下での溶接を再現するものとして、板厚19mmの溶接用圧延鋼材(SM490A)を開先形状を開先角度50度のレ形に形成して、ルートフェイス7mm、ルートギャップ1.7mmに設定したI形継手とし、溶接範囲を250mmとし、その両側を125mmづつ溶接固定した溶接試験体を用意し、この溶接試験体にその溶接線と直交する方向から、2000kNの疲労試験機を用いて40から800kNの力を3Hzの周期で繰り返し作用させた状態で炭酸ガス半自動溶接の横向き姿勢で溶接を行った。なお、溶接ワイヤはソリッドワィヤ(JIS YGW−11相当品)を用いた。
【0016】
試験片としては、1層(1層1パス)溶接したもの、表面側から多層(2層4パス)溶接したもの、表面側から多層(2層4パス)溶接した後裏面側から割れ発生個所をハツリとったもの、表面側から多層(2層4パス)溶接した後裏面側から割れ発生個所をハツリとり裏面側から多層(2層4パス)溶接したものを用意した。
この場合の溶接条件は、表1に示す通りであった。
【0017】
【表1】

【0018】
試験終了後48時間経過してから超音波探傷検査、浸透探傷検査及び5断面マクロ試験を実施した。
その結果を表2に示す。
【0019】
【表2】

【0020】
表1からわかるように、片面を1層溶接した場合や多層溶接した場合には、マクロ試験で割れが検出されたが、片面を溶接した後に裏面からハツリ、その部分を完全溶接した場合には、超音波探傷検査、浸透探傷検査、マクロ試験でも割れを検出されなかった。
【0021】
なお、上記実験例では、開口変位量変化を0.05から0.3mmとしたが、開口変位量変化は0.5mm以下であれば、溶接部分に割れを発生させることなく補修補強できる。また、上記実験例では、溶接長を250mmとしているが、溶接長としては、400mm以下であれば、溶接部分に割れを発生させることなく補修補強できる。さらに、開先角度としては、50±5度が望ましい。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明は、橋梁などの鋼構造物の溶接部等の損傷個所を供用下で補修補強することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】補修手順を模式的に示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼構造物の一部を変動荷重が繰り返し作用している状況下で溶接により補修補強する方法であって、
変動荷重が繰り返し作用している状況下にある補修補強個所に開先を形成し、この補修個所での開口変位量の変化が0.5mm以下の状態で、該補修補強個所を片面から溶接部での割れの発生に拘わらず開先部分を溶接し、この溶接後にその溶接した補修補強個所を裏面からのハツリ操作で割れを除去し、この割れ除去を確認後ハツリ個所を完全溶け込み溶接するようにした供用下における鋼構造物の溶接による補修補強方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−202201(P2009−202201A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−47175(P2008−47175)
【出願日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【出願人】(591099212)片山ストラテック株式会社 (13)
【Fターム(参考)】