説明

係船装置

【課題】
係船装置において、係船作業自体のコストダウンを実現し、且つ低コストである係船装置を提供する。また、安全な係船作業を実現した係船装置を提供する。
【解決手段】
岸壁に設置した係船装置において、前記係船装置1が、脚部3及び水平面内で旋回自在なアーム部4を有したホーサブーム2と、ロープ7を巻いたドラム5と、制御装置6を有しており、前記制御装置6が、船舶からの無線信号で前記ホーサブーム2を旋回し、前記ロープ7を懸吊した前記アーム部4の端部を前記船舶上に移動する制御を行うように構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶等を岸壁に係船する係船装置に関する。
【背景技術】
【0002】
船舶等を岸壁に係船する際、船舶と岸壁をワイヤロープでつないで、船舶等を固定している(例えば特許文献1参照)。この係船作業は、ばら積み船やタンカー等の大型船舶から、フェリー等の中型船舶、更に、漁船やレジャーボート等の小型船舶に至るまで、必要となる作業である。
【0003】
以下、係船作業について説明する。まず、船舶側の作業員は、船舶に搭載したワイヤドラムから係船用のワイヤロープを繰り出す。船舶側の作業員は、このワイヤロープの先端に結び付けた投索を、岸壁側に投げる。次に、岸壁側の作業員は、投索を引き、ワイヤロープを手繰り寄せ、ワイヤロープを岸壁の係船柱(ボラードという)に掛ける。船舶側のワイヤドラムを巻き取り、ワイヤロープに張力を与えて、船舶を固定する。
【0004】
この係船作業は、船舶を係船する際に船舶側と岸壁側の両方に作業員が必要となり、コストがかかるという問題を有している。この係船作業は、船舶の出入りが頻繁な大型港でない限り、間欠的な作業となり、作業効率が低い。特に、離島では、この係船作業のために作業員を雇用することが困難である。なお、離島に接岸するフェリー等の係船作業は、1回の作業時間が30分程度で、1日に数回程度である。この問題に対して、岸壁側の作業員を必要としない係船装置が提案されている(例えば特許文献2参照)。
【0005】
しかしながら、上記の係船装置は、いくつかの問題点を有している。第1に、装置が大型であり、導入コストが高いという問題を有している。また、岸壁側に加えて、船舶側にも改造等が必要となる。そのため、普及が困難である。特に、離島に導入するためには、低コストであることが望ましい。
【0006】
第2に、大きさの異なる船舶を、1つの係船装置で係船することができないという問題を有している。多種の船舶が接岸する港の場合は、船舶の大きさごとに複数の係船装置を岸壁に設けなくてはならない。これは、高コストとなる上、それぞれの岸壁を整備する必要があるため、現実的には導入することが不可能となる。
【0007】
第3に、船舶と岸壁を連絡する新たな桟橋等が必要となるという問題を有している。船舶と岸壁の間に係船装置を配置しているため、人や車輛等が船舶と岸壁の間を移動する専用の新たな桟橋が必要となる。従来のタラップ等は使用することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−48083号公報
【特許文献2】特開平06−293289号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記の問題を鑑みてなされたものであり、その目的は、係船装置において、係船作業自体のコストダウンを実現し、且つ低コストである係船装置を提供することにある。また、安全な係船作業を実現した係船装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するための本発明に係る係船装置は、岸壁に設置した係船装置において、前記係船装置が、脚部及び水平面内で旋回自在なアーム部を有したホーサブームと、ロープを巻いたドラムと、制御装置を有しており、前記制御装置が、船舶からの無線信号で前記ホーサブームを旋回し、前記ロープを懸吊した前記アーム部の端部を前記船舶上に移動する制御を行うように構成したことを特徴とする。
【0011】
この構成により、係船作業において岸壁側を無人化することができる。そのため、係船作業に係るコストを低減することができる。また、岸壁側に係船装置を設置し、船舶側には無線装置(コントローラ)を搭載すればよいため、低コストで係船装置を導入することができる。
【0012】
上記の係船装置において、前記ホーサブームが、鉛直方向に伸縮自在の脚部と、水平面内で旋回自在なアーム部を有しており、前記アーム部が、前記脚部に第2回転軸を介して設置した第2アームと、前記第2アームに第1回転軸を介して設置した第1アームを有し、前記第1回転軸と前記第2回転軸はそれぞれ第1モータ又は第2モータと、角度センサを有していることを特徴とする。この構成により、係船作業の安全性を向上することができる。これは、ホーサブームが船舶や作業員が接触した場合、小さな力で旋回するように構成しているためである。
【0013】
本発明に係る係船装置の制御方法は、岸壁に設置した係船装置で、前記係船装置が、脚部及び水平面内で旋回自在なアーム部を有したホーサブームと、ロープを巻いたドラムと、制御装置を有しており、前記制御装置が、船舶からの無線信号で前記ホーサブームを旋回し、前記ロープを懸吊した前記アーム部の端部を前記船舶上に移動する制御を行うように構成した係船装置の制御方法であって、前記船舶側の前記無線装置により係船作業開始信号を発信するステップと、前記岸壁側の前記制御装置が前記係船作業開始信号を受信するステップと、前記アーム部を旋回して、前記アーム部の端部を船舶上に移動するステップと、前記アーム部の端部に懸吊した前記ロープを前記船舶の係船柱に結束するステップと、前記船舶側の前記無線装置が接岸開始信号を発信するステップと、前記岸壁側の前記制御装置が前記接岸開始信号を受信するステップと、前記ドラムが前記ロープを巻き取るステップと、前記アーム部を旋回して、前記アーム部の端部を岸壁上に移動するステップと、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る係船装置によれば、係船作業自体のコストダウンを実現し、且つ低コストである係船装置を提供することができる。また、安全な係船作業を実現した係船装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る実施の形態の係船装置を示した斜視図である。
【図2】本発明に係る実施の形態の係船装置を示した平面図である。
【図3】本発明に係る異なる実施の形態の係船装置を示した正面図である。
【図4】本発明に係る異なる実施の形態の係船装置を示した正面図である。
【図5】本発明に係る異なる実施の形態の係船装置を示した正面図である。
【図6】本発明に係る実施の形態の係船装置の制御を示したフローチャートである。
【図7】本発明に係る実施の形態の係船装置で船舶を係船した様子を示した平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る実施の形態の係船装置について、図面を参照しながら説明する。図
1に、本発明に係る実施の形態の係船装置1の斜視図を示す。係船装置1は、ホーサブーム2と、ドラム5と、制御装置6を有している。ホーサブーム2は、鉛直方向に伸縮自在の脚部3と、水平面内で旋回自在のアーム部4を有している。アーム部4は、脚部3に第2回転軸13を介して設置した第2アーム11と、第2アーム11に第1回転軸12を介して設置した第1アーム10を有している。第1回転軸12及び第2回転軸13は、それぞれ第1モータ20又は第2モータ21と、角度センサ22を有しており、独立して旋回制御ができるように構成している。
【0017】
また、係船用のワイヤ又はロープ7を、ドラム5から繰り出し、フェアリーダ8を介して、アーム部4端部のフック23で懸吊するように構成している。更に、24は緩衝材、25はロープ端部を示している。この緩衝材24は、船舶及び船舶上の作業員との接触衝撃を和らげるためのものである。なお、脚部3は、シリンダ機構又はラックアンドピニオン機構等、既知の構造で構成することができる。
【0018】
制御装置6は、外部から無線等により信号を受け、係船装置1の制御を行うためのものである。係船装置1の制御とは、脚部3の伸縮、アーム部4の旋回、ドラム5の回転及び係船装置1の走行等の制御である。
【0019】
図2に、係船装置1の平面図を示す。係船装置1は、岸壁30に複数台設置されている。船舶27の接近に伴い、ホーサブーム2を制御する。船舶27の作業員は、ホーサブーム2からロープ7を受け取り、ロープ7を係船柱(ボラード)26に結び付ける作業を行う。
【0020】
ここで、ホーサブーム2のアーム部4は、船舶等が接触した際に、旋回して衝撃を吸収するように構成することが望ましい。これは、船舶が強風又は波浪等の影響で、急に移動した場合に、アーム部4に接触して破壊されることを防止するためである。なお、31はフェンダーを示している。フェンダー31は、船舶27と岸壁30の衝突を緩衝するためのものである。
【0021】
次に、係船装置1Aの動作について図3乃至5を参照して説明する。図3に、船舶27が岸壁に30に接近した際の正面図を示す。係船装置1Aは、アーム部4Aを一体で構成し、第1回転軸12を有していない。
【0022】
船舶27の作業員は、船舶27の岸壁30への接近に伴い、無線装置から係船作業開始信号を発信する。係船装置1Aの制御装置6は、この係船作業開始信号を受信し、アーム部4Aを海側(図3左方)に振り出す。船舶側の作業員は、アーム部4Aのフック23からロープ端部25を受け取り、係船柱26に結び付ける。このとき、フック23の位置を、無線装置で調整することができる。つまり、鉛直方向は脚部3の伸縮により、水平面内ではアーム部4Aの旋回により行う。
【0023】
図4に、ロープ端部25を係船柱26に結び付けた際の様子を示している。船舶側の作業員は、ロープ7の連結が完了した後に、無線装置で、接岸開始信号を発信する。係船装置1Aは、この接岸開始信号を受け、ドラム5によるロープ7の巻取りを開始する。また、アーム部4Aを陸側(図4右方)に旋回し、船舶27と接触しない位置(格納位置)に移動する。
【0024】
図5に、ドラム5によるロープ7の巻き取りが完了した様子を示している。ドラム5の停止は、無線装置により手動で停止することができる。また、ドラム5の停止は、ドラム5に設置したトルク計が閾値を超えた場合に自動で停止するように構成してもよい。
【0025】
図6に、係船を行う際の制御のフローチャートを示す。船舶が岸壁に接近した際、船舶側から無線装置により、係船作業開始信号を発信する(S10)。なお、この信号には、船体固有情報が含まれることが望ましい。この船体固有情報には、船舶の種別、船舶の全長、喫水等、係船に係る情報が含まれる。岸壁側では、係船装置1の制御装置6が、係船作業開始信号を受信する(S20)。この制御装置6は、係船作業開始信号を受信した後に、インターネット又は港の管理センター等から環境情報を取得する(S21)ことが望ましい。この環境情報には、その時点での潮位等の係船に係る情報が含まれる。
【0026】
係船装置1は、取得した船体固有情報及び環境情報から、ホーサブーム2において、脚部3の伸縮による高さ調整と、アーム部4の旋回による位置調整を行う。また、ドラム5からロープ7を繰り出し、ロープ7にたるみを持たせる制御を行う(S22)。この係船装置1の制御は、船舶側の作業員がアーム部4のフック23からロープ7を受け取りやすくするために行う。ここで、船舶側の作業員がロープ7を受け取りにくい場合は、ホーサブーム2の微調整を行う(S13、S23)。ホーサブームの微調整は、船舶側の無線装置で行うことができる。具体的には、脚部3の伸縮、アーム部4の旋回、及びドラム5の回転によるロープ7の送り出しを行うことができる。
【0027】
次に、船舶側の作業員は、ロープ端部25を船舶の係船柱26に結び付ける(S14)。その後、無線装置から接岸開始信号を発信する(S15)。この接岸開始信号を受信(S25)した係船装置1の制御装置6は、ドラム5を回転し、ロープ7を巻き取る(S26)。また、アーム部4を岸壁側に旋回して、アーム部4が船舶と接触しない位置(格納位置)に移動する制御を行う。ロープ7の巻取りが完了し、ロープ7に規定の張力を発生させた状態で係船作業完了となる(S17、S27)。
【0028】
次に、離岸する場合の制御を説明する。まず、船舶側から無線装置により、離岸作業開始信号を発信する。この信号を受信した岸壁側の係船装置1は、ドラム5を回転し、ロープ7を繰り出す。その後、無線装置からホーサブーム2を操作する信号を送信し、アーム部4を船舶側に旋回させる。作業員は、このアーム部4のフック23に、ロープ7を懸吊させて、離岸作業を完了する。
【0029】
上記の構成により、以下の作用効果を得ることができる。第1に、係船作業において岸壁側を無人化することができる。そのため、係船作業に係るコストを低減することができる。これは、特に離島の港で効果的である。
【0030】
第2に、岸壁側に係船装置を設置し、船舶側の改造等は不要である構成のため、低コストで係船装置を提供することができる。船舶側には、係船装置を操作する無線装置(コントローラ)のみを搭載すればよい。また、係船時の状態は、従来と変わらないため、船舶と岸壁を連絡するタラップ等は、従来どおり使用することができる。
【0031】
第3に、係船装置のホーサブームは、船舶や作業員が接触した場合、小さな力で旋回するように構成しているため、事故の発生を抑制することができる。また、第1アーム10及び第2アーム11を連結してアーム部4とする構成(図1参照)により、アーム部4は、更に外力に対する柔軟性を向上することができる。加えて、アーム部4の端部には、緩衝材24(図1参照)を設置し、事故の発生を抑制している。
【0032】
第4に、ホーサブームのアーム部の旋回、又は脚部の伸縮する少なくとも1つの構成により、係船可能な船舶の船種を複数とすることができる。特に、多種の船舶が接岸する離島の港で有効な効果がある。
【0033】
図7に、大型船舶、中型船舶又は小型船舶27を係船した際の平面図を示す。船舶27
を3台の係船装置1で係船している。岸壁30における係船装置1の位置は、船舶27に結び付けたロープ7と岸壁30のなす角θが40°以上となるように移動することが望ましい。これは、なす角θが40°より小さくなると、船舶27を岸壁に引寄せる力が小さくなるためである。
【0034】
なお、1つの係船装置1から複数のロープ7を送り出す場合は、複数のドラム5を設置することが望ましい。係船時に、それぞれのロープ7に規定の張力を発生させるためである。ここで、第1アーム10及び第2アーム11は、格納位置にある。
【0035】
次に、本発明の係船装置1を具体的に設計した1例について図1を参照しながら説明する。ホーサブーム2において、アーム部4の最大リーチを6.0m(岸壁端からアーム部の端部までは5.0m)程度とする。第1アーム10を、2.7m程度とし、第2アーム11を3.3m程度とする。第1及び第2モータ20、21を油圧揺動モータとする。この油圧揺動モータは、過大な力が加わった場合は回転して、ホーサブーム2及び船舶27に損傷を与えないように構成する。具体的には、アーム部4が第1回転軸12で折れ曲がる、又はアーム部4が第2回転軸13で旋回する。
【0036】
この油圧揺動モータの選定は以下に従い行う。第1モータ20は、第1アーム10の先端部に70Nの力がかかった場合にフリーになるものと仮定し、189Nm(2.7m×
70N)のトルクでリリーフする構成とする。同様に、第2モータ21は、第2アーム11の端部(第1回転軸12付近)に100Nの力がかかった場合にフリーになるものと仮定し、330Nm(3.3m×100N)のトルクでリリーフする構成とする。
【0037】
係船用のロープ7は、直径40mm程度のポリプロピレンロープとする。ドラム5は、直径が600mm程度で、引き力は30kNとする。フェアリーダ8は、ロープ7の巻き取り等を考慮すると、ドラム5から距離を離して設置することが望ましいが、岸壁30に対してはコンパクトに配置することが望まれる。したがって、フェアリーダ8とドラム5の間の距離は2〜3m程度とする(図2参照)。
【0038】
船舶に搭載する無線装置は、船舶に搭載した無線機能付きコンピュータや、携帯情報端末(いわゆるPDAや携帯電話)等も利用することができる。
【符号の説明】
【0039】
1 係船装置
2 ホーサブーム
3 脚部
4 アーム部
5 ドラム
6 制御装置
7 ロープ
8 フェアリーダ
10 第1アーム
11 第2アーム
12 第1回転軸
13 第2回転軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
岸壁に設置した係船装置において、
前記係船装置が、脚部及び水平面内で旋回自在なアーム部を有したホーサブームと、ロープを巻いたドラムと、制御装置を有しており、
前記制御装置が、船舶からの無線信号で前記ホーサブームを旋回し、前記ロープを懸吊した前記アーム部の端部を前記船舶上に移動する制御を行うように構成したことを特徴とする係船装置。
【請求項2】
前記ホーサブームが、鉛直方向に伸縮自在の脚部と、水平面内で旋回自在なアーム部を有しており、
前記アーム部が、前記脚部に第2回転軸を介して設置した第2アームと、前記第2アームに第1回転軸を介して設置した第1アームを有し、前記第1回転軸と前記第2回転軸はそれぞれ第1モータ又は第2モータと、角度センサを有していることを特徴とする請求項1に記載の係船装置。
【請求項3】
岸壁に設置した係船装置で、前記係船装置が、脚部及び水平面内で旋回自在なアーム部を有したホーサブームと、ロープを巻いたドラムと、制御装置を有しており、前記制御装置が、船舶からの無線信号で前記ホーサブームを旋回し、前記ロープを懸吊した前記アーム部の端部を前記船舶上に移動する制御を行うように構成した係船装置の制御方法であって、
前記船舶側の前記無線装置により係船作業開始信号を発信するステップと、
前記岸壁側の前記制御装置が前記係船作業開始信号を受信するステップと、
前記アーム部を旋回して、前記アーム部の端部を船舶上に移動するステップと、
前記アーム部の端部に懸吊した前記ロープを前記船舶の係船柱に結束するステップと、
前記船舶側の前記無線装置が接岸開始信号を発信するステップと、
前記岸壁側の前記制御装置が前記接岸開始信号を受信するステップと、
前記ドラムが前記ロープを巻き取るステップと、
前記アーム部を旋回して、前記アーム部の端部を岸壁上に移動するステップと、
を有することを特徴とする係船装置の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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