説明

促進暴露劣化試験方法

【課題】試験対象物表面へのラジカルが照射量を簡便に知る方法を提供すること。
【解決手段】本発明の促進暴露劣化試験方法は、試験片にラジカルを照射して、該試験片表面の劣化を促進させる工程と、ラジカル照射量に応じて変化する参照片に、試験片と同じ条件でラジカルを照射する工程とを有し、該参照片の変化とラジカル照射量との対応関係が予め決定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、促進暴露劣化試験方法に関する。
【背景技術】
【0002】
住宅家屋、ビル等の外壁、自動車車体等は、通常、その表面に塗膜が形成されている。このような塗膜は、太陽光、水、温度変化等により、次第に劣化していく。塗膜の劣化は、通常、耐候性として評価される。耐候性の評価として、例えば、沖縄やフロリダ等の高温多湿で紫外線量が多い地域で、試験対象物(例えば、塗膜)を暴露して経過観察する方法がある。このような暴露には、多大な年月が必要とされるため、短時間で評価でき、かつ、自然界における暴露試験の結果と相関性の高い結果が得られる試験方法が提案されている(特許文献1参照)。
【0003】
上記の方法は、ラジカル、特に酸素ラジカルを試験対象物に照射することにより、試験対象物表面を劣化させる。しかし、ラジカルの照射は機器の設置環境に影響されるおそれがあり、照射の条件が同じであったとしても、実質的に同じ量のラジカルが照射されているとは限らないとう問題点がある。
【特許文献1】特開2004−212380号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記従来の課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、試験対象物表面へのラジカル照射量を簡便に知る方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の促進暴露劣化試験方法は、試験片にラジカルを照射して、該試験片表面の劣化を促進させる工程と、ラジカル照射量に応じて変化する参照片に、試験片と同じ条件でラジカルを照射する工程とを有し、該参照片の変化とラジカル照射量との対応関係が予め決定されている。
【0006】
好ましい実施形態においては、上記試験片と上記参照片とに同時にラジカルを照射する。
【0007】
好ましい実施形態においては、上記参照片の変化とラジカル照射量との対応関係が、ラジカルモニターで決定されている。
【0008】
好ましい実施形態においては、上記参照片の変化とラジカル照射量との対応関係が、ラジカルの種類を特定して決定されている。
【0009】
好ましい実施形態においては、ラジカル照射量に応じて、上記参照片の光学特性値が変化する。
【0010】
本発明の別の局面によれば、ラジカル照射量決定キットが提供される。このラジカル照射量決定キットは、ラジカル照射量に応じて変化する参照片と、該参照片の変化とラジカル照射量との対応関係を示す対応表とを備え、該参照片が、試験片にラジカルを照射して、該試験片表面の劣化を促進させる促進暴露劣化試験に用いられる。
【0011】
好ましい実施形態においては、上記対応表がカラーチャートである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、試験対象物表面にどれくらいの量のラジカルが照射されたかを簡便に知り得る。その結果、照射条件や機器の違いに関わらない評価が可能となり、効率的に劣化試験を実施することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
A.促進暴露劣化試験方法
本発明の促進暴露劣化試験方法は、試験片にラジカルを照射して、該試験片表面の劣化を促進させる工程を有する。
【0014】
図1は、本発明の好ましい実施形態による促進暴露劣化試験方法で用いられるリモートプラズマ装置の概略断面図である。リモートプラズマ装置100は、プラズマ発生管10とプラズマ発生管の下端に連続して設けられた照射部20とを備える。プラズマ発生管10はその上面にガス導入孔11が形成されている。また、プラズマ発生管10の外周面には電極12,12が設けられている。電極12,12はプラズマ発生用電源に接続され、電極12,12に挟まれた部分がプラズマ発生部12aとされる。照射部20はその底面に真空ポンプに連結する排気孔21が形成されている。また、照射部20の底面中央は試料台22とされている。試料台22上に試験片を載置し、試験片にラジカルを照射する。
【0015】
上記プラズマ発生用電源としては、例えば、高周波(代表的には、13.56MHz)、マイクロ波(代表的には、2450MHz)等を採用し得る。プラズマ発生用電源の出力は、好ましくは、20〜200Wである。このような範囲に設定することにより、ラジカルを選択的に試験片に照射し得る。
【0016】
プラズマ発生部12aから試料台22までの距離は、上記プラズマ発生用電源の出力等に応じて、任意の適切な値に設定し得る。好ましくは15〜60cmである。このような範囲に設定することにより、プラズマ発生部12aで発生した電子、イオン等の帯電粒子は、試料台22に到達するまでに失活し得、ラジカルを選択的に試験片に照射し得る。図示しないが、好ましくは、プラズマ発生部12aと試料台22との間に、フィルターが設けられる。フィルターは、好ましくは、導電体で形成され、多数の孔が形成されている。このようなフィルターは、電子、イオン等の帯電粒子をトラップし得る。その結果、フィルターを介して照射を行うことにより、より選択的にラジカルを試験片に照射し得る。
【0017】
本発明の促進暴露劣化試験方法は、好ましくは、照射時の装置(プラズマ発生管10および照射部20)内部の真空度およびガス流量が調節される。真空度は、好ましくは0.4〜10torr、より好ましくは0.6〜5torr、さらに好ましくは1.0〜2torrである。ガス導入孔11に導入されるガス(ラジカル源)としては、任意の適切なガスを採用し得る。例えば、水素、酸素、窒素、CF等が挙げられる。好ましくは、酸素である。ガスの導入は、好ましくは、50〜500ml/分で行われる。
【0018】
上記試験片は、ラジカルの照射によって変化し得る有機材料を含む。代表的には、ゴム、バインダー樹脂、染料、有機顔料等である。試験片にラジカルを照射する時間(試験時間)は、試験片およびラジカルの種類や目的とする劣化度合に応じて、任意の適切な時間に設定し得る。代表的には、数分〜数時間のオーダーである。
【0019】
本発明の促進暴露劣化試験方法は、ラジカル照射量に応じて変化する参照片に、試験片と同じ条件でラジカルを照射する工程をさらに有する。当該参照片の変化とラジカル照射量との対応関係は、予め決定されている。上記試験片の照射工程において、試験片に照射されるラジカル量は、上述の、プラズマ発生用電源の出力、プラズマ発生部から試料台(試験片)までの距離、真空度、ガスの流量、照射時間を適宜設定することにより調節し得る。しかし、これらの条件を全て一定にしないと、同じ条件で繰り返し試験を行うのが難しいという問題がある。したがって、試験片と同じ条件で前記参照片にラジカルを照射して、参照片の変化を観察もしくは測定することにより、試験片に照射されたラジカル量を簡便に把握し得る。その結果、試験条件が異なる場合であっても、試験結果の比較が可能となる。
【0020】
参照片へのラジカル照射は、試験片へのラジカル照射と同時に(試験時に)行ってもよいし、別々に行ってもよい。同時に行う場合、例えば、試料台22上に、試験片と参照片とを並べて載置してラジカルを照射する(試験を行う)。別々に行う場合、参照片へのラジカル照射は、試験片へのラジカル照射と同じ照射条件(プラズマ発生用電源の出力、プラズマ発生部から試料台(試験片)までの距離、真空度、ガスの流量、照射時間)にして行う。好ましくは、試験片と参照片とに同時にラジカルを照射する。より正確に、試験片に照射されたラジカル量を把握し、試験精度を高めることができる。
【0021】
上述のとおり、上記参照片の変化とラジカル照射量との対応関係が、予め、決定されている。具体的には、種々の条件で参照片にラジカルを照射し、各条件におけるラジカル照射量を測定すると共に、参照片の変化が観察もしくは測定されている。前記対応関係の決定方法(ラジカル照射量の測定方法)としては、任意の適切な方法を採用し得る。好ましくは、ラジカル密度を測定し得るラジカルモニターを用いて決定される。ラジカルモニターは、ラジカルの種類毎にその密度を測定し得ることが好ましい。後述するが、参照片の変化はラジカルの種類と関係する場合がある。この場合、ラジカル照射量をラジカルの種類毎に測定することで、より正確にラジカル照射量と試験片の劣化具合とを相関付け得る。ラジカルモニターとしては、例えば、NUエコ・エンジニアリング株式会社製が挙げられる。なお、繰り返し行う試験ごとに、ラジカルモニターを用いて、ラジカル照射量を測定する方法も考えられるが、本発明の参照片を用いる方法は、例えば、上記リモートプラズマ装置の簡素化、低価格化および工程の簡素化の観点からも極めて優れ得る。
【0022】
上記参照片は、ラジカル照射量に応じて変化する。好ましくは、参照片は、ラジカル照射により変化する有機材料を含む。当該変化は、微視的には、ラジカルの種類に応じた特定の官能基の生成や消滅によって生じ得る。官能基の生成および消滅は、赤外吸収等の各種スペクトルによって同定され得る。したがって、これらを測定することにより、前記変化を定量化し得る。また、特定の官能基の生成および消滅によって、参照片の物性が変化し得る。当該物性としては、例えば、色相、明度、彩度等の光学特性値、表面粗さ等が挙げられる。これらの物性の評価は、目視で観察してもよいし、各種測定機器を用いて行ってもよい。
【0023】
上記参照片の具体例としては、塗膜、印刷物、(着色)プラスチック板等が挙げられる。
【0024】
B.ラジカル照射量決定キット
本発明のラジカル照射量決定キットは、上記促進暴露劣化試験方法に用いられるキットであり、上記ラジカル照射量に応じて変化する参照片と、上記参照片の変化とラジカル照射量との対応関係を示す対応表とを備える。参照片の使用方法は、上記A項で説明したとおりである。対応表は、例えば、種々の条件で参照片にラジカルを照射し、各条件におけるラジカル照射量を測定すると共に、参照片の変化を観察もしくは測定した結果がまとめられている。このような対応表とラジカル照射後の参照片を比較することにより、各試験で照射されたラジカル量を迅速に把握し得る。対応表は、参照片の色の変化とラジカル照射量とを表すカラーチャートであることが好ましい。機器測定を行うことなく、目視による観察のみで簡易にラジカル照射量を把握し得るからである。なお、参照片の変化とラジカル照射量との対応関係の決定方法(ラジカル照射量の測定方法)については、上記A項で説明したとおりである。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明の促進暴露劣化試験方法は、経時で劣化する材料、特に、外壁、自動車車体等の屋外で設置および使用される物品の塗装に用いられる塗料の評価に好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の好ましい実施形態による促進暴露劣化試験方法で用いられるリモートプラズマ装置の概略断面図である。
【符号の説明】
【0027】
10 プラズマ発生管
11 ガス導入孔
12 電極
20 照射部
21 排気孔
22 試料台
100 リモートプラズマ装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試験片にラジカルを照射して、該試験片表面の劣化を促進させる工程と、
ラジカル照射量に応じて変化する参照片に、試験片と同じ条件でラジカルを照射する工程とを有し、
該参照片の変化とラジカル照射量との対応関係が予め決定されている、促進暴露劣化試験方法。
【請求項2】
前記試験片と前記参照片とに同時にラジカルを照射する、請求項1に記載の促進暴露劣化試験方法。
【請求項3】
前記参照片の変化とラジカル照射量との対応関係が、ラジカルモニターで決定されている、請求項1または2に記載の促進暴露劣化試験方法。
【請求項4】
前記参照片の変化とラジカル照射量との対応関係が、ラジカルの種類を特定して決定されている、請求項1から3のいずれかに記載の促進暴露劣化試験方法。
【請求項5】
ラジカル照射量に応じて、前記参照片の光学特性値が変化する、請求項1から4のいずれかに記載の促進暴露劣化試験方法。
【請求項6】
ラジカル照射量に応じて変化する参照片と、
該参照片の変化とラジカル照射量との対応関係を示す対応表とを備え、
該参照片が、試験片にラジカルを照射して、該試験片表面の劣化を促進させる促進暴露劣化試験に用いられる、ラジカル照射量決定キット。
【請求項7】
前記対応表がカラーチャートである、請求項6に記載のラジカル照射量決定キット。

【図1】
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【公開番号】特開2009−58344(P2009−58344A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−225325(P2007−225325)
【出願日】平成19年8月31日(2007.8.31)
【出願人】(395022731)
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【Fターム(参考)】