説明

保存に適した米飯と米飯の製造方法、並びにそれに用いる米飯加工改良剤

【課題】 常温以下の温度帯、特に低温下にて一定時間保存された米飯の澱粉の老化を抑制する米飯とその製造方法、並びにそれに用いる米飯加工改良剤を提供すること。
【解決手段】 生米重量に対し、レシチンを0.04〜0.4質量%含有し、且つ、ナトリウム塩を0.3〜5.0質量%含有することを特徴とする米飯;生米に、レシチンと、ナトリウム塩又はナトリウム塩含有食品とを添加した後に炊飯することを特徴とする、レシチンとナトリウム塩とを含有してなる米飯の製造方法;レシチンとナトリウム塩とを含有してなる、低温での流通・保存時に米飯の澱粉の老化を抑制することのできる米飯加工改良剤;をそれぞれ提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保存時(特にチルド保存時)に食感の変化が起りやすい米飯に対して、その変化を抑制する技術に関する。さらに詳細には、保存時の食感の変化を抑制するために、レシチンとナトリウム塩を含有させた米飯と、保存時の食感の変化を抑制した米飯の製造方法と、保存時に米飯の澱粉の老化を抑制することのできる米飯加工改良剤と、に関する。
なお、ここで「保存時」とは、厳密な意味での保存時だけでなく、製造してから消費者の手に渡るまでの時間であり、流通段階や店頭に置かれている時間を含めた概念である。
【背景技術】
【0002】
近年、夫婦共働き等、家事に時間をかけない傾向にある社会的背景の下、スーパーマーケットやコンビニエンスストア等で販売される弁当や惣菜、寿司等を購入して持ち帰って食する、いわゆる「中食」と呼ばれる食習慣が普及してきている。
このコンビニエンスストア等で販売される中食において、消費期限の切れた中食(例えば、弁当)を大量に廃棄することが問題となっており、大手コンビニチェーンの取組みを皮切りに、従来のものより消費期限の長い、低温弁当の販売に着手する流れが出来つつある。
即ち、従来のように20℃前後で弁当を保存することに代えて、弁当をより低温で保存する、特に10℃以下のチルド領域で保存(チルド保存)することにより、消費期限をおよそ3〜4日延長することが可能になり、消費期限が延長された分、弁当の廃棄率の低下が期待されている。
ここで、米飯を一定期間保存すると、米飯の澱粉が老化してしまい、硬く、ぼそぼそとした食感になることが知られているが、上記低温弁当化により、この「老化」の問題は、ますます加速されるものと思われる。米飯の澱粉の老化の程度は、より低温の方が大きいからである。
【0003】
尚、米飯の澱粉の老化は、米飯を長期間保存することにより、炊飯工程でα化した澱粉から水が遊離又は局在化し、もとの生澱粉に近い規則的な結晶配列(β澱粉)に戻ろうとする状態である。
【0004】
老化した米飯は、電子レンジ等で再加熱することによって、元のふっくらとした米飯に近い食感に戻ることが知られているが、寿司のような生鮮食材を使用したものは、再加熱することは困難である。従って、長時間低温温度帯に置かれた寿司飯は、老化に伴う食感の低下が避けられない状況にある。
【0005】
米飯の老化を抑制する方法が従来からいくつか提案されている。
例えば、トレハロースのような保水性の高い糖類を使用して炊飯することにより、経時的な米飯の老化を抑制する方法や(特許文献1参照)、酵素(アミラーゼとパパイン)や乳化剤(ジグリセリン脂肪酸エステル)を使用して、同様に米飯の老化を抑制する方法が提示されている(特許文献2、特許文献3参照)。
しかしながら、いずれの方法も一定の老化抑制効果は認められるものの、十分な老化抑制は達成できないというのが現状である。
このような背景の下、一定時間保存された米飯、特に低温下で保存された米飯の澱粉の老化を抑制する方法が強く望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−147916号公報
【特許文献2】特開平7−31396号公報
【特許文献3】特開平7−39325号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記の問題に鑑みてなされたものであり、その第一の目的は、常温以下の温度帯、特に低温下にて一定時間保存された米飯の澱粉の老化を抑制する米飯を提供することにある。
本発明の第二の目的は、常温以下の温度帯、特に低温下にて一定時間保存された米飯の澱粉の老化を抑制する米飯の製造方法を提供することにある。
本発明の第三の目的は、常温以下の温度帯、特に低温下にて一定時間保存するときに、米飯の澱粉の老化を抑制することのできる米飯加工改良剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前述したように、乳化剤には、澱粉の老化抑制に効果があるものもあることは知られており、この効果は、澱粉鎖と乳化剤の炭化水素鎖の疎水結合、あるいは澱粉鎖を取り込んだ乳化剤のミセル形成に起因すると思われる。このような乳化剤−澱粉複合体が形成されれば、老化に伴う澱粉鎖の集合が妨げられ、米飯の澱粉の老化が抑制されるものと思われる。
【0009】
しかしながら、乳化剤は、特有のエグ味、異味、香り、色調変化等の影響をもたらすため、特に米飯のような風味の淡白な食品に関しては、その使用量に限界があり、それに伴い、老化抑制効果にも限界があった。
【0010】
そこで、本発明者らは、十分な老化抑制効果があり、尚且つ、米飯のような淡白な風味の食品にも使用しても悪影響を及ぼさない素材を鋭意検討した。
その結果、本発明者らは、乳化剤の一種であるレシチンと、ナトリウム塩とを組み合わせて用いて炊飯することにより、老化抑制効果が極めて高い米飯が得られ、しかも米飯の風味にも悪影響を及ぼさないことを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0011】
尚、炊飯時にナトリウム塩を添加すると、ナトリウムが米の表面の糊化を促進し、この糊化層が米内部への水の供給を阻害し、炊飯時における米中心部の澱粉の膨潤を阻害することが知られている(「炊飯溶液中のカルシウムとナトリウムが飯の性状に及ぼす影響(第1報)飯の物性と食味に及ぼす影響:出典 日本家政学会誌,Vol.57, No.10, 669〜675(2006)」など参照)。また、炊飯時にナトリウム塩を添加すると、炊飯時に米飯中の自由水がナトリウムイオンと結合するために使われ、澱粉を糊化させるための自由水が減少した結果、澱粉が十分に糊化しないことが知られている(「米飯の物性解析と官能検査−老化を中心として−(第2報):出典 飯島記念食品科学振興財団年報(1998)」など参照)。
つまり、ナトリウム塩は、炊飯米中心部のα化を阻害するため、老化を促進する方向に働くものと考えられていた。
【0012】
ところが、驚くべきことに、ナトリウム塩単独では老化抑制効果はない(むしろ老化を促進すると考えられていた)ものの、レシチンと組み合わせることによって高い老化抑制効果を発揮することを見出したものである。このメカニズムは定かではないが、レシチンが澱粉と複合体を形成する際にナトリウム塩が相乗的に働いて、澱粉の老化をより高度に抑制するものと考えられる。
【0013】
すなわち、本発明は以下のものである。
(1):生米重量に対し、レシチンを0.04〜0.4質量%含有し、且つ、ナトリウム塩を0.3〜5.0質量%含有することを特徴とする米飯。
(2):前記米飯が、炊飯米又は寿司飯である、前記(1)に記載の米飯。
(3):前記レシチンが、HLB9〜14の範囲のものである、前記(1)に記載の米飯。
(4):前記米飯が、製造後に、20℃以下の温度帯で6時間以上保存されたものである、前記(1)〜(3)のいずれかに記載の米飯。
(5):生米に、レシチン又はレシチン含有食品と、ナトリウム塩又はナトリウム塩含有食品とを添加した後に炊飯することを特徴とする、レシチンとナトリウム塩とを含有してなる米飯の製造方法。
(6):生米重量に対し、レシチンの割合が0.04〜0.4質量%、ナトリウム塩の割合が0.3〜5.0質量%となるように、生米に、レシチン又はレシチン含有食品と、ナトリウム塩又はナトリウム塩含有食品とを添加した後に炊飯することを特徴とする、前記(5)記載の米飯の製造方法。
(7):レシチンとナトリウム塩とを含有してなる、低温での流通・保存時に米飯の澱粉の老化を抑制することのできる米飯加工改良剤。
(8):前記(7)記載の米飯加工改良剤を、生米重量に対し、レシチンの割合が0.04〜0.4質量%、ナトリウム塩の割合が0.3〜5.0質量%となるように添加した後に炊飯することを特徴とする、前記(5)記載の米飯の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によると、常温下、特に低温下に一定時間保存された澱粉の老化に伴う食感の変化が起り易い米飯に関して、澱粉の老化に伴う食感の変化を抑制した米飯を提供することが出来る。即ち、常温下、特に低温下に一定時間保存された澱粉の老化に伴う食感の変化が起り易い米飯に関して、エグ味、異味、香り、色調変化を与えずに、その食感の変化を抑制した米飯を提供することが出来る。
また、そのような澱粉の老化に伴う食感の変化を抑制した米飯の製造方法を提供することが出来る。
さらには、そのような澱粉の老化に伴う食感の変化を抑制することのできる米飯加工改良剤を提供することが出来る。
これらにより、寿司飯等の米飯の長期保管が可能となり、ひいては賞味期限の延長による弁当の廃棄率の低下をもたらすことが出来る。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明における米飯とは、炊飯米又はその加工品のことを指し、炊飯米の加工品としては、例えば、寿司飯やおむすび用の塩味調味炊飯米、味付きご飯などが該当する。本発明は、風味の淡白な炊飯米、寿司飯のような米飯に好適である。ここで言う炊飯米とは、米に水を加え、炊飯加工を施したものを言い、寿司飯とは、上記炊飯米に、食酢、塩、糖類等を加えて調味されたもの、例えば調味酢を加えて調味されたものを言う。
【0016】
本発明における米飯の商品形態としては特に限定はされないが、製造後に25℃以下、特に20℃以下の温度帯で、6時間以上経過して流通・販売されるコンビニエンスストア、スーパーマーケット、およびテイクアウト惣菜店等で販売される弁当、寿司等が主に該当する。即ち、米飯としては、製造後に、20℃以下の温度帯で6時間以上保存された、とりわけ10℃以下のチルド領域で6時間以上保存(チルド保存)されたものに好適である。
特に、しょうゆや味噌等を使用していない風味の淡白な白飯や寿司飯に好適である。何故ならば、しょうゆや味噌等を使用している米飯(炊き込み御飯等)は、濃い味付けの場合が多く、そのような米飯には従来からある異味のある老化抑制素材をある程度大量に使用しても味に影響が出にくい。一方、風味の淡白な白飯や寿司飯は従来の老化抑制素材を用い難いため、本発明の素材を使用する必要性が高いのである。また、寿司飯のような再加熱の出来ない米飯は、老化抑制の必要性が大きいため本発明が特に好適である。
【0017】
なお、本発明におけるレシチンとナトリウム塩は、炊飯工程の前に、生米に対して、水とともに添加する必要がある。澱粉のα化時に両者が相乗的に作用するためである。
【0018】
本発明におけるレシチンとは、化学的にはホスファチジルコリンであり、構造的には親水性基と疎水性基を持つ両親媒性の物質である。主に大豆又は卵黄から製造されるが、米飯への利用においては、その淡白な味への影響の少ない大豆由来のものが好ましい。また、HLBが9〜14であるものが望ましい。HLBが9より低いものは、老化抑制効果が比較的弱くなるためである。
レシチンは、大豆レシチン、卵黄レシチンのような形態で含有してもよいが、レシチン含有食品、例えば卵黄を添加することにより含有することもできる。
【0019】
米飯のレシチンの含有量としては、生米当たり0.04〜0.4質量%(生米100g当たり0.04〜0.4g)であることが必要であるが、好ましくは0.1〜0.4質量%であり、特に好ましくは0.2〜0.3質量%である。0.4質量%よりも多いと、レシチン特有のエグ味、異味、香り、及び色調変化が強く出てしまい、味や香りの淡白な米飯の本来の香味を損なってしまう。また、0.04質量%より少ないと、澱粉の老化抑制効果を十分に得られない。
【0020】
本発明において、ナトリウム塩としては、例えば、塩化ナトリウム、クエン酸ナトリウム、リンゴ酸ナトリウム、酢酸ナトリウム等を使用することが出来、これらの中でも、米飯の良好な食味を損なわず、価格が安く、食品素材である塩化ナトリウムが最も好適に用いられる。
また、ナトリウム塩は、単体の物質として添加してもよいし、ナトリウム塩を含有する食品や添加物を添加することによって、結果としてナトリウム塩を含有させてもよい。また、上記添加方法にて、ナトリウム塩を1種、又は2種以上を組み合わせて添加してもよい。
【0021】
米飯のナトリウム塩の含有量としては、生米当り0.3〜5.0質量%であることが必要であるが、さらに好ましくは1.0〜3.0質量%である方が良い。上限値としては、5.0質量%より多いと塩味を強く感じすぎるため、米飯としては好ましくない。中でも、塩味を有さない白飯などの場合は、2.5質量%以下、特に1.5質量%、さらには1.0質量%以下が望ましい。また、寿司飯であれば、5.0質量%以下が必要であるが、さらには3.0質量%以下が望ましい。
また、ナトリウム塩の含有量の下限値としては0.3質量%であり、0.3質量%より少ないとナトリウム塩のレシチンと相乗的に澱粉の老化を抑制する効果が得られにくくなる。
【0022】
また、レシチンとナトリウム塩は、両者を予め水と混合した組成物(米飯加工改良剤)として、炊飯時に添加して用いることも出来る。尚、ここで言う米飯加工改良剤は、生米に対して所定量のレシチンとナトリウム塩が添加されるように予め調整された調味料である。
【0023】
また、米飯加工改良剤には、必要に応じて、還元水あめ等の糖類、各種有機酸及び有機酸塩等、風味付けやその他の機能を付与するための食品又は食品添加物を加えても良い。
【0024】
本発明において前記米飯加工改良剤を使用する場合は、炊飯前に、生米に対して添加する必要がある。澱粉のα化時に、米飯加工改良剤中のレシチンとナトリウム塩が作用するためである。
前記米飯加工改良剤を、生米重量に対し、レシチンの割合が0.04〜0.4質量%、ナトリウム塩の割合が0.3〜5.0質量%となるように添加した後に炊飯することにより、目的とする米飯、つまり低温での流通・保存時に米飯の澱粉の老化を抑制した米飯が得られる。
【0025】
次に、上記米飯加工改良剤、又は規定量のレシチンと食塩を添加して米飯を製造する方法の一例を説明する。
まず、生米を定法にて水で洗米、浸漬し、十分に吸水させる。吸水させた米に、所定量の水と、さらに上記米飯加工改良剤、または規定量のレシチンと食塩を添加して炊飯する。以上の方法にて、低温保存に適した米飯を製造することが出来る。
【0026】
また、寿司飯を製造する際は、上記米飯が炊き上がった際に、つまり炊飯後に、一定量の調味酢を混合すると良い。炊飯前に加えるナトリウム塩として食塩を使用した場合は、寿司酢に用いる食塩から先に加えた食塩を差し引いたものを前記炊き上がり米飯に混合して寿司飯を製造するとよい。
【実施例】
【0027】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれにより何ら制限されるものではない。
【0028】
〔実施例1〕
(1)レシチン及びナトリウム塩を含有する白飯の炊飯
生米(福島県産こしひかり)300gを洗米し、約1時間水に浸漬した。次いで水切りしたのち、5合釜の家庭用炊飯機に投入し、表1〜4に示す量のレシチン(0〜0.9g)及び塩化ナトリウム(0〜6g)を溶解した液をそれぞれ投入した後、釜内の総重量が735gになるように水を加えた。釜内を攪拌した後、定法により加熱して炊飯した。その後、加熱を止め、30分間の蒸らし工程を経て、炊飯を完了した。
このようにして調整した炊飯米は、冷却後重量がおよそ660gとなり、60gずつ円盤上に成型したものを白飯サンプルとした。
なお、レシチンとしては、HLBが14の大豆レシチン(ベイシスLP−20E:日清オイリオグループ社製)を用いた。
【0029】
(2)熟練官能検査員による白飯の老化評価
以上の工程にて作成した白飯サンプルを5℃で24時間静置したのち、常温に品温を戻した状態で、弊社熟練官能検査員により各々の老化の程度を下記の基準にて評価した。結果を表1〜4中に示した。
なお、表中において、白飯サンプルに含有されるレシチン及び塩化ナトリウムの濃度(質量%)は、生米100gに対する、レシチン及び塩化ナトリウムの添加量(g)である。
【0030】
〔老化の評価基準〕
◎:澱粉の老化はなく、食感も非常に良好である。
○:澱粉の老化はほとんどなく、食感も良好である。
△:澱粉がやや老化しており、食感に固さ、粉っぽさをわずかに感じる。
×:澱粉が老化しており、食感は固く感じ、粉っぽい。
【0031】
【表1】


【0032】
【表2】


【0033】
【表3】


【0034】
【表4】


【0035】
上表から、レシチンを0.04質量%以上、ナトリウム塩を0.3質量%以上添加した白飯は、両素材無添加のものに比べて、明らかに老化を抑制していることが確認された。
また、レシチンを単体を添加したものでは老化を抑制する効果は乏しく、ナトリウム塩を併用することにより、その効果が格段に高まることが確認できた。一方で、ナトリウム塩を単体で添加したものでは全く老化を抑制する効果がないことも確認できた。
このような老化を抑制する効果は、レシチンが0.2質量%以上のときに特に顕著であることが明らかとなり、また、ナトリウム塩が1.0質量%以上のときに顕著であることが明らかになった。
ただし、白飯の場合、ナトリウム塩を3.0質量%添加した場合、味への影響が大きいため、実質的には2.5質量%以下、好ましくは1.5%以下、最も好ましくは1.0質量%以下がよいと考えられる。
なお、詳細は省略するが、レシチンを0.5質量%及び塩化ナトリウムを適量(0.3質量%、1.0質量%、3.0質量%、5.0質量%)添加した米飯を作成したが、老化抑制効果はあるものの、レシチン特有のエグ味、異味、香り、及び色調変化が強く出すぎてしまい好ましくないことがわかった。
【0036】
〔実施例2〕
実施例1の結果を踏まえ、レシチンとナトリウム塩を添加した寿司飯の澱粉の老化抑制効果について、経時的に検証を行なった。
(1)寿司飯の作成
生米(福島県産こしひかり)300gを洗米し、約1時間水に浸漬した。次いで水切りしたのち、5合釜の家庭用炊飯機に投入し、一方の試験区にはレシチン0.3g及び塩化ナトリウム4.5gを溶解した液を投入した後、もう一方の試験区にはレシチンも塩化ナトリウムも加えずに、それぞれ釜内の総重量が705gになるように水を加えた。釜内を攪拌した後、定法により加熱して炊飯した。その後、加熱を止め、30分間の蒸らし工程を経て、炊飯を完了した。
上記炊飯米に、寿司酢(各々の試験区に表5記載の寿司酢を使用)66mlを添加し、十分混ぜ合わせたものを60gずつ円盤上に成型したものを寿司飯サンプルとした。
なお、試験区ごとに異なる寿司酢を用いるのは両試験区の寿司飯における食酢、食塩、砂糖の量を統一するためである。つまり、レシチン・ナトリウム塩添加区に用いる寿司酢の食塩は、同試験区にて塩化ナトリウム(食塩)を炊飯時に添加しているため、その添加量を差し引いた量になっている。
【0037】
【表5】


【0038】
(2)熟練官能検査員による寿司飯の老化評価
以上の工程にて作成した寿司飯サンプルを5℃で0〜36時間静置したのち、常温に品温を戻した状態で、弊社熟練官能検査員により各々の老化の程度を下記の基準にて評価した。結果を表6中に示した。
なお、表中において、寿司飯サンプルに含有されるレシチン及び塩化ナトリウムの濃度(質量%)は、生米100gに対する、レシチン及び塩化ナトリウムの添加量(g)である。
【0039】
〔老化の評価基準〕
◎:澱粉の老化はなく、食感も非常に良好である。
○:澱粉の老化はほとんどなく、食感も良好である。
△:澱粉がやや老化しており、食感に固さ、粉っぽさをわずかに感じる。
×:澱粉が老化しており、食感は固く感じ、粉っぽい。
【0040】
【表6】


【0041】
表6から、レシチンとナトリウム塩を添加した寿司飯は、両素材無添加のものに比べて、経時的にも老化を抑制していることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明によると、常温以下、特に低温下に一定時間保存された澱粉の老化に伴う食感の変化が起り易い米飯に関して、澱粉の老化に伴う食感の変化を抑制した米飯を提供することが可能となる。
また、常温以下、特に低温下に一定時間保存された澱粉の老化に伴う食感の変化が起り易い米飯に関して、澱粉の老化に伴う食感の変化を抑制した米飯の製造方法を提供することが可能となる。
さらには、前記米飯を提供することが出来る米飯加工改良剤を提供することが可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生米重量に対し、レシチンを0.04〜0.4質量%含有し、且つ、ナトリウム塩を0.3〜5.0質量%含有することを特徴とする米飯。
【請求項2】
前記米飯が、炊飯米又は寿司飯である、請求項1に記載の米飯。
【請求項3】
前記レシチンが、HLB9〜14の範囲のものである、請求項1に記載の米飯。
【請求項4】
前記米飯が、製造後に、20℃以下の温度帯で6時間以上保存されたものである、請求項1〜3のいずれかに記載の米飯。
【請求項5】
生米に、レシチン又はレシチン含有食品と、ナトリウム塩又はナトリウム塩含有食品とを添加した後に炊飯することを特徴とする、レシチンとナトリウム塩とを含有してなる米飯の製造方法。
【請求項6】
生米重量に対し、レシチンの割合が0.04〜0.4質量%、ナトリウム塩の割合が0.3〜5.0質量%となるように、生米に、レシチン又はレシチン含有食品と、ナトリウム塩又はナトリウム塩含有食品とを添加した後に炊飯することを特徴とする、請求項5記載の米飯の製造方法。
【請求項7】
レシチンとナトリウム塩とを含有してなる、低温での流通・保存時に米飯の澱粉の老化を抑制することのできる米飯加工改良剤。
【請求項8】
請求項7記載の米飯加工改良剤を、生米重量に対し、レシチンの割合が0.04〜0.4質量%、ナトリウム塩の割合が0.3〜5.0質量%となるように添加した後に炊飯することを特徴とする、請求項5記載の米飯の製造方法。