説明

保存安定性に優れたカロチノイド色素含有組成物とその製造方法、並びに該カロチノイド色素含有組成物を配合してなる飼料

【課題】 保存安定性に優れたカロチノイド色素含有組成物を製造する方法;前記方法により得られた保存安定性に優れたカロチノイド色素含有組成物;並びにこの保存安定性に優れたカロチノイド色素含有組成物を配合してなる体色改善乃至色調改善能に優れた飼料を提供することを目的とする。
【解決手段】 カロチノイド色素を生産する微生物を培養し、得られるカロチノイド色素を生産する微生物の培養液又は培養濃縮液に、カロチノイド色素の保存安定性を向上させる賦形剤として、米糠を混合し、次いで乾燥することを特徴とする保存安定性に優れたカロチノイド色素含有組成物の製造方法;前記方法により得られた保存安定性に優れたカロチノイド色素含有組成物;並びに前記方法により得られた、保存安定性に優れたカロチノイド色素含有組成物を配合してなる飼料を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、魚介類の体色改善或いは色調改善、又は鶏卵の色調改善剤として用いられる、保存安定性に優れたカロチノイド色素含有組成物とその製造方法、並びに該カロチノイド色素含有組成物を体色改善乃至色調改善剤として配合してなる飼料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、タイ、エビ、カニなどの体表の色調改善、サケ、マスなどの体色改善、又は鶏卵の卵黄の色調改善のために、飼料中に体色改善乃至色調改善剤を配合することが行われている。
体色改善乃至色調改善剤として、天然ではパプリカ、マリーゴールドといった植物由来の色素、またスピリルナ、ヘマトコッカス、ファフィア、パラコッカスといった微生物由来の色素、合成品ではアスタキサンチン、カンタキサンチン、β−アポ−8’−カロチン酸エチルエステルなどが知られている。
【0003】
一般に、これらのカロチノイド色素はかなり不安定であり、飼料置き場の一般的な環境である高温・高湿条件下では、含有するカロチノイド色素の量が保存期間の経過と共に低下することが知られている。
【0004】
それを抑制するため、例えばエトキシキン、ブチルヒドロキシルトルエン(BHT)、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)などの合成添加物を混合することが知られているが、近年の食に対する安全志向から、これらの添加物は天然物であることが求められる場合がある。
【0005】
天然物としては、ルチン等のフラボノイド、ヒマワリ抽出物、フィチン酸等の植物抽出物、トコフェロール、アスコルビン酸、クエン酸等を添加物として混合する場合もあるが、これらの安定化剤のうちビタミン類、フラボノイド類、植物抽出物は概して高価であり、カロチノイド色素の安定化剤として使用するには現実的に困難である。また、アスコルビン酸やクエン酸は効果が小さく、カロチノイド色素の安定化剤として用いるには問題がある(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
一方、これらのカロチノイド色素の分解が、空気中の酸素による酸化分解であることに着目し、脱酸素剤とともに酸素非透過性の包装材料にて密封する方法が開発されている(例えば、特許文献2参照)が、開封後或いは飼料との混合後の安定性は十分でなく、更なる改善が必要である。
【0007】
【特許文献1】特開平6−264055号公報(従来の技術欄)
【特許文献2】特開平8−12896号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
第1に、本発明は、このような従来技術の問題点を解消し、カロチノイド色素を生産する微生物を培養し、得られる培養液に比較的安価な天然物である米糠を混合することにより、飼料置き場の一般的な環境である高温・高湿条件下において、保存安定性に優れたカロチノイド色素含有組成物を製造する方法を提供することを目的とするものである。
第2に、本発明は、そのような方法により製造された、保存安定性に優れたカロチノイド色素含有組成物を提供することを目的とするものである。
第3に、本発明は、そのような方法により製造された、保存安定性に優れたカロチノイド色素含有組成物を配合してなる、体色改善乃至色調改善能に優れた飼料を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を解決するため鋭意検討を行った結果、予想外にもカロチノイド色素を生産する微生物を培養し、得られる培養液を乾燥する際に使用する賦形剤として、脂溶性の抗酸化物、例えばフィチン酸、フェルラ酸、γ―オリザノール、トコール類を著量含む米糠を使用することにより、カロチノイド色素の分解を顕著に抑制し、高温・高湿度条件下でも長期間安定化しうることを見出した。
即ち、本発明者らは、魚介類の体色改善、或いは鶏卵の色調改善剤等として用いられるカロチノイド色素含有培養液を、賦形剤として米糠を使用し乾燥することで、含有するカロチノイド色素の分解が抑制され、高温・高湿度条件下でも長期間安定して保存することができることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成した。
【0010】
即ち、請求項1に係る本発明は、カロチノイド色素を生産する微生物を培養し、得られるカロチノイド色素を生産する微生物の培養液又は培養濃縮液に、米糠を混合し、次いで乾燥することを特徴とする、保存安定性に優れたカロチノイド色素含有組成物の製造方法を提供するものである。
請求項2に係る本発明は、カロチノイド色素を生産する微生物が、パラコッカス(Paracoccus)属、ヘマトコッカス(Haematococcus)属又はファフィア(Phaffia)属に属するものである請求項1記載の方法を提供するものである。
請求項3に係る本発明は、パラコッカス(Paracoccus)属微生物が、パラコッカス・カロチニファシエンス(Paracoccus carotinifaciens)である請求項2記載の方法を提供するものである。
請求項4に係る本発明は、カロチノイド色素を生産する微生物が、16SリボソームRNAに対応するDNAの塩基配列が配列番号1に記載の塩基配列若しくは該塩基配列と実質的に相同のものである請求項1〜3のいずれかに記載の方法を提供するものである。
請求項5に係る本発明は、カロチノイド色素を生産する微生物が、E−396株(FERM BP−4283)とその変異株、及びA−581−1株(FERM BP−4671)とその変異株から選ばれたものである請求項4記載の方法を提供するものである。
請求項6に係る本発明は、カロチノイド色素を生産する微生物を培養し、得られるカロチノイド色素を生産する微生物の培養液又は培養濃縮液に、米糠を混合し、次いで乾燥することにより得られる、保存安定性に優れたカロチノイド色素含有組成物を提供するものである。
請求項7に係る本発明は、カロチノイド色素を生産する微生物が、16SリボソームRNAに対応するDNAの塩基配列が配列番号1に記載の塩基配列若しくは該塩基配列と実質的に相同のものである請求項6記載の組成物を提供するものである。
請求項8に係る本発明は、カロチノイド色素を生産する微生物が、E−396株(FERM BP−4283)とその変異株、及びA−581−1株(FERM BP−4671)とその変異株から選ばれたものである請求項6記載の組成物を提供するものである。
請求項9に係る本発明は、請求項6〜8のいずれかに記載の組成物を配合してなる飼料を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
第1に、本発明によれば、カロチノイド色素を生産する微生物を培養し、得られる培養液又は培養濃縮液に比較的安価な天然物である米糠を混合することにより、飼料置き場の一般的な環境である高温・高湿条件下において、保存安定性に優れたカロチノイド色素含有組成物を製造する方法が提供される。
第2に、本発明によれば、保存安定性に優れたカロチノイド色素含有組成物が提供される。
第3に、本発明によれば、体色改善乃至色調改善能に優れた飼料が提供される。
本発明によれば、培養液又は培養濃縮液を乾燥する際の賦形剤として米糠を使用するという簡単な方法で、生産したカロチノイド色素を安価でしかも効果的に安定化することができる。即ち、カロチノイド色素を生産する微生物の培養液又は培養濃縮液に、カロチノイド色素の保存安定性を向上させる賦形剤として米糠を混合し、次いで乾燥することにより、微生物の生産するカロチノイド色素を効果的に安定化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
請求項1に係る本発明は、保存安定性に優れたカロチノイド色素含有組成物の製造方法に関し、カロチノイド色素を生産する微生物を培養し、得られるカロチノイド色素を生産する微生物の培養液又は培養濃縮液に、米糠を混合し、次いで乾燥することを特徴とするものである。
【0013】
本発明におけるカロチノイド色素は、特に限定されないが、例えば、アスタキサンチン、カンタキサンチン、β−カロテン、エキネノン、3−ヒドロキシエキネノン、アステロイデノン、アドニルビン、アドニキサンチン、β−クリプトキサンチン、ゼアキサンチン、リコペンなどが挙げられる。また、これらの中で水酸基を有するものにおいては、フリー体で存在するものでも、脂肪酸エステルの形態で存在するものでもよい。
本発明で用いるカロチノイド色素を生産する微生物は、これらカロチノイド色素の一種又は複数種を生産するものならば特に限定されないが、例えば、細菌、藻類、酵母などが挙げられる。
【0014】
カロチノイド色素を生産する微生物として具体的には、請求項2に記載したように、パラコッカス(Paracoccus)属、ヘマトコッカス(Haematococcus)属又はファフィア(Phaffia)属に属する微生物が挙げられる。
パラコッカス(Paracoccus)属微生物としては、請求項3に記載したように、例えばパラコッカス・カロチニファシエンス(Paracoccus carotinifaciens)が挙げられ、より具体的にはパラコッカス・カロチニファシエンス(Paracoccus carotinifaciens)E−396株(FERM BP−4283)、同A−581−1株(FERM BP−4671)などが挙げられる。
次に、ヘマトコッカス(Haematococcus)属微生物としては、例えばヘマトコッカス・プルビアリス(Heamatococcus pluvialis)が挙げられる。
また、ファフィア(Phaffia)属微生物としては、例えばファフィア・ロドチーマ(Phaffia rhodozyma)が挙げられ、より具体的にはファフィア・ロドチーマ(Phaffia rhodozyma)IFO10129株、同IFO10130株、ATCC24201株等が挙げられる。
【0015】
カロチノイド色素を生産する微生物としては、請求項4に記載したように、その16SリボソームRNAに対応するDNAの塩基配列が配列番号1に記載の塩基配列若しくは該塩基配列と実質的に相同であるカロチノイド色素生産微生物が挙げられる。ここで言う実質的に相同であるとは、DNAの塩基配列決定の際のエラー頻度等を考慮し、98%以上の相同性であることを意味する。
【0016】
上記塩基配列若しくは該塩基配列と実質的に相同な配列を有するカロチノイド色素生産微生物としては、具体的にはパラコッカス・カロチニファシエンス(Paracoccus carotinifaciens)E−396株(FERM BP−4283)(特開平7−79796、特開平8−9964、米国特許第5,607,839号、米国特許第5,858,761号)と、該E−396株を変異改良することで得られる変異株、及びパラコッカス・カロチニファシエンス(Paracoccus carotinifaciens)A−581−1株(FERM BP−4671)(特開平7−79796、特開平8−9964、米国特許第5,607,839号、米国特許第5,858,761号)と、該A−581−1株を変異改良することで得られる変異株、並びにこれら2種の近縁種を挙げることができる。
【0017】
請求項1に係る本発明においてカロチノイド色素を生産する微生物として具体的には、請求項5に記載したように、パラコッカス・カロチニファシエンス(Paracoccus carotinifaciens)E−396株(FERM BP−4283)とその変異株、及びパラコッカス・カロチニファシエンス(Paracoccus carotinifaciens)A−581−1株(FERM BP−4671)とその変異株の中から選ばれたものが好ましい。
【0018】
配列番号1のDNA塩基配列は、パラコッカス・カロチニファシエンスE−396株のリボソームRNAに対応するものであり、また配列番号2のDNA塩基配列は、パラコッカス・カロチニファシエンスA−581−1株のリボソームRNAに対応するものである。E−396株とA−581−1株のリボソームRNAの塩基配列の相同性は99.4%であり、極めて近縁な株であり、これらの菌株はカロチノイド色素を生産する微生物として一つのグループを形成している。
【0019】
請求項1に係る本発明においては、上記した如きカロチノイド色素を生産する微生物を培養し、得られるカロチノイド色素を生産する微生物の培養液又は培養濃縮液に、カロチノイド色素の保存安定性を向上させる賦形剤として、米糠を混合し、次いで乾燥する。
【0020】
カロチノイド色素を生産する微生物を培養する方法としては、カロチノイド色素を生産する条件であればいずれの方法でもよいが、例えば、以下のような方法を採用することができる。
即ち、培地としては、生産菌が生育に必要な炭素源、窒素源、無機塩、及び必要であれば特殊な要求物質(例えば、ビタミン、アミノ酸、核酸等)を含むものを使用する。
ここで炭素源としては、例えばグルコース、シュークロース、フルクトース、トレハロース、マンノース、マンニトール、マルトース等の糖類;酢酸、フマル酸、クエン酸、プロピオン酸、リンゴ酸、マロン酸等の有機酸;エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、イソブタノール等のアルコール類等が挙げられ、これらの1種又は2種以上が用いられる。その添加割合は、炭素源の種類により異なるが、通常、培地1L当たり1〜100g、好ましくは2〜50gである。
次に、窒素源としては、例えば硝酸カリウム、硝酸アンモニウム、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、アンモニア、尿素等が挙げられ、これらの1種又は2種以上が用いられる。その添加割合は、窒素源の種類により異なるが、通常、培地1Lに対し0.1〜20g、好ましくは1〜10gである。
また、無機塩としては、例えばリン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸水素二ナトリウム、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム、硫酸鉄、塩化鉄、硫酸マンガン、塩化マンガン、硫酸亜鉛、塩化亜鉛、硫酸銅、塩化カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム等が挙げられ、これらの1種又は2種以上が用いられる。その添加割合は、無機塩の種類により異なるが、通常、培地1Lに対し0.1mg〜10gである。
さらに、特殊な要求物質としては、ビタミン類、核酸類、酵母エキス、ペプトン、肉エキス、麦芽エキス、コーンスティープリカー、乾燥酵母、大豆粕、大豆油、オリーブ油、トウモロコシ油、アマニ油等が挙げられ、これらの1種又は2種以上が用いられる。その添加割合は、特殊な要求物質の種類により異なるが、通常、培地1Lに対し0.01mg〜100gである。
【0021】
なお、培地のpHは2〜12、好ましくは6〜9に調整する。
培養は、10〜70℃、好ましくは20〜35℃の温度にて、通常、1日〜20日間、好ましくは2〜9日間、振とう培養或いは通気撹拌培養を行う。
本発明においては、このような条件でカロチノイド色素を生産する微生物を培養する。
このようにして培養すると、カロチノイド色素を生産する微生物は、菌体内及び菌体外にカロチノイド色素を著量生産する。
【0022】
次に、通常は、以上の方法により得られた培養液から水分を除去する作業を行う。カロチノイド色素含有組成物を得るために、培養液からどの程度の水分除去が必要かは培養液の色素含有量等の状態により異なる。
本発明においては、培養液そのものに、カロチノイド色素の保存安定性を向上させる賦形剤として、米糠を混合してもよいが、一般にまずろ過の作業を行う。ろ過の方法は、通常のろ過法、遠心分離法などにより行うことができる。
【0023】
次に、以上の方法で得られた培養液又は培養濃縮液に、カロチノイド色素の保存安定性を向上させる賦形剤として、米糠を添加し、均一になるまで混合する。
米糠には脂溶性の抗酸化物、例えばフィチン酸、フェルラ酸、γ−オリザノール、トコール類が含まれ、カロチノイド色素の分解を抑制し、高温・高湿度条件下でも長期間安定化するのに好適である。
【0024】
次に、粉末製品にするために、以上の方法で得られたカロチノイド色素と米糠の混合物を乾燥する。乾燥の方法としては特に制限はなく、噴霧乾燥、噴霧造粒乾燥、ドラム乾燥、凍結乾燥などが挙げられる。
このようにして請求項1に係る本発明の方法により、目的とする保存安定性に優れたカロチノイド色素含有組成物を製造することができる。
なお、このようにして製造されたカロチノイド色素含有組成物に、必要に応じて、本発明の目的を損なわない限りにおいて、公知のカロチノイド色素の安定化剤、例えばエトキシキン、ブチルヒドロキシルトルエン(BHT)、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)を配合することもできる。
【0025】
本発明においては、カロチノイド色素を生産する微生物を培養し、得られるカロチノイド色素を生産する微生物の培養液又は培養濃縮液に、カロチノイド色素の保存安定性を向上させる賦形剤として、米糠を混合し、次いで乾燥することが必要であって、例えばカロチノイド色素を生産する微生物の培養液を乾燥させた後に米糠を混合したとしても、保存安定性に優れたカロチノイド色素含有組成物を得ることはできない。
【0026】
次に、このようにして製造されたカロチノイド色素含有組成物を提供するのが、請求項6に係る本発明である。
【0027】
カロチノイド色素を生産する微生物としては、請求項7に記載したように、その16SリボソームRNAに対応するDNAの塩基配列が配列番号1に記載の塩基配列若しくは該塩基配列と実質的に相同であるカロチノイド色素生産微生物が挙げられる。
ここで言う実質的に相同であるとは、DNAの塩基配列決定の際のエラー頻度等を考慮し、98%以上の相同性であることを意味する。
また、上記塩基配列若しくは該塩基配列と実質的に相同な配列を有するカロチノイド色素生産微生物としては、前記請求項4に関する説明中に記載したものを挙げることができる。
【0028】
請求項6に係る本発明においてカロチノイド色素を生産する微生物として具体的には、請求項8に記載したように、パラコッカス・カロチニファシエンス(Paracoccus carotinifaciens)E−396株(FERM BP−4283)とその変異株、及びパラコッカス・カロチニファシエンス(Paracoccus carotinifaciens)A−581−1株(FERM BP−4671)とその変異株の中から選ばれたものが好ましい。
【0029】
次に、請求項9に係る本発明は、請求項6〜8のいずれかに記載の組成物を配合してなる飼料であって、請求項6〜8のいずれかに記載の組成物を、体色改善乃至色調改善剤として、配合してなるものである。
ここで請求項6に記載の組成物は、前記したように、カロチノイド色素を生産する微生物を培養し、得られるカロチノイド色素を生産する微生物の培養液又は培養濃縮液に、米糠を混合し、次いで乾燥することにより得られる、保存安定性に優れたカロチノイド色素含有組成物であって、該組成物は、請求項1に係る本発明の方法により得られる保存安定性に優れたカロチノイド色素含有組成物である。なお、請求項7、8は、上記請求項6に従属しているものである。
従って、カロチノイド色素含有組成物の製造条件については、請求項1に係る本発明と同様にして行うことができる。
【0030】
なお、飼料原料としては、養殖魚介類用やニワトリ用の飼料などとして通常使用されているものをその用途に応じて用いることができる。例えば、魚肉、魚粉、肉骨粉、大豆油粕、コーングルテンミール、小麦粉、ビタミン等を挙げることができる。
請求項9に係る本発明の飼料は、このような飼料原料に、請求項1に係る本発明の方法により得られる保存安定性に優れたカロチノイド色素含有組成物を、体色改善乃至色調改善剤として配合し、ペレット状やマッシュ状に成形してなるものである。
請求項1に係る本発明の方法により得られる保存安定性に優れたカロチノイド色素含有組成物の飼料への配合量は、飼料安全法等の規制に基づき、使用場面、期間等を勘案し適宜決定することが望ましい。
上記した如き請求項9に係る本発明によれば、体色改善乃至色調改善能に優れた飼料が提供される。
【実施例】
【0031】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに説明するが、本発明はこれによって何ら制限されるものではない。
【0032】
実施例1
特開2001−352995号公報の実施例1に示されたE−396株(FERM BP−4283)の培養方法に準じて行った。
即ち、まず表1の組成からなる培地100mLを500mL容量の三角フラスコに入れ121℃、20分間蒸気殺菌した。
これにカロチノイド色素を生産する微生物パラコッカス・カロチニファシエンス(Paracoccus carotinifaciens )E−396株(FERM BP−4283)を1白金耳植菌し、28℃で2日間、220rpmの振盪培養を行った。
この培養液10mLを、上記と同組成の表1の組成からなる培地500mLが入った2L容量の三角フラスコに植菌し、28℃で24時間、220rpmの振盪培養を行った。
次に、この培養液200mLを表2の組成からなる培地4Lが入った7L容量のジャーファーメンターに植菌、28℃、通気1vvm、溶存酸素濃度が最低2.5ppmを維持できるよう撹拌の自動制御、培養中のpHが7.2以上に維持できるよう苛性ソーダでの自動制御を行い、150〜170時間培養を行った。また、シュークロースは生育と共に消費されるので、培養開始1日目及び2日目にそれぞれ60gずつ添加した。
その結果得られた培養液を遠心分離し不溶成分を濃縮、この濃縮液(カロチノイド色素1280mg/L含有、乾燥菌体量40.4g/L)1L当たり米糠(中国油脂製)48g及び72gを加え混合した。これをスプレー式乾燥機(入口空気温度150℃,出口空気温度100℃)にて乾燥し、カロチノイド色素含有組成物粉末を得た。
【0033】
得られたカロチノイド色素含有組成物粉末を空気雰囲気下、40℃、湿度75%の条件にて保管し、1ヶ月間保管中のカロチノイド色素含量の経時変化を調査した。
それぞれの実験区において、始発(0日目)含量に対する7、14、30日経過後のカロチノイド色素残存量を比率(残存率)で表3に示す。
表3によれば、米糠の添加量が増すに従い、カロチノイド色素の残存率が向上することが示された。
【0034】
【表1】

【0035】
【表2】

【0036】
【表3】

【0037】
実施例2
上記実施例1と同様にして調製したパラコッカス・カロチニファシエンス(Paracoccus carotinifaciens )E−396株(FERM BP−4283)の培養濃縮液(カロチノイド色素1332mg/L 含有、乾燥菌体量41.6g/L)1L当たり米糠(中国油脂製)95gを加え、スプレー式乾燥機にて乾燥し、カロチノイド色素含有組成物粉末を得た。
得られたカロチノイド色素含有組成物粉末100gを市販の養鶏用飼料と混合し1000gとした。
これをエサ保存用の袋にて密閉下、40℃、湿度75%及び50℃、湿度75%の条件にてそれぞれ保管し、1ヶ月間保管中のカロチノイド色素含量の経時変化を調査した。
【0038】
それぞれの実験区における14、30日経過後のカロチノイド色素の残存率を表4に示す。
表4によれば、40℃、湿度75%条件において米糠無添加ではエサと混合することにより残存率が低下する傾向が示されたのに対し、米糠添加区では残存率が向上し保存安定性が増すことが分かった。
また、過酷な条件(50℃、湿度75%)下においても、14日目の残存率は無添加区の2倍以上、30日目では約7倍、始発の70%が残存しており、高温・高湿度条件下での長期間安定化効果が認められた。
【0039】
【表4】

【0040】
実施例3
実施例2で調製したカロチノイド色素含有組成物粉末(米糠添加粉末)の安定性を、一般に鶏卵の卵黄の色調改善用として用いられている市販のパプリカ色素(商品名:カラーアップ;エトキシキン0.5%含有)の安定性と比較した。
それぞれの粉末を空気雰囲気下、50℃、湿度75%の条件にて保管し、1ヶ月間保管中のカロチノイド色素含量の経時変化を調査した。結果を表5に示す。
【0041】
表5によれば、エトキシキン0.5%を含有する市販のパプリカ色素に対し、実施例2で調製したカロチノイド色素含有組成物粉末(米糠添加粉末)は、14日目及び30日目のいずれもカロチノイド色素の残存率が高く、安定性の向上効果が認められた。
【0042】
【表5】

【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、飼料分野をはじめ、食品分野等において有効に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カロチノイド色素を生産する微生物を培養し、得られるカロチノイド色素を生産する微生物の培養液又は培養濃縮液に、米糠を混合し、次いで乾燥することを特徴とする、保存安定性に優れたカロチノイド色素含有組成物の製造方法。
【請求項2】
カロチノイド色素を生産する微生物が、パラコッカス(Paracoccus)属、ヘマトコッカス(Haematococcus)属又はファフィア(Phaffia)属に属するものである請求項1記載の方法。
【請求項3】
パラコッカス(Paracoccus)属微生物が、パラコッカス・カロチニファシエンス(Paracoccus carotinifaciens)である請求項2記載の方法。
【請求項4】
カロチノイド色素を生産する微生物が、16SリボソームRNAに対応するDNAの塩基配列が配列番号1に記載の塩基配列若しくは該塩基配列と実質的に相同のものである請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
カロチノイド色素を生産する微生物が、E−396株(FERM BP−4283)とその変異株、及びA−581−1株(FERM BP−4671)とその変異株から選ばれたものである請求項4記載の方法。
【請求項6】
カロチノイド色素を生産する微生物を培養し、得られるカロチノイド色素を生産する微生物の培養液又は培養濃縮液に、米糠を混合し、次いで乾燥することにより得られる、保存安定性に優れたカロチノイド色素含有組成物。
【請求項7】
カロチノイド色素を生産する微生物が、16SリボソームRNAに対応するDNAの塩基配列が配列番号1に記載の塩基配列若しくは該塩基配列と実質的に相同のものである請求項6記載の組成物。
【請求項8】
カロチノイド色素を生産する微生物が、E−396株(FERM BP−4283)とその変異株、及びA−581−1株(FERM BP−4671)とその変異株から選ばれたものである請求項7記載の組成物。
【請求項9】
請求項6〜8のいずれかに記載の組成物を配合してなる飼料。

【公開番号】特開2006−101721(P2006−101721A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−289651(P2004−289651)
【出願日】平成16年10月1日(2004.10.1)
【出願人】(000006091)明治製菓株式会社 (180)
【出願人】(000004444)新日本石油株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】