説明

保存安定性を向上させた油性懸濁除草製剤。

【課題】スルホニルウレア系除草活性化合物を含む農薬製剤の保存安定性を確保する技術を提供する。
【解決手段】飽和炭化水素系溶剤にスルホニルウレア系除草活性化合物を懸濁させた油性製剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保存安定性を向上させた油性懸濁除草製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
わが国の農業において水稲の栽培面積は圧倒的に大きく、湛水条件で栽培する点でその他の畑作物とは根本的に異なる。水稲で使用される農薬は大量の水を介してその活性を最大化するため、水中拡散性および水中安定性もしくは水中徐放性などが求められる。従って、農薬の剤型の多くは、この場面における省力化もしくは安全性の向上、効果の向上を求めて発展してきた。近年では散布労力軽減を目的とし、湛水条件の水田に直接滴下散布する方法、およびそれに適する水性懸濁除草製剤の研究開発が盛んに行われている。
【0003】
一方、畑作物および芝草の栽培、管理場面においては降雨以外の水の供給がなく、農薬の散布斑もしくは有効成分の揮散および土壌での拡散不足などにより効果が安定しづらい性質を有している。従って、使用される農薬の剤型は対象とする生物に対する浸透性、濡れ性および土壌中での拡散性に優れる、もしくは有効成分の揮散を軽減化する特徴を有する乳剤が多く存在する。
【0004】
スルホニルウレア系除草活性化合物は、除草剤の有効成分として極めて高活性を有することが知られている。この活性化合物自体は、通常の保存条件では、殆ど分解せず化学的に安定であるが、比較的加水分解性が高いことが知られている。従って水を含有する懸濁製剤においては、その分解を抑制し安定化させる技術としてpHを6以下に調整する、もしくは脂肪酸エステルを含有させるなどの技術が特許出願されている。
【特許文献1】特許公開平5−105606
【特許文献2】特許公開平5−320012
【特許文献3】特許公開2000−95620
【0005】
スルホニルウレア系除草活性化合物の油性懸濁製剤としては、ニコスルフロン(ISO名nicosulfuron)乳剤(ワンホープ乳剤 石原バイオサイエンス株式会社商品)が販売されており、植物油を使用した懸濁製剤であることが知られている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
スルホニルウレア系除草活性化合物は、有機溶媒に対する溶解性が低く、反応性に優れるため、安定性を確保しながら水に希釈して使用される剤型としては、殆どの化合物で水和剤が用いられてきた。水和剤は生物に対する浸透性、濡れ性および土壌中での拡散性に乏しく、散布斑や降雨条件によりこの除草活性化合物の効果が安定しない性質を有する。
【0007】
スルホニルウレア系除草活性化合物、水および溶剤を含有する液状製剤はそれぞれの物質同士の物理的接触確率が高く、長期保存条件下ではこの活性化合物の分解を十分に抑制することが難しい、もしくは十分な保存安定性を確保するためには、製造工程でコストが掛かるなどの問題を抱えている。
【0008】
また、スルホニルウレア系除草活性化合物は、除草剤の有効成分として、その他系統の除草活性化合物とは異なる特性を有するものが多く、現在の除草活性化合物の中で欠くことのできない化合物の一つである。
【0009】
この活性化合物に属する化合物の一般的な特性としては、生育期の広葉雑草に対する活性が高い。一方、特異的に活性が高い草種を除き、イネ科雑草には一般的に活性が低いことが知られている。このことから、スルホニルウレア系除草活性化合物はイネ科雑草に高い除草活性を有する化合物と混合することにより殺草スペクトルを補完する、もしくは雑草の発生から出芽に至る生育ステージ始期に活性を有する化合物と混合することにより処理適期を拡大する技術が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らはスルホニルウレア系除草活性化合物と液体担体で構成する油性懸濁製剤の検討を重ね、飽和炭化水素系溶剤に薬剤を懸濁分散させた。このことによりスルホニルウレア系除草活性化合物の分解を大きく抑制することを見出した。また、スルホニルウレア系除草活性化合物とその他の農薬と定義される化合物を含有する油性懸濁製剤中のスルホニルウレア系除草活性化合物の分解は同様に抑制された。
【0011】
本発明に関わる油性懸濁製剤において、使用し得るスルホニルウレア系除草活性化合物としては、特に限定されるものではないが、例えば、チフェンスルフロンメチル(ISO名thifensulfuron−methyl)、リムスルフロン(ISO名rimsulfuron)、メトスルフロンメチル(ISO名metsulfuron−methyl)、シクロスルファムロン(ISO名cyclosulfamuron)などが挙げられる。
【0012】
またスルホニルウレア系除草活性化合物の含有量は、製剤品全重量に対して容易に懸濁状態が維持される0.1〜10重量%であることが望ましいが、特に限定されるものではない。
【0013】
また除草対象となる雑草の種類に応じてその他の活性成分を1種類もしくは2種類以上混合して使用する場合にあっては、例えばカーバメート系化合物のフェンメディファム(ISO名phenmedipham)、ベンチオカーブ(ISO名thiobencarb)、酸アミド系化合物のアラクロール(ISO名alachlor)、ジメテナミド(ISO名dimethenamid)、メトラクロール(ISO名metolachlor)、ダイアゾール系化合物のピラフルフェンエチル(ISO名pyraflufen−methyl)、ジニトロアニリン系化合物のトリフルラリン(ISO名trifluralin)、ベンフルラリン(ISO名benfluralin)、ペンディメタリン(ISO名pendimethalin)、芳香族カルボン酸系化合物のイマザピル(ISO名imazapyr)、フェノール系化合物のアイオキシニル(ISO名ioxynil octanoate)、その他、インダノファン(ISO名indanofan)、シンメチリン(ISO名cinmethylin)、オキサジクロメホン(ISO名oxaziclomefone)などが挙げられる。また、殺虫、殺菌を対象とするその他の農薬有効成分をスルホニルウレア系除草活性化合物と混合して使用する場合にあっても本技術を用いることが可能である。
【0014】
本発明に関わる油性懸濁製剤で使用し得る有機溶剤は極めて極性が低い飽和炭化水素系溶剤であり、パラフィン系炭化水素溶剤、ナフテン系炭化水素溶剤、イソパラフィン系炭化水素溶剤が挙げられる。これらの溶剤類の中で消防法の第4類、第3石油類に分類され、引火点が高く、使用者への安全性および流通、保存、管理の利便性に優れているものが望ましい。
【0015】
スルホニルウレア系除草活性化合物の安定性をより高めるためには飽和炭化水素系有機溶剤の含有量は、製剤品全重量に対して25重量%以上であることが望ましい。
【0016】
また、スルホニルウレア系除草活性化合物、もしくはその他の農薬と混合した油性懸濁製剤を散布するにあたり、水に乳化懸濁させる、また散布斑をなくし、薬剤の対象植物および病害生物への浸透を促す目的で界面活性剤を用いることができる。
【0017】
多くの界面活性剤があるが、例えば、陰イオン界面活性剤としては、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ジアルキルスルホサクシネート、ジアルキルリン酸塩、脂肪酸塩、ポリアクリル酸塩、ポリカルボン酸塩、モノアルキルリン酸塩、リグニンスルホン酸塩等があげられる。陽イオン界面活性剤としては、アルキルジメチルベンザルコニウムクロライド、アルキルトリメチルアンモニウムクロライド、アルキルペンタメチルプロピレンジアミンジクロライド、アルキル−N−メチルピリジニウムブロマイド、ベンゼトニウムクロライド、ポリオキシエチレンアルキルアミン、メチルポリオキシエチレンアルキルアンモニウムクロライド等があげられる。また、非イオン界面活性剤としては、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルホルマリン縮合物、ポリオキシアルキレンベンジルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等があげられる。両性イオン界面活性剤としては、アルキルベタイン等があげられる。界面活性剤は単独もしくは混合して用いられ、その使用量は、製剤品全重量に対して3〜15重量%が望ましい。
【0018】
本発明の油性懸濁製剤によってスルホニルウレア系除草活性化合物の保存安定性が向上するメカニズムは、極性が極めて低い飽和炭化水素系有機溶剤を用いることで、極性が高く反応性に富むスルホニルウレア系除草活性化合物の分子間の接触が抑制されるものと推定される。また、スルホニルウレア系除草活性化合物を含む2種類以上の活性化合物を混合する場合、親油性の高い活性化合物は飽和炭化水素系溶剤に溶解させる、親水性の高い活性化合物はスルホニルウレア系除草活性化合物と同様に懸濁化させる。その際に活性化合物同士の接触による分解が懸念される場合は、スルホニルウレア系除草活性化合物と飽和炭化水素系溶剤をあらかじめ懸濁混合しておく、もしくはスルホニルウレア系除草活性化合物以外の活性成分と飽和炭化水素系溶剤をあらかじめ懸濁混合しておくことも活性化合物同士の接触を防止する上で重要である。
【発明の効果】
【0019】
水に希釈して使用するスルホニルウレア系除草活性化合物を含む油性懸濁製剤の保存安定性を向上する。
【0020】
スルホニルウレア系除草活性化合物とその他の農薬と定義される化合物の混合油性懸濁製剤の保存安定性を向上する。
【0021】
スルホニルウレア系除草活性化合物とその他の農薬と定義される化合物を容易に混合する製剤技術を提供する。
【0022】
スルホニルウレア系除草活性化合物の生物に対する浸透性、濡れ性および土壌中での拡散性を高め、低い投下薬量で対象雑草に対する除草効果を安定化させる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
(製剤例1)チフェンスルフロンメチル0.75%有機溶剤混合液の調製
ボールミルで微粉化したチフェンスルフロンメチル75.0%顆粒水和剤(ハーモニー顆粒水和剤 デュポン株式会社商品)0.20gと、1.パラフィン系炭化水素溶剤(サートレックス60 エクソンモービル有限会社商品)、2.ナフテン系炭化水素溶剤(エクソールD−80 エクソンモービル有限会社商品)、3.イソパラフィン系炭化水素溶剤(アイソパーM エクソンモービル有限会社商品)、4.芳香族系炭化水素溶剤(ソルベッソ200 エクソンモービル有限会社商品)、5.トリメチルベンゼン(和光純薬工業株式会社商品)、6.大豆油(和光純薬工業株式会社商品)、7.亜麻仁油(和光純薬工業株式会社商品)、8.ジメチルスルホキシド(東京化成工業株式会社商品)、9.N−メチルピロリドン(東京化成工業株式会社商品)のいずれか1種類19.80gを攪拌混合して求める有機溶剤混合液20.0gを得た。
【0023】
(製剤例2)シクロスルファムロン1.0%有機溶剤混合液の調製
ボールミルで微粉化したシクロスルファムロン10.0%水和剤(ダブルアップ水和剤日本サイアナミッド株式会社商品)2.00gと、有機溶剤として製剤例1と同様の1.パラフィン系炭化水素溶剤、2.ナフテン系炭化水素溶剤、3.イソパラフィン系炭化水素溶剤、4.芳香族系炭化水素溶剤、5.トリメチルベンゼン、6.大豆油、7.亜麻仁油、8.ジメチルスルホキシド、9.N−メチルピロリドンのいずれか1種類18.00gを攪拌混合して求める有機溶剤混合液20.0gを得た。
【0024】
(製剤例3)リムスルフロン1.0%有機溶剤混合液の調製
ボールミルで微粉化したリムスルフロン23.5%顆粒水和剤(ハーレイ顆粒水和剤 デュポン株式会社商品)0.85gと、有機溶剤として製剤例1と同様の1.パラフィン系炭化水素溶剤、2.ナフテン系炭化水素溶剤、3.イソパラフィン系炭化水素溶剤、4.芳香族系炭化水素溶剤、5.トリメチルベンゼン、6.大豆油、7.亜麻仁油、8.ジメチルスルホキシド、9.N−メチルピロリドンのいずれか1種類19.15gを攪拌混合して求める有機溶剤混合液20.0gを得た。
【0025】
(製剤例4)チフェンスルフロンメチル0.75%と市販除草活性乳剤混合液の調製
ボールミルで微粉化したチフェンスルフロンメチル75.0%顆粒水和剤0.20gと、市販除草活性乳剤として1.ベンチオカーブ50.0%乳剤(サターン乳剤 クミアイ化学工業株式会社商品)、2.ジメテナミド76.0%乳剤(フィールドスター乳剤 BASFアグロ株式会社商品)、3.シンメチリン72.0%乳剤(アゴールド乳剤 BASFアグロ株式会社商品)の各々19.80gを攪拌混合して求める乳剤混合液20.0gを得た。
(製剤例5)チフェンスルフロンメチル3.0%油性懸濁製剤の調製
ボールミルで微粉砕化したチフェンスルフロンメチル75.0%顆粒水和剤0.80gと、イソパラフィン系炭化水素溶剤(アイソパーM エクソンモービル有限会社商品)17.20gを混合した。次いでポリオキシエチレンアルキルエーテル、アルキルアリルスルホネート混合界面活性剤(ソルポール3006S 東邦化学工業株式会社商品)2.00gを添加、攪拌混合して求める油性懸濁製剤20.0gを得た。
【0026】
(製剤例6)チフェンスルフロンメチル1.0%とベンチオカーブ30.0%油性懸濁製剤の調製
ボールミルで微粉砕化したチフェンスルフロンメチル75.0%顆粒水和剤0.26gと1.パラフィン系炭化水素溶剤(サートレックス60 エクソンモービル有限会社商品)、2.ナフテン系炭化水素溶剤(エクソールD−80 エクソンモービル有限会社商品)、3.イソパラフィン系炭化水素溶剤(アイソパーM エクソンモービル有限会社商品)、4.芳香族系炭化水素溶剤(ソルベッソ200 エクソンモービル有限会社商品)、5.大豆油の各6.24gを混合した。次いでベンチオカーブ50.0%乳剤12.00gを加え、続いて、パラフィン系炭化水素溶剤、ナフテン系炭化水素溶剤、イソパラフィン系炭化水素溶剤の場合は、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、アルキルアリルスルホネート混合界面活性剤(ソルポール3006S 東邦化学工業株式会社商品)、芳香族系炭化水素溶剤の場合は、ポリオキシエチレントリスチリルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンジスチリルフェニルエーテルホルムアルデヒド縮合物、アルキルベンゼンスルホン酸カルシウム混合界面活性剤(ソルポール3880H 東邦化学工業株式会社商品)、大豆油の場合は、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ジアルキルスルホサクシネート混合界面活性剤(ソルポール3415H 東邦化学工業株式会社商品)を1.50g添加、攪拌混合して求める油性懸濁製剤20.0gを得た。
【0027】
(分解加速試験例1)
製剤例1より得られた有機溶剤混合液を50℃の恒温器中に14日間保存した後、スルホニルウレア系除草活性化合物の含有量を高速液体クロマトグラフィー(島津製作所製LC−2010C)で測定した。固定相はオクタデシルシラン系カラム(ZORBAX SB−C8 4.6×150mm Agilent Technologies)を使用し、移動相はアセトニトリルとpH3に調節したリン酸水溶液(35対65)を用いた。その結果を経時後のチフェンスルフロンメチルの残存率として第1表に示す。
【0028】
第1表

【0029】
(分解加速試験例2)
製剤例2より得られた有機溶剤混合液を50℃の恒温器中に14日間保存した後、分解加速試験例1と同様に測定した。その結果を経時後のシクロスルファムロンの残存率として第2表に示す。
【0030】
第2表

【0031】
(分解加速試験例3)
製剤例3より得られた有機溶剤混合液を50℃の恒温器中に14日間保存した後、分解加速試験例1と同様に測定した。その結果を経時後のリムスルフロンの残存率として第3表に示す。
【0032】
第3表

【0033】
(分解加速試験例4)
製剤例4より得られた市販除草活性乳剤とチフェンスルフロンメチル顆粒水和剤の混合液を50℃の恒温器中に14日間保存した後、分解加速試験例1の分析条件から、アセトニトリルとpH3に調節したリン酸水溶液を45対55から55対45まで連続変化させる移動相に変えてスルホニルウレア系除草活性化合物の含有量を測定した。その結果をチフェンスルフロンメチルの残存率として第4表に示す。
【0034】
第4表

【0035】
(分解加速試験例5)
製剤例5、製剤例6より得られたチフェンスルフロンメチル油性懸濁製剤およびチフェンスルフロンメチルとベンチオカーブの混合油性懸濁製剤を50℃の恒温器中に14日間保存した後、分解加速試験例4と同様の分析条件で測定した。その結果をチフェンスルフロンメチルの残存率として第5表に示す。
【0036】
第5表

【0037】
(効果試験例1)ポット試験
200cmポットに養生したイネ科雑草の2葉期のスズメノテッポウに対し、製剤例5によるチフェンスルフロンメチル油性懸濁製剤および市販のチフェンスルフロンメチル顆粒水和剤の所定量を有効成分量が等しくなるように処理した。各薬剤2反復として2004年12月19日に実施した。薬剤処理1週間後、2週間後、4週間後のスズメノテッポウに対する除草効果を薬剤に対する反応の度合いにより評価した。その結果の平均値を第6表に示す。
【0038】
第6表


【特許請求の範囲】
【請求項1】
スルホニルウレア系除草活性化合物を含有する飽和炭化水素系油性懸濁製剤。
【請求項2】
スルホニルウレア系除草活性化合物およびその他の農薬と定義される化合物から選ばれるいずれか一つ以上を含有する飽和炭化水素系油性懸濁製剤。

【公開番号】特開2006−257063(P2006−257063A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−116231(P2005−116231)
【出願日】平成17年3月17日(2005.3.17)
【出願人】(593182923)丸和バイオケミカル株式会社 (25)
【Fターム(参考)】