説明

保守装置及び液滴吐出装置

【課題】ワイパー1の劣化を抑えることができる保守装置10を提供する。
【解決手段】印刷を行なう液滴吐出装置50のヘッド21の保守装置10は、付着物を拭き取るワイパー1と、ワイパー1を清掃するワイパー清掃部6と、ワイパー1を移動させる樹脂ベルト4と、ワイパー1が上記付着物を拭き取るときのヘッド21の位置とワイパー清掃部6の位置との間に、ワイパー清掃部6の位置側にあるワイパー1を保護するワイパー保護壁5と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は保守装置及び液滴吐出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1にはノズル面を払拭する払拭部材に付着した液体を拭き取る液体拭き取り部が設けられた液体噴射装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−95704号公報(2006年4月13日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、耐候性インクとして採用が進んでいるラテックスインクを用いる場合には、キャリッジ又はプラテンに強力なヒーターを設けて、ヒーターによる加熱でインクを定着させる。このようなインクを用いるプリンタに特許文献1に記載の払拭部材を用いる場合、払拭部材及び液体拭き取り部がヒーターの近傍に配置される。払拭部材及び液体拭き取り部は柔らかい樹脂で形成されているので、ヒーターの熱の影響を受けて樹脂が劣化してしまうという問題が生じる。また、払拭部材の清掃に溶剤を用いる場合、溶剤が気化してしまい、安定した清掃効果が得られないという問題も生じる。
【0005】
本発明はこのような問題に鑑みてなされたものであり、ヒーターを用いる液滴吐出装置であっても、ノズルが設けられた面の付着物を拭き取る拭き取り部の劣化を抑えることができる保守装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る保守装置は、ヘッドに設けられたノズルから液滴を吐出することで被記録媒体に印刷を行なう液滴吐出装置の上記ヘッドの保守装置であって、ヘッドの表面であってノズルが設けられた面上の付着物を拭き取る拭き取り部と、上記拭き取り部を清掃する清掃部と、上記拭き取り部を移動させる移動機構と、上記拭き取り部が上記付着物を拭き取るときの上記ヘッドの位置と上記清掃部の位置との間に、上記清掃部の位置側にある上記拭き取り部を保護する拭き取り部保護壁と、を備えることを特徴としている。
【0007】
ヘッド、又は、被記録媒体が載せられるプラテンに熱源が設けられている場合、拭き取り部保護壁によって拭き取り部を熱の影響から保護することができる。よって、ヒーターを用いる液滴吐出装置であっても、ノズルが設けられた面の付着物を拭き取る拭き取り部の劣化を抑えることができる。なお、プラテンは被記録媒体を載せる台であるので、ヘッドが液滴を吐出している領域に存在する。つまり、拭き取り部保護壁が、拭き取り部が付着物を拭き取るときのヘッドの位置と清掃部の位置との間にあれば、拭き取り部が清掃部の位置に格納されているとき、自ずと拭き取り部保護壁は拭き取り部とプラテンとの間にあることになるので、拭き取り部はプラテンの熱源から保護される。
【0008】
本発明に係る保守装置では、上記拭き取り部保護壁は、上記移動機構によって移動する上記拭き取り部がくぐる開口部が設けられており、上記拭き取り部に、上記開口部が形成する開口面に対して垂直方向に光を当てて、当該開口面を含む面に形成される投影面が、上記付着物を拭き取るときより小さくなる形態にする拭き取り部駆動機構を備え、上記拭き取り部駆動機構は、上記拭き取り部が上記開口部をくぐるときに当該形態にすることがより好ましい。
【0009】
拭き取り部駆動機構により、拭き取り部の投影面が小さくなる形態にしているため、開口面を、付着物を拭き取るときの拭き取り部の投影面よりも小さくしても、拭き取り部が拭き取り部保護壁の開口部をくぐることができる。つまり、開口面をより小さくすることができるため、開口部を通じて、清掃部の位置に格納されている拭き取り部に伝わる熱量をより少なくし、当該拭き取り部の劣化をより抑えることができる。
【0010】
本発明に係る保守装置では、上記拭き取り部の支持部に2本の軸部が貫通して設けられており、上記移動機構は、互いに対向する面状部材を備え、当該面状部材には、それぞれ上記拭き取り部を移動させる方向に沿って2列の溝が設けられており、2本の上記軸部の両端は、それぞれ2列の上記溝に嵌合しており、2列の上記溝の幅は、少なくとも2種類あることがより好ましい。
【0011】
移動機構は、溝が設けられた面状部材を備えているため、溝に沿って支持部及び拭き取り部が移動する。また、2列の溝の幅は複数存在するため、当該幅の相違によって、支持部が傾斜する。支持部が傾斜することによって、拭き取り部も傾斜し、当該拭き取り部の投影面を、付着物を拭き取るときの拭き取り部の投影面よりも小さくできる。つまり、拭き取り部を傾斜させることで拭き取り部がくぐるために必要な開口面の面積を小さくすることができ、格納されている拭き取り部の熱による劣化をより抑えることができる。また、移動機構以外に駆動機構を設けることなく、拭き取り部を傾斜させるため、コストを削減することができる。
【0012】
本発明に係る保守装置では、自装置を上記投影面が鉛直になるように設置したとき、2列の上記幅が、広い方の幅は上記拭き取り部が上記ヘッドのノズルが設けられた面を拭き取る位置であって、上記拭き取り部の鉛直方向の高さが上記開口面の鉛直方向の高さを超えるように上記支持部を傾ける幅であり、狭い方の幅は上記拭き取り部の鉛直方向の高さが、上記開口面の鉛直方向の高さより低くなるように上記支持部を傾ける幅であることがより好ましい。
【0013】
広い方の幅の場合には、拭き取り部が開口部をくぐることはできないが、狭い方の幅の場合には、傾斜させることによって拭き取り部が開口部をくぐることができる。拭き取り部を傾斜させることで拭き取り部がくぐるために必要な開口面の面積を小さくすることができ、格納されている拭き取り部の熱による劣化をより抑えることができる。
【0014】
本発明に係る保守装置では、上記移動機構による上記拭き取り部の軌道は一直線上であり、当該一直線上に上記付着物を拭き取られるときの上記ヘッド及び上記清掃部が位置していることがより好ましい。
【0015】
拭き取り部を一直線上に移動させることによって、ヘッドの表面であってノズルが設けられた面上の付着物を拭き取り、拭き取り部に拭き取り部保護壁の開口部をくぐらせ、拭き取り部を清掃することができる。つまり、保守装置の構成を単純にすることができるため、コスト削減を図ることができる。
【0016】
本発明に係る保守装置では、上記移動機構は樹脂ベルトで上記支持部を移動させることで上記拭き取り部を移動させるものであり、上記樹脂ベルトと上記拭き取り部が上記付着物を拭き取るときの上記ヘッドの位置との間に樹脂ベルト保護壁を備えていることが好ましい。
【0017】
簡単な構造で拭き取り部を移動させることができる。また、ヒーターを用いる液滴吐出装置であっても、樹脂ベルト保護壁を備えることによって、樹脂ベルトの劣化を防止することができる。
【0018】
また、本発明に係る液滴吐出装置は、上記の保守装置を備えている。
【0019】
上記保守装置を備えることによって、ヒーターを用いる液滴吐出装置であっても、拭き取り部の劣化を抑えることができる。
【発明の効果】
【0020】
以上のように、本発明に係る保守装置は、ヒーターを用いる液滴吐出装置であっても、ノズルが設けられた面の付着物を拭き取る拭き取り部の劣化を抑えることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施形態である液滴吐出装置50の構成を模式的に示す図である。
【図2】本発明の一実施形態である保守装置10の構成を模式的に示す図である。
【図3】ワイパー1及びワイパー支持部2の移動の軌道を簡略化して示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係る液滴吐出装置の一実施形態について、図1から図3を用いて詳細に説明する。
【0023】
〔液滴吐出装置50の構成〕
まず、本発明に係る液滴吐出装置の一実施形態である液滴吐出装置50の構成について図1を用いて説明する。図1は、液滴吐出装置50の構成を模式的に示す図である。
【0024】
図1に示すように、液滴吐出装置50は保守装置10、キャリッジ20、ヒーター23、フラッシング用ステーション30及びガイド機構40を備えている。また、液滴吐出装置50は、メディア(被記録媒体)100に対して、インク(液滴)を吐出し、図、文字等を印刷するためのものである。
【0025】
保守装置10は、ワイパー1を用いて後述するヘッド21のノズル22が設けられた面(フェイス)上の付着部を拭き取り(ワイピング)、また、ヘッド21の清掃により汚れたワイパー1をワイパー清掃部6によって清掃するための装置である。なお、保守装置10の詳しい構成については、後述する。
【0026】
キャリッジ20は、ヘッド21を搭載しており、また、側部にヒーター23を備えている。ヘッド21は、インクを格納し、かつメディア100に対して、インクを吐出するためのものである。ヘッド21のメディア100に対向する面には、複数のノズル22が設けられている。ヘッド21は、印刷中において、ガイド機構40に支持されているキャリッジ20が矢印X方向に往復運動し、メディア100上を走査しているときに、印刷する図形等の情報に応じて、メディア100にインクを吐出する。
【0027】
ヒーター23は、メディア100に吐出されたインクを定着させるための熱源である。そのため、ヒーター23は、キャリッジ20の側部であればどこに設けられていてもよく、キャリッジ20に保持させる代わりに、メディア100を載置するプラテンに設けても、メディア100上のインクを定着させることが可能である。また、ヒーター23の代わりに熱風を送風する機器等、インクを定着させる熱源を設けてもよい。このような熱源を有する液滴吐出装置では、ヘッドの保守装置を構成する樹脂部材が熱により劣化する。特に作図途中にワイピング等の保守を行なう装置においては、熱源が高温を保ったまま、ワイパー等のワイピング機構に接近することになるため、樹脂部材が劣化するという問題は顕著になる。本発明によれば、拭き取り部保護壁を備えることにより、ワイパー等の拭き取り部や拭き取り部の清掃機構が熱により劣化したり、拭き取り部の清掃機構に溶剤を用いる場合に起こる溶剤の揮発によって清掃効率が落ちたりするという問題を解決することができる。
【0028】
フラッシング用ステーション30は、フラッシングを行なうための場所であり、保守装置10に隣接して設けられている。ヘッド21はフラッシング用ステーション30上まで移動した後にフラッシングを行い、ノズル22の清掃が行われる。ここで、「フラッシング」とは、ヘッドが備える振動素子(図示せず;例えば圧電素子等)によってノズル22に連通するインク室を振動させることによって、ノズルからインクを吐出して、混色したインクなどを排出することをいう。
【0029】
ガイド機構40は、キャリッジ20を支持しており、キャリッジ20の移動範囲を規定するものである。キャリッジ20がメディア100上を走査しているときは、ガイド機構40に沿って、矢印X方向に往復運動している。また、キャリッジ20は、ヘッド21の面上をワイピングする必要が生じたときは、保守装置10上に移動し、フラッシングが必要なときは、フラッシング用ステーション30上に移動する。
【0030】
〔保守装置10の構成〕
次に、本発明に係る保守装置の一実施形態について図2を用いて説明する。図2は、保守装置10の構成を模式的に示す図である。保守装置10は、ワイパー(拭き取り部)1、ワイパー支持部(支持部)2、樹脂ベルト保護壁(移動機構、面状部材、樹脂ベルト保護壁)3、樹脂ベルト(移動機構)4、ワイパー保護壁(拭き取り部保護壁)5、ワイパー清掃部(清掃部)6及び後述の図3に示す軸部7を備えている。
【0031】
ワイパー1は、ノズル22が設けられているヘッド21の表面に接触した状態のまま移動することによって、当該表面上の付着物を拭き取るための部材である。ワイパー支持部2は、ワイパー1を支持し、かつ移動させる部材である。さらに、ワイパー支持部2には、上下に2本の軸部7が貫通して設けられている。
【0032】
なお、ワイパーに好ましい材質としては、ヘッドを傷つけない程度の弾性を有し、ある程度の耐薬品性を有する材料であればよい。例えば天然ゴムや合成ゴムなどが挙げられる。
【0033】
樹脂ベルト保護壁3は、ガイド機構40に沿って、キャリッジ20が保守装置10と対面するまで、移動した場合に、キャリッジ20と樹脂ベルト4との間に位置して、ヒーター23から樹脂ベルト4を保護するための部材である。また、樹脂ベルト保護壁3は、互いに対向する面状部材を備えており、当該面状部材には、上下に2列の溝が設けられている。2列の上記溝はともに、ワイパー1を移動させる方向に沿って設けられており、さらに対向する面状部材の間にワイパー支持部2が位置している。そして、2本の軸部7の両端はそれぞれ2列の溝に嵌合しているため、当該溝に沿って、ワイパー支持部2は移動する。また、面状部材の溝はワイパー支持部2の移動範囲及び移動方法を規定しているため、当該面状部材を備える樹脂ベルト保護壁3は本発明に係る保守装置の移動機構の一部の機能を果たしている。
【0034】
樹脂ベルト4はワイパー支持部2を移動させるための移動機構の一部である。樹脂ベルト4上には、溝に嵌合している軸部7の両端が接触しており、樹脂ベルト4を稼動させることによって、ワイパー支持部2を溝が形成されている方向に移動させることができる。また、樹脂ベルト4はワイパー支持部2に形成された2本の軸部7のうち、樹脂ベルト4の駆動軌跡と平行な部分が多い溝に嵌合している軸部7を樹脂ベルト4に固定するとよい。樹脂ベルト4及び樹脂ベルト4に固定された軸部7の駆動軌跡が略平行となり、相対的な距離の変動が少なくなるため、樹脂ベルト4の張力をほぼ一定に保ち、安定した駆動力を確保しつつ、樹脂ベルト4の劣化も抑えることができる。
【0035】
ワイパー保護壁5は、ヒーター23からワイパー1を保護するための保護壁である。ワイパー保護壁5は、ワイパー1がフェイス上の付着物を拭き取るときのヘッド21の位置と後述するワイパー清掃部6との間に設けられている。ワイパー保護壁5には、樹脂ベルト4によって移動するワイパー支持部2に設けられたワイパー1がくぐることができる開口部5’が形成されている。なお、ワイパー保護壁5の構成の詳細は図3を用いて後に説明する。
【0036】
ワイパー清掃部6は、ヘッド21の表面上の付着物を拭き取ることによって汚れたワイパー1を清掃するためのものである。また、熱によるワイパー清掃部6の劣化及びワイパー1の清掃に溶剤を使用する場合の熱による溶剤の気化等を考慮し、ワイパー清掃部6は、付着物を拭き取るときのヘッド21の位置から見て、ワイパー保護壁5とは反対側の位置に配置されている。つまり、ワイパー清掃部6もワイパー保護壁5によって熱から保護されている。
【0037】
なお、ワイパー清掃部6としては、ワイパー1の汚れを清掃できるものであれば、シート状の清掃部材、スポンジ状の清掃部材等、任意のものを使用することができる。また、必要に応じて、溶剤等を使用してワイパー1の清掃効果を高めてもよい。
【0038】
なお、熱による劣化を防止するために、ワイパー1をワイピングに使用しないときは、ワイパー保護壁5から見て、ワイパー清掃部6が設けられている側に、ワイパー1を移動し、待機させておけばよい。ワイパー1がヘッド21の表面上の付着物を拭き取る場合には、図1のように、ワイパー保護壁5に対して、ワイパー清掃部6が設けられていない側、つまり、ヘッド21の位置する側にワイパー1は移動する。
【0039】
〔ワイパー1の移動〕
次に、図3を用いて、保守装置10の詳細な構成及び使用方法について説明する。なお、後述する位置(a)から(h)はそれぞれ、ワイパー1及びワイパー支持部2の位置を示している。
【0040】
図3は、ワイパー1及びワイパー支持部2の移動の軌道を示す図である。図3に示すように、下側に位置している溝は、保守装置10の設置面に対して略平行である。ここで、「設置面」とは、保守装置10の底面のことである。一方、上側に位置している溝は、保守装置10の設置面に対して常に平行ではなく、図3では3箇所において、傾斜を有している。そのため、溝が平行となっているときの2列の溝の幅(2列の溝の高低差)には、広い(大きい)幅と狭い(小さい)幅との2種類がある。つまり、溝が傾斜している部位は、2列の溝の幅が広い箇所と狭い箇所との間にあって、それらの箇所同士を接続している。まず、広い幅の場合(例えば、位置(c)を参照)には、ワイパー1は、後述の狭い幅の場合に比べて起き上がっており、また、傾斜していない。このとき、ワイパー1がフェイスを拭き取ることができる位置になり、ワイパー1の鉛直方向の高さは開口面5’’の鉛直方向の高さを超える。次に、狭い幅の場合(例えば、位置(a)を参照)には、ワイパー支持部2は上記設置面に対して傾斜しているため、ワイパー1も傾斜している。このとき、ワイパー1の鉛直方向の高さは、開口面5’’の鉛直方向の高さより低くなる。なお、上側の溝を設置面に対して略平行にし、下の溝の複数の箇所に傾斜をもたせてもよい。次に、ワイパー1がヘッド21に付着している付着物を拭き取ってから、ワイパー清掃部6により清掃されるまでの各工程について説明する。
【0041】
まず、キャリッジ20がメディア100上を走査し、印刷しているときには、ワイパー支持部2は、位置(h)に待機している。
【0042】
次に、キャリッジ20は、予め定めておいた回数走査した後、又はヘッド21にインクなどの付着物が一定量付着していることを検出すること等によりヘッド21の面上を清掃する必要が生じたときは、保守装置10上に移動する。また、ワイパー支持部2は、キャリッジ20を保守装置10上に移動する前に、位置(a)まで移動する。
【0043】
ワイパー1がワイピングする前にパージ動作を行ってもよい。ここで「パージ」とは、ヘッドにインクを供給する際の供給圧を上げることでノズルからインクを吐出して、ノズルを清掃することをいう。供給圧は、例えば、大気圧以上に上げることによって、パージが適切に行われる。またパージを行なう場合には、保守装置10内に、パージによって吐出されるインクを回収する部材を設けてもよい。
【0044】
キャリッジ20は、保守装置10上まで移動すると、位置(a)に待機中のワイパー支持部2とワイパー保護壁5との間に位置することになる。次に、ワイパー支持部2は傾斜した状態のまま、位置(b)まで移動する。
【0045】
さらに、位置(b)から位置(c)に至るまでの上の溝は、設置面に対して傾斜を有しているため、徐々に上下の2列の溝の幅は大きくなるとともに、ワイパー支持部2が起き上がっていく。また、位置(c)において、フェイスとワイパー1とが接触するまでワイパー支持部2が起き上がる。
【0046】
なお、ワイパー支持部2を溝に沿って移動させるために、柔軟性を有する樹脂ベルト4を使用している。2列の溝の幅に合わせて樹脂ベルト4が沿うように設けられている。
【0047】
次に、フェイスとワイパー1とが接触したまま、ワイパー支持部2が位置(c)から位置(d)まで移動することによって、フェイス上の付着物を拭き取る。また、位置(c)から位置(d)までは、上下の溝が互いに平行であり、フェイスが当該溝に対して平行である。よって、一定の力でワイパー1による拭き取りを行うことができる。位置(c)から位置(d)の距離は、フェイスをワイパー1に拭き取るために十分な距離があることが好ましい。なお、ワイパー支持部2に位置(c)から位置(d)の間を往復運動させて、ワイパー1がフェイスをワイピングしてもよい。
【0048】
次に、ワイピングが終了した後のキャリッジ20は、フラッシング用ステーション30上まで移動させてフラッシングを行ってもよく、また、フラッシングを行なわずに、メディア100上に移動して印刷を再開してもよい。
【0049】
ワイパー支持部2が位置(d)まで移動すると、位置(d)から位置(e)に至るまでの上側の溝は、設置面に対して傾斜を有しているため、徐々に2列の溝の幅は小さくなるとともに、ワイパー支持部2は傾く。位置(e)では、ワイパー1は、ワイパー保護壁5に設けられた開口部5’をくぐれる高さになるまで、傾いている。次に、ワイパー支持部2は位置(e)からワイパー保護壁5の手前の位置(f)まで移動する。
【0050】
次に、ワイパー1がワイパー保護壁をくぐる様子について詳細に説明する。上述したように、ワイパー保護壁5には、移動するワイパー1がくぐる開口部5’が設けられている。また、ワイパー保護壁5の一部が、ワイピングするときのヘッド21の位置する方向に、延在している。ワイパー1を傾けた状態で位置(f)から位置(g)まで移動することによって、ワイパー1はワイパー保護壁5に接触することなく、くぐることができる。
【0051】
なお、位置(d)のように、ワイパー支持部2が起き上がっているとき、仮にこの状態でワイパー支持部2をワイパー保護壁5まで移動させると当該保護壁の延在部5aとワイパー1が接触し、ワイパー1が開口部5’をくぐることができない。その理由は、ワイパー1に、開口部5’が形成する開口面5’’に対して垂直方向に光を当てて、当該開口面5’’を含む面に投影面を形成した場合に、当該投影面が開口面5’’よりも大きくなるためである。言い換えると、ワイピングをするときのワイパー1が形成する投影面よりも小さな投影面を有する位置にワイパー1が位置していなければ、開口部5’をくぐることができない。
【0052】
そこで、ワイパー1が形成する投影面が開口面5’’よりも小さくなる形態にするため、図3の位置(f)のように、ワイパー1を設置面に対して傾斜させている。また、本形態では、2列の溝の幅を変化させるだけで、ワイパー1の形成する投影面の面積が小さくなるように傾かせて、そして、ワイパー1がワイパー保護壁5をくぐれるようにしている。そのため、溝が設けられている面状部材及び樹脂ベルト4等の移動機構以外に駆動機構を設ける必要がなく、装置を簡易な構成にすることができ、コストを削減することができる。
【0053】
保守装置10を上記投影面が鉛直になるように設置したとき、2列の溝の幅が広い場合には、ワイパー1の鉛直方向の高さが上記開口面5’’の鉛直方向の高さを超えていてもよい。この場合であっても、2列の溝の幅が狭いときのワイパー1の鉛直方向の高さが上記開口面5’’の鉛直方向の高さより低くなるように、ワイパー支持部2を傾けることで、ワイパー1がワイパー保護壁5をくぐらせればよい。
【0054】
また、所定の箇所でワイパー1を傾ける機構は、ヘッド21の一部を選択に拭き取る際の従来技術(例えば、特開2003−127403号公報を参照)にも有効であり、当該従来技術の構成を本発明に組み込んでもよい。
【0055】
一方、2列の溝の幅を変化させずに、駆動機構をワイパー1又はワイパー支持部2に設けることによって、ワイパー1が形成する投影面を変化させてもよい。例えば、ワイパー駆動機構を用いることによって、ワイパー1を直接傾斜させたり、ワイパー支持部2にワイパー1の一部を格納させたり、或いはワイパー1を回転させたりして、ワイパー1が形成する投影面を開口面5’’よりも小さくなる形態にすることが可能である。駆動機構としては、モータ、ソレノイド等のアクチュエータを使用することができる。
【0056】
このように、開口部5’が形成する開口面5’’に対して垂直方向に光を当てて、開口面5’’を含む面に形成される投影面が、ワイピングするときより小さくなるようにワイパー1を駆動させることで、ワイパー1がくぐるために必要な開口面5’’の面積を小さくすることができる。その結果、ワイパー1やワイパー清掃部6のより多くの部分を遮断して熱の影響を抑えることができる。
【0057】
ここで、ワイパー保護壁5に延在部5aを設け、またワイパー1が形成する投影面が開口面5’’よりも小さくなければ、ワイパー1がワイパー保護壁5をくぐることができないようにしているのは、開口部5’を通じて、ワイパー清掃部6の位置に格納されているワイパー1に伝わる熱量をより少なくし、熱によるワイパー清掃部6および格納されているワイパー1の劣化をより抑えるためである。
【0058】
ワイパー保護壁5の構成については、熱によって変形するものでないことが好ましく、例えば、鉄、ステンレス、アルミ等であればよい。また、待機中のワイパー1の劣化を防止する点からは特に厚さ0.2〜2.0mm程度の鉄板が好ましい。
【0059】
位置(f)から位置(g)に至るまでの上側の溝は、上記設置面に対して傾斜を有しているため、徐々に上下の2列の溝の幅は大きくなるとともに、ワイパー支持部2は起き上がっていく。また、位置(g)に到達する位置においてワイパー1はワイパー清掃部6に接することができる位置になるまで起き上がっている。
【0060】
ワイパー保護壁5をくぐった後において、ワイパー1はワイパー清掃部6と接触することにより、ワイパー1上に付着した汚れを清掃することができる。ワイパー清掃部6は2つ設けているが、1つであってもよく、また3つ以上設けられていてもよい。ワイパー1の清掃が終了した後は、ワイパー支持部2は位置(h)まで移動し、ワイピングが必要になるまで位置(h)で待機する。再度ワイピングが必要になった場合には、上記の工程を繰り返す。
【0061】
なお、図1〜図3より、樹脂ベルト4などの移動機構によるワイパー1の軌道は一直線上になっており、当該一直線上に上記ヘッド21、ワイパー保護壁5及びワイパー清掃部6が位置している。そのため、ワイパー1を一直線上に移動させることによって、ヘッド21の表面上の付着物を拭き取り、ワイパー保護壁5の開口部5’をワイパー1にくぐらせ、ワイパー1を清掃することができる。つまり、保守装置10の構成を単純にすることができるため、コスト削減を図ることができる。
【0062】
本発明に係る保守装置が備える拭き取り部保護壁の形態は、本実施形態のワイパー保護壁5のように、開口部5’を有しており、当該開口部5’をワイパー1がくぐる構成に限定されない。例えば、拭き取り部保護壁がシャッターを備えており、ワイパーが通過する際に開き、印刷時等はワイパーをシャッターの内側に格納して、ヒーターの熱を遮断するためにシャッターが閉じる構成であってもよい。また、ワイパーが拭き取り部保護壁をくぐるときにだけ開口部が形成され、ワイパーを格納している場合には開口部が閉じている構成であってもよい。
【0063】
なお、2列の溝の幅は2種類に限られず、3種類以上あってもよい。また、2列の溝の幅が一定であっても、ワイパー1をステッピングモータのような駆動機構により、上下、傾斜等させて開口部5’を通過させてもよい。
【0064】
以上のように、本実施形態に係る保守装置10は、ヒーター23を用いる液滴吐出装置50であっても、フェイスの付着物を拭き取るワイパー1の劣化を抑えることができる。また、ワイパー支持部2及びワイパー清掃部6の劣化も同様に抑えることができる。
【0065】
〔付記事項〕
以上のように、本発明に係る一形態である保守装置10は、ヘッド21に設けられたノズル22からインクを吐出することでメディア100に印刷を行なう液滴吐出装置50のヘッド21の保守装置10であって、ヘッド21の表面であってノズル22が設けられた面上の付着物を拭き取るワイパー1と、ワイパー1を清掃するワイパー清掃部6と、ワイパー1を移動させる移動機構と、ワイパー1が上記付着物を拭き取るときのヘッド21の位置とワイパー清掃部6の位置との間に、ワイパー清掃部6の位置側にあるワイパー1を保護するワイパー保護壁5と、を備えている。
【0066】
ヘッド21、又は、メディア100が載せられるプラテンにヒーター23が設けられている場合、ワイパー保護壁5によってワイパー1を熱の影響から保護することができる。よって、ヒーター23を用いる液滴吐出装置50であっても、ノズル22が設けられた面の付着物を拭き取るワイパー1の劣化を抑えることができる。なお、プラテンはメディア100を載せる台であるので、ヘッド21がインクを吐出している領域に存在する。つまり、ワイパー保護壁5が、ワイパー1が付着物を拭き取るときのヘッド21の位置とワイパー清掃部6の位置との間にあれば、ワイパー1がワイパー清掃部6の位置に格納されているとき、自ずとワイパー保護壁5はワイパー1とプラテンとの間にあることになるので、ワイパー1はプラテンの熱源から保護される。
【0067】
また、保守装置10は、ワイパー保護壁5は、上記移動機構によって移動するワイパー1がくぐる開口部5’が設けられており、ワイパー1に、開口部5’が形成する開口面5’’に対して垂直方向に光を当てて、当該開口面5’’を含む面に形成される投影面が、上記付着物を拭き取るときより小さくなる形態にする拭き取り部駆動機構を備え、上記拭き取り部駆動機構は、ワイパー1が開口部5’をくぐるときに当該形態にすることが好ましい。
【0068】
拭き取り部駆動機構により、ワイパー1の投影面積を小さくなる形態にしているため、開口面5’’を、付着物を拭き取るときのワイパー1の投影面よりも小さくしても、ワイパー1がワイパー保護壁5の開口部5’をくぐることができる。つまり、開口面5’’をより小さくすることができるため、開口部5’を通じて、ワイパー清掃部6の位置に格納されているワイパー1に伝わる熱量をより少なくし、格納されているワイパー1の劣化をより抑えることができる。
【0069】
さらに、保守装置10は、ワイパー1のワイパー支持部2に2本の軸部7が貫通して設けられており、移動機構は、互いに対向する面状部材を備え、当該面状部材には、それぞれワイパー1を移動させる方向に沿って2列の溝が設けられており、2本の軸部7の両端は、それぞれ2列の上記溝に嵌合しており、2列の上記溝の幅は、少なくとも2種類あることがより好ましい。
【0070】
移動機構は、溝が設けられた面状部材を備えているため、溝に沿ってワイパー支持部2及びワイパー1が移動する。また、2列の溝の幅は複数存在するため、当該幅の相違によって、ワイパー支持部2が傾斜する。ワイパー支持部2が傾斜することによって、ワイパー1も傾斜し、ワイパー1の投影面を、付着物を拭き取るときのワイパー1の投影面よりも小さくできる。つまりワイパー1を傾斜させることで開口部5’を小さくすることができ、格納されているワイパー1の熱による劣化をより抑えることができる。また、移動機構以外に駆動機構を設けることなく、ワイパー1を傾斜させるため、コストを削減することができる。
【0071】
さらに、保守装置10は、自装置を上記投影面が鉛直になるように設置したとき、2列の上記幅が、広い方の幅はワイパー1がヘッド21のノズル22が設けられた面を拭き取る位置であって、ワイパー1の鉛直方向の高さが開口面5’’の鉛直方向の高さを超えるようにワイパー支持部2を傾ける幅であり、狭い方の幅はワイパー1の鉛直方向の高さが、開口面5’’の鉛直方向の高さより低くなるようにワイパー支持部2を傾ける幅であることがさらに好ましい。
【0072】
広い方の幅の場合には、ワイパー1が開口部5’をくぐることはできないが、狭い方の幅の場合には、傾斜させることによってワイパー1が開口部5’をくぐることができる。ワイパー1を傾斜させることで開口部5’を小さくすることができ、格納されているワイパー1の熱による劣化をより抑えることができる。
【0073】
また、保守装置10は、上記移動機構によるワイパー1の軌道は一直線上であり、当該一直線上に上記付着物を拭き取られるときのヘッド21及びワイパー清掃部6が位置していることが好ましい。
【0074】
ワイパー1を一直線上に移動させることによって、ヘッド21の表面であってノズル22が設けられた面上の付着物を拭き取ること、ワイパー1にワイパー保護壁5の開口部5’をくぐらせること及びワイパー1を清掃することができる。つまり、保守装置10の構成を単純にすることができるため、コスト削減を図ることができる。
【0075】
また、保守装置10は、上記移動機構は樹脂ベルト4でワイパー支持部2を移動させることでワイパー1を移動させるものであり、樹脂ベルト4とワイパー1が上記付着物を拭き取るときのヘッド21の位置との間に樹脂ベルト保護壁3を備えていることが好ましい。
【0076】
簡単な構造でワイパー1を移動させることができる。また、ヒーター23を用いる液滴吐出装置50であっても、樹脂ベルト保護壁3を備えることによって、樹脂ベルト4の劣化を防止することができる。
【0077】
本発明の一実施形態に係る液滴吐出装置50は、上記の保守装置10を備えていることが好ましい。
【0078】
保守装置10を備えることによって、ヒーター23を用いる液滴吐出装置50であっても、ワイパー1の劣化を抑えることができる。
【0079】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明に係る保守装置は、インクジェットプリンタ等に利用可能である。
【符号の説明】
【0081】
1 ワイパー(拭き取り部)
2 ワイパー支持部(支持部)
3 樹脂ベルト保護壁(移動機構、樹脂ベルト保護壁、面状部材)
4 樹脂ベルト(移動機構)
5 ワイパー保護壁(拭き取り部保護壁)
5a 延在部
5’ 開口部
5’’ 開口面
6 ワイパー清掃部(清掃部)
7 軸部
10 保守装置
20 キャリッジ
21 ヘッド
22 ノズル
23 ヒーター
30 フラッシング用ステーション
40 ガイド機構
50 液滴吐出装置
100 メディア(被記録媒体)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘッドに設けられたノズルから液滴を吐出することで被記録媒体に印刷を行なう液滴吐出装置の上記ヘッドの保守装置であって、
ヘッドの表面であってノズルが設けられた面上の付着物を拭き取る拭き取り部と、
上記拭き取り部を清掃する清掃部と、
上記拭き取り部を移動させる移動機構と、
上記拭き取り部が上記付着物を拭き取るときの上記ヘッドの位置と上記清掃部の位置との間に、上記清掃部の位置側にある上記拭き取り部を保護する拭き取り部保護壁と、を備えることを特徴とする保守装置。
【請求項2】
上記拭き取り部保護壁は、上記移動機構によって移動する上記拭き取り部がくぐる開口部が設けられており、
上記拭き取り部に、上記開口部が形成する開口面に対して垂直方向に光を当てて、当該開口面を含む面に形成される投影面が、上記付着物を拭き取るときより小さくなる形態にする拭き取り部駆動機構を備え、
上記拭き取り部駆動機構は、上記拭き取り部が上記開口部をくぐるときに当該形態にすることを特徴とする請求項1に記載の保守装置。
【請求項3】
上記拭き取り部の支持部に2本の軸部が貫通して設けられており、
上記移動機構は、互いに対向する面状部材を備え、当該面状部材には、それぞれ上記拭き取り部を移動させる方向に沿って2列の溝が設けられており、
2本の上記軸部の両端は、それぞれ2列の上記溝に嵌合しており、
2列の上記溝の幅は、少なくとも2種類あることを特徴とする請求項2に記載の保守装置。
【請求項4】
自装置を上記投影面が鉛直になるように設置したとき、
2列の上記幅が、広い方の幅は上記拭き取り部が上記ヘッドのノズルが設けられた面を拭き取る位置であって、上記拭き取り部の鉛直方向の高さが上記開口面の鉛直方向の高さを超えるように上記支持部を傾ける幅であり、
狭い方の幅は上記拭き取り部の鉛直方向の高さが、上記開口面の鉛直方向の高さより低くなるように上記支持部を傾ける幅であることを特徴とする請求項3に記載の保守装置。
【請求項5】
上記移動機構による上記拭き取り部の軌道は一直線上であり、当該一直線上に上記付着物を拭き取られるときの上記ヘッド及び上記清掃部が位置していることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の保守装置。
【請求項6】
上記移動機構は樹脂ベルトで上記支持部を移動させることで上記拭き取り部を移動させるものであり、上記樹脂ベルトと上記拭き取り部が上記付着物を拭き取るときの上記ヘッドの位置との間に樹脂ベルト保護壁を備えていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の保守装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の保守装置を備える液滴吐出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−103389(P2013−103389A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−247999(P2011−247999)
【出願日】平成23年11月11日(2011.11.11)
【出願人】(000137823)株式会社ミマキエンジニアリング (437)
【Fターム(参考)】