説明

保形性を有する衣服

【課題】ニット素材等の柔らかい素材で形成された衣服であっても、衣服の立体的形状を自在に変化させた状態で保持可能とする、保形性を有する衣服の構造を提案する。
【解決手段】衣服の身頃11、脚又は袖12において、これらを形成する筒の裏側に該筒の形状に沿って環状に袋を形成し、該袋に曲げたり波立たせたり変形自在であってその変形形状を保持可能なワイヤ20を挿通した。前記ワイヤ20は、該ワイヤ20の端部を折り返し、該折り返し部分に樹脂製の筒状部材を被せることによって端部処理した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衣服を立体的に整形し、その状態を保持するための衣服の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
婦人用下着には、下着の形状を安定させるためや、身体形状の補整のために、形状記憶材料で構成されたワイヤを、下着に組み込んだものがある。
また、婦人用下着に限定されず、衣服の形状を保持するために、衣服や装飾具等にも形状を安定させたり保持したりするための構造が備えるものが知られている。
【0003】
例えば、特許文献1に記載の技術では、首周り全体から後頭部を紫外線から保護するために、衣服の襟部を、耳全体から後頭部にわたって覆うことのできる形状のものとし、襟部を立てた状態に保持するために、芯材として形状記憶合金製ワイヤや金属製ワイヤを組み込ませている。
また、特許文献2に記載の技術では、形状記憶合金製ワイヤ又は金属製ワイヤを保形部材として、襟巻きの内部に取り付け、襟巻きの立体的形状を自在に変化させ、その形状を保持可能として意匠的価値を高めることができるようにしている。
【特許文献1】特開2000−314023号公報
【特許文献2】登録実用新案第3089123号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特にニット素材等、比較的柔らかな素材から成る衣服では、衣服の立体的形状を自在に変化させ、素材独自の風合いを保持したまま、その形状を保持させることが困難である。例えば、ニット素材等の柔らかい素材で形成された衣服では、襟を立たせたり、袖を捲ったりすることはできても、素材の性質上、その形状を保持することが困難である。
そこで、本発明では、ニット素材等の柔らかい素材で形成された衣服であっても、衣服の立体的形状を自在に変化させた状態で保持可能とする、保形性を有する衣服の構造を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0006】
即ち、請求項1においては、衣服の身頃、脚又は袖において、これらを形成する筒の裏側に該筒の形状に沿って環状に袋を形成し、該袋に曲げたり波立たせたり変形自在であってその変形形状を保持可能なワイヤを挿通した保形成を有する衣服である。
【0007】
請求項2においては、前記ワイヤは、該ワイヤの端部を折り返し、該折り返し部分に樹脂製の筒状部材を被せることによって端部処理したものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0009】
請求項1においては、柔らかく形崩れし易い布地で構成されていても、衣服の身頃、脚又は袖の裾を捲った状態に整形し、それを保持することができる。
【0010】
請求項2においては、衣服を構成する服地に組み込まれるワイヤの端部が、布を突き破って、飛び出すことを防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
次に、発明の実施の形態を説明する。
図1は本発明の一実施例に係る衣服としての襟付きシャツを示す図、図2は襟付きシャツに取り付けられたワイヤの配置を示す図、図3は本発明の一実施例に係る衣服としてのTシャツを示す図、図4はTシャツに取り付けられたワイヤの配置を示す図である。
図5はボーダー柄部分の構成を示す図である。
図6はワイヤを示す図、図7はワイヤを衣服に取り付ける形態の一例を示す図、図8は衣服にワイヤを取り付けた状態を示す図である。
図9はワイヤを取り付けた襟部分の様子を示す図、図10はワイヤを取り付けたポケット部分の様子を示す図、図11はワイヤを取り付けた袖部分の様子を示す図である。
図12は本発明の一実施例に係る衣服としてのパンツを示す図である。
【0012】
本発明の保形性を有する衣服では、ニット地のように柔らかく、立体形状を保持することが困難な布地で構成されていても、その布地の風合いを損ねることなく、衣服を整形し、その形状を保持させることができる。
図1では、本発明に係る保形性を有する衣服の一例として、ニット地のシャツ10を示している。シャツ10は襟付きシャツであり、該シャツ10の身頃11には袖12が縫合されており、また、身頃11には襟13とポケット15とポケットフラップ15aとが縫合されている。なお、図3に示す如く、ニット地で襟のないTシャツ40も、保形性を有する衣服とすることができる。
【0013】
但し、保形性を有する衣服は、シャツに限定されることなく、パンツやジャケット等とすることができる。また、マフラーやスカーフ、鞄等の、服飾雑貨に本発明の保形性を有する衣服の構造を応用させて、保形性を有する服飾雑貨とすることもできる。
また、衣服を構成する布地の素材も、ニット地に限定されるものではなく、その他の素材とすることもできる。
【0014】
なお、図1や図3に示す如く、シャツ10・40はボーダー柄(縞柄)のニット地で構成されている。
図5に示す如く、ボーダー柄は、布地を織る糸の色を変化させて形成されるのではなく、主布17と副布16との、少なくとも複数の種類(柄・色)の布地を縫合させることにより、立体的に形成されている。
主布17の裏側であって、主布17と主布17との間に、ボーダー柄の幅よりやや大きい幅を有する副布16が縫いつけられている。主布17・17の端部17a・17aは、纏られることなく、切り放しとされ、また、衣服の表側に露出している。主布17の端部17aはニット地の特性上、表側へ巻き上がって、ボーダー柄の上下の切替部分に立体的なラインが形成される。
【0015】
シャツ10には、保形性を備えるために、すなわち、衣服の立体的形状を自在に変化させ、その形状を保持させるために、適宜位置に、変形自在且つ形状保持可能なワイヤ20・20・・・が取り付けられている。
例えば、図2や図4に示す如く、襟付きシャツ10では、襟13と、襟口(襟の開き部分)14、袖12の下部、身頃11の下部、ポケット15の縁、ポケットフラップ15aの縁に、ワイヤ20・20・・・が取り付けられ、Tシャツ40では、袖12の下部、身頃11の下部に、ワイヤ20・20・・・が取り付けられている。
【0016】
前記ワイヤ20は、金属製ワイヤ、樹脂製ワイヤ、セラミック製ワイヤ等を用いることができる。本実施例では、セラミック製ワイヤを採用している。セラミック製ワイヤは、金属製ワイヤと比較して錆びることなく、洗濯にも耐えることができ、また、自在に屈曲可能であるとともに、繰り返し変形しても脆性変化が小さいという利点がある。
図6に示す如く、ワイヤ20の両端20a・20aは折り返され、折り返された部分は樹脂製チューブ21・21に挿嵌され、熱溶着される。これにより、衣服を構成する服地に組み込まれるワイヤ20の端部が、布を突き破って、飛び出すことのないようにしている。
【0017】
前記ワイヤ20は、衣服の表側に露出しないように、裏側に取り付けられる。
例えば、図7に示す如く、衣服の表側を構成する主布17の裏側に、別布19を縫合して袋を形成し、該袋の内部にワイヤ20を挿通させることにより、衣服にワイヤ20を取り付けることができる。
本実施例では、図8に示す如く、布地のボーダー柄の副布16の裏側に別布19をあてて、副布16と別布19との間に袋を形成し、ここにワイヤ20を挿通させることにより、衣服にワイヤ20を取り付けている。
【0018】
なお、ワイヤ20は、衣服の布地に対して固着されたり布地に織り込まれたりするのではなく、多少の許容範囲を持って移動できるように衣服に取り付けられる。これは、衣服がニット地等の伸縮する布地で成るからであり、ニット地の伸縮によってワイヤ20が組み込まれた部分に不自然な引きつりや皺が生じないようにするためである。
但し、ワイヤ20の取り付け形態は、上記例に限定されるものではなく、布地にワイヤ20を多少の許容範囲をもって移動できるように部分的に留め付けたり、主布17の端部の折り返し部分にワイヤ20を挿通させたり、することができる。
【0019】
シャツ10の襟13の近傍においては、図9(a)に示す如く、襟13の周縁と、襟口14の周縁とに、ワイヤ20が取り付けられる。これにより、図9(b)に示す如く、襟13を立てた状態で保持させることができる。また、襟13の一部を曲げたり、襟口14を波立たせたり、シャツを立体的に整形し、その状態を保持することができる。
【0020】
シャツ10のポケット15部分では、図10(a)に示す如く、ポケット15の開口の周縁と、ポケットフラップ15aの周縁とに、ワイヤ20が取り付けられる。これにより、図10(b)に示す如く、ポケット15を身頃11から浮き立たせて立体的に整形し、また、ポケットフラップ15aを上方へ反り上がった状態に立体的に整形し、これらの立体的に整形された状態を状態を保持することができる。
【0021】
シャツ10の袖12部分では、図11(a)に示す如く、袖12の下部に袖裄方向にわたって複数のワイヤ20が取り付けられる。ワイヤ20は袖筒の形状に沿って環状に取り付けられる。但し、袖裄方向に沿って複数本を設けることができるが、衣服を着た状態での活動を阻害しないようにするためには、袖筒の形状に沿って環状に取り付けることが好ましい。これにより、図11(b)に示す如く、袖12を捲った状態に立体的に整形し、その状態を保持することができる。
【0022】
なお、保形性を有する衣服としてのパンツ25では、図12(a)に示す如く、パンツ25の裾に複数の環状のワイヤ20が取り付けられる。これにより、ニット地のように柔らかい布地で構成されたパンツ25であっても、図12(b)に示す如く、裾を捲った状態に立体的に整形し、その状態を保持することができる。
【0023】
上述のように、衣服にワイヤ20を取り付けることで、ニット地のような柔らかく形崩れし易い布地で構成されていても、衣服を立体的に整形し、その状態を保持させることができる。しかも、糊付けのように布地の表面に処理を施さないので、布地の持つ風合いを損ねることがない。
さらに、時間が経過しても、ワイヤ20の持つ保形性は経時変化しないので、衣服の整形された立体的な形態は保持される。また、一旦、衣服の形が崩れたとしても、ワイヤ20であるので、特殊な機器や用具、薬剤等を必要とすることなく、容易に再度整形して良好な状態を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の一実施例に係る衣服としての襟付きシャツを示す図。
【図2】襟付きシャツに取り付けられたワイヤの配置を示す図。
【図3】本発明の一実施例に係る衣服としてのTシャツを示す図。
【図4】Tシャツに取り付けられたワイヤの配置を示す図。
【図5】ボーダー柄部分の構成を示す図。
【図6】ワイヤを示す図。
【図7】ワイヤを衣服に取り付ける形態の一例を示す図。
【図8】衣服にワイヤを取り付けた状態を示す図。
【図9】ワイヤを取り付けた襟部分の様子を示す図。
【図10】ワイヤを取り付けたポケット部分の様子を示す図。
【図11】ワイヤを取り付けた袖部分の様子を示す図。
【図12】本発明の一実施例に係る衣服としてのパンツを示す図。
【符号の説明】
【0025】
10 シャツ
11 身頃
12 袖
13 襟
14 襟口
15 ポケット
20 ワイヤ
21 チューブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
衣服の身頃、脚又は袖において、これらを形成する筒の裏側に該筒の形状に沿って環状に袋を形成し、該袋に曲げたり波立たせたり変形自在であってその変形形状を保持可能なワイヤを挿通したことを特徴とする、保形性を有する衣服。
【請求項2】
前記ワイヤは、該ワイヤの端部を折り返し、該折り返し部分に樹脂製の筒状部材を被せることによって端部処理したものであることを特徴とする、請求項1に記載の保形性を有する衣服。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2006−124908(P2006−124908A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−27781(P2006−27781)
【出願日】平成18年2月3日(2006.2.3)
【分割の表示】特願2005−94080(P2005−94080)の分割
【原出願日】平成16年7月15日(2004.7.15)
【出願人】(399088474)シー・コム株式会社 (8)
【Fターム(参考)】