説明

保持器の有限要素法解析手法および強度解析システム

【課題】遠心力/熱膨張解析に問題を限定して、一連のFEM解析工程を自動化した保持器の有限要素法解析手法および強度解析システムを提供する。
【解決手段】本発明は、周期対称構造を有する保持器の有限要素法解析手法は、保持器の周期対称構造を構成する最小単位を解析モデルとして設定するステップと、均一な大きさの4面体2次要素または6面体2次要素を用いて、前記解析モデルの全解析領域の要素分割を行うステップと、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保持器の有限要素法解析手法および強度解析システムに関する。本発明は、特に、玉軸受用保持器の回転時の遠心力や熱膨張による問題を対象とし、有限要素法(FEM)に基づいた強度解析を行なう保持器の有限要素法解析手法および強度解析システムに関する。
【背景技術】
【0002】
保持器の開発時には、高速条件、高温条件での破断や、他部品との接触に対する検討が必要となる。従来、これらの検討は実験に基づいて行なわれていたが、計算による検討が可能であれば、コストを低減でき、短時間で強度推定を行なうことができる。近年では、3DCADデータに基づいてFEM強度解析ができる環境が整備されつつあり、保持器の強度予測においても計算の適用が検討されている。計算により保持器の強度を解析する方法としては、動力学解析モデルに用いられる有限要素長と、この有限要素長よりも短い有限要素長と、をそれぞれ用い、FEM解析で応力を求め、両応力の比を補正係数として出力することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−116040号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、保持器の形状は複雑であり、また、保持器の種類によって形状が異なるため、解析解が容易に得られない。また、上記した特許文献1などでも、具体的な解析仮定や要素分割の基準は一般的に明確にされておらず、FEMに関する専門知識がない一般作業者による妥当な要素分割などが困難であり、また、解析作業が複雑で時間がかかるという問題があった。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、保持器の高速/高温化対応時に課題となる遠心力/熱膨張解析に問題を限定して、一連のFEM解析工程を自動化した保持器の有限要素法解析手法および強度解析システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の上記目的は、下記の構成により達成される。
(1) 周期対称構造を有する保持器の有限要素法解析手法であって、
前記保持器の周期対称構造を構成する最小単位を解析モデルとして設定するステップと、
均一な大きさの4面体2次要素または6面体2次要素を用いて、前記解析モデルの全解析領域の要素分割を行うステップと、を含むことを特徴とする保持器の有限要素法解析手法。
(2) 前記形状データに含まれる線分または曲線の要素分割数を指定するステップと、
指定された前記要素分割数に応じた要素サイズで、前記解析モデルの全解析領域の要素分割を行なうステップと、を含むことを特徴とする上記(1)記載の保持器の有限要素法解析手法。
(3) 前記形状データに含まれる前記保持器の径方向寸法に基づき、前記保持器の径方向の要素分割数を指定するステップと、
指定された前記要素分割数に応じた要素サイズで、前記解析モデルの全解析領域の要素分割を行なうステップと、を含むことを特徴とする上記(1)記載の保持器の有限要素法解析手法。
(4) 前記形状データに含まれる線分または曲線の要素分割数を指定するステップが、
前記形状データに含まれる線分または曲線の要素分割数が任意の有限要素解に及ぼす影響曲線を予備解析により求めるステップと、
前記影響曲線に基づき、必要な解の近似精度を満たす前記要素分割数の基準値を求めるステップと、を含み、
指定される前記要素分割数が、前記基準値以上である上記(2)記載の保持器の有限要素法解析手法。
(5) 前記形状データに含まれる前記保持器の径方向寸法に基づき、前記保持器の径方向の要素分割数を指定するステップが、
前記形状データにおける径方向の要素分割数が任意の有限要素解に及ぼす影響曲線を予備解析により求めるステップと、
前記影響曲線に基づき、必要な解の近似精度を満たす前記要素分割数の基準値を求めるステップと、を含み、
指定される前記要素分割数が、前記基準値以上である上記(3)記載の保持器の有限要素法解析手法。
(6) 前記解の近似精度は、最大主応力解を適用することにより判定されることを特徴とする上記(4)または(5)に記載の保持器の有限要素法解析手法。
(7) 上記(1)〜(6)のいずれか記載の保持器の有限要素法解析手法を用いた、保持器の強度解析システムであって、
前記保持器の形状データ、物性値データ、および稼動条件と、解析実行命令と、を入力するための入力部と、
前記解析実行命令を受けて、前記形状データおよび物性値データの読み込みと、要素分割と、拘束条件および境界条件の設定と、マトリックス計算と、を連続して自動的に行うことによって、前記保持器の遠心力および熱膨張に対する応力を解析する制御部と、
前記解析結果を出力するための出力部と、を備えることを特徴とする強度解析システム。
(8) 前記保持器の物性値データを記憶する物性値ライブラリを備え、
前記物性値ライブラリに含まれる物性値データのファイル名の入力または選択を受けて、前記制御部が、前記物性値ライブラリから物性値データを読み込むことを特徴とする上記(7)記載の強度解析システム。
(9) 前記保持器のCAD形状ファイルライブラリを備え、
前記CAD形状ファイルライブラリに含まれる形状ファイルのファイル名の入力または選択を受けて、前記制御部が、前記CAD形状ファイルライブラリから形状ファイルを読み込むことを特徴とする上記(7)または(8)記載の強度解析システム。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る保持器の有限要素法解析手法および強度解析システムによれば、一般作業者でも容易に再現性のある形で、保持器の強度予測を詳細に行なうことが可能となる。これにより、FEM強度解析によって、解の近似精度の保証のもとで、種々の条件に応じた保持器の最適設計や問題検討が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の一実施形態に係る保持器の強度解析システムの概略構成図である。
【図2】本実施形態の強度解析処理を示すフローチャートである。
【図3】入力画面の一例を示す図である。
【図4】図3の入力画面への一入力例を示す図である。
【図5】(a)は本実施形態により強度を解析可能な玉軸受用冠形保持器の3DCADデータの一例を示す図であり、(b)は形状ファイルライブラリから取得可能な周期対称モデルの一例を示す図であって(a)のV部拡大図である。
【図6】(a)は図5(b)の要素分割モデルを示す図であり、(b)は(a)のVI部拡大図である。
【図7】要素分割数が有限要素解の近似精度と計算時間に与える影響を示す図である。
【図8】解析結果の応力分布出力例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明に係る保持器の有限要素法解析手法および強度解析システムの一実施形態を、図面に基づいて詳細に説明する。
【0010】
本実施形態に係る保持器の有限要素法解析手法および強度解析システムは、小型から大型までの一連の玉軸受用保持器について、回転時の遠心力や熱膨張による応力分布、変位分布等を解析するためのものである。
【0011】
図1に示されるように、本実施形態に係る保持器の強度解析システム10において、制御部として機能するCPU12には、入力部として機能するキーボード11と、出力部として機能するディスプレイ19と、記憶部として機能するハードディスク14と、メモリ13と、が接続される。ハードディスク14には、オペレーティングシステム(OS)15と、強度解析プログラム16と、データベース17と、が記憶されている。データベース17には、物性値ライブラリ21と、形状ファイルライブラリ22と、が記憶されている。
【0012】
以下、強度解析プログラム16の処理動作を、図2を参照して説明する。本発明の強度解析プログラム16は、オペレーティングシステム15と協働して当該処理を行う。ただし、その一部又は全部の処理を強度解析プログラム16単独で行うようにしてもよい。
【0013】
まず、CPU12は、解析条件の入力を促す入力画面29をディスプレイ19に表示する(ステップS1)。図3は、ディスプレイ19に表示された入力画面29の一例を示す図である。図3に示されるように、入力画面29には、稼動条件を入力するための、保持器回転数入力ボックス31と、温度入力ボックス32と、周囲温度入力ボックス33と、が表示される。また、入力画面29には、物性値を入力するための、保持器材料名入力ボックス34と、物性値ライブラリ21から材料名を選択するための材料名選択ボタン34Sと、弾性率入力ボックス35と、ポアソン比入力ボックス36と、密度入力ボックス37と、線膨張係数入力ボックス38と、が表示される。また、入力画面29には、形状データのファイル名を入力するための3DCADファイル名指定ボックス39と、形状ファイルライブラリ22からファイル名を選択するためのファイル名選択ボタン39Sと、保持器の厚さを入力するための厚さ入力ボックス41と、解析実行ボタン42と、が表示されている。
【0014】
このような入力画面29に対し、作業者は、稼動条件と、物性値と、形状データの入力、または選択を行なう。物性値の入力は、保持器材料名入力ボックス34、弾性率入力ボックス35、ポアソン比入力ボックス36、密度入力ボックス37、線膨張係数入力ボックス38、に、作業者が材料名および各物性値を手動で入力することにより行なうことができる。また、各物性値は、作業者が材料名選択ボタン34Sを押すことによって表示される物性値ライブラリ21の一覧から材料名を選択することにより自動的に入力することも可能である。自動的に入力された物性値は、手動で編集することも可能である。また、形状データの入力は、3DCADファイルを選択することにより行うことができ、作業者がファイル名選択ボタン39Sを押すことによって表示される形状ファイルライブラリ22の一覧からファイル名を選択することができる。また、3DCADファイル名指定ボックス39に作業者が手動でファイル名を入力することも可能である。
【0015】
図4は、ディスプレイ19に表示された入力画面29への一入力例を示す。この例は、SUJ2材(高炭素クロム軸受鋼)の玉軸受用冠形保持器が、保持器回転数10000min−1、保持器推定温度100℃で稼動する場合である。その他の条件もまた入力されている。そして、CPU12は、全ての入力データがあるかどうか、またはデータ形式が一致しているかどうか、および解析実行命令があったかどうかを判断する(ステップS2)。
【0016】
ステップS2で、全ての入力データがあるかデータ形式が一致しており、且つ解析実行命令があったと判断された場合、CPU12は、指定された3DCADファイル名「CAGE1.***」に基づき、該当する3D形状データを形状ファイルライブラリ22から取得し(ステップS3)、物性値データを物性値ライブラリ21から取得する(ステップS4)。
【0017】
形状ファイルライブラリ22に記憶されている図5(b)の各3D形状データは、ファイル名「CAGE1.***」に該当し、図5(a)の玉軸受用冠形保持器100の既存の3DCADデータに基づいて予め作成されている。玉軸受用冠形保持器100は、外径面106と、内径面108と、円周方向に略等間隔に配置されて不図示の玉を転動自在に保持する複数の溝部103と、溝部103の周方向両端部に一対の爪部107を有する。
【0018】
一般に、玉軸受用保持器は、保持器全体の1/(転動体数×2)を最小単位とし、この単位形を繰返すことにより全体が形成される周期対称構造となっており、玉軸受用冠形保持器100も、周方向に隣り合う爪部107、107の周方向中間部から溝部底部105まで(図5(a)のV部分)を一つの単位形(周期対称モデル)とした周期対称構造となっている。そして、接触のない、高速回転、高温での稼動時には、遠心力と熱膨張により、同様な周期対称を持つ変形状態となる。本実施形態では、図5(a)の3DCADデータから抽出された図5(b)に示されるような周期対称モデル200が、FEM解析用の3D形状データとして形状ファイルライブラリ22に予め記憶されている。このような周期対称モデル200を用いることにより、FEM解析で必要な節点が少なくなり、計算時間を大幅に短縮することが可能である。尚、FEM解析用の形状モデルを作成する際には、必要に応じて詳細形状を簡略化してもよい。
【0019】
次いでCPU12は、材料名選択ボタン34Sを押すことにより表示される物性値ライブラリ21の中から、作業者が選択した材料名に基づき、物性値ライブラリ21から各種物性値データを取得する。なお、CPU12は、作業者による摺動入力データをもとに、材料名や各物性値データを取得することもできる(ステップS4)。次に、CPU12は、入力画面29に入力された各種解析条件を読み込む。そして、CPU12は、ステップS3で取得した周期対称の3D形状をもとに、要素分割を行なう(ステップS5)。このステップS5で行われる要素分割は、有限要素法解析のノウハウが要求されると共に、解析作業の標準化や自動化が困難とされる工程である。
【0020】
本発明においては、玉軸受用保持器の遠心力/熱膨張問題に対象を限定することにより、要素分割条件を定式化して、要素分割作業を自動化することが可能である。図6(a)に示す要素分割モデル300は、対象とするFEM解析領域を図5(b)の周期対称モデルに縮小して、全解析領域を均一な要素分割精度で分割しており、要素の種類としては4面体2次要素を用いている。そして、溝部底部105の径方向エッジ102の径方向分割数を基準値Nとすることを要素分割の精度に関する条件としている。この要素分割の精度に関する基準値Nは、解析対象である玉軸受用保持器全般について解の精度を検証することにより予め定められる値である。
【0021】
図7は、溝部底部105の径方向エッジ102の分割数が最大主応力解の近似精度と計算時間に与える影響を示す図である。図中、実線は径方向エッジ102の分割数が数値誤差に与える影響を示し(影響曲線)、一点鎖線は計算時間を示す。基準値Nは、最大主応力解の数値誤差が指定した許容値以下となるための分割数の最小値であって、溝部底部断面101における径方向の分割数の適用基準値である。解の近似精度の判定においては、詳細分割モデルにおける最大主応力解との相対誤差を適用している。
【0022】
より詳細に説明すると、図7に示されるように、基準値Nは、検証解析によって得られた径方向エッジ分割数と、最大主応力解の近似精度の関係と数値誤差の許容値に基づいて得られる必要最小分割数である。必要とされる解の精度は、定量的予測、定性的予測、傾向の把握などに応じて決めることができ、この必要とされる解の精度と計算時間とに応じて、径方向エッジ102の分割数の基準値Nが定められる。尚、図7に示される径方向エッジ分割数と解の近似精度との関係は、現状の小型から大型までの種々の玉軸受保持器を対象に、ほぼ同様に得られることが確認されている。
【0023】
尚、要素分割時には、溝部底部105の径方向エッジ102を基準とした上記条件に加えて、入力画面29に入力された保持器の径方向厚さtを利用することも有効である。図6(b)に示される保持器の径方向厚さtは、溝部底部105の径方向エッジ102の曲線長よりもやや短い程度だが、通常の保持器では両者の差は大きい。保持器の径方向厚さを利用することにより、要素分割時に、(保持器の径方向厚さの入力値/基準値N)が自動的に計算されて、要素の一辺のサイズとして自動的に入力される。これにより、特に曲線状の径方向エッジ102の長さが不明確な場合などにおいて、有限要素法解析手法および強度解析システムの利便性をさらに向上することができる。
【0024】
CPU12は、要素分割が正しく実行されたかどうか、すなわち、径方向分割数が基準値Nとなるように要素分割が実行されたかどうかを判断する(ステップS6)。正しく要素分割が実行されたと判断された場合、CPU12は、拘束条件および境界条件の設定(ステップS7)を自動的に行う。周期対称仮定の遠心力熱膨張解析の場合、これらは周知の設定方法であるため、詳細については省略する。次いで、CPU12は、マトリックス計算(ステップS8)を自動的に行なう。なお,要素分割をはじめとした各工程における解析基準は、小型から大型までの一連の玉軸受用保持器についての検証解析に基づき、予め定められている。
【0025】
本発明に係る保持器の有限要素法解析手法および強度解析システムの概要と効果は以下の通りである。
【0026】
FEM解析を行なうには、要素の大きさとその分布、アスペクト比、要素の種類などを適切に決めるための専門知識が必要となるため、一般作業者がFEM解析を行なうのは困難な場合がある。また、要素分割数が多すぎる場合には計算時間が膨大になるため、実用が困難となるといった問題もあった。また、一般に市販されているFEMソフトウェアで通常使用される1次要素を用いて要素分割を行うと、冠形保持器の遠心力/熱膨張変形のように曲げ変形が大きい場合には、計算時間が増大すると共に解が安定しにくいといった問題がある。この要因として、FEM構造解析で課題とされる一次要素のロッキングが挙げられる。(参考文献:寺田賢二郎“有限要素法の「常識」(固体・構造編)”3.2.2 変形問題における要素の表現能力、[Online](インターネット〈URL:http://www.jsce.or.jp/committee/amc/compmech/pdftext/terada.pdf〉)
そこで、本発明では、保持器の遠心力/熱膨張解析に対象を限定すると共に、要素分割に関する条件を以下のとおり定めた。
モデル形状:周期対称構造[1/(転動体数×2)]
要素分割:全解析領域を均一な大きさで分割
適用する要素:2次要素
さらに、予め求められた、径方向分割数がFEM解(有限要素解)の近似精度へ与える影響を示す影響曲線(図7)をもとに、必要とされる解の精度に基づき、径方向の分割数を基準値Nと定め、強度解析システムにより要素分割を行なう。尚、FEM解の精度の判定に用いるパラメータとしては、最大主応力解などが挙げられる。
【0027】
このような有限要素法解析手法および強度解析システムを保持器の強度予測に用いることにより、FEMの専門知識やノウハウが必要とされる要素分割作業工程が省略され、一般作業者によってもケアレスミスのおそれなく、短時間でFEM強度解析結果を得ることができる。また、均一な大きさの要素により要素分割を行なうことにより、一般作業者が局部的に細かく要素分割する際に陥りやすい、要素形状のひずみによる解の近似誤差の増大が防止されている。また、2次要素による分割を行なうことにより、最大主応力解の安定性、近似精度、計算時間がともに大きく改善されることが解析検証されている。尚、現在一般的に用いられているCADのCPUの性能によれば、通常の玉軸受用冠形樹脂保持器では1〜2分、特殊な形状の玉軸受用保持器でも5分以内にFEM解析を終了可能である。
【0028】
さらに、要素分割の違いによる作業者間での解の違いがなくなり、どのような作業者であっても同一のFEM強度解析結果を得ることができるので、一般的な保持器設計ツールとして共通利用することができる。また、例えば長期的なプロジェクトのための保持器強度解析システム、または短期的にグループ内で共有するFEM解析ツールなどとして共通利用することができ、保持器設計の高度化、効率化、コスト削減に結びつけることができる。
【0029】
計算の実行終了後、ポストプロセッサ機能を利用してさまざまな強度検討を行うことができる。例えば、CPU12は、応力分布、変位分布等を、ポストプロセッサ機能を用いてディスプレイ19に出力、表示する(ステップS9)。図8は、ディスプレイ19に表示される解析結果の一例であり、応力分布モデル400を示す図である。図中、濃淡で示された応力分布は、濃い部分ほど応力が大きいことを意味し、薄い部分ほど応力が小さいことを意味し、溝部底部105と内径面108の交点近傍において応力が高くなっていることが分かる。また、CPU12は、最大主応力や最大変位を抽出し、ディスプレイ19に出力、表示する(ステップS10)。このほか、CPU12は、ひずみ分布やミーゼス応力、径方向最大変位、主ひずみ等の解析結果をディスプレイ19に出力、表示することも可能である。
【0030】
このように、本発明の有限要素法解析手法および強度解析システムによれば、一般作業者でも容易に再現性のある形で、保持器の強度予測を詳細に行なうことが可能となる。これにより、FEM強度解析による解の近似保証のもとで、種々の条件に応じた保持器の最適設計や問題検討が可能となる。
【0031】
尚、本発明は、前述した実施形態に限定されるものではなく、変更、改良等が適宜可能である。例えば、前述した実施形態では、玉軸受用冠形保持器100について解析を行なっているが、これに限定されない。本発明を、玉軸受用保持器全般やころ軸受保持器全般を対象とした遠心力熱膨張解析や、転動体と保持器との間の接触力の影響を別途考慮した解析に適用して、変形や応力増加を推定することも可能である。また、4面体2次要素にかわって、6面体2次要素により分割を行なってもよい。また、要素分割数は、基準値N以上の値であってもよい。
【0032】
また、本実施形態においては、表示部として設けられたディスプレイ19上に解析結果等が表示されているが、プリンタ等による紙出力等、他の出力形式を用いてもよい。また、本実施形態では、強度解析プログラム16やデータベース17は1個の装置により実現されているが、これらがサーバ等に記憶され、各端末装置が当該サーバにアクセスすることにより本発明の強度解析システムを実現してもよい。
【符号の説明】
【0033】
10 強度解析システム
11 キーボード
12 CPU
14 ハードディスク
16 強度解析プログラム
17 データベース
19 ディスプレイ
21 物性値ライブラリ
22 形状ファイルライブラリ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
周期対称構造を有する保持器の有限要素法解析手法であって、
前記保持器の周期対称構造を構成する最小単位を解析モデルとして設定するステップと、
均一な大きさの4面体2次要素または6面体2次要素を用いて、前記解析モデルの全解析領域の要素分割を行うステップと、を含むことを特徴とする保持器の有限要素法解析手法。
【請求項2】
前記形状データに含まれる線分または曲線の要素分割数を指定するステップと、
指定された前記要素分割数に応じた要素サイズで、前記解析モデルの全解析領域の要素分割を行なうステップと、を含むことを特徴とする請求項1記載の保持器の有限要素法解析手法。
【請求項3】
前記形状データに含まれる前記保持器の径方向寸法に基づき、前記保持器の径方向の要素分割数を指定するステップと、
指定された前記要素分割数に応じた要素サイズで、前記解析モデルの全解析領域の要素分割を行なうステップと、を含むことを特徴とする請求項1記載の保持器の有限要素法解析手法。
【請求項4】
前記形状データに含まれる線分または曲線の要素分割数を指定するステップが、
前記形状データに含まれる線分または曲線の要素分割数が任意の有限要素解に及ぼす影響曲線を予備解析により求めるステップと、
前記影響曲線に基づき、必要な解の近似精度を満たす前記要素分割数の基準値を求めるステップと、を含み、
指定される前記要素分割数が前記基準値以上であることを必要条件としたことを特徴とする請求項2記載の保持器の有限要素法解析手法。
【請求項5】
前記形状データに含まれる前記保持器の径方向寸法に基づき、前記保持器の径方向の要素分割数を指定するステップが、
前記形状データにおける径方向の要素分割数が任意の有限要素解に及ぼす影響曲線を予備解析により求めるステップと、
前記影響曲線に基づき、必要な解の近似精度を満たす前記要素分割数の基準値を求めるステップと、を含み、
指定される前記要素分割数が前記基準値以上であることを必要条件としたことを特徴とする請求項3記載の保持器の有限要素法解析手法。
【請求項6】
前記解の近似精度は、最大主応力解を適用することにより判定されることを特徴とする請求項4または5に記載の保持器の有限要素法解析手法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項記載の保持器の有限要素法解析手法を用いた、保持器の強度解析システムであって、
前記保持器の形状データ、物性値データ、および稼動条件と、解析実行命令と、を入力するための入力部と、
前記解析実行命令を受けて、前記形状データおよび物性値データの読み込みと、要素分割と、拘束条件および境界条件の設定と、マトリックス計算と、を連続して自動的に行うことによって、前記保持器の遠心力および熱膨張に対する応力を解析する制御部と、
前記解析結果を出力するための出力部と、を備えることを特徴とする強度解析システム。
【請求項8】
前記保持器の物性値データを記憶する物性値ライブラリを備え、
前記物性値ライブラリに含まれる物性値データのファイル名の入力または選択を受けて、前記制御部が、前記物性値ライブラリから物性値データを読み込むことを特徴とする請求項7記載の強度解析システム。
【請求項9】
前記保持器のCAD形状ファイルライブラリを備え、
前記CAD形状ファイルライブラリに含まれる形状ファイルのファイル名の入力または選択を受けて、前記制御部が、前記CAD形状ファイルライブラリから形状ファイルを読み込むことを特徴とする請求項7または8記載の強度解析システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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