説明

保持器付きころ軸受

【課題】組み立てを容易にしたころ軸受用保持器を提供する。
【解決手段】本発明に係る保持器付きころ軸受は、外輪と内輪ところと保持器を有し、前記保持器は、軸方向に間隔をあけて互いに同心に配置された、それぞれが円環状である1対のリムと、これら両リム同士の間に掛け渡された複数本の柱とから成り、これら両リムの内側面と円周方向に隣り合う柱の円周方向側面とにより四周を囲まれた部分を、それぞれポケットとし、前記保持器のポケットの側面側のリムと転動体側面との内、一方に凸部を有し、他方に凹部を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保持器付きころ軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から各種回転機械装置の回転支持部に、転がり軸受が組み込まれている。大きな荷重が加わる回転支持部を構成する為の転がり軸受としては、転動体としてころ(例えば円筒ころ、円すいころ)を使用した保持器付ころ軸受が使用されている。図5は、この様な保持器付ころ軸受の1例として、例えばスクリューコンプレッサーのロータ支持部に組み込む、保持器付円筒ころ軸受1を示している。この保持器付円筒ころ軸受1は、内周面の軸方向中間部に円筒面状の外輪軌道2を有する外輪3と、外周面の軸方向中間部に円筒面状の内輪軌道4を有する内輪5と、これら外輪軌道2と内輪軌道4との間に軸受用保持器6により保持した状態で転動自在に設けられた、複数の円筒ころ7とから成る。
【0003】
図6(A)の上部の図は、図5の軸受用保持器をA方向から見た断面図である。上記軸受用保持器6は、図6に示す様に、所謂籠型保持器と呼ばれるもので、軸方向に間隔をあけて互いに同心に配置された、それぞれが円環状である1対のリム61、61と、これら両リム61、61
同士の間に掛け渡された複数本の柱62、62とから成る。そして、これら両リム61、61の内側面と円周方向に隣り合う柱62 、62の円周方向側面とにより四周を囲まれた部分を、それぞれポケット63、63としている。ポケット63,63間の各柱62の側面は、円筒ころ7の外径面に沿った円筒面状に形成し、円筒ころ7がポケット63の開口から落ちないようにしてある。したがって、ポケット63のころ入口となる開口部の幅寸法Cは、円筒ころ7の外径寸法Dよりも小さくなっている。組立に際して、円筒ころ7は、白矢印で示すように、軸受用保持器6の内径側からポケット63内に押し込み、軸受用保持器6の樹脂の持つ弾性で柱62を撓ませて円筒ころ7の進入を可能とする。
【0004】
このように、円筒ころ7を押し込んでポケット63内に入れるため、開口部の幅寸法Cと、ころ外径Dの寸法差が大きくなると、円筒ころ7が軸受用保持器6に入り難い。なお、開口幅寸法Cを大きくすると、円筒ころ7は入り易くなる。しかし、軸受の組立時に円筒ころ7がポケット63から落下し易くなる。特に、スクリューコンプレッサーのロータ支持部に、ころ軸受1を組み込む場合、外輪3と内輪5を別々に組み込む場合もあり、円筒ころ7の落下する状況が発生し易いので、開口幅寸法Cを大きくすることは好ましくない。
【0005】
この部分の改善の先行技術としては、例えば特許文献1がある。これは、図7に示した様に、各ポケット63間の柱64の軸方向の一部に、断面を他の部分よりも小さくした幅狭部64aを設けることにより、柱64を撓ませ易くしているものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−296652号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載のころ軸受の様に、各ポケット63間の柱64の軸方向の一部に、断面を他の部分よりも小さくした幅狭部64aを設けることのみでは、隣のポケット63に既に転動体7が組み込まれている場合、撓んだ柱64が隣に組み込まれている転動体7に干渉する為、柱64が撓み難い場合もあり、組立容易性の面で改善の余地がある。また、図8や図9の様に、保持器の柱65Aに凸部66Aを設ける事も出来るが、隣のポケットに既に転動体が組み込まれている場合は、前記と同様の理由にて、組立容易性の面で改善の余地がある。
【0008】
本発明は、前述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、組み立てを容易にしたころ軸受用保持器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため、本発明は次のような構成からなる。すなわち、本発明に係る保持器付きころ軸受は、外輪と内輪ところと保持器を有し、前記保持器は、軸方向に間隔をあけて互いに同心に配置された、それぞれが円環状である1対のリムと、これら両リム同士の間に掛け渡された複数本の柱とから成り、これら両リムの内側面と円周方向に隣り合う柱の円周方向側面とにより四周を囲まれた部分を、それぞれポケットとし、前記保持器のポケットの側面側のリムと転動体側面との内、一方に凸部を有し、他方に凹部を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、前記保持器のポケットの側面側のリムと転動体側面との内、一方に凸部を有し、他方に凹部を有することにより、保持器からころを外れ難く出来、保持器の柱に掛かる負担の割合を抑制出来るので、隣のポケットに既に転動体が組み込まれている場合でも、当該ポケットに、ころを組み立て易くなる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係る保持器付きころ軸受の第1実施形態の断面図
【図2】本発明に係る保持器付きころ軸受の第1実施形態の保持器の部分斜視図
【図3】本発明に係る保持器付きころ軸受の第2実施形態の断面図
【図4】従来の保持器付きころ軸受の内輪を組立てる時の模式的断面図
【図5】従来の保持器付きころ軸受の断面図
【図6】(A)従来の保持器付きころ軸受のころ押込み過程を示す部分断面図、(B)は同保持器の部分平面図
【図7】従来の保持器付きころ軸受用保持器の部分平面図
【図8】従来の保持器付きころ軸受用保持器の斜視図
【図9】従来の保持器付きころ軸受用保持器の部分斜視図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る保持器付きころ軸受1の各実施形態について図面を参照して説明する。
<第1実施形態>
図1に示すように、本実施形態の保持器付きころ軸受1は、外輪3と内輪5ところ71と保持器6Aを有する。前記保持器6Aは、例えば樹脂からなる。樹脂材料としては、66ナイロンを用いることが出来るが、高温強度や耐熱性に優れる46ナイロンを用いることが好ましい。また、例えば、スクリューコンプレッサーのロータ支持部の様に、耐摩耗性や耐油性や耐熱性が求められる用途においては、耐摩耗性や耐油性や耐熱性に優れた直鎖型ポリフェニレンサルファイドを用いることがより好ましい。また、本発明に係る保持器付きころ軸受用の保持器6Aは、例えば図2に示すように、軸方向に間隔をあけて互いに同心に配置された、それぞれが円環状である1対のリム67、67と、これら両リム同士の間に掛け渡された複数本の柱65から成る。また、これら両リムの内側面と円周方向に隣り合う柱の円周方向側面とにより四周を囲まれた部分を、ポケット63としている。また、前記柱65の両ポケット側の側面には、各2箇所、計4箇所の凸部66、66、66、66が設けられている。前記凸部66は、図示しないころの外径面に沿った円筒面状に形成され、ころがポケット63の円周方向の開口から落ち難いようにしてある。したがって、ポケット63のころ入口となる開口部の幅寸法は、ころの外径寸法よりも小さくなっている。また、図1では、前記保持器のポケットの側面側の両側のリムに各1個の凸部67Aを有し、転動体である円筒ころ71の両側面に皿状の凹部72を有する。各円筒ころ71は、前記リムの凸部67Aの2箇所と前記凸部66の4箇所の計6箇所で支持することにより、ポケットの開口から落ちない様にしている。その為、図2のポケット63の円周方向の開口部の寸法は、図9の円周方向の開口部の寸法よりも、大きくなっているので、図2の柱65に掛かる負担は、図9の柱65Aに掛かる負担より小さくなっている。この様に、一方に凸部、他方に凹部を有することにより、保持器からころを外れ難く出来、保持器の柱に掛かる負担の割合を抑制出来るので、隣のポケットに既に転動体が組み込まれている場合でも、当該ポケットに、ころを組み立て易くなる。
【0013】
<第2実施形態>
次に、図3と図4を参照して第2の実施形態について説明する。なお、第1実施形態と同一又は同等部分は説明を簡略化又は省略する。従来、図4の様に内輪5を矢印の方向に組み込む前に、ころ7が傾いていると内輪5を組込み難い場合があった。しかし、図3の保持器付きころ軸受では、保持器6Bの凸部68Aが、外輪3の方向に寄っており、凸部68Aが円筒ころ71を支えるので、内輪5を組み込む前に、ころ71が、傾き難く、内輪を組込み易くなる。
【0014】
なお、上述の実施形態は本発明の一例を示したものであって、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではない。本発明の主旨を外れない限り、他の実施形態にも適用出来る。すなわち、凸部67Aや凸部68Aや凸部66の位置や形状や大きさや数は、本発明の趣旨を外れず保持器の強度や耐久性を損なわない限り変更することが可能であり、例えば、凸部67Aや凸部68Aの形状は、円錐や円筒や多角錐や多角柱、断面が楕円や半円や三日月の柱形状や錐形状にすることが可能である。
【符号の説明】
【0015】
1 保持器付円筒ころ軸受
2 外輪軌道
3 外輪
4 内輪軌道
5 内輪
6 保持器付きころ軸受用保持器
6A 第1実施形態の保持器付きころ軸受用保持器
6B 第2実施形態の保持器付きころ軸受用保持器
7 円筒ころ
61 リム
62 柱
63 ポケット
64 柱
64a 幅狭部
65 柱
66 凸部
66A 凸部
67 リム
67A 凸部
68 リム
68A
凸部
71 円筒ころ
72 凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外輪と内輪ところと保持器を有する保持器付きころ軸受において、前記保持器は、軸方向に間隔をあけて互いに同心に配置された、それぞれが円環状である1対のリムと、これら両リム同士の間に掛け渡された複数本の柱とから成り、これら両リムの内側面と円周方向に隣り合う柱の円周方向側面とにより四周を囲まれた部分を、それぞれポケットとし、前記保持器のポケットの側面側のリムと転動体側面との内、一方に凸部を有し、他方に凹部を有することを特徴とする保持器付きころ軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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