説明

保持回路、電磁弁、バルブセレクタ及び流体移送装置

【課題】 電磁弁として用いられるソレノイドにおいて、従来の回路構成を維持しつつ、ソレノイドにおける逆起電力の発生を抑制し、さらに、磁束密度の消滅防止を可能とする保持回路等を提供する。
【解決手段】 ソレノイド3に直列に接続された抵抗9に対して、並列にコンデンサ13を接続し、第1スイッチ7及び第2スイッチ11をオンにしてソレノイド3を定格電圧で駆動した後、第1スイッチ7をオフにしてソレノイド3に保持電圧を保持させる場合に、コンデンサ13によりソレノイド3に印加される電圧が定格電圧から保持電圧へ移行する速度を緩和してソレノイド13における逆起電力を吸収し、磁束密度の消滅を防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保持回路、電磁弁、バルブセレクタ及び流体移送装置に関し、特に、ソレノイドに対して、定格電圧で駆動した後、定格電圧よりも低い保持電圧を印加して駆動状態を保持させる保持回路等を用いた省発熱、省電力に関する発明である。
【背景技術】
【0002】
電磁弁の発熱は、一般に望ましくない。そのため、従来より、電磁弁の発熱低減・省電力が図られてきた。例えば、図7に示す従来の保持回路51では、ソレノイド53と直列に抵抗59を接続することにより定格電圧を保持電圧に低下させる。また、図8は、図7のソレノイド53における電圧の経時変化を示し、図9は、ソレノイド53の印加電圧−磁束密度の関係を示すグラフである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
インダクタンスを有するソレノイドは、急激な電流変化に伴い、過渡現象として自己誘電作用による大きな逆起電力を生じる。逆起電力の大きさは、電流の変化速度に比例する。
【0004】
図8の曲線A´―b−B´に示すように、ソレノイドに印加される電圧が定格電圧Vから保持電圧Vへと低下する際の電流変化の際に逆起電力が生じ、ソレノイドへの印加電圧が電磁弁としての機能を保持するのに必要な電圧(最低保持電圧)Vhminを下回る恐れがある。そのため、保持電圧Vを高めに設定して、逆起電力によって過渡的に電圧が大きく低下しても最低保持電圧を下回らせないようにしている。
【0005】
しかしながら、保持電圧を高めに設定するため、電磁弁の発熱低減も省電力も不十分となっていた。さらに、発熱低減が不十分であるため、例えば、バルブセレクタ又は流体移送装置に用いられる電磁弁の発熱が移送流体中の抗体を死滅させないように、電磁弁に短時間だけ通電する運用がなされていた。このように、電磁弁に継続的に通電する運用ができないことで、バルブセレクタ又は流体移送装置の活用が制限されていた。
【0006】
さらに、図9に示すように、ソレノイド53に生じた逆起電力のためにいったんb点まで磁束密度が減少してしまう。そこから電圧が保持電圧Vに回復するのに伴って磁束密度もB点まで回復しようとするが、実際にはB´点でとどまってしまう。このように、消滅した磁束密度は完全には回復せずに、電磁弁の保持力が低下してしまっていた。
【0007】
ゆえに、本願発明は、従来の回路構成を維持しつつ、ソレノイドにおける逆起電力の発生を抑制し、さらに、磁束密度の消滅防止を可能とする保持回路等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に係る発明は、直列に接続されたソレノイド及び抵抗を備え、前記ソレノイドに対して、定格電圧で駆動した後、前記定格電圧よりも低い保持電圧を印加して駆動状態を保持させる保持回路であって、前記ソレノイド及び前記抵抗に直列に接続され、前記ソレノイドを駆動するか否かを切り替える第1切替手段と、前記抵抗に並列に接続され、前記第1切替手段により前記定格電圧で駆動されてから所定の時間経過後に、オン状態からオフ状態となる第2切替手段と、前記抵抗に並列に接続され、前記ソレノイドの時定数よりも大きな時定数を有し、前記第2切替手段がオフ状態となった後に、前記ソレノイドに印加される電圧が前記定格電圧から前記保持電圧へ移行する速度を緩和して前記ソレノイドにおける逆起電力を吸収するコンデンサを備える。
【0009】
請求項2に係る発明は、請求項1記載の保持回路であって、前記コンデンサの容量Cは、前記コンデンサの等価抵抗成分r、前記ソレノイドの等価抵抗成分r及び前記ソレノイドのインダクタンスLに対して、式(1)を満たすことを特徴とする。
【0010】
請求項3に係る発明は、請求項2記載の保持回路であって、前記第2切替手段は、前記コンデンサと並列に接続されたコンデンサである第2コンデンサであって、前記第2コンデンサの容量Cは、前記コンデンサの容量Cよりも大きいことを特徴とする。
【0011】
請求項4に係る発明は、請求項3記載の保持回路であって、前記第1切替手段は、3つの接点を有するコンタクタであって、前記3つの接点のうち、第1接点は、前記第2コンデンサに接続され、第2接点は、前記定格電圧を印加する電源に接続され、第3接点は、前記ソレノイドに接続され、前記コンタクタは、前記第1接点と前記第2接点を接続することにより、前記第2コンデンサの充電を開始し、前記第1接点と前記第3接点を接続することにより、前記電源を含まずに、前記第2コンデンサ及び前記ソレノイドを含む閉回路を形成するものであり、前記閉回路の前記第3接点と前記ソレノイドとの間に、前記抵抗とは異なる放電抵抗を備えることを特徴とする。
【0012】
請求項5に係る発明は、請求項4記載の保持回路であって、前記電源の印加方向に対して逆方向に電流を流すダイオードをさらに備え、前記ダイオードは、前記放電抵抗とは直列に接続され、かつ、前記ソレノイドとは並列に接続され、前記放電抵抗の抵抗値は、前記抵抗の抵抗値よりも小さいことを特徴とする。
【0013】
請求項6に係る発明は、請求項1から5のいずれかに記載の保持回路を用いて制御される電磁弁である。
【0014】
請求項7に係る発明は、請求項6記載の電磁弁を備えるバルブセレクタである。
【0015】
請求項8に係る発明は、請求項6記載の電磁弁又は請求項7記載のバルブセレクタを備える流体移送装置である。
【0016】
【数1】

【発明の効果】
【0017】
本願各請求項に係る発明によれば、抵抗と並列に存在するコンデンサがソレノイドに生じる逆起電力を吸収し、ソレノイドに印加される電圧を定格電圧から保持電圧へとなだらかに減少させる。このため、例えば、ソレノイドに印加される電圧を最低保持電圧の値以上に保ちつつ保持電圧を下げることが可能となり、保持電圧を最低保持電圧にまで低減することも可能となる。また、逆起電力の発生が抑制されるため、磁束密度の減少は電磁弁の機能を安定に保持できる点でとどまり、磁束密度の消滅は生じない。
【0018】
なお、例えば特許文献1や特許文献2に記載されているように、単に、ソレノイドと並列にダイオードを備え、抵抗と並列にコンデンサを備える回路は知られている。
【0019】
しかしながら、特許文献1において、コンデンサC1はタイマー機能を実現するためのものである。コンデンサC2は、特許文献1の明細書中に記載の通り、異常発振を防止して、トランジスタQ1を保護するためのものである。そのため、通常は1μF以下程度の小容量のコンデンサが用いられる。このように、特許文献1のコンデンサC1及びC2の容量は、ソレノイドのインダクタンスとは無関係に決定されるものである。一方、本願発明のコンデンサは、特許文献1記載のコンデンサとは回路における役割が異なるものであり、その容量は、ソレノイドが発生させる過渡的な大規模逆起電力を吸収するため、ソレノイド及び抵抗との関係で決定されるものである。
【0020】
また、特許文献2は、作動のスピードアップを達成するためのものであり(すなわち、特許文献2における第3図の曲線a、bを曲線cに近づけるためのものであり)、本願発明の目的であるソレノイドにおける逆起電力の抑制という課題解決には直接的な関連性がないものである。
【0021】
特許文献2の第3図曲線cでは、逆起電力が生じていないようにも見える。しかし、これは、ソレノイドに並列に接続されるダイオードにより生じるものである。特許文献2記載のコンデンサは、特許文献1のコンデンサC1と同様に、遅延回路として、トランジスタを制御するものである。よって、特許文献2記載のコンデンサは、ソレノイドに印加される電圧を制御するためのものではない。特許文献2記載のコンデンサもまた、本願発明のコンデンサとは回路における役割が異なるものである。
【0022】
本願各請求項に係る発明によれば、大幅な回路構成の変更を要せずに、逆起電力の抑制を可能とすることができる。
【0023】
また、本願請求項2に係る発明によれば、式(1)に基づいてソレノイドの逆起電力を抑制するコンデンサの値を定めることが可能となる。
【0024】
さらに、本願請求項3に係る発明によれば、第2切替手段としてコンデンサよりも容量の大きな第2コンデンサを用いる。そのため、電磁弁を駆動させるために十分な時間を確保することができ、タイマー回路なしにタイマー機能を実現することが可能となる。したがって、タイマー回路を要する場合と比べて、保持回路の回路サイズ、故障確率、製作コストを低減させることがさらに容易となる。
【0025】
さらに、本願請求項4に係る発明によれば、電源を切ったときに第2コンデンサ及びソレノイドを含む閉回路が形成される。したがって、定格電圧から保持電圧に下げる際に加えて、電源を切った際にもソレノイドに発生する逆起電力を緩和することが可能となる。
【0026】
ここで、コンデンサ及び第2コンデンサが完全に放電される前に、再び電磁弁を駆動するために第1接点及び第2接点が接続されると、第2コンデンサが第2スイッチに代わる役割を果たせない。したがって、電源を切った際にはコンデンサ及び第2コンデンサが速やかに放電されることが重要である。
【0027】
そこで、本願請求項4に係る発明によれば、コンタクタが電源による電圧印加を停止させたときに、第2コンデンサ及び抵抗を含む閉回路だけでなく、第2コンデンサ及びソレノイドを含む閉回路も形成されることとなる。このため、第2コンデンサを速やかに放電させることが容易となる。
【0028】
さらに、本願請求項5に係る発明によれば、第2接点に接続された放電抵抗の抵抗値は、第1接点に接続された抵抗の抵抗値よりも小さい。しかも、ダイオードが、放電の際に流れる電流にできるだけソレノイドを迂回させる。したがって、コンデンサ及び第2コンデンサに蓄積した電荷を速やかに放電させることがさらに容易となる。
【0029】
さらに、本願請求項6に係る発明によれば、保持電圧が従来よりも低い電磁弁が実現可能となる。また、本願請求項7及び8によれば、そのような電磁弁を用いたバルブセレクタ及び流体移送装置がそれぞれ実現可能となる。したがって、本願請求項8に係る発明によれば、電磁弁の発熱を低減することにより、移送される流体が加熱されることを抑制でき、長時間通電することも可能な電磁弁を備えたバルブセレクタ又は流体移送装置を実現できる。このため、バルブセレクタ又は流体移送装置の活用の幅が広がり、例えば抗体を含む流体のような熱に弱い流体へのダメージを低減しつつ移送することが容易となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0030】
【特許文献1】特開平3−277884号公報
【特許文献2】特開昭49−78225号公報
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本願発明の実施の形態に係る保持回路を示す回路図である。
【図2】図1の保持回路において、電圧の経時変化を示すグラフである。
【図3】図1の保持回路において、ソレノイドの印加電圧−磁束密度の関係を示すグラフである。
【図4】本願発明の別の実施の形態に係る保持回路を示す回路図である。
【図5】図4の保持回路において、電圧及び電流の経時変化を示すグラフである。
【図6】図1又は図4の保持回路を備えた流体移送装置の概要を示すブロック図である。
【図7】従来の保持回路を示す回路図である。
【図8】図7の保持回路において、電圧の経時変化を示すグラフである。
【図9】図7の保持回路において、ソレノイドの印加電圧−磁束密度の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、図面を参照して、本願発明の実施例について述べる。なお、本願発明は、実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0033】
図1は、本願発明の実施例に係る保持回路1を示す回路図である。図2は、図1の保持回路1において、電圧の経時変化を示すグラフである。
【0034】
流体を移送する流体移送装置には、一般に、流体を種類ごとに移送するために用いるバルブセレクタが備えられている。バルブセレクタにおいては、流体を通す管での開閉制御に電磁弁が広く用いられている。図1の保持回路1におけるソレノイド3は、例えば、電磁弁として用いられるものである。電磁弁として用いられるソレノイドは、弁として駆動させるための定格電圧が印加された後、電磁弁の開閉を保持するための保持電圧として、定格電圧よりも小さい電圧が印加される。ソレノイドは、例えば消費電力1Wのものであれば、定格電圧で1分半ほど通電すると80℃程度の高温となってしまう。抗体を含む流体を流体移送装置で移送する場合、このような電磁弁を用いたとすれば、電磁弁の発熱によってバルブセレクタが高温となり、移送される抗体が死滅する恐れがある。バルブセレクタの加熱を招くほかにも、電磁弁の発熱は一般に望ましくない。したがって、ソレノイドへの印加電圧を低減する保持回路が開発されてきたが、ソレノイドに発生する逆起電力が印加電圧の低減を妨げていた。
【0035】
図1の保持回路1において、ソレノイド3(本願請求項の「ソレノイド」の一例)と直列に、電源電圧がVであり直流電流を供給する直流電源5(本願請求項の「電源」の一例)と、導通状態(本願請求項の「オン状態」の一例)と非導通状態(本願請求項の「オフ状態」の一例)を切り換えてソレノイド3に流れる電流の有無を切り替える第1スイッチ7(本願請求項の「第1切替手段」の一例)と、抵抗9(本願請求項の「抵抗」の一例)とが接続されている。抵抗9と並列に第2スイッチ11(本願請求項の「第2切替手段」の一例)及びコンデンサ13(本願請求項の「コンデンサ」の一例)が接続されている。第2スイッチ11は、第1スイッチ7が導通状態になってから(オンしてから)一定時間後に導通状態(オン)から非導通状態(オフ)となる。コンデンサ13は、第2スイッチ11が非導通状態となった後に、ソレノイド3に印加される電圧が定格電圧から保持電圧へ移行する速度を緩和してソレノイド3における逆起電力を吸収する。また、ソレノイド3と並列にダイオード15が接続されている。
【0036】
なお、ダイオード15は、ソレノイド3の逆起電力に起因する第1スイッチ7及び第2スイッチ11の故障を防止するためのものである。ただし、接続しないとすることもできる。
【0037】
図1のコンデンサ13の動作を具体的に説明するため、まず、これが存在しない場合である図7の従来の保持回路51の動作について具体的に説明する。図7の保持回路51において、ソレノイド53、直流電源55、第1スイッチ57、抵抗59、第2スイッチ61及びダイオード63は、それぞれ、図1のソレノイド3、直流電源5、第1スイッチ7、抵抗9、第2スイッチ11、ダイオード15に対応する。
【0038】
図8及び図9を参照して、図7の従来の保持回路51の動作について具体的に説明する。図8のグラフは、保持回路51において、電圧の経時変化を示すグラフである。横軸は経過時間、縦軸は電圧の大きさを示す。図9のグラフは、保持回路51において、ソレノイド53の印加電圧−磁束密度の関係を示すグラフである。
【0039】
図8において、時刻t00において第1スイッチ57がオン(D点)となった時に、第2スイッチ61がオンであり、ソレノイド53に直流電源55の全電圧Vが印加される。このとき、ソレノイド53には定格電圧Vが印加されて、電磁弁として駆動する(A点)。時刻t01において、第2スイッチ61がタイマー機能によりオフとなり(A´点)、電源電圧Vが抵抗59にも分散して印加される。このとき、ソレノイド53に流れる電流の急激な減少に伴い、ソレノイド53に逆起電力が生じる。その結果、ソレノイド53に印加される電圧は保持電圧Vよりも大きく減少する(b点)。その後、時刻t02において、電圧は保持電圧Vまで回復する(B´点)。時刻t03において、第1スイッチ57をオフとすると(C点)、再びソレノイド33に逆起電力が生じ(C´点)、その後ソレノイドへの印加電圧はゼロとなる(D´点)。
【0040】
図9は、この駆動サイクルにおけるソレノイド53の磁束密度変化を示す。定格電圧が印加されて励磁された(A(A´)点)後、第2スイッチ61がオフとなる。ここで、本来なら電磁弁としての機能を安定に保持できるB点にとどまることが理想的だが、ソレノイド53に生じた逆起電力のためにいったんb点まで磁束密度が減少してしまう。そこから電圧がVに回復するのに伴って磁束密度もB点まで回復しようとするが、実際にはB´点でとどまってしまう。すなわち、消滅した磁束密度は完全には回復しない。
【0041】
このように、図7の従来の保持回路51では、図8のA´―b−B´に示すように、第2スイッチ61の非導通状態への移行時にソレノイド53において逆起電力が発生する。そして、図9に示すように、消滅した磁束密度は完全には回復せず、電磁弁の保持力が低下してしまっていた。
【0042】
続いて、図1の本願発明の実施例に係る保持回路1について、保持回路1の特徴であるコンデンサ13を中心に説明する。
【0043】
コンデンサ13は、第1スイッチ7及び第2スイッチ11の導通状態では、電荷が全く充電されていない。第2スイッチ11がオフとなった瞬間には抵抗ゼロで充電が開始され、フル充電されると抵抗無限大となる。すなわち、コンデンサ13は、抵抗ゼロから無限大まで抵抗値が徐々に増大する可変抵抗とみることができる。第2スイッチ11が非導通状態となった後に、抵抗ゼロから十分大きくなるまでの変化により、ソレノイド3に印加される電圧が定格電圧から保持電圧へ移行する速度を緩和してソレノイド3における逆起電力を吸収する。
【0044】
コンデンサ13の容量は、ソレノイド3における大規模な逆起電力をコンデンサ13が吸収するために、ソレノイド3のインダクタンスに見合う容量が必要不可欠である。ソレノイド3の逆起電力によって生じる電流ILは、式(2)で表される。ここで、TLはソレノイド3の時定数であり、定数I、ソレノイド3のインダクタンスL及びソレノイド3に固有の等価抵抗成分rを用いて式(3)で表される。
【0045】
また、コンデンサ13が吸収する電流は、式(4)で表される。ここで、TCはコンデンサ13の時定数であり、定数I、コンデンサ13の容量C及びコンデンサ13に固有の等価抵抗成分rを用いて式(5)で表される。
【0046】
【数2】

【0047】
ソレノイド3の逆起電力をコンデンサ13が吸収するには、コンデンサ13の時定数Tがソレノイド3の時定数Tよりも大きいことが必要である。すなわち、式(6)を満たす必要がある。式(3)、式(5)及び式(6)より、式(7)が成立する。そして、式(7)をCについて整理すると、式(8)が成立する。
【0048】
【数3】

【0049】
実務上、コンデンサ13の容量を決定するためには、例えば、使用するソレノイド3のインダクタンス、等価抵抗成分r、等価抵抗成分rをテスターなどで計測し、得られたインダクタンスに見合ったコンデンサを用意すればよい。
【0050】
以下では、コンデンサ13の動作など、図7の保持回路51の動作とは異なる点を中心に、図2及び図3を参照して説明する。図2の上のグラフは、第1切替手段7のオン・オフの経時変化を示す。図2の下のグラフは、ソレノイド3に印加される電圧を示す。横軸は経過時間、縦軸は電圧の大きさを示す。図3は、図1の保持回路において、ソレノイドの印加電圧−磁束密度の関係を示すグラフである。
【0051】
<電磁弁の駆動>
図2を参照して、電磁弁の駆動時である時刻t0において、第1スイッチ7がオン(D点)となった時に、第2スイッチ11がオンであり、ソレノイド3に電源電圧Vが全て定格電圧として印加される。このとき、ソレノイド3には定格電圧Vが印加されて、電磁弁として駆動する(A点)。
【0052】
<電磁弁の保持>
その後、時刻t1において、第2スイッチ11がタイマー機能によりオフになると(A´)、抵抗9にも電圧が分散して印加され、保持電圧は定格電圧よりも小さくなる。ソレノイド3に印加される電圧が定格電圧から保持電圧へと減少する際の動作について説明する。
【0053】
第2スイッチ11がタイマー機能によりオフになると、抵抗9及びコンデンサ13にも電圧が印加されることにより、コンデンサ13に充電され始める。コンデンサ13が充電される間は、電流にとってのコンデンサ13の抵抗値は緩やかに上昇する。そのため、並列に接続されている抵抗9及びコンデンサ13への分圧は緩やかに上昇する。その間、ソレノイド3への分圧は緩やかに減少し、電流の減少は緩やかなものとなる。
【0054】
ソレノイド3において生じうる逆起電力は一般に大きい。しかし、コンデンサ13の容量は、式(8)に基づいて決定されており、ソレノイド3の逆起電力を吸収するのに十分な容量である。
【0055】
結果として、逆起電力が抑制されてソレノイド3に印加される電圧は、時刻t1から時刻t2にかけて、A´からBへとゆるやかに減少する。そのため、保持回路1においては、保持電圧Vを小さくでき、電磁弁からの発熱を抑えるとともに省電力を図ることが容易となる。保持電圧Vを最低保持電圧にまで低減して設定することも可能である。
【0056】
さらに、図3は、保持回路1を用いた駆動サイクルにおけるソレノイド3の磁束密度変化を示すグラフである。定格電圧Vが印加されて励磁された(A(A´)点)後、第2切替手段11がオフとなる。保持回路1においては、ソレノイド3で逆起電力の発生が抑制されるため、磁束密度の減少は電磁弁の機能を安定に保持できるB点でとどまる。このように、図1の保持回路1では、磁束密度の消滅は生じない。
【0057】
保持回路1と保持回路51の比較のために、一例として、図7における直流電源55として24Vの直流電源、ソレノイド53として高砂電気株式会社のSTV−2−M6KG DC24Vのソレノイドを用いて、抵抗59を変化させたときにソレノイド53が電磁弁としての機能を保持できるか否かのテストを行った。その結果、抵抗59として820Ωの抵抗を用いた場合、通常印加される5.7V程度の電圧が図8における保持電圧Vとしてソレノイド53に印加され、電磁弁としての機能が確実に保持された。1640Ωの抵抗を用いた場合には、保持電圧として3.28Vがソレノイド53に印加され、かろうじて保持されていた。しかし、1690Ωの抵抗を用いた場合、保持電圧として3.18Vがソレノイド53に印加されたが、ソレノイド53は電磁弁としての機能を保持できなかった。また、1740Ωの抵抗を用いた場合、保持電圧として3.10Vが印加され、やはり保持できなかった。
【0058】
一方、図1において、直流電源5として24Vの直流電源、ソレノイド3として高砂電気株式会社のSTV−2−M6KG DC24Vのソレノイド、さらにコンデンサ13として1000μFのコンデンサを用いて、同様のテストを行った。その結果、抵抗9として1690Ωの抵抗を用いた場合にも、ソレノイド3の保持電圧Vは緩やかに3.18Vに落ち着き、電磁弁としての機能を保持した。さらに、抵抗9として1740Ωの抵抗を用いた場合にも、ソレノイド3の保持電圧は緩やかに3.09Vに落ち着き、同じく電磁弁としての機能を保持した。
【実施例2】
【0059】
続いて、本願発明に係る保持回路の別の実施例について、図4及び図5を参照して説明する。図4は、本願発明の別の実施の形態に係る保持回路71を示す回路図である。図5は、保持回路71において、電圧及び電流の経時変化を示すグラフである。以下、保持回路71について、保持回路1とは異なる点を中心に説明する。
【0060】
保持回路71は、第2スイッチ11の代わりにコンデンサ81(本願請求項の「第2コンデンサ」の一例)を備える。コンデンサ81は、コンデンサ13に対応するコンデンサ83(本願請求項の「コンデンサ」の別の一例)とは異なるものであり、コンデンサ83と並列に接続されている。また、コンデンサ81の容量は、コンデンサ83の容量よりも大きいものである。
【0061】
また、保持回路71は、第1スイッチ7に対応するスイッチの代わりにコンタクタ77(本願請求項の「コンタクタ」の一例)を備える。コンタクタ77は、3つの接点を有しており、それぞれ、コンデンサ81に接続された第1接点89(本願請求項の「第1接点」の一例)と、直流電源75(本願請求項の「電源」の別の一例)に接続された第2接点91(本願請求項の「第2接点」の一例)と、ソレノイド73(本願請求項の「ソレノイド」の別の一例)に接続された第3接点93(本願請求項の「第3接点」の一例)である。コモン接点である第1接点89は、直流電源75が電圧を印加する際には第2接点91に接続される。また、第1接点89は、直流電源75が電圧を印加しない際には、第3接点93に接続される。
【0062】
さらに、保持回路71は、第3接点93とソレノイド73との間に抵抗87(本願請求項の「放電抵抗」の一例)を備える。抵抗87は、コンデンサ81を速やかに放電させるための抵抗である。
【0063】
続いて、保持回路71の動作について説明する。
【0064】
<電磁弁の駆動>
時刻t10にコンタクタ77が第1接点89と第2接点91を接続すると、その直後にソレノイド73に定格電圧が印加されて、時刻t11にかけて電磁弁が駆動する(A点―A´点)。ここで、t10からt11は、非常に短い時間である。この間、コンデンサ81及びコンデンサ83は、電流を抵抗なく流す状態(本願請求項の「オン状態」の別の一例)であり、コンデンサ81及びコンデンサ83に流れる電流の和iは、ソレノイド73の定格電流である。
【0065】
<電磁弁の保持>
時刻t11の後、コンデンサ81及びコンデンサ83に電荷が充電され始め、コンデンサ81及びコンデンサ83は、電流に対する可変抵抗として機能し始める。逆起電力が吸収されながらソレノイド73に印加される電圧は緩やかに減少する(A´点―B点)。コンデンサ81及びコンデンサ83が完全に充電された時刻t12以後は、コンデンサ81及びコンデンサ83に電流は全く流れない状態となる(本願請求項の「オフ状態」の別の一例)。このとき、ソレノイド73には保持電圧Vにより電磁弁が保持される。
【0066】
<電磁弁の復帰〜放電>
時刻t13にコンタクタ77が第1接点89と第2接点93を接続すると、直流電源75を含まずに、コンデンサ81及びソレノイド73を含む閉回路が形成される。この閉回路では、ソレノイド73、コンデンサ81、第1接点89、第3接点93、抵抗87が順に接続されている。したがって、コンデンサ81及びコンデンサ83に充電された電荷が閉回路に放電される。時刻t12以後にコンデンサ81及びコンデンサ83に印加されていた電圧(V−V)は、ソレノイド73に印加されていた保持電圧Vよりも十分に大きい。そのため、ソレノイド73の逆起電力は緩和され、ソレノイド73に印加されていた電圧は緩やかに減少し、電磁弁は元の状態に戻る(C点―D´点)。
【0067】
ここで、コンデンサ81及びコンデンサ83が完全に放電される前に、再び電磁弁を駆動するために第1接点89及び第2接点91が接続されると、コンデンサ83がスイッチ11に代わる役割を果たせない。したがって、これらのコンデンサが速やかに放電されることが重要である。
【0068】
そこで、第3接点93とソレノイド73の間に、放電抵抗87を設置した。放電抵抗87は、抵抗79よりも抵抗値が小さいものを用いる。すると、放電抵抗87を含む閉回路に大きな放電電流が流れる。このため、コンデンサ81又はコンデンサ83と抵抗79とを含む閉回路のみで放電される場合と比べて、コンデンサ81及びコンデンサ83に蓄積された電荷の放電が促進される。
【0069】
ここで、ソレノイド73は、放電を減速してしまう。そこで、ダイオード85が放電抵抗87に直列に、かつ、ソレノイド73と並列に接続されていることが有益となる。ダイオード85は、直流電源75の印加方向に対して逆方向に電流を流すように設置されており、放電電流の大部分をソレノイド73を経由させないように迂回させるためである。したがって、保持回路1に比べて保持回路71では、ダイオード85は、さらに重要な役割を担っている。
【0070】
ここで、コンデンサ81の容量は保持回路71の良好な動作のために重要な値である。容量が小さいと電磁弁が駆動する前にソレノイド73への印加電圧が定格電圧Vを下回って不安定な動作となってしまう。一方、容量が大きいと保持電圧に減少するまでに要する時間(時刻t11からt12まで)が増大し、ソレノイド73の発熱量が増加してしまう。出願人は、コンデンサ81の容量がコンデンサ83の容量の3倍であれば極めて良好に動作することを実験により確認した。なお、コンデンサ81とコンデンサ83は、実装上は1つのコンデンサとして実現されてもよい。
【0071】
また、出願人は、放電抵抗87の抵抗値は、コンデンサの放電を開始した時にソレノイド73の定格電流の2倍の電流が流れる抵抗値であれば極めて良好に動作することも実験により確認した。
【0072】
保持回路71は、タイマー機能を要する第2スイッチ11をコンデンサ81に置き換え、時刻t10から時刻t11は第2スイッチ11がオンである状態に対応する。また、時刻t11以後は、第2スイッチ11がオフである状態に対応する。この結果、タイマー回路が不要となる。このため、保持回路の回路サイズ、故障確率、製作コストを低減させることが可能となる。
【0073】
なお、実施例1及び2において、上記の個々の回路素子の値は、保持回路の保持機能を確認するための一例であり、実際の値を決める上では、適宜、装置設計に合わせて別の値とすればよい。
【実施例3】
【0074】
続いて、図6を参照して、図1の保持回路1又は図4の保持回路71を用いた流体移送装置について説明する。図6は、図1の保持回路1を備えた流体移送装置31の概要を示すブロック図である。
【0075】
流体移送装置31は、流体を移送する流体移送部33と、流体移送部33の流体移送動作を制御する流体移送制御部35とを備える。流体移送部33は、バルブセレクタ37と流路39とを備える。バルブセレクタ37は、複数の流体の流路39への流入及び流路39からの流出を制御する。また、バルブセレクタ37は、図1に示される保持回路1と、電磁弁41とを備える。保持回路1は、電磁弁41を制御し、低い保持電圧によって電磁弁としての動作を保持させる。ここで、保持回路1の代わりに、保持回路71を用いるものであってもよい。
【0076】
また、流体移送部33は、バルブセレクタ37部分以外にも保持回路1及び電磁弁41を有するものであってもよい。保持回路1は、電磁弁41を制御し、低い保持電圧によって電磁弁としての動作を保持させる。ここで、保持回路1の代わりに、保持回路71を用いるものであってもよい。
【0077】
このように発熱が抑制された電磁弁を用いたバルブセレクタ又は流体移送装置において、電磁弁に1日中通電していても電磁弁は体温程度にしか温度が上昇しない。したがって、流体中の抗体にダメージを与えずに流体を移送することが可能となった。
【符号の説明】
【0078】
1 保持回路、3 ソレノイド、5 電源、7 第1スイッチ、9 抵抗、11 第2スイッチ、13 コンデンサ、15 ダイオード、31 流体移送装置、37 バルブセレクタ、

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直列に接続されたソレノイド及び抵抗を備え、前記ソレノイドに対して、定格電圧で駆動した後、前記定格電圧よりも低い保持電圧を印加して駆動状態を保持させる保持回路であって、
前記ソレノイド及び前記抵抗に直列に接続され、前記ソレノイドを駆動するか否かを切り替える第1切替手段と、
前記抵抗に並列に接続され、前記第1切替手段により前記定格電圧で駆動されてから所定の時間経過後に、オン状態からオフ状態となる第2切替手段と、
前記抵抗に並列に接続され、前記ソレノイドの時定数よりも大きな時定数を有し、前記第2切替手段がオフ状態となった後に、前記ソレノイドに印加される電圧が前記定格電圧から前記保持電圧へ移行する速度を緩和して前記ソレノイドにおける逆起電力を吸収するコンデンサを備える保持回路。
【請求項2】
前記コンデンサの容量Cは、前記コンデンサの等価抵抗成分r、前記ソレノイドの等価抵抗成分r及び前記ソレノイドのインダクタンスLに対して、式(1)を満たすことを特徴とする、請求項1記載の保持回路。
【数1】

【請求項3】
前記第2切替手段は、前記コンデンサと並列に接続されたコンデンサである第2コンデンサであって、
前記第2コンデンサの容量Cは、前記コンデンサの容量Cよりも大きいことを特徴とする、請求項2記載の保持回路。
【請求項4】
前記第1切替手段は、3つの接点を有するコンタクタであって、
前記3つの接点のうち、
第1接点は、前記第2コンデンサに接続され、
第2接点は、前記定格電圧を印加する電源に接続され、
第3接点は、前記ソレノイドに接続され、
前記コンタクタは、
前記第1接点と前記第2接点を接続することにより、前記第2コンデンサの充電を開始し、
前記第1接点と前記第3接点を接続することにより、前記電源を含まずに、前記第2コンデンサ及び前記ソレノイドを含む閉回路を形成するものであり、
前記閉回路の前記第3接点と前記ソレノイドとの間に、前記抵抗とは異なる放電抵抗を備えることを特徴とする、請求項3記載の保持回路。
【請求項5】
前記電源の印加方向に対して逆方向に電流を流すダイオードをさらに備え、
前記ダイオードは、前記放電抵抗とは直列に接続され、かつ、前記ソレノイドとは並列に接続され、
前記放電抵抗の抵抗値は、前記抵抗の抵抗値よりも小さいことを特徴とする、請求項4記載の保持回路。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の保持回路を用いて制御される電磁弁。
【請求項7】
請求項6記載の電磁弁を備えるバルブセレクタ。
【請求項8】
請求項6記載の電磁弁又は請求項7記載のバルブセレクタを備える流体移送装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−146688(P2011−146688A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−255679(P2010−255679)
【出願日】平成22年11月16日(2010.11.16)
【出願人】(509031899)矢部川電気工業株式会社 (4)
【Fターム(参考)】