説明

保持機構、およびそれを用いたスポット溶接検査装置

【課題】構造の複雑化を招くことなく、また、溶接部位との位置関係などに関わらず、検出器を溶接部位に対して垂直に保持する保持機構、およびその保持機構を用いたスポット溶接検査装置を提供する、
【解決手段】固定板11と、固定板11に対向し貫通孔33が形成された可動板12と、固定板11側の端部が当該固定板11に固定され可動板12側の端部に当該可動板12が軸方向に往復自在に装着される連結部材13と、連結部材13により連結された固定板11と可動板12とを互いに離間する方向に付勢するコイルばね14とを設け、可動板12の貫通孔33を、固定板11に対向する側から反対側に向かうにしたがってその内径が徐々に大きくなるテーパ状に形成し、可動板12側の端部が当該可動板12の貫通孔33に嵌合するテーパ状に形成された連結部材13を、貫通孔33に前記固定板11と反対側から挿入する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スポット溶接された溶接部位を接触式の検出器を用いて検査するスポット溶接検査装置の前記検出器を保持するための保持機構、およびその保持機構を用いたスポット溶接検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車の製造ラインなどでは、スポット溶接が広く行われている。スポット溶接された溶接部位は、例えば検査用にサンプルを抽出し、そのサンプルの溶接部位の強度を検査する剥離検査や、あるいはタガネやドライバーなどの治具を用いて溶接部位に問題がないかを検査する所謂タガネ検査などが行われている。この場合、剥離検査では抽出したサンプルを検査後に製品として利用することができなくなる。また、タガネ検査では溶接部位の強度が基準を満たしているかを同一基準で判定することが困難であったり、作業員により良否の判断が異なったりするおそれがある。そのため、近年では、例えば特許文献1に記載のように、溶接部位を非破壊で検査することが検討されている。
【0003】
ところで、スポット溶接される溶接部位は、平面だけでなく例えば曲面になっていることがある。そのため、特許文献1のような検出器を用いて検査を行う場合、正確な測定のためには検出器を溶接部位に対して垂直方向から接触させる必要がある。
【0004】
しかしながら、例えば検出器をロボットアームに取り付けて使用する場合、溶接部位に垂直方向から接触させるためには、接触部位の表面形状をカメラなどで撮影して形状を特定し、その特定した形状に対応するようにロボットアームを制御する必要がある。このため、構造の複雑化や制御処理の負荷の増加などを招くおそれがある。また、作業者が検出器を所持して手動で溶接部位を検査する場合、作業者ごとに垂直と判断する感覚が異なる可能性があること、また、溶接部位の位置関係によっては同一の作業者であっても垂直と判断する感覚が異なる可能性があることなどから、溶接部位の良否の判断すなわち製品の品質にばらつきが生じるおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3098193号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、構造の複雑化を招くことなく、また、溶接部位との位置関係などに関わらず、検出器を溶接部位に対して垂直に保持する保持機構、およびその保持機構を用いたスポット溶接検査装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載した発明は、スポット溶接された溶接部位を接触式の検出器を用いて検査するスポット溶接検査装置の前記検出器を保持するための保持機構であって、外部の支持手段に固定される固定板と、前記固定板に対向して設けられ、板厚方向に貫通する貫通孔が形成された可動板と、前記固定板と前記可動板とを連結する柱状に形成され、前記固定板側の端部が当該固定板に固定され、前記可動板側の端部に当該可動板が軸方向に往復自在に装着される連結部材と、前記連結部材により連結された前記固定板と前記可動板とを互いに離間する方向に付勢する付勢部材と、を備え、前記検出器は、前記溶接部位に接触する側の端部が前記固定板と反対側に突出した状態で前記可動板に取り付けられ、前記可動板の前記貫通孔は、前記固定板に対向する側から反対側に向かうにしたがってその内径が徐々に大きくなるテーパ状に形成され、前記連結部材は、前記可動板側の端部が当該可動板の前記貫通孔に嵌合するテーパ状に形成されており、前記貫通孔に前記固定板と反対側から挿入されていることを特徴とする。
【0008】
請求項2に記載した発明は、スポット溶接された溶接部位を接触式の検出器を用いて検査するスポット溶接検査装置の前記検出器を保持するための保持機構であって、外部の支持手段に固定され、板厚方向に貫通する貫通孔が形成された固定板と、前記固定板に対向して設けられた可動板と、前記固定板と前記可動板とを連結する柱状に形成され、前記固定板側の端部に当該固定板が軸方向に往復自在に装着され、前記可動板側の端部が当該可動板に固定される連結部材と、前記連結部材により連結された前記固定板と前記可動板とを互いに離間する方向に付勢する付勢部材と、を備え、前記検出器は、前記溶接部位に接触する側の端部が前記固定板と反対側に突出した状態で前記可動板に取り付けられ、前記固定板の前記貫通孔は、前記可動板に対向する側から反対側に向かうにしたがってその内径が徐々に大きくなるテーパ状に形成され、前記連結部材は、前記固定板側の端部が当該固定板の前記貫通孔に嵌合するテーパ状に形成されており、前記貫通孔に前記可動板と反対側から挿入されて前記可動板側の端部が当該可動板に固定されていることを特徴とする。
【0009】
請求項3に記載した発明は、前記貫通孔は、3つ設けられており、板厚方向から視た平面視で仮想的な三角形の頂点に配置され、前記連結部材は、3つの前記貫通孔にそれぞれ設けられていることを特徴とする。
請求項4に記載した発明は、前記検出器は、前記溶接部位に接触する側の端部にセンサ素子が設けられており、前記センサ素子は、3つの前記貫通孔で形成される仮想的な三角形の内側に位置していることを特徴とする。
請求項5に記載した発明は、前記検出器は、複数の前記センサ素子が一列に並んで設けられているラインセンサであり、3つの前記貫通孔は、そのうち2つが前記検出器の前記センサ素子が並ぶ方向と平行に配置されていることを特徴とする。
【0010】
請求項6に記載した発明は、前記付勢部材は、3つの前記連結部材に対応してそれぞれ設けられており、前記検出器の前記センサ素子が並ぶ方向と平行に配置された前記連結部材に対応して設けられている2つの弾性力を、残りの1つの弾性力よりも小さくすることを特徴とする。
請求項7に記載した発明は、前記付勢部材は、前記連結部材と同軸に形成されたコイルばねであり、前記連結部材は、前記付勢部材としてのコイルばねの内周側に設けられていることを特徴とする。
請求項8に記載した発明は、前記連結部材は、テーパ状に形成された端部の側に前記貫通孔の開口の径よりも径細のネック部が設けられていることを特徴とする。
請求項9に記載した発明は、前記可動板が前記固定板側に向かって移動する移動量を規制する規制手段をさらに備え、前記規制手段は、前記可動板の移動量を、当該可動板から突出している前記検出器の突出量以下に規制することを特徴とする。
【0011】
請求項10に記載した発明は、前記外部の支持部材は、ロボットアームであることを特徴とする。
請求項11に記載した発明は、前記検出器は、前記溶接部位に磁場を印加して当該溶接部位の内部を非破壊検査することを特徴とする。
請求項12に記載した発明は、前記検出器は、前記溶接部位に超音波を照射して当該溶接部位の内部を非破壊検査することを特徴とする。
請求項13に記載したスポット溶接検査装置の発明は、請求項1から12のいずれか一項記載の保持機構を用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に記載した発明によれば、連結部材により固定板に連結される可動板は、付勢部材によって互いに離間する方向に付勢されつつ、連結部材に対して往復自在に設けられている。このとき、テーパ状に形成された端部を有する連結部材は、同じくテーパ状に形成され固定板と反対側が径大な貫通孔を有する可動板に、固定板と反対から挿入される。これにより、可動板は、固定板と反対側への移動が連結部材の長さにより規制される。また、連結部材と可動板の貫通孔とが嵌合することにより、可動板と連結部材との間の相対的な移動が規制される。つまり、可動板は、固定板に対して最大限離間し検出器が溶接部位に接触していない状態では、固定板に対する傾動が抑制される。
【0013】
一方、検出器が溶接部位に接触すると、可動板は、付勢部材の弾性力に逆らって固定板側に移動する。このとき、連結部材のテーパ状の部位と可動板の貫通孔との嵌合が解除されることにより、可動板は、連結部材および連結部材が固定されている固定板に対して傾動可能となる。そして、可動板は、その傾きが付勢部材により調整されつつ、溶接部位に接触した検出器の角度に応じて傾動する。その結果、検出器は、溶接部位に密に接触した状態すなわち溶接部位に対して概ね垂直方向に配置される。換言すると、検出器は、溶接部位の位置関係によらず、また、作業者によらず、溶接部位に対する傾き方向が一定且つ傾き量が一定範囲内に収まった状態で保持される。したがって、構造の複雑化を招くことなく、また、溶接部位との位置関係などに関わらず、検出器を溶接部位に対して垂直に保持することができる。なお、ここでいう「垂直」とは概ね垂直と見なせる範囲を含んでいる。
【0014】
また、可動板は固定板に対して最大限離間した状態では固定板に対する傾動が抑制されるので、検出器を移動させるときなど溶接部位に接触していない状態では、検出器がぶれたりすることを抑制することができる。また、可動板の固定板側への移動は付勢部材により許容されるので、検出器が溶接部位に接触したときの衝撃が吸収され、過度の力が加わるおそれを低減でき、検出器を保護することができる。
【0015】
請求項2に記載した発明によれば、貫通孔を固定板に設け、連結部材は、貫通孔に挿入された状態で可動板に固定されている。このような構成によっても、検出器が溶接部位に接触したとき、連結部材と貫通孔との嵌合が解除され、可動板は、連結部材とともに固定板に対して傾動可能となる。したがって、構造の複雑化を招くことなく、また、溶接部位との位置関係などに関わらず、検出器を溶接部位に対して垂直に保持することができるなど、請求項1に記載した発明と同様の効果を得ることができる。
【0016】
請求項3に記載した発明によれば、3つの連結部材を仮想的な三角形の頂点に配置しているので、可動板は、3次元的に傾動可能となる。これにより、さまざまな溶接部位の形状に対応することができる。
請求項4に記載した発明によれば、検出器のセンサ素子を仮想的な三角形の内側に配置しているので、検出器が溶接部位に接触した状態における可動板の傾き量を、センサ素子を仮想的な三角形の外側に配置した場合に比べて小さくすることができる。したがって、可動板が傾動しすぎて溶接部位やその周辺に接触することを抑制することができる。
請求項5に記載した発明によれば、検出器のラインセンサを2つの連結部材を結ぶ仮想的な直線に平行に配置しているので、ラインセンサを連結部材に近接させて配置することができ、小型化を図ることができる。
【0017】
請求項6に記載した発明によれば、3つの付勢部材のうち、ラインセンサと平行に配置された2つの連結部材に対応して設けられている付勢部材の弾性力を、残りの1つよりも小さくしている。この場合、弾性力が小さい付勢部材側から溶接部位に接近させたとき、可動板は、接近方向と反対側に配置された弾性力の大きい付勢部材によりその傾動が抑制されるとともに、相対的に弾性力が小さい付勢部材を押し上げる。これにより、検出器を溶接部位に対して概ね垂直方向に配置することができる。
【0018】
請求項7に記載した発明によれば、付勢部材をコイルばねで構成し、連結部材をコイルばねの内周側に配置しているので、構造の小型化を図ることができる。
請求項8に記載した発明によれば、連結部材にネック部を設けているので、連結部材と貫通孔との嵌合が解除されたとき、連結部材に対する可動板の傾動可能な範囲、あるいは、固定板に対する連結部材の傾動可能な範囲を大きくすることができ、さまざまな形状の溶接部位に対応することができる。
【0019】
請求項9に記載した発明によれば、可動板の固定板側への移動量を規制するので、請求項1などに記載した発明の場合には連結部材が溶接部位側に突出して溶接部位に接触するおそれを低減することができるとともに、請求項2などに記載した発明の場合には検出器が支持手段に衝突するおそれを低減することができる。
請求項10に記載した発明によれば、支持手段としてロボットアームを採用しているので、検査を自動化することができるとともに、例えば自動車の製造ラインなど作業者が作業を行うことが困難な状況であっても検査を行うことができる。
【0020】
請求項11に記載した発明および請求項12に記載した発明によれば、検出器は、溶接部位を非破壊で検査するので、検査用のサンプルを作成する必要がない。このため、検査に要するコストを低減できるとともに、例えば製造ラインへの組み込みや溶接部位の全数検査などを行うことができ、製品の品質の向上を図ることができる。
請求項13に記載したスポット溶接検査装置の発明によれば、請求項1から12のいずれか一項の保持機構を備えているので、検出器を溶接部位に対して概ね垂直に配置することができ、溶接部位を適切に検査することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】第1実施形態による保持部およびスポット溶接検査装置を示す概略図
【図2】第1実施形態による固定板を模式的に示す図
【図3】第1実施形態による可動板を模式的に示す図
【図4】第1実施形態による連結部材を模式的に示す図
【図5】第1実施形態による図4のV領域を示す図で、連結部材の下端部の拡大図
【図6】第1実施形態による保持部の概略を示す分解斜視図
【図7】第1実施形態による溶接部位の断面構造を模式的に示す図
【図8】第1実施形態による連結部材と貫通孔との嵌合状態を模式的に示す図
【図9】第1実施形態による検査時の可動板の傾動状態を模式的に示す図
【図10】第1実施形態の変形例による検査時の可動板の傾動状態を模式的に示す図9相当図
【図11】第2実施形態による保持部の概略を示す分解斜視図で、図6相当図
【図12】第2実施形態による検査時の可動板の傾動状態を模式的に示す図で、図9相当図
【図13】その他の実施形態による連結部材を模式的に示す図
【図14】その他の実施形態による検査時の可動板の傾動状態を模式的に示す図で、図9相当図
【図15】その他の実施形態による保持機構を模式的に示す図その1
【図16】その他の実施形態による保持機構を模式的に示す図その2
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明による保持機構およびスポット溶接検査装置の複数の実施形態について図面を参照しながら説明する。また、以下に説明する複数の実施形態では、実質的に同一の構成部位には同一の符号を付し、説明を省略する。
【0023】
(第1実施形態)
以下、第1実施形態による保持機構およびスポット溶接検査装置を図1から図9を参照して説明する。
図1に示すように、本実施形態による保持機構に相当する保持部10は、固定板11、可動板12、連結部材13およびコイルばね14を備えている。この保持部10は、スポット溶接された溶接部位を検査するためのスポット溶接検査装置100の検出器15を保持している。この検出器15は、センサバンド16により保持部10に固定されている。また、保持部10は、支持手段に相当する支持部17に支持されている。以下、図1(A)に矢印にて示す方向を上下方向および前後方向とし、図1(B)に矢印にて示す方向を左右方向として説明する。
【0024】
固定板11は、図1(A)に示すように、略台形状のベース部20と、ベース部20の左右側の両端から前方へ突出する2つの腕部21とを有する平面視で概ねC字状の平板形状に形成されている。ベース部20および各腕部21には、連結孔22および取付孔23がそれぞれ形成されている。連結孔22は、図2(B)および(C)に示すように、固定板11を板厚方向に貫通し、固定板11の上面側と下面側とに開口している。また、連結孔22は、上面側の開口の径が下面側の開口の径よりも小さく形成されている。このため、連結孔22には、固定板11の板厚方向の中間に位置して段差部24が形成されている。これらの連結孔22は、図2(A)に示すように、固定板11の平面視において仮想的な三角形25の頂点に設けられている。本実施形態の場合、仮想的な三角形25は、二等辺三角形に形成されている。この連結孔22には、固定板11の下面側から連結部材13が挿入される。また、ベース部20と腕部21とにより形成される凹部26内には、後述するように検出器15が配置される。
【0025】
取付孔23は、図2(B)および(C)に示すように、固定板11を板厚方向に貫通し、固定板11の上面側と下面側とに開口している。また、取付孔23は、固定板11の上面側の開口の径が下面側の開口の径よりも大きく形成されている。このため、取付孔23には、固定板11の板厚方向の中間に位置して段差部27が形成されている。この取付孔23には、図1に示す支持部17が取り付けられる。
【0026】
可動板12は、図3(A)に示すように、略台形状のベース部30と、ベース部30の左右側の両端から前方へ突出する2つの腕部31と、ベース部30から上方に立ち上がったセンサ取付部32とを有し、平面視で概ねC字状に形成されている。この可動板12は、図1に示すように、固定板11に対向して配置される。ベース部30および各腕部31には、貫通孔33がそれぞれ形成されている。つまり、可動板12には、3つの貫通孔33が形成されている。これらの貫通孔33は、可動板12の平面視において、上記した固定板11に形成される仮想的な三角形25(図2参照)の頂点に対応した位置に設けられている。つまり、可動板12の貫通孔33は、固定板11の連結孔22と同軸に形成されている。
【0027】
可動板12に形成されている貫通孔33は、図3(B)および(C)に示すように、可動板12を板厚方向に貫通し、可動板12の上面側と下面側とに開口している。この貫通孔33は、上面側の開口の径R1が下面側の開口の径R2よりも大きく形成されている。また、貫通孔33は、上面側すなわち固定板11に対向する側から下面側すなわち固定板11と反対側に向かうにしたがって、その径が徐々に大きくなるテーパ状に形成されている。この貫通孔33には、下面側から連結部材13が挿入される。また、ベース部30と腕部31とにより形成される凹部34内には、後述するように検出器15が配置される。
【0028】
センサ取付部32は、ベース部30と腕部31との境界に位置して、ベース部30から上方に立ち上がる板状に形成されている。センサバンド16を取り付けるためのねじ穴35が形成されている。センサ取付部32は、その高さすなわちベース部30の上面からセンサ取付部32の上端までの長さL1が、固定板11との間に隙間を存する状態に設けられている。具体的には、図1に示すように、固定板11と可動板12との間の距離が最大に離間した状態において、可動板12に設けられているセンサ取付部32の上端と固定板11の下面との間には、隙間W1が存在している。換言すると、可動板12が固定板11側へ移動する移動量は、後述するようにこの隙間W1以下に規制される。つまり、センサ取付部32は、規制手段として機能する。
【0029】
連結部材13は、その長手方向すなわち軸方向における断面が円形の概ね円柱状に形成されている。連結部材13は、剛性を有する、つまり、弾性変形することがない金属材料などにより形成されている。この連結部材13は、図4に示すように、固定板11側に位置する上端部40の軸方向の端面にタップ孔41が設けられている。また、連結部材13は、可動板12側の下端部42が、上記した可動板12に形成されている貫通孔33に対応して、先端に向かうにしたがって径大になるテーパ状に形成されている。この連結部材13は、図5に示すように、下端部42に形成されているテーパ状の部位の長さL3が、2点鎖線で仮想的に示す可動板12の板厚L4よりも長くなるよう形成されている。換言すると、テーパ状の部位の上側における連結部材13の直径R3は、可動板12に形成されている貫通孔33の上面側の開口の径R1よりも小さくなっている。連結部材13は、貫通孔33の数に応じて3つ設けられており、軸方向から視た状態で仮想的な三角形25の頂点に配置されている。
【0030】
付勢部材に相当するコイルばね14は、図1に示すように、3つの連結部材13にそれぞれ対応して3つ設けられている。これらのコイルばね14は、金属材料により形成されている。コイルばね14は、連結部材13をその内周側に収容した状態で、固定板11と可動板12との間に設けられている。このコイルばね14は、固定板11と可動板12とを互いに離間する方向に付勢する。なお、付勢部材としては、コイルばね14以外に例えば板ばねやエラストマのような弾性を有する樹脂材料などで形成してもよい。すなわち、付勢部材は、固定板11と可動板12とを互いに離間する方向に付勢しつつ、後述するように可動板12の固定板11側への移動を許容する弾性を有するものであればよい。
【0031】
このような構成の保持部10は、図6に示す手順にて組み立てられる。具体的には、保持部10は、固定板11と可動板12とを対向させ、固定板11と可動板12との間にコイルばね14を配置した後、連結部材13を可動板12の貫通孔33に下面側から挿入し、固定板11の上面からねじ部材43により連結部材13を固定板11に固定する。これにより、保持部10は、図1に示すように、固定板11および可動板12が連結部材13によって互いに連結された状態、且つ、コイルばね14によって互いに離間する方向に付勢された状態となる。この状態では、連結部材13のテーパ状の部位が可動板12の貫通孔33に嵌合することにより、可動板12は、連結部材13の長さを超えて下方へ移動することが抑制される。つまり、固定板11と可動板12とが最大に離間する距離は、連結部材13の長さ以下に規制される。
【0032】
組み立てられた保持部10には、検出器15が取り付けられる。この検出器15は、センサバンド16によって可動板12に固定される。この検出器15は、ケーブル15bによってスポット溶接検査装置100に接続されている。本実施形態の場合、検出器15は、溶接部位に接触して磁場を印加するとともに、印加した磁場による磁束密度を検出する。つまり、本実施形態のスポット溶接検査装置100は、溶接部位の良否を磁場により判定している。なお、検出器15による溶接部位の検査方法などについては、後述する。
【0033】
この検出器15は、その下端が可動板12から下方に突出した状態で取り付けられている。つまり、検出器15の下端は、図1に示すように、可動板12の上面から距離W11の位置に設けられている。この距離W11を短く形成すると、溶接部位の表面形状に対する適応性すなわち検出器15の可動性が向上する。距離W11は、可動板12および検出器15の外形に応じた所定の値に設定してもよいし、検査対象となる溶接部位の形状が限定されるのであれば、傾動時に可動板12や連結部材13が溶接部位に接触しない値に設定してもよい。
また、本実施形態の検出器15は、図1(C)に示すように、複数のセンサ素子15aが一列に並んで設けられたラインセンサである。このセンサ素子15aは、貫通孔33によって形成される仮想的な三角形25の内側に配置されているとともに、可動板12の前方側に配置される2つの連結部材13を結ぶ仮想的な直線と平行に配置されている。
【0034】
また、保持部10は、図1に示すように、支持部17に支持されている。この場合、保持部10は、固定板11に形成されている取付孔23に柱状に形成された支持部材50が取り付けられる。この支持部材50は、例えばねじ止めにより取付孔23に取り付けられる。なお、支持部材50の端部にねじ加工を施し、取付孔23にタップを設け、支持部材50を螺合させるような構成であってもよい。この支持部材50は、固定板11と反対側の端部において第一アーム取付部材51に固定されている。つまり、支持部材50は、保持部10の固定板11と第一アーム取付部材51とを固定的に接続している。
【0035】
第一アーム取付部材51は、略長方形状に形成された第二アーム取付部材52に固定されている。第二アーム取付部材52は、複数のロボットアーム取付穴52aと、検出器15のケーブル15bを案内するためのケーブル穴52bとが形成されている。ロボットアーム取付穴52aは、図示は省略するが、第二アーム取付部材52が取り付けられるロボットアーム53の回転軸と同心の円周上に配置されている。このロボットアーム53の回転軸は、図1(A)〜(C)に示すように、検出器15の中心、すなわち、センサ素子15aの中心と一致する。このため、検出器15は、ロボットアーム53が回転するとき、ロボットアーム53と同軸に回転する。このとき、検出器15は、そのケーブル15bがケーブル穴52bに通されているので、ロボットアーム53の回転時や移動時における巻き込みなどが防止されている。
【0036】
本実施形態で採用しているロボットアーム53は、図示しない3次元移動可能な多関節型いわゆる6軸型のロボットに設けられており、ロボット制御装置101の指示に基づいて、検出器15を溶接部位まで移動させる、このロボット制御装置101は、通信回線102によってスポット溶接検査装置100との間で例えば溶接部位の位置情報などのデータを通信可能に接続されている。なお、ロボット制御装置101を、スポット溶接検査装置100と一体に構成したり、図示しないスポット溶接機の制御装置と兼用したりしてもよい。つまり、保持部10を、図示しないスポット溶接機の溶接ガンを支持するロボットのアーム部に一体に設けるような構成としてもよい。
【0037】
スポット溶接検査装置100は、図示しない制御部、検査位置設定部、判定部および通信部などを備えている。制御部は、図示しないCPU、ROM、RAMなどを備えたコンピュータにより構成されており、例えばROMや記憶部に記憶されているコンピュータプログラムに従ってスポット溶接検査装置100の全体を制御する。検査位置設定部は、通信部を介して図示しないスポット溶接機などから取得した溶接部位のうち、何れの溶接部位を検査対象とするかを設定する。この場合、製造ライン全体を制御する図示しない中央制御装置と通信可能にし、溶接部位の位置データや搬送装置で搬送されている部品の位置データなどを中央制御装置から取得するようにしてもよい。このようなスポット溶接検査装置100は、例えば、自動車の製造ラインに採用される。ロボット制御装置101は、スポット溶接検査装置100により設定された検査対象の溶接部位に検出器15を保持する保持部10を移動させる。
【0038】
次に、上記した保持部10の作用について説明する。
まず、検出器15で検査する溶接部位について説明する。スポット溶接では、一般的に、対象物を加圧しつつ電流を流すことにより溶接が行われる。例えば、図7に示すように鋼板60を対象物とした場合、溶接部位P1は、スポット溶接機の溶接ガンによって加圧されることによりその表面がほぼ円形に窪んだインデンテーション部61が形成される。そして、このインデンテーション部61の内側に、鋼板60が互いに溶着した領域であるナゲット部62が平面視でほぼ円形に形成される。このとき、スポット溶接における溶接部位P1の品質、特には、溶接部位P1における溶着の強度は、ナゲット部62の大きさL5によって判断される。そのため、本実施形態のスポット溶接検査装置100は、ナゲット部62の大きさL5が基準値よりも大きい場合、溶接部位P1はその品質が良であると判定される。
【0039】
この場合、インデンテーション部61では加圧により鋼板60の厚みが薄くなっているため、インデンテーション部61の径に相当する大きさL6も、溶接部位P1における構造的な強度に影響する。また、ナゲット部62の周辺において、鋼板60同士が圧接された領域である接合部63の径に相当する大きさL7も、溶接部位P1における接合強度に影響する。そのため、溶接部位P1の構造的な特性値であるナゲット部62の大きさL5、インデンテーション部61の大きさL6および接合部63の大きさL7に基づいて、溶接の良否を判定するようにしてもよい。より具体的には、溶接部位P1の構造的な特性値から求められる強度が予め定められている判定基準値を上回っていれば良であると判定し、下回っていれば否であると判定すればよい。なお、検出器15の構成やナゲット部62の大きさの算出方法などは特許文献1の記載と共通するのでここでは詳細な説明は省略するが、検出器15により検出する溶接部位P1における磁束密度の分布により求めることができる。
【0040】
さて、上記した構成の保持部10は、連結部材13が可動板12の下面側から貫通孔33に挿入されている。このとき、図8(A)に示すように、連結部材13の下端部42のテーパ状の部位と、可動板12に同じくテーパ状に形成された貫通孔33とは、互いに嵌合している。なお、図8では、コイルばね14などの図示を省略している。この場合、可動板12は、コイルばね14によって固定板11から離間する方向に付勢されているものの、連結部材13のテーパ状の部位との嵌合により図示下方への移動、および、図示左右方向への移動が規制されている。つまり、固定板11と可動板12とが最大に離間している状態、換言すると、検出器15が接続部位に接触していない状態においては、可動板12と連結部材13との相対的な移動が規制されている。この状態では、可動板12および検出器15は、弾性変形することがない連結部材13により互いに固定された状態、すなわち、固定板11に対して傾動せず、固定板に仮固定されたような状態となっている。
【0041】
一方、可動板12は、コイルばね14により固定板11側への移動が許容されている。このため、図8(B)に示すように、可動板12が矢印にて示すように図示上方すなわち固定板11側に移動したとき、連結部材13のテーパ状の部位と貫通孔33との間には隙間が形成される。具体的には、テーパ状の部位においては、隙間W2が形成される。また、上記したように連結部材13のテーパ部の上側の部位の直径R3を貫通孔33の開口の径R1よりも小さく形成しているので、径方向にも隙間W3が形成される。その結果、図8(C)に示すように、可動板12は、連結部材13に対して傾動可能、すなわち、連結部材13が固定されている固定板11に対して傾動可能となる。
【0042】
そして、このように傾動可能な可動板12を有する保持部10により保持された検出器15を用いることで、スポット溶接検査装置100は、ロボット制御装置101へ溶接部位P1の一データなどを含む移動指令を出力することにより、溶接部位P1の検査を行う。具体的には、溶接部位P1の検査は、図9に示すように行われる。
ロボット制御装置101は、移動指令を受信すると、まず、図9(A)に示すように検査対象となる溶接部位P1に検出器15を保持部10ごと接近させる。続いて、図9(B)に示すように、検出器15を溶接部位P1に接触させる。このとき、上記したように、可動板12と連結部材13との嵌合が解除される。換言すると、検出器15および可動板12が、固定板11に対して傾動可能となる。この状態でさらに保持部10を溶接部位P1に近づけると、図9(C)に示すように、検出器15が溶接部位P1の表面形状に応じて傾動し、検出器15の仮想的な中心線CLが溶接部位P1の表面に対して垂直になる。つまり、検出器15は、溶接部位P1に法線方向から密に接触する。これにより、スポット溶接検査装置100は、溶接部位P1をその垂直方向から検査できるようになる。
【0043】
以上説明したように、本実施形態の保持部10およびスポット溶接検査装置100によれば以下のような効果を得ることができる。
保持部10は、連結部材13により固定板11と可動板12とを連結し、コイルばね14によって互いに離間する方向に付勢している。このとき、可動板12は、固定板11に固定された連結部材13に対して往復自在に設けられている。そして、テーパ状に形成された端部を有する連結部材13は、同じくテーパ状に形成された貫通孔33を有する可動板12に、固定板11と対向する面の反対から挿入されている。これにより、可動板12は、固定板11と反対側への移動が連結部材13の長さにより規制される。また、連結部材13と可動板12の貫通孔33とが嵌合することにより、可動板12と連結部材13との間の相対的な移動が規制される。つまり、可動板12は、検出器15が溶接部位P1に接触していない状態、すなわち、固定板11に対して最大限離間した状態では、固定板11に対する傾動が抑制されている。
【0044】
一方、可動板12は、検出器15が溶接部位P1に接触すると、コイルばね14の弾性力に逆らって固定板11側に移動する。このとき、連結部材13と可動板12の貫通孔33との嵌合が解除されることにより、可動板12は、連結部材13および連結部材13が固定されている固定板11に対して傾動可能となる。そして、可動板12は、その傾きがコイルばね14により調整されつつ、溶接部位P1に接触した検出器15の角度に応じて傾動する。つまり、検出器15は、溶接部位P1に密に接触した状態、すなわち、溶接部位P1に対して概ね垂直方向に配置される。
このため、接触部位P1の表面形状をカメラなどで撮影したりする必要が無く、構造の複雑化や制御処理の負荷の増加などを招くことがない。したがって、構造の複雑化を招くことなく、また、溶接部位P1との位置関係などに関わらず、検出器15を溶接部位P1に対して垂直に保持することができる。
【0045】
また、可動板12は固定板11に対して最大限離間した状態では固定板11に対する傾動が抑制されているので、検出器15を移動させるときなど溶接部位P1に接触していない状態では、検出器15がぶれたりすることを抑制することができる。
また、コイルばね14は可動板12の固定板11側への移動を許容するので、検出器15が溶接部位P1に接触したときの衝撃が吸収され、過度の力が加わるおそれを低減でき、検出器15を保護することができる。
また、3つの連結部材13を仮想的な三角形25の頂点に配置しているので、可動板12は、3次元的に傾動可能となるとともに、ロボットアーム53の回転軸を中心とした周方向において、概ね均等なバランスで保持される。また、可動板12は、その傾きが、3つのコイルばね14により個別に調整される。これにより、さまざまな溶接部位P1の形状に対応することができる。
【0046】
また、検出器15のセンサ素子15aを仮想的な三角形25の内側に配置しているので、検出器15が溶接部位P1に接触した状態における可動板12の傾き量を、センサ素子15aを仮想的な三角形25の外側に配置した場合に比べて小さくすることができる。したがって、可動板12が傾動しすぎて溶接部位P1やその周辺に接触することを抑制することができる。
また、固定板11および可動板12を略C字形状に形成し、検出器15をC字の開口近傍に配置しているので、図1に示すように、検出器15を領域Aに近接させることができる。この領域Aは、例えば対象物に付属している他の部品や障害物などを模式的に示している。したがって、溶接部位の近傍に他の部品や障害物がある場合であっても適切に検査を行うことができる。
【0047】
また、検出器15は、センサ素子15aが一列に並んだラインセンサを有しており、そのセンサ素子15aを2つの連結部材13を結ぶ仮想的な直線に平行に配置しているので、検出器15のセンサ素子15aを連結部材13に近接させて配置することができ、小型化を図ることができる。具体的には、図1に示すように、保持部10の前方に空間Aが形成され、溶接部位P1あるいは対象物に保持部10を接近させることができる。
また、コイルばね14をコイルばね14で構成し、連結部材13をコイルばね14の内周側に配置しているので、構造の小型化を図ることができる。
また、センサ取付部32は、可動板12の固定板11側への移動量を隙間W1(図1参照)以下に規制するので、連結部材13が溶接部位P1側に突出して溶接部位P1に接触するおそれを低減することができる。この場合、センサ取付部32は、可動板12の固定板11側への移動だけでなく、固定板11に対する傾きも規制する。つまり、センサ取付部は、可動板12の傾動量を規制する傾動量規制手段としても機能する。
【0048】
また、支持手段としてロボットアーム53を採用しているので、溶接部位の検査を自動化することができるとともに、例えば自動車の製造ラインにインラインで設置できるなど作業者が作業を行うことが困難な状況であっても検査を行うことができる。
また、検出器15は、溶接部位P1を非破壊で検査するので、検査用のサンプルを作成する必要がない。このため、検査に要するコストを低減できるとともに、例えば製造ラインへの組み込みや溶接部位P1の全数検査などを行うことができ、製品の品質の向上を図ることができる。
また、スポット溶接検査装置100は、上記した保持部10を備えているので、検出器15を溶接部位P1に対して概ね垂直に配置することができ、溶接部位P1を適切に検査することができる。
【0049】
(第1実施形態の変形例)
以下、第1実施形態の変形例による保持機構およびスポット溶接検査装置を図10を参照して説明する。第1実施形態の変形例では、コイルばねの弾性力を配置に応じて大小に設定している点において第1実施形態と異なっている。なお、コイルばね以外の構成は第1実施形態と共通するので、詳細な説明は省略する。
【0050】
図10(A)に示すように、第1実施形態の変形例による保持部10は、仮想的な三角形25に配置されているコイルばね14のうち、前方側すなわち検出器15のセンサ素子15aが並ぶ方向と平行に配置された連結部材13に対応して設けられている符号a、bを付して示す2つのコイルばね14a、14bの弾性力を、後方側に配置された残りの1つの連結部材13に対応して設けられている符号cを付して示すコイルばね14cの弾性力よりも小さく(弱く)している。なお、2本並んで設けられているコイルばね14a、14bのうちコイルばね14bについては、符号のみを破線にてして示している。
【0051】
そして、このような構成の保持部10を備えたスポット溶接検査装置100では、保持部10を、溶接部位P1に対してコイルばね14a、14b側から接近させる。このとき、検出器15は、溶接部位P1に接触すると、図10(B)に仮想的に示すように接触時に一時的に接近方向と反対側に傾こうとする。しかし、矢印にて示すコイルばね14cの弾性力が相対的に強いことから、検出器15は、図10(C)に示すように、コイルばね14cによってその傾きが抑制されるとともに、相対的に弾性力が弱いコイルばね14a、14bを押し上げる。その結果、検出器15は、溶接部位P1に対して概ね垂直方向に傾動する。
【0052】
このように、第1実施形態の変形例による保持部10は、3つのコイルばね14a〜14cのうち検出器15のセンサ素子15aが並ぶ方向と平行に配置された2つの連結部材13に対応して設けられているコイルばね14a、14bの弾性力を、残りの1つのコイルばね14cの弾性力よりも小さくし、保持部10を弾性力が小さいコイルばね14a、14b側から溶接部位P1に接近させることにより、接近方向と反対側に配置されたコイルばね14cによって検出器15を溶接部位P1に垂直に正対させることができる。したがって、溶接部位P1を適切に検査できる。なお、検出器15を接近させる場合、ある程度の速度、例えば秒速数cm程度の速度で接触させるとよい。これにより、対象物の移動や検出器15が対象物の表面で滑ることなどを抑制することができる。
また、保持部10をロボットアーム53に取り付けるのではなく、作業者による手作業で検査を行うときも同様の効果を得ることができる。
【0053】
(第2実施形態)
以下、第2実施形態による保持機構を図11および図12を参照して説明する。第2実施形態では、固定板に貫通孔を形成し、連結部材の固定板側の端部をテーパ状に形成している点において第1実施形態と異なっている。なお、その他の構成は第1実施形態と共通するので、詳細な説明は省略する。
図11に示すように、第2実施形態の保持部70は、固定板71に貫通孔72が形成されている。固定板71に形成されている貫通孔72は、可動板73側から反対側に向かうにしたがってその径が徐々に大きくなるテーパ状に形成されている。つまり、固定板71には、第1実施形態の図3に示す可動板12の貫通孔33を上下逆さまにした形状の貫通孔72が形成されている。貫通孔72は、第1実施形態と同様に、3つ設けられており、第1実施形態と同様に仮想的な三角形25(図2参照)の頂点に配置されている。
【0054】
可動板73は、概ね第1実施形態と共通した形状に形成されているものの、貫通孔72の代わりに連結孔74が形成されている。この連結孔74は、第1実施形態と同様に、連結部材75を固定するために設けられている。
このような構成において、連結部材75は、コイルばね14の内周側に配置された状態で固定板71の上面側から貫通孔72に挿入される。連結部材75は、第1実施形態の連結部材75を上下反転させたものと実質的に共通する構成となっている。この連結部材75は、可動板73側の端部が連結孔74に挿入され、ねじ部材43により可動板73に固定される。本実施形態の場合、ねじ部材43は、皿ねじが用いられており、可動板73の下面側よりねじ部材43が突出しないようになっている。換言すると、第2実施形態の場合、可動板73の下面側には検出器15の下端だけが突出した状態となっている。
【0055】
この保持部70は、例えばロボットアーム53などの支持手段に支持される。そして、図12(A)に示すように、検出器15が溶接部位P1に接触すると、可動板73はコイルばね14を押し上げる。そして、さらに保持部70を押し下げると、図12(B)に示すように、可動板73および検出器15は、検出器15が溶接部位P1に対して概ね垂直方向になるように傾動する。
このように、固定板71側に貫通孔72を設けた構成であっても、検出器15を溶接部位P1に対して垂直に正対させることができるなど第1実施形態と同様の効果を得ることができる。したがって、溶接部位P1を適切に検査することができる。
【0056】
また、第2実施形態の場合、可動板73が傾動すると、連結部材75は固定板71の反対側に突出する。換言すると、連結部材75は、可動板73の下面側に突出することがない。したがって、連結部材75が対象物に接触するおそれを低減でき、対象物が傷つくことを防止できる。
この場合、第1実施形態の変形例のように、コイルばね14の弾性力に大小(強弱)関係を設け、弾性力が小さいコイルばね14側から溶接部位P1に接触させてもよい。
【0057】
(その他の実施形態)
本発明は、上記した各実施形態に限定されることなく、その要旨を逸脱しない範囲において次のように変形または拡張することができる。
各実施形態では保持部10、70をロボットアームに取り付けたが、作業者が検出器を所持して手動で溶接部位を検査する場合であっても検出器15を垂直に配置できるなどの効果を得ることができる。したって、作業者ごとに垂直と判断する感覚が異なる可能性があったり、溶接部位の位置によっては同一の作業者であっても垂直と判断する感覚が異なる可能性があったりする場合であっても、溶接部位の良否の判断すなわち製品の品質にばらつきが生じるおそれを低減することができる。
【0058】
曲面状の鋼板60に溶接部位P1が形成された例を示したが、勿論平面状の鋼板であってもよい。
可動板12の傾動可能な範囲は連結部材13の径R3と貫通孔33の径R1との差により制限されるため、検出器15が凹部26内に収まるように(腕部21に接触しないように)連結部材13の径R3と貫通孔33の径R1との差を適宜規定するようにしてもよい。連結部材75と貫通孔72との関係も同様である。
規制手段としてセンサ取付部32を兼用したが、規制手段を専用で設けてもよい。その場合、例えばコイルばね14が最も縮んだ状態で移動を規制したり、連結部材13の昼間部に規制部を設けるなど、その構成はどのようなものであってもよい。
【0059】
図13に示すように、連結部材80のテーパ状に形成された端部の側、より具体的には、柱状の胴部81とテーパ状の端部との間に、径細のネック部82を設けるとよい。このとき、ネック部82を貫通孔33、72の内部から延びて形成するとよい。この連結部材80を例えば第2実施形態に適用する場合、連結部材80は、固定板71側の端部において貫通孔72との間に隙間ができ、その隙間によって移動可能な領域が規制される。このため、図14に示すように、検出器15と溶接部位P1が接触した場合、接触位置から離れた固定板71側においては、わずかな傾動であっても連結部材80の移動量が大きくなる。そこで、連結部材80にネック部82を設けることにより、ネック部82と貫通孔72との隙間、すなわち、連結部材80が移動可能な領域を大きくすることができる。これにより、可動板73および検出器15が傾動可能な範囲が大きくなり、検出器15をより確実に溶接位置に対して垂直に正対させることができる。このようなネック部82を第1実施形態に適用してもよいが、特に第2実施形態のように固定板71側において可動板73の傾動を許容する構成の場合、検出器15を溶接部位P1に対して垂直に配置することがより容易となる。
【0060】
固定板11、71および可動板12、73を概ね平板状に形成した例を示したが、これに限定されない。すなわち、必ずしも平板状に形成する必要はなく、各実施形態で説明したように、検出器が取り付けられた可動板が固定板に対して傾動可能な構成であれば、例えばブロック状や円柱状に形成した固定板および可動板であって均等の範囲に含まれる。具体的には、図15に示すように、保持部90を、円環状に形成した固定板91および可動板92を連結部材13により連結し、コイルばね14を設けた構成としてもよい。この場合、固定板91の中心は、上記したロボットアーム53の回転軸に一致する。また、検出器15は、円環の内周側に配置されている。なお、図15では検出器15などの図示を省略している。このとき、各連結部材13は、回転軸に対して周方向に等間隔(120°ごと)に配置されている。すなわち、保持部90においては、各連結部材13により形成される仮想的な三角形25は、正三角形に形成されている。これにより、回転軸を中心として均等に検出器15を保持することができる。
【0061】
また、図15(B)に示すように、連結部材13のテーパ部を貫通孔33の全長よりも短く形成し、連結部材13の下端側が可動板92の内部に位置する(隙間W10が形成される)ようにしてもよい。検出器15は、溶接部位に接触するため、上記したように検出器15の下端と可動板12の上面との距離W11が短い方が、溶接部位の形状に対する適応性(可動性)が向上する。一方、距離W11を短くすると、可動板92の下面側から突出した連結部材が溶接部位に接触するおそれがある。そのため、図15(B)に示すように、連結部材13を、その下端が可動板12の内側になるように形成することで、距離W11を短くしつつ、連結部材13が溶接部位やその近傍に接触するおそれを低減することができる。
【0062】
また、図16に示すように、1つのコイルばね93を固定板91および可動板92の間に配置してもよい。この場合、コイルばね93の内周側に検出器15が配置されることになる。このような構成によっても、可動板92に取り付けられている検出器15を、ロボットアーム53の回転軸を中心として周方向に均等なバランスで保持することができる。
【符号の説明】
【0063】
図面中、10は保持部(保持機構)、11は固定板、12は可動板、13は連結部材、15は検出器、15aはセンサ素子、17は支持部(支持手段)、25は仮想的な三角形、32はセンサ取付部(規制手段)、33は貫通孔、70は保持部(保持手段)、71は固定板、72は貫通孔、73は可動板、75は連結部材、80は連結部材、82はネック部、90は保持部(保持手段)、91は固定板、92は可動板、93はコイルばね(付勢部材)、100はスポット溶接検査装置、P1は溶接部位を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スポット溶接された溶接部位を接触式の検出器を用いて検査するスポット溶接検査装置の前記検出器を保持するための保持機構であって、
外部の支持手段に固定される固定板と、
前記固定板に対向して設けられ、板厚方向に貫通する貫通孔が形成された可動板と、
前記固定板と前記可動板とを連結する柱状に形成され、前記固定板側の端部が当該固定板に固定され、前記可動板側の端部に当該可動板が軸方向に往復自在に装着される連結部材と、
前記連結部材により連結された前記固定板と前記可動板とを互いに離間する方向に付勢する付勢部材と、を備え、
前記検出器は、前記溶接部位に接触する側の端部が前記固定板と反対側に突出した状態で前記可動板に取り付けられ、
前記可動板の前記貫通孔は、前記固定板に対向する側から反対側に向かうにしたがってその内径が徐々に大きくなるテーパ状に形成され、
前記連結部材は、前記可動板側の端部が当該可動板の前記貫通孔に嵌合するテーパ状に形成されており、前記貫通孔に前記固定板と反対側から挿入されていることを特徴とする保持機構。
【請求項2】
スポット溶接された溶接部位を接触式の検出器を用いて検査するスポット溶接検査装置の前記検出器を保持するための保持機構であって、
外部の支持手段に固定され、板厚方向に貫通する貫通孔が形成された固定板と、
前記固定板に対向して設けられた可動板と、
前記固定板と前記可動板とを連結する柱状に形成され、前記固定板側の端部に当該固定板が軸方向に往復自在に装着され、前記可動板側の端部が当該可動板に固定される連結部材と、
前記連結部材により連結された前記固定板と前記可動板とを互いに離間する方向に付勢する付勢部材と、を備え、
前記検出器は、前記溶接部位に接触する側の端部が前記固定板と反対側に突出した状態で前記可動板に取り付けられ、
前記固定板の前記貫通孔は、前記可動板に対向する側から反対側に向かうにしたがってその内径が徐々に大きくなるテーパ状に形成され、
前記連結部材は、前記固定板側の端部が当該固定板の前記貫通孔に嵌合するテーパ状に形成されており、前記貫通孔に前記可動板と反対側から挿入されて前記可動板側の端部が当該可動板に固定されていることを特徴とする保持機構。
【請求項3】
前記貫通孔は、3つ設けられており、板厚方向から視た平面視で仮想的な三角形の頂点に配置され、
前記連結部材は、3つの前記貫通孔にそれぞれ設けられていることを特徴とする請求項1または2記載の保持機構。
【請求項4】
前記検出器は、前記溶接部位に接触する側の端部にセンサ素子が設けられており、
前記センサ素子は、3つの前記貫通孔で形成される仮想的な三角形の内側に位置していることを特徴とする請求項3記載の保持機構。
【請求項5】
前記検出器は、複数の前記センサ素子が一列に並んで設けられているラインセンサであり、
3つの前記貫通孔は、そのうち2つが前記検出器の前記センサ素子が並ぶ方向と平行に配置されていることを特徴とする請求項3または4記載の保持機構。
【請求項6】
前記付勢部材は、3つの前記連結部材に対応してそれぞれ設けられており、前記検出器の前記センサ素子が並ぶ方向と平行に配置された前記連結部材に対応して設けられている2つの弾性力を、残りの1つの弾性力よりも小さくすることを特徴とする請求項5記載の保持機構。
【請求項7】
前記付勢部材は、前記連結部材と同軸に形成されたコイルばねであり、
前記連結部材は、前記付勢部材としてのコイルばねの内周側に設けられていることを特徴とする請求項1から6のいずれか一項記載の保持機構。
【請求項8】
前記連結部材は、テーパ状に形成された端部の側に前記貫通孔の開口の径よりも径細のネック部が設けられていることを特徴とする請求項1から7のいずれか一項記載の保持機構。
【請求項9】
前記可動板が前記固定板側に向かって移動する移動量を規制する規制手段をさらに備え、
前記規制手段は、前記可動板の移動量を、当該可動板から突出している前記検出器の突出量以下に規制することを特徴とする請求項1から8のいずれか一項記載の保持機構
【請求項10】
前記外部の支持部材は、ロボットアームであることを特徴とする請求項1から9のいずれか一項記載の保持機構。
【請求項11】
前記検出器は、前記溶接部位に磁場を印加して当該溶接部位の内部を非破壊検査することを特徴とする請求項1から10のいずれか一項記載の保持機構。
【請求項12】
前記検出器は、前記溶接部位に超音波を照射して当該溶接部位の内部を非破壊検査することを特徴とする請求項1から10のいずれか一項記載の保持機構。
【請求項13】
請求項1から12のいずれか一項記載の保持機構を用いることを特徴とするスポット溶接検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2013−22605(P2013−22605A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−157883(P2011−157883)
【出願日】平成23年7月19日(2011.7.19)
【出願人】(594191434)東朋テクノロジー株式会社 (9)
【Fターム(参考)】