説明

保持筒を一体化した成形ガラスレンズ及びその製造装置

【課題】 成型金型でレンズ母材のガラスを熱間加工することにより製造されるガラスレンズでは、レンズ母材の体積管理の要求レベルを下げた状態で、精度の良い成型ガラスレンズを製造するための種々の手法が従来から提案されているが、必ずしも満足の行く手法は未だ提案されていない。
【解決手段】 そこで本発明では、適数の貫通穴が形成され、成型時に成形金型と共に熱間加工空間を形成するレンズ保持筒と、保持筒内に成形された成形ガラスレンズの本体とから構成され、レンズ母材の余剰分を前記貫通穴に流入させた構成の保持筒を一体化した成形ガラスレンズと製造装置を提案している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学機器に使用される成形ガラスレンズ、特に、保持筒を一体化した小型の成形ガラスレンズ及びその製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
成形ガラスレンズは、成型金型でレンズ母材のガラスを熱間加工することにより製造されるガラスレンズであり、その製造に際しては、レンズ母材の体積を高精度に管理しないと、レンズの肉厚や面形状が精度良く得られず、焦点距離などのレンズ性能に関して満足なものが得られないことが知られている。そしてレンズ母材の体積管理は成形ガラスレンズの製品が小型化されればされるほど、要求レベルは厳しいものとなる。
【0003】
しかしながらレンズ母材の高精度な体積管理は製造コストの上昇に繋がり、成形ガラスレンズの製品価格・納期に影響を与えるものである。
【0004】
そのためレンズ母材の体積管理の要求レベルを下げた状態で、精度の良い成型ガラスレンズを製造するための種々の手法が従来から提案されている。
【0005】
例えば特許文献1には、上型と下型とから成る成型金型の側面全周に当接させるように分割構成されたスライドコア部を前進、後退可能に設置して、成型金型と前進時のスライドコア部とから熱間加工空間を構成すると共に、この空間に出入り自在なスライドピンをスライドコア部に設け、スライドピンの出入り状態によりレンズ母材の体積のバラツキを吸収する構成の成形ガラスレンズ製造装置が提案されている。
【0006】
また特許文献2には、上型と下型とから成る成型金型の側面全周に当接させるように分割構成されたスライドコア部を前進、後退可能に設置して、成型金型と前進時のスライドコア部とから熱間加工空間を構成すると共に、スライドコア部には穴を設け、穴へのレンズ母材の流入量により体積のバラツキを吸収する構成の成形ガラスレンズ製造装置が提案されている。
【0007】
また特許文献3には、成形金型の上型と下型の夫々の外側に内側筒体を配置し、またそれらの外側に共通の外側筒体を配置すると共に、下型用の内側筒体に、かしめられる可撓部を形成した金属枠を装着し、上型と下型により熱間加工をする際に、成形されるガラスレンズの周縁に金属枠の可撓部を撓め、かしめて一体化し、この際、撓んだ可撓部により形成される溝状部内へのレンズ母材の流入量により体積のバラツキを吸収する構成の成形ガラスレンズ製造装置が提案されている。
【0008】
また特許文献4には、成形金型の上型と下型の外側に支持筒体を配置し、上型と下型と支持筒体とからレンズ母材の熱間加工空間を構成した装置において、上型の周縁に面取り部を形成し、この面取り部により熱間加工空間に追加される空間へのレンズ母材の流入量により体積のバラツキを吸収する構成の成形ガラスレンズ製造装置が提案されている。
【0009】
また特許文献5には、上型と下型の外側にレンズ保持筒を配置して、上型と下型とレンズ保持筒が形成する空間を熱間加工空間として構成し、レンズ保持筒の内周面に空隙部を形成して、この空隙部へのレンズ母材の流入量により体積のバラツキを吸収する構成と、レンズ保持筒を発泡金属等のポーラスな金属により多数の気孔を有するものとし、この気孔による空隙部へのレンズ母材の流入量により体積のバラツキを吸収する構成の成形ガラスレンズ製造装置が提案されている。
【0010】
また特許文献6には、レンズを保持する筒状のホルダに、内周側からの押圧力により変形する薄肉状の変形部を形成し、レンズのコバ部に変形した変形部に圧接する余剰部を形成したものが提案されている。
【特許文献1】特開昭60−171230号公報
【特許文献2】特開昭60−171232号公報
【特許文献3】特許第3161622号公報
【特許文献4】特許第2694690号公報
【特許文献5】特開2004−271782号公報
【特許文献6】特開2004−279879号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
以上のような従来の手法では以下に示すような課題がある。
【0012】
まず、特許文献1の手法では、成形されたガラスレンズのコバ部の側面にスライドピンに対応する凹部が形成されてしまうことと、成形装置及び型が複雑になってコストが高いという課題がある。
【0013】
また特許文献2の手法では、特許文献1とは逆に、成形されたガラスレンズのコバ部の側面に余剰ガラスによる突起が形成されてしまうため、ガラスレンズの保持方法に制限が生じてしまうという課題がある。
【0014】
また特許文献3の手法では、溝状部の幅が0.5mm程度であればレンズ母材の溝状部への流入に抵抗が生じるためレンズ母材の成形面に適正な圧力が加わって精密なガラスレンズを成形できるが、溝状部の幅がそれ以上になると余剰のレンズ母材が周囲の溝状部に流入しやすくなるため、レンズ母材の成形面に加わる圧力が下がり、精密なレンズを成形できない。従ってこの手法では製造できるレンズの寸法が、ある値以下に限られてしまうという課題がある。
【0015】
また特許文献4の手法では、成形されたガラスレンズのコバ部は、支持筒体に接触している一面は基準面となるが、面取り部に対応する部分は、レンズ母材の余剰量に応じて形状が変化するため、上記一面以外は基準面とすることができず、成形されたガラスレンズの保持方法に制限が生じるという課題がある。
【0016】
また特許文献5の一つの手法では、レンズ保持筒の内周面に空隙部を形成するため、この空隙部の加工に手間が掛かるため、製造されたガラスレンズの価格が概して高価になる。またポーラスな金属をレンズ保持に用いる手法ではその材料が高価であると共に、強度不足、溶接が難しい、気密性を保つには別の材料が必要になる等の課題がある。
【0017】
また特許文献6の手法では、筒状のホルダと成型金型間に生じる隙間からのレンズ母材の流出を防ぐ必要から、ホルダの内径の精度が必要となり、加工がコスト高となるという課題がある。
【0018】
本発明は以上に説明した従来の手法の課題を解決することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
以上の課題を解決するために,第1の発明では、適数の貫通穴が形成され、成型時に成形金型と共に熱間加工空間を形成するレンズ保持筒と、保持筒内に成形された成形ガラスレンズの本体とから構成され、レンズ母材の余剰分を前記貫通穴に流入させたことを特徴とする保持筒を一体化した成形ガラスレンズを提案するものである。
【0020】
また第2の発明では、成型金型でレンズ母材を熱間加工することにより成形ガラスレンズを製造する装置において、上型と下型の外側にレンズ保持筒を配置して、上型と下型とレンズ保持筒が形成する空間を熱間加工空間として構成すると共に、レンズ保持筒には適数の貫通穴を形成したことを特徴とする保持筒を一体化した成形ガラスレンズの製造装置を提案するものである。
【0021】
また第3の発明では、成型時に成形金型と共に熱間加工空間を形成するレンズ保持筒と、保持筒内に成形された成形ガラスレンズの本体とから構成され、レンズ母材の余剰分を前記レンズ保持筒に沿って膨出させたことを特徴とする保持筒を一体化した成形ガラスレンズを提案するものである。
【0022】
また第4の発明では、成型金型でレンズ母材を熱間加工することにより成形ガラスレンズを製造する装置において、上型と下型の外側にレンズ保持筒を配置して、上型と下型とレンズ保持筒が形成する空間を熱間加工空間として構成すると共に、上型と下型の少なくとも一方のレンズ保持筒側の周縁に面取り部を形成したことを特徴とする保持筒を一体化した成形ガラスレンズの製造装置を提案するものである。
【発明の効果】
【0023】
まず、第1、第2の発明では、上型と下型とレンズ保持筒が形成する熱間加工空間においてレンズ母材を熱間加工して成形ガラスレンズを成形する際、余剰のレンズ母材はレンズ保持筒に形成された貫通穴に流入することにより吸収される。
【0024】
以上のように成形される成形ガラスレンズは、コバ部の外周にレンズ保持筒が一体化されるので、特許文献2の手法のように余剰分がコバ部の外周に突出することもなく、光学機器に対しての支持をレンズ保持筒により精度良く行うことができる。
【0025】
また余剰のレンズ母材を吸収する手段はレンズ保持筒に形成した貫通穴であるから、精度の高い加工が容易であり、その径により余剰のレンズ母材の流動抵抗を適切に設定することができるため、精度の高い成形ガラスレンズを成形することができる。
【0026】
次に第3、第4の発明では、上型と下型とレンズ保持筒が形成する熱間加工空間において、レンズ母材を熱間加工して成形ガラスレンズを成形する際、余剰のレンズ母材は前記レンズ保持筒に沿って膨出することにより吸収される。
【0027】
以上のように成形される成形ガラスレンズは、コバ部の外周にレンズ保持筒が一体化されるので、特許文献4の手法のようにレンズ母材の余剰量に応じてコバ部の形状が変化してしまって保持方法に制限が生じるということがない。
【実施例1】
【0028】
次に本発明の実施例1を図1〜図4を参照して説明する。
図1は本発明に係る成形ガラスレンズを製造する装置の構成要素を説明的に表した断面図であり、また図2はレンズの成形状態を示した断面図である。また図3、図4は成形された本発明の成形ガラスレンズの断面図である。
これらの図において、符号1,2は成形金型の上型、下型であり、また符号3はこれらの上型1、下型2の側部を保持する胴型である。また符号4は下型2に装着したスペーサであり、スペーサ4には下型2の側に切欠部5を形成して、下型2の外周に装着溝6形成している。符号7は上記上型1、下型2の先端に嵌合するレンズ保持筒であり、このレンズ保持筒7は上記装着溝6に装着して支持される。そしてレンズ保持筒7には貫通穴8を形成している。貫通穴8は例えばレンズ保持筒7の周に沿って90度毎に4つ設ける他、適数を設けることができる。
【0029】
以上の構成において、図2に示すように上型1と下型2とレンズ保持筒7が形成する空間を熱間加工空間として、ここにレンズ母材9を入れ、熱間加工によりレンズ母材9を加熱成形して、所定の成形ガラスレンズ10を成形する。
【0030】
この熱間加工は、上型1と下型2とレンズ保持筒7が形成する空間内で行うため、成形ガラスレンズ10は成形と同時にレンズ保持筒7に一体に固定される。このレンズ保持筒7はスペーサ4の装着溝6に装着されて下型2との所定位置関係に保持されるため、成形ガラスレンズ10をレンズ保持筒7の所定位置に精度良く固定することができる。
【0031】
この際、レンズ母材9の余剰分11は貫通穴8に流入することにより吸収されて、レンズ部分の成形に悪影響を及ぼさない。このように、レンズ母材の余剰分11を吸収する手段はレンズ保持筒7に形成した貫通穴8であるから、精度の高い加工が容易であり、その径により余剰のレンズ母材9の流動抵抗を適切に設定することができるため、精度の高い成形ガラスレンズを成形することができる。尚、図3はレンズ母材9の余剰分11が多い場合、また図4はレンズ母材9の余剰分11が少ない場合を示すものである。
【0032】
以上の実施例における具体的な寸法例は以下の通りである。
レンズ保持筒7
外径:3mm、内径:2mm、高さ:1.6mm、貫通穴直径:0.6mm
成形ガラスレンズ10
中央部厚さ:1.2mm
レンズ母材9(球形)
直径1.8mm、体積3.05mm3
以上の構成において、貫通穴8の全体積は0.56mm3あり、外周に漏れ出さないためには、使用出来る体積は80%程度であるから、有効な体積は0.45mm3となり、これはレンズ母材9の体積の15%に相当する。
従ってレンズ保持筒7の4個所に設けた上記貫通穴8により、レンズ母材9の体積変動15%(径変動5%)を吸収出来ることがわかる。尚、貫通穴8の穴径は大きすぎると成型時、成型面にかかる圧力を下げてしまうので、あまり大きくは出来ず、成形温度、成形面の曲率半径によるが、直径1mm以下が良い。
【実施例2】
【0033】
次に本発明の実施例2を図5〜図8を参照して説明する。
図5は本発明に係る成形ガラスレンズを製造する装置の構成要素を説明的に表した断面図であり、また図6はレンズの成形状態を示した断面図である。また図7、図8は成形された本発明の成形ガラスレンズの断面図である。
これらの図において、符号101,102は成形金型の上型、下型であり、また符号103はこれらの上型101、下型102の側部を保持する胴型である。また符号104は下型102に装着したスペーサであり、スペーサ104には下型102の側に切欠部105を形成して、下型102の外周に装着溝106形成している。符号107は上記上型1、下型2の先端に嵌合するレンズ保持筒であり、このレンズ保持筒107は上記装着溝106に装着して支持される。そして上型101と下型102の少なくとも一方、この実施例では両方の型101,102のレンズ保持筒107側の周縁に面取り部108を形成している。
【0034】
以上の構成において、図6に示すように上型101と下型102とレンズ保持筒107が形成する空間を熱間加工空間として、ここにレンズ母材109を入れ、熱間加工によりレンズ母材109を加熱成形して、所定の成形ガラスレンズ110を成形する。
【0035】
実施例1と同様に熱間加工は、上型101と下型102とレンズ保持筒107が形成する空間内で行うため、成形ガラスレンズ110は成形と同時にレンズ保持筒107に一体に固定される。このレンズ保持筒107はスペーサ104の装着溝106に装着されて下型102との所定位置関係に保持されるため、成形ガラスレンズ110をレンズ保持筒107の所定位置に精度良く固定することができる。
【0036】
この際、レンズ母材109の余剰分111は、上型101と下型102のレンズ保持筒107側の周縁に形成した面取り部108に対応する空間に流入可能であるため、余剰分111は、レンズ保持筒107に沿って膨出することにより吸収される。尚、図7はレンズ母材109の余剰分111が多い場合、また図8はレンズ母材109の余剰分111が少ない場合を示すものである。
【0037】
以上の実施例における具体的な寸法例は以下の通りである。
面取り部108
面取り寸法:0.2mm、面取り部体積(片側):0.12mm3
成形ガラスレンズ10
中央部厚さ:1.2mm
レンズ母材9(球形)
直径1.8mm、体積3.05mm3
以上の構成において、面取り部108の有効体積は、両側の面取り部で80%とすると、0.19mm3であり、レンズ母材9の体積変動6%(径変動2%)を吸収出来ることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は以上のとおりであるので、保持筒を一体化した成形ガラスレンズの製造において、小型レンズの場合であってもレンズ母材の体積管理要求レベルを下げることができる他、以下に示すような利点があり、産業上の利用可能性大である。
1.成形装置部分の構造が簡素化される。
2.通常のレンズに様に、外径部において精度良く光学機器に支持することができる。
3.成形するレンズの寸法が制限されない。
4.低コストで製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の製造装置の実施例1の構成要素を説明的に表した断面図である。
【図2】本発明の実施例1の製造装置におけるレンズの成形状態を示した断面図である。
【図3】本発明の実施例1において成形された本発明の成形ガラスレンズの断面図である。
【図4】本発明の実施例1において成形された本発明の成形ガラスレンズの他の断面図である。
【図5】本発明の製造装置の実施例2の構成要素を説明的に表した断面図である。
【図6】本発明の実施例2の製造装置におけるレンズの成形状態を示した断面図である。
【図7】本発明の実施例2において成形された本発明の成形ガラスレンズの断面図である。
【図8】本発明の実施例2において成形された本発明の成形ガラスレンズの他の断面図である。
【符号の説明】
【0040】
1,101 上型
2,102 下型
3,103 胴型
4,104 スペーサ
5,105 切欠部
6,106 装着溝
7,107 レンズ保持筒
8 貫通穴
9,109 レンズ母材
10,110 成形ガラスレンズ
11,111 余剰分
108 面取り部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
適数の貫通穴が形成され、成型時に成形金型と共に熱間加工空間を形成するレンズ保持筒と、保持筒内に成形された成形ガラスレンズの本体とから構成され、レンズ母材の余剰分を前記貫通穴に流入させたことを特徴とする保持筒を一体化した成形ガラスレンズ
【請求項2】
成型金型でレンズ母材を熱間加工することにより成形ガラスレンズを製造する装置において、上型と下型の外側にレンズ保持筒を配置して、上型と下型とレンズ保持筒が形成する空間を熱間加工空間として構成すると共に、レンズ保持筒には適数の貫通穴を形成したことを特徴とする保持筒を一体化した成形ガラスレンズの製造装置
【請求項3】
成型時に成形金型と共に熱間加工空間を形成するレンズ保持筒と、保持筒内に成形された成形ガラスレンズの本体とから構成され、レンズ母材の余剰分を前記レンズ保持筒に沿って膨出させたことを特徴とする保持筒を一体化した成形ガラスレンズ
【請求項4】
成型金型でレンズ母材を熱間加工することにより成形ガラスレンズを製造する装置において、上型と下型の外側にレンズ保持筒を配置して、上型と下型とレンズ保持筒が形成する空間を熱間加工空間として構成すると共に、上型と下型の少なくとも一方のレンズ保持筒側の周縁に面取り部を形成したことを特徴とする保持筒を一体化した成形ガラスレンズの製造装置

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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