説明

保水材を利用した空調システム

【課題】水分の蒸発による気化熱を利用して空気を冷却する空調システムであって、簡単なシステムで効率良く空気を冷却することができる保水材を利用した空調システムを提供すること。
【解決手段】水分の蒸発による気化熱を利用して空気を冷却する空調システムであって、空気吸込口11及び処理空気吹出口12を有する空調システム本体1と、該本体1内に収納された、保水材から形成された冷却ユニット2と、該冷却ユニット2に水を供給する給水手段を備え、前記空気吸込口11から前記本体1内に空気を導入し、該空気を前記冷却ユニット2に接触させて、該冷却ユニット2に保持された水分の蒸発による気化熱により該空気を冷却し、冷却された空気を前記処理空気吹出口12から送出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水分の蒸発による気化熱を利用して空気を冷却する空調システムであって、空気を保水材と直接接触させて、該保水材に保持された水分の蒸発による気化熱により該空気を冷却する、保水材を利用した空調システムに関する。
【背景技術】
【0002】
水分の蒸発による気化熱を利用して空気を冷却する空調システムは、従来より種々提案されている。例えば、特許文献1には、水の気化熱を利用して空気を冷却する間接気化エレメントを備える空調システムが提案されている。この空調システムが具備する間接気化エレメントは、パルプ等で形成された湿潤層に接触させて冷却したワーキングエアを用いて間接的にプロダクトエアを冷却するシステムであり、空気を湿潤層に直接接触させて冷却空気(プロダクトエア)を製造するものではない。
【0003】
また、特許文献2には、「水分の気化熱を利用した冷房装置であって、吸水性の多孔質部材からなり、かつ建物の外壁または屋根を構成する冷却パネルと、多孔質部材に水を供給する給水装置とを備えたことを特徴とする冷房装置」が記載されている。
この冷房装置は、多孔質部材に保持された水分を太陽熱や外気等により加熱して気化させることにより、多孔質部材を冷却し、冷却した多孔質部材の冷却面に室内の空気を接触させて冷却するものであり、この冷房装置も、室内の空気を水の気化熱により直接冷却するものではない。
【0004】
このように、特許文献1及び2に記載されている水分の蒸発による気化熱を利用して空気を冷却する従来の空調システムは何れも、空気を、水分を保持した保水材に直接接触させて、該保水材に保持された水分の蒸発による気化熱により冷却するものではない。そのため、これらの空調システムは、冷却効率が悪く、また装置が煩雑である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−145092号公報
【特許文献2】特開2003−83656号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、水分の蒸発による気化熱を利用して空気を冷却する空調システムであって、簡単なシステムで効率良く空気を冷却することができる保水材を利用した空調システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、水分の蒸発による気化熱を利用して空気を冷却する空調システムであって、空気吸込口及び処理空気吹出口を有する空調システム本体と、該本体内に収納された、保水材から形成された冷却ユニットと、該冷却ユニットに水を供給する給水手段を備え、前記空気吸込口から前記本体内に空気を導入し、該空気を前記冷却ユニットに接触させて、該冷却ユニットに保持された水分の蒸発による気化熱により該空気を冷却し、冷却された空気を前記処理空気吹出口から送出することを特徴とする保水材を利用した空調システムを提供することにより、前記目的を達成したものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の保水材を利用した空調システムは、空気を、水分を保持した保水材に直接接触させて、該保水材に保持された水分の蒸発による気化熱により冷却する簡単なシステムで、効率良く冷却することができる。
また、本発明の保水材を利用した空調システムは、保水材として、生コン工場から発生するセメントスラッジ脱水ケーキを乾燥し粉末化した生コンスラッジケーキ乾燥粉末を利用することができ、生コン工場から発生する産業廃棄物であるセメントスラッジ脱水ケーキの有効利用や再資源化に寄与するものである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の空調システムの好ましい一実施形態の概略平面図である。
【図2】図1に示す本発明の空調システムで用いた保水板の斜視図である。
【図3】本発明の空調システムの他の好ましい実施形態の概略平面図である。
【図4】図2に示す本発明の空調システムで用いたT字形状の冷却体の斜視図である。
【図5】本発明の空調システムで用いられる冷却ユニットの斜視図である。
【図6】実施例1の本発明の空調システムのNo.1〜No.8の温度測定位置における温度の経時変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の空調システムを、図面に示す好ましい実施形態について説明する。
まず、図1に示す実施形態について説明する。図1は、本発明の空調システムの好ましい一実施形態の概略平面図である。
【0011】
図1に示すように、本実施形態の空調システムは、空気吸込口11及び処理空気吹出口12を有する空調システム本体1と、該本体1内に収納された冷却ユニット2と、該冷却ユニット2に水を供給する給水手段(図示せず)を備えている。
冷却ユニット2は、本体1内に導入された空気が流通する空気孔2aが設けられた14枚の保水板21から構成されている。
保水板21は、保水材から形成されており、図2に示すように、四角形の空気孔2aが保水板全体に均等に散在するように21箇所設けられている。保水板21の大きさは、横350mm、縦300mm、厚み20mmであり、空気孔2aの大きさは、20mm×20mmである。従って、保水板21の面積に対する空気孔2aの合計面積の割合は、8%程度である。
【0012】
冷却ユニット2を構成する14枚の保水板21は、図1に示すように、本体1内の空気吸込口11と処理空気吹出口12との間に、空気の流通方向に対して垂直にかつ等間隔で配置されている。
空気吸込口11には吸気用換気扇1aが、処理空気吹出口12には排気用換気扇1bが、それぞれ設置されている。
給水手段は、本体1内の底部に設置されたトレーと該トレーに水を供給する給水管から構成され、給水管からトレーに供給された水に保水板21の下部が浸漬するように本体1内に設置されている。
【0013】
図1に示す実施形態の空調システムでは、給水管からトレーに水を供給すると、保水板21が毛細管現象により吸水し保水する。そして、吸気用換気扇1aにより空気吸込口11から本体1内に空気が導入されると、導入された空気は、冷却ユニット2を構成する保水板21に接触しながら、保水板21に保持された水分の蒸発による気化熱により冷却されつつ、保水板21の空気孔2aを流通し、処理空気吹出口12から冷却空気(処理空気)として送出される。
【0014】
次に、図3に示す他の実施形態について説明する。図3は、本発明の空調システムの他の好ましい実施形態の概略平面図である。
【0015】
図3に示す実施形態の空調システムは、冷却ユニット2が、13個のT字形状の冷却体22から構成されている以外は、図1に示す実施形態の空調システムと同様に構成されている。
T字形状の冷却体22は、保水材から形成されており、図4に示すように、前面板2bと、該前面板2bの中央縦方向において該前面板2bに対して垂直に延設された背面板2cとから構成されている。前面板2bの大きさは、横60mm、縦300mm、厚み20mmであり、背面板2cの大きさは、横50mm、縦300mm、厚み20mmである。
【0016】
13個のT字形状の冷却体22は、図3に示すように、本体1内の空気吸込口11と処理空気吹出口12との間に、空気の流通方向に対して前面板2bが垂直になるようにかつ等間隔で、1列目3個、2列目2個、3列目3個、4列目2個、5列目3個が配置されており、かつ後列の冷却体22は、前列の冷却体22間の隙間に対向する位置に配置されている。
【0017】
図3に示す実施形態の空調システムでは、空気吸込口11から本体1内に導入された空気は、冷却ユニット2を構成する冷却体22の前面板2b及び背面板2cに接触しながら、冷却体22に保持された水分の蒸発による気化熱により冷却されつつ、冷却体22間の隙間を流通し、処理空気吹出口12から冷却空気(処理空気)として送出される。
【0018】
本発明の空調システムは、図1に示す実施形態及び図3に示す実施形態に限定されるものではなく、本発明の効果を損なわない範囲で適宜変更可能である。
例えば、図1に示す実施形態において、保水板21の使用枚数、大きさ及び形状、空気孔2aの大きさ及び形状や、保水板21の面積に対する空気孔2aの合計面積の割合は、冷却効率、空気の流量、通気性、保水板の強度等を考慮して適宜決定することができる。尚、保水板21の面積に対する空気孔2aの合計面積の割合は、通常、60〜5%、より好ましくは50〜8%程度とするとよい。
【0019】
また、図3に示す実施形態において、T字形状の冷却体22の設置個数や配置形態等も冷却効率、空気の流量、通気性等を考慮して適宜決定することができる。また、T字形状の冷却体22の前面板2b又は/及び背面板2cには空気孔を適宜設けることもできる。
また、本発明の空調システムで用いられる冷却ユニット2は、図1に示す実施形態及び図3に示す実施形態で用いられている保水板21やT字形状の冷却体22に限定されるものではなく、例えば図5に示す円筒形状の冷却体とすることもできる。該円筒形状の冷却体には空気孔を設けてもよく、また外周面又は/及び内周面に多数の突起を設けて、空気との接触面を大きくすることもできる。また、円筒を先細り形状(テーパー形状)にしてもよい。
【0020】
本発明で冷却ユニット2の形成材料として用いられる保水材は、特に制限されるものではなく、多孔質シルト、真珠岩や黒曜石の粉粒体、ベントナイト、珪藻土、セピオライト、炭酸カルシウム、高炉スラグ粉末、フライアッシュ、珪石粉、石灰石粉末、シリカフューム、焼却灰、木材の粉末、紙の粉末等、従来より用いられている種々の保水材を用いることができるが、生コン工場から発生するセメントスラッジ脱水ケーキを乾燥し粉末化した生コンスラッジケーキ乾燥粉末を含有する保水材を用いるのが好ましい。
この生コンスラッジケーキ乾燥粉末は、内部に非常に微細な空隙を有し、そのため吸水率が大きく且つ保水力に非常に優れている。
【0021】
上記生コンスラッジケーキ乾燥粉末は、最大粒径が1mm以下であることが好ましく、最大粒径が0.8mm以下であることがさらに好ましい。
また、上記生コンスラッジケーキ乾燥粉末の乾燥の程度は、含水率1.0%以下であることが好ましく、含水率0.1〜0.5%であることがより好ましい。乾燥方法としては、特に制限されるものではなく、例えば熱風乾燥機及び工業用乾燥機等の乾燥機を用いて行うことができる。また、粉末化方法も、特に制限されるものではなく、例えば工業用粉砕機及びロッドミル等の慣用の方法により行うことができる。
【0022】
冷却ユニット2は、上記保水材と水との混練物を用いて形成される。水の配合量は、上記生コンスラッジケーキ乾燥粉末100質量部に対し、400質量部以下が好ましく、100〜300質量部がより好ましい。
【0023】
上記保水材と水との混練物には、セメントを配合することが好ましい。該セメントとしては、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、高炉セメント、フライアッシュセメント、エコセメント、ジェットセメント等の各種セメントを用いることができる。セメントを配合する場合、水及びセメントの配合量は、冷却ユニット2の成形性、強度発現性及び保水性等の観点から、上記生コンスラッジケーキ乾燥粉末100質量部に対し、水400質量部以下、セメント400質量部以下が好ましく、生コンスラッジケーキ乾燥粉末100質量部に対し、水100〜400質量部、セメント50〜200質量部であることがより好ましく、生コンスラッジケーキ乾燥粉末100質量部に対し、水100〜250質量部、セメント50〜150質量部であることがさらに好ましい。
【0024】
上記保水材と水との混練物にセメントを配合する場合、さらに減水剤を配合することが好ましい。減水剤を配合することにより、冷却ユニット2の成形作業が容易にできることや水の量を減らすことができるため、冷却ユニット2の強度を増すことができる。減水剤としては、リグニン系、ナフタレンスルホン酸系、メラミン系、ポリカルボン酸系の減水剤、AE減水剤、高性能減水剤、高性能AE減水剤を使用することができる。減水剤の配合量は、冷却ユニット2の強度の観点から、セメント100質量部に対し0.5〜1.5質量部が好ましい。
また、上記保水材と水とセメントとの混練物には、遅延剤を配合することもできる。
【実施例】
【0025】
次に実施例を挙げて本発明の効果を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0026】
実施例1
図1に示す実施形態の空調システムを用いて、室内の空気(常時29℃に維持されている)を冷却した。図1に示すNo.1〜No.6の箇所並びに空調システム本体1内の底部中央から15cm上の箇所(以下、No.7と略記する)及び空調システム本体1内の上部中央の箇所(以下、No.8と略記する)の計8箇所に温度センサーを取り付けて温度を測定した。その測定結果を図6に示す。この測定結果から明らかなように、空気吸込口11から導入した空気(29℃)は、本発明の空調システムにより約23〜24℃に冷却された。
尚、トレーに供給した水の温度は約26℃である。また、空気吸込口11から導入する空気量は540m3 /hとした。空気孔の面積が8%と少ないため、処理空気吹出口12から送出された処理空気量は約300m3 /hであった。この際の吸気用換気扇の消費電力は28Wで、排気用換気扇の消費電力は16Wであった。
また、空調システムに用いた保水板は、下記の〔保水板の作製方法〕により作製した。
【0027】
〔保水板の作製方法〕
まず、生コンスラッジケーキ乾燥粉末(最大粒径0.8mm以下、含水率0.2%)100質量部、ジェットセメント100質量部、水(水道水)240質量部及び遅延剤(ジェットセッター)0.8質量部を混合し、保水材を調製する。
保水板の空気孔に対応する位置に突部を設けた型枠に、該型枠の厚みの半分程度(約10mm)まで上記保水材を流し込み、その上に強度を高めるためビニールで被覆した鉄網を載置する。次いで、その上に上記保水材を所定位置までさらに流し込む。
保水材が硬化後、脱型し、保水板を得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水分の蒸発による気化熱を利用して空気を冷却する空調システムであって、空気吸込口及び処理空気吹出口を有する空調システム本体と、該本体内に収納された、保水材から形成された冷却ユニットと、該冷却ユニットに水を供給する給水手段を備え、前記空気吸込口から前記本体内に空気を導入し、該空気を前記冷却ユニットに接触させて、該冷却ユニットに保持された水分の蒸発による気化熱により該空気を冷却し、冷却された空気を前記処理空気吹出口から送出することを特徴とする保水材を利用した空調システム。
【請求項2】
前記保水材が、生コン工場から発生するセメントスラッジ脱水ケーキを乾燥し粉末化した生コンスラッジケーキ乾燥粉末を含有するものである請求項1記載の空調システム。
【請求項3】
前記保水材が、前記生コンスラッジケーキ乾燥粉末100質量部、水100〜400質量部及びセメント50〜200質量部を含有するものである請求項2記載の空調システム。
【請求項4】
前記冷却ユニットが、前記本体内に導入された空気が流通する空気孔が設けられた複数枚の保水板から構成される請求項1〜3の何れか1項に記載の空調システム。
【請求項5】
前記冷却ユニットが、前面板と、該前面板の中央縦方向において該前面板に対して垂直に延設された背面板とからなる複数個のT字形状の冷却体から構成される請求項1〜3の何れか1項に記載の空調システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−96618(P2013−96618A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−238546(P2011−238546)
【出願日】平成23年10月31日(2011.10.31)
【出願人】(512056360)
【Fターム(参考)】