保水設備
【課題】施工対象面Pの上で保水性を確保しつつ、保水構造体の蒸発性を向上させる。
【解決手段】保水性を有する保水体106の集合体である保水構造体108と、通気性を有し、保水構造体108と施工対象面Pとの間に空間を形成して保水構造体108を支持する支持部材100と、を備える。支持部材100は、敷設部材102と底上げ部材104とを含む。施工対象面Pは、ビルの屋上、舗装された路面、公園の地面など、屋外の略平面状の表面である。施工対象面Pには、底上げ部材104が設置されている。底上げ部材104と施工対象面Pとの位置関係は固定されている。
【解決手段】保水性を有する保水体106の集合体である保水構造体108と、通気性を有し、保水構造体108と施工対象面Pとの間に空間を形成して保水構造体108を支持する支持部材100と、を備える。支持部材100は、敷設部材102と底上げ部材104とを含む。施工対象面Pは、ビルの屋上、舗装された路面、公園の地面など、屋外の略平面状の表面である。施工対象面Pには、底上げ部材104が設置されている。底上げ部材104と施工対象面Pとの位置関係は固定されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は保水設備に関し、特に、保水体を利用する保水設備に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、都市部の気温が郊外部に比べて高くなる現象、いわゆるヒートアイランド現象がますます顕著となりつつある。ヒートアイランド現象は、熱中症や睡眠障害など健康への影響を引き起こすだけでなく、空調などの電気設備の負荷増加を招くことにより、エネルギー消費量を増加させる。
【0003】
また、ヒートアイランド現象は、近年、都市部で局所的に大雨が降る現象、いわゆるゲリラ豪雨の要因ともいわれている。特に都市部では、地面の大部分がアスファルトやコンクリートで舗装されているため、雨水を吸収することができない。ゲリラ豪雨が発生した場合、短時間で許容量を超える雨水が下水道や河川に流入し、都市部に特徴的な水害である都市型洪水が発生する。以上の諸問題を防止するために、ヒートアイランド現象緩和策が切望されている。
【0004】
都市空間は、すでに地上、地下とも過密利用されている。そのため、ヒートアイランド現象の緩和技術として、利用率の低いビルの屋上の有効活用に期待が寄せられている。そのひとつに、建物の屋上に芝生等を敷設する屋上緑化の試みがある。しかし、屋上緑化は、施工費用や維持管理の問題から、十分な普及には至っていない。また、屋上緑化された設備は、雨水を保水する能力がそれほど高いわけではなく、都市型洪水の緩和にはあまり役に立っていなかった。
【0005】
そのため、より大量の雨水を貯留して都市型洪水を抑制する新たな技術が求められている。この技術はまた、貯留した雨水を晴天時に蒸発させ、蒸発冷却作用によって建物や周囲の温度上昇を抑え、ヒートアイランド現象を緩和できればより望ましい。
【0006】
特許文献1には、ビルの屋上などに敷設することができ、保水性と蒸発性を兼ね備えた保水セラミックス、およびこの保水セラミックスを敷き詰める技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−100513号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1の技術は、保水セラミックスを2〜20cmの厚さで敷き詰める。しかし、この構造では、吸収した水の蒸発性を考慮する必要がある。この点において、本発明者は改善の余地を認識した。
【0009】
本発明はこうした課題に鑑みてなされたものであり、保水設備の蒸発効率をさらに高めることができる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の保水設備は、保水性を有する保水体の集合体である保水構造体と、通気性を有し、保水構造体と施工対象面との間に空間を形成して保水構造体を支持する支持部材と、を備える。
【0011】
この態様によると、保水性を維持しつつ、通気性と通水性を確保し、蒸発性を向上をさせることができる。これにより、施工対象面の保護および施工対象面や保水構造体の藻・カビの発生を抑制することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の保水設備によれば、保水性を維持しつつ、保水設備の蒸発性を向上をさせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】前提出願の実施の形態に係る保水構造体の断面図である。
【図2】図1の保水構造体の通水系統図である。
【図3】前提出願の別の実施の形態に係る保水構造体の支持材を示す断面図である。
【図4】前提出願の実施の形態で用いられる保水用セラミックスの斜視図である。
【図5】試験方法の説明図であり、(a)図は平面図、(b)図は(a)図のB−B線断面図である。
【図6】実験例1〜5の保水用セラミックスの気孔の孔径分布図である。
【図7】実験例6〜10の保水用セラミックスの気孔の孔径分布図である。
【図8】(a)図は、試験体1を示す模式的な断面図、(b)図は試験体1〜3のスラブ下温度の経時変化を示すグラフである。
【図9】試験体1,3のスラブ表面温度の経時変化を示すグラフである。
【図10】(a)図は試験体4を示す模式的な断面図、(b)図は試験体4,5の上方大気温度の経時変化を示すグラフである。
【図11】ケース1〜3の初期及び維持費用を比較するグラフである。
【図12】保水用セラミックスと芝生の試験期間内の蒸散・吸水量を対比して示すグラフである。
【図13】保水用セラミックスと芝生の蒸散量と吸水量の累計を対比して示すグラフである。
【図14】実験例における試験方法の説明図であり、パレット上の保水用セラミックスの積重状態を示す模式図である。
【図15】第1の実施の形態に係る保水設備の斜視図である。
【図16】第1の実施の形態に係る保水設備を図15の矢印A方向から見た側面図である。
【図17】第2の実施の形態に係る保水設備の斜視図である。
【図18】第3の実施の形態に係る保水設備の斜視図である。
【図19】第4の実施の形態に係る保水設備の斜視図である。
【図20】第5の実施の形態に係る保水設備の斜視図である。
【図21】支持部材の変形例を示す斜視図である。
【図22】保水構造体の敷設の変形例を示す、図21の矢印B方向から見た側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本願発明を説明するために、まず本願の前提となる特願2009−137403号(以下前提出願という)の記載内容を説明し、その後、本発明の実施例を説明する。なお、前提出願に関する記述の中([本発明の実施例]の前までの部分)において「本発明」というときは「前提出願の発明」と読み替えるものとする。
[前提出願の技術分野]
【0015】
本発明は、地表や建物の屋上等に適用される、保水用セラミックスを用いた保水構造体に関する。
[前提出願の背景技術]
【0016】
多孔質セラミックスよりなるブロック状の保水体を建物の屋上に配設し、散水用の給水パイプを旋回させて保水体に散水し、建物の冷却を図るシステムが特開平8−312018に記載されている。
【0017】
特開2006−342979には、空冷式冷房装置の室外機の送風ファンの吸引側に湿潤した多孔質保水部を配置し、水の蒸発熱によって空気を冷却して凝縮機の冷却効率を高めることが記載されている。
【0018】
特開平8−73282の0005段落には、粘土、吸水性ポリマー及び水を混練し、成形した後、電子レンジで乾燥し、次いで1100℃で2時間焼成する多孔質セラミックスの製造方法が記載されている。同号公報には、吸水した吸水性ポリマーの粒径が0.1〜2.0mmであると記載されている(請求項4)。このように、吸水性ポリマーの粒径が大きいと、多孔質セラミックスの気孔も粗大となり、多孔質セラミックスの保水性は高くない。
[前提出願の先行技術文献]
[特許文献]
【0019】
[特許文献1]特開平8−312018
[特許文献2]特開2006−342979
[特許文献3]特開平8−73282
[前提出願の発明の概要]
[前提出願の発明が解決しようとする課題]
【0020】
上記特許文献1のように多孔質セラミックスよりなる保水体を屋上に配設した場合、年月の経過と共に保水体の間にゴミが溜り、冷却機能が低下する。
【0021】
上記特許文献2では、空冷式冷房装置の室外機の吸引側に柱状の保水部を設けているが、空気と保水部との接触が不十分であり、更に保水部の容積が吸引される空気量に比べ小さいため空気を冷却する作用は乏しい。
【0022】
本発明は、建物や地表の冷却効果を長い年月にわたって十分に発揮することができる保水構造体を提供することを目的とする。
[前提出願の課題を解決するための手段]
【0023】
前提出願の請求項1の保水構造体は、少なくとも一部が建造物又は地表から上方に離隔している支持材と、該支持材上に配材された保水用セラミックスとを備えてなり、該支持材に多数の開口が設けられているものである。
【0024】
前提出願の請求項2の保水構造体は、請求項1において、該保水用セラミックスに給水する給水手段を備えたことを特徴とするものである。
【0025】
前提出願の請求項3の保水構造体は、前提出願の請求項1又は2において、前記支持材の下側のスペースから空気を空冷式冷房装置の室外機の空気吸込側に導く手段を備えたことを特徴とするものである。
【0026】
前提出願の請求項4の保水構造体は、前提出願の請求項3において、前記室外機のドレンを保水用セラミックスへの給水手段に導く手段を備えたことを特徴とするものである。
【0027】
前提出願の請求項5の保水構造体は、前提出願の請求項1ないし4のいずれか1項において、保水用セラミックスの温度を検知する温度検知手段と、該温度検知手段で検知される温度が所定温度以上となったときに前記給水手段を作動させる制御手段とを備えたことを特徴とするものである。
【0028】
前提出願の請求項6の保水構造体は、前提出願の請求項1ないし5のいずれか1項において、該保水用セラミックスは、その全体積の53〜70%が孔径1〜100μmの気孔よりなることを特徴とするものである。
【0029】
前提出願の請求項7の保水構造体は、前提出願の請求項1ないし6のいずれか1項において、該保水用セラミックスに、上下方向に貫通した内径1mm以上の通気孔が設けられていることを特徴とするものである。
[前提出願の発明の効果]
【0030】
本発明の保水構造体では、建物の屋上や地表に設けられた支持材上に保水用セラミックスを配材する。この保水用セラミックスから水が蒸発することにより冷却効果が得られる。
【0031】
本発明では、この支持材がネットやパンチングメタル、グレーチングなど多数の開口を有したものにて構成されている。そのため、保水用セラミックス同士の間に入り込んだゴミなどの異物は、この開口を通って支持材の下側へ流出ないし落下する。従って、保水用セラミックス同士の間や支持材の上にゴミが大量に溜ることがなく、長期にわたって優れた冷却効果を得ることができる。なお、支持材は上記例に限らず、開口を有する樹脂成形品などであってもよい。
【0032】
この支持材の下側のスペースから、冷却された空気を空冷式冷房装置の室外機の空気吸込側に導くことにより、空冷式冷房装置の冷房効率が向上する。この室外機のドレンを保水用セラミックスへの給水の一部として利用することにより、水を節約することができる。
【0033】
本発明では、保水用セラミックスの温度を検知し、この温度が所定温度以上になったときに給水を行うようにしてもよい。このように保水用セラミックスの温度上昇に応じて給水を行うことにより、保水用セラミックスを常に湿潤状態とすることができる。
【0034】
本発明で用いる保水用セラミックスは、多孔質セラミックスよりなり、包蔵した水の蒸発潜熱によって冷却効果を発揮する。本発明では、保水用セラミックスに内径1mm以上の通気孔が設けられていてもよい。この場合、保水用セラミックスの深奥部まで水が浸透し易く、また保水用セラミックスの深奥部に包蔵された水も蒸発し易い。従って、水の吸収速さ及び蒸発速さが大きい。
【0035】
本発明にあっては、保水用セラミックスは、全体積の53〜70%が孔径1〜100μmの気孔よりなることが好ましい。このように比較的微細な気孔を多量に有する保水用セラミックスは保水性が高いと共に、表面の比表面積も大きく、水の蒸発性がよい。従って、降雨や散水によって素早く多量の水を吸水し、都市型洪水を防止することができる。また、この孔径の気孔は、超微細というものではなく、凍結するときには、気孔内の水が凍結時の水の体積膨張に伴って保水用セラミックス外に速やかに押し出されるので、凍結融解が繰り返されても、割れるおそれが殆どない。
[前提出願の発明を実施するための形態]
【0036】
以下、図面を参照して実施の形態について説明する。
【0037】
[前提出願の第1の実施の形態]
第1図及び第2図に第1の実施の形態を示す。第1図は実施の形態に係る保水構造体の
断面図、第2図はその通水系統図である。
【0038】
地表に打設されたコンクリート面やアスファルト等の防水面又は建物の屋上面20から所定距離(例えば1〜30cm程度)上方に多数の開口を有した支持材21が略水平に設置されている。
【0039】
支持材21は支柱22によって支持されている。なお、支柱22によって梁を支持し、この梁の上に支持材21を設置してもよく、支持材21が十分な強度を有しているときには支柱22によって直に支持材21を支承してもよい。支持材21と支柱22とは一体で成形されたものでも、別に成形され接合されたものでもよい。
【0040】
支持材21としては、ネット(例えば金網)、グレーチング、孔あき板(例えばパンチングメタル)などを用いることができる。支持材21には、その上に配材される保水用セラミックスの落下が防止される範囲でなるべく大きい開口孔の開口が多数設けられている。支持材21の開口率は、支持材21に必要な強度を確保できる範囲でなるべく大きいことが好ましく、開口率は65%以上のものが好ましい。
【0041】
支持材21の周囲に囲壁部23が立設されている。この囲壁部23で囲まれた支持材21上に保水用セラミックス24が配設されている。
【0042】
この実施の形態では、保水用セラミックス24は体積が3〜350cm3程度の塊状であり、厚さ3〜20cm程度に敷き詰められることが好ましい。
【0043】
保水用セラミックス24の上方に散水パイプ25が設置されている。この散水パイプ25の下面には、所定間隔をおいて多数の散水孔が設けられている。散水パイプの代りにスプリンクラー等を用いてもよい。
【0044】
第2図に示すように、散水パイプ25に対し、給水タンク26内の水が弁27を介して供給可能とされている。給水タンク26内には、雨桶28等によって雨水が流入するようになっている。なお、給水タンク26内が空にならないようにボールタップ29が設けられており、給水タンク26内の水位がボールタップ開栓水位以下になるとボールタップ29が開栓し、水道水又は井戸水等の水源からの水が補給されるようになっている。
【0045】
ボールタップ29に連なる給水管30の途中にエゼクタ31が設けられている。このエゼクタ31の吸引ポートは、後述するドレンタンク39の底部に対し配管32を介して接続されている。
【0046】
第1図の通り、支持材21と地表又は屋上面20との間のスペース34は、封隔板35によって外周囲の大気から隔絶されている。このスペース34内の空気を空冷式冷房装置の室外機37の吸込側に導くようにダクト36が設けられている。
【0047】
第2図の通り、この室外機37のドレン口38からのドレン水を受け入れるようにドレンタンク39が設けられている。このドレンタンク39の底部の流出口に前記配管32が接続されている。
【0048】
前記支持材21上の保水用セラミックス24の表面温度を測定するように温度センサ40が設置されている。この温度センサ40としては、放射型温度センサのほか、熱電対などの接触型温度センサ等を用いることができる。この温度センサ40の検知温度が制御器41に入力されており、夏季などにおいて検知温度が所定温度(例えば30〜50℃から選択される温度)を超えると、弁27が開弁し、散水パイプ25から散水が行われる。この実施の形態では、この散水は所定時間又は所定水量だけ行われた後、自動的に停止するようになっている。
【0049】
このように散水が行われることにより、保水用セラミックス24は常に湿潤状態となっている。
【0050】
このように構成された保水構造体にあっては、湿潤した保水用セラミックス24からの水の蒸発により、地表温度又は屋上温度が抑制される。
【0051】
また、室外機37を作動させた場合、保水用セラミックス24の堆積層を通過して冷却された空気がスペース34、ダクト36を介して室外機37に流れ込むので、空冷式冷房装置の冷房効率を向上させることができる。この室外機のドレンをドレンタンク39に回収し、給水タンク26に送水することにより、蒸散水源として利用することができる。
【0052】
この実施の形態にあっては、保水用セラミックス24がネット等よりなる支持材21上に配列されているので、支持材21上や保水用セラミックス24同士の間にゴミ等が溜ることがなく、上記の効果を長期間維持することができる。
【0053】
[前提出願の第2の実施の形態]
上記実施の形態では平板状の支持材21を支柱22によって支承することによりスペース34を形成しているが、第3図のように波板状の支持材44を地表又は屋上面等に直置きするように設置してもよい。この場合、支持材44と地表又は屋上面20との間に生じるスペース45の空気を室外機に導くようにダクトを設ける。
【0054】
[前提出願の保水用セラミックスの別形状例]
上記実施の形態では塊状の保水用セラミックス24を用いているが、第4図に示すように柱形の保水用セラミックス46,47を柱軸方向が上下方向となるように配列してもよい。
【0055】
第4図(a)に示す保水用セラミックス46は、高さ10〜300mm程度の多孔質セラミックスよりなる円柱状であり、円柱の軸心部には柱軸方向に貫通する孔径1〜200mm程度の通気孔46が設けられている。この通気孔46を設けたことにより、保水用セラミックス46の深奥部に吸蔵された水も蒸発し易いものとなる。また、保水用セラミックス46に降雨が掛ったときに雨水が保水用セラミックスの深奥部にまで吸収され易い。
【0056】
なお、1本の通気孔46を有した保水用セラミックス46の代わりに、第4図(b)に示す複数本の通気孔47aを有した多孔質セラミック製保水用セラミックス47を用いてもよい。保水用セラミックスは円柱形に限らず、楕円柱形、角柱形などであってもよい。また、通気孔は省略されてもよい。
【0057】
次に、保水用セラミックスを構成する多孔質セラミックスの好適な気孔径、材料、組成及び製造方法等について説明する。
【0058】
[前提出願の保水用セラミックスの気孔径]
本発明で用いる保水用セラミックスは、その保水用セラミックスの全体積の53〜70%好ましくは55〜68%が、孔径1〜100μm、好ましくは15〜40μmの微細気孔よりなることが好ましい。上述の通り、このように微細な気孔を多量に含むことにより、保水用セラミックスの保水性及び水の蒸発性が良好となる。
【0059】
より好ましくは、この孔径1〜100μmの気孔の60%以上、例えば70〜95%が孔径10〜50μm、好ましくは15〜40μmの気孔よりなる。特に、本発明で用いる保水用セラミックスは、その保水用セラミックスの全体積の10〜70%、特には15〜50%が孔径15〜40μmの微細気孔よりなることが好ましい。
【0060】
この保水用セラミックスの全気孔率は、55〜80%であることが好ましい。保水用セラミックスの全気孔率が55%未満では、全体積の53〜70%が孔径1〜100μmの微細気孔の保水用セラミックスの実現し得ず、80%よりも大きいと、強度が不足し、敷設材料としての実用性が損なわれる。
【0061】
なお、本発明では、気孔の孔径の測定は、水銀ポロシメータを用い、JIS R 1655に従って行われる。
【0062】
この保水用セラミックスは、1〜1200cm3特に1〜200cm3とりわけ20〜100cm3程度の大きさであることが好ましい。この大きさのものは、屋上や庭などに敷き詰め易い。保水用セラミックスの形状は球形、楕円球状(例えばラグビーボール状)、立方体、直方体、錘形、円盤形状、柱状体など任意である。
【0063】
この保水用セラミックスを好ましくは厚さ2〜20cm特に8〜15cm程度に厚く敷き詰めることにより、保水用セラミックス層全体の保水容量が増大し、急激な降雨や一時的に多量の散水が行われたときでも、水を十分に保水することができる。従って、本発明の保水用セラミックスを都市の多くの建物や庭、空地等に敷き詰めることにより、都市型洪水を防止することも可能となる。
【0064】
また、この保水用セラミックスから、水が蒸発するときの蒸発潜熱により冷却が行われるので、本発明の保水用セラミックスを都市の多くの建物や庭、空地等に敷き詰めることにより、ヒートアイランド現象を防止することが可能となる。
【0065】
上記孔径の気孔内の水は、凍結時に保水用セラミックス外に押し出され易く、凍結融解作用を繰り返し受けても、保水用セラミックスが割れることは殆どない。
【0066】
[前提出願のセラミックスの組成]
この保水用セラミックスを構成するセラミックスの組成は
SiO2:50〜80wt%とりわけ55〜70wt%
Al2O3:10〜30wt%とりわけ15〜25wt%
Na2O及びK2Oの合計:1〜10wt%とりわけ3〜7wt%
であることが好ましい。
【0067】
かかるソーダ・カリを多く含むアルミノ珪酸塩系セラミックスは、親水性であり、保水用セラミックスの保水性及び水の蒸発性が良好となる。
【0068】
なお、湿潤状態にある保水用セラミックスに藻が発生することを防止するために、CuOを保水用セラミックス中に0.1〜1.5wt%程度配合してもよい。
【0069】
本発明で用いる保水用セラミックスには、その一部又は全面に光触媒コーティング液を塗布して光触媒効果を付与してもよく、これにより、光触媒による浄化作用で、保水用セラミックスの耐汚染性を高めることができる。
【0070】
[前提出願の保水用セラミックスの製造方法]
次に保水用セラミックスの好適な製造方法について説明する。
【0071】
この保水用セラミックスを製造するには、窯業系原料、アルミナセメント及び粉末状吸水性ポリマー並びに好ましくは更に炭酸リチウムを乾式混合し、次いで水を添加して混合し、その後、成形、乾燥及び焼成する。この際の配合割合は、好ましくは、
窯業系原料:75〜95wt%、特に80〜95wt%
アルミナセメント:3〜15wt%、特に5〜15wt%
吸水性ポリマー:0.5〜10wt%、特に1〜5wt%
炭酸リチウム:10wt%以下、特に1〜10wt%、とりわけ1〜5wt%
である。
【0072】
なお、水の混合割合は、水以外の全原料の合計重量に対して130〜170wt%程度であって、吸水性ポリマーに対して80〜150倍程度とすることが、取り扱い性、成形性、吸水性ポリマーの吸水膨張性、その後の乾燥、焼成効率の面から好ましい。
【0073】
窯業系原料としては、カリ長石、粘土、珪砂などの1種又は2種以上を用いることができるが、これに限定されない。これらの窯業系原料をSiO2、Al2O3、Na2O+K2Oの割合が前述となるように選択して用いる。
【0074】
アルミナセメントとしては、JISに定めるものを用いることができる。
【0075】
このアルミナセメントは、硬化が速いので、水を添加して混合し、成形すると、短時間のうちにハンドリングできる程度の成形体が得られる。
【0076】
粉末状吸水性ポリマーとしては、粒径10〜50μm、特に20〜30μm程度のものが好適である。
【0077】
吸水性ポリマーとしては、ポリアクリル酸塩系、酢酸ビニル・アクリル酸エステル共重合体ケン化物、でんぷん・アクリル酸グラフト共重合体など、各種のものを1種を単独で、或いは2種以上を混合して用いることができる。
【0078】
この混合物を成形するには、定量充填機、鋳込成型機、押出成形機、ハニカム成形機などを用いることができるが、これに限定されない。
【0079】
この成形体を好ましくは80〜250℃で5〜40時間、特に6〜12時間加熱して乾燥した後、好ましくは1050〜1200℃、特に1100〜1150℃で0.2〜20時間、特に0.3〜2時間焼成して焼結体とする。この焼成には、ローラーハースキルン、トンネルキルン、シャトルキルン等を用いることができる。
【0080】
[保水用セラミックスの応用例及びその効果]
保水用セラミックスは、気孔径及びその割合が厳密に制御された多孔質セラミックスであり、雨水を吸水することにより治水し、また、吸水した水を日射によって蒸散させる性能を有する。
【0081】
従って、保水用セラミックスを、ビル屋上や個人住宅又は公共施設の通路、広場、庭等に敷設することにより、以下のA,Bのような環境対策を図ることができる。
【0082】
A.個別ビルの環境対策
A−1.ビルの省エネ・CO2削減:
保水用セラミックスをビル屋上に敷設することにより、保水用セラミックスによる雨水の治水・蒸散で、屋上スラブ温度を下げ、階下の空調の使用電力量を減らすことができる。
【0083】
また、屋上に設置された空調室外機の周辺温度を下げ、全階の空調の運転効率を向上させ、使用電力量を減らすこともできる。特に、屋上階の夏場の空調の使用電力量を大きく低減することができる。
【0084】
この結果、CO2の排出量の削減も可能となる。
【0085】
A−2.ビルの屋上緑化の代替:
保水用セラミックスは、芝生等の植物と同様の保水、冷却の性能を有すると共に、高耐久・長寿命かつ自然降雨を利用する維持管理不要な材料であるため、屋上緑化代替の有力候補となる。
【0086】
現状の屋上緑化は維持に手間が掛かり、管理費も高いが、保水用セラミックスによれば、この問題を解決できる。
【0087】
A−3.ビルの屋上防水層のメンテナンス経費削減:
保水用セラミックスは、熱伝導率が0.2W/m・K程度の低熱伝導性で断熱性が高いので、これをビル屋上に敷設することにより、屋上スラブ温度を一定に保つことができる。また、紫外線も防ぐことができる。
【0088】
現状では10年程度で防水層の補修が必要とされるが、保水用セラミックスを適用することにより、このメンテナンス頻度を低減できる。
【0089】
B.都市の環境対策
B−1.ヒートアイランド対策:
保水用セラミックスは、ビル屋上を占有する各種機器(室外機・熱源など)の下にも敷設できるので、本発明の保水用セラミックスを各所に敷設することにより、都市の蒸散面積を増やし、街区全体の温度をより一層低減することができる。
【0090】
また、保水用セラミックスは、芝生と比較して高い蒸散能力があるので、芝生に比べて単位面積当たりの温度低減効果も高い。
【0091】
B−2.ゲリラ豪雨対策:
保水用セラミックスは、芝生と比較して高い治水能力があるので、ビル屋上に可能な限り敷設すれば、ゲリラ豪雨のピークカットが期待できる。
【0092】
B−3.資源の再利用
保水用セラミックスは、従来、廃棄物とされていた長石キラを主原料(例えば原料の90%)として製造することができる。長石キラはタイル原料の長石を採掘する時の副産物であり、従来は廃棄物とされていたものである。
【0093】
以下に、多孔質セラミックスによる上記A,Bの効果を示す実験例ないしは試算例を挙げる。
【0094】
<A−1.ビルの省エネ・CO2削減>
第8図(a)に示すように、底部及び4側面が断熱材11で構成された箱型容器内にコンクリートスラブ12を敷設し、その上に、多孔質セラミックス(例えば、後掲の実験例2と同様にして製造された多孔質セラミックス)13を厚さ10cmに敷設し、試験体1とした。多孔質セラミックスの敷設面積は1m2である。なお、底部断熱材11とコンクリートスラブ12との間には、温度センサ14を設けた。
【0095】
別に、この多孔質セラミックスの代りに芝生を植えたものを試験体2とし、多孔質セラミックスを敷設しなかったものを試験体3とした。
【0096】
これらの試験体1〜3を並べて置き、気温と、各試験体の温度センサ14の測定温度の経時変化を調べ、結果を第8図(b)に示した。
【0097】
なお、第8図(b)のグラフ中、吸水期間は、降雨のあった期間であり、それ以外は、曇ないし晴天であった。
【0098】
第8図(b)より明らかなように、多孔質セラミックスを敷設した試験体1は、敷設なしの試験体3に対してスラブ下温度で最大−8℃の温度低減効果があった。しかも、試験体1の蒸散効果は、芝生を植えた試験体2よりも大きいものであった。
【0099】
この結果から、多孔質セラミックスによる雨水の治水・蒸散で、屋上スラブ温度を下げ、階下の空調の使用電力量を減らすことができることが分かる。
【0100】
次に、第8図(a)に示すと同様に多孔質セラミックス13を敷設すると共に温度センサ14を設けた試験体1と、多孔質セラミックスを敷設していない試験体3により、屋上スラブ表面温度の変化を模擬するものとして、1日24時間の温度センサ14の測定温度を調べ、結果を第9図に示した。
【0101】
なお、多孔質セラミックス、コンクリートスラブ及び土の一般的な熱伝導率は以下に示す通りである。
【0102】
多孔質セラミックス :0.20W/m・K
コンクリートスラブ :0.15W/m・K
土 :0.63W/m・K
【0103】
第9図より明らかなように、屋上スラブの表面温度の一日の変化量は、多孔質セラミックスを敷設した試験体1では2℃であるのに対して、敷設していない試験体3では15℃だった。この結果から、多孔質セラミックスを敷設することにより、日射によるスラブへの熱負荷が軽減されることが分かる。
【0104】
次に、第10図(a)に示すように、底部及び4側面が断熱材11で構成された箱型容器内にコンクリートスラブ12を敷設し、その上に、多孔質セラミックス(例えば、後掲の実験例2と同様にして製造された多孔質セラミックス)13を厚さ10cmに敷設し、試験体4とした。多孔質セラミックスの敷設面積は1m2である。多孔質セラミックスの敷設面の上方1cmの位置に温度センサ14を設けた。
【0105】
別に、多孔質セラミックスを敷設しなかったものを試験体5とした。この試験体5ではコンクリートスラブ12の上方1cmの位置に温度センサ14を設けた。
【0106】
これらの試験体4,5を並べて置き、1日24時間の温度センサ14の測定温度の変化を調べ、結果を第10図(b)に示した。
【0107】
第10図(b)より明らかなように、多孔質セラミックスを敷設した試験体4と敷設していない試験体5とでは、1cm上方の大気温度として、最大5℃の差があった。
【0108】
この結果から、多孔質セラミックスを敷設することにより、屋上に設置された空調室外機の周辺温度を下げ、全階の空調の運転効率を向上させ、使用電力量を減らすことができることが分かる。
【0109】
<A−2.ビルの屋上緑化の代替及びA−3.ビルの屋上防水層のメンテナンス経費削減>
多孔質セラミックスをビル屋上に敷設した場合(ケース1)と、これを敷設していない従来仕様(ケース2)と、芝生や低木を植えた屋上緑化の場合(ケース3)とで、単位面積当たりの初期費用(敷設ないし植栽費用)と20年間の維持(メンテナンス)費用を試算し、その比較結果を第11図に示した。
【0110】
第11図に示されるように、多孔質セラミックスは初期費用のみでその後の維持管理は殆ど不要である。一方、多孔質セラミックスを敷設しない従来仕様のケース2では、防水層の補修等の維持費がかかり、結果として、本発明品と同等である。
【0111】
屋上緑化のケース3では、初期費用に加えて、剪定、刈込み、芝刈り、施肥、除草、病害虫防除、灌漑装置の点検、その他の総合点検等の維持費用がかさみ、第11図に示す費用以外にも灌漑設備による散水のための運転に必要な電気代及び水道代がかかる。
【0112】
これらの結果から、前述の如く、多孔質セラミックスは、治水・蒸散において、芝生等植物の性能と同等であると共に、高耐久・長寿命かつ自然降雨を利用した維持管理不要なものである上に、屋上緑化に比較して、初期費用は1/2、維持費用も格段に安く、屋上緑化代替の有力候補となることが分かる。
【0113】
<B−1.ヒートアイランド対策>
東京都23区内のビル屋上全てに多孔質セラミックスを敷設すると、治水・蒸散に機能する都市の蒸散面積を10%増加させることができる。
【0114】
現在、ビルの屋上には機器類(室外機・熱源など)が設置されているが、多孔質セラミックスは、ビル屋上の各種機器の下にも敷設できるので、都市の蒸散面積を増やし、街区全体の温度を大幅に低減することができる。
【0115】
多孔質セラミックスと芝生の吸水・蒸散の繰り返し試験結果を示す第13図から明らかなように、多孔質セラミックスは、芝生の約2倍の蒸散能力があるため、上記の10%の都市の蒸散面積の増加は、芝生に替算すれば、2倍の20%の都市の蒸散面積の増加となり、更なる有効性が明らかである。
【0116】
<B−2・ゲリラ豪雨対策>
多孔質セラミックスと芝生について、10月2日〜10月16日の15日間にわたる期間の単位体積当たりの蒸散量と吸水量の累計を比較した第12図より明らかなように、多孔質セラミックスは芝生よりも2倍以上の吸水・蒸散量を有する。
【0117】
ビル屋上には多孔質セラミックスを10cmの厚さで50km2の面積に敷設すると180万m3もの治水ができ、東京都23区で3mm/hrのゲリラ豪雨のピークカットを図ることができる。
【0118】
<B−3.資源の再利用>
多孔質セラミックスは、例えば、従来廃棄物とされていた長石キラ90重量%と、その他の材料10重量%で製造することができる。単位面積当たりの多孔質セラミックスの重量を40kg/m2とすると、5000m2の敷設に必要となる長石キラの量は、
5000(m2)×40(kg/m2)×0.9÷1000=180ton
となる。
【0119】
即ち、多孔質セラミックスを敷設面積として1日に5000m2生産すると、必要な廃棄物(長石キラ)原料は、180ton/日であり、廃棄物の有効利用効果は極めて大きい。
【0120】
以下、上記配合の多孔質セラミックスが保水性及び蒸散性に優れていることを示す実験結果について説明する。下記の実験例1〜5は本発明の好ましい組成を用いた多孔質セラミックスであり、実験例6〜10はそれ以外の組成の多孔質セラミックスである。
【0121】
なお、以下の実験例で用いた原料は次の通りである。
【0122】
カリ長石:愛知県瀬戸産 長石
8号珪砂:勝野窯業製
長石キラ:愛知県瀬戸産 長石
吸水性ポリマー:三洋化成株式会社製
(篩によって粒径20μmアンダー(吸水性ポリマーA)、粒径
20〜50μm(吸水性ポリマーB)、粒径50〜100μm
(吸水性ポリマーC)に分級した。)
アルミナセメント:ラファージュ株式会社製
炭酸リチウム:試薬特級
CuO:試薬特級
【0123】
[前提出願の実験例1〜10]
水以外の原料を表1の割合で秤量し、ミキサ(ホソカワミクロン製ナウタミキサ)で乾式にて攪拌混合した。次いで、水を表1の割合でこの混合粉末に添加し、混練した。これを直径70mm、最大厚さ15mmの略円盤形状に成形し、80℃にて24時間乾燥した。これをローラーハースキルン(最高焼成温度は表1に示す通り。炉通過時間は60分)にて焼成し、多孔質セラミックスを製造した。
【0124】
各多孔質セラミックスについて成分分析を行うと共に特性測定を行った。結果を表1、表2に示す。
【0125】
なお、気孔率は、水銀ポロシメータ(Quantachrome株式会社製)を用いて測定した。気孔の孔径分布を第6図及び第7図に示す。
【0126】
保水量は、次のようにして測定した。
【0127】
多孔質セラミックスを105℃で乾燥した後、放冷し、秤量し、重量(W1)を求める。次いで、20℃の水中に24時間浸漬した後、引き上げ、表面水を湿った布で拭き取り、飽水状態とする。この試料を秤量し、重量(W2)を求める。また、この飽水状態の多孔質セラミックスをメスシリンダー中の水中に投入し、体積(V)を求める。保水量(g/cm3)を(W2−W1)/Vにより算出する。
【0128】
強度は10cm×10cm×0.5cmのサンプルを作り3点曲げ試験(JTトーシ株式会社、50kNデジタル曲げ試験機)によって測定した。
【0129】
凍結融解性能は、上記飽水状態の多孔質セラミックスを−20℃に75分保持して凍結させた後、30℃に90分保持して融解させる凍結・融解サイクルを200サイクル繰り返し、破損の程度を観察することによって調べ、非常に良好(◎)、良好(○)、やや不良(△)、不良(×)で評価した。
【0130】
吸い上げ性能は、水を深さ5mmに張った平たい容器内に、乾燥した多孔質セラミックスを置き、30分吸水させた後、引き上げ、この30分間の吸水量を上記保水量の測定方法と同様にして求める。体積については保水量測定時の体積を用いる。この30分間の吸水量(g/cm3)を吸い上げとする。
【0131】
蒸散効果持続日数は、蒸発の潜熱による冷却効果の持続日数であり、次のようにして測定した。
【0132】
第5図に示す通り、厚さ150mmの再生ポリプロピレン樹脂製パレット1の上に、厚さ100mmの発泡スチロール板よりなる正方形状の囲枠2を載せ、容器とする。この容器の一辺は1000mm、深さは830mmである。容器の外周面にアルミ箔を張ってあ
る。
【0133】
この容器内に厚さ500mmに発泡スチロール板3を敷き詰め、その上面の5箇所に温度センサT1〜T5を配置する。
【0134】
この発泡スチロール板3の上に厚さ180mm、比重2.2のコンクリート板4を載せる。このコンクリート板4の上に飽水状態の多孔質セラミックス5(第5図(b)にのみ図示)を50kg堆積させる。堆積厚さは約10cm程度である。以上の作業は、気温20℃、湿度60%RHの屋内で行う。この容器を35℃、60%RHの恒温恒湿室中に放置し、温度センサの検出温度が35℃に上昇するまでの日数を測定する。これを蒸散効果持続日数とする。
【0135】
また、各実験例で得られた多孔質セラミックスについて、吸水性を調べるために、第14図に示すように、5個の多孔質セラミックス51〜55を用意し、水をはったパレット50上に、最下段の多孔質セラミックス55がその底部から1mm程度水に浸かるようにして、5段積み重ね、この状態で1時間放置した後、最上段の多孔質セラミックス51の重量変化から、この多孔質セラミックス51の吸水率(吸水前の多孔質セラミックスの重量に対する吸水した水の重量の割合)を算出した。
【0136】
【表1】
【0137】
【表2】
【0138】
[前提出願の考察]
表1の通り、上記の好ましい組成よりなる実験例1〜5の多孔質セラミックスは、吸い上げ性能及び蒸発効果持続日数に優れ、耐凍結融解性能、吸水性も良好である。
【0139】
これに対し、上記の好ましい組成に属さない、実験例6〜10のうち実験例6は、気孔の孔径が過大であるため、吸い上げ性能及び蒸発効果持続日数、吸水性に劣る。
【0140】
実験例7は、気孔の孔径が過度に小さいため、凍結融解性能、吸水性に劣る。
【0141】
実験例8は、気孔率が80%と過度に大きいため、強度及び凍結融解性能、吸水性に劣る。
【0142】
実験例9,10は、保水量が低いため、蒸発効果持続日数が短く、吸水性も悪い。
【0143】
[本発明の実施例]
以下、上述の前提技術の保水用セラミックス/多孔質セラミックスを好適に使用することができる本発明の保水設備10の実施の形態について説明する。ここでは、保水用セラミックスと多孔質セラミックスのことを合わせて「多孔質セラミックス」と呼ぶ。
【0144】
(第1の実施の形態)
図15は、第1の実施の形態に係る保水設備10の斜視図である。図16は、第1の実施の形態に係る保水設備を図15の矢印A方向から見た側面図である。以下、すべての図面において、同等の構成要素には同じ符号を付し、適宜その説明を省略する。
【0145】
図15および図16に示すように、保水設備10は施工対象面Pの上に設置されている。施工対象面Pは、ビルの屋上、舗装された路面、公園の地面など、屋外の略平面状の表面である。保水設備10の施工対象面Pには、底上げ部材104が設置されている。底上げ部材104と施工対象面Pとの位置関係は固定されている。固定は接着剤や固定器具の使用など既知の方法でよいが、台風などの強風に耐える固定強度とする。
【0146】
底上げ部材104の上には、敷設部材102が固定されている。敷設部材102と底上げ部材104も、台風などの強風に耐える強度で固定されている。敷設部材102は、ネット状の部材であり通気性および通水性を有する。敷設部材102と底上げ部材104は、支持部材100を形成している。敷設部材102の上面には、保水性および蒸発性を有する保水体106の集合体である保水構造体108が多数敷設されて保持されている。支持部材100により、保水構造体108と施工対象面Pとの間に空間が形成されている。より表面積を大きくして蒸発効率を向上させるために、保水構造体108は多層構造であることが好ましい。
【0147】
保水構造体108における保水性(吸水性)と、吸収された水の蒸発性とを高めるために、比較的小さな保水体106を多数個利用し、保水構造体108の総表面積を大きくしている。保水体106の材料は、上述の多孔質セラミックスである。上述の多孔質セラミックスは、気孔率が高いため、保水性を維持しつつ、総表面積を大きくすることができる。
【0148】
施工対象面Pから敷設部材102の上面までの高さ(底上げ部材104の高さと敷設部材102の厚さとの合計)は、h1である。また、敷設部材102の上面からの保水構造体108の高さは、h2である。高さh1と高さh2の比率は任意でよいが、後述のとおり、高さh1>高さh2であってもよい。
【0149】
敷設部材102は網目構造で、網目は保水体106の外形よりも小さい。そのため、通気性や通水性などの保水蒸発性と、保水体106の落下防止とが両立できる。
【0150】
敷設部材102として、軽量性、強度、および耐久性を有する化学繊維、金網、金属製の格子などでできたネットを採用できる。敷設部材102の色は黒色や白色など任意だが、保水設備10全体の美観を考慮して、保水構造体108と同一ないし類似の色でもよい。
【0151】
保水設備10は主に雨水を貯留するが、散水された水道水など、雨水以外の水を貯留してもよい。これによって、高温少雨の夏場に、貯留した水の蒸発冷却作用によって、建物や周囲の温度上昇を抑制することができる。
【0152】
以上、本実施の形態に係る保水設備10によれば、敷設部材102と底上げ部材104を有する支持部材100を設けることによって、保水設備10の保水性を維持しつつ、通気性と通水性を確保し、蒸発性を向上をさせることができる。これにより、施工対象面Pの保護および施工対象面Pや保水構造体108の藻・カビの発生を抑制することができる。
【0153】
本実施の形態では、底上げ部材104を施工対象面Pに直接設置した。しかし、底上げ部材104によって施工対象面Pが擦れないよう、施工対象面Pの上に保護層などの層を別に設け、その上に底上げ部材104を固定してもよい。また、本実施の形態の敷設部材102は、後述の第4の実施の形態や第5の実施の形態のように、保水構造体108を収容する収容体として形成されていてもよい。
【0154】
(第2の実施の形態)
図17は、第2の実施の形態に係る保水設備10の斜視図である。以下、第1の実施の形態と異なる部分を中心に説明する。
【0155】
本実施の形態では、支柱状の底上げ部材104の高さを高くしたことにより、施工対象面Pから敷設部材102の上面までの高さh3を高さh1よりも高くした点が、第1の実施の形態と異なる。底上げ部材104には、高さを調節可能な高さ調節機構が設けられていてもよい。高さh3は、敷設部材102および保水構造体108の下部の施工対象面Pを人の歩行路として使用可能な高さである。高さh3は、具体的には100cm以上、好ましくは150cm以上、より好ましくは200cm以上である。一方、保水体106の落下の危険性や底上げ部材104の強度を考慮して、高さh3は300cm以下であることが好ましい。底上げ部材104の高さを高くする場合には、保水設備10の強度の観点から、底上げ部材104としてより強度のある部材を用いるのが好ましい。施工対象面Pには、ベンチQが置かれてもよい。この場合には、高さh3は、人が中腰で歩ける150cm程度の高さであってもよい。
【0156】
本実施の形態に係る保水設備10によれば、敷設部材102の下部により広いスペースが形成され、保水構造体108の蒸発性を高めることができる。したがって、本実施の形態によれば、第1の実施の形態の効果に加えて、人が保水設備10の下に形成された日陰で涼むことができる保水設備10を提供できる。
【0157】
(第3の実施の形態)
図18は、第3の実施の形態に係る保水設備10の斜視図である。本実施の形態では、取付部材116を介して、保水構造体108を敷設して保持する敷設部材102にワイヤ状の吊下げ部材114が取り付けられている。敷設部材102と吊下げ部材114は、支持部材100を形成する。保水設備10は、吊下げ部材114によって施工対象面Pの上方の構造物に固定されて吊り下げられている。吊下げ部材114の長さは、自由に調節可能である。そのため、施工対象面Pから敷設部材102の上面までの高さh4も自由に調節可能である。
【0158】
本実施の形態に係る保水設備10によれば、敷設部材102の下部のスペースを容易に調節することができ、保水構造体108の蒸発性および人が歩行可能な高さを調節できる。また、施工対象面Pが略平面でなくても、保水設備10を設置することができる。
【0159】
本実施の形態の保水設備10は、施工対象面Pの上方の構造物として、たとえば温室など屋内設備の天上から吊り下げられてもよい。この場合、植物に水を供給するついでに保水構造体108に水を供給してもよい。また、本実施の形態の保水設備10では、保水構造体108または敷設部材102の上に、観葉植物の鉢植えを置くことで、鑑賞性を併せもたせてもよい。また、図18では、施工対象面Pの上方の構造物において、4点で保水設備10を固定する場合を示したが、1点以上で固定すればよい。
【0160】
(第4の実施の形態)
図19は、第4の実施の形態に係る保水設備10の斜視図である。本実施の形態では、保水構造体108を敷設して保持する敷設部材102の四方に高さh5の側壁118を設けた点が、図15の保水設備10とは異なる。側壁118は、敷設部材102と同じくネット状の部材である。敷設部材102と側壁118は、支持部材100を形成する。支持部材100は、保水構造体108を収容可能で、上方が開放された定形の容器状の収容体として形成されている。この収容体には、かご、箱、袋、ネット袋、皿などが含まれる。また、支持部材100は、底上げ部材104が取り付けられることにより、足付きの容器として形成されている。側壁118の高さh5は、保水構造体108の高さh2(図16)よりも高い。
【0161】
本実施の形態に係る保水設備10によれば、第1の実施の形態の効果に加えて、側壁118により、保水構造体108の飛散を防止することができる。また、保水構造体108の取り扱いが容易となり、より多くの保水体106を敷設部材102に敷設することができるため、施工性、運搬性が向上する。また、保水設備10が定形であるため、複数の保水設備10を隣接させて配置する際の設計が容易となる。
【0162】
なお、側壁118は、ネット状の部材ではなく網目を有さない板状の部材であってもよい。これにより、保水構造体108の飛散防止性を高めることができる。また、本実施の形態では、敷設部材102が上方が開放された定形の容器状に形成される場合を示したが、敷設部材102は不定形のネット状の袋などであってもよい。また、支持部材100は、上方以外も開放された収容体であってもよい。また、本実施の形態に係る保水設備10の運搬用には、段ボールなどの折りたたみ式の箱を使用してもよい。
【0163】
(第5の実施の形態)
図20は、第5の実施の形態に係る保水設備10の斜視図である。本実施の形態では、支持部材100の四方の側壁118の上辺に蓋部122を設け、上方を覆蓋する定形の箱状に形成した点が、図19の保水設備10とは異なる。
【0164】
蓋部122は、敷設部材102や側壁118と同じくネット状の部材である。側壁118や蓋部122に強度を持たせることにより、保水設備10の上面を人が歩行可能に形成されてもよい。また、支持部材100は、上方の一部を覆蓋する箱状に形成されてもよい。
【0165】
本実施の形態に係る保水設備10によれば、第4の実施の形態の効果を維持しつつ、飛散防止性、施工性、運搬性がさらに向上する。また、蓋部122の上面を人が歩行可能に形成した場合には、保水設備10のメンテナンス性が向上する。
【0166】
以下、複数の実施の形態について有効な細部の構造等について説明する。
(変形例1)
図21(a)と図21(b)は、支持部材100の変形例を示す斜視図である。図21(a)の支持部材100では、ネット状の敷設部材102にかえて、保水構造体108の外形よりも小さな直径d1の孔110が複数開けられた板状の敷設部材102が使用されている点が、図16の支持部材100とは異なる。一方、図21(b)の支持部材100は、図21(a)よりも幅の狭い4つの敷設部材102が、これらと直交する底上げ部材104と一体的に形成された、すのこ状である。4つの敷設部材102がそれぞれ等間隔で底上げ部材104と固定されることにより、支持部材100には幅がd2の孔110が3つ形成されている。幅d2は、保水構造体108の外形よりも小さい。
【0167】
この変形例によると、敷設部材102の強度を向上させつつ、孔110の径や数を調節することにより、保水構造体108の通気性、排水性、および蒸発性を調節することができる。
【0168】
(変形例2)
図22は、保水構造体の敷設の変形例を示す、図21の矢印B方向から見た側面図である。本変形例では、図21(a)または図21(b)の敷設部材102の上に、所定数ごとにネット状の袋112に入れられた状態の保水構造体108が敷設されている。
【0169】
この変形例によると、支持部材100と保水構造体108とを別々に取り扱うことができるため、施工性や運搬性が向上する。また、ネット状の袋112により、保水体106の飛散を防止することができる。また、孔110を保水体106の外形よりも大きくすることができるため、孔110をさらに大きくしたり数を増やしたりすることができ、保水構造体108の通気性、排水性および蒸発性をさらに向上させることができる。
【0170】
本発明は、上述の各実施の形態に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて各種の設計変更等の変形を加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施の形態も本発明の範囲に含まれうるものである。
【符号の説明】
【0171】
10 保水設備、100 支持部材、102 敷設部材、104 底上げ部材、106 保水体、108 保水構造体、110 孔、112 袋、114 吊下げ部材、116 取付部材、118 側壁、122 蓋部
【技術分野】
【0001】
本発明は保水設備に関し、特に、保水体を利用する保水設備に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、都市部の気温が郊外部に比べて高くなる現象、いわゆるヒートアイランド現象がますます顕著となりつつある。ヒートアイランド現象は、熱中症や睡眠障害など健康への影響を引き起こすだけでなく、空調などの電気設備の負荷増加を招くことにより、エネルギー消費量を増加させる。
【0003】
また、ヒートアイランド現象は、近年、都市部で局所的に大雨が降る現象、いわゆるゲリラ豪雨の要因ともいわれている。特に都市部では、地面の大部分がアスファルトやコンクリートで舗装されているため、雨水を吸収することができない。ゲリラ豪雨が発生した場合、短時間で許容量を超える雨水が下水道や河川に流入し、都市部に特徴的な水害である都市型洪水が発生する。以上の諸問題を防止するために、ヒートアイランド現象緩和策が切望されている。
【0004】
都市空間は、すでに地上、地下とも過密利用されている。そのため、ヒートアイランド現象の緩和技術として、利用率の低いビルの屋上の有効活用に期待が寄せられている。そのひとつに、建物の屋上に芝生等を敷設する屋上緑化の試みがある。しかし、屋上緑化は、施工費用や維持管理の問題から、十分な普及には至っていない。また、屋上緑化された設備は、雨水を保水する能力がそれほど高いわけではなく、都市型洪水の緩和にはあまり役に立っていなかった。
【0005】
そのため、より大量の雨水を貯留して都市型洪水を抑制する新たな技術が求められている。この技術はまた、貯留した雨水を晴天時に蒸発させ、蒸発冷却作用によって建物や周囲の温度上昇を抑え、ヒートアイランド現象を緩和できればより望ましい。
【0006】
特許文献1には、ビルの屋上などに敷設することができ、保水性と蒸発性を兼ね備えた保水セラミックス、およびこの保水セラミックスを敷き詰める技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−100513号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1の技術は、保水セラミックスを2〜20cmの厚さで敷き詰める。しかし、この構造では、吸収した水の蒸発性を考慮する必要がある。この点において、本発明者は改善の余地を認識した。
【0009】
本発明はこうした課題に鑑みてなされたものであり、保水設備の蒸発効率をさらに高めることができる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の保水設備は、保水性を有する保水体の集合体である保水構造体と、通気性を有し、保水構造体と施工対象面との間に空間を形成して保水構造体を支持する支持部材と、を備える。
【0011】
この態様によると、保水性を維持しつつ、通気性と通水性を確保し、蒸発性を向上をさせることができる。これにより、施工対象面の保護および施工対象面や保水構造体の藻・カビの発生を抑制することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の保水設備によれば、保水性を維持しつつ、保水設備の蒸発性を向上をさせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】前提出願の実施の形態に係る保水構造体の断面図である。
【図2】図1の保水構造体の通水系統図である。
【図3】前提出願の別の実施の形態に係る保水構造体の支持材を示す断面図である。
【図4】前提出願の実施の形態で用いられる保水用セラミックスの斜視図である。
【図5】試験方法の説明図であり、(a)図は平面図、(b)図は(a)図のB−B線断面図である。
【図6】実験例1〜5の保水用セラミックスの気孔の孔径分布図である。
【図7】実験例6〜10の保水用セラミックスの気孔の孔径分布図である。
【図8】(a)図は、試験体1を示す模式的な断面図、(b)図は試験体1〜3のスラブ下温度の経時変化を示すグラフである。
【図9】試験体1,3のスラブ表面温度の経時変化を示すグラフである。
【図10】(a)図は試験体4を示す模式的な断面図、(b)図は試験体4,5の上方大気温度の経時変化を示すグラフである。
【図11】ケース1〜3の初期及び維持費用を比較するグラフである。
【図12】保水用セラミックスと芝生の試験期間内の蒸散・吸水量を対比して示すグラフである。
【図13】保水用セラミックスと芝生の蒸散量と吸水量の累計を対比して示すグラフである。
【図14】実験例における試験方法の説明図であり、パレット上の保水用セラミックスの積重状態を示す模式図である。
【図15】第1の実施の形態に係る保水設備の斜視図である。
【図16】第1の実施の形態に係る保水設備を図15の矢印A方向から見た側面図である。
【図17】第2の実施の形態に係る保水設備の斜視図である。
【図18】第3の実施の形態に係る保水設備の斜視図である。
【図19】第4の実施の形態に係る保水設備の斜視図である。
【図20】第5の実施の形態に係る保水設備の斜視図である。
【図21】支持部材の変形例を示す斜視図である。
【図22】保水構造体の敷設の変形例を示す、図21の矢印B方向から見た側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本願発明を説明するために、まず本願の前提となる特願2009−137403号(以下前提出願という)の記載内容を説明し、その後、本発明の実施例を説明する。なお、前提出願に関する記述の中([本発明の実施例]の前までの部分)において「本発明」というときは「前提出願の発明」と読み替えるものとする。
[前提出願の技術分野]
【0015】
本発明は、地表や建物の屋上等に適用される、保水用セラミックスを用いた保水構造体に関する。
[前提出願の背景技術]
【0016】
多孔質セラミックスよりなるブロック状の保水体を建物の屋上に配設し、散水用の給水パイプを旋回させて保水体に散水し、建物の冷却を図るシステムが特開平8−312018に記載されている。
【0017】
特開2006−342979には、空冷式冷房装置の室外機の送風ファンの吸引側に湿潤した多孔質保水部を配置し、水の蒸発熱によって空気を冷却して凝縮機の冷却効率を高めることが記載されている。
【0018】
特開平8−73282の0005段落には、粘土、吸水性ポリマー及び水を混練し、成形した後、電子レンジで乾燥し、次いで1100℃で2時間焼成する多孔質セラミックスの製造方法が記載されている。同号公報には、吸水した吸水性ポリマーの粒径が0.1〜2.0mmであると記載されている(請求項4)。このように、吸水性ポリマーの粒径が大きいと、多孔質セラミックスの気孔も粗大となり、多孔質セラミックスの保水性は高くない。
[前提出願の先行技術文献]
[特許文献]
【0019】
[特許文献1]特開平8−312018
[特許文献2]特開2006−342979
[特許文献3]特開平8−73282
[前提出願の発明の概要]
[前提出願の発明が解決しようとする課題]
【0020】
上記特許文献1のように多孔質セラミックスよりなる保水体を屋上に配設した場合、年月の経過と共に保水体の間にゴミが溜り、冷却機能が低下する。
【0021】
上記特許文献2では、空冷式冷房装置の室外機の吸引側に柱状の保水部を設けているが、空気と保水部との接触が不十分であり、更に保水部の容積が吸引される空気量に比べ小さいため空気を冷却する作用は乏しい。
【0022】
本発明は、建物や地表の冷却効果を長い年月にわたって十分に発揮することができる保水構造体を提供することを目的とする。
[前提出願の課題を解決するための手段]
【0023】
前提出願の請求項1の保水構造体は、少なくとも一部が建造物又は地表から上方に離隔している支持材と、該支持材上に配材された保水用セラミックスとを備えてなり、該支持材に多数の開口が設けられているものである。
【0024】
前提出願の請求項2の保水構造体は、請求項1において、該保水用セラミックスに給水する給水手段を備えたことを特徴とするものである。
【0025】
前提出願の請求項3の保水構造体は、前提出願の請求項1又は2において、前記支持材の下側のスペースから空気を空冷式冷房装置の室外機の空気吸込側に導く手段を備えたことを特徴とするものである。
【0026】
前提出願の請求項4の保水構造体は、前提出願の請求項3において、前記室外機のドレンを保水用セラミックスへの給水手段に導く手段を備えたことを特徴とするものである。
【0027】
前提出願の請求項5の保水構造体は、前提出願の請求項1ないし4のいずれか1項において、保水用セラミックスの温度を検知する温度検知手段と、該温度検知手段で検知される温度が所定温度以上となったときに前記給水手段を作動させる制御手段とを備えたことを特徴とするものである。
【0028】
前提出願の請求項6の保水構造体は、前提出願の請求項1ないし5のいずれか1項において、該保水用セラミックスは、その全体積の53〜70%が孔径1〜100μmの気孔よりなることを特徴とするものである。
【0029】
前提出願の請求項7の保水構造体は、前提出願の請求項1ないし6のいずれか1項において、該保水用セラミックスに、上下方向に貫通した内径1mm以上の通気孔が設けられていることを特徴とするものである。
[前提出願の発明の効果]
【0030】
本発明の保水構造体では、建物の屋上や地表に設けられた支持材上に保水用セラミックスを配材する。この保水用セラミックスから水が蒸発することにより冷却効果が得られる。
【0031】
本発明では、この支持材がネットやパンチングメタル、グレーチングなど多数の開口を有したものにて構成されている。そのため、保水用セラミックス同士の間に入り込んだゴミなどの異物は、この開口を通って支持材の下側へ流出ないし落下する。従って、保水用セラミックス同士の間や支持材の上にゴミが大量に溜ることがなく、長期にわたって優れた冷却効果を得ることができる。なお、支持材は上記例に限らず、開口を有する樹脂成形品などであってもよい。
【0032】
この支持材の下側のスペースから、冷却された空気を空冷式冷房装置の室外機の空気吸込側に導くことにより、空冷式冷房装置の冷房効率が向上する。この室外機のドレンを保水用セラミックスへの給水の一部として利用することにより、水を節約することができる。
【0033】
本発明では、保水用セラミックスの温度を検知し、この温度が所定温度以上になったときに給水を行うようにしてもよい。このように保水用セラミックスの温度上昇に応じて給水を行うことにより、保水用セラミックスを常に湿潤状態とすることができる。
【0034】
本発明で用いる保水用セラミックスは、多孔質セラミックスよりなり、包蔵した水の蒸発潜熱によって冷却効果を発揮する。本発明では、保水用セラミックスに内径1mm以上の通気孔が設けられていてもよい。この場合、保水用セラミックスの深奥部まで水が浸透し易く、また保水用セラミックスの深奥部に包蔵された水も蒸発し易い。従って、水の吸収速さ及び蒸発速さが大きい。
【0035】
本発明にあっては、保水用セラミックスは、全体積の53〜70%が孔径1〜100μmの気孔よりなることが好ましい。このように比較的微細な気孔を多量に有する保水用セラミックスは保水性が高いと共に、表面の比表面積も大きく、水の蒸発性がよい。従って、降雨や散水によって素早く多量の水を吸水し、都市型洪水を防止することができる。また、この孔径の気孔は、超微細というものではなく、凍結するときには、気孔内の水が凍結時の水の体積膨張に伴って保水用セラミックス外に速やかに押し出されるので、凍結融解が繰り返されても、割れるおそれが殆どない。
[前提出願の発明を実施するための形態]
【0036】
以下、図面を参照して実施の形態について説明する。
【0037】
[前提出願の第1の実施の形態]
第1図及び第2図に第1の実施の形態を示す。第1図は実施の形態に係る保水構造体の
断面図、第2図はその通水系統図である。
【0038】
地表に打設されたコンクリート面やアスファルト等の防水面又は建物の屋上面20から所定距離(例えば1〜30cm程度)上方に多数の開口を有した支持材21が略水平に設置されている。
【0039】
支持材21は支柱22によって支持されている。なお、支柱22によって梁を支持し、この梁の上に支持材21を設置してもよく、支持材21が十分な強度を有しているときには支柱22によって直に支持材21を支承してもよい。支持材21と支柱22とは一体で成形されたものでも、別に成形され接合されたものでもよい。
【0040】
支持材21としては、ネット(例えば金網)、グレーチング、孔あき板(例えばパンチングメタル)などを用いることができる。支持材21には、その上に配材される保水用セラミックスの落下が防止される範囲でなるべく大きい開口孔の開口が多数設けられている。支持材21の開口率は、支持材21に必要な強度を確保できる範囲でなるべく大きいことが好ましく、開口率は65%以上のものが好ましい。
【0041】
支持材21の周囲に囲壁部23が立設されている。この囲壁部23で囲まれた支持材21上に保水用セラミックス24が配設されている。
【0042】
この実施の形態では、保水用セラミックス24は体積が3〜350cm3程度の塊状であり、厚さ3〜20cm程度に敷き詰められることが好ましい。
【0043】
保水用セラミックス24の上方に散水パイプ25が設置されている。この散水パイプ25の下面には、所定間隔をおいて多数の散水孔が設けられている。散水パイプの代りにスプリンクラー等を用いてもよい。
【0044】
第2図に示すように、散水パイプ25に対し、給水タンク26内の水が弁27を介して供給可能とされている。給水タンク26内には、雨桶28等によって雨水が流入するようになっている。なお、給水タンク26内が空にならないようにボールタップ29が設けられており、給水タンク26内の水位がボールタップ開栓水位以下になるとボールタップ29が開栓し、水道水又は井戸水等の水源からの水が補給されるようになっている。
【0045】
ボールタップ29に連なる給水管30の途中にエゼクタ31が設けられている。このエゼクタ31の吸引ポートは、後述するドレンタンク39の底部に対し配管32を介して接続されている。
【0046】
第1図の通り、支持材21と地表又は屋上面20との間のスペース34は、封隔板35によって外周囲の大気から隔絶されている。このスペース34内の空気を空冷式冷房装置の室外機37の吸込側に導くようにダクト36が設けられている。
【0047】
第2図の通り、この室外機37のドレン口38からのドレン水を受け入れるようにドレンタンク39が設けられている。このドレンタンク39の底部の流出口に前記配管32が接続されている。
【0048】
前記支持材21上の保水用セラミックス24の表面温度を測定するように温度センサ40が設置されている。この温度センサ40としては、放射型温度センサのほか、熱電対などの接触型温度センサ等を用いることができる。この温度センサ40の検知温度が制御器41に入力されており、夏季などにおいて検知温度が所定温度(例えば30〜50℃から選択される温度)を超えると、弁27が開弁し、散水パイプ25から散水が行われる。この実施の形態では、この散水は所定時間又は所定水量だけ行われた後、自動的に停止するようになっている。
【0049】
このように散水が行われることにより、保水用セラミックス24は常に湿潤状態となっている。
【0050】
このように構成された保水構造体にあっては、湿潤した保水用セラミックス24からの水の蒸発により、地表温度又は屋上温度が抑制される。
【0051】
また、室外機37を作動させた場合、保水用セラミックス24の堆積層を通過して冷却された空気がスペース34、ダクト36を介して室外機37に流れ込むので、空冷式冷房装置の冷房効率を向上させることができる。この室外機のドレンをドレンタンク39に回収し、給水タンク26に送水することにより、蒸散水源として利用することができる。
【0052】
この実施の形態にあっては、保水用セラミックス24がネット等よりなる支持材21上に配列されているので、支持材21上や保水用セラミックス24同士の間にゴミ等が溜ることがなく、上記の効果を長期間維持することができる。
【0053】
[前提出願の第2の実施の形態]
上記実施の形態では平板状の支持材21を支柱22によって支承することによりスペース34を形成しているが、第3図のように波板状の支持材44を地表又は屋上面等に直置きするように設置してもよい。この場合、支持材44と地表又は屋上面20との間に生じるスペース45の空気を室外機に導くようにダクトを設ける。
【0054】
[前提出願の保水用セラミックスの別形状例]
上記実施の形態では塊状の保水用セラミックス24を用いているが、第4図に示すように柱形の保水用セラミックス46,47を柱軸方向が上下方向となるように配列してもよい。
【0055】
第4図(a)に示す保水用セラミックス46は、高さ10〜300mm程度の多孔質セラミックスよりなる円柱状であり、円柱の軸心部には柱軸方向に貫通する孔径1〜200mm程度の通気孔46が設けられている。この通気孔46を設けたことにより、保水用セラミックス46の深奥部に吸蔵された水も蒸発し易いものとなる。また、保水用セラミックス46に降雨が掛ったときに雨水が保水用セラミックスの深奥部にまで吸収され易い。
【0056】
なお、1本の通気孔46を有した保水用セラミックス46の代わりに、第4図(b)に示す複数本の通気孔47aを有した多孔質セラミック製保水用セラミックス47を用いてもよい。保水用セラミックスは円柱形に限らず、楕円柱形、角柱形などであってもよい。また、通気孔は省略されてもよい。
【0057】
次に、保水用セラミックスを構成する多孔質セラミックスの好適な気孔径、材料、組成及び製造方法等について説明する。
【0058】
[前提出願の保水用セラミックスの気孔径]
本発明で用いる保水用セラミックスは、その保水用セラミックスの全体積の53〜70%好ましくは55〜68%が、孔径1〜100μm、好ましくは15〜40μmの微細気孔よりなることが好ましい。上述の通り、このように微細な気孔を多量に含むことにより、保水用セラミックスの保水性及び水の蒸発性が良好となる。
【0059】
より好ましくは、この孔径1〜100μmの気孔の60%以上、例えば70〜95%が孔径10〜50μm、好ましくは15〜40μmの気孔よりなる。特に、本発明で用いる保水用セラミックスは、その保水用セラミックスの全体積の10〜70%、特には15〜50%が孔径15〜40μmの微細気孔よりなることが好ましい。
【0060】
この保水用セラミックスの全気孔率は、55〜80%であることが好ましい。保水用セラミックスの全気孔率が55%未満では、全体積の53〜70%が孔径1〜100μmの微細気孔の保水用セラミックスの実現し得ず、80%よりも大きいと、強度が不足し、敷設材料としての実用性が損なわれる。
【0061】
なお、本発明では、気孔の孔径の測定は、水銀ポロシメータを用い、JIS R 1655に従って行われる。
【0062】
この保水用セラミックスは、1〜1200cm3特に1〜200cm3とりわけ20〜100cm3程度の大きさであることが好ましい。この大きさのものは、屋上や庭などに敷き詰め易い。保水用セラミックスの形状は球形、楕円球状(例えばラグビーボール状)、立方体、直方体、錘形、円盤形状、柱状体など任意である。
【0063】
この保水用セラミックスを好ましくは厚さ2〜20cm特に8〜15cm程度に厚く敷き詰めることにより、保水用セラミックス層全体の保水容量が増大し、急激な降雨や一時的に多量の散水が行われたときでも、水を十分に保水することができる。従って、本発明の保水用セラミックスを都市の多くの建物や庭、空地等に敷き詰めることにより、都市型洪水を防止することも可能となる。
【0064】
また、この保水用セラミックスから、水が蒸発するときの蒸発潜熱により冷却が行われるので、本発明の保水用セラミックスを都市の多くの建物や庭、空地等に敷き詰めることにより、ヒートアイランド現象を防止することが可能となる。
【0065】
上記孔径の気孔内の水は、凍結時に保水用セラミックス外に押し出され易く、凍結融解作用を繰り返し受けても、保水用セラミックスが割れることは殆どない。
【0066】
[前提出願のセラミックスの組成]
この保水用セラミックスを構成するセラミックスの組成は
SiO2:50〜80wt%とりわけ55〜70wt%
Al2O3:10〜30wt%とりわけ15〜25wt%
Na2O及びK2Oの合計:1〜10wt%とりわけ3〜7wt%
であることが好ましい。
【0067】
かかるソーダ・カリを多く含むアルミノ珪酸塩系セラミックスは、親水性であり、保水用セラミックスの保水性及び水の蒸発性が良好となる。
【0068】
なお、湿潤状態にある保水用セラミックスに藻が発生することを防止するために、CuOを保水用セラミックス中に0.1〜1.5wt%程度配合してもよい。
【0069】
本発明で用いる保水用セラミックスには、その一部又は全面に光触媒コーティング液を塗布して光触媒効果を付与してもよく、これにより、光触媒による浄化作用で、保水用セラミックスの耐汚染性を高めることができる。
【0070】
[前提出願の保水用セラミックスの製造方法]
次に保水用セラミックスの好適な製造方法について説明する。
【0071】
この保水用セラミックスを製造するには、窯業系原料、アルミナセメント及び粉末状吸水性ポリマー並びに好ましくは更に炭酸リチウムを乾式混合し、次いで水を添加して混合し、その後、成形、乾燥及び焼成する。この際の配合割合は、好ましくは、
窯業系原料:75〜95wt%、特に80〜95wt%
アルミナセメント:3〜15wt%、特に5〜15wt%
吸水性ポリマー:0.5〜10wt%、特に1〜5wt%
炭酸リチウム:10wt%以下、特に1〜10wt%、とりわけ1〜5wt%
である。
【0072】
なお、水の混合割合は、水以外の全原料の合計重量に対して130〜170wt%程度であって、吸水性ポリマーに対して80〜150倍程度とすることが、取り扱い性、成形性、吸水性ポリマーの吸水膨張性、その後の乾燥、焼成効率の面から好ましい。
【0073】
窯業系原料としては、カリ長石、粘土、珪砂などの1種又は2種以上を用いることができるが、これに限定されない。これらの窯業系原料をSiO2、Al2O3、Na2O+K2Oの割合が前述となるように選択して用いる。
【0074】
アルミナセメントとしては、JISに定めるものを用いることができる。
【0075】
このアルミナセメントは、硬化が速いので、水を添加して混合し、成形すると、短時間のうちにハンドリングできる程度の成形体が得られる。
【0076】
粉末状吸水性ポリマーとしては、粒径10〜50μm、特に20〜30μm程度のものが好適である。
【0077】
吸水性ポリマーとしては、ポリアクリル酸塩系、酢酸ビニル・アクリル酸エステル共重合体ケン化物、でんぷん・アクリル酸グラフト共重合体など、各種のものを1種を単独で、或いは2種以上を混合して用いることができる。
【0078】
この混合物を成形するには、定量充填機、鋳込成型機、押出成形機、ハニカム成形機などを用いることができるが、これに限定されない。
【0079】
この成形体を好ましくは80〜250℃で5〜40時間、特に6〜12時間加熱して乾燥した後、好ましくは1050〜1200℃、特に1100〜1150℃で0.2〜20時間、特に0.3〜2時間焼成して焼結体とする。この焼成には、ローラーハースキルン、トンネルキルン、シャトルキルン等を用いることができる。
【0080】
[保水用セラミックスの応用例及びその効果]
保水用セラミックスは、気孔径及びその割合が厳密に制御された多孔質セラミックスであり、雨水を吸水することにより治水し、また、吸水した水を日射によって蒸散させる性能を有する。
【0081】
従って、保水用セラミックスを、ビル屋上や個人住宅又は公共施設の通路、広場、庭等に敷設することにより、以下のA,Bのような環境対策を図ることができる。
【0082】
A.個別ビルの環境対策
A−1.ビルの省エネ・CO2削減:
保水用セラミックスをビル屋上に敷設することにより、保水用セラミックスによる雨水の治水・蒸散で、屋上スラブ温度を下げ、階下の空調の使用電力量を減らすことができる。
【0083】
また、屋上に設置された空調室外機の周辺温度を下げ、全階の空調の運転効率を向上させ、使用電力量を減らすこともできる。特に、屋上階の夏場の空調の使用電力量を大きく低減することができる。
【0084】
この結果、CO2の排出量の削減も可能となる。
【0085】
A−2.ビルの屋上緑化の代替:
保水用セラミックスは、芝生等の植物と同様の保水、冷却の性能を有すると共に、高耐久・長寿命かつ自然降雨を利用する維持管理不要な材料であるため、屋上緑化代替の有力候補となる。
【0086】
現状の屋上緑化は維持に手間が掛かり、管理費も高いが、保水用セラミックスによれば、この問題を解決できる。
【0087】
A−3.ビルの屋上防水層のメンテナンス経費削減:
保水用セラミックスは、熱伝導率が0.2W/m・K程度の低熱伝導性で断熱性が高いので、これをビル屋上に敷設することにより、屋上スラブ温度を一定に保つことができる。また、紫外線も防ぐことができる。
【0088】
現状では10年程度で防水層の補修が必要とされるが、保水用セラミックスを適用することにより、このメンテナンス頻度を低減できる。
【0089】
B.都市の環境対策
B−1.ヒートアイランド対策:
保水用セラミックスは、ビル屋上を占有する各種機器(室外機・熱源など)の下にも敷設できるので、本発明の保水用セラミックスを各所に敷設することにより、都市の蒸散面積を増やし、街区全体の温度をより一層低減することができる。
【0090】
また、保水用セラミックスは、芝生と比較して高い蒸散能力があるので、芝生に比べて単位面積当たりの温度低減効果も高い。
【0091】
B−2.ゲリラ豪雨対策:
保水用セラミックスは、芝生と比較して高い治水能力があるので、ビル屋上に可能な限り敷設すれば、ゲリラ豪雨のピークカットが期待できる。
【0092】
B−3.資源の再利用
保水用セラミックスは、従来、廃棄物とされていた長石キラを主原料(例えば原料の90%)として製造することができる。長石キラはタイル原料の長石を採掘する時の副産物であり、従来は廃棄物とされていたものである。
【0093】
以下に、多孔質セラミックスによる上記A,Bの効果を示す実験例ないしは試算例を挙げる。
【0094】
<A−1.ビルの省エネ・CO2削減>
第8図(a)に示すように、底部及び4側面が断熱材11で構成された箱型容器内にコンクリートスラブ12を敷設し、その上に、多孔質セラミックス(例えば、後掲の実験例2と同様にして製造された多孔質セラミックス)13を厚さ10cmに敷設し、試験体1とした。多孔質セラミックスの敷設面積は1m2である。なお、底部断熱材11とコンクリートスラブ12との間には、温度センサ14を設けた。
【0095】
別に、この多孔質セラミックスの代りに芝生を植えたものを試験体2とし、多孔質セラミックスを敷設しなかったものを試験体3とした。
【0096】
これらの試験体1〜3を並べて置き、気温と、各試験体の温度センサ14の測定温度の経時変化を調べ、結果を第8図(b)に示した。
【0097】
なお、第8図(b)のグラフ中、吸水期間は、降雨のあった期間であり、それ以外は、曇ないし晴天であった。
【0098】
第8図(b)より明らかなように、多孔質セラミックスを敷設した試験体1は、敷設なしの試験体3に対してスラブ下温度で最大−8℃の温度低減効果があった。しかも、試験体1の蒸散効果は、芝生を植えた試験体2よりも大きいものであった。
【0099】
この結果から、多孔質セラミックスによる雨水の治水・蒸散で、屋上スラブ温度を下げ、階下の空調の使用電力量を減らすことができることが分かる。
【0100】
次に、第8図(a)に示すと同様に多孔質セラミックス13を敷設すると共に温度センサ14を設けた試験体1と、多孔質セラミックスを敷設していない試験体3により、屋上スラブ表面温度の変化を模擬するものとして、1日24時間の温度センサ14の測定温度を調べ、結果を第9図に示した。
【0101】
なお、多孔質セラミックス、コンクリートスラブ及び土の一般的な熱伝導率は以下に示す通りである。
【0102】
多孔質セラミックス :0.20W/m・K
コンクリートスラブ :0.15W/m・K
土 :0.63W/m・K
【0103】
第9図より明らかなように、屋上スラブの表面温度の一日の変化量は、多孔質セラミックスを敷設した試験体1では2℃であるのに対して、敷設していない試験体3では15℃だった。この結果から、多孔質セラミックスを敷設することにより、日射によるスラブへの熱負荷が軽減されることが分かる。
【0104】
次に、第10図(a)に示すように、底部及び4側面が断熱材11で構成された箱型容器内にコンクリートスラブ12を敷設し、その上に、多孔質セラミックス(例えば、後掲の実験例2と同様にして製造された多孔質セラミックス)13を厚さ10cmに敷設し、試験体4とした。多孔質セラミックスの敷設面積は1m2である。多孔質セラミックスの敷設面の上方1cmの位置に温度センサ14を設けた。
【0105】
別に、多孔質セラミックスを敷設しなかったものを試験体5とした。この試験体5ではコンクリートスラブ12の上方1cmの位置に温度センサ14を設けた。
【0106】
これらの試験体4,5を並べて置き、1日24時間の温度センサ14の測定温度の変化を調べ、結果を第10図(b)に示した。
【0107】
第10図(b)より明らかなように、多孔質セラミックスを敷設した試験体4と敷設していない試験体5とでは、1cm上方の大気温度として、最大5℃の差があった。
【0108】
この結果から、多孔質セラミックスを敷設することにより、屋上に設置された空調室外機の周辺温度を下げ、全階の空調の運転効率を向上させ、使用電力量を減らすことができることが分かる。
【0109】
<A−2.ビルの屋上緑化の代替及びA−3.ビルの屋上防水層のメンテナンス経費削減>
多孔質セラミックスをビル屋上に敷設した場合(ケース1)と、これを敷設していない従来仕様(ケース2)と、芝生や低木を植えた屋上緑化の場合(ケース3)とで、単位面積当たりの初期費用(敷設ないし植栽費用)と20年間の維持(メンテナンス)費用を試算し、その比較結果を第11図に示した。
【0110】
第11図に示されるように、多孔質セラミックスは初期費用のみでその後の維持管理は殆ど不要である。一方、多孔質セラミックスを敷設しない従来仕様のケース2では、防水層の補修等の維持費がかかり、結果として、本発明品と同等である。
【0111】
屋上緑化のケース3では、初期費用に加えて、剪定、刈込み、芝刈り、施肥、除草、病害虫防除、灌漑装置の点検、その他の総合点検等の維持費用がかさみ、第11図に示す費用以外にも灌漑設備による散水のための運転に必要な電気代及び水道代がかかる。
【0112】
これらの結果から、前述の如く、多孔質セラミックスは、治水・蒸散において、芝生等植物の性能と同等であると共に、高耐久・長寿命かつ自然降雨を利用した維持管理不要なものである上に、屋上緑化に比較して、初期費用は1/2、維持費用も格段に安く、屋上緑化代替の有力候補となることが分かる。
【0113】
<B−1.ヒートアイランド対策>
東京都23区内のビル屋上全てに多孔質セラミックスを敷設すると、治水・蒸散に機能する都市の蒸散面積を10%増加させることができる。
【0114】
現在、ビルの屋上には機器類(室外機・熱源など)が設置されているが、多孔質セラミックスは、ビル屋上の各種機器の下にも敷設できるので、都市の蒸散面積を増やし、街区全体の温度を大幅に低減することができる。
【0115】
多孔質セラミックスと芝生の吸水・蒸散の繰り返し試験結果を示す第13図から明らかなように、多孔質セラミックスは、芝生の約2倍の蒸散能力があるため、上記の10%の都市の蒸散面積の増加は、芝生に替算すれば、2倍の20%の都市の蒸散面積の増加となり、更なる有効性が明らかである。
【0116】
<B−2・ゲリラ豪雨対策>
多孔質セラミックスと芝生について、10月2日〜10月16日の15日間にわたる期間の単位体積当たりの蒸散量と吸水量の累計を比較した第12図より明らかなように、多孔質セラミックスは芝生よりも2倍以上の吸水・蒸散量を有する。
【0117】
ビル屋上には多孔質セラミックスを10cmの厚さで50km2の面積に敷設すると180万m3もの治水ができ、東京都23区で3mm/hrのゲリラ豪雨のピークカットを図ることができる。
【0118】
<B−3.資源の再利用>
多孔質セラミックスは、例えば、従来廃棄物とされていた長石キラ90重量%と、その他の材料10重量%で製造することができる。単位面積当たりの多孔質セラミックスの重量を40kg/m2とすると、5000m2の敷設に必要となる長石キラの量は、
5000(m2)×40(kg/m2)×0.9÷1000=180ton
となる。
【0119】
即ち、多孔質セラミックスを敷設面積として1日に5000m2生産すると、必要な廃棄物(長石キラ)原料は、180ton/日であり、廃棄物の有効利用効果は極めて大きい。
【0120】
以下、上記配合の多孔質セラミックスが保水性及び蒸散性に優れていることを示す実験結果について説明する。下記の実験例1〜5は本発明の好ましい組成を用いた多孔質セラミックスであり、実験例6〜10はそれ以外の組成の多孔質セラミックスである。
【0121】
なお、以下の実験例で用いた原料は次の通りである。
【0122】
カリ長石:愛知県瀬戸産 長石
8号珪砂:勝野窯業製
長石キラ:愛知県瀬戸産 長石
吸水性ポリマー:三洋化成株式会社製
(篩によって粒径20μmアンダー(吸水性ポリマーA)、粒径
20〜50μm(吸水性ポリマーB)、粒径50〜100μm
(吸水性ポリマーC)に分級した。)
アルミナセメント:ラファージュ株式会社製
炭酸リチウム:試薬特級
CuO:試薬特級
【0123】
[前提出願の実験例1〜10]
水以外の原料を表1の割合で秤量し、ミキサ(ホソカワミクロン製ナウタミキサ)で乾式にて攪拌混合した。次いで、水を表1の割合でこの混合粉末に添加し、混練した。これを直径70mm、最大厚さ15mmの略円盤形状に成形し、80℃にて24時間乾燥した。これをローラーハースキルン(最高焼成温度は表1に示す通り。炉通過時間は60分)にて焼成し、多孔質セラミックスを製造した。
【0124】
各多孔質セラミックスについて成分分析を行うと共に特性測定を行った。結果を表1、表2に示す。
【0125】
なお、気孔率は、水銀ポロシメータ(Quantachrome株式会社製)を用いて測定した。気孔の孔径分布を第6図及び第7図に示す。
【0126】
保水量は、次のようにして測定した。
【0127】
多孔質セラミックスを105℃で乾燥した後、放冷し、秤量し、重量(W1)を求める。次いで、20℃の水中に24時間浸漬した後、引き上げ、表面水を湿った布で拭き取り、飽水状態とする。この試料を秤量し、重量(W2)を求める。また、この飽水状態の多孔質セラミックスをメスシリンダー中の水中に投入し、体積(V)を求める。保水量(g/cm3)を(W2−W1)/Vにより算出する。
【0128】
強度は10cm×10cm×0.5cmのサンプルを作り3点曲げ試験(JTトーシ株式会社、50kNデジタル曲げ試験機)によって測定した。
【0129】
凍結融解性能は、上記飽水状態の多孔質セラミックスを−20℃に75分保持して凍結させた後、30℃に90分保持して融解させる凍結・融解サイクルを200サイクル繰り返し、破損の程度を観察することによって調べ、非常に良好(◎)、良好(○)、やや不良(△)、不良(×)で評価した。
【0130】
吸い上げ性能は、水を深さ5mmに張った平たい容器内に、乾燥した多孔質セラミックスを置き、30分吸水させた後、引き上げ、この30分間の吸水量を上記保水量の測定方法と同様にして求める。体積については保水量測定時の体積を用いる。この30分間の吸水量(g/cm3)を吸い上げとする。
【0131】
蒸散効果持続日数は、蒸発の潜熱による冷却効果の持続日数であり、次のようにして測定した。
【0132】
第5図に示す通り、厚さ150mmの再生ポリプロピレン樹脂製パレット1の上に、厚さ100mmの発泡スチロール板よりなる正方形状の囲枠2を載せ、容器とする。この容器の一辺は1000mm、深さは830mmである。容器の外周面にアルミ箔を張ってあ
る。
【0133】
この容器内に厚さ500mmに発泡スチロール板3を敷き詰め、その上面の5箇所に温度センサT1〜T5を配置する。
【0134】
この発泡スチロール板3の上に厚さ180mm、比重2.2のコンクリート板4を載せる。このコンクリート板4の上に飽水状態の多孔質セラミックス5(第5図(b)にのみ図示)を50kg堆積させる。堆積厚さは約10cm程度である。以上の作業は、気温20℃、湿度60%RHの屋内で行う。この容器を35℃、60%RHの恒温恒湿室中に放置し、温度センサの検出温度が35℃に上昇するまでの日数を測定する。これを蒸散効果持続日数とする。
【0135】
また、各実験例で得られた多孔質セラミックスについて、吸水性を調べるために、第14図に示すように、5個の多孔質セラミックス51〜55を用意し、水をはったパレット50上に、最下段の多孔質セラミックス55がその底部から1mm程度水に浸かるようにして、5段積み重ね、この状態で1時間放置した後、最上段の多孔質セラミックス51の重量変化から、この多孔質セラミックス51の吸水率(吸水前の多孔質セラミックスの重量に対する吸水した水の重量の割合)を算出した。
【0136】
【表1】
【0137】
【表2】
【0138】
[前提出願の考察]
表1の通り、上記の好ましい組成よりなる実験例1〜5の多孔質セラミックスは、吸い上げ性能及び蒸発効果持続日数に優れ、耐凍結融解性能、吸水性も良好である。
【0139】
これに対し、上記の好ましい組成に属さない、実験例6〜10のうち実験例6は、気孔の孔径が過大であるため、吸い上げ性能及び蒸発効果持続日数、吸水性に劣る。
【0140】
実験例7は、気孔の孔径が過度に小さいため、凍結融解性能、吸水性に劣る。
【0141】
実験例8は、気孔率が80%と過度に大きいため、強度及び凍結融解性能、吸水性に劣る。
【0142】
実験例9,10は、保水量が低いため、蒸発効果持続日数が短く、吸水性も悪い。
【0143】
[本発明の実施例]
以下、上述の前提技術の保水用セラミックス/多孔質セラミックスを好適に使用することができる本発明の保水設備10の実施の形態について説明する。ここでは、保水用セラミックスと多孔質セラミックスのことを合わせて「多孔質セラミックス」と呼ぶ。
【0144】
(第1の実施の形態)
図15は、第1の実施の形態に係る保水設備10の斜視図である。図16は、第1の実施の形態に係る保水設備を図15の矢印A方向から見た側面図である。以下、すべての図面において、同等の構成要素には同じ符号を付し、適宜その説明を省略する。
【0145】
図15および図16に示すように、保水設備10は施工対象面Pの上に設置されている。施工対象面Pは、ビルの屋上、舗装された路面、公園の地面など、屋外の略平面状の表面である。保水設備10の施工対象面Pには、底上げ部材104が設置されている。底上げ部材104と施工対象面Pとの位置関係は固定されている。固定は接着剤や固定器具の使用など既知の方法でよいが、台風などの強風に耐える固定強度とする。
【0146】
底上げ部材104の上には、敷設部材102が固定されている。敷設部材102と底上げ部材104も、台風などの強風に耐える強度で固定されている。敷設部材102は、ネット状の部材であり通気性および通水性を有する。敷設部材102と底上げ部材104は、支持部材100を形成している。敷設部材102の上面には、保水性および蒸発性を有する保水体106の集合体である保水構造体108が多数敷設されて保持されている。支持部材100により、保水構造体108と施工対象面Pとの間に空間が形成されている。より表面積を大きくして蒸発効率を向上させるために、保水構造体108は多層構造であることが好ましい。
【0147】
保水構造体108における保水性(吸水性)と、吸収された水の蒸発性とを高めるために、比較的小さな保水体106を多数個利用し、保水構造体108の総表面積を大きくしている。保水体106の材料は、上述の多孔質セラミックスである。上述の多孔質セラミックスは、気孔率が高いため、保水性を維持しつつ、総表面積を大きくすることができる。
【0148】
施工対象面Pから敷設部材102の上面までの高さ(底上げ部材104の高さと敷設部材102の厚さとの合計)は、h1である。また、敷設部材102の上面からの保水構造体108の高さは、h2である。高さh1と高さh2の比率は任意でよいが、後述のとおり、高さh1>高さh2であってもよい。
【0149】
敷設部材102は網目構造で、網目は保水体106の外形よりも小さい。そのため、通気性や通水性などの保水蒸発性と、保水体106の落下防止とが両立できる。
【0150】
敷設部材102として、軽量性、強度、および耐久性を有する化学繊維、金網、金属製の格子などでできたネットを採用できる。敷設部材102の色は黒色や白色など任意だが、保水設備10全体の美観を考慮して、保水構造体108と同一ないし類似の色でもよい。
【0151】
保水設備10は主に雨水を貯留するが、散水された水道水など、雨水以外の水を貯留してもよい。これによって、高温少雨の夏場に、貯留した水の蒸発冷却作用によって、建物や周囲の温度上昇を抑制することができる。
【0152】
以上、本実施の形態に係る保水設備10によれば、敷設部材102と底上げ部材104を有する支持部材100を設けることによって、保水設備10の保水性を維持しつつ、通気性と通水性を確保し、蒸発性を向上をさせることができる。これにより、施工対象面Pの保護および施工対象面Pや保水構造体108の藻・カビの発生を抑制することができる。
【0153】
本実施の形態では、底上げ部材104を施工対象面Pに直接設置した。しかし、底上げ部材104によって施工対象面Pが擦れないよう、施工対象面Pの上に保護層などの層を別に設け、その上に底上げ部材104を固定してもよい。また、本実施の形態の敷設部材102は、後述の第4の実施の形態や第5の実施の形態のように、保水構造体108を収容する収容体として形成されていてもよい。
【0154】
(第2の実施の形態)
図17は、第2の実施の形態に係る保水設備10の斜視図である。以下、第1の実施の形態と異なる部分を中心に説明する。
【0155】
本実施の形態では、支柱状の底上げ部材104の高さを高くしたことにより、施工対象面Pから敷設部材102の上面までの高さh3を高さh1よりも高くした点が、第1の実施の形態と異なる。底上げ部材104には、高さを調節可能な高さ調節機構が設けられていてもよい。高さh3は、敷設部材102および保水構造体108の下部の施工対象面Pを人の歩行路として使用可能な高さである。高さh3は、具体的には100cm以上、好ましくは150cm以上、より好ましくは200cm以上である。一方、保水体106の落下の危険性や底上げ部材104の強度を考慮して、高さh3は300cm以下であることが好ましい。底上げ部材104の高さを高くする場合には、保水設備10の強度の観点から、底上げ部材104としてより強度のある部材を用いるのが好ましい。施工対象面Pには、ベンチQが置かれてもよい。この場合には、高さh3は、人が中腰で歩ける150cm程度の高さであってもよい。
【0156】
本実施の形態に係る保水設備10によれば、敷設部材102の下部により広いスペースが形成され、保水構造体108の蒸発性を高めることができる。したがって、本実施の形態によれば、第1の実施の形態の効果に加えて、人が保水設備10の下に形成された日陰で涼むことができる保水設備10を提供できる。
【0157】
(第3の実施の形態)
図18は、第3の実施の形態に係る保水設備10の斜視図である。本実施の形態では、取付部材116を介して、保水構造体108を敷設して保持する敷設部材102にワイヤ状の吊下げ部材114が取り付けられている。敷設部材102と吊下げ部材114は、支持部材100を形成する。保水設備10は、吊下げ部材114によって施工対象面Pの上方の構造物に固定されて吊り下げられている。吊下げ部材114の長さは、自由に調節可能である。そのため、施工対象面Pから敷設部材102の上面までの高さh4も自由に調節可能である。
【0158】
本実施の形態に係る保水設備10によれば、敷設部材102の下部のスペースを容易に調節することができ、保水構造体108の蒸発性および人が歩行可能な高さを調節できる。また、施工対象面Pが略平面でなくても、保水設備10を設置することができる。
【0159】
本実施の形態の保水設備10は、施工対象面Pの上方の構造物として、たとえば温室など屋内設備の天上から吊り下げられてもよい。この場合、植物に水を供給するついでに保水構造体108に水を供給してもよい。また、本実施の形態の保水設備10では、保水構造体108または敷設部材102の上に、観葉植物の鉢植えを置くことで、鑑賞性を併せもたせてもよい。また、図18では、施工対象面Pの上方の構造物において、4点で保水設備10を固定する場合を示したが、1点以上で固定すればよい。
【0160】
(第4の実施の形態)
図19は、第4の実施の形態に係る保水設備10の斜視図である。本実施の形態では、保水構造体108を敷設して保持する敷設部材102の四方に高さh5の側壁118を設けた点が、図15の保水設備10とは異なる。側壁118は、敷設部材102と同じくネット状の部材である。敷設部材102と側壁118は、支持部材100を形成する。支持部材100は、保水構造体108を収容可能で、上方が開放された定形の容器状の収容体として形成されている。この収容体には、かご、箱、袋、ネット袋、皿などが含まれる。また、支持部材100は、底上げ部材104が取り付けられることにより、足付きの容器として形成されている。側壁118の高さh5は、保水構造体108の高さh2(図16)よりも高い。
【0161】
本実施の形態に係る保水設備10によれば、第1の実施の形態の効果に加えて、側壁118により、保水構造体108の飛散を防止することができる。また、保水構造体108の取り扱いが容易となり、より多くの保水体106を敷設部材102に敷設することができるため、施工性、運搬性が向上する。また、保水設備10が定形であるため、複数の保水設備10を隣接させて配置する際の設計が容易となる。
【0162】
なお、側壁118は、ネット状の部材ではなく網目を有さない板状の部材であってもよい。これにより、保水構造体108の飛散防止性を高めることができる。また、本実施の形態では、敷設部材102が上方が開放された定形の容器状に形成される場合を示したが、敷設部材102は不定形のネット状の袋などであってもよい。また、支持部材100は、上方以外も開放された収容体であってもよい。また、本実施の形態に係る保水設備10の運搬用には、段ボールなどの折りたたみ式の箱を使用してもよい。
【0163】
(第5の実施の形態)
図20は、第5の実施の形態に係る保水設備10の斜視図である。本実施の形態では、支持部材100の四方の側壁118の上辺に蓋部122を設け、上方を覆蓋する定形の箱状に形成した点が、図19の保水設備10とは異なる。
【0164】
蓋部122は、敷設部材102や側壁118と同じくネット状の部材である。側壁118や蓋部122に強度を持たせることにより、保水設備10の上面を人が歩行可能に形成されてもよい。また、支持部材100は、上方の一部を覆蓋する箱状に形成されてもよい。
【0165】
本実施の形態に係る保水設備10によれば、第4の実施の形態の効果を維持しつつ、飛散防止性、施工性、運搬性がさらに向上する。また、蓋部122の上面を人が歩行可能に形成した場合には、保水設備10のメンテナンス性が向上する。
【0166】
以下、複数の実施の形態について有効な細部の構造等について説明する。
(変形例1)
図21(a)と図21(b)は、支持部材100の変形例を示す斜視図である。図21(a)の支持部材100では、ネット状の敷設部材102にかえて、保水構造体108の外形よりも小さな直径d1の孔110が複数開けられた板状の敷設部材102が使用されている点が、図16の支持部材100とは異なる。一方、図21(b)の支持部材100は、図21(a)よりも幅の狭い4つの敷設部材102が、これらと直交する底上げ部材104と一体的に形成された、すのこ状である。4つの敷設部材102がそれぞれ等間隔で底上げ部材104と固定されることにより、支持部材100には幅がd2の孔110が3つ形成されている。幅d2は、保水構造体108の外形よりも小さい。
【0167】
この変形例によると、敷設部材102の強度を向上させつつ、孔110の径や数を調節することにより、保水構造体108の通気性、排水性、および蒸発性を調節することができる。
【0168】
(変形例2)
図22は、保水構造体の敷設の変形例を示す、図21の矢印B方向から見た側面図である。本変形例では、図21(a)または図21(b)の敷設部材102の上に、所定数ごとにネット状の袋112に入れられた状態の保水構造体108が敷設されている。
【0169】
この変形例によると、支持部材100と保水構造体108とを別々に取り扱うことができるため、施工性や運搬性が向上する。また、ネット状の袋112により、保水体106の飛散を防止することができる。また、孔110を保水体106の外形よりも大きくすることができるため、孔110をさらに大きくしたり数を増やしたりすることができ、保水構造体108の通気性、排水性および蒸発性をさらに向上させることができる。
【0170】
本発明は、上述の各実施の形態に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて各種の設計変更等の変形を加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施の形態も本発明の範囲に含まれうるものである。
【符号の説明】
【0171】
10 保水設備、100 支持部材、102 敷設部材、104 底上げ部材、106 保水体、108 保水構造体、110 孔、112 袋、114 吊下げ部材、116 取付部材、118 側壁、122 蓋部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
保水性を有する保水体の集合体である保水構造体と、
通気性を有し、前記保水構造体と施工対象面との間に空間を形成して前記保水構造体を支持する支持部材と、を備える保水設備。
【請求項2】
前記支持部材は、前記保水構造体を収容する収容体である請求項1に記載の保水設備。
【請求項3】
前記収容体は、ネット状の袋である請求項2に記載の保水設備。
【請求項4】
前記収容体は、少なくとも上方が開放された容器である請求項2に記載の保水設備。
【請求項5】
前記収容体は、少なくとも上方の一部を覆蓋する蓋部を有する容器である請求項2に記載の保水設備。
【請求項6】
前記支持部材は、前記保水構造体の下方の前記施工対象面が歩行路として使用可能なように、前記保水構造体と前記施工対象面との間に空間を形成した請求項1〜5のいずれかに記載の保水設備。
【請求項7】
前記支持部材は、上方の構造物から吊り下げられている請求項1〜6のいずれかに記載の保水設備。
【請求項1】
保水性を有する保水体の集合体である保水構造体と、
通気性を有し、前記保水構造体と施工対象面との間に空間を形成して前記保水構造体を支持する支持部材と、を備える保水設備。
【請求項2】
前記支持部材は、前記保水構造体を収容する収容体である請求項1に記載の保水設備。
【請求項3】
前記収容体は、ネット状の袋である請求項2に記載の保水設備。
【請求項4】
前記収容体は、少なくとも上方が開放された容器である請求項2に記載の保水設備。
【請求項5】
前記収容体は、少なくとも上方の一部を覆蓋する蓋部を有する容器である請求項2に記載の保水設備。
【請求項6】
前記支持部材は、前記保水構造体の下方の前記施工対象面が歩行路として使用可能なように、前記保水構造体と前記施工対象面との間に空間を形成した請求項1〜5のいずれかに記載の保水設備。
【請求項7】
前記支持部材は、上方の構造物から吊り下げられている請求項1〜6のいずれかに記載の保水設備。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【公開番号】特開2012−122224(P2012−122224A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−272637(P2010−272637)
【出願日】平成22年12月7日(2010.12.7)
【出願人】(302045705)株式会社LIXIL (949)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年12月7日(2010.12.7)
【出願人】(302045705)株式会社LIXIL (949)
【Fターム(参考)】
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