説明

保温布団

【課題】 機械、装置等を熱絶縁(断熱)するために用いる保温布団において、油が浸透しないようにする。
【解決手段】 繊維質断熱材で形成した断熱層本体(2)の周囲を耐熱性を有する被覆クロス(3)で覆う。このクロスの表面に、耐食性を有する極薄、微小な金属箔片(4)・・・を耐熱性を有する樹脂バインダ−中に混合した塗料を塗布する。これにより、上記金属箔片(4)・・・は平面的に多層に積層された状態に重なり、保護皮膜層(5)が形成される。この保護皮膜層(5)により油の浸透が阻止される。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、各種の機械、装置等と外気を熱絶縁(断熱)するために用いる保温布団に関するものである。
【0002】
【従来の技術】例えば、火力発電所等の蒸気タ−ビン、ポンプ、給水加熱器、バルブ、脱気器等の高温状態で使用される機器は、発熱を絶縁するために断熱材で構成した保温布団を機器の周囲に張り付けたり、巻き付けたりしている。この保温布団は、厚さ約25〜50mmの繊維質断熱材で構成した断熱層の周囲を耐熱クロスで覆って一辺が約600mm以上の四辺形に形成されることが多いが、表面を耐熱クロスで覆っただけなので、上記機器からの漏油や周囲から流出した油を吸収しやすく、一旦油が吸収されると上記断熱層内部まで浸透してしまい、この油に着火すると簡単に消火させることがむずかしい。
【0003】クロスの表面にアルミ蒸着した保温布団が知られているが、蒸着膜は強度が弱いので、上記のような機器に張り付けたり、巻き付けたりするとき、蒸着膜に亀裂を生じたり、剥れ落ちたりして油の浸透を充分に防止することができない。また、機器に張り付けたり、巻き付けたりするときに、機器に設けられたピン等の突出物によっても上記蒸着膜等は破れたりするおそれがあり、裂傷を生じると一層油が浸透しやすくなる、という欠点があった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】本発明の解決課題は、上記のような高温の機器等に使用される保温布団において、張り付けたり、巻き付けたりしても亀裂等を発生せずに油を浸透させないようにした耐油性の優れた保温布団を提供することである。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明によれば、繊維質断熱材で形成した断熱層本体の周囲を耐熱性を有する被覆クロスで覆い、該被覆クロスの表面に耐食性を有する極薄、微小な金属箔片を耐熱性を有する樹脂バインダ−中に混合した塗料を塗布し上記金属箔片が多層に積層された保護皮膜層を形成した保温布団が提供され、上記課題が解決される。上記金属箔片はステンレススチ−ル箔片、好ましくはモリブデンを含むステンレススチ−ル箔片であり、樹脂バインダ−としてはシリコン樹脂が用いられる。また、上記断熱層本体と被覆クロスの間にステンレス箔を設けた保温布団が提供され、上記課題が解決される。
【0006】
【発明の実施の形態】火力発電所等で使用される保温布団(1)は、使用温度として約500〜560℃程度が要求されるので、ガラス繊維、セラミック繊維、ロックウ−ル繊維等の繊維質断熱材で形成される断熱層本体(2)は、厚さ約25〜100mm程度に形成され、その周囲をガラス繊維等の耐熱性を有する被覆クロス(3)で覆ってある。
【0007】上記クロス(3)の表面には、耐食性を有する極薄、微小な金属箔片(4)・・・を耐熱性を有する樹脂バインダ−中に混合した塗料を塗布し、上記金属箔片(4)・・・が平面的に重なり合って多層に積層された保護皮膜層(5)が形成される。図において、上記金属箔片(4)としては、ステンレススチ−ル、好ましくはモリブデンを含んだステンレススチ−ル箔片が用いられ、図1(C)に示すように幅約10μm,長さ約30μm,厚さ約0.3μm程度の略木の葉状に形成され、塗布後硬化すると、この金属箔片が1枚づつ積み重なって図1(B)に示す如く連続して積層した保護皮膜層(5)が得られる。上記樹脂バインダ−は、使用温度に応じた耐熱性を有する各種の合成樹脂材料が使用できるが、図においてはシリコン樹脂をバインダ−に使用しており、塗布後に形成された皮膜層の耐熱温度は約650℃である。上記の如き構成の塗料(コ−ティング材)は、「ステンレスコ−ト」SILタイプの商品名で株式会社 テイクイン インタ−ナショナル コ−ポレ−ションから提供されている。
【0008】上記塗料は、ハケ塗り、ロ−ラ−塗り、吹付け等の方法により上記クロス(3)の表面に塗布されるが、この際、塗料の一部はクロス内にも浸透するので、投錨効果により上記保護皮膜層(5)は極めて強固な状態で形成される。また、この塗布は1層塗りの膜厚が約40〜50μmであるから、上記金属箔片の積層厚が所望の厚さになるまで複数回塗布される。本発明の使用目的上、上記金属箔片が約200〜300層に積層されていれば、皮膜にクラックが入らず、煙や空気の透過を防止する効果が確保できる。このため、本発明においては、上記塗料を2層若しくは3層塗りして厚さ約80〜150μm程度、好ましくは約80〜120μm程度の皮膜層(5)を形成している。
【0009】上記塗料は、樹脂バインダ−として、シリコン樹脂を使用しているので、常温乾燥後に熱を加えて硬化する必要があるが、本発明では上述のように火力発電所等で使用される高温の機器を対象としているので、該機器等に張り付けたり、巻き付けたりすれば、該機器からの発熱により自然に硬化し、特に加熱しなくともよい。
【0010】上記断熱層本体(2)と上記被覆クロス(3)の間には、図2に示すように、ステンレス箔(6)を設けることもできる。該ステンレス箔(6)の厚さは、各種の機器等に張り付けたり、巻き付けたりする際に該機器等から突出するピンその他の突出物に押し付けても該突出物が貫通しない程度の強度を有し、かつ該ステンレス箔を設けたことにより生ずる熱伝導が実用上無視できる大きさであり、断熱材としての機能を劣化させない程度の厚さのものが使用される。実験の結果によれば、そのようなステンレス箔(6)の厚さとしては約10〜20μm程度が好ましい。
【0011】断熱層本体をクロスで覆っただけの従来の保温布団では、外気が該布団を通過するため断熱効果が低下することがあったが、上記のようにクロスの表面に金属箔片(4)・・・を多層に積層した保護皮膜層(5)を形成したものでは、該皮膜層(5)で絶縁され、外気が布団中に侵入しないので、布団による断熱効果を最大限に発揮することができる。また、従来の保温布団では温度上昇とともに例えば約200℃位になると、断熱層中のバインダ−が熱分解され、煙と悪臭がわずかに発生し、外部に拡散する現象を生じることがあったが、上記保護皮膜層(5)を形成したことにより、該皮膜層(5)で遮断されて断熱層本体内への外気の補充がないため断熱層中のバインダ−の熱分解が生じにくく、若し生じても悪臭等が外部に流出しないから、上述の如き煙や悪臭等の問題を解消することができる。このような作用効果は、断熱層本体とクロスの間にステンレス箔(6)を設けることにより一層向上する。
【0012】
【実施例】ガラス繊維で構成した厚さ約50mmの断熱層本体の外周を、ガラス繊維で織成した厚さ約0.5mmの耐熱クロスで覆った。そして、その表面に、モリブデン入りのステンレススチ−ルを長さ約30μm,幅約10μm,厚さ約0.5mmの木の葉状に形成したステンレス箔片をシリコン樹脂バインダ−中に混合した塗料(上記株式会社 テイクイン インタ−ナショナル コ−ポレ−ションが販売する「ステンレスコ−ト」SILタイプ)をハケ塗りにより3回塗布し、厚さ約120μmの保護皮膜層を形成した。この保温布団(1)を、図3に示すように起立して室温保持し、機械油(7)をノズル(8)から滴下したところ、油(7)は保温布団内に浸透せず小幅の油の流れた付着跡(9)が筋状に残った。上記保温布団を400℃に20時間加熱した後、同様にして機械油を滴下したものでは幾分付着跡の筋幅が幅広になったが、保温布団内に油が浸透することはなかった。また、屈曲したり、巻き付けたりしても上記保護皮膜層に亀裂を生じることはなかった。
【0013】比較例として、上記実施例のような保護皮膜層を形成していない断熱層本体と耐熱クロスだけの保温布団(10)を作った。これに機械油を滴下したところ、図4(A),(B)に示すようにクロスを通して断熱層本体内に深く広がって油が浸透した本体浸透跡(11)やクロスに浸透したクロス浸透跡(12)が見られ、下部には布団内に浸透した油が溜って流出する本体浸透跡(11)が表われていた。
【0014】上記実施例では、油は筋状に表面に付着しているだけなので、万一この油に着火するようなことがあっても、すぐに鎮火するが、上記比較例では、浸透跡(11),(12)に示すように布団内にまで油が浸透しこの油が徐々に流出するので簡単に消火させることはむずかしい。
【0015】
【発明の効果】本発明は上記のように構成され、繊維質断熱材で形成した断熱層本体の周囲を耐熱性を有する被覆クロスで覆い、該クロスの表面に耐食性を有する極薄、微小な金属箔片を耐熱性を有する樹脂バインダ−中に混合した塗料を塗布し上記金属箔片が多層に積層された保護皮膜層を形成したので、該保護皮膜層によりクロスや断熱層本体内への油の浸透は確実に阻止され、耐油性に優れた保温布団が得られ、また火力発電所の蒸気タ−ビンその他の各種の機器等に張り付けたり、巻き付けたりする際にも上記保護皮膜層は上記クロスと一体的に結合していて耐屈曲性に優れているから、亀裂したり、剥離したりすることはなく、その上、該皮膜は塗布することにより簡単に形成できるので経済的であり、さらに断熱層本体と被覆クロス間にステンレス箔を設けると、ピンその他の突出物が突き刺さらないように施工することができ、一層丈夫な保温布団を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例を示し、(A)は断面図、(B)は一部の拡大断面図、(C)は金属箔片の拡大説明図である。
【図2】本発明の他の実施例を示し、(A)は断面図、(B)は一部の拡大断面図である。
【図3】本発明の保温布団に油を滴下した際の状態を示す斜視図である。
【図4】比較例の保温布団に油を滴下した際の状態を示し、(A)は表面側、(B)は裏面側の各斜視図である。
【符号の説明】
1 保温布団
2 断熱層本体
3 被覆クロス
4 金属箔片
5 保護皮膜層
6 ステンレス箔

【特許請求の範囲】
【請求項1】 繊維質断熱材で形成した断熱層本体の周囲を耐熱性を有する被覆クロスで覆い該被覆クロスの表面に耐食性を有する極薄、微小な金属箔片を耐熱性を有する樹脂バインダ−中に混合した塗料を塗布し上記金属箔片が多層に積層された保護皮膜層を形成した保温布団。
【請求項2】 上記金属箔片はモリブデンを含んだステンレススチ−ル箔片であり、上記樹脂バインダ−はシリコン樹脂である請求項1に記載の保温布団。
【請求項3】 上記保護皮膜層の厚さは80〜150μmである請求項1または2に記載の保温布団。
【請求項4】 上記断熱層本体と被覆クロスの間にはステンレス箔が設けられている請求項1〜3のいずれかに記載の保温布団。
【請求項5】 上記ステンレス箔の厚さは10〜20μmである請求項4に記載の保温布団。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2000−104890(P2000−104890A)
【公開日】平成12年4月11日(2000.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平10−287365
【出願日】平成10年9月25日(1998.9.25)
【出願人】(393011393)株式会社阪和 (3)
【Fターム(参考)】