説明

保管用閉鎖容器

敏感な材料を保管するための閉鎖容器を開示する。敏感な材料は、密閉され且つパージにより内部の雰囲気を不活性なパージガスと入れ換えて、若干加圧した密閉コンテナとした特殊なコンテナ(1)内にある。蓋又はドア(5)を蝶番(12、13)を介してコンテナに蝶着することにより、少なくともドア又は蓋(1)が閉鎖位置にある場合、蝶番の各部品は、ドア又は蓋の面に直角の方向に相対的に並進移動することができ、密閉度がかなり改善される。本発明は、パージガスを良好に供給して混合するための、コンテナ内でのパージガスの供給及びダクト供給に用いる方法にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、敏感な材料を保管するための装置及び方法に関する。特に、本願は、敏感な材料を複数のコンテナに保管するシステムに関し、各コンテナは、コンテナ外部(通常、大気)とコンテナの中身との間での物質の交換を防止する密閉された閉鎖容器を構成し得る。コンテナの中身は、敏感な材料それ自体とその材料に適した雰囲気である。コンテナは、例えば、敏感な材料それ自体を支持するための手段も含み得る。
【背景技術】
【0002】
試料材料の輸送及び保管にあたって、製薬及びバイオテクノロジー産業では特殊な保管問題が生じる。特に、バイオテクノロジー関連の材料は不安定になり易く、慎重な取扱いが必要とされる。試料が塵埃で汚染されないように気をつけなくてはならないだけでなく、熱源、光又は大気中の酸素や水分といった反応性物質への曝露の悪影響から保護することが望ましい。
【0003】
懸念が大きい特定分野の1つが、製薬研究において使用される小分子化合物の保存である。これらの小分子化合物は極めて敏感なことが多く、通常、ジメチルスルホキシドに化合物を溶解させ、溶液として取扱い及び保管を行う。ジメチルスルホキシドは極めて広範囲にわたる有機化合物に使用できる極めて強力な溶媒であり、これらの有機化合物と化学的に反応しない。その一方で、ジメチルスルホキシドそれ自体の親水性が高いため、大気中の水分を吸収する傾向があり、この水分が、ジメチルスルホキシド溶液中の化合物と反応してしまうことがある。従って、敏感な材料が既に溶液状であっても、溶液それ自体を敏感な材料として分類できることから、このような材料を、管理された反応が起きない環境で保存及び保管することが極めて望ましい。
【0004】
国際公開第2006/095121 A1号パンフレット(WO2006/095121 A1)は、敏感な材料を保管するための装置及び方法を開示している。この文献は、敏感な材料を保管するための複数の可搬式コンテナから成るシステムについて記載しており、各コンテナは、複数の吸気口と、複数の排気口と、コンテナ内部を外部から密閉するための手段とを有する。これらのコンテナにガスをパージすることにより、敏感な材料にとって理想的な保管条件をもたらす調整保管環境が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2006/095121 A1号パンフレット
【発明の概要】
【0006】
本発明は、コンテナの設計及び構成の改善に関連する。
【0007】
コンテナの細部の構成は大きく異なり得るが、基本的な要件は、コンテナ内部を外部に対して密閉可能であり且つコンテナが複数の吸気口及び排気口を有することである。実際の工業利用の多くではコンテナを幾つもの標準サイズで生産するほうが都合よく、ガス供給装置は、ガス供給時間、過剰圧力等のパラメータを対象となるコンテナのタイプとサイズに応じて調節するための単純な制御装置を含み得る。
【0008】
コンテナの好ましい構成様式は、蓋を備えた上部開放型のボックス又は、より容量の大きいコンテナの場合、片側にドアを備えたボックスである。ボックスの壁面及び蓋又はドアの材料は、ガス不透過性の材料、例えば板金で形成しなくてはならない。
【0009】
吸気口及び排気口は、ボックスの壁面に通常の密閉方法で取り付けることができる。好ましくは、吸気口、排気口は共に単純な逆止め弁(one−way valve)又は逆流防止弁(check−valve)である。コンテナ内の圧力が既定のレベルを超えた時にだけ開放される排気弁を排気口に取り付けることにより、コンテナ内部から雰囲気をパージし、次にコンテナに加圧する作業が極めて簡単になる。
【0010】
好ましくは、吸気口及び排気口は、圧力管路又は排気管路といった管の端部に取り付けられた適切な金具で素早く締める/素早く開けることで協働するように構成された標準的な空気圧口である。
【0011】
要望に応じて、コンテナの内部に、想定される保管作業の助けとなる便利な金具を取り付けてもよい。例えば、内部を多数のコンパートメント(例えば、3x2列の6つのコンパートメント)に分割し、各コンパートメントに標準ユニットを挿入してもよい。例えば、生物試料を取り扱う場合は、標準サイズのいわゆるプレート又は試験管ラックが広く使用されており、保管コンテナを、このようなラックを並べたものを簡単に収容可能なサイズと形状にしてもよい。
【0012】
上部開放型のボックス又は側方開口部の縁を蓋又はドアでそれぞれ密閉するために密閉手段を設ける必要があるのは明らかである。この密閉手段は、例えば、概してトレイ形状である蓋又はドアの傾斜したコーナ部内側を取り巻く弾性ゴム又はゴム様材料のシールであり、蓋又はドアがボックスにしっかりと押し付けられるように手段をボックス上に設置することでその内部を大気に対して密閉してもよい。或いは、ボックスの壁面の縁に、断面形状がU型であり且つ適切な弾性シーリング材から成る環状シールストリップを取り付けてもよい。或いは、別個のシールストリップ又はシーリング材を密閉面の間に必要とせずとも、これらの密閉面を固締することで密閉できるようにボックスと蓋又はドアの密閉面を精密に加工してもよい。
【0013】
コンテナの内部と外部との間でガス又はその他の汚染物質の交換を行わせることなくコンテナ内部のパージ環境を常に維持するためには、ボックスとドア又は蓋との間に気密シールが必要である。更に、コンテナをパージに続く正圧で密閉することがあるが、この正圧も漏れることなく密閉により維持しなくてはならない。
【0014】
この気密密閉は、コンテナボックスの縁と蓋又はドアとの間の適切に設計された密閉面を均等に圧迫することにより達成可能である。圧縮可能な密閉膜(シリコーンシール又は別の適切な圧縮可能なシーリング材等)が密閉に役立つ。
【0015】
複数のラッチをボックス開口部の周囲に沿って用いることで蓋又はドアをボックス構造体に固締するのが、シーリング材を圧迫する又はボックス及び蓋/ドアの面を緊密に押し付け合うことによる単純且つ簡単な気密の確保方法である。このようなラッチは、蓋又はドア上のブラケットに係合するスイング式の押さえ(bail)を備えた枢着された作動タブ(actuation tub)を有しており、タブをボックスの外壁側に倒すと、蓋又はドアがボックス構造体に引き寄せられる。このようなラッチは上記の明細書中に記載されており、図ではクリップ5として示されている。この明細書中に記載されるように、一旦密閉ラッチを解除すると、蓋は単純にボックスから物理的に外れてしまう。
【0016】
ボックス内に保管された敏感な材料にアクセスするためには開放又は取り外す必要のある蓋又はドアを、取り出しを目的として単純に着脱式としてもいいが、好ましくは、蓋又はドアをボックス構造体に蝶着する。これによりユーザは、蓋又はドアをボックスから物理的に取り外す必要なくコンテナ内の敏感な材料にアクセスすることが可能になる。これによって、蓋又はドアは1つ以上の蝶番でもって単純に開放位置へとスイングし、内部にアクセスした後はスイングして閉鎖位置に戻ることができる。
【0017】
しかしながら、蓋又はドアを蝶着すると使用し易さは改善されるものの、均等で効果的な気密密閉を達成するにあたっては問題が起こる可能性がある。特に、慣用の蝶番の存在は、蝶番を取り付けた蓋又はドアの、その面に直角の方向への運動を制限してしまう。
【0018】
ボックスとドア又は蓋との間を十分に密閉する際の問題は、理論的には、任意の密閉膜と組み合わせて、蝶番を極めて精密に(結果的に多大な費用をかけて)加工することにより対処可能であり、この結果、ドア又は蓋をスイングさせて閉じるとボックスがきっちりと均等に閉じられることから、ボックスと蓋又はドアとの間が、全周にわたって十分且つ好ましくは均等に密閉される。
【0019】
本発明により、この問題は、少なくとも蓋又はドアを閉じた際に蝶番の2つの部品が、蝶番の軸を中心として相対的に回転可能であることに加えて、例えば、ドア又は蓋の周囲を取り巻くシーリングストリップの圧迫により緊密に密閉するのに必要な程度だけドア又は蓋の面に直角の方向にも移動可能とすることにより解決される。
【0020】
従って、本発明はシステムを提供するものであり、このシステムにおいてボックスには1つ、好ましくは複数の蝶番を介してドア又は蓋が取り付けられており、蝶番の部品は、一方の回転ともう一方の並進という2種類の運動自由度をもたらすように構成されており、蝶番の2つの部品は相対的に並進移動することができ、複数のラッチを作動させると、このような並進運動がもたらされる。従って、並進運動により蓋又はドアをコンテナボックスの戸口に近づけたり離したりすることができ、回転運動により蓋又はドアをスイング開閉することができる。
【0021】
ラッチは、ドアの全周の一部に沿った便利な位置に取り付けられており、コンテナボックスの戸口とドアそれ自体との間を固締する力をもたらす。
【0022】
好ましい蝶番機構は、蝶番ピンが一方の蝶番部品の円筒状のチャネルに緊密に嵌合しており且つもう一方の蝶番部品の幅広のチャネルとはゆるく嵌合しているものである。もう一方の蝶番部品のブレード組と噛み合わせが可能なブレード組の1つに形成された円筒状の穴とは異なり、もう一方の蝶番部品の穴はスロット状に構成される。このような「スロット付き」蝶番をボックス周囲に沿って配置したラッチと共に用いることにより、蓋又はドアを均等に固締して閉鎖可能なコンテナボックス・蓋又はドア・ラッチ・蝶番の組み合わせが得られる。スロット付き蝶番の部品は、ラッチを締める際に相対的に移動自在である。
【0023】
本発明は、別の態様において、コンテナ内部を十分且つ効率的にパージする問題に対処するものである。パージガスでコンテナをパージする際、供給されるパージガスがコンテナ内に十分に行き渡るようにすることが重要である。これはコンテナが十分且つ効率的にパージされるように良好にガスを混合するためである。
【0024】
十分且つ効率的なパージには、パージガスを、コンテナの吸気口及び/又は排気口に相対してのコンテナの遠位面や、パージガスがパージが必要なコンテナ内のガスとうまく混ざらないコンテナ内の閉ざされた空間に送ることを含む。閉鎖容器内にパージガスをダクト供給するためのわかりやすい供給方法は、パージガス流入口に連結させた供給管をコンテナ内に設置することである。しかしながら、この供給管は、製造と取り付けが必要とされる追加の部品であり、コンテナの複雑度、コスト、場合によってはサイズが上昇してしまう。
【0025】
上述したように、コンテナの内部には、コンテナ内で敏感な材料を保持するための適切な支持コンパートメントを取り付けてもよい。
【0026】
本発明においては、別の態様において、支持コンパートメントを適切に設計してコンテナ内のパージガスをコンテナの隅々にまで指向させることにより、コンテナ内部全体のガス混合を良好にする。支持コンパートメントそれ自体が、パージガスを指向させるためのダクト系として機能する。
【0027】
これは様々な方法で達成することができる。例えば、支持コンパートメントを、敏感な材料に適した支持構造体としてだけでなく、その周囲のパージガス流が十分に分散される支持構造体となるように板金を材料として構成、成形、加工及び接合する。
【0028】
シート材料の成形には、シート材料を曲げて複雑な形状を作り上げることが含まれ得る。成形したシート材料の接合は、シートからある形状に材料を切り取り、成形したシートに形成した切り抜き部を利用して成型したシートを互いに嵌め込んで接合及び係止することにより達成することができる。加えて、成形したシートの接合は、溶接、接着又はリベット、スクリューといった機械的な固定手段を適用することにより達成してもよい。
【0029】
敏感な材料のためのものであり且つ一旦コンテナ内に設置したら、多くの場合はコンテナの壁面と組み合わさることでパージガスを適切に指向するためのダクトとなる複数の支持コンパートメントを特徴とする構造体を作製可能な設計技法を採用すべきである。例えば、支持コンパートメントの構造体を、
・水平に位置決めされた成形されたシート材料と、
・垂直に位置決めされた成形されたシート材料とで設計することができ、
・シートをスロットに差し込むことにより、複数の支持コンパートメントのマトリックス構造体を形成し、
・支持コンパートメントのマトリックス構造体の余分な材料は、支持コンパートメントのマトリックス構造体の外部から突出して支持コンパートメントのマトリックス構造体の外部にチャネルを形成するように設計され、
・水平及び垂直に成形されたシート材料の縁の余分な材料を曲げて追加のチャネルを形成し、
・支持コンパートメントのマトリックス構造体の外部を取り巻くチャネルは、コンテナボックスの内面に突き当たると閉鎖ダクトを形成し、
・パージガス流入口及び流出口に直接、直列に位置決めされると、パージガスをコンテナ内部付近に指向及びダクト供給することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
添付の図面は、本発明の1つの実践方法を図示している。
【図1】本発明のコンテナの概略斜視図である。
【図2】ドアの蝶着面を示す、コンテナの一部の側面図である。
【図3】蝶番の1つの拡大図である。
【図4】蝶番の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
図示されるように、コンテナは、一端が開口している鋼板製のボックス1から成る。ボックス内部には、多数の板金トレイ2を支持するための支持構造体があり、各トレイには、安定した保護雰囲気中で保存する必要がある試料材料用のラック3を積載することが可能である。ボックス1の側面にはドア5が蝶着されており、ドアはその内周を取り囲む内部シーリングストリップ6を有する。ボックス1の側面にはラッチ7が取り付けられており、ドア5をボックス1の開放端に緊密に固締することができる。
【0032】
ボックスの上部壁面には、パージガス用に吸気口及び排気口8、9が設けられている。
【0033】
図2に示されるように、ドア5は2つの蝶番10、11で取り付けられている。各蝶番は、ドアの縁に固定された部品12と、ボックス1の側面に固定された部品13と、ポスト12及び13の噛み合わされたブレード内の開口部を通る蝶番ピン20とから成る。ドア5には2つのブラケット15も取り付けられており、この上で閉鎖ラッチ7の一部を構成する押さえ16がスイングする。作動タブ17をボックス1の側面側に倒すと押さえは図3の矢印が示す方向に引っ張られ、シールストリップ6は、ボックス1の縁にしっかりと均等に押し付けられる。
【0034】
図4は、蝶番ピン20がどのように配置されているかを図示している。ピンは、蝶番の部品13の一部を構成しているブレードの円形の穴を貫通しており、穴と緊密に嵌合しているため蝶番から抜け落ちることはない。しかしながら、部品12の一部を構成しているブレードには、円形の穴の代わりに、図4において点線21で示したスロットがある。このスロットは、ドア5の面に直角の方向に延びている。この配置により、矢印24によって示されるように、ピン20を中心として回転するドアのスイング開閉が可能になる。しかしながら、ドアが閉鎖位置にある場合、ラッチ7を用いてドアをボックス1の縁に緊密に引き寄せたりボックス1の縁から解放することができ、蝶番の部品は矢印25の方向へと相対的に並進移動する。
【0035】
図のコンテナのドアは1つだが、要望に応じて1つ以上のドアを備えたコンテナも想定可能であり、少なくとも1つのドアが、図4に図示の構成の蝶番を介してボックスに取り付けられる。この蝶番構成は新規であると考えられることから、本発明の更なる特徴となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのドア又は蓋が取り付けられた密閉可能なボックスから成る保管用閉鎖容器であって、少なくとも1つのこのようなドア又は蓋は1つ以上の蝶番を介して取り付けられており、前記蝶番の構成部品は、一方の回転ともう一方の並進という2種類の運動自由度をもたらすように構成されており、前記蝶番の2つの部品は相対的に並進移動することができ、前記ボックス及びドア又は蓋には、作動させると前記蝶番部品のこのような相対的な並進運動をもたらす複数のラッチが取り付けられている保管用閉鎖容器。
【請求項2】
前記ボックスの開放面の周囲に沿って取り付けられた複数のラッチを含む、請求項1に記載の保管用閉鎖容器。
【請求項3】
前記蝶番が、前記ドア又は蓋に取り付けられたものと前記ボックスに取り付けられたものの2つの部品を有し、前記2つの部品が、一方の蝶番部品の円筒状のチャネルに緊密に嵌合しており且つもう一方の蝶番部品の幅広のチャネルとはゆるく嵌合している蝶番ピンを介して連結されている、請求項1又は2に記載の保管用閉鎖容器。
【請求項4】
前記蝶番部品のそれぞれが、幅と実質的に等しい間隔をおいて並ぶ、噛み合わせることにより前記蝶番が組み立てられるところの平行ブレード組を有し、各ブレードは、前記蝶番ピンを通す円筒形の穴又はスロットを有する、請求項3に記載の保管用閉鎖容器。
【請求項5】
前記蓋若しくはドアを押し付ける前記ボックスの縁及び/又は前記蓋若しくはドアを閉めた場合に前記ボックスに突き当たる前記蓋若しくはドアの部品に取り付けられた弾性若しくは圧縮可能なシールストリップを含む、先行の請求項のいずれか一項に記載の保管用閉鎖容器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2010−524782(P2010−524782A)
【公表日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−503577(P2010−503577)
【出願日】平成20年4月16日(2008.4.16)
【国際出願番号】PCT/GB2008/001328
【国際公開番号】WO2008/125859
【国際公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【出願人】(507256485)ロイラン・ディベロップメンツ・リミテッド (2)
【氏名又は名称原語表記】ROYLAN DEVELOPMENTS LIMITED
【Fターム(参考)】