説明

保護継電システム

【課題】 保護対象の送電線の両端子に配設され機器情報を伝送可能な主保護継電装置の主保護機能が喪失されている場合に、多段階限時差距離継電方式の後備保護継電装置により前記送電線を保護する保護継電システムを提供する。
【解決手段】 後備保護継電装置2Aは、送電線1Lの対向端子方向に発生した事故が検出されてから所定時限経過後に、自端子の遮断器CBA1に遮断指令を出力する。また、対向端子の主保護継電装置1Bから自端子の主保護継電装置1Aに送信された機器情報のなかから、対向端子の遮断器CBB1の遮断情報を遮断情報取得部24で取得した場合は、所定時限を削減して、自端子の遮断器CBA1に遮断指令を出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、保護対象の送電線の両端子に配設され機器情報を伝送可能な主保護継電装置の主保護機能が喪失されている場合に、多段階限時差距離継電方式の後備保護継電装置により送電線を保護する保護継電システムに関する。
【背景技術】
【0002】
送電線は、自然災害や設備劣化などにより生じる事故の発生時に、事故区間を除去して、停電範囲が最小となるように保護継電システムが設置されている。この保護継電装置は、主保護継電装置と、主保護継電装置の不動作時のための後備保護継電装置とによって構成されている。
【0003】
主保護継電装置としては、例えば、系統に発生した事故を高感度で検出し、事故区間を正確に算出することが可能なPCM電流差動保護継電装置(PCMリレー)などが知られている。
【0004】
また、後備保護継電装置としては、例えば、多段階限時差距離継電方式で構成される距離継電装置(DZリレー)などが知られており、3段階の距離リレーが適用されている。距離継電器第1段(DZ1段保護範囲)は、自端から保護区間の例えば0〜約80%の地点までの区間で、瞬時保護動作を行い、発生した事故による影響が拡大することを防いでいる。また、距離継電器第2段(DZ2段保護範囲)は、保護区間の約80%〜120%までの区間で、距離継電器第3段(DZ3段保護範囲)は、保護区間の約120%〜300%までの区間で、後備保護動作を行う。
【0005】
主保護継電装置が1系列しか設置されていない場合は、主保護継電装置が不良となると、該保護継電装置が配設されている送電線を運用停止とするか、後備保護継電装置のみで送電線を保護しなくてはならなくなってしまう。
【0006】
図6ないし図8は、従来の保護継電システムを示している。図6に示す送電系統には、電気所(図示略)が設置されている自端(A端)および対向端(B端)の間に、2回線の互いに隣接する送電線101L、102Lが敷設されている。また、自端側には、送電電圧を測定用に降圧する計器用変圧器(図示略)が備えられている。さらに、自端側の送電線101L、102Lには、送電電流を測定用に小さくする変流器CTA101、CTA102と、事故などが発生したとき、この事故などを検出する保護継電装置300A、600Aと、保護継電装置300A、600Aの指示により、事故の影響が拡大しないように送電線101L、102Lを遮断する遮断器CBA101、CBA102とが備えられている。ここで、保護継電装置300Aは、主保護継電装置100Aおよび後備保護継電装置200Aによって構成され、保護継電装置600Aは、主保護継電装置400Aおよび後備保護継電装置500Aによって構成されている。
【0007】
同様に、対向端には、計器用変圧器(図示略)と、変流器CTB101、CTB102と、保護継電装置300B、600Bと、遮断器CBB101、CBB102とが備えられている。ここで、自端と対向端とは同様に構成されるとともに、送電線101Lと送電線102Lとは同様に構成されているので、以下では主として自端側で送電線101Lを保護する保護継電装置300Aについて説明する。
【0008】
この保護継電システムの後備保護継電装置200Aには、図7に示すように、リレー要素P11〜P14と動作時限タイマST12、ST13とにもとづいて、判定を行い、自区間送電線の短絡保護を行うための基本回路が備えられている。
【0009】
第1のリレー要素P11は、事故検出リレー(FDリレー)から、送電線101Lに事故が発生した場合に、事故電流が検出されると論理値「1」が出力され、第2のリレー要素P12は、距離継電器第1段を構成するリアクタンス継電器(リアクタンス形短絡距離リレー)であり、送電線101Lの保護区間0〜約80%で事故が発生して距離継電器第1段が動作した場合に、論理値「1」が出力される。また、第3のリレー要素P13は、距離継電器第3段を構成するモー継電器(モー形短絡距離リレー)であり、送電線101Lの保護区間で対向端子方向の事故が発生して距離継電器第3段が動作した場合に、論理値「1」が出力され、第4のリレー要素P14は、距離継電器第2段を構成するリアクタンス継電器(リアクタンス形短絡距離リレー)であり、送電線101Lの保護区間約80〜120%で事故が発生して距離継電器第2段が動作した場合に、論理値「1」が出力される。
【0010】
このように、特に、相手母線付近(対向端付近)のDZ2段保護範囲での事故は、動作時限タイマST12によって、所定時限がカウントされ、遅延してアンドゲートE13に加えられるようになっている。このため、図8に示すように、自端側の遮断器CBA1は、(Ry判定時間+動作時限タイマST12のカウント時限+CBA1遮断時間)で遮断つまり切(開路)になる。
【0011】
つまり、対向端付近での事故の場合は、DZ2段保護範囲となるため、動作時限タイマST12によって所定時限がカウントされるので、事故除去時間が長期化し、系統に与える影響が大きくなる恐れがあった。そこで、動作時限タイマST12によってカウントされる時限を短縮してしまうと、相手端母線事故や次区間での事故で本来動作すべきリレーよりも先に動作してしまうおそれがあり、このような場合には停電範囲を最小と出来ずに広範囲にわたって停電を生じる恐れがあった。
【0012】
そこで、保護継電装置が1系列しかない場合、主保護装置のロック時に当該送電線設備を停止させることなく、しかも送電線設備に事故が発生しても、後備保護装置により停電範囲を拡大させることなく事故が発生した送電線設備のみを短時間に分離する保護継電装置に関する技術が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2007−274833号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、特許文献1に記載の技術は、主保護継電装置は自端子および対向端子の電流情報を互いに伝送し、差電流演算した結果、動作領域であった場合には、後備保護継電装置にその情報を伝送する必要があった。また、主保護継電装置の事故判定処理部(いわゆるリレー演算部)が動作していない場合には、主保護継電装置動作条件を後備保護継電装置では正常に受信できないものであった。
【0015】
そこで、この発明の目的は、前記の課題を解決し、保護対象の送電線の両端子に配設され機器情報を伝送可能な主保護継電装置の主保護機能が喪失されている場合に、新たな情報を伝送することなく、多段階限時差距離継電方式の後備保護継電装置により前記送電線を保護する保護継電システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
前記の課題を解決するために、請求項1の発明は、保護対象の送電線の両端子に配設され機器情報を伝送可能な主保護継電装置の主保護機能が喪失されている場合に、多段階限時差距離継電方式の後備保護継電装置により前記送電線を保護する保護継電システムにおいて、前記後備保護継電装置は、送電線の対向端子方向に発生した事故を検出する検出手段と、前記検出手段によって事故が検出されてから所定時限経過後に、自端子の遮断器に遮断指令を出力する第1の遮断指令手段と、対向端子の主保護継電装置から自端子の主保護継電装置に送信された機器情報のなかから、対向端子の遮断器の遮断情報を取得する遮断情報取得手段と、前記遮断情報取得手段で前記遮断情報を取得した場合に、前記所定時限を削減して、自端子の遮断器に遮断指令を出力する第2の遮断指令手段と、を備えることを特徴とする保護継電システムである。
【0017】
請求項1の発明では、対向端子の主保護継電装置から自端子の主保護継電装置に送信された機器情報のなかから、対向端子の遮断器の遮断情報が取得された場合に、所定時限を削減して、自端子の遮断器に遮断指令が出力される。
【発明の効果】
【0018】
請求項1の発明によれば、主保護継電装置の主保護機能が喪失されている場合であっても、後備保護継電装置は、遮断情報取得手段で対向端子の遮断器の遮断情報を取得すると、第2の遮断指令手段によって、所定時限を削減して、自端子の遮断器に遮断指令を出力することができるので、自端子の遮断器を高速で遮断することができる。
【0019】
これにより、自端子の遮断器の遮断時間が短縮され、事故電流が設備に流れる時間を短縮できるので、事故電流が流れたことに起因する設備の故障などの悪影響を低減させることができる。また、事故電流が系統に流れる時間を削減できるので、系統に生じる瞬低(瞬時電圧低下)の発生時間を短縮したりできるので、電力の安定供給を継続することが可能となる。
【0020】
また、主保護継電装置の不使用や不良などによって主保護機能が喪失されている場合であっても、後備保護継電装置によって自端子の遮断器を高速遮断することができるので、送電線の保護信頼度を高度に保つことができる。
【0021】
さらにまた、従来より対向端子の主保護継電装置から自端子の主保護継電装置に送信されている機器情報を、後備保護設備の遮断情報取得手段によって取得すればよいので、新たな情報を追加して伝送する必要がない。つまり伝送装置間の伝送フォーマットを変更する必要がないので、後備保護継電装置に遮断情報取得手段を追加し、演算回路を改修すればよいため、既存の保護継電システムへの適用が容易である。また、伝送不良の発生時以外は主保護継電装置の不動作時などであっても、このような機器情報を伝送可能であるので、自端子の遮断器を高速で遮断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】この発明の実施の形態1に係る図1の保護継電システムが配設された送電系統を説明する構成図である。
【図2】図1の保護継電システムにおける後備保護継電装置の構成を示す構成図である。
【図3】図1の保護継電システムにおける後備保護継電装置の構成を示す構成図である。
【図4】図1の保護継電システムによる送電系統の遮断器の遮断時間を示す説明図である。
【図5】図1の保護継電システムにおける伝送経路を示す概略構成図である。
【図6】従来の保護継電システムが配設された送電系統を説明する構成図である。
【図7】図6の保護継電システムにおける後備保護継電装置の構成を示す構成図である。
【図8】図6の保護継電システムによる送電系統の遮断器の遮断時間を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
つぎに、この発明の実施の形態について図面を用いて詳しく説明する。
【0024】
図1ないし図5は、この発明の実施の形態を示している。図1は、この発明の保護継電システムを適用した送電系統を示している。送電系統には、電気所(図示略)が設置されている自端(A端)および対向端(B端)の間に、2回線の互いに隣接する送電線1L、2Lが敷設されている。また、自端側には、送電電圧を測定用に降圧する計器用変圧器(図示略)が備えられている。さらに、自端側の送電線1L、2Lには、送電電流を測定用に小さくする変流器CTA1、CTA2と、事故などが発生したとき、この事故などを検出する保護継電装置3A、6Aと、保護継電装置3A、6Aの指示により、事故の影響が拡大しないように送電線1L、2Lを遮断する遮断器CBA1、CBA2とが備えられている。ここで、保護継電装置3Aは、主保護継電装置1Aおよび後備保護継電装置2Aによって構成され、保護継電装置6Aは、主保護継電装置4Aおよび後備保護継電装置5Aによって構成されている。
【0025】
同様に、対向端には、計器用変圧器(図示略)と、変流器CTB1、CTB2と、保護継電装置3B、6Bと、遮断器CBB1、CBB2とが備えられている。
【0026】
この実施の形態では、自端側において、送電線1Lを保護する保護継電システムが、計器用変圧器と変流器CTA1と保護継電装置3Aと遮断器CBA1とで構成され、送電線2Lを保護する保護継電システムが、計器用変圧器と変流器CTA2と保護継電装置6Aと遮断器CBA2とで構成されている。同様に、対向端側において、送電線1Lを保護する保護継電システムが、計器用変圧器と変流器CTB1と保護継電装置3Bと遮断器CBB1とで構成され、送電線2Lを保護する保護継電システムが、計器用変圧器と変流器CTB2と保護継電装置6Bと遮断器CBB2とで構成されている。
【0027】
自端側の遮断器CBA1、CBA2は、後述するように保護継電装置3A、6Aからの遮断信号により、それぞれ切(開路)になる。これにより、遮断器CBA1、CBA2は、自端側で送電線1L、2Lをそれぞれ遮断する。同様に、対向端側の遮断器CBB1、CBB2は保護継電装置3B、6Bからの遮断信号により、対向端で送電線1L、2Lをそれぞれ遮断する。
【0028】
そして、保護継電システムは、保護対象の送電線1L、2Lの自端子および他端子に配設され機器情報を伝送可能な主保護継電装置1A、4A、1B、4Bの主保護機能が喪失されている場合に、多段階限時差距離継電方式の後備保護継電装置2A、5A、2B、5Bにより送電線1L、2Lを保護するものである。ここで、自端と対向端とは同様に構成されるとともに、送電線1Lと送電線2Lとは同様に構成されているので、以下では主として自端側で送電線1Lを保護する保護継電装置3Aについて説明し、残りの保護継電装置6A、3B、6Bの説明を省略する。
【0029】
主保護継電装置1Aは、送電線1Lを保護区間とし、主保護動作を行う。主保護継電装置1Aは、各端子の電流瞬時値を一定周期でサンプリングし、得られたディジタルデータをPCM伝送により、相手端に伝送する。受信データと自端データとにより、差動演算を実施し、故障が内部か外部かを判定して遮断信号を出力し、遮断器CBA1を遮断するものである。
【0030】
後備保護継電装置2Aは、送電線1Lを保護区間とし、自端を基にした保護区間の0%〜約80%の区間で発生した短絡事故などを検出する。そして、後備保護継電装置2Aは、自端側で発生した事故を検出すると、対応する遮断器CBA1に対して、切(開路)の指示である遮断信号を直ちに送る。これにより、保護区間の0%〜約80%の区間つまり自端側に事故点がある場合には、発生した事故による影響が拡大することを防いでいる。ここで、後備保護とは、(イ)送電線1Lの自端側の主保護継電装置1Aが不動作、不使用時における自区間送電線の保護をする動作、(ロ)保護対象外である次区間送電線の保護継電装置であって、対向端側に設置されている保護継電装置が不動作であるとき、および対向端側の次区間送電線の遮断器が不動作であるとき、次区間送電線のバックアップ保護をする動作、のことである。
【0031】
この後備保護継電装置2Aは、図2に示すように、入力変換器21と、アナログ入力処理部22と、DI入力回路23と、遮断情報取得部24と、演算部25と、DO出力部(出力部)26とを備えている。入力変換器21は、計器用変圧器からの計測電圧と変流器CTA1からの計測電流とを受け取り、アナログ入力処理部22でこれらのA/D変換を行い演算部25に出力する。また、DI入力回路23は、接点情報などを受け取り、演算部25に出力する。
【0032】
遮断情報取得部24は、対向端子の主保護継電装置1Bから自端子の主保護継電装置1Aに送信された機器情報のなかから、対向端子の遮断器CBB1の遮断情報を取得するものである。具体的には、遮断情報取得部24は、後述する伝送装置7Aに伝送された伝送情報の伝送フォーマットにもとづいて、機器情報から対向端子の遮断器CBB1の「切」情報(遮断情報)を取得する。そして、遮断情報取得部24は、対向端子の遮断器CBB1の「切」情報(遮断情報)を取得した場合に、演算部25に論理値「1」を出力する。そして、演算部25は、自端側で発生した事故を検出し、動作条件が成立したと判断すると、遮断信号を出力部26に出力する。出力部26は、演算部25からの遮断信号を受け取ると、信号レベルなどを調整した遮断信号を遮断器CBA1に出力する。
【0033】
また、後備保護継電装置2Aは、図3に示すように、距離継電器第1段を構成する第1のリアクタンス継電器(第2のリレー要素)P2と、距離継電器第2段を構成する第2のリアクタンス継電器(第4のリレー要素)P4と、送電線1Lの対向端子方向に発生した事故を検出する距離継電器第3段を構成するモー継電器(検出手段、第3のリレー要素)P3とにもとづいて、動作条件を判定して、遮断器CBA1に対して遮断信号を出力する演算部25とを有している。
【0034】
演算部25は、リレー要素P1〜P5にもとづいて、検出手段によって事故が検出されてから所定時限経過後に、自端子の遮断器CBA1にトリップ指令(遮断指令)を出力する第1の遮断指令手段としての動作時限タイマST2、ST3と、所定の動作条件を判定するアンドゲートE1〜E4とを備えている。つまり、演算部25は、リレー要素P1〜P5と動作時限タイマST2、ST3とにもとづいて、動作条件の成否の判定を行い、自区間送電線の短絡保護を行うための基本回路である。ここで、リレー要素P5は、後述する伝送装置7A、7Bを介して後備保護継電装置2Aに入力される。
【0035】
第1のリレー要素P1は、事故検出リレー(FDリレー)であり、送電線1Lに事故が発生した場合に、事故電流が検出されると論理値「1」を出力する。この第1のリレー要素P1は、アンドゲートE4に加えられるようになっている。
【0036】
第2のリレー要素P2は、距離継電器第1段を構成するリアクタンス継電器(リアクタンス形短絡距離リレー)であり、送電線1Lの保護区間0〜約80%(DZ1段保護範囲)で事故が発生して距離継電器第1段が動作した場合に、論理値「1」を出力する。この第2のリレー要素P2は、アンドゲートE1に加えられるようになっている。
【0037】
第3のリレー要素P3は、距離継電器第3段を構成するモー継電器(モー形短絡距離リレー)であり、送電線1Lの保護区間(DZ3段保護範囲)で対向端子方向の事故が発生して距離継電器第3段が動作した場合に、論理値「1」を出力する。この第3のリレー要素P3は、アンドゲートE1、E3に加えられ、または、動作時限タイマST2、ST3によって時限協調が図られるようになっている。
【0038】
第4のリレー要素P4は、距離継電器第2段を構成するリアクタンス継電器(リアクタンス形短絡距離リレー)であり、送電線1Lの保護区間約80%〜120%(DZ2段保護範囲)で事故が発生して距離継電器第2段が動作した場合に、論理値「1」を出力する。この第4のリレー要素P4は、アンドゲートE2、E3に加えられるようになっている。
【0039】
第5のリレー要素P5は、遮断情報取得部24によって対向端の遮断器CBB1の「切」情報が取得された場合に、論理値「1」を出力する。この第5のリレー要素P5は、アンドゲートE3に加えられるようになっている。
【0040】
動作時限タイマST2は、第3のリレー要素P3の論理値「1」が入力されると、動作時限のカウントを開始する。そして、所定時間のカウントが完了すると、論理値「1」を出力し、アンドゲートE2に加えるようになっている。つまり、動作時限タイマST2は、誤動作防止のために、第3のリレー要素P3からの検出信号を、所定時間だけ遅延してアンドゲートE2に加える。
【0041】
動作時限タイマST3は、第3のリレー要素P3の論理値「1」が入力されると、動作時限のカウントを開始する。所定時間のカウントが完了すると、論理値「1」を出力し、アンドゲートE4に加えるようになっている。つまり、動作時限タイマST3は、誤動作防止のために、第3のリレー要素P3からの検出信号を、所定時間だけ遅延してアンドゲートE4に加える。この動作時限タイマST3は、動作時限タイマST2よりも長く設定されている。
【0042】
アンドゲートE1は、第2のリレー要素P2の論理値「1」が入力され、第3のリレー要素P3の論理値「1」が入力されると、動作条件が成立するため論理値「1」を出力し、アンドゲートE4に加えるようになっている。
【0043】
アンドゲートE2は、動作時限タイマST2の論理値「1」が入力され、第4のリレー要素P4の論理値「1」が入力されると、動作条件が成立するため論理値「1」を出力し、アンドゲートE4に加えるようになっている。
【0044】
アンドゲートE3は、第3のリレー要素P3の論理値「1」が入力され、第4のリレー要素P4の論理値「1」が入力され、第5のリレー要素P5の論理値「1」が入力されると、動作条件が成立するため論理値「1」を出力し、アンドゲートE4に加えるようになっている。つまり、アンドゲートE3は、遮断情報取得部24で対向端の遮断器CBB1の「切」情報を取得した場合に、動作時限タイマST2や動作時限タイマST3を経由しないことにより所定時限を削減して(時限協調をオフにして)、自端子の遮断器CBA1に出力部26を介して遮断指令を出力する第2の遮断指令手段である。これは、遮断情報取得部24で対向端の遮断器CBB1の「切」情報を取得した場合は、自回線の事故、または、次区間リレーとの協調不要、と判定することができるためである。
【0045】
アンドゲートE4は、第1のリレー要素P1の論理値「1」が入力され、(1)アンドゲートE1の論理値「1」が入力される、(2)動作時限タイマST3の論理値「1」が入力される、(3)アンドゲートE2の論理値「1」が入力される、(4)アンドゲートE3の論理値「1」が入力される、のいずれかを満たすと、動作条件が成立するため遮断器CBA1に対する遮断信号(トリップ指令)を出力する。ここで、(2)は動作時限タイマST3によって遅延して入力され、(3)は動作時限タイマST2によって遅延して入力される。また、(4)は、動作時限タイマST2や動作時限タイマST3の時限協調を待たずに、遮断器CBA1を高速遮断する。
【0046】
具体的には、図1に示すように、事故点が対向端から全送電線距離の約20%以内の地点、つまり自端から全送電線距離の約80%以上の地点である場合、自端側では、この地点がDZ2段保護範囲になる。つまり、アンドゲートE4は(4)の動作条件が成立するため、遮断器CBA1を高速遮断する。これにより、図4に示すように、自端側の遮断器CBA1は、((Ry判定時間+CBB1遮断時間)+(Ry判定時間+CBA1遮断時間))で遮断つまり切(開路)になる。また、対向端側では、瞬時保護動作をする1段動作範囲内であるので、アンドゲートE4は(1)の動作条件が成立するため、遮断器CBB1に遮断信号を出力する。これにより、図4に示すように、対向端側の遮断器CBB1は、(Ry判定時間+CBB1遮断時間)で遮断つまり切(開路)になる。この結果、事故回線でない回線(送電線2L)には事故電流が流れなくなる。
【0047】
伝送装置7A、7Bは、図5に示すように、自端と対向端との間で主保護継電装置1A、1Bの伝送情報を相互通信するものである。ここで、伝送情報とは、各相の電流データや、例えば遮断器や断路器の動作情報などの機器情報などのことである。機器情報は、遮断器や断路器などの各機器が動作した際に「入」「切」情報が伝送されるようになっている。伝送装置7Aは、自端の送電線1L側に配設され、送電線1L側に設けられた主保護継電装置1Aの伝送情報を、伝送ルート7により対向端に設置された伝送装置7Bに伝送すると共に、逆に伝送装置7Bから伝送されてきた伝送情報を保護継電装置3Aの主保護継電装置1Aに渡し、さらに主保護継電装置1Aを介して後備保護継電装置2Aに渡すように構成されている。
【0048】
このように、伝送された伝送情報の機器情報は、後備保護継電装置2Aの遮断情報取得部24によって、対向端の遮断器CBB1の「切」情報が取得されるようになっている。また、対向端に設置した伝送装置7Bも、自端の伝送装置7Aと同様に構成されている。
【0049】
次に、このような構成の保護継電システムによる送電線の保護方法について説明する。具体的には、図1に示すように送電線1Lの対向端付近で事故が発生した場合であって、主保護継電装置1A、1Bが不良である場合について説明する。
【0050】
対向端においては、図3に示すアンドゲートE4に、第1のリレー要素P1の論理値「1」が入力されるとともに、1段動作範囲(対向端から0〜約80%以内)の事故であるため、第2のリレー要素P2の論理値「1」が入力される。このため、アンドゲートE4の動作条件が成立し、論理値「1」を出力する。そして、出力回路26は、遮断器CBB1へトリップ指令を送信する。このように、対向端においては、図4に示すように、遮断器CBB1が高速(Ry判定時間+CBB1遮断時間)で遮断される。また、遮断器CBB1が遮断されると、伝送措置7B、7Aを介して保護継電装置3A、6Aに該遮断器CBB1の「切」情報が伝送される。
【0051】
一方、自端においては、この事故はDZ2段保護範囲(自端から約80%〜120%以内)で発生している。図3に示すアンドゲートE4に、第1のリレー要素P1の論理値「1」が入力される。また、DZ2段保護範囲の事故であるため、アンドゲートE2に第3のリレー要素P3の論理値「1」が入力されるとともに、第4のリレー要素P4の論理値「1」が入力される。そして、Ry判定時間+CBB1遮断時間の経過後、対向端の遮断器CBB1が遮断されると、主保護継電装置1Bから自端の主保護継電装置1Aに遮断器情報取得部24を介して伝送された対向端の遮断器CBB1の「切」情報にもとづいて、第5のリレー要素P5の論理値「1」がアンドゲートE3に入力される。そして、アンドゲートE3の動作条件が成立し、論理値「1」をアンドゲートE4に出力する。このため、アンドゲートE4の動作条件が成立し、論理値「1」(遮断信号)を出力する。そして、出力回路26は、遮断器CBA1へ遮断信号を送信する。このように、自端においては、図4に示すように、遮断器CBA1が、動作時限タイマST2およびST3のカウントを待たずに、高速((Ry判定時間+CBB1遮断時間)+(Ry判定時間+CBA1遮断時間))で遮断される。
【0052】
この結果、自端の後備保護継電装置2Aでは、リレー要素P1、P3〜P5が事故発生を表す検出信号を出力すると、動作時限タイマST3およびST2による時限協調時間を待たずに、遮断器CBA1に遮断信号が出力されることになる。
【0053】
以上のように、この保護継電システムによれば、主保護継電装置1A、1B、4A、4Bの主保護機能が喪失されている場合であっても、例えば、後備保護継電装置2Aは、遮断情報取得部24で対向端子の遮断器CBB1の遮断情報を取得すると、演算部25によって、所定時限を削減して、すなわち、動作時限タイマST2による時限協調を待たずに、直ちに自端子の遮断器CBA1に遮断指令を出力することができるので、自端子の遮断器CBA1を高速で遮断することができる。つまり、図4に示すように、従来であれば、DZ2段保護範囲での事故の場合、動作時限タイマST2による時限協調を待っていたものが、高速((Ry判定時間+CB遮断時間)+(Ry判定時間+CB遮断時間))で遮断されるので、事故電流が系統を流れることを短縮時間分だけ削減することができる。
【0054】
これにより、自端子の遮断器CBA1の遮断時間が短縮され、事故電流が設備に流れる時間を削減できるので、事故電流が流れたことに起因する設備の故障などの悪影響を低減させることができる。また、遮断器CBA1が遮断されることにより、事故電流が系統に流れる時間を削減できるので、系統に生じる瞬低(瞬時電圧低下)の発生時間を短縮したりできるので、電力の安定供給を継続することが可能となる。
【0055】
このように、主保護継電装置1A、1B、4A、4Bの不使用や不良などによって主保護機能が喪失されている場合であっても、自端子の遮断器CBA1、CBA2、CBB1、CBB2を高速遮断することができるので、送電線1L、2Lの保護信頼度を高度に保つことができる。
【0056】
さらにまた、従来より対向端子の主保護継電装置4A、4Bから自端子の主保護継電装置1A、1Bに送信されている機器情報を、遮断情報取得部24によって取得すればよいので、新たな情報を追加することなく、つまり伝送フォーマットを変更する必要がない。このため、後備保護継電装置2A、2B、5A、5Bに、遮断情報取得部24を追加し、演算部25の演算回路を改修すればよいため、既存の保護継電システムへの適用が容易である。また、伝送不良の発生時以外は主保護継電装置1A、1B、4A、4Bの不動作時などであっても、このような機器情報を伝送可能であるので、自端子の遮断器CBA1、CBA2、CBB1、CBB2を高速で遮断することができる。
【0057】
以上、この発明の実施の形態について説明したが、具体的な構成は、これらの実施の形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更などがあっても、この発明に含まれる。例えば、伝送装置7A、7Bは、送電線1Lの主保護継電装置1A、1Bの伝送情報を相互通信するものとして説明したが、後備保護継電装置2A、2Bにも伝送情報を通信するようにしてもよい。また、伝送装置を送電線1L、2Lにそれぞれ配設するなどして、伝送ルートを多重化することにより、保護継電システムは、より安定して運用が可能である。
【0058】
また、主保護継電装置が1系列しか設置されていない場合であっても、複数列が設置されている場合であっても、この発明の保護継電システムを適用することができる。例えば、主保護継電装置を2系列にした場合には、送電線をより確実、適切に保護することができる。また、後備保護継電装置が2系列ある場合であっても、それぞれに機器情報を伝送することができる。
【0059】
また、上記の実施の形態では電源端(自端)について説明したが、負荷端側(対向端)にこの機能を付加してもよい。
【符号の説明】
【0060】
1、4 主保護継電装置
2、5 後備保護継電装置
3、6 保護継電装置
7 伝送装置
P3 第3のリレー要素(モー継電器、検出手段)
ST2、ST3 動作時限タイマ(第1の遮断指令手段)
24 遮断情報取得部遮断情報取得手段)
E3 アンドゲート(第2の遮断指令手段)
1L、2L 送電線
A 自端子
B 他端子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
保護対象の送電線の両端子に配設され機器情報を伝送可能な主保護継電装置の主保護機能が喪失されている場合に、多段階限時差距離継電方式の後備保護継電装置により前記送電線を保護する保護継電システムにおいて、
前記後備保護継電装置は、
送電線の対向端子方向に発生した事故を検出する検出手段と、
前記検出手段によって事故が検出されてから所定時限経過後に、自端子の遮断器に遮断指令を出力する第1の遮断指令手段と、
対向端子の主保護継電装置から自端子の主保護継電装置に送信された機器情報のなかから、対向端子の遮断器の遮断情報を取得する遮断情報取得手段と、
前記遮断情報取得手段で前記遮断情報を取得した場合に、前記所定時限を削減して、自端子の遮断器に遮断指令を出力する第2の遮断指令手段と、
を備えることを特徴とする保護継電システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2013−62974(P2013−62974A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−200507(P2011−200507)
【出願日】平成23年9月14日(2011.9.14)
【出願人】(000211307)中国電力株式会社 (6,505)
【Fターム(参考)】