説明

信号伝送路の評価装置及び評価方法

【課題】高周波微弱信号システムでコモンモードノイズが信号電圧に変換される割合を評価し、ノイズによる信号への影響の受け易さを直接評価する。
【解決手段】原子力プラント内において、中性子束やガンマ線などの放射線検出器の信号を高周波信号として伝送する信号伝送路に外部から高周波のコモンモード電流を注入する電流注入装置7と、前記電流注入装置に予め定めた周波数の信号電流を供給する電流発生装置8と、前記信号伝送路に流れるコモンモード電流を計測する電流測定装置10と、前記コモンモード電流によって前記信号伝送路の芯線及び戻り線の間に生じる電圧を計測する信号電圧測定装置11と、前記電流測定装置と前記信号電圧測定装置とで測定された電流値及び電圧値が入力され、これらの測定値の比である変換比を算出する変換比算出装置12とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子力発電プラントに用いる高周波微弱信号計測システムに係り、特に、コネクタ等の接続部の施工状態をノイズによる計測への影響の観点から評価する、信号伝送路の評価装置及び評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、省エネルギー化に対するニーズが高まり、様々な分野で高効率インバータの導入が進んでいる。原子力発電プラントにおいても、運転効率向上のために、原子炉再循環系などの大容量ポンプにインバータ電源を用いる割合が高まりつつある。インバータは、スイッチングと平滑化により所望の振幅と周波数の電圧を生成して負荷に供給している。特に、最近のスイッチング素子は、効率向上のために非常に高速にスイッチングすることができ、結果として生じる電磁ノイズは振幅が大きく、MHzオーダーの高周波ノイズが発生する。このため、原子力発電プラント内の電磁ノイズは増大する傾向になっている。
【0003】
これに対し、原子力発電プラント内には、中性子計装システムや放射線モニタシステムなどの高周波微弱信号計測システムが設けられている。このうち、中性子計装システムは、原子炉に燃料が装荷されている全期間において、原子炉内の中性子束及び出力を計測及び監視する必要があり、特に停止時及び起動時に使用する中性子源領域モニタでは、微弱パルス信号を扱っているため高周波ノイズの影響を受けやすい。なお、最近では、中性子源領域モニタ及び中間領域モニタを一体化した起動領域中性子モニタが用いられている。
【0004】
このような核計装システムは、原子炉安全保護系に指示値を出力するため、万一、その中性子検出器からの信号にノイズが重畳されると誤警報や誤スクラムを引き起こす可能性がある。同様に、放射線モニタシステムにも原子炉安全保護系に信号を供給するものが存在する。そのため、これらの計測システムに対する高周波電磁ノイズの影響を抑制するための施策や事前影響評価が重要となっている。
【0005】
ここで、再循環系などの動力システムから中性子計装システムなどの高周波微弱信号系へのノイズ影響は2つの特性に分けて評価することができる。第1の特性は、ノイズ発生源から対象とする微弱信号系への伝搬のしやすさである。これは、微弱信号系にどれだけのコモンモード電流が伝搬したかを測定することで評価できる。第2の特性は、微弱信号系に伝搬したコモンモード電流による計測への影響のしやすさである。これは、コモンモード電流が芯線と戻り線の間に生じる信号電圧にどれだけ変換されるかを測定することで評価できる。第1の特性については、特許文献1において、プラント内に施工された状態におけるノイズの伝搬しやすさを測定する方法が開示されている。
【0006】
図7は、従来例において、コモンモード電流が信号電圧に変換されるメカニズムを示したものである。図7において、信号伝送路101は芯線102及びシールド103の同軸構造で構成されている。信号伝送路101の一端は検出器105に接続されており、他端は信号電圧測定装置106に接続されている。また、信号伝送路101は、建屋接地線104とあるインピーダンスを持って高周波的に繋がってグランドループを形成している。
【0007】
このようなシステムに対し、外部からの電磁ノイズは、通常コモンモード電流の形態、すなわち、信号伝送路の芯線とシールド線に同一方向の信号電流を生じる形でグランドループに印加される。
【0008】
このとき、外部からグランドループに印加される電圧(外来ノイズ)をVnとすると、信号伝送路101のシールド103にかかる電圧Vsは、
〔数1〕
Vs≒Z2/(Z2+Z5)×Vn ・・・(1)
となる。ここで、Z2はシールド103のインピーダンス、Z5は建屋接地線のインピーダンスであり、シールド103のインピーダンスZ2が、芯線102、検出器105、信号電圧測定装置106の芯線インピーダンスZ1、検出器インピーダンスZ4、及びZ5よりも小さいことを仮定した。
【0009】
更に、信号電圧装置106で測定される電圧Vmは、
〔数2〕
Vm≒Z3/(Z1+Z3+Z4)×Vs ・・・(2)
となる。Z3は計測器インピーダンスである。
【0010】
通常、シールド103のインピーダンスZ2が小さいことから、外来ノイズVnの影響は非常に小さく限定される。しかし、同じ理由でシールド103のインピーダンスZ2が増大すると外来ノイズVnによる信号電圧Vmは増加する。図7では、信号伝送路101は1本の線で示されているが、例えば、コネクタ等で接続された2本の線で信号伝送路101が構成されている場合、コネクタ部のシールド側で酸化等によりインピーダンスが増大すると、同じ外来ノイズVnに対してより大きな信号電圧Vmを生じることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2009−293931号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
高周波微弱信号システムへのノイズ影響を事前に評価することは、施工作業の手戻りを最小限にとどめることにつながり、施工の効率化を図ることができる。特許文献1によれば、特定の設備から高周波微弱信号システムへのコモンモード電流の伝搬しやすさを事前評価することができる。しかし、特許文献1には高周波微弱信号システムでコモンモードノイズが信号電圧に変換される割合についての評価は開示されていない。
【0013】
すでに述べたように、コネクタ等の施工状態はコモンモード電流として侵入したノイズが信号電圧に変換される割合に大きく影響する。しかし、従来、コネクタ等の施工状態の評価はループ抵抗や絶縁抵抗などの直流的な電気特性による評価方法しか存在しなかった。このような従来手法で測定される微小な抵抗値は、高周波では重要ではなくむしろインダクタンス成分がより大きな役割を担う。そのため、高周波に対するインダクタンス成分の影響を含めて、コモンモードで侵入した電磁ノイズによる計測信号への影響の受け易さを直接評価する手法が有効である。
【0014】
本発明は、このような課題を解決する測定装置及び測定手法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、放射線検出器の高周波微弱信号を伝送する信号伝送路を備えた原子力プラントの高周波微弱信号計測システムにおいて、信号伝送路に高周波コモンモード電流を注入する電流注入装置と、電流注入装置に予め定めた周波数の高周波コモンモード電流を供給する電流発生装置と、信号伝送路に流れるコモンモード電流を計測する電流測定装置と、信号伝送路に流れるコモンモード電流によって信号伝送路の芯線及び戻り線の間に生じる電圧を計測する信号電圧測定装置と、電流測定装置で測定された電流値および信号電圧測定装置で測定された電圧値が入力されるとともに、電流値及び電圧値の測定値の比である変換比を算出する変換比算出装置とを備えることを特徴とする。
【0016】
また、信号伝送路の評価装置において、変換比算出装置は、電流測定装置からの信号を抽出する第1同期成分抽出部と、信号電圧測定装置からの信号を抽出する第2同期成分抽出部と、第1、第2同期成分抽出部の信号電流及び信号電圧の測定周波数帯域を変化させる制御装置とを有し、第1同期成分抽出部と第2同期成分抽出部を通過した信号電流及び信号電圧の比である変換比を算出する演算回路を有することを特徴とする。
【0017】
また、信号伝送路の評価装置において、制御装置は、電流発生装置から送信された高周波コモンモード電流周波数情報を受信して、受信した周波数に同期して計測する電流及び電圧信号の測定周波数帯域を変化させることを特徴とする。
【0018】
また、信号伝送路の評価装置において、第1同期成分抽出部と、第2同期成分抽出部はバンドパスフィルタからなることを特徴とする。
【0019】
また、信号伝送路の評価装置において、第1同期成分抽出部と第2同期成分抽出部および演算回路の間に、A/D変換回路と実効値演算回路を設けたことを特徴とする。
【0020】
また、信号伝送路の評価装置において、電流発生装置は、予め定めたパターンに従って周波数を変化させて信号電流を発生する信号発生装置と、信号電流の電流注入装置への出力又は停止を行う開閉装置と、信号電流の周波数と振幅情報を変換比算出装置に送信する制御装置をそなえたことを特徴とする。
【0021】
また、信号伝送路の評価装置において、電流測定装置と信号電圧測定装置は、電圧測定装置と、伝送装置をそなえたことを特徴とする。
【0022】
また、信号伝送路の評価装置において、信号伝送路の信号電圧測定装置を接続した端とは反対側の端に、戻り線とプラント建屋接地線とを接続する模擬対地容量を備えたことを特徴とする。
【0023】
さらに、原子力プラントの放射線検出器の高周波微弱信号を伝送する芯線及び戻り線を有する信号伝送路を備えた高周波微弱信号計測システムにおいて、
中性子束やガンマ線等を検出する放射線検出器の信号を高周波信号として伝送する信号伝送路に外部から高周波数のコモンモード電流を注入するステップと、
信号伝送路に流れるコモンモード電流の電流値を計測するステップと、
コモンモード電流によって信号伝送路の芯線及び戻り線の間に生じる電圧値を計測するステップと、
電流値及び電圧値の比である変換比を算出するステップと、
予め定めた基準値と変換比とを比較するステップ
とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、放射線検出器の高周波微弱信号を伝送する信号伝送路を備えた原子力プラントの高周波微弱信号計測システムにおいて、信号伝送路に高周波コモンモード電流を注入する電流注入装置と、電流注入装置に予め定めた周波数の高周波コモンモード電流を供給する電流発生装置と、信号伝送路に流れるコモンモード電流を計測する電流測定装置と、信号伝送路に流れるコモンモード電流によって信号伝送路の芯線及び戻り線の間に生じる電圧を計測する信号電圧測定装置と、電流測定装置で測定された電流値および信号電圧測定装置で測定された電圧値が入力されるとともに、電流値及び電圧値の測定値の比である変換比を算出する変換比算出装置とを備えることにより、ノイズを模擬した高周波コモンモード電流を高周波微弱信号システムの信号伝送路に印加し、その時の計測信号への影響を直接測定することが可能となる。
【0025】
これにより、プラント内にノイズ源となる動力機器等が設置される前に、高周波微弱信号システム単体で、ケーブルやコネクタ等の接合部等の施工状態を判定することができる。
【0026】
従来、こうした判定にはノイズ影響は評価することができず、不具合を生じてから再度コネクタ清掃等を実施するといった作業の手戻りが発生していたが、本発明ではこれらの問題を解決して作業の効率化が図れる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施例1におけるシステム構成を示す模式図である。
【図2】本発明の実施例1における模擬電流発生装置を示すブロック図である。
【図3】本発明の実施例1における電流測定装置を示すブロック図である。
【図4】本発明の実施例1における信号電圧測定装置を示すブロック図である。
【図5】本発明の実施例1における変換比測定装置を示すブロック図である。
【図6】本発明の実施例2におけるシステム構成を示す模式図である。
【図7】従来例のコモンモード電流における信号電圧変換メカニズムを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施例を図面を用いて説明する。
【実施例1】
【0029】
実施例1では、高周波微弱信号システムのノイズによる影響を評価する評価装置の例を示す。
【0030】
図1は、実施例1の信号伝送路の評価装置のシステム構成を示す。原子力発電プラント内には、原子炉圧力容器1と、原子炉圧力容器1内に挿入された検出器集合管2と、検出器集合管2に収納され、原子炉圧力容器1内の熱中性子による電離作用によって微弱電流を発生させる中性子検出器3と、この中性子検出器3からの微弱電流信号を伝送するケーブル4と、ケーブルを接続するコネクタ5が備えられている。
【0031】
実施例1で評価対象とするのは、中性子検出器3、ケーブル4、コネクタ5からなる信号伝送路である。通常、原子力発電プラントの稼働時に、中性子計装システムはケーブル4に前置増幅器や信号処理置が接続されて中性子束を計測・監視しているが、ノイズ影響を評価する場合には、前置増幅器や信号処理装置の代わりに、電流注入装置7、電流発生装置8、電流測定プローブ9、電流測定装置10、信号電圧測定装置11、変換比算出装置12からなる信号伝送路評価装置6が接続されている。
【0032】
ケーブル4は、シールドの一端が信号電圧測定装置11において建屋接地線13に接続されており、他端が中性子検出器3が接地された原子炉圧力容器1に対してもつ容量やケーブル自体の対地容量などを介して高周波的に建屋接地線13に接続されていることにより大きなグランドループを形成している。
【0033】
信号伝送路評価装置6は、電流発生装置8により、予め設定したパターンに従って周波数を変化させた信号電流を電流注入装置7に印加する。電流注入装置7は、ケーブル4及び建屋接地線13により形成されたグランドループに対し、電流発生装置8から印加された高周波数電流を注入するものであり、大略リング状に形成されたフェライト等の磁性体であって、結合時にリング状になるコアと、コア本体に巻かれたコイルと、コイルと電流波発生装置8とを接続するリードケーブル(図示せず)とで構成され、電流注入装置7本体にケーブル4が挿通するように配置されている。
【0034】
電流注入装置7は、電磁誘導により、印加された高周波数の信号に応じた高周波電流をケーブル4に注入する。同時に、電流発生装置8は電流注入装置7に印加している所定周波数を持つ信号電流情報を変換比算出装置12に送信する。
【0035】
電流測定装置10には電流測定プローブ9が接続されており、ケーブル4に注入された電流値を測定する。電流測定プローブ9は、電流注入装置7と類似の形状をもち、大略リング状に形成され結合するとリング状になるフェライト等の磁性体コアと、コア本体に巻かれたコイルとを有し、電流測定プローブ9に挿通されたケーブル4に流れる信号電流に比例した電圧が出力される。電流測定プローブ9により出力された信号電圧は電流測定装置10内で電流値に変換され、変換比算出装置12に送信される。
【0036】
信号電圧測定装置11は、電流注入装置7から信号電流が注入されたときの、ケーブル4の芯線とシールドの間に生じる信号電圧を測定する。測定された信号電圧は信号電圧測定装置11から変換比算出装置12へ送信される。
【0037】
変換比算出装置12は、電流測定装置10と信号電圧測定装置11から送信された電流値及び電圧値を受信する。変換比算出装置12はまた、電流発生装置8から送信された基準値となる所定周波数を持つ信号電流を受信し、電流測定装置10と信号電圧測定装置11から送信された電流値及び信号電圧値に含まれる当該周波数成分のみを抽出し、その実効値を算出する。そして、算出された電流値実効値Ieと信号電圧実効値Veから、電流値及び信号電圧値の変換比Kを算出して表示する。
〔数3〕
K=Ve/Ie ・・・(3)
図2は、電流発生装置8の構成を示したものである。電流発生装置8は、任意の周波数の正弦波を生成する信号発生器16と、信号発生器16で生成された信号電流を外部へ出力又は停止するソリッドステートリレー(SSR)17と、信号電流の周波数と振幅を予め格納する記憶装置14と、記憶装置14に格納されたデータに基づいて信号発生器16で生成する信号電流の振幅と周波数を制御する制御装置15とにより構成されている。
【0038】
電流発生装置8で生成した信号電流を電流注入装置7に印加するために、SSR17の出力端と電流注入装置7とは、リードケーブルにより接続される(図1参照)。また、SSR17の開閉、及び電流注入装置7に印加しているノイズ電流の周波数と振幅情報は、制御装置15から、例えばシリアル通信などの信号伝送路を介して変換比算出装置12に送信される。
【0039】
図3は、電流測定装置10の構成を示したものである。電流測定装置10は、電圧測定器18と伝送装置19により構成されており、電流測定プローブ9から出力された電流値に比例した電圧信号を電圧測定器18により所定ゲインで増幅する。この増幅された電圧信号を伝送装置19により、変換比算出装置12へ伝送する。
【0040】
図4は、信号電圧測定装置11の構成を示したものである。信号電圧測定装置11にはケーブル4が接続されており、ケーブル4の芯線20とシールド21の間に生じる電圧を電圧測定器18により測定し、伝送装置19により変換比算出装置12へ送信する。また、シールド21は信号電圧測定装置11の導体で形成された筺体を介して建屋接地線13に接続されており、本来の中性子計装システムと同様のグランドループが形成され、コモンモード電流が流れるようになっている。
【0041】
図5は、変換比算出装置12の構成を示したものである。変換比算出装置12は、測定された電流値及び信号電圧が電流測定器10と信号電圧測定装置11の2系統から入力され、各系統ごとに設定された周波数帯域の信号を通過させるバンドパスフィルタ22と、バンドパスフィルタを通過した電流値をディジタル値に変換するA/D変換回路24と、このディジタル値を実効値データに変換する実効値演算装置25を有する。
【0042】
さらに、バンドパスフィルタ22の通過帯域を入力された電流周波数に設定する制御装置23と、実効値演算装置25から出力される電流値実効値Ieと信号電圧実効値Veから、変換比=Ve/Ieを算出する演算回路26と、演算回路26によって算出された変換比を表示する表示装置27とにより構成されている。
【0043】
次に、上述したプラント内電動機システムの影響評価装置の動作を図1〜図5を用いて説明する。
【0044】
まず、利用者が図2に示す電流発生装置8を起動すると、制御装置15からの読み取り指令により、電流注入装置7に注入する信号電流の周波数及び振幅パターンが記憶装置14から制御装置15に取込まれる。制御装置15は、信号発生器16の生成すべきノイズ電流であるコモンモード電流の周波数と振幅を取込んだ値に設定するとともに、所定のタイミングでSSR17の開閉を制御する。電流発生装置8から出力された高周波電流は電流注入装置7に印加される。このことにより、予め定めたパターンに従ったコモンモード電流をケーブル4に注入することができる。また、電流発生装置8の制御装置15は、生成したコモンモード電流の周波数及び振幅情報を変換比算出装置12へ出力する。
【0045】
電流発生装置8により電流注入装置7に信号電流が印加されると、図1に示すケーブル4にコモンモード電流が発生する。コモンモード電流は電流測定プルーブ9を介して電流測定装置10の電圧測定器18により電圧信号として測定され、所定のゲインで増幅された後、伝送装置19から変換比算出装置12に伝送される。
【0046】
また、信号電圧測定装置11の電圧測定器18で測定された電圧は、所定のゲインで増幅され、伝送装置19から変換比率算出装置12へ伝送される。
【0047】
変換比算出装置12では、図5に示すように、これらの電流測定値を各系統毎にバンドパスフィルタ22、22にそれぞれ入力させる。同時に、電流発生装置8からの周波数及び振幅信号のデータを制御装置23に入力させる。制御装置23は、バンドパスフィルタ22、22の通過帯域を電流発生装置8から送信されてきた周波数に設定するとともに、電流注入装置7に印加している信号電流の周波数と振幅情報を演算回路26に伝送する。
【0048】
バンドパスフィルタ22、22を通過した電流値及び信号電圧値は、A/D変換回路24、24によりディジタル値に変換され、実効値演算装置25、25にて実効値データに変換される。この実効値データは、周波数/振幅データとともに演算回路26に伝送される。
【0049】
演算回路26は、実効値演算装置25から出力される電流値実効値Ieと信号電圧実効値Veから、変換比=Ve/Ieを算出し、周波数及び振幅の情報とともに変換比を表示装置27に送信する。表示装置27は、周波数、振幅値と変換比を1組にして表示する。
【0050】
このように、実施例1の信号伝送路の評価装置によれば、高周波ノイズと同じ経路にコモンモード電流を印加することで、ノイズによる影響の受け易さを直接評価することができる。特に、実際のノイズ源が存在しない状態でノイズ影響の程度を確認することにより、コネクタやその他の接合部の施工状態良否を判定することができ、実際にノイズ不具合を生じてから対策を検討するような作業の手戻りを防止できる。
【0051】
また、実施例1の形態によれば、印加する信号電流の周波数と同一の周波数成分のみを用いて変換比を算出することができ、様々なノイズ電流が瞑想する実機プラントにおいても精度の高い測定が可能となる。
【実施例2】
【0052】
図6は、本発明の実施例2において、本来の中性子検出器に替えて模擬検出器30と模擬対地容量31を接続した例を示す。ケーブル4の信号電圧測定装置11と反対側の端に、模擬検出器30が接続されている。模擬検出器30は、芯線20とシールド21の間を所定の容量を持つコンデンサで接続するものである。通常、中性子検出器3として用いられる核分裂電離箱は、高周波に対するインピーダンスの観点からはキャパシタンスとして模擬することができるため、このような構成としている。また、模擬検出器30のシールド側と建屋接地線13とを所定の容量を持ったコンデンサからなる模擬対地容量31で接続する。これにより、中性子検出器3と原子炉圧力容器1との間の浮遊容量及びケーブルと対地との浮遊容量を模擬することができる。
【0053】
この構成により、原子炉圧力容器1内に中性子検出器3を設置していない状態においても、中性子検出器を含まないケーブル/コネクタ等の信号伝送路単独でのノイズによる計測への影響の事前評価が可能となり、施工作業の一層の効率化を図ることができる。
【符号の説明】
【0054】
3 中性子検出器
4 ケーブル
5 コネクタ
6 信号伝送路評価装置
7 電流注入装置
8 電流発生装置
9 電流測定プローブ
10 電流測定装置
11 信号電圧測定装置
12 変換比算出装置
13 建屋接地線
15 制御装置
16 信号発生器
17 ソリッドステートリレー
18 電圧測定器
19 伝送装置
20 芯線
21 シールド
22 バンドパスフィルタ
23 制御装置
24 A/D変換回路
25 実効値演算装置
26 演算回路
27 表示装置
30 模擬検出器
31 模擬対地容量
101 信号伝送路
102 芯線
103 シールド
104 建屋接地線
105 検出器
106 信号電圧測定装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線検出器の高周波微弱信号を伝送する信号伝送路を備えた原子力プラントの高周波微弱信号計測システムにおいて、
前記信号伝送路に高周波コモンモード電流を注入する電流注入装置と、前記電流注入装置に予め定めた周波数の高周波コモンモード電流を供給する電流発生装置と、前記信号伝送路に流れるコモンモード電流を計測する電流測定装置と、前記信号伝送路に流れるコモンモード電流によって前記信号伝送路の芯線及び戻り線の間に生じる電圧を計測する信号電圧測定装置と、前記電流測定装置で測定された電流値および前記信号電圧測定装置で測定された電圧値が入力されるとともに、前記電流値及び電圧値の測定値の比である変換比を算出する変換比算出装置とを備えることを特徴とする信号伝送路の評価装置。
【請求項2】
請求項1に記載の信号伝送路の評価装置において、前記変換比算出装置は、前記電流測定装置からの信号を抽出する第1同期成分抽出部と、前記信号電圧測定装置からの信号を抽出する第2同期成分抽出部と、前記第1、第2同期成分抽出部の信号電流及び信号電圧の測定周波数帯域を変化させる制御装置とを有し、前記第1同期成分抽出部と第2同期成分抽出部を通過した信号電流及び信号電圧の比である変換比を算出する演算回路を有することを特徴とする信号伝送路の評価装置。
【請求項3】
請求項2に記載の信号伝送路の評価装置において、前記制御装置は、前記電流発生装置から送信された高周波コモンモード電流周波数情報を受信して、受信した周波数に同期して計測する電流及び電圧信号の測定周波数帯域を変化させることを特徴とする信号伝送路の評価装置。
【請求項4】
請求項2に記載の信号伝送路の評価装置において、前記第1同期成分抽出部と、第2同期成分抽出部はバンドパスフィルタからなることを特徴とする信号伝送路の評価装置。
【請求項5】
請求項2に記載の信号伝送路の評価装置において、前記第1同期成分抽出部と第2同期成分抽出部および前記演算回路の間に、A/D変換回路と実効値演算回路を設けたことを特徴とする信号伝送路の評価装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載の信号伝送路の評価装置において、前記電流発生装置は、予め定めたパターンに従って周波数を変化させて信号電流を発生する信号発生装置と、前記信号電流の前記電流注入装置への出力又は停止を行う開閉装置と、前記信号電流の周波数と振幅情報を前記変換比算出装置に送信する制御装置をそなえたことを特徴とする信号伝送路の評価装置。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかに記載の信号伝送路の評価装置において、前記電流測定装置と前記信号電圧測定装置は、電圧測定装置と、伝送装置をそなえたことを特徴とする信号伝送路の評価装置。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれかに記載の信号伝送路の評価装置において、前記信号伝送路の前記信号電圧測定装置を接続した端とは反対側の端に、前記戻り線とプラント建屋接地線とを接続する模擬対地容量を備えたことを特徴とする信号伝送路の評価装置。
【請求項9】
原子力プラントの放射線検出器の高周波微弱信号を伝送する芯線及び戻り線を有する信号伝送路を備えた高周波微弱信号計測システムにおいて、
中性子束やガンマ線等を検出する放射線検出器の信号を高周波信号として伝送する信号伝送路に外部から高周波数のコモンモード電流を注入するステップと、
前記信号伝送路に流れるコモンモード電流の電流値を計測するステップと、
前記コモンモード電流によって前記信号伝送路の芯線及び戻り線の間に生じる電圧値を計測するステップと、
前記電流値及び電圧値の比である変換比を算出するステップと、
予め定めた基準値と前記変換比とを比較するステップ
とを備えることを特徴とする信号伝送路の評価手法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−237695(P2012−237695A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−107882(P2011−107882)
【出願日】平成23年5月13日(2011.5.13)
【出願人】(507250427)日立GEニュークリア・エナジー株式会社 (858)
【Fターム(参考)】