説明

信号処理回路、リーダ/ライタ、非接触ICカード及び信号処理方法

【課題】復調済みのベースバンド信号に対して適切な信号処理を施すことで、ICカードとリーダ/ライタとの間の正常な通信を実行することが可能な信号処理回路を提供する。
【解決手段】非接触通信により受信した信号を復調して復調信号を得る復調部と、復調部により得られる復調信号に対する二値化処理を実行する二値化部と、復調部により得られて二値化部での二値化に適さない復調信号に対して二値化部での二値化処理に適した復調信号を得る移相処理を施す移相部と、を備える、信号処理回路が提供される。かかる構成を有することで、復調済みのベースバンド信号に対して適切な信号処理を施し、ICカードとリーダ/ライタとの間の正常な通信を実行することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、信号処理回路、リーダ/ライタ、非接触ICカード及び信号処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リーダ/ライタ(または、リーダ/ライタを搭載した情報処理装置。以下単に「リーダ/ライタ」という。)と非接触式に通信を行うことができる、非接触式IC(Integrated Circuit)カードや、RFID(Radio Frequency Identification)タグ、非接触式ICチップを搭載した携帯電話など(以下、「ICカードなど」という。)の通信装置が普及している。
【0003】
リーダ/ライタとICカードなどの通信装置とは、例えば13.56MHzなどの特定の周波数の搬送波を通信に使用している。具体的には、リーダ/ライタが搬送波信号をのせた搬送波を送信し、搬送波をアンテナで受信したICカードなどの通信装置が負荷変調によって受信した搬送波信号に対する応答信号を返信することにより、リーダ/ライタとICカードなどの通信装置とは通信を行っている。
【0004】
また、非接触式の通信を行うリーダ/ライタやICカードなどの通信装置に係る様々な技術が開発されている。
【0005】
特許文献1では、携帯端末装置において、リーダ/ライタとの距離を推定し、その推定された距離に応じて無線通信装置内の同調手段で同調させる周波数をシフトさせることにより、携帯端末装置とリーダ/ライタとが通信できないヌル状態の発生を回避する。
【0006】
特許文献2では、リーダ/ライタにおいて、携帯端末装置との距離を推定し、その推定された距離に応じて同調部で同調させる周波数をシフトさせることにより、リーダ/ライタと携帯端末装置とが通信できないヌル状態の発生を回避する。
【0007】
特許文献3では、リーダが、トランスポンダの中の一つからの変調応答信号の上部側波帯および下部側波帯を回収して分離し、次段に出力するために、上部側波帯および下部側波帯を評価し、その評価に基づいて、上部側波帯および下部側波帯の中の一つを選択する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−238398号公報
【特許文献2】特開2006−279813号公報
【特許文献3】特開2002−84211号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ICカード、及びリーダ/ライタをなるべく近接して相互通信が確立された状態でカードを遠方へ遠ざけていく際、リーダ/ライタ側から送信されるコマンドを、ICカードが受信、解読して、正常なベースバンド波形で返信しているにもかかわらず、リーダ/ライタ側で受信した波形が復調困難となり、二値化に失敗し、最終的にはCRCエラーとなって再送処理に陥る現象が見られる。この現象は、ICカードを遠方からリーダ/ライタへ近づけていく場合も同様に発生する。具体的には、リーダ/ライタとICカードとの間で通信される何らかの変調が掛かったRF波形から復調されたベースバンド波形のうち、充分通信できる距離において、例えば幅1〜2mm程度の不感帯が発生し、かつその前後で波形の位相が逆転する現象が生じる。
【0010】
この復調困難な波形は、原因によって幾つかの種類に分類される。中でも、ベースバンド波形の位相が逆転する現象に対しては、従来、位相検波や同期検波等を用いてキャリア信号の微小位相変化を捉えることが有効とされてきた。事実、カードへ送信するキャリア信号の振幅が小さく、リーダ/ライタの送信/受信のRF回路が一体化されているICでは、上記位相検波や同期検波を用いているものが多く、上述したような復調困難な通信距離の発生が生じない場合が多い。
【0011】
しかし、上記検波方法は以下の様な点で問題がある。
【0012】
(1)微小位相変化成分の発生源
ICカードがリーダ/ライタへの返信信号を生成する場合、変調は負荷変調を用いることが多く、この方法ではキャリアの位相を積極的に変化させているわけではない。仮にリーダ/ライタ側で何らかの位相変化が計測・検出できたとしても、これはICカード、アンテナ、リーダ/ライタの間に浮遊的に存在する非線形要素によって発生していると考えられ、発生量を設計に組み入れることは困難である。従って、ICカードの様な大量生産を目的としたものに対してバラつきを考慮すると安心して使えるものではない。
【0013】
(2)ICの最大入力電圧。
位相検波や同期検波を実用的な精度、安定性で実装するには、少なくともこの機能をIC化しておく必要がある。しかしながら、ICの最大入力電圧はそのICの電源電圧と大きく変わらない程度しか取ることができないのが一般的である。一方、長い通信距離を確保する必要がある場合には、カードへ送信するキャリア成分の電圧振幅を大きくすることが多く、この場合は受信信号の最大電圧振幅も必然的に大きくなる。よって、この電圧をICの受信入力端子に直接入れることはできず、最大入力電圧を越えないようにあらかじめ減衰させる必要がある。しかし、この際にベースバンド成分が同時に減衰してしまうため、S/Nの低下や感度低下を招いてしまう。結局、キャリアとコマンドはICカードに届き、ICカードはリーダ/ライタへ返信をしているのだが、リーダ/ライタがこのICカードからの返信を読み取ることができずに、最大通信距離を制約してしまう現象が発生する。
【0014】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、復調済みのベースバンド信号に対して適切な信号処理を施すことで、ICカードとリーダ/ライタとの間の正常な通信を実行することが可能な、新規かつ改良された信号処理回路、リーダ/ライタ、非接触ICカード及び信号処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、非接触通信により受信した信号に対して復調処理を実行して復調信号を得る復調部と、前記復調部により得られる復調信号に対する二値化処理を実行する二値化部と、前記復調部と前記二値化部との間に設けられ、前記復調部により得られて前記二値化部での二値化に適さない復調信号に対して前記二値化部での二値化処理に適した復調信号を得る移相処理を施す移相部と、を備える、信号処理回路が提供される。
【0016】
前記移相部は、前記復調部により得られる復調信号の基本波と三次高調波との間に60度の位相差を生じさせる移相処理を該復調信号に対して施すようにしてもよい。
【0017】
前記移相部は、前記復調部により得られる復調信号の所定の周波数以下の帯域を減衰させるハイパスフィルタにより構成されていてもよい。
【0018】
前記移相部は、前記復調部により得られる復調信号の移相を変化させるオールパスフィルタと、前記復調部により得られる復調信号の所定の周波数以下の帯域を減衰させるローパスフィルタと、前記オールパスフィルタの出力から前記ローパスフィルタの出力を減算する減算器と、により構成されていてもよい。
【0019】
前記移相部は、前記復調部により得られる復調信号をデジタル信号に変換するA/D変換部と、前記A/D変換部が変換したデジタル信号に対するフィルタリングを行うデジタルフィルタと、前記デジタルフィルタの出力を遅延させるディレイ手段と、により構成されていてもよい。
【0020】
前記移相部は、前記復調部により得られる復調信号に対してソフトウェア処理により移相処理を施すようにしてもよい。
【0021】
前記移相部は、該移相部の前後における信号処理で生じる位相ずれを考慮した移相処理を実行することで前記復調部における復調処理と前記二値化部での二値化処理との間において復調信号の基本波と三次高調波との間に60度の位相差を生じさせる移相処理を該復調信号に対して施すようにしてもよい。
【0022】
前記二値化部は、前記復調部により得られる復調信号をそのまま二値化する第1の二値化部と、前記移相部により移相処理が施された復調信号を二値化する第2の二値化部と、を備え、前記第1の二値化部または前記第2の二値化部により二値化された信号の内、復号処理に適した信号を選択する選択部をさらに備えていてもよい。
【0023】
また、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、非接触通信によりICカードから信号を受信するアンテナと、前記アンテナが非接触通信により受信した信号に対して復調処理を実行して復調信号を得る復調部と、前記復調部により得られる復調信号に対する二値化処理を実行する二値化部と、前記復調部と前記二値化部との間に設けられ、前記復調部により得られて前記二値化部での二値化に適さない復調信号に対して前記二値化部での二値化処理に適した復調信号を得る移相処理を施す移相部と、を備える、リーダ/ライタが提供される。
【0024】
また、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、非接触通信によりリーダ/ライタから信号を受信するアンテナと、前記アンテナが非接触通信により受信した信号に対して復調処理を実行して復調信号を得る復調部と、前記復調部により得られる復調信号に対する二値化処理を実行する二値化部と、前記復調部と前記二値化部との間に設けられ、前記復調部により得られて前記二値化部での二値化に適さない復調信号に対して前記二値化部での二値化処理に適した復調信号を得る移相処理を施す移相部と、を備える、非接触ICカードが提供される。
【0025】
また、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、非接触通信により受信した信号に対して復調処理を実行して復調信号を得る復調ステップと、前記復調ステップにより得られる復調信号に対する二値化処理を実行する二値化ステップと、前記復調ステップと前記二値化ステップとの間で実行し、前記復調ステップにより得られて前記二値化ステップでの二値化に適さない復調信号に対して前記二値化ステップでの二値化処理に適した復調信号を得る移相処理を施す移相ステップと、を備える、信号処理方法が提供される。
【発明の効果】
【0026】
以上説明したように本発明によれば、復調済みのベースバンド信号に対して適切な信号処理を施すことで、ICカードとリーダ/ライタとの間の正常な通信を実行することが可能な、新規かつ改良された信号処理回路、リーダ/ライタ、非接触ICカード及び信号処理方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の一実施形態にかかる通信システム1000の概要を示す説明図である。
【図2】本発明の一実施形態にかかる通信システム1000の概要を示す説明図である。
【図3】リーダ/ライタ100および非接触ICカード200の概略構成を示す回路図である。
【図4】本発明の一実施形態にかかるリーダ/ライタ100に含まれる信号処理回路110の構成を示す説明図である。
【図5】ベースバンド波形の一例をグラフで示す説明図である。
【図6】ベースバンド波形の一例をグラフで示す説明図である。
【図7】ベースバンド波形の一例をグラフで示す説明図である。
【図8】位相差を変えたシミュレーション結果を示す説明図である。
【図9】基本波と三次高調波の関係、及び合成波形を整理した説明図である。
【図10】移相回路114の第1の構成例の概要を示す説明図である。
【図11】移相回路114の第1の構成例の具体的な回路例を示す説明図である。
【図12】移相回路114の第1の構成例の入出力特性をグラフで示す説明図である。
【図13】移相回路114によるシミュレーション結果の一例をグラフで示す説明図である。
【図14】移相回路114にベースバンド信号を通すことによる改善例をグラフで示す説明図である。
【図15】移相回路114の第2の構成例の概要を示す説明図である。
【図16】移相回路114の第2の構成例の入出力特性をグラフで示す説明図である。
【図17】移相回路114の別の構成例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0029】
なお、説明は以下の順序で行うものとする。
<1.本発明の一実施形態>
[1−1.通信システムの概要]
[1−2.信号処理回路の構成]
[1−3.移相回路の構成]
[1−3−1.第1の構成例]
[1−3−2.第2の構成例]
[1−3−3.その他の構成例]
<2.まとめ>
【0030】
<1.本発明の一実施形態>
[1−1.通信システムの概要]
まず、非接触式の通信によって情報の送受信が行われる通信システムの構成について説明する。図1及び図2は、本発明の一実施形態にかかる通信システム1000の概要を示す説明図である。以下、図1及び図2を用いて、本発明の一実施形態にかかる通信システム1000の概要を説明する。
【0031】
図1及び図2において、非接触式の通信(以下、「非接触通信」という。)を行う通信システム1000は、リーダ/ライタ100と、ICチップ(図示せず)を搭載した非接触ICカード200とから構成される。リーダ/ライタ100は、本発明の情報処理装置の一例である。なお、リーダ/ライタ100は、携帯電話などの携帯端末に組み込まれてもよく、自動改札機などに組み込まれてもよい。本実施の形態では、リーダ/ライタ100と非接触通信を行う通信装置が非接触ICカード200であるが、ICチップを搭載した携帯電話などの携帯端末であってもよい。
【0032】
本実施形態にかかる通信システム1000は、例えば13.56MHzなど特定の周波数の搬送波を通信に使用している。具体的には、リーダ/ライタ100が搬送波信号をのせた搬送波を送信し、搬送波を後述するアンテナ218で受信した非接触ICカード200が負荷変調によって受信した搬送波信号に対する応答信号を返信することにより、リーダ/ライタ100と非接触ICカード200とは通信を行っている。
【0033】
図3は、図1の通信システム1000におけるリーダ/ライタ100および非接触ICカード200の概略構成を示す回路図である。
【0034】
リーダ/ライタ100は、主に、制御部102と、ROM104(Read Only Memory)と、RAM106(Random Access Memory)と、記憶部108と、信号処理回路110と、変調回路120と、通信部122と、アンテナ124と、バス130と、により構成される。尚、制御部102、ROM104、RAM106、記憶部108、信号処理回路110、変調回路120は、例えば、バス130を介して接続されていてもよい。
【0035】
制御部102は、CPU(Central Processing Unit)等により構成され、ROM104、RAM106、又は記憶部108に記録されたプログラムやスクリプト等に基づいて所定の処理を実行する。例えば、制御部102は、プログラムやスクリプト等に基づいてリーダ/ライタ100を構成する各構成要素の動作を制御する。また、制御部102は、非接触ICカード200から読み出した情報を記憶部108に記録したり、記憶部108から読み出した情報に基づいて非接触ICカード200に記録された情報を書き換えたりするように各構成要素を制御する。
【0036】
アンテナ124は、例えば、ループ・アンテナにより形成されており、非接触ICカード200が有するアンテナ218と磁気的に結合した状態で負荷変調を用いて信号を送受信することができる。通信部122は、アンテナ124を介して非接触ICカード200との間で変調信号を送受信するための手段である。通信部122は、例えば、ポーリングコマンドを所定の時間間隔で定期的に送信することができる。信号処理回路110は、アンテナ124を介して通信部122により受信されたパケットを所定の変調方式に基づいて復調するとともに、後述する所定の移相処理を実行する手段である。例えば、信号処理回路110は、ASK(Amplitude Shift Keying)等の変調方式で変調されたパケットを復調することができる。
【0037】
変調回路120は、制御部102等により出力された送信パケットに所定の変調を施して変調信号を生成する手段である。
【0038】
非接触ICカード200は、主に、制御部202と、ROM204と、RAM206と、記憶部208と、バス210と、変調回路212と、通信部214と、復調回路216と、アンテナ218とにより構成される。尚、制御部202、ROM204、RAM206、記憶部208、変調回路212、復調回路216は、例えば、バス210を介して接続されていてもよい。
【0039】
制御部202は、CPU等により構成され、ROM204、RAM206、又は記憶部208に記録されたプログラムやスクリプト等に基づいて所定の処理を実行する。例えば、制御部202は、プログラムやスクリプト等に基づいて非接触ICカード200を構成する各構成要素の動作を制御する。また、制御部202は、リーダ/ライタ100から受信したコマンドに応じて情報を記憶部208に記録したり、記憶部208から読み出した情報をリーダ/ライタ100に送信したりするように制御する。
【0040】
さらに、制御部202は、記憶部208等に記録されたプログラム又はスクリプト等に基づいて応答コマンドを生成してもよい。例えば、制御部202は、第1方式の応答コマンドと、第2方式の応答コマンドとを生成してもよい。記憶部208は、例えば、耐タンパ性を有するセキュアメモリ、又はセキュアチップにより形成されていてもよい。
【0041】
アンテナ218は、例えば、ループ・アンテナにより形成されており、リーダ/ライタ100が有するアンテナ124と磁気的に結合した状態で負荷変調を用いて信号を送受信することができる。通信部214は、アンテナ218を介してリーダ/ライタ100との間で変調信号を送受信するための手段である。復調回路216は、アンテナ218を介して通信部214により受信されたパケットを所定の変調方式に基づいて復調する手段である。例えば、復調回路216は、ASK等の変調方式で変調されたパケットを復調することができる。変調回路212は、制御部202等により生成された応答パケットに所定の変調を施して変調信号を生成する手段である。
【0042】
以上、本発明の一実施形態にかかる通信システム1000の概要を説明した。次に、本発明の一実施形態にかかるリーダ/ライタ100に含まれる信号処理回路の構成について説明する。
【0043】
[1−2.信号処理回路の構成]
図4は、本発明の一実施形態にかかるリーダ/ライタ100に含まれる信号処理回路110の構成を示す説明図である。以下、図4を用いて本発明の一実施形態にかかるリーダ/ライタ100に含まれる信号処理回路110の構成について説明する。
【0044】
図4に示した信号処理回路110は、非接触ICカード200から送信された搬送波を復調して、非接触ICカード200が送信した信号を取り出すものである。図4に示したように、信号処理回路110は、復調回路112と、移相回路114と、二値化回路116a、116bと、選択回路118と、を含んで構成される。
【0045】
復調回路112は、アンテナ124で受信した搬送波を復調して、ベースバンド信号を生成するものである。復調回路112により生成されたベースバンド信号は、移相回路114及び二値化回路116aに送られる。
【0046】
移相回路114は、復調回路112により生成されたベースバンド信号に対して所定の移相処理を施して出力するものである。移相回路114により所定の移相処理が施されたベースバンド信号は二値化回路116bに送られる。
【0047】
移相回路114は、ベースバンド信号に対して所定の移相処理を施して出力することで、非接触ICカード200をリーダ/ライタ100に近づける際に、また非接触ICカード200をリーダ/ライタ100から遠ざける際に生じる通信エラーを解消することができる。この移相回路114による、ベースバンド信号に対する移相処理の詳細については後述する。
【0048】
二値化回路116a、116bは、復調回路112により生成されたベースバンド信号または移相回路114により移相処理が施されたベースバンド信号に対する二値化処理を実行するものである。二値化回路116a、116bによって二値化された信号は選択回路118に送られる。
【0049】
選択回路118は、二値化回路116a、116bによって二値化された信号のいずれか一方の復号に適した信号を選択して出力するものであり、受信した信号に応じてどちらの回路からの信号を選択するかが決められる。選択回路118が選択した、復号に適した信号は後段の復号回路(図示せず)に送られて所定の復号処理が施される。
【0050】
ここで、移相回路114による所定の移相処理について、順を追って説明する。
【0051】
上述したように、リーダ/ライタ100と非接触ICカード200との間で通信される何らかの変調が掛かったRF波形から復調されたベースバンド波形のうち、充分通信できる距離において、幅1〜2mm程度の不感帯が発生し、かつその前後で波形の位相が逆転する現象が生じる。
【0052】
図5は、上述の不感帯の中心よりリーダ/ライタ100と非接触ICカード200との距離が近い場合のベースバンド波形の一例をグラフで示す説明図であり、図6はリーダ/ライタ100と非接触ICカード200との距離が上述の不感帯の中心付近におけるベースバンド波形の一例をグラフで示す説明図であり、図7は不感帯の中心よりリーダ/ライタ100と非接触ICカード200との距離が遠い場合のベースバンド波形の一例をグラフで示す説明図である。図5〜図7に示したグラフは、横軸が時間、縦軸が振幅を示している。
【0053】
図5に示したグラフと図7に示したグラフを比較すると、ベースバンド波形の位相が逆転していることがわかる。なお振幅も異なるが、後に二値化することで振幅情報は失われるので、ここでは説明の対象としない。そして図6に示したように、不感帯の中心付近においては、振幅が大幅に減少した上、振幅の中心付近で傾きが無くなる、「棚」のような波形が一部で発生しているのが分かる。この「棚」のような波形は、リーダ/ライタ100と非接触ICカード200との距離関係を、図5の位置から図6の位置を経て図7の位置に変化させる際、図6の位置で突然発生するのではなく、非接触ICカード200をリーダ/ライタ100から遠ざけていく中で、振幅の最小値及び最大値付近から発生し始め、非接触ICカード200が図6の位置に来るタイミングに合わせて振幅の中心付近に寄ってくるように波形が動き、図6の位置を過ぎると、今度は反対方向に遠ざかっていくように波形が動く。従って、結果的にリーダ/ライタ100と非接触ICカード200との距離が不感帯の中心より近い場合と遠い場合とで、ベースバンド波形の移相が逆転する現象を引き起こすことになる。
【0054】
図6に示した波形を単なる静止画として見た場合、微分波形という言い方で纏められてしまうことがある。しかし、図5から図6を経て図7の波形に到る連続的な動きには特徴があり、これを動的に捉えた場合、この波形は単なる微分波形ではないと考えられる。
【0055】
リーダ/ライタ100と非接触ICカード200との間で通信されるベースバンド信号は、送信元で見れば方形波で変調している。方形波の定義(フーリエ級数)によると、基本波と高調波の関係は以下の数式1のように表される。
【0056】
【数1】

【0057】
従って、数式1から分かるように、方形波では基本波と高調波との相対的な位相差は0である。
【0058】
しかし、リーダ/ライタ100と非接触ICカード200との間で通信されるベースバンド信号は、送信側の通信アンテナ、空間(磁界や電波)、及び受信側の通信アンテナを経る過程で、帯域制限や歪みを受け、受信側で方形波のまま受信できることは極めて稀である。特に高次高調波は帯域制限の影響を強く受けるので、受信波形を形成する成分は基本波と三次高調波が支配的である。
【0059】
そして、五次高調波以上の成分は、方形波を形成する基本波成分の振幅の2割以下の振幅しかなく、仮にアンテナを通り抜けてきても復調性能向上に寄与することは少なく、また不必要に増強されてしまった場合はシューティングやリンギングの元となるため、復調後に五次高調波以上の成分をフィルタで除去することさえある。
【0060】
そこで、基本波と三次高調波の関係に着目すると、両者の関係を定義するのは、上記数式1から振幅と位相の2つの要素であることが分かる。
【0061】
ここで、振幅は理論どおり変化が無いものとし、位相差が0ではない数に変化すると仮定する。この仮定の下で、基本波と三次高調波との間の相対的な位相差が0,π/8,π/6,π/4,π/3,π/2,及び2π/3の場合でそれぞれシミュレーションした波形が図8に示されている。図8に示したように、基本波と三次高調波との間の相対的な位相差が0の波形は、帯域制限された方形波と同等の波形となっている。位相差がπ/8(=22.5°)になると、最大、または最小振幅のピークが来る前に、別の極大点、極小点が現れていることがわかる。更に位相差が大きくなると、この極大、極小点のレベルが次第に下がり、相対的な位相差がπ/3(=60°)になるところで、極大、極小点が縦軸0のところで重なる。相対的な位相差がπ/3(=60°)を過ぎると、これまでの極大点と極小点の正負が変わり、極大/極小が入れ替わる(例:π/2(=90°))。位相差が更に大きくなり、相対的な位相差が2π/3(=120°)まで進むと、位相差が0の場合と同じ波形が遅延を持って現れる。
【0062】
この結果は、上述したような不感帯発生点付近のベースバンド波形の動的な変化と酷似している。そのため、図8に示したシミュレーションの結果から、ベースバンド波形は、距離に応じて基本波と三次高調波の位相関係が何らかの影響を受けていると類推できる。
【0063】
従って、上述したような不感帯発生点において、基本波と三次高調波との間で60°の位相差が発生するようにベースバンド信号に対して移相処理を行うと、両者の位相差が0、或いは2π/3相当の波形、すなわち方形波の基本波と三次高調波の理論上の関係と同じ状態に戻り、復調に支障の無い波形になるはずである。この基本波と三次高調波の関係、及び合成波形を整理したものを図9に示す。実際の処理は、「棚」が発生してしまっている波形を不感帯発生点の波形とし、これを位相差が無い状態の合成波の波形に戻すために、基本波と三次高調波の関係を、60度の位相差が生じている状態から、位相差が生じていない状態に戻すことである。この処理を、上述した移相回路114が実行することで、リーダ/ライタ100と非接触ICカード200との距離が上述の不感帯の中心付近である場合でも、通信エラーを発生させずに受信側で信号を受信することができる。
【0064】
このように基本波と三次高調波の対策を行うことができるが、このような移相処理を実行することで、他の周波数帯域についても影響が生じない信号処理が要求されるのは当然である。この信号処理を要件として定義すると、復調回路112による復調処理から二値化回路116bによる二値化処理までの間に、(1)基本波と三次高調波の間にπ/3(=60°)の位相変化を作り出せること、(2)ベースバンド信号に含まれる成分のうち、少なくとも基本波と三次高調波がある帯域で、振幅特性が可能な限り平坦であること、(3)基本波以下の低域はベースバンド波形の変化(ビットの0/1の状態によって不規則に変わる)によってDCレベルに揺らぎが出ない程度に平坦に伸びており、また、群遅延特性が平坦であること、(4)三次高調波以上の高域は、振幅特性が充分減衰するまで群遅延特性がなるべく一定になること、である。
【0065】
以上、移相回路114による所定の移相処理について説明した。続いて、以下において、このような要件を満たす移相回路114の構成例について説明する。
【0066】
[1−3.移相回路の構成]
[1−3−1.第1の構成例]
まず、移相回路114の第1の構成例について説明する。図10は、移相回路114の第1の構成例の概要を示す説明図であり、図11は、移相回路114の第1の構成例の具体的な回路例を示す説明図である。この第1の構成例は、HPF135(High Pass Filter;ハイパスフィルタ)によって、ベースバンド信号に対して基本波と三次高調波の間に60度の位相差を生じさせるものである。
【0067】
図11に示したように、移相回路114の第1の構成例であるHPF135は、キャパシタC11、C12と、抵抗R11、R12と、オペアンプOP11と、からなる。移相量は、図11に示したキャパシタC11、C12の容量と、抵抗R11、R12の抵抗値で決まる。図11には一例として、キャパシタC11、C12の容量がいずれも100[pF]であり、抵抗R11の抵抗値が22[kΩ]、抵抗R12の抵抗値が24[kΩ]である移相回路114を示している。この移相回路114のカットオフ周波数fcはfc=70[kHz]、Q値はQ=0.52となる。
【0068】
このように、移相量は図11に示した2つのキャパシタと2つの抵抗の特性で決まり、フィルタの振幅特性と移相量を独立した変数で制御することができない。従って、まず移相量が60度になるように2つのキャパシタと2つの抵抗の特性を決定し、これに対して周波数特性をシフトしていくことが望ましいと考えられる。
【0069】
図12は、図11に示した移相回路114の第1の構成例の入出力特性をグラフで示す説明図である。図12に示したグラフの実線311は周波数におけるゲイン(振幅)を、破線312は周波数における位相を表しており、周波数を同一にして重ねあわせたものである。ゲインについては横軸が周波数、縦軸が利得を表しており、位相については横軸が周波数、縦軸が位相を示している。図11に示した移相回路114の第1の構成例はHPFであるので、カットオフ周波数fc以上の周波数成分については通過させて、カットオフ周波数fcより低い周波数成分は減衰させていることが分かる。
【0070】
そして、図12に示した入出力特性において重要なのは、100kHz及び300kHzにおける特性である。図12に示した入出力特性によれば、100kHzにおける位相は60°であり、300kHzにおける位相は20°である。これを数式1に当てはめると、基本波と三次高調波との間で60°の位相差が生じる.従って、図11に示した移相回路114の第1の構成例は、ベースバンド信号に対し、基本波と三次高調波との間で60°の位相差が生じる移相処理を実行していることが分かる。
【0071】
図13は、図11に示した移相回路114によるシミュレーション結果の一例をグラフで示す説明図である。図13の上段のグラフは図11に示した移相回路114の第1の構成例へ入力する前のベースバンド波形を示し、中段のグラフは図11に示した移相回路114の第1の構成例から出力されるベースバンド波形を示し、下段のグラフは、図11に示した移相回路114の第1の構成例から出力されるベースバンド波形を二値化した波形を示している。
【0072】
このようにシミュレーションによれば、図13の上段のグラフで示したような、二値化のスレッショルドレベル付近で傾きが緩やかになっている波形を、移相回路114の第1の構成例による移相処理によって、二値化のスレッショルドレベル付近で傾きが急峻な波形にすることができる。
【0073】
図14は、移相回路114を実際の回路で実装し、その実装した回路に、リーダ/ライタ100と非接触ICカード200との距離が上述の不感帯の中心付近にある場合のベースバンド信号を通すことによる改善例をグラフで示す説明図である。図14の上段は、実際の回路で実装した移相回路114へ入力するベースバンド波形及び当該波形を二値化した波形であり、図14の下段は、実際の回路で実装した移相回路114による移相処理を施した後のベースバンド波形及び当該波形を二値化した波形である。
【0074】
図14の符号321で示した波形は、復調回路112で復調した直後の、二値化前のマンチェスター符号の波形である。そして、図14の符号331a、331bで示した波線で囲まれた部分において、二値化前のマンチェスター符号の波形は60°の位相ずれの歪みを受けていることが分かる。そして、図14の符号322で示した波形は、符号321で示した二値化前のマンチェスター符号の波形を二値化したものであるが、符号321で示した波形が60°の位相ずれの歪みを受けている部分において、二値化のスレッショルドレベル付近で傾きが緩やかになっており、二値化によってマンチェスター符号としては判別ミスを引き起こす不適切なデューティとなっていることが分かる。
【0075】
図14の符号323で示した波形は、図14の符号321で示した波形に対して、実際の回路で実装した移相回路114による移相処理を施した後の波形である。図14の符号332a、332bで示した波線で囲まれた部分において、60°の位相ずれの歪みが解消し、方形波に近付いた波形が得られていることが分かる。
【0076】
図14の符号324で示した波形は、符号323で示した波形を二値化したものである。符号323で示した波形は、移相回路114による移相処理によって、二値化のスレッショルドレベル付近で傾きが急峻な波形に補正できており、図14の符号324で示した波形は、マンチェスター符号として判別に支障が無い適切なデューティの波形となっていることが分かる。
【0077】
以上説明したように、図11に示した移相回路114の第1の構成例によれば、リーダ/ライタ100と非接触ICカード200との距離が上述の不感帯の中心付近にある場合のベースバンド信号を通すことで基本波と三次高調波との間の相対位相関係を60°ずらす移相処理を施して、リーダ/ライタ100と非接触ICカード200との距離が上述の不感帯の中心付近にある場合であっても、リーダ/ライタ100と非接触ICカード200との間で正常な通信を行えるようにすることができる。
【0078】
[1−3−2.第2の構成例]
次に、移相回路114の第2の構成例について説明する。図15は、移相回路114の第2の構成例の概要を示す説明図である。図15に示したように、移相回路114の第2の構成例は、信号の位相を変化させるAPF136(All Pass Filter)と、所定の周波数帯域以上の成分を減衰させるLPF137(Low Pass Filter)とを組み合わせたものである。移相回路114の第2の構成例は、まずAPF136において基本波と三次高調波との間の相対位相関係を60°ずらす移相処理を施して、このAPF136で付随的に発生する低域遅延を、LPF137の遅延によってキャンセルすることで、系全体の振幅特性と位相特性とを最適にするものである。
【0079】
図15に示した移相回路114の第2の構成例は、APF136とLPF137の組み合わせで移相処理を実現している。図15に示した移相回路114の第2の構成例は、APF136の出力からLPF137の出力を減算器138で減算することで60°の移相処理を実現している。この際、位相差を決定するのはAPF136であり、低域遅延をキャンセルするのはLPF137であるため、位相差を決定する定数と低域遅延をキャンセルする定数を独立して決定することができる。従って、図15に示した移相回路114の第2の構成例は、図11に示した移相回路114の第1の構成例と比較して設計自由度が高いのが特徴である。また、60°の位相差を作る定数を決定するために高精度な部品を用いるだけで全体の波形整形性能がほぼ決まるので、図15に示した移相回路114の第2の構成例は設計後の量産性が高いと考えられる。
【0080】
APF136及びLPF137は、キャパシタ、抵抗及びオペアンプを組み合わせることで実装することができる。APF136において、60°の位相差を作ることが出来る各素子の定数を決定し、LPF137において、APF136の特性に合わせ込むように、アナログ回路シミュレータ等を用いて各素子の定数を決定することで、60°の移相処理を実現する移相回路114を実装することができる。
【0081】
図16は、図15に示した移相回路114の第2の構成例を実際の回路で構成した場合の入出力特性をグラフで示す説明図である。図16に示したグラフの実線341は周波数におけるゲイン(振幅)を、破線342は周波数における位相を表しており、周波数を同一にして重ねあわせたものである。ゲインについては横軸が周波数、縦軸が利得を表しており、位相については横軸が周波数、縦軸が位相を示している。このように、図15に示した移相回路114の第2の構成例においても、カットオフ周波数fc以上の周波数成分については通過させて、カットオフ周波数fcより低い周波数成分は減衰させていることが分かる。
【0082】
図16に示した入出力特性においても、図12に示した入出力特性と同様に、重要なのは100kHz及び300kHzにおける特性である。図16に示した入出力特性によれば、100kHzにおける位相は120°であり、300kHzにおける位相は160°である。これを数式1に当てはめると、基本波と三次高調波との間で60°の位相差が生じる.従って、図15に示した移相回路114の第2の構成例は、ベースバンド信号に対し、基本波と三次高調波との間で60°の位相差が生じる移相処理を実行していることが分かる。
【0083】
このように、図15に示した移相回路114の第2の構成例によれば、リーダ/ライタ100と非接触ICカード200との距離が上述の不感帯の中心付近にある場合のベースバンド信号を移相回路114に通すことで基本波と三次高調波との間の相対位相関係を60°ずらす移相処理を施して、リーダ/ライタ100と非接触ICカード200との距離が上述の不感帯の中心付近にある場合であっても、リーダ/ライタ100と非接触ICカード200との間で正常な通信を行えるようにすることができる。
【0084】
[1−3−3.その他の構成例]
本発明においては、移相回路114の構成は上述したものに限られない。本発明においては、移相回路114には以下に挙げるようなものを用いることができる。
【0085】
例えば、移相回路114をデジタルフィルタ及び所定のディレイ手段で構成し、受信側でベースバンド信号をA/D変換した後に、デジタルフィルタを通し、さらに所定のディレイ手段を通すことでベースバンド信号に対する移相処理を実行しても良く、RF信号をA/D変換した後に、復調処理を含めて当該デジタルフィルタ及びディレイ手段による処理を行うことで、ベースバンド信号に対する移相処理を実行してもよい。図17は、かかる移相処理を実行するための移相回路114の構成例を示す説明図である。
【0086】
また例えば、移相回路114をメモリ及びMCU(CPU)で構成し、ベースバンド信号をA/D変換した後にメモリに蓄積し、MCU(CPU)によるソフトウェア処理を実行することで、ベースバンド信号に対する移相処理を実行しても良い。ここで、かかるソフトウェア処理を実行するためのコンピュータプログラムは、図3のROM104に格納されていてもよく、かかるソフトウェア処理は制御部102によって行われるような構成としても良い。また例えば、移相回路114をメモリ及びMCU(CPU)で構成し、RF信号をA/D変換した後に、復調処理を含めてメモリに蓄積し、MCU(CPU)によるソフトウェア処理を実行することで、ベースバンド信号に対する移相処理を実行しても良い。
【0087】
また例えば、移相回路114をDSP(Digital Signal Processor)で構成し、ベースバンド信号をA/D変換した後に、DSPによる信号処理を実行することで、ベースバンド信号に対する移相処理を実行しても良く、RF信号をA/D変換した後に、復調処理を含めてDSPによる信号処理を実行することで、ベースバンド信号に対する移相処理を実行しても良い。
【0088】
また例えば、移相回路114の前後の信号処理で避けることが出来ずに付いてしまう位相ずれ(例えばアンプやLPFを通すことによる位相ずれ)を考慮し、移相回路114の移相量にオフセットをつけて、セット全体で二値化回路116bでの二値化処理の前に60°の移相量を実現するようにしてもよい。例えば、移相回路114の前後の信号処理において、基本波と三次高調波との間に5°の位相ずれが生じることが分かれば、移相回路114は、基本波と三次高調波との間に55°(または65°)の位相差を生じさせる構成とすることで、セット全体で60°の移相量を実現することができる。
【0089】
また例えば、移相回路114をアナログのアクティブ回路(LCR回路、オペアンプ、トランジスタ等)やアナログのパッシブ回路(LCR回路)で構成し、このアナログのアクティブ回路またはパッシブ回路によるフィルタ処理によってベースバンド信号に対する移相処理を実行しても良い。
【0090】
また例えば、移相回路114を巻線、CCDその他のディレイ素子で構成し、このディレイ素子による遅延やフィルタ処理によってベースバンド信号に対する移相処理を実行しても良い。
【0091】
また例えば、基本波と三次高調波との間で60°の位相差を実現するに際し、移相回路114を、20°、30°、10°の様に複数の移相処理に分割して実装しても良い。
【0092】
<2.まとめ>
以上説明したように本発明の一実施形態によれば、リーダ/ライタ100と非接触ICカード200との距離が不感帯の中心近傍にある場合において、リーダ/ライタ100から受信し、復調して得られるベースバンド信号に対して、基本波と三次高調波との間の相対的な位相差が無くなるように所定の移相処理を施す。リーダ/ライタ100と非接触ICカード200との距離が不感帯の中心近傍にある場合であっても、そのような所定の移相処理を施すことで、二値化後の波形が復号処理に支障の無いものとなり、通信エラーを回避することが出来る。
【0093】
この所定の移相処理は、ベースバンド信号に対して、基本波と三次高調波との間の相対的な位相差を60°ずらすことで、基本波と三次高調波との間の位相差を無くす処理であり、かかる処理により通信エラーを回避することが出来る。この所定の移相処理を実現する移相回路114をリーダ/ライタ100に設けることで、受信信号の最大電圧振幅が大きく、ICを用いることが難しいリーダ/ライタ100において、位相反転現象への対策を採ることができる。
【0094】
そして、この移相処理を実現する移相回路114は、汎用のアナログ部品だけで実現することが可能であり、専用設計のICを用意する必要が無いので、低コストで実現することが可能である。そして、所定の移相処理を実行する移相回路114は、検波回路の出力に従属接続する方式であるので、処理前後の効果をオシロスコープ等で目視によって確認することができる。
【0095】
なお、上述の説明では、リーダ/ライタ100に所定の移相処理を実現する移相回路114を組み込んだ構成について説明したが、非接触ICカード200にも、上述の所定の移相処理を実現する回路を組み込んでもよい。非接触ICカード200にも、上述の移相処理を実行する回路を組み込むことで、リーダ/ライタ100と非接触ICカード200との間の距離が上述の不感帯にある場合であっても正常な通信を実行することが可能となる。
【0096】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明は、信号処理回路、リーダ/ライタ、非接触ICカード及び信号処理方法に適用可能である。
【符号の説明】
【0098】
100 リーダ/ライタ
102 制御部
104 ROM
106 RAM
108 記憶部
110 信号処理回路
112 復調回路
114 移相回路
116a、116b 二値化回路
118 選択回路
120 変調回路
122 通信部
124 アンテナ
130 バス
135 HPF
136 APF
137 LPF
138 減算器
200 非接触ICカード
202 制御部
204 ROM
206 RAM
208 記憶部
210 バス
212 変調回路
214 通信部
216 復調回路
218 アンテナ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非接触通信により受信した信号に対して復調処理を実行して復調信号を得る復調部と、
前記復調部により得られる復調信号に対する二値化処理を実行する二値化部と、
前記復調部と前記二値化部との間に設けられ、前記復調部により得られて前記二値化部での二値化に適さない復調信号に対して前記二値化部での二値化処理に適した復調信号を得る移相処理を施す移相部と、
を備える、信号処理回路。
【請求項2】
前記移相部は、前記復調部により得られる復調信号の基本波と三次高調波との間に60度の位相差を生じさせる移相処理を該復調信号に対して施す、請求項1に記載の信号処理回路。
【請求項3】
前記移相部は、前記復調部により得られる復調信号の所定の周波数以下の帯域を減衰させるハイパスフィルタにより構成される、請求項2に記載の信号処理回路。
【請求項4】
前記移相部は、前記復調部により得られる復調信号の移相を変化させるオールパスフィルタと、前記復調部により得られる復調信号の所定の周波数以下の帯域を減衰させるローパスフィルタと、前記オールパスフィルタの出力から前記ローパスフィルタの出力を減算する減算器と、により構成される、請求項2に記載の信号処理回路。
【請求項5】
前記移相部は、前記復調部により得られる復調信号をデジタル信号に変換するA/D変換部と、前記A/D変換部が変換したデジタル信号に対するフィルタリングを行うデジタルフィルタと、前記デジタルフィルタの出力を遅延させるディレイ手段と、により構成される、請求項2に記載の信号処理回路。
【請求項6】
前記移相部は、前記復調部により得られる復調信号に対してソフトウェア処理により移相処理を施す、請求項1に記載の信号処理回路。
【請求項7】
前記移相部は、該移相部の前後における信号処理で生じる位相ずれを考慮した移相処理を実行することで前記復調部における復調処理と前記二値化部での二値化処理との間において復調信号の基本波と三次高調波との間に60度の位相差を生じさせる移相処理を該復調信号に対して施す、請求項2に記載の信号処理回路。
【請求項8】
前記二値化部は、
前記復調部により得られる復調信号をそのまま二値化する第1の二値化部と、
前記移相部により移相処理が施された復調信号を二値化する第2の二値化部と、
を備え、
前記第1の二値化部または前記第2の二値化部により二値化された信号の内、復号処理に適した信号を選択する選択部をさらに備える、請求項1に記載の信号処理回路。
【請求項9】
非接触通信によりICカードから信号を受信するアンテナと、
前記アンテナが非接触通信により受信した信号に対して復調処理を実行して復調信号を得る復調部と、
前記復調部により得られる復調信号に対する二値化処理を実行する二値化部と、
前記復調部と前記二値化部との間に設けられ、前記復調部により得られて前記二値化部での二値化に適さない復調信号に対して前記二値化部での二値化処理に適した復調信号を得る移相処理を施す移相部と、
を備える、リーダ/ライタ。
【請求項10】
非接触通信によりリーダ/ライタから信号を受信するアンテナと、
前記アンテナが非接触通信により受信した信号に対して復調処理を実行して復調信号を得る復調部と、
前記復調部により得られる復調信号に対する二値化処理を実行する二値化部と、
前記復調部と前記二値化部との間に設けられ、前記復調部により得られて前記二値化部での二値化に適さない復調信号に対して前記二値化部での二値化処理に適した復調信号を得る移相処理を施す移相部と、
を備える、非接触ICカード。
【請求項11】
非接触通信により受信した信号に対して復調処理を実行して復調信号を得る復調ステップと、
前記復調ステップにより得られる復調信号に対する二値化処理を実行する二値化ステップと、
前記復調ステップと前記二値化ステップとの間で実行し、前記復調ステップにより得られて前記二値化ステップでの二値化に適さない復調信号に対して前記二値化ステップでの二値化処理に適した復調信号を得る移相処理を施す移相ステップと、
を備える、信号処理方法。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate


【公開番号】特開2011−205368(P2011−205368A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−70259(P2010−70259)
【出願日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】