説明

信号処理装置及び信号処理方法

【課題】既存のリーダライタに対して簡単に設置できる信号処理装置を用いて、当該既存のリーダライタの通信距離を容易かつ十分に延長する。
【解決手段】本発明の信号処理装置は、リーダライタから、非接触通信装置に送信される第1のデータで変調された第1の搬送波を、第1のアンテナを用いて受信し、前記第1の搬送波を増幅することにより第2の搬送波を生成し、前記第1のデータで前記第2の搬送波を変調し、前記第1のデータで変調された前記第2の搬送波を、前記第2のアンテナを用いて前記非接触通信装置に送信し、前記非接触通信装置から、前記非接触通信装置のアンテナの負荷変調により返信される第2のデータを、前記第2のアンテナを用いて受信し、前記第2のデータに基づいて前記第1のアンテナのインピーダンスを変化させる負荷変調を行うことにより、前記第2のデータを前記リーダライタに送信する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、信号処理装置及び信号処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非接触ICカードとリーダライタとの間でデータを非接触通信する通信システムは、例えば、店舗の決済端末、オフィスの入退室制御端末、交通機関の自動改札など、様々な用途で使用されている。これらの既に設置されて運用されている通信システム全体を変更したり、リーダライタの通信性能を変更したりするためには、リーダライタの改造作業や交換作業、その後の技術検討など、コスト及び作業負担の面で多大な投資が必要となる。
【0003】
例えば、店舗に既設されているリーダライタの通信距離を延長したい場合や、通信エリアを水平方向に拡大したい場合は、リーダライタの交換若しくは改造という対応が必要となる。ところが、既存のリーダライタを交換する場合は、交換コストがかさんでしまう、また、リーダライタの交換により、リーダライタと上位装置との間の通信インターフェースの互換性がとれなくなるという不都合がある。また、リーダライタを改造する場合は、リーダライタ内部のアナログ回路やリーダライタの周辺環境による電磁気的な影響を考慮しなければならず、改造に技術的制約や検討事項が発生してくるという不都合がある。
【0004】
このため、例えば特許文献1〜3には、既存のリーダライタの通信距離を延長したり、通信エリアを拡大したりするために、共振アンテナコイルからなるブースターアンテナを、リーダライタのアンテナと対面するように配置することが提案されている。該ブースターアンテナにより、リーダライタと非接触ICカード間の磁界を共振させて共振回路のQ(Quality factor)を強めることにより、リーダライタの通信距離が延長される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−323019号公報
【特許文献2】特開2008−306689号公報
【特許文献3】特開2000−138621号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1〜3記載の従来のブースターアンテナを用いてリーダライタの通信距離を延長する技術は、以下のような課題がある。
【0007】
第1に、上記従来のブースターアンテナは、アンテナコイル同士の電磁結合及び共振現象により、リーダライタの磁界を増幅させている。このため、外来の金属体や、アンテナコイルの条件(例えば、アンテナのインダクタンスL、キャパシタンスCや、アンテナの配置に応じて定まる結合係数K(d)など)に起因して、リーダライタの通信距離が短くなるという問題が生じうる。この理由は、上記外来の金属体による磁束の減少(渦電流)や、アンテナコイル間の共振周波数のずれ(共振の劣化)、アンテナコイルの電磁結合の減少などが、リーダライタの通信距離に悪影響を及ぼすからである。
【0008】
第2に、上記従来のブースターアンテナでは、既存のリーダライタのアンテナコイルの共振周波数やインダクタンス、キャパシタンス、アンテナ形状、結合度を測定し、その測定結果に基づき、ブースターアンテナのインダクタンスL、キャパシタンスC、結合係数K(d)や、共振周波数を設計しなければならない。このため、ブースターアンテナ単独で各設計値を決定できず、既存のリーダライタや非接触ICカードの測定値に応じた調整が必要となる。従って、既存のリーダライタと非接触ICカードごとに個別に設計及び調整したブースターアンテナを設置しなければならないので、設置作業が繁雑かつ困難となる。
【0009】
第3に、上記従来のブースターアンテナは、アンテナコイル間の共振回路や結合係数を強めることを利用してリーダライタの通信距離を延長するものであるため、通信距離の延長効果が低いという課題もある。例えば、特許文献2記載の技術では、数mm〜15mm程度しか通信距離を延長することができない。さらに、リーダライタと非接触ICカード間で既に共振回路が最大にまで調整されている場合、当然ながら、通信距離を延長することはできず、また、ブースターアンテナの配置作業が現実的には困難である場合がある。
【0010】
そこで、本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、既存のリーダライタに対して簡単に設置でき、当該既存のリーダライタの通信距離を容易かつ十分に延長することが可能な、新規かつ改良された信号処理装置及び信号処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、リーダライタと、前記リーダライタと非接触通信する非接触通信装置との間に配置される信号処理装置であって、前記リーダライタと非接触通信するための第1のアンテナと、前記第1のアンテナに並設され、前記非接触通信装置と非接触通信するための第2のアンテナと、前記第1のアンテナと前記第2のアンテナの間に配置され、前記第1のアンテナと前記第2のアンテナの間で磁界を遮断する金属体と、少なくとも外部電源から供給される外部電力を用いて搬送波を増幅する増幅部と、前記搬送波を変調する変調部と、前記第1のアンテナのインピーダンスを変化させる負荷変調部と、を備え、前記リーダライタから、前記非接触通信装置に送信される第1のデータで変調された第1の搬送波を、前記第1のアンテナを用いて受信し、前記増幅部により前記第1の搬送波を増幅することにより第2の搬送波を生成し、前記変調部により前記第1のデータで前記第2の搬送波を変調し、前記第1のデータで変調された前記第2の搬送波を、前記第2のアンテナを用いて前記非接触通信装置に送信し、前記非接触通信装置から、前記非接触通信装置のアンテナの負荷変調により返信される第2のデータを、前記第2のアンテナを用いて受信し、前記負荷変調部により前記第2のデータに基づいて前記第1のアンテナのインピーダンスを変化させる負荷変調を行うことにより、前記第2のデータを前記リーダライタに送信する、通信補助装装置が提供される。
【0012】
前記第1のデータ及び前記第2のデータをデジタル処理するデジタル処理部をさらに備え、前記デジタル処理部は、前記リーダライタから受信した前記第1のデータの通信方式を、前記リーダライタが対応する第1の通信方式から前記非接触通信装置が対応する第2の通信方式に変更し、前記非接触通信装置から受信した前記第2のデータの通信方式を、前記非接触通信装置が対応する前記第2の通信方式から前記リーダライタが対応する前記第1の通信方式に変更するようにしてもよい。
【0013】
前記非接触通信装置のアンテナの負荷変調により前記第2のアンテナに生じる前記第2のデータの信号を検波する検波部と、前記検波部により検波された前記第2のデータの信号を増幅する受信増幅部と、をさらに備え、前記リーダライタによる前記第2のデータの受信性能よりも高くなるように、前記検波部及び前記受信増幅部による前記第2のデータの受信性能が調整されるようにしてもよい。
【0014】
前記変調部により前記第1のデータで前記第2の搬送波を変調するときの変調度が、前記信号処理装置の使用環境又は前記非接触通信装置の仕様に応じて、前記リーダライタにより前記第1のデータで前記第1の搬送波を変調するときの変調度とは異なる変調度に調整されるようにしてもよい。
【0015】
前記第1のアンテナと前記金属体との間に配置される第1の磁性体をさらに備えるようにしてもよい。
【0016】
前記第2のアンテナと前記金属体との間に配置される第2の磁性体をさらに備えるようにしてもよい。
【0017】
前記第1のアンテナで受信された前記第1の搬送波を整流する整流部をさらに備え、前記増幅部は、前記外部電力と、前記整流部により前記第1の搬送波を整流することにより得られる内部電力とを用いて、前記第1の搬送波を増幅するようにしてもよい。
【0018】
前記第1及び第2のアンテナの通信面が前記リーダライタのアンテナの通信面に対して傾斜するように、前記信号処理装置が配置されるようにしてもよい。
【0019】
また、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、リーダライタと、前記リーダライタと非接触通信する非接触通信装置との間に配置される信号処理装置による信号処理方法において、前記リーダライタから、前記非接触通信装置に送信される第1のデータで変調された第1の搬送波を、第1のアンテナを用いて受信するステップと、少なくとも外部電源から供給される外部電力を用いて前記第1の搬送波を増幅することにより第2の搬送波を生成するステップと、前記第1のデータで前記第2の搬送波を変調するステップと、前記第1アンテナとの間に金属体が介在するように前記第1のアンテナに並設された第2のアンテナを用いて、前記第1のデータで変調された前記第2の搬送波を、前記非接触通信装置に送信するステップと、前記非接触通信装置から、前記非接触通信装置のアンテナの負荷変調により返信される第2のデータを、前記第2のアンテナを用いて受信するステップと、前記第2のデータに基づいて前記第1のアンテナのインピーダンスを変化させる負荷変調を行うことにより、前記第2のデータを前記リーダライタに送信するステップと、を含む、信号処理方法が提供される。
【0020】
上記構成によれば、信号処理装置において、第1のアンテナを用いて、リーダライタから第1のデータで変調された第1の搬送波が受信され、外部電力を用いて第1の搬送波が増幅することにより、第2の搬送波が生成され、第1の搬送波に含まれる第1のデータで第2の搬送波が変調され、第2のアンテナを用いて、第1のデータで変調された第2の搬送波が非接触通信装置に送信され、第2のアンテナを用いて、非接触通信装置から、該非接触通信装置のアンテナの負荷変調により返信される第2のデータが受信され、該第2のデータに基づいて第1のアンテナのインピーダンスを変化させる負荷変調を行うことにより、第2のデータがリーダライタに送信される。これにより、信号処理装置は、リーダライタから非接触通信装置に送信される送信データを、第1の搬送波よりも磁界強度が高い第2の搬送波を用いて非接触通信装置に再送信し、非接触通信装置から返信される返信データを、非接触通信装置と同様な方法でリーダライタに再返信することができる。このように、信号処理装置は、リーダライタと非接触通信装置の間の非接触通信を好適に中継して、両者間の通信距離を延長できる。
【発明の効果】
【0021】
以上説明したように本発明によれば、既存のリーダライタに対して簡単に設置でき、当該既存のリーダライタの通信距離を容易かつ十分に延長することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る通信システムを示す概略図である。
【図2】同実施形態に係るリーダライタと非接触ICカードを示す回路構成図である。
【図3】同実施形態に係る信号処理装置のアンテナ構成を示す斜視図である。
【図4】同実施形態に係る信号処理装置の電源構成を示すブロック図である。
【図5】同実施形態に係る信号処理装置の通信機能に関する構成を示すブロック図である。
【図6A】同実施形態に係る信号処理装置による信号処理方法を示すフローチャートである。
【図6B】同実施形態に係る信号処理装置による信号処理方法を示すフローチャートである。
【図7】同実施形態に係る複数の信号処理装置をリーダライタに対して傾けて配置した通信システムを示す概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0024】
なお、説明は以下の順序で行うものとする。
1.非接触通信システムの概要
2.リーダライタと非接触ICカードの構成
3.信号処理装置の構成
3.1.信号処理装置のアンテナ構成
3.2.信号処理装置の電源構成
3.3.信号処理装置の通信機能の構成
3.4.信号処理装置によるリーダライタの通信仕様の変更
4.信号処理方法
5.応用例
6.まとめ
【0025】
[1.非接触通信システムの概要]
まず、図1を参照して、本発明の第1の実施形態に係る信号処理装置が用いられる通信システムの概略構成について説明する。図1は、本実施形態に係る通信システムを示す概略図である。
【0026】
図1に示すように、本実施形態に係る通信システムは、リーダライタ1と、非接触ICカード2等の非接触通信装置とが非接触通信するためのシステムである。非接触通信は、所定周波数(例えば、13.56MHz、4.915MHz)の高周波磁界を媒体として用いた近距離無線通信(Near Field Communication:NFC)である。この非接触通信は、例えば、通信距離が2mm程度までの密着型(国際規格:ISO/IEC10536)、数cm〜10cm程度の近接型(国際規格:ISO/IEC14443)、50cm〜1m程度の近傍型(国際規格:ISO/IEC15693)のNFCを含む。
【0027】
なお、以下の説明では、最も多用されている近接型の非接触通信装置として、非接触ICカード2を用いる例について説明するが、本発明はかる例に限定されない。本発明の非接触通信装置は、非接触通信回路とアンテナコイルを用いた非接触通信機能を備えた装置であれば、例えば、RFIDタグ、携帯端末(例えば、携帯型音楽/映像プレーヤ、携帯型ゲーム機、ICレコーダ、PDA)、ゲーム機、撮像装置(例えば、デジタルカメラ、デジタルビデオカメラ)、電子財布、パーソナルコンピュータなど、任意の電子機器に適用できる。また、
【0028】
図1Aに示すように、リーダライタ1は、非接触ICカード2と非接触通信することで、非接触ICカード2からデータを読み出したり、非接触ICカード2にデータを書き込んだりするための装置である。かかるリーダライタ1は、非接触ICカード2と非接触通信するためのアンテナ11と、アンテナ11に接続されたRF基板12とを備えている。アンテナ11は、例えば、金属製のアンテナコイルからなるループアンテナであり、RF信号となる電磁界を発生させる。
【0029】
リーダライタ1は、上位制御装置3(ホスト装置)と有線接続されるとともに、交流電源、バッテリ等の外部電源4にも接続されている。リーダライタ1は、上位制御装置3により制御され、外部電源4からの電力を用いて通信動作を行う。非接触ICカード2の用途の多様化に伴って、リーダライタ1が搭載される上位制御装置3(ホスト装置)の種類も多様化している。上位制御装置3は、例えば、自動改札機、店舗に設置される会計装置、入退室管理装置、パーソナルコンピュータ、情報家電、携帯端末、各種の商品や乗車券用の自動販売機、POS端末、キオスク端末、金融機関のATMなど、様々な端末装置として利用される。なお、リーダライタ1は、これらの上位制御装置3に内蔵されてもよいし、外付けされてもよい。
【0030】
非接触ICカード2は、ユーザが携帯可能な大きさを有するカード型の非接触通信装置である。非接触ICカード2は、薄型のカード外装内に、リーダライタ1と非接触通信するためのアンテナ21と、所定の演算処理を実行可能な集積回路(IC)が搭載されたICチップ22とを備えている。非接触ICカード2のアンテナ21も、上記リーダライタ1のアンテナ11と同様、例えば、金属製のアンテナコイルからなるループアンテナである。
【0031】
かかる非接触ICカード2は、リーダライタ1との間で、電磁波を用いて非接触通信することが可能である。従って、非接触ICカード2を、リーダライタ1の通信可能範囲内(リーダライタ1が発する電磁波の有効範囲内)に位置づける、即ち、非接触ICカード2をリーダライタ1にかざすだけで、リーダライタ1は非接触ICカード2内のデータを読み書きすることができる。かかる非接触ICカード2は、リーダライタ1にかざすだけでデータ通信できるので使い易く、迅速にデータを送受信でき、改造・変造しにくいため安全性が高く、データを書き換えることでカード自体を何度も再利用可能であるといった利点がある。そのため、非接触ICカード2の用途は多様化しており、例えば、電子マネーカード、交通機関カード、個人認証用カード、ポイントカード、クーポンカード、電子チケットカード、電子決済カードなどに用いられている。
【0032】
上記リーダライタ1と非接触ICカード2との間で行われる非接触通信は、例えば数cm〜10cm程度の近接無線通信である。かかる非接触通信は、例えば、キャリア(搬送波)として所定周波数(例えば13.56MHz)の周波数帯を利用し、212kbpsの通信速度で行われ、副搬送波を使用しない対称通信である。また、変調方式としては、例えば、ASK(Amplitude Shift Keying)変調方式、符号化方式としては、例えばマンチェスター符号化方式を使用できる。このような非接触通信によって、例えば、リーダライタ1が上位制御装置3からの命令に従って非接触ICカード2に対して各種のコマンドを発行し、非接触ICカード2がこのコマンドに対して応答する方式でトランザクションが繰り返され、所定のサービスに関する情報が送受信される。
【0033】
ここで、リーダライタ1と非接触ICカード2との間の非接触通信動作について説明する。まず、リーダライタ1のRF基板12は、例えば13.56MHzの高周波電磁波からなるキャリアを送信データで変調し、該変調したキャリアを、アンテナ11を用いて送信する。ここで、送信データは、リーダライタ1から非接触ICカード2に送信されるデータ(第1のデータ)であり、例えば、各種のコマンドやサービスデータである。
【0034】
次いで、非接触ICカード2のICチップ22は、リーダライタ1から送信されたキャリアをアンテナ21で受信し、当該アンテナ21に誘起した受信電圧の直流成分を駆動電圧として利用し、受信電圧の交流成分を送信データとして取り出す。そして、非接触ICカード2のICチップ22は、この送信データに基づいて所定の処理を行い、リーダライタ1に返信する返信データを生成する。ここで、返信データは、非接触ICカード2からリーダライタ1に返信されるデータ(第2のデータ)であり、例えば、各種のコマンドやサービスデータである。
【0035】
さらに、非接触ICカード2のICチップ22は、該返信データに基づいてアンテナ21のインピーダンス(負荷)を変化(例えばオン/オフ)させる負荷変調を行う。この結果、非接触ICカード2のアンテナ21に流れる電流によって反磁界が発生し、該反磁界は、リーダライタ1のアンテナ11内を通過すると、電流に変換され、アンテナ11に流れる電流に重畳される。リーダライタ1のRF基板12は、当該アンテナ11に流れる電流の微細な変化を検波することで、非接触ICカード2からの返信データを得ることができる。
【0036】
このように、非接触ICカード2は、リーダライタ1から発生されるキャリアの電磁界を電力に変換して電源として利用するとともに、アンテナ21を用いた負荷変調により、リーダライタ1に対して応答信号(返信データ)を返信する。このため、非接触ICカード2は、電源を具備していなくとも、リーダライタ1と通信することが可能である。
【0037】
以上のような通信システムでは、リーダライタ1のアンテナ11から送信されるキャリアの磁界強度を高めれば、リーダライタ1と非接触ICカード2間の通信距離が延びる。しかし、図1Aに示すように、既存のリーダライタ1の通信距離は、該リーダライタ1の通信性能(例えばRF基板12の増幅回路のスペックやアンテナ11のQやインダクタンスなど)により限られており、所定の通信距離(例えば50mm)内に位置づけられた非接触ICカード2としか通信することができない。既存のリーダライタ1の通信距離を事後的に向上させる方法としては、リーダライタ1を改造や交換することが考えられるが、この場合には、当該改造や交換に伴うコストがかさんでしまう。
【0038】
そこで、本実施形態では、図1Bに示すように、既存のリーダライタ1を改造や交換することなく、当該リーダライタ1の通信性能を高めるために、既存の低通信性能のリーダライタ1の周辺に信号処理装置10を事後的に追加設置する。この信号処理装置10は、既存のリーダライタ1に対して事後的に追加設置されるアダプタ式の通信補助処理装置である。当該信号処理装置10は、当該既存のリーダライタ1と非接触ICカード2との間の通信を補助する機能と、当該既存のリーダライタ1の通信性能(例えば、通信距離、受信性能、送信データの変調度など)や通信方式(例えば、通信規格、ビットレートなど)を変更する機能を有する。
【0039】
かかる信号処理装置10は、リーダライタ1の通信可能範囲内に設置される。このとき、信号処理装置10は、リーダライタ1の外装に接触するようにリーダライタ1に取り付けられてもよいし、リーダライタ1の外装から所定距離だけ離隔して配置されてもよい。さらに、信号処理装置10は、上記外部電源4と接続されており、外部電源4から供給される電力を用いて動作する。なお、本実施形態では、リーダライタ1と信号処理装置10は、同一の外部電源4に接続されているが、別々の電源にそれぞれ接続されてもよい。
【0040】
また、上記信号処理装置10は、リーダライタ1と非接触通信する機能と、該信号処理装置10にかざされた非接触ICカード2とも非接触通信する機能を兼備する。このために、非接触ICカード2は、リーダライタ1と非接触通信するための第1のアンテナと、非接触ICカード2と非接触通信するための第2のアンテナを具備している(後述する図4〜図6参照。)。当該信号処理装置10は、当該両アンテナを用いて、リーダライタ1及び非接触ICカード2とそれぞれ独立的に非接触通信し、該リーダライタ1と非接触ICカード2間の非接触通信を中継する機能を有する。
【0041】
具体的にはまず、信号処理装置10は、第1のアンテナを用いて、リーダライタ1から、非接触ICカード2に対する送信データで変調された第1のキャリア(第1の搬送波)を受信し、該第1のキャリアを復調して送信データを得る。次いで、信号処理装置10は、該第1のキャリアの信号を増幅して第2のキャリア(第2の搬送波)の信号を生成するとともに、該第2のキャリアを上記送信データで変調したRF信号を、第2のアンテナを用いて非接触ICカード2に送信する。さらに、非接触ICカード2から、負荷変調により、上記送信データに対する返信データが送信されると、信号処理装置10は、当該返信データを第2のアンテナを用いて受信し、該返信データに基づいて第1のアンテナの負荷変調を行い、該返信データをリーダライタ1に返信する。
【0042】
このように、信号処理装置10は、リーダライタ1から送信された送信データを非接触ICカード2に再送信するとともに(リピート送信)、非接触ICカード2から返信された返信データをリーダライタ1に再返信する(リピート返信)。このとき、信号処理装置10は、外部電源4からの電力を用いて、リーダライタ1からの第1のキャリアを増幅して、強い磁界強度の第2のキャリアを非接触ICカード2に送信する。これにより、信号処理装置10は、リーダライタ1の通信性能を補強して、リーダライタ1の通信距離を延長することができる。例えば、図1Aに示したように、既存のリーダライタ1の通信距離が50mmである場合でも、該リーダライタ1の周辺に信号処理装置10を設置するだけで、図1Bに示すように、リーダライタ1の通信距離を100mm以上延長することが可能となる。
【0043】
以上説明したように、本実施形態に係る信号処理装置10は、外部電源4を用いてリーダライタ1の通信性能等を能動的に変更することができる。従って、リーダライタ1や非接触ICカード2のスペック(例えば、アンテナのインダクタンスやキャパシタンス等)や共振周波数にかかわらず、該信号処理装置10を単純にリーダライタ1の近傍に設置するだけで、既存のリーダライタ1の通信性能や通信方式を容易に変更することができる。
【0044】
このように本実施形態に係る信号処理装置10は、リーダライタ1と非接触ICカード2間に介在し、両者のRF信号を中継して、リーダライタ1の通信性能や通信方式ら主体的に変更する能動的な装置であり、当該変更機能を実行するためのIC等の制御回路を具備している。これに対し、上記特許文献1〜3に記載された従来のブースターアンテナは、あくまでも単純な電気部品(リーダライタ1と非接触ICカード2間の共振現象を利用して通信距離を延ばすためのインダクタ及びキャパシタ等)のみを具備した受動的な装置であり、本実施形態に係る信号処理装置10とは相違する。なお、本実施形態に係る信号処理装置10の構成の詳細については後述する。
【0045】
[2.リーダライタと非接触ICカードの構成]
次に、図2を参照して、本実施形態に係るリーダライタ1と非接触ICカード2の構成について詳細に説明する。図2は、本実施形態に係るリーダライタ1と非接触ICカード2を示す回路構成図である。
【0046】
まず、リーダライタ1の構成について説明する。図2に示すように、リーダライタ1は、概略的にはアンテナ11とRF基板12とを備える。
【0047】
アンテナ11は、例えば、RF信号を送受信するためのループアンテナで構成され、所定のインダクタンスを有するコイルL3(インダクタ)と、所定の静電容量を有するキャパシタC3を備える。アンテナ11は、キャリア信号生成部13が生成したキャリア信号に応じたキャリアを非接触ICカード2に送信し、非接触ICカード2からの応答信号を受信する。図2の例のアンテナ11は、コイルL3とキャパシタC3とからなる共振回路で構成されているが、さらに抵抗Rを備えてもよい。
【0048】
次に、リーダライタ1のRF基板12の各部について説明する。RF基板12は、キャリア信号生成部13と、復調部14と、制御/データ処理部15と、記憶部16を備える。
【0049】
キャリア信号生成部13は、制御/データ処理部15からのキャリア信号生成命令を受け、該命令に応じたキャリア信号を生成する。図2の例では、キャリア信号生成部13は、発振器133からのキャリア信号を送信データでASK変調する変調回路131と、該変調回路131から出力されたキャリア信号を増幅する増幅回路132とから構成されている。なお、キャリア信号生成部13が生成するキャリア信号には、例えば、非接触ICカード2に対する各種処理命令や処理するデータ(送信データ)を含めることができる。
【0050】
復調部14は、例えば、アンテナ11のアンテナ端における電圧の振幅変化を包絡線検波し、検波した信号を増幅器により2値化することによって、非接触ICカード2からの応答信号を復調する。なお、復調部14は、例えば、アンテナ11のアンテナ端における電圧の位相変化を用いて応答信号を復調することもできる。なお、図2では示していないが、アンテナ11と復調部14との間にフィルタリングを行うためのフィルタ回路を設けてもよい。
【0051】
制御/データ処理部15は、例えば、MPU(Micro Processing Unit)などの演算処理装置で構成される。制御/データ処理部15は、例えば、上位制御装置3と接続されており、上位制御装置3からの指示に応じて、リーダライタ1の各種動作を制御する。また、制御/データ処理部15は、復調部14が復調したデータを上位制御装置3へ送信し、また、該データに基づいてキャリア信号生成命令を生成する。
【0052】
記憶部16は、制御/データ処理部15を動作させるためのプログラム、上位制御装置3や非接触ICカード2から取得したデータ、制御/データ処理部15によって演算されたデータなどといった各種データを記憶する。記憶部16は、例えば、ROM(Read Only Memory)と、RAM(Random Access Memory)と、フラッシュメモリ(flash memory)などの不揮発性メモリ(nonvolatile memory)とを備える。ROMは、制御/データ処理部15が使用するプログラムや演算パラメータなどの制御用データを記憶する。RAMは、制御/データ処理部15により実行されるプログラム、演算結果、実行状態などのデータを一次記憶する。不揮発性メモリは、非接触通信を用いた各種サービスに関するデータなどを保存する。
【0053】
なお、リーダライタ1は、上位制御装置3などの外部装置と接続するための不図示のインターフェースを備えている。該インターフェースは、例えば、UART(Universal Asynchronous Receiver Transmitter)や、ネットワーク端子などである。
【0054】
次に、引き続き図2を参照して、非接触ICカード2の構成について説明する。図2に示すように、非接触ICカード2は、概略的にはアンテナ21とICチップ22とを備える。
【0055】
アンテナ21は、RF信号を送受信するためのループアンテナで構成され、所定のインダクタンスを有するコイルL1(インダクタ)と、所定の静電容量を有するキャパシタC1を備える。このように、図2の例のアンテナ21は、コイルL1とキャパシタC1とからなる共振回路で構成されているが、さらに抵抗Rを備えてもよい。該アンテナ21は、キャリアの受信に応じて電磁誘導により誘起電圧を生じさせ、所定の共振周波数で誘起電圧を共振させた受信電圧を出力する。ここで、アンテナ21における共振周波数は、例えば、13.56MHzなどキャリアの周波数に合わせて設定される。かかる構成のアンテナ21は、リーダライタ1からキャリアを受信する。また、アンテナ21は、ICチップ22の負荷変調部29による負荷変調によって、応答信号をリーダライタ1に送信する。リーダライタ1は、当該負荷変調によって生じるアンテナ21のインピーダンスの変化を、非接触ICカード2からの応答信号として検出する。
【0056】
次に、非接触ICカード2のICチップ22の各部について説明する。ICチップ22は、キャリア検出部23と、整流部24と、レギュレータ25と、復調部26と、データ処理部27と、記憶部28と、負荷変調部29とを備える。なお、図2では示していないが、ICチップ22は、例えば、過電圧や過電流がデータ処理部27に印加されることを防止するための保護回路(図示せず。)をさらに備えてもよい。該保護回路としては、例えば、ダイオード等で構成されたクランプ回路を用いることができる。
【0057】
キャリア検出部23は、アンテナ21から伝達される受信電圧に基づいて、例えば矩形の検出信号を生成し、当該検出信号をデータ処理部27へ伝達する。データ処理部27は、上記検出信号をデータ処理のための処理クロックとして用いる。ここで、上記検出信号は、アンテナ21から伝達される受信電圧に基づくものであるので、リーダライタ1から送信されるキャリアの周波数と同期することとなる。従って、非接触ICカード2は、キャリア検出部23を備えることによって、各種の処理をリーダライタ1と同期して行うことができる。
【0058】
整流部24は、例えば、上記コイルL1に直列接続されるダイオードD1と、コイルL1に並列接続されるキャパシタC2とから構成される。該整流部24は、アンテナ21で受信したキャリアの受信電圧を整流する。レギュレータ25は、整流部24により整流された受信電圧を平滑、定電圧化し、駆動電圧としてデータ処理部27に出力する。このように、レギュレータ25は、該受信電圧の直流成分から、データ処理部27の駆動電圧を生成する。
【0059】
復調部26は、整流部24により整流された受信電圧に基づいて、リーダライタ1から送信されたキャリア信号を復調して、該キャリア信号に含まれる送信データ(例えば、ハイレベルとローレベルとの2値化されたデータ信号)を出力する。このように、復調部26は、当該受信電圧の交流成分に基づいて、リーダライタ1から送信されたキャリアに含まれる送信データを得る。
【0060】
データ処理部27は、例えば、MPUなどの演算処理装置で構成される。データ処理部27は、レギュレータ25から出力される駆動電圧を電源として駆動し、復調部26において復調されたデータを処理する。また、データ処理部27は、処理結果に応じて、リーダライタ1に応答信号(返信データ)を送信するために、負荷変調部29による負荷変調を制御するための制御信号を生成して、負荷変調部29に出力する。
【0061】
記憶部28は、データ処理部27を動作させるためのプログラム、リーダライタ1から取得したデータ、データ処理部27によって演算されたデータなどといった各種データを記憶する。記憶部28は、例えば、ROMと、RAMと、不揮発性メモリとを備える。ROMは、データ処理部27が使用するプログラムや演算パラメータなどの制御用データを記憶する。RAMは、データ処理部27により実行されるプログラム、演算結果、実行状態などのデータを一次記憶する。不揮発性メモリは、非接触通信を用いた各種サービスに関するデータなどを保存する。不揮発性メモリとしては、例えば、フラッシュメモリ、EEPROM(Electrically Erasable and Programmable Read Only Memory)、MRAM(Magnetoresistive Random Access Memory)、FeRAM(Ferroelectric Random Access Memory)、PRAM(Phase change Random Access Memory)などが用いられる。
【0062】
負荷変調部29は、非接触ICカード2からリーダライタ1に対する応答信号に応じて、アンテナ21の負荷(インピーダンス)を変化させる負荷変調を行う。ここで、負荷変調は、非接触ICカード2がリーダライタ1に、返信データを表す応答信号を送信するために、非接触ICカード2がアンテナ21のインピーダンス(負荷)を選択的に変化させる変調方式である。
【0063】
詳細には、負荷変調部29は、例えば、アンテナ21の共振回路と並列に接続される負荷ZとスイッチSW1を備える。負荷Zは、例えば、所定の抵抗値を有する抵抗で構成される。また、スイッチSW1は、例えば、pチャネル型のMOSFET(Metal−Oxide−Semiconductor Field−Effect Transistor)や、nチャネル型のMOSFETで構成される。負荷変調部29は、データ処理部27からの制御信号に基づき、スイッチSW1を用いて負荷Zをオン/オフする。これにより、アンテナ21のコイルL1に流れる電流が変化するため、電磁誘導により該アンテナ21から反磁界が発生する。かかる反磁界により、非接触ICカード2からリーダライタ1に応答信号(返信データ)が送信される。リーダライタ1は、当該反磁界の影響によってアンテナ11のアンテナ端に生じる電圧の変化を検出することによって、上記非接触ICカード2から送信された応答信号を受信する。
【0064】
以上説明したように、本実施形態に係る通信システムでは、リーダライタ1がキャリアを送信し、非接触ICカード2が負荷変調を行うことによって、リーダライタ1と非接触ICカード2との間で非接触通信が行われる。なお、リーダライタ1と非接触ICカード2との間の通信効率は、例えば、リーダライタ1のアンテナ11を構成するコイルL3と、非接触ICカード2のアンテナ21を構成するコイルL1との結合係数K(d)によって変動する。具体的には、当該通信効率は、例えば、結合係数K(d)に比例する。ここで、dは、コイルL3とコイルL1の間の距離を表し、結合係数K(d)は、距離dに反比例し、透磁率μに比例する。
【0065】
[3.信号処理装置の構成]
次に、本実施形態に係る信号処理装置10の構成について説明する。以下では、説明の便宜上、信号処理装置10のアンテナ構成、電源構成、通信機能に関する構成の順で説明する。
【0066】
[3.1.信号処理装置のアンテナ構成]
まず、図3を参照して、本実施形態に係る信号処理装置10のアンテナ構成について説明する。図3は、本実施形態に係る信号処理装置10のアンテナ構成を示す斜視図である。
【0067】
図3に示すように、本実施形態に係る信号処理装置10は、2つのアンテナ31、32を備えており、リーダライタ1と非接触ICカード2それぞれに対して独立的に非接触通信することができる。アンテナ31(第1のアンテナ)は、リーダライタ1と非接触通信するためのアンテナであり、信号処理装置10のリーダライタ1側に、該リーダライタ1のアンテナ11と対向するように配置される。一方、アンテナ32(第2のアンテナ)は、非接触ICカード2と非接触通信するためのアンテナであり、信号処理装置10のリーダライタ1とは反対側(つまり、非接触ICカード2がかざされる側)に、リーダライタ1にかざされた非接触ICカード2のアンテナ21と対向するように配置される。
【0068】
アンテナ31、32はそれぞれ、RF信号を送受信するためのループアンテナで構成される。アンテナ31は、所定のインダクタンスを有するコイルL10と、所定の静電容量を有するキャパシタC10とを備え、該キャパシタC10は、該コイルL10の端部に、該コイルL10と並列に接続されている。同様に、アンテナ32も、所定のインダクタンスを有するコイルL11と、所定の静電容量を有するキャパシタC11とを備え、該キャパシタC11は、該コイルL11の端部に、該コイルL11と並列に接続されている。
【0069】
アンテナ31とアンテナ32は、信号処理装置10の下面側と上面側に並設されており、2つのアンテナ31、32の通信面(即ち、アンテナ31、32のコイルL10、L11が巻回されたループ面)が相互に平行となるように配置される。当該アンテナ31、32の通信面は、リーダライタ1のアンテナ11の通信面(アンテナ11のコイルL3が巻回されたループ面)とも平行である。さらに、かかるアンテナ31とアンテナ32の間には、該アンテナ31とアンテナ32の間の空間を分断する1つの金属体33及び2つの磁性体34、35が配置されている。
【0070】
金属体33は、例えば、少なくともアンテナ31、32のループ面よりも大きい面積を有する金属製の平板であり、アンテナ31とアンテナ32の間で磁界を遮断する機能を有する。金属体33は、例えば、金属、金属性繊維、又は、金属と他の材料を組み合わせた材料からなる。この金属体33は、金属材質であるので、金属体33の両側の磁界を遮断する作用を奏する。
【0071】
かかる金属体33をアンテナ31、32の間に介在させることにより、リーダライタ1のアンテナ11から発生する第1のキャリアの磁界36と、信号処理装置10のアンテナ31から発生する第2のキャリアの磁界37を遮断することができる。つまり、信号処理装置10の2つのアンテナ31、32のうち、アンテナ31は、第1のキャリアの磁界36によりリーダライタ1のアンテナ11と電磁結合し、アンテナ32は、第2のキャリアの磁界37により非接触ICカード2のアンテナ21と電磁結合する。ここで、信号処理装置10が、リーダライタ1と非接触ICカード2それぞれと独立的に非接触通信するためには、上記2つのアンテナ31、32の電磁結合を分離する必要がある。そこで、2つのアンテナ31、32の間に上記金属体33を挟むことにより、これら2つアンテナ31、32の電磁結合を切り離すことが可能となる。
【0072】
これにより、リーダライタ1がアンテナ11を用いて発生させた第1のキャリアの磁界36は、信号処理装置10のリーダライタ1側のアンテナ31にのみ作用し、非接触ICカード2側のアンテナ32や、非接触ICカード2のアンテナ21に作用しない。従って、当該第1のキャリアの磁界36により、当該アンテナ32及びアンテナ21が誘起しないので、該磁界36によって、アンテナ32を用いた信号処理装置10と非接触ICカード2との通信を阻害しないようにすることができる。一方、非接触ICカード2と通信するために信号処理装置10がアンテナ32を用いて発生させた第2のキャリアの磁界37は、リーダライタ1側のアンテナ31に作用しない。よって、当該第2のキャリアの磁界37により、当該アンテナ31及びアンテナ11が誘起しないので、該磁界37によって、アンテナ31を用いた信号処理装置10とリーダライタ1との通信を阻害しないようにすることができる。よって、上記金属体33を配置することで、2つの磁界36、37の相互干渉を防止できるので、信号処理装置10は、上記2つのアンテナ31、32を用いてリーダライタ1及び非接触ICカード2それぞれと好適に通信することができる。
【0073】
次に、磁性体34、35について説明する。上記のように、金属体33により、2つのアンテナ31、32相互の電磁結合を分離でき、かつ、2つの磁界36、37を遮断することができる。しかし、アンテナ31、32の直上又は直下に金属体33が存在するため、アンテナ31とリーダライタ1のアンテナ11間の電磁結合、及びアンテナ32と非接触ICカード2のアンテナ21間との電磁結合も減衰してしまう。
【0074】
そこで、かかる問題を解決するために、図3に示すように、金属体33の両側に2つの磁性体34、35をそれぞれ配置する、つまり、アンテナ31と金属体33の間に第1の磁性体34を配置し、該金属体33とアンテナ32の間に第2の磁性体35を配置する。この結果、リーダライタ1側から順に、アンテナ31、磁性体34、金属体33、磁性体35、アンテナ32が重畳配置された構造となる。
【0075】
磁性体34、35は、例えば、磁性材料を粉砕した後にシート状に圧縮形成したもの、又は、樹脂層の中に軟磁性材料の粉末を混入させた磁性シート(例えば、軟磁性フェライトゴムシート)などで構成される。磁性材料は、粉体間の電気抵抗が大きく渦電流損が小さい材料であり、例えば、軟磁性フェライト、アモルファス合金、パーマロイ、珪素鋼、センダスト合金等の軟磁性材料を用いることが好ましいが、かかる例に限定されない。また、磁性体34、35は、上記平板状の金属体33の両面に貼り付けられてもよいし、金属体33から所定距離だけ離隔して配置されてもよい。
【0076】
かかる磁性体34、35は、アンテナ21、32のコイルL3、L11から発生する磁界36、37の磁束を収束させて、アンテナ31、32付近に集める作用を奏する。例えば、磁性体34は、リーダライタ1のアンテナ11からアンテナ31に達した磁界36の磁束を曲げて、アンテナ31に収束させる。また、磁性体35は、非接触ICカード2のアンテナ21からアンテナ32に達した反磁界38の磁束を曲げて、アンテナ32に収束させる。
【0077】
このように、磁性体34、35を設置することにより、磁界36、37の磁束をアンテナ31、32に収束させ、金属体33によるアンテナ11、31間の電磁結合及びアンテナ21、32間の電磁結合の減衰を、軽減することが可能となる。従って、信号処理装置10のアンテナ31、32と、リーダライタ1のアンテナ11及び非接触ICカード2のアンテナ21との電磁結合を強めることができるので、信号処理装置10とリーダライタ1及び非接触ICカード2の間で、好適に磁界36、37、38、39を供給してデータを送受信することが可能となる。
【0078】
ここで、本実施形態に係る信号処理装置10のアンテナ構造と、通信距離を延長するための従来のブースターアンテナの構造を比較する。上記特許文献1〜3記載の従来技術では、共振回路のQを強くするためや、結合係数を高くするために、ブースターアンテナと言われる補助アンテナを用いている。ブースターアンテナは、リーダライタ1や非接触ICカード2それぞれのアンテナ11、21のインダクタンス、キャパシタンスに、ブースターアンテナのインダクタンス、キャパシタンスを結合させることにより、共振回路のQを高めたり、電磁結合を高めている。
【0079】
このため、従来のブースターアンテナのインダクタンス、キャパシタンス等の値は、該ブースターアンテナ単独では決定できず、リーダライタ1や非接触ICカード2のインダクタンス、キャパシタンス、結合度等の値に応じて、調整する必要があった。このため、既存のリーダライタ1ごとに個別に設計及び調整したブースターアンテナを設置しなければならないので、設置作業が繁雑かつ困難という課題があった。さらに、従来のブースターアンテナは、リーダライタ1と非接触ICカード2のアンテナコイルの共振や電磁結合現象を利用してリーダライタ1の通信距離を延長するものであるため、通信距離の延長効果が低かった。また、共振回路が最大にまで調整されているリーダライタ1や非接触ICカード2に対しては、従来のブースターアンテナを設置しても、通信距離を延長する効果がほとんど無いという課題もあった。
【0080】
これに対し、本実施形態に係る信号処理装置10では、リーダライタ1と非接触ICカード2それぞれに対応する独立したアンテナ31、32を有する構造である。従って、アンテナ31、32の設計をするに当たり、リーダライタ1及び非接触ICカード2のアンテナ11、21のインダクタンス、キャパシタンスが既知である必要がない。これにより、リーダライタ1との通信用のアンテナ31については、非接触ICカード2のアンテナ21の設計と同様に、独立したアンテナとして設計できる。また、非接触ICカード2との通信用のアンテナ32も、リーダライタ1のアンテナ11の設計と同様に、独立したアンテナとして設計できる。
【0081】
このとき、非接触ICカード2側に面しているアンテナ32については、該アンテナ31から所定のキャリア周波数の強い電磁界を発生させるために、該キャリア周波数に合わせて、アンテナ32の共振周波数が設計される。なお、通信対象となる非接触ICカード2のタイプによっては、アンテナ32の共振周波数をキャリア周波数からシフトさせてもよい。一方、リーダライタ1側に面しているアンテナ31については、信号処理装置10をリーダライタ1に密接させたり、又は、遠方に設置したりする場合があるので、それぞれの設置状況に合わせ、キャリアの磁界強度や電力、キャリア変調波形が最適になるように、アンテナ31の共振周波数が調整される。この共振周波数の調整は、可変容量キャパシタを用いることで容易に実施できる。
【0082】
以上により、本実施形態に係る信号処理装置10のアンテナ構造によれば、信号処理装置10の設置作業を容易にすることが可能である。また、本実施形態に係る信号処理装置10では、相互干渉しない2つのアンテナ31、32を用いて、リーダライタ1と非接触ICカード2間の通信を、それぞれ独立した特性で利用できるので、リーダライタ1の通信距離の延長効果が高いという利点もある。
【0083】
[3.2.信号処理装置の電源構成]
次に、図4を参照して、本実施形態に係る信号処理装置10の電源構成について説明する。図4は、本実施形態に係る信号処理装置10の電源構成を示すブロック図である。
【0084】
図4に示すように、信号処理装置10は、該装置内に電力を供給するための構成として、整流回路41と、電力生成回路42とを備える。整流回路41は、本発明の整流部の一例であり、アンテナ31で受信した第1のキャリアの信号を整流することにより、内部電力を生成する機能を有する。整流回路41は、リーダライタ1と通信するためのアンテナ31と接続されている。電力生成回路42は、該整流回路41及び外部電源4と接続され、キャリア送信用の増幅回路50を含む信号処理装置10の各部に電力を供給する。
【0085】
整流回路41は、アンテナ31で受信した第1のキャリアの受信電圧を整流する機能を有する。この整流回路41は、例えば図2に示した整流部24と同様に、上記アンテナ31のコイルL10に直列接続されるダイオード(図示せず。)と、コイルL10に並列接続されるキャパシタ(図示せず。)とから構成される。上記のように、アンテナ31がリーダライタ1のアンテナ11から発生する第1のキャリアの磁界36を受信すると、整流回路41は、該アンテナ31に誘起した受信電圧を整流する。該整流回路41により整流された受信電圧は、不図示の平滑回路(例えばレギュレータ)により平滑、定電圧化され、電力生成回路42に出力される。このようにして、リーダライタ1からの磁界36を利用して、信号処理装置10内で使用される駆動電圧(内部電力)が生成される。
【0086】
電力生成回路42は、上記リーダライタ1からの磁界36を利用して生成された内部電力と、外部電源4から供給された外部電力とを混合して、信号処理装置10内で使用する電力を生成する。また、電力生成回路42は、当該生成した電力を、キャリア送信用の増幅回路50、その他の回路に出力する。信号処理装置10の各部は、該電力生成回路42から出力される電力を電源として駆動する。例えば、増幅回路50は、外部電源4から供給される外部電力と、アンテナ31により受信された第1のキャリア(磁界36)から得られる内部電力とを用いて、第1のキャリアを増幅する。
【0087】
なお、上記電力生成回路42による内部電力と外部電力との混合比は、例えば1:3〜20等であり、外部電力が内部電力より大きければ、増幅回路50は、大きな外部電力を用いてキャリアを十分に増幅できる。しかし、内部電力と外部電力との混合比は、上記例に限定されず、任意の比率であってよい。
【0088】
以上のように、本実施形態に係る信号処理装置10は、リーダライタ1が発生させた第1のキャリアの磁界36を電力に変換して電源として再利用するとともに、外部電源4から供給される外部電力も利用する。リーダライタ1からの磁界36から得た内部電力を再利用することで、エネルギーを有効利用でき、効率の良い電力を得ることができる。さらに、外部電源4からの大きな外部電力を用いることによって、増幅回路50は、アンテナ32から非接触ICカード2に送信する第2のキャリアの磁界37を十分に増幅して、通信距離を大幅に延長することができる。なお、上記の電力供給の例に限定されず、信号処理装置10の駆動電力として、リーダライタ1の磁界36から内部電力を生成及び利用せずに、外部電源4からの外部電力だけを利用してもよい。
【0089】
[3.3.信号処理装置の通信機能の構成]
次に、図5を参照して、本実施形態に係る信号処理装置10の通信機能に関する構成について説明する。図5は、本実施形態に係る信号処理装置10の通信機能に関する構成を示すブロック図である。
【0090】
図5に示すように、信号処理装置10は、上記アンテナ31、32と、キャリア用の増幅回路50(キャリアアンプ)と、キャリア検出回路51と、PLL回路52と、送信データ用の検波回路53と、送信データ用の増幅回路54と、デジタル処理回路55と、返信データ用の検波回路56と、返信データ用の増幅回路57と、負荷変調回路58と、変調回路59とを備える。
【0091】
増幅回路50は、本発明の増幅部の一例であり、アンテナ31で受信した第1のキャリア(第1の搬送波)の信号を増幅して第2のキャリア(第2の搬送波)を生成する機能を有する。変調回路59は、本発明の変調部の一例であり、アンテナ31で受信した第1のキャリア(第1の搬送波)の信号を、上記アンテナ31で受信した送信データ(第1のデータ)で変調する機能を有する。また、デジタル処理回路55は、本発明のデジタル処理部の一例であり、アンテナ31でリーダライタ1から受信した送信データ(第1のデータ)、及びアンテナ32で非接触ICカード2から受信した返信データ(第2のデータ)をデジタル処理する機能を有する。また、返信データ用の検波回路56は、本発明の検波部の一例であり、非接触ICカード2のアンテナ21の負荷変調によりアンテナ32(第2のアンテナ)に生じる返信データ(第2のデータ)の信号を検波する機能を有する。また、返信データ用の増幅回路57は、本発明の受信増幅部の一例であり、検波回路56により検波された返信データ(第2のデータ)の信号を増幅する機能を有する。また、負荷変調回路58は、本発明の負荷変調部の一例であり、アンテナ31(第1のアンテナ)のインピーダンスを変化させる負荷変調を行うことにより、返信データ(第2のデータ)をアンテナ31からリーダライタ1に送信する機能を有する。
【0092】
また、キャリア検出回路51、検波回路53及び負荷変調回路58は、リーダライタ1側のアンテナ31の端部に接続されている。また、増幅回路50及び検波回路56は、非接触ICカード2側のアンテナ32の端部に接続されている。キャリア検出回路51は、PLL回路52及び変調回路59を介して増幅回路50に接続され、デジタル処理回路55は、変調回路59を介して増幅回路50に接続されるとともに、負荷変調回路58にも接続されている。また、検波回路53は、増幅回路54を介してデジタル処理回路55に接続され、検波回路56は、増幅回路57を介してデジタル処理回路55に接続されている。以下に、信号処理装置10の各部を用いた通信動作について説明する。
【0093】
まず、信号処理装置10により、リーダライタ1から非接触ICカード2に送信されるキャリアを増幅する処理について説明する。リーダライタ1は、非接触ICカード2に送信するデータ(送信データ)で第1のキャリアを振幅変調し、当該送信データで変調された第1のキャリア(即ち、高周波磁界36)を、アンテナ11を用いて送信する。すると、信号処理装置10のアンテナ31は、当該送信データで変調された第1のキャリアを受信し、次いで、キャリア検出回路51は、アンテナ31の端部における受信電圧に基づいて、該アンテナ31で受信した第1のキャリアのキャリア信号を検出する。さらに、信号処理装置10の増幅回路50は、該検出したキャリア信号を増幅して、第2のキャリアのキャリア信号を生成し、該キャリア信号が印可されたアンテナ32は、該第2のキャリア(即ち、高周波磁界37)を非接触ICカード2に再送信する。
【0094】
このとき、アンテナ31で受信されるリーダライタ1からの第1のキャリアの位相と、アンテナ32から非接触ICカード2に再送信する第2のキャリアの位相とがずれてしまうと、それぞれのキャリア(磁界36、37)が、相殺または減衰してしまう。そこで、本実施形態では、キャリア検出回路51の後段に、双方のキャリアの位相を同期化するPLL回路52を設置する。これにより、第1のキャリアと第2のキャリアの位相を同期させることができるので、信号処理装置10は、各種の処理をリーダライタ1及び非接触ICカード2と同期して行うことができる。
【0095】
また、信号処理装置10は、増幅回路50により、リーダライタ1から受信した第1のキャリアから得たキャリア信号を増幅して、該増幅された第2のキャリアを非接触ICカード2に再送信することができる。上記のように、増幅回路50は、外部電源4からの外部電力を利用するための、電力の制約がない。このため、増幅回路50のゲインやバッファ能力を増強させることで、非接触ICカード2に再送信する第2のキャリアの磁界37を、リーダライタ1の第1のキャリアの磁界36よりも強くすることができる。よって、信号処理装置10と非接触ICカード2間の通信距離を、リーダライタ1と非接触ICカード2間の通信距離よりも大幅に延長できる。
【0096】
次に、リーダライタ1から信号処理装置10を介して非接触ICカード2に送信データを送信する処理について説明する。信号処理装置10のアンテナ31は、リーダライタ1から、上記送信データで変調された第1のキャリア(即ち、高周波磁界36)を受信する。すると、検波回路53は、リーダライタ1から送信されたキャリア信号を復調して、該キャリア信号に含まれる送信データ(例えば、ハイレベルとローレベルとの2値化されたデータ信号)を取り出す。例えば、検波回路53は、アンテナ31のアンテナ端における受信電圧の振幅変化を包絡線検波し、検波した信号を2値化することによって、キャリア信号を復調する。検波回路53により検波された送信データの信号は、増幅回路54により増幅され、デジタル処理回路55に入力される。
【0097】
デジタル処理回路55は、MPU、CPU等の演算処理装置で構成される。該デジタル処理回路55は、上記送信データの信号に対して波形の整形処理やフィルタ処理を施し、次いで、FIFOやバッファリング処理を実行する。また、このデジタル処理回路55は、送信データに関し、通信方式の変更やビットレートの変更などといった通信プロトコルの変換処理を実行することも可能である。
【0098】
さらに、デジタル処理回路55は、上記送信データに含まれるSyncコードやStatビット/フレームなどにより、該送信データが非接触通信データであることを検証する。この検証により、ノイズ等の非データの誤送信を防ぐことができる。当該検証の完了後、デジタル処理回路55は、アンテナ32から非接触ICカード2に該送信データを再送するために、該送信データを変調回路59に出力する。変調回路59は、デジタル処理回路55から入力された送信データを用いて、上記第1のキャリアのキャリア信号を振幅変調し、増幅回路50は、当該変調された信号を増幅することにより、第2のキャリアのキャリア信号を生成して、アンテナ32に出力する。この結果、アンテナ32は、当該送信データで変調された第2のキャリア(高周波磁界37)を、非接触ICカード2に送信する。なお、図示のように、変調回路59により第1のキャリアの信号を送信データで変調してから、増幅回路50により該変調された信号を増幅することにより、第2のキャリアの信号を生成してもよい。また、これとは逆に、増幅回路50により第1のキャリアの信号を増幅してから、変調回路59により該増幅された信号を送信データで変調することにより、第2のキャリアの信号を生成してもよい。
【0099】
次に、非接触ICカード2から信号処理装置10を介してリーダライタ1に返信データを返信する処理について説明する。非接触ICカード2は、上記信号処理装置10から送信データで変調された第2のキャリアを受信すると、当該送信データに対応する所定の処理を行い、リーダライタ1に対する返信データを生成し、上述した負荷変調により、当該返信データをアンテナ21から返信する。つまり、非接触ICカード2は、アンテナ21のインピーダンス(負荷)を変えることで、返信データに対応する反磁界38をアンテナ21から発生させる。
【0100】
すると、信号処理装置10のアンテナ32は、上記非接触ICカード2から返信された返信データを受信し、検波回路56は、アンテナ32のアンテナ端における電圧の変化に基づいて、返信データを検波する。上記負荷変調により非接触ICカード2のアンテナ21から発生した反磁界38が信号処理装置10のアンテナ32を通過すると、該アンテナ32に微弱な電流が誘起して、第2のキャリア信号によりアンテナ32に流れる電流に重畳される。従って、検波回路56は、当該アンテナ32に流れる電流の微弱な変化を検波することで、非接触ICカード2からの返信データを検出することができる。例えば、検波回路56は、アンテナ32のアンテナ端における電圧の振幅変化を包絡線検波し、検波した信号を2値化することによって、返信データの微弱信号を得る。当該返信データの微細信号は、増幅回路57により増幅されて、デジタル処理回路55に入力される。
【0101】
デジタル処理回路55は、上記返信データの信号に対して波形の整形処理やフィルタ処理を施し、次いで、FIFOやバッファリング処理を実行する。また、このデジタル処理回路55は、上記送信データと同様に、返信データに関し、通信方式の変更やビットレートの変更などといった通信プロトコルの変換処理を実行することも可能である。
【0102】
その後、デジタル処理回路55は、上記返信データに含まれるSyncコードやStatビット/フレームなどにより、該返信データが非接触通信データであることを検証する。この検証により、ノイズ等の非データの誤送信を防ぐことができる。当該検証の完了後、デジタル処理回路55は、アンテナ31からリーダライタ1に該返信データを再送するために、該返信データを負荷変調回路58に出力する。
【0103】
負荷変調回路58は、非接触ICカード2からリーダライタ1に対する返信データの信号に応じて、アンテナ31のインピーダンス(負荷)を変化させる負荷変調を行い、アンテナ31からリーダライタ1に返信データを返信する。この負荷変調回路58は、例えば、図2の負荷変調部29と同様に、アンテナ31の共振回路と並列に接続される負荷とスイッチを備える。かかる負荷変調回路58は、デジタル処理回路55から入力された返信データの信号に基づき、スイッチを用いて負荷をオン/オフする。これにより、アンテナ21のコイルL10に流れる電流が変化するため、電磁誘導により該アンテナ31から、返信データの信号に対応する反磁界39が発生する。かかる反磁界39により、信号処理装置10のアンテナ31からリーダライタ1のアンテナ11に返信データが送信される。リーダライタ1は、当該反磁界39の影響によってアンテナ11のアンテナ端に生じる受信電圧の変化を検出することによって、上記信号処理装置10から送信された返信データの信号を受信する。
【0104】
以上、図5を参照して本実施形態に係る信号処理装置10の通信機能に関する回路構成について説明した。かかる構成の信号処理装置10をリーダライタ1と非接触ICカード2の間に設置することにより、該信号処理装置10は、リーダライタ1の機能と、非接触ICカード2の機能をリピートすることが可能となる。つまり、リーダライタ1が送信した送信データを、非接触ICカード2に再送信するとともに、非接触ICカード2が返信した返信データを、リーダライタ1に再返信することができる。このように、信号処理装置10が、リーダライタ1と非接触ICカード2間の非接触通信を中継することができ、さらにリーダライタ1と非接触ICカード2間の通信距離を大幅に延長することができる。なお、図5に示した信号処理装置10の構成は一例であり、それぞれの回路やブロック、システムは、適宜、最適化又は設計変更することが可能である。
【0105】
[3.4.信号処理装置によるリーダライタの通信仕様の変更]
次に、図5を参照して、本実施形態に係る信号処理装置10により、リーダライタ1のRF通信仕様(通信性能、通信方式等)を変更する方法について説明する。
【0106】
図5で示したように、本実施形態に係る信号処理装置10をリーダライタ1と非接触ICカード2間に設置し、信号処理装置10の各部の性能を自由に変更することで、非接触ICカード2に対するリーダライタ1のRF通信仕様を変更することが可能となる。ここで、RF通信仕様とは、通信性能及び通信方式を含む概念である。以下に、信号処理装置10によりリーダライタ1の通信性能や通信方式を変更する具体例について説明する。
【0107】
(1)キャリアの磁界強度の変更
上記信号処理装置10の増幅回路50の出力(ゲイン)を増大させることにより、非接触ICカード2に送信するキャリア(磁界37)の磁界強度を増幅し、リーダライタ1と非接触ICカード2間の通信距離を延長することができる。上記のように、増幅回路50は、リーダライタ1から受信した第1のキャリアの信号を増幅することで、非接触ICカード2に送信する第2のキャリアを生成する。このとき、増幅回路50は、リーダライタ1が発生した磁界36から得た内部電力のみならず、外部電源4からの外部電力を用いて、キャリア信号を増幅できる。従って、増幅回路50のゲインを大きして、第2のキャリア(磁界37)の磁界強度を十分に大きくすることができるので、リーダライタ1と非接触ICカード2間の通信距離を大幅に延長できる。
【0108】
また、リーダライタ1のアンテナ11と信号処理装置10のアンテナ32のインダクタンスや結合および、磁界36を切り離せる構成になっているので、アンテナ32のコイルL11とC11の共振回路の値も最適値に変更することができ、通信距離を延長することができる。
【0109】
例えば、既存のリーダライタ1の通信性能が低いため、リーダライタ1単体での通信距離が50mmである場合であっても、信号処理装置10を用いることで、リーダライタ1から非接触ICカード2までの通信距離を100mmに延長できる。よって、既存のリーダライタ1を改造又は交換しなくても、信号処理装置10を設置するだけで、当該依存のリーダライタ1から非接触ICカード2までの通信距離を十分に延長できる。
【0110】
(2)非接触ICカード2からの返信データの受信性能の変更
上記信号処理装置10における返信データ受信用の検波回路56及び増幅回路57の性能を変更することで、非接触ICカード2から負荷変調により送信される返信データの受信性能(例えば、受信感度、受信方式、検波方式など)を変更できる。詳細には、信号処理装置10の検波回路56及び増幅回路57等は、信号処理装置10の受信回路を構成するが、該信号処理装置10の受信回路のアナログ回路の性能(例えば、OPアンプ性能、ADコンバータ受信方式など)や、該受信回路の検波方式(例えば、振幅検波、直交検波)などを、リーダライタ1の受信回路と異なる受信性能にすることが可能である。信号処理装置10の受信回路の受信性能を、リーダライタ1の受信回路より優れた性能に調整することにより、通信距離の延長や、通信不可領域の改善が可能となる。
【0111】
例えば、非接触ICカード2から返信データを受信するときの検波回路56及び増幅回路57の受信感度(例えば、増幅回路57のゲイン)を、リーダライタ1の復調部14による該返信データの受信感度よりも高くなるように調整する。これにより、非接触ICカード2からの返信データの受信感度を向上できる。例えば、既存のリーダライタ1の受信性能が低いため、リーダライタ1単体での受信感度が30dBである場合であっても、信号処理装置10を用いることで、非接触ICカード2からの返信データの受信感度を60dBに向上させることができる。よって、既存のリーダライタ1を改造又は交換しなくても、信号処理装置10を設置するだけで、当該既存のリーダライタ1に対する非接触ICカード2からの返信データの受信感度を向上できる。
【0112】
(3)送信データの変調度の変更
上記信号処理装置10の変調回路59は、リーダライタ1から非接触ICカード2に送信される送信データで、非接触ICカード2に送信する第2のキャリアを変調するデータ変調アンプとして機能する。かかる変調回路59により送信データで第2のキャリアを変調するときの変調度を変更することで、既存のリーダライタ1の第1のキャリアの変調度に対して、信号処理装置10による第2のキャリアの変調度を変更することが可能となる。例えば、通信システムを使用するユーザ、該通信システムの使用環境若しくは仕様に応じて、リーダライタ1が発する第1のキャリアの変調度を変更したいケースには、信号処理装置10から非接触ICカード2に対して送信する第2のキャリアの変調度を変更すればよい。
【0113】
例えば、信号処理装置10が送信する第2のキャリアの変調度を、送信対象となる非接触ICカード2の特性(例えば、非接触ICカード2のタイプ、通信性能、復調部26の仕様等)に応じて、任意の変調度に調整してもよい。これにより、既存のリーダライタ1の変調部による変調度が低変調度(10%)にしか対応していない場合であっても、信号処理装置10を用いることで、高変調度(30%)に対応した非接触ICカード2に対して、当該高変調度で変調した第2のキャリアを送信することができる。よって、既存のリーダライタ1を改造又は交換しなくても、信号処理装置10を設置するだけで、非接触ICカード2に送信するキャリアの変調度を、例えば、ユーザ、該通信システムの使用環境若しくは仕様(例えば、非接触ICカード2の特性)に応じて自由に変更できる。
【0114】
(4)通信方式の変更
上記信号処理装置10は、リーダライタ1と非接触ICカード2間で送受信されるデータを再送信する構成であるので、該信号処理装置10により、リーダライタ1と非接触ICカード2間の通信方式を変更することが可能となる。例えば、信号処理装置10のデジタル処理回路55は、リーダライタ1からの送信データ及び非接触ICカード2からの返信データをデジタル処理するが、このとき、当該送信データ及び返信データのデータ構造や、通信ビットレートを変更することで、リーダライタ1と非接触ICカード2間の通信方式を変更することができる。デジタル処理回路55は、リーダライタ1から受信した送信データのデータ構造を、非接触ICカード2が対応する通信方式のデータ構造に変更するとともに、非接触ICカード2から受信した返信データのデータ構造を、リーダライタ1が対応する通信方式のデータ構造に変更する。
【0115】
なお、データ構造の変更とは、例えば、データの符号化方式や、パケット化方式の変更を含む。例えば、通信方式をFeliCa(登録商標)からTypeAに変更する場合は、まず、デジタル処理回路55は、FeliCa(登録商標)方式で符号化(例えば、マンチェスター符号化)、及びパケット化(例えば、プリアンブル、Syncコード、8ビットMSB、CRC)されたデータを、デジタルデータに復号化及び復調して、バッファリングする。次いで、デジタル処理回路55は、該デジタルデータを、TypeA方式で符号化(例えば、Modfied Mirror符号化)及びパケット化(例えば、SOC、EOCのヘッダー、Parity、CRC)して、通信方式を変換する。こられのデジタルデータ変換処理は、ロジック回路又はCPU等のデジタル処理回路55で実行される。
【0116】
例えば、既存のリーダライタ1は、特定の規格(例えばFeliCa(登録商標))の通信方式にしか対応していない場合であっても、信号処理装置10のデジタル処理回路55は、リーダライタ1から受信した当該特定の規格の送信データを、他の規格(例えば、TypeA、TypeB等)の通信方式のデータに変更する。これにより、信号処理装置10は、当該変更した送信データを、当該他の規格の通信方式に対応する非接触ICカード2に送信することができる。また、デジタル処理回路55は、非接触ICカード2から受信した上記他の規格(例えば、TypeA、TypeB等)の返信データを、上記特定の規格(例えばFeliCa(登録商標))の通信方式のデータに変更する。これにより、信号処理装置10は、当該変更した返信データを、当該特定の規格の通信方式にのみ対応するリーダライタ1に返信することができる。よって、既存のリーダライタ1を改造又は交換しなくても、信号処理装置10を設置するだけで、相異なる通信方式にそれぞれ対応したリーダライタ1と非接触ICカード2との間で、データを送受信できるようになる。このために、信号処理装置10のデジタル処理回路55は、様々な通信方式(例えば、通信規格、ビットレート)に対応可能であることが好ましい。
【0117】
[4.信号処理方法]
次に、図6を参照して、本実施形態に係る信号処理装置10により、リーダライタ1と非接触ICカード2間の非接触通信を補助する信号処理方法について説明する。図6は、本実施形態に係る信号処理装置10による信号処理方法を示すフローチャートである。
【0118】
図6に示すように、まず、リーダライタ1が、非接触ICカード2に対する送信データで変調された第1のキャリアを、アンテナ11を用いて送信すると、信号処理装置10は、リーダライタ1から、当該送信データで変調された第1のキャリアを、アンテナ31を用いて受信する(S100)。このとき、信号処理装置10のアンテナ31とアンテナ32の間には金属体33が配置されているので、アンテナ31は、アンテナ32の発する磁界37の影響を受けることがない。また、アンテナ31と金属体33の間には磁性体34が配置されているので、リーダライタ1からの第1のキャリアの磁界36はアンテナ31に収束する。よって、信号処理装置10は、アンテナ31を用いて、リーダライタ1からの第1のキャリアの磁界36を好適に受信できる。
【0119】
次いで、信号処理装置10の整流回路41は、上記リーダライタ1から受信した第1のキャリアの受信電圧を整流、平滑化することで、リーダライタ1からの磁界36を再利用した内部電力を生成する。電力生成回路42は、該内部電力と、外部電源4からの外部電力とを混合した電力を、信号処理装置10の各部に供給する(S102)。かかる電力供給は、以下のステップでも継続的に行われる。
【0120】
さらに、上記信号処理装置10のキャリア検出回路51は、上記アンテナ31の端部における受信電圧に基づいて、該アンテナ31で受信した第1のキャリアのキャリア信号を検出し、PLL回路52は、第1のキャリアのキャリア信号と、後段の増幅回路50により増幅される第2のキャリアのキャリア信号とを同期化する(S104)。さらに、増幅回路50は、上記電力生成回路42から供給される電力を用いて、上記キャリア検出回路51により検出された第1のキャリアのキャリア信号を増幅して、より振幅の大きい第2のキャリアのキャリア信号を生成する(S106)。かかるステップS104〜S106における処理は、以後のステップでも継続的に行われる。
【0121】
また、上記アンテナ31により、上記送信データで変調された第1のキャリアを受信しているときには、検波回路53は、アンテナ31のアンテナ端の受信電圧に基づいて、第1のキャリアのキャリア信号に含まれる送信データを検波し、増幅回路54は、当該検波された送信データの信号を増幅する(S108)。
【0122】
次いで、デジタル処理回路55は、当該増幅された送信データの信号に対して所定のデジタル処理(波形整形、フィルタ処理、FIFO、バッファリング処理等)を施す(S110)。さらに、デジタル処理回路55は、上記送信データに含まれるSyncコードやStatビット/フレームなどにより、該送信データが非接触通信データであることを検証し(S112)、検証が完了した場合に、以下のステップS114、S116に進む。この検証により、ノイズ等の非データの誤送信を防止できる。
【0123】
また、リーダライタ1と非接触ICカード2の間で通信方式が異なる場合、デジタル処理回路55は、必要に応じて、送信先の非接触ICカード2の通信方式に合わせて、送信データのデータ構造を変更する(S114)。これにより、送信データの通信方式を、送信元のリーダライタ1が対応する通信方式(例えばFeliCa(登録商標))から、送信先の非接触ICカード2が対応する通信方式(例えばTypeA)に変更できる。
【0124】
また、信号処理装置10の変調回路59は、上記S110でデジタル処理された送信データを用いて、上記S106で生成される第2のキャリアのキャリア信号を振幅変調し、アンテナ32に出力する(S116)。この結果、アンテナ32は、当該送信データで変調された第2のキャリア(高周波磁界37)を、非接触ICカード2に送信する(S118)。このとき、信号処理装置10のアンテナ31とアンテナ32の間には金属体33が配置されているので、アンテナ32は、リーダライタ1の発する磁界36の影響を受けることがない。また、アンテナ32と金属体33の間には磁性体35が配置されているので、アンテナ32からの第2のキャリアの磁界37はアンテナ32に収束する。よって、信号処理装置10は、アンテナ32を用いて、非接触ICカード2に第2のキャリアの磁界37を好適に送信できる。また、かかる第2のキャリアの磁界37は増幅されているので、信号処理装置10と非接触ICカード2間の通信距離を十分に確保できる。
【0125】
非接触ICカード2は、アンテナ21を用いて、上記送信データで変調された第2のキャリアを受信すると、第2のキャリア信号を復調して送信データを検出し、当該送信データに応じた所定の処理を行う。そして、非接触ICカード2は、当該処理結果に基づき、リーダライタ1に対する返信データを生成し、該返信データに基づいて、アンテナ21のインピーダンス(負荷)を変える負荷変調を行い、信号処理装置10に返信データを返信する。
【0126】
次いで、信号処理装置10のアンテナ32は、上記非接触ICカード2から、アンテナ21の負荷変調により返信された返信データを受信する(S120)。さらに、検波回路56は、当該アンテナ32に流れる電流の微弱な変化を検波することで、非接触ICカード2からの返信データを検出し、増幅回路57は、当該検波回路56により検波された返信データの信号を増幅する(S122)。
【0127】
次いで、デジタル処理回路55は、当該増幅された返信データの信号に対して所定のデジタル処理(波形整形、フィルタ処理、FIFO、バッファリング処理等)を施す(S124)。さらに、デジタル処理回路55は、上記返信データに含まれるSyncコードやStatビット/フレームなどにより、該送信データが非接触通信データであることを検証し(S126)、検証が完了した場合に、以下のステップS128、S130に進む。
【0128】
また、リーダライタ1と非接触ICカード2の間で通信方式が異なる場合、デジタル処理回路55は、必要に応じて、返信先のリーダライタ1の通信方式に合わせて、返信データのデータ構造を変更する(S128)。これにより、返信データの通信方式を、返信元の非接触ICカード2が対応する通信方式(例えばTypeA)から、返信先のリーダライタ1が対応する通信方式(例えばFeliCa(登録商標))に変更できる。
【0129】
その後、信号処理装置10の負荷変調回路58は、上記S124でデジタル処理された返信データに基づいて、アンテナ31のインピーダンス(負荷)を変える負荷変調を行うことによって(S130)、該アンテナ31を用いて該返信データをリーダライタ1に返信する(S132)。このとき、アンテナ31の背面側に磁性体34及び金属体33が存在しているので、上記と同様に、アンテナ31は、アンテナ32の発する第2のキャリアの磁界37の影響を受けることなく、返信データをリーダライタ1に好適に送信することができる。
【0130】
この結果、リーダライタ1は、上記信号処理装置10から、アンテナ31の負荷変調により返信された返信データを、アンテナ11を用いて受信し、当該アンテナ11に流れる電流の微弱な変化を検波することで、信号処理装置10からの返信データを検出する。そして、リーダライタ1は、該返信データに基づいて、所定の処理を実行し、非接触ICカード2に別の送信データ(コマンド、サービスデータ等)を再送信する場合には、上記処理S100〜132が繰り返される。
【0131】
[5.応用例]
次に、図7を参照して、本実施形態に係る信号処理装置10の応用例について説明する。図7は、本実施形態に係る複数の信号処理装置10をリーダライタ1に対して傾けて配置した通信システムを示す概要図である。
【0132】
上記特許文献1〜3に記載の従来のブースターアンテナでは、リーダライタ1の通信面5に対して水平な方向への通信距離の延長効果が低いという課題があった。リーダライタ1が発生させる磁界36は、通信面に対して垂直方向に広がっているため、リーダライタ1のアンテナコイルの口径(ループ面の面積)を拡大することにより、通信面5に対して水平方向に磁界を広けることが可能である。しかし、リーダライタ1の物理的な大きさには制約がある。また、従来のブースターアンテナを用いても、リーダライタ1の通信面5に対して水平方向に延長される通信距離が、垂直方向に延長される通信距離よりも短いという課題もあった。
【0133】
そこで、かかる課題を解決するために、本実施形態では、図7に示すように、信号処理装置10のアンテナ31、32の通信面6、7(ループ面)が、リーダライタ1のアンテナ11の通信面5(ループ面)に対して傾斜するように、信号処理装置10をリーダライタ1の通信面5に対して傾斜配置する。配置する信号処理装置10は1つでも複数でも可能である。これにより、信号処理装置10は、リーダライタ1の通信面5に対して傾斜した方向に発生する第1のキャリアの微弱な磁界40を受信し、該磁界40を増幅した第2のキャリアの大きな磁界41を、非接触ICカード2に再送信することができる。
【0134】
従って、図7に示すように、非接触ICカード2がリーダライタ1の通信面5から遠い位置で、該通信面5に対して傾斜して配置された場合であっても、信号処理装置10によりリーダライタ1と非接触ICカード2間の通信を中継することで、非接触ICカード2に十分な磁界強度の磁界41と電力を供給することができる。
【0135】
よって、複数の信号処理装置10を傾斜配置することにより、リーダライタ1周辺の通信エリアを拡大することができる。特に、リーダライタ1の通信面5に対して水平方向への通信距離も十分に延長することができ、リーダライタ1に非接触ICカード2をかざすときの非接触ICカード2の位置の自由度を向上できる。このように、本実施形態に係る信号処理装置10によれば、従来方法より格段に通信距離が延長でき、かつ、技術的制約の検討が不要となり、信号処理装置10を設置するだけで、容易に通信エリアを拡大することができる。また、アンテナを小型化することも可能であり、スペースが節約できる。
【0136】
[6.まとめ]
以上、本実施形態に係る信号処理装置10とこれを用いた信号処理方法について詳述した。本実施形態に係る信号処理装置10は、リーダライタ1と非接触ICカード2それぞれに対応する2つのアンテナ31、32を具備している。さらに、これら2つのアンテナ31、33間に、磁界36、37の相互干渉を防止するための金属体33と、各磁界36、37の減衰を軽減するための磁性体34が配置されている。また、信号処理装置10は外部電源4に接続されており、外部電源4から供給される外部電力を用いて、リーダライタ1から受信第1のキャリアを増幅するので、強い磁界強度の第2のキャリアを非接触ICカード2に送信できる。そして、かかる信号処理装置10は、アンテナ31を用いて、リーダライタ1から第1のキャリア及び送信データを受信し、アンテナ32を用いて、該第1のキャリアを増幅した第2のキャリア及び該送信データを非接触ICカード2に再送信する。また、信号処理装置10は、アンテナ32を用いて、非接触ICカード2から返信データを受信し、アンテナ31を用いて、該返信データをリーダライタ1に再返信する。
【0137】
かかる構成により、本実施形態に係る信号処理装置10は、従来のブースターアンテナの課題を解決し、リーダライタ1の通信距離を大幅に延長することができる。例えば、図1に示したように、入退室管理装置の既存のリーダライタ1の通信距離が50mmである場合でも、該既存のリーダライタ1に隣接して信号処理装置10を設置することにより、通信距離を100mm以上延長することができる。
【0138】
また、既存のリーダライタ1と非接触ICカード2間で既に共振や結合現象が最大にまで調整されている場合であっても、信号処理装置10を設置すれば、リーダライタ1の通信距離を延長することができ、実用的である。
【0139】
また、信号処理装置10は、外部電源4を利用してキャリアを増幅する構造であり、非接触ICカード2に送信するキャリアの磁界37を十分に大きくできる。従って、外来の金属体やアンテナコイルの条件に起因して、リーダライタ1の通信距離が短縮することを防止できる。
【0140】
さらに、本実施形態に係る信号処理装置10を既存のリーダライタ1の周辺に設置するだけで、容易に通信距離を延長することが可能である。このように、本実施形態に係る信号処理装置10の設置は非常に簡単であり、既存のリーダライタ1を改造又は交換しなくとも、リーダライタ1の通信性能を改善できる。
【0141】
さらに、本実施形態に係る信号処理装置10のアンテナ31、32の設計値(例えば、インダクタンス、キャパシタンス、結合係数、共振周波数等)を、信号処理装置10単独で自由に決定することができる。従って、信号処理装置10を設置するに当たり、既存のリーダライタ1のアンテナ11や非接触ICカード2のアンテナ21の共振周波数やインダクタンス、キャパシタンス、アンテナ形状、結合度を測定した結果に基づき、信号処理装置10の設計値を調整する必要がない。よって、設置作業が非常に簡単になり容易に信号処理装置10を設置できる。
【0142】
また、本実施形態に係る信号処理装置10によれば、リーダライタ1や非接触ICカード2のインターフェースや内部の暗号/データフォーマットを変更せずに、互換を保ったまま、リーダライタ1の通信仕様(通信性能、通信方式等)や設置条件を容易に変更できる。従って、既存のリーダライタ1を仕様変更(例えば、通信方式の変更、通信距離の延長、磁界強度の増幅、受信性能の向上、通信不感帯の改善など)するために、本実施形態に係る信号処理装置10を適用することもできる。特に、既存のリーダライタ1のコストが高価な場合(例えば、SAMチップやアプリケーションCPUなどを搭載している場合)は、信号処理装置10を使用することにより、リーダライタ1の仕様追加や変更を安価に行うことが可能となる。また、既存のリーダライタ1をそのまま利用できるので、上位制御装置3との通信インターフェースは互換のまま、非接触通信の仕様を変更できるというメリットもある。
【0143】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0144】
例えば、上記実施形態では、信号処理装置10の2つのアンテナ31、32は、相互に平行に配置されたが、本発明はかかる例に限定されない。例えば、アンテナ31に対してアンテナ32を傾斜させて又は垂直に配置してもよい。これにより、アンテナ31がリーダライタ1から受信する磁界36の方向と、アンテナ31が非接触ICカード2に送信する磁界37の方向とを異なる方向にすることができる。従って、信号処理装置10は、リーダライタ1が発生する第1のキャリアの磁界36の方向を、別の方向に変換して、非接触ICカード2に伝達することができる。
【符号の説明】
【0145】
1 リーダライタ
2 非接触ICカード
3 上位制御装置
4 外部電源
5、6、7 通信面
10 信号処理装置
11 アンテナ
12 RF基板
21 アンテナ
22 ICチップ
31、32 アンテナ
33 金属体
34、35 磁性体
36、40 リーダライタからの磁界
37、41 信号処理装置からの磁界
38 非接触ICカードからの反磁界
38 信号処理装置からの反磁界
41 整流回路
42 電力生成回路
50 増幅回路
51 キャリア検出回路
52 PLL回路
53 検波回路
54 増幅回路
55 デジタル処理回路
56 検波回路
57 増幅回路
58 負荷変調回路
59 変調回路



【特許請求の範囲】
【請求項1】
リーダライタと、前記リーダライタと非接触通信する非接触通信装置との間に配置される信号処理装置であって、
前記リーダライタと非接触通信するための第1のアンテナと、
前記第1のアンテナに並設され、前記非接触通信装置と非接触通信するための第2のアンテナと、
前記第1のアンテナと前記第2のアンテナの間に配置され、前記第1のアンテナと前記第2のアンテナの間で磁界を遮断する金属体と、
少なくとも外部電源から供給される外部電力を用いて搬送波を増幅する増幅部と、
前記搬送波を変調する変調部と、
前記第1のアンテナのインピーダンスを変化させる負荷変調部と、
を備え、
前記リーダライタから、前記非接触通信装置に送信される第1のデータで変調された第1の搬送波を、前記第1のアンテナを用いて受信し、
前記増幅部により前記第1の搬送波を増幅することにより第2の搬送波を生成し、前記変調部により前記第1のデータで前記第2の搬送波を変調し、
前記第1のデータで変調された前記第2の搬送波を、前記第2のアンテナを用いて前記非接触通信装置に送信し、
前記非接触通信装置から、前記非接触通信装置のアンテナの負荷変調により返信される第2のデータを、前記第2のアンテナを用いて受信し、
前記負荷変調部により前記第2のデータに基づいて前記第1のアンテナのインピーダンスを変化させる負荷変調を行うことにより、前記第2のデータを前記リーダライタに送信する、信号処理装置。
【請求項2】
前記第1のデータ及び前記第2のデータをデジタル処理するデジタル処理部をさらに備え、
前記デジタル処理部は、前記リーダライタから受信した前記第1のデータの通信方式を、前記リーダライタが対応する第1の通信方式から前記非接触通信装置が対応する第2の通信方式に変更し、
前記非接触通信装置から受信した前記第2のデータの通信方式を、前記非接触通信装置が対応する前記第2の通信方式から前記リーダライタが対応する前記第1の通信方式に変更する、請求項1に記載の信号処理装置。
【請求項3】
前記非接触通信装置のアンテナの負荷変調により前記第2のアンテナに生じる前記第2のデータの信号を検波する検波部と、
前記検波部により検波された前記第2のデータの信号を増幅する受信増幅部と、
をさらに備え、
前記リーダライタによる前記第2のデータの受信性能よりも高くなるように、前記検波部及び前記受信増幅部による前記第2のデータの受信性能が調整された、請求項1に記載の信号処理装置。
【請求項4】
前記変調部により前記第1のデータで前記第2の搬送波を変調するときの変調度が、前記信号処理装置の使用環境又は前記非接触通信装置の仕様に応じて、前記リーダライタにより前記第1のデータで前記第1の搬送波を変調するときの変調度とは異なる変調度に調整された、請求項1に記載の信号処理装置。
【請求項5】
前記第1のアンテナと前記金属体との間に配置される第1の磁性体をさらに備える、請求項1に記載の信号処理装置。
【請求項6】
前記第2のアンテナと前記金属体との間に配置される第2の磁性体をさらに備える、請求項1に記載の信号処理装置。
【請求項7】
前記第1のアンテナで受信された前記第1の搬送波を整流する整流部をさらに備え、
前記増幅部は、前記外部電力と、前記整流部により前記第1の搬送波を整流することにより得られる内部電力とを用いて、前記第1の搬送波を増幅する、請求項1に記載の信号処理装置。
【請求項8】
前記第1及び第2のアンテナの通信面が前記リーダライタのアンテナの通信面に対して傾斜するように、前記信号処理装置が配置される、請求項1に記載の信号処理装置。
【請求項9】
リーダライタと、前記リーダライタと非接触通信する非接触通信装置との間に配置される信号処理装置による信号処理方法において、
前記リーダライタから、前記非接触通信装置に送信される第1のデータで変調された第1の搬送波を、第1のアンテナを用いて受信するステップと、
少なくとも外部電源から供給される外部電力を用いて前記第1の搬送波を増幅することにより第2の搬送波を生成するステップと、
前記第1のデータで前記第2の搬送波を変調するステップと、
前記第1アンテナとの間に金属体が介在するように前記第1のアンテナに並設された第2のアンテナを用いて、前記第1のデータで変調された前記第2の搬送波を、前記非接触通信装置に送信するステップと、
前記非接触通信装置から、前記非接触通信装置のアンテナの負荷変調により返信される第2のデータを、前記第2のアンテナを用いて受信するステップと、
前記第2のデータに基づいて前記第1のアンテナのインピーダンスを変化させる負荷変調を行うことにより、前記第2のデータを前記リーダライタに送信するステップと、
を含む、信号処理方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−215865(P2011−215865A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−83163(P2010−83163)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】