説明

信号変換回路、及びこれに用いるサンプリング方法

【課題】開発コスト及び消費電力の増大を招くこと無く、ディジタル信号の品質を向上させる。
【解決手段】信号変換回路20を構成するADC230は、高周波信号305を重畳した電流によって駆動されるレーザ光源110から発振され、且つ光ディスク2で反射されたレーザ光302の光量を示すアナログ信号303を、高周波信号305と実質的に同一の周波数を有するクロック信号306を用いてサンプリングし、ディジタル信号304に変換する。また、ADC230の前段に設けられるLPF220は、アナログ信号303中の所定の周波数以下の帯域成分を通過させる。この時、クロック信号306の周波数は、前記所定の周波数より高く設定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、信号変換回路、及びこれに用いるサンプリング方法に関し、特に光ディスクからの情報再生に用いるのに好適な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
CD(Compact Disk)、DVD(Digital Versatile Disk)、BD(Blu−ray Disk)等の光ディスクを再生する光ディスク装置が、広く普及している。
【0003】
このような光ディスク装置においては、再生時に光ディスクで反射されたレーザ光(以下、戻り光と呼称することがある)に因り発生するノイズ、光路差や温度変化に因るレーザ光源の発振周波数のズレに起因して発生する干渉ノイズ等を抑制するため、高周波重畳方式が採用されている。高周波重畳方式とは、レーザ光源に対して、数百MHz〜1GHz程度の高周波信号を重畳した駆動電流を供給し、以てレーザ光源をパルス発光させる方式のことである。
【0004】
光ディスクからの戻り光は、大略、受光IC(Integrated Circuit)でその光量を示すアナログ信号に変換された後、ADC(Analog to Digital Converter)でディジタル信号に変換される。より詳細には、アナログ信号は、エリアシングノイズ(折り返し雑音)の抑制を目的としてLPF(Low Pass Filter)でナイキスト周波数以下に帯域制限された後、ADCによりサンプリング周波数でサンプリングされる。なお、以降の説明においては、ナイキスト周波数を符号fで表記し、サンプリング周波数を符号fで表記することがある。ここで、サンプリング定理においては、f≧2fとすべき旨が定義されている。
【0005】
しかしながら、近年の光ディスク装置の光倍速化により、再生信号が広帯域化している。これに伴って、LPFのカットオフ周波数(以下、符号fで表記することがある)を高くせざるを得ず、以て図4にLPFの出力特性501を示す如く、アナログ信号中のナイキスト周波数f以上の帯域に在る、高周波信号の周波数fHF(以下、高周波重畳周波数と呼称することがある)に対応する信号成分401(以下、高周波重畳残留成分と呼称することがある)が十分に減衰されずに残留してしまう。
【0006】
このため、カットオフ周波数f以下の帯域b1(以下、再生信号帯域と呼称することがある)に、高周波重畳残留成分401に因るエリアシングノイズ402が発生する。例えば、4次LPFのカットオフ周波数f="150MHz"、高周波重畳周波数fHF="300MHz"、サンプリング周波数f="400MHz"であるとすると、高周波重畳残留成分401のレベルが高く、再生信号帯域b1内の周波数fHF*="100MHz"に発生するエリアシングノイズ402のレベルも高い。従って、エリアシングノイズ402に因り、ディジタル信号の品質(すなわち、光ディスク装置の再生性能)が劣化してしまう。
【0007】
この問題に対処する光ディスク装置が、例えば特許文献1に記載されている。特許文献1に記載される光ディスク装置においては、ADCの後段にディジタルフィルタが設けられ、高周波重畳周波数が、ナイキスト周波数より大きく、且つサンプリング周波数からディジタルフィルタによる通過帯域幅を減じた周波数より小さく設定されている。これにより、高周波重畳残留成分に因るエリアシングノイズを、ディジタルフィルタによる遮断帯域に発生させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−187593号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記の特許文献1には、ディジタルフィルタの設置に伴って、光ディスク装置の開発コスト及び消費電力を増大させてしまうという課題があった。
【0010】
なお、上述した問題に対処するための他の対策として、高次のLPFを用いて高周波重畳残留成分を低減し、以てエリアシングノイズを低減する対策が考えられる。しかしながら、通過帯域内の群遅延特性が一定で、且つ再生信号帯域外の遮断特性が急峻なLPFの実現は困難であり、この対策を講じた場合にはやはり開発コストが増大してしまう。
【0011】
また、高周波重畳周波数をカットオフ周波数より十分に高く設定して、高周波重畳残留成分を十分に減衰させ、以てエリアシングノイズを低減する対策も考えられる。しかしながら、この対策を講じた場合には、レーザダイオードを駆動する回路の開発コストを増大させると共に、EMI(Electro Magnetic Interference)を発生させてしまう。
【0012】
さらに、サンプリング周波数を高周波重畳周波数より十分に高く設定すると共に、ADCの後段に設置したディジタルフィルタにより高周波重畳残留成分を減衰させるという対策も考えられる。しかしながら、この対策を講じた場合には、ADCの高速化と高次のディジタルフィルタの設置に伴って、上記の特許文献1と同様、光ディスク装置の開発コスト及び消費電力を増大させてしまう。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の一態様に係る信号変換回路は、高周波信号を重畳した電流によって駆動されるレーザ光源から発振され、且つ光ディスクで反射されたレーザ光の光量を示すアナログ信号を、サンプリングしてディジタル信号に変換する変換部を備える。ここで、前記サンプリングに用いるクロック信号の周波数は、前記高周波信号の周波数と実質的に同一である。
【0014】
また、本発明の一態様に係るサンプリング方法は、高周波信号を重畳した電流によって駆動されるレーザ光源から発振されたレーザ光の戻り光量を示すアナログ信号を、前記高周波信号と実質的に同一の周波数でサンプリングすることを含む。
【0015】
すなわち、本発明では、サンプリング周波数と高周波重畳周波数とを同一値に設定することにより、高周波重畳残留成分に因るエリアシングノイズの発生を抑止することが可能である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、開発コスト及び消費電力の増大を招くこと無く、ディジタル信号の品質を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施の形態に係る信号変換回路の構成例を示したブロック図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る信号変換回路の一の動作例を示したグラフ図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る信号変換回路の他の動作例を示したグラフ図である。
【図4】一般的な光ディスク装置の課題を説明するためのグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る信号変換回路及びこれを適用する光ディスク装置の実施の形態を、図1〜図3を参照して説明する。なお、各図面において同一要素には同一の符号が付されており、説明の明確化のため、必要に応じて重複説明は省略される。
【0019】
図1に示すように、本実施の形態に係る光ディスク装置1は、光ピックアップ回路10と、信号変換回路20とで構成される。光ピックアップ回路10は、大略、光ディスク2にパルス発光するレーザ光301を照射すると共に、光ディスク2からの戻り光302を受光し、その光量を示すアナログ信号303を生成する。また、信号変換回路20は、大略、アナログ信号303をサンプリングしてディジタル信号304に変換する。なお、図示を省略するが、光ディスク装置1には、一般的な光ディスク装置と同様、レーザ光301を光ディスク2に照射するための光学系(レンズ、ビームスプリッタ、回折格子等の各種の光学素子)が設けられている。また、信号変換回路20の後段には、ディジタル信号304を処理するプロセッサ等の処理回路が設けられている。
【0020】
より詳細には、光ピックアップ回路10は、レーザダイオード110(以下、LDと略称する)と、レーザダイオードドライバ120(以下、LDDと略称する)と、受光IC130と、発振器140(以下、OSCと略称する)とを備えている。
【0021】
この内、LDD120は、アンプ121と、加算器122とを含む。アンプ121は、入力電流を増幅する。また、加算器122は、LD110を、アンプ121からの出力電流にOSC140から入力される高周波信号305を重畳して得た電流で駆動し、以てLDD110をパルス発光させる。
【0022】
また、受光IC130は、フォトディテクタ131(以下、FDと略称する)と、電流電圧変換器132(以下、I/Vと略称する)とを含む。FD131は、戻り光302の光量に応じた電流を発生する。また、I/V132は、FD131からの出力電流を電圧信号に変換し、この電圧信号をアナログ信号303として信号変換回路20へ出力する。
【0023】
一方、信号変換回路20は、アンプ210(以下、AMPと略称する)と、LPF220と、ADC230と、PRML(Partial Response Maximum Likelihood)回路240と、デコーダ250と、位相調整回路260と、APC(Auto Power Control)回路270とを含む。
【0024】
この内、LPF220は、AMP210により増幅されたアナログ信号303中の所定の周波数以下の帯域成分を通過させる。ここで、所定の周波数以下の帯域は、図2にLPF220の出力特性501を示す如く、カットオフ周波数f以下の再生信号帯域b1と、LPF220による減衰帯域b2とから成る。すなわち、LPF220は、一般的な光ディスク装置に設置されるLPFと同様の出力特性(図4参照)を有している。
【0025】
また、ADC230は、端子280を介してOSC140から入力されるサンプリングクロック信号306を用いて、LPF220により帯域制限されたアナログ信号303をサンプリングする。ここで、サンプリングクロック信号306及び上記の高周波信号305は、OSC140から分岐出力された同一の信号である。すなわち、サンプリング周波数f=高周波重畳周波数fHFが成立する。ここで、サンプリングクロック信号306は、差動伝送によりADC230へ供給すると好適である。なお、サンプリングクロック信号306は、その周波数fが高周波重畳周波数fHFと同一値に設定されていれば良く、信号変換回路20内部に設けた局部発振器から供給しても良い。また、この局部発振器を、OSC140に代えて、ADC230と上記のLDD120とで共用しても良い。図示の場合、及び局部発振器を共用する場合には、OSC140及び局部発振器の両者を設置する場合と比較して、光ディスク装置1の開発コストをより低減できる。
【0026】
また、PRML回路240は、例えばPR等化器及びビタビ復号器で構成され、ADC230から出力されたディジタル信号304に対して、等化処理及び最尤復号処理を施す。デコーダ250は、PRML回路240により等化処理及び最尤復号処理が施されたディジタル信号304を復調し、後段の処理回路へ出力する。
【0027】
また、位相調整回路260は、サンプリングクロック信号306の位相を、アナログ信号303のADC230への入力位相と一致するように調整する。例えば、位相調整回路260は、バッファ等の遅延素子で簡易に構成することができる。この場合、遅延素子には、レーザ光301及び戻り光302の各光路長、受光IC130、AMP210、及びLPF220の各処理時間、並びにアナログ信号303の伝送路長等に応じた遅延量を予め設定して置く。或いは、位相調整回路260は、ADC230から出力されるディジタル信号304の値が適正値となるように(具体的には、アナログ信号303がその最大値付近でサンプリングされ、以てSNR(Signal to Noise Ratio)が高くなるように)、サンプリングクロック信号306の位相を調整する。
【0028】
さらに、APC回路270は、LDD120を制御し、以てLD110の出力を安定させる。
【0029】
次に、信号変換回路20の動作例を、図2及び図3を参照して説明する。なお、光ピックアップ回路10の動作は一般的な光ディスク装置と同様であるため、その説明を省略する。
【0030】
サンプリング周波数fと高周波重畳周波数fHFとを同一に設定した場合、図2に示す如く、LPF220により帯域制限されたアナログ信号303(減衰帯域b2)に、高周波重畳残留成分401が含まれ得る。しかしながら、この場合、再生信号帯域b1には、高周波重畳残留成分401に因るエリアシングノイズが発生しない。
【0031】
従って、ADC230は、エリアシングノイズの影響を受けること無く、アナログ信号303をサンプリングでき、以てディジタル信号304の品質を、一般的な光ディスク装置と比較して大幅に向上させることができる。
【0032】
また、図3に示す如く、サンプリング周波数f及び高周波重畳周波数fHFを、減衰帯域b2の上限周波数よりも高い周波数(すなわち、LPF220による遮断帯域b3内の任意の周波数)に設定した場合、再生信号帯域b1及び減衰帯域b2には、高周波重畳残留成分401が含まれない。
【0033】
従って、ディジタル信号304の品質を、更に向上させることができる。
【0034】
なお、上記の実施の形態によって本発明は限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載に基づき、当業者によって種々の変更が可能なことは明らかである。
【0035】
例えば、本発明は、光ディスク装置に限らず、高周波重畳方式により発振されたレーザ光を自システムへ戻す(例えば、ループバックする)各種のシステムに適用できる。また、マルチモードで発振する自励発振型のレーザ光源を用いる場合であっても、このレーザ光源の発振周波数とサンプリング周波数とを同一値に設定すれば、上記と同様の効果が得られることとなる。
【符号の説明】
【0036】
1 光ディスク装置
2 光ディスク
10 光ピックアップ回路
20 信号変換回路
110 レーザダイオード(LD)
120 レーザダイオードドライバ(LDD)
121, 210 アンプ(AMP)
130 受光IC
131 フォトディテクタ(PD)
131 電流電圧変換器
140 発振器(OSC)
220 LPF
230 ADC
240 PRML回路
250 デコーダ
260 位相調整回路
270 APC回路
280 端子
301 レーザ光
302 戻り光
303 アナログ信号
304 ディジタル信号
305 高周波信号
306 サンプリングクロック信号
401 高周波重畳残留成分
402 エリアシングノイズ
501 LPF出力特性
b1 再生信号帯域
b2 減衰帯域
b3 遮断帯域
カットオフ周波数
HF 高周波重畳周波数
ナイキスト周波数
サンプリング周波数

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高周波信号を重畳した電流によって駆動されるレーザ光源から発振され、且つ光ディスクで反射されたレーザ光の光量を示すアナログ信号を、サンプリングしてディジタル信号に変換する変換部を、備え、
前記サンプリングに用いるクロック信号の周波数が、前記高周波信号の周波数と実質的に同一である、
信号変換回路。
【請求項2】
請求項1において、
前記変換部の前段に設けられ、前記アナログ信号中の所定の周波数以下の帯域成分を通過させる帯域制限部を、さらに備え、
前記クロック信号の周波数が、前記所定の周波数より高いことを特徴とした信号変換回路。
【請求項3】
請求項1又は2において、
前記クロック信号が、前記高周波信号を発振する発振器から供給されることを特徴とした信号変換回路。
【請求項4】
請求項3において、
前記クロック信号の位相を前記アナログ信号の前記変換部への入力位相と一致するように調整する調整部を、さらに備えたことを特徴とする信号変換回路。
【請求項5】
高周波信号を重畳した電流によって駆動されるレーザ光源から発振されたレーザ光の戻り光量を示すアナログ信号を、前記高周波信号と実質的に同一の周波数でサンプリングする、
ことを含むサンプリング方法。
【請求項6】
請求項5において、
前記サンプリングに先立ち、前記アナログ信号から、前記高周波信号と実質的に同一の周波数より低い周波数に対応する帯域成分を抽出する、
ことをさらに含むサンプリング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−216148(P2011−216148A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−83001(P2010−83001)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(302062931)ルネサスエレクトロニクス株式会社 (8,021)
【Fターム(参考)】