説明

信号系列生成回路、信号系列生成方法、信号系列生成プログラム及び通信システム

【課題】 システム構成などを複雑にすることなく、多量の情報をのせることができ、耐雑音性に優れた、しかも、重畳によっても弁別可能な信号系列を生成する。
【解決手段】 本発明の信号系列生成回路は、2個ずつを取り出して見た場合に互いにプリファードペアになる複数のM系列を生成する複数M系列生成手段と、生成された複数のM系列にそれぞれ、遅延を付与する可変遅延付与手段と、遅延が付与された複数のM系列に、排他的論理和演算を施し、演算後の信号系列を出力する加算手段と、加算手段から出力された信号系列のPビット毎に、変換後において、「1」及び「0」の割合が偏るようにQ(Q>P)ビットに変換するビット幅拡張手段とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、信号系列生成回路、信号系列生成方法、信号系列生成プログラム及び通信システムに関し、例えば、物品や個体の識別や認証などのためのユニークな個別データ(ID)の生成に適用し得るものである。
【背景技術】
【0002】
近年、製造工程の自動化システムや物流システムの効率化が必要とされており、物品の効率的な識別システムが必要とされている。効率的な識別システムとは、(1)物品に付加する識別媒体が安価、(2)周辺環境(ノイズや汚れなど)の影響を受け難い、(3)個別データの識別の仕組みが単純でシステム運用に費用がかからない、などの特徴を持つことにより実現可能となる。
【0003】
M系列は、擬似不規則系列の一つで拡散符号通信などに用いられており、シフトレジスタにより発生される確定的信号でありながら、その統計的性質が真の不規則信号に似ている。このようなM系列を、物品や個体の識別や認証などのための個別データとして利用することも既になされている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
在庫管理や入退室管理などで用いられる、物品や個体の識別システムとして、バーコードシステムや無線タグ(RFID)を利用したシステムがある。例えば、無線タグを利用したシステムにM系列を適用した場合には、他の無線タグとの干渉が少ない、一度に複数の無線タグをアクセス可能である、などの利点を有する。
【特許文献1】特開2004−143806号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
個体の識別や認証などのための個別データ生成に用いる信号としては、多量の情報をのせられること、および耐雑音性の高いものが要求されている。
【0006】
例えば、バーコードシステムの場合、バーコードの印字された表面が汚れてしまい、バーコードから読み取った信号に雑音が混入されると、物品や個別の認識が不可能になることも生じる。また、RFIDシステムであっても、電磁ノイズの多い場合はもちろんのこと、周辺環境による反射や吸収により電波信号が乱されて識別不能となることは頻繁に起き得る。
【0007】
M系列は他の信号系列に比較すると、耐雑音性が高いものであるが、M系列を適用したとしても、雑音が問題となることがあり、M系列単独ではのせられる情報量が十分でない場合もある。
【0008】
さらに、RFIDシステムのような複数のRFIDタグの同時読取を実行するシステムであれば、おのおのの識別用の信号はユニークであっても、同時読取によって多くの識別用の信号が重なった場合には、各識別用信号を弁別できない恐れがある。
【0009】
因みに、携帯電話に代表される大規模な通信システムであれば、符号長を長くするなど、比較的雑音に強いシステムを構築可能だが、システムが複雑で運用に多大なコストを必要としてしまう。
【0010】
そのため、システム構成などを複雑にすることなく、多量の情報をのせることができ、耐雑音性に優れた、しかも、重畳によっても弁別可能な信号系列を生成し得る信号系列生成回路、信号系列生成方法及び信号系列生成プログラムが望まれており、そのような信号系列の生成方法などを適用した通信システムが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
第1の本発明の信号系列生成回路は、(1)2個ずつを取り出して見た場合に互いにプリファードペアになる複数のM系列を生成する複数M系列生成手段と、(2)生成された複数のM系列にそれぞれ、遅延を付与する可変遅延付与手段と、(3)遅延が付与された複数のM系列に、排他的論理和演算を施し、演算後の信号系列を出力する加算手段と、(4)上記加算手段から出力された信号系列のPビット毎に、変換後において、「1」及び「0」の割合が偏るようにQ(Q>P)ビットに変換するビット幅拡張手段とを備えたことを特徴とする。
【0012】
第2の本発明の信号系列生成方法は、複数M系列生成手段、可変遅延付与手段、加算手段及びビット幅拡張手段を有し、(1)上記複数M系列生成手段が、2個ずつを取り出して見た場合に互いにプリファードペアになる複数のM系列を生成し、(2)上記可変遅延付与手段が、生成された複数のM系列にそれぞれ、遅延を付与し、(3)上記加算手段が、遅延が付与された複数のM系列に、排他的論理和演算を施し、演算後の信号系列を出力し、(4)上記ビット幅拡張手段が、上記加算手段から出力された信号系列のPビット毎を、変換後において、「1」及び「0」の割合が偏るようにQ(Q>P)ビットに変換することを特徴とする。
【0013】
第3の本発明の信号系列生成プログラムは、コンピュータを、(1)2個ずつを取り出して見た場合に互いにプリファードペアになる複数のM系列を生成する複数M系列生成手段と、(2)生成された複数のM系列にそれぞれ、遅延を付与する可変遅延付与手段と、(3)遅延が付与された複数のM系列に、排他的論理和演算を施し、演算後の信号系列を出力する加算手段と、(4)上記加算手段から出力された信号系列のPビット毎に、変換後において、「1」及び「0」の割合が偏るようにQ(Q>P)ビットに変換するビット幅拡張手段として機能させることを特徴とする。
【0014】
第4の本発明の通信システムは、第1の本発明の信号系列生成回路と、通信手段を用いて、上記信号系列生成回路で生成した個別データをIDとして利用することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、システム構成などを複雑にすることなく、多量の情報をのせることができ、耐雑音性に優れた、しかも、重畳によっても弁別可能な信号系列を生成することができ、又は、そのような信号系列を利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
(A)主たる実施形態
以下、本発明による信号系列生成回路、信号系列生成方法、信号系列生成プログラム及び通信システムの一実施形態を、図面を参照しながら詳述する。
【0017】
(A−1)無線タグの個別データ書込装置の構成
信号系列生成回路、信号系列生成方法及び信号系列生成プログラムの一実施形態は、無線タグの個別データ書込装置に適用されている。
【0018】
図1は、無線タグの個別データ書込装置の構成を示すブロック図であり、図3は、図1の信号系列生成部の構成を示すブロック図である。
【0019】
図1において、無線タグの個別データ書込装置1は、管理番号/遅延用データ変換部2、実施形態に係る信号系列生成部3、ビット幅拡張部4、個別データ書込部5、データ対応付け記憶部6、及び、制御部7を有する。信号系列生成部3及びビット幅拡張部4が、実施形態の信号系列生成回路に相当する。
【0020】
管理番号/遅延用データ変換部2は、個別データが記憶されていない白紙の無線タグが新たに書込み対象となったときに、制御部7から与えられた管理番号を、後述する遅延用データ群R0〜Rrに変換して信号系列生成部3に与えるものである。
【0021】
信号系列生成部3は、ハードウェア的に構成されていても良く、また、信号系列生成プログラムをCPUが実行することにより機能が実現されるソフトウェア的に構成されたものであっても良く、いずれで実現されたとしても、機能的には図3に示すような詳細構成を有する。なお、詳細構成については後述する。信号系列生成部3は、後述する詳細構成と、管理番号/遅延用データ変換部2から与えられた遅延用データ群とによって定まる、ビット幅の拡張前の個別データを生成するものである。ここで、信号系列生成部3から出力される個別データは、「1」及び「0」のビットの頻度がほぼ等しいものである。
【0022】
ビット幅拡張部4は、信号系列生成部3から出力された個別データのビット幅を拡張すると共に、「1」のビットの割合を、「0」のビットの割合より十分に小さくするものである。ビット幅拡張部4によるビット幅の拡張方法として、パルス位置変調(PPM)方式を適用することができる。
【0023】
図2は、ビット幅拡張部4によるビット幅の拡張方法の一例(PPM方式)の説明図である。図2の例は、4ビット毎に、16ビット幅に拡張する例を示している。
【0024】
信号系列生成部3から出力された個別データが、図2(A)に示すように、「0000010100…」であったとする。この個別データを4ビットずつ切り分ける。すなわち、「0000」、「0101」、「00…」に切り分ける。各4ビットを、16進表記0〜9、A(=10)〜F(=15)に置き換え、16ビット中、16進表記における数字が表すビット位置だけ「1」とし、他のビット位置を全て「0」にする。例えば、最初の4ビットは「0000」であるので16進表記で「0」となり、図2(B)に示すように、ビット(bit)0〜ビットFのうち、16進表記「0」をビット順番とするビット0が「1」をとり、他のビット1〜ビットFが「0」をとるデータに変換される。2番目の4ビットは「0101」であるので16進表記で「5」となり、図2(B)に示すように、ビット(bit)0〜ビットFのうち、16進表記「5」をビット順番とするビット5が「1」をとり、他のビット0〜ビット4、ビット6〜ビットFが「0」をとるデータに変換される。すなわち、4ビットの16進表記が「x」であれば、ビットxが「1」をとり、他の全てのビットが「0」をとるデータに変換される。図2の例では、「1」のビットの割合1/16は、「0」のビットの割合15/16より十分に小さくなる。
【0025】
図2の例は、4ビット毎に16ビット幅に拡張するものを示したが、5ビット毎に32ビット幅に拡張するなど、他の拡張方法を適用しても良いことは勿論である。
【0026】
個別データ書込部5は、例えば、白紙の無線タグを当初はロット単位分だけ貯蔵している第1貯蔵部や、この第1貯蔵部から1枚の無線タグを繰り出して書込み位置にセットする繰り出し機構部や、書込み位置にセットされた白紙の無線タグにビット幅拡張部4から出力されたビット幅拡張後の個別データを書き込む書込み実行部や、個別データが書き込まれた無線タグを貯蔵する第2貯蔵部や、個別データが書き込まれた無線タグを書込み位置から第2貯蔵部へ移動させる移動機構部等を備え、白紙の無線タグに、個別データを書き込むものである。なお、少なくとも個別データを書き込む書込み実行部を備えていれば良い。
【0027】
データ対応付け記憶部6は、遅延用データ群(又は管理番号)と、ビット幅拡張後の個別データとを対応付けて記憶するものである。ビット幅拡張後の個別データをそのまま格納しても良いが、この実施形態の場合、後述する相互相関処理の精度を考慮し、ビット幅拡張後の個別データの1ビットをそれぞれ、同一値の3ビットに引き延ばして格納するものとする。すなわち、ビット幅拡張後の個別データのビット「0」は「000」として格納され、ビット幅拡張後の個別データのビット「1」は「111」として格納される。
【0028】
この記憶された対応付けデータは、製造工程の自動化システムや物流システムなどの、無線タグからのデータを処理するデータ処理システムによって、識別用又は認証用として利用されるものである。なお、ビット幅拡張後の個別データをIDとして利用するシステムであっても良く、また、遅延用データ群(又は管理番号)をIDとして利用するシステムであっても良い。後述する通信システム及び通信方法は、ビット幅拡張後の個別データをIDとして利用するシステムを想定している。
【0029】
制御部7は、当該個別データ書込装置1の全体を制御し、上述したように、白紙の無線タグにビット幅拡張後の個別データを書き込むようにさせるものである。ここで、制御部7は、白紙の無線タグに対し、ビット幅拡張後の個別データに加え、フラグシーケンスなどの同期確立用のデータ部分も併せて、書き込むようにすることが好ましい。
【0030】
実施形態の信号系列生成部3は、図3に示すように、r+1個のM系列生成部10−0〜10−rと、全てのM系列生成部10−0〜10−rからのM系列の排他的論理和(exclusive OR)をとる、加算手段である排他的論理和回路11とを有する。
【0031】
各M系列生成部10−0〜10−rはそれぞれ、複数M系列生成手段であるM系列生成本体20−0〜20−rと、可変遅延付与手段である可変遅延器21−0〜21−rとでなる。
【0032】
M系列生成本体20−0〜20−rはそれぞれ、次数nの異なる特性多項式f(x)〜f(x)に従うM系列を発生するものであり、n段のシフトレジスタSR0〜SRrと、特性多項式によって定まる段の出力の排他的論理和をとる1又は複数の排他的論理和回路ExOR01〜ExORr1とでなる周知の構成を有する。
【0033】
この実施形態の場合、M系列生成本体20−0〜20−rが発生するr+1個のM系列は、その任意の2個ずつが全て、プリファードペア(preferred pair)の関係になっている。ここで、M系列について、同じ次数のM系列で異なる特性多項式をもつM系列との相互相関関数の最大値が最小になるM系列のペアは、プリファードペアと呼ばれている。なお、プリファードペアについては、例えば、文献A「D.V.Sarwate and M.B.Pursley,“Crosscorrelation Properties of Pseudorandom and Related Sequencies”,PROC.IEEE,Vol.68,No.5,pp.593−619,1980.」に記載されている。
【0034】
可変遅延器21−0〜21−rはそれぞれ、対応するM系列生成本体20−0〜20−rが生成したM系列を指示された分だけ遅延させて、排他的論理和回路11に与えるものである。可変遅延器21−0〜21−rにおける遅延量は必ずしも同一ではなく、これら遅延量の組み合わせが、当該信号系列生成部3が生成する個別データのユニーク性を規定する1つのパラメータとなっている。
【0035】
この実施形態の場合、M系列の周期2−1より短い任意の遅延量を簡単な構成で与えることができるように、可変遅延器21−0〜21−rはそれぞれ、対応するM系列生成本体20−0〜20−rにおけるシフトレジスタSR0〜SRrの各段の値にそれぞれ、設定された値を乗算する乗算器群D0〜Drと、対応する乗算器群D0〜Drの出力の排他的論理和をとる排他的論理和回路ExOR02〜ExORr2とでなる。
【0036】
各乗算器群D0〜Drに設定されるn個のデータは、管理番号/遅延用データ変換部2から与えられた遅延用データR0〜Rrである。例えば、乗算器群D0には、遅延用データR0{r0,0,…,r0,n−1}が設定される。
【0037】
(A−2)遅れたM系列を得る方法
次に、可変遅延器21−0〜21−rを、図3に示すような演算構成によって実現できることを、図4に示すM系列生成本体及び可変遅延器のモデルを用いて説明する。
【0038】
M系列は、n段のシフトレジスタSRのある初期状態が与えられれば、それから後の全ての状態が定まるから、任意の遅延量dだけ遅れたM系列xは、シフトレジスタSRの各段の内容x、…、xn−1の(1)式で表される線形結合で与えられることが分かる。
【0039】
=r+r+r+…+rn−1n−1 …(1)
係数r(iは0〜(n−1))は「0」又は「1」をとり、係数rが分かれば、シフトレジスタSRのどの段の出力を加算すれば良いかが分かる。
【0040】
遅延量dは、M系列の1周期2n−1より短い範囲の値をとることができ、シフトレジスタSRの段数nより小さい値をとることも、段数n以上をとることもあり得る。
【0041】
遅延量dがシフトレジスタSRの段数nより小さいときは、シフトレジスタSRの遅延量dに応じた段jから、遅延したM系列を取り出すことができる。この場合は、その段jの内容xに対する係数rだけを「1」とし、他の段の内容に対する係数を全て「0」とすれば良い。
【0042】
遅延量dがシフトレジスタSRの段数n以上の場合を検討する。遅延されたM系列xをM系列生成本体に係る特性多項式f(x)で割ったとした場合、次の(2)式が成立する。(2)式において、Q(x)は商、R(x)は剰余の多項式である。
【0043】
=Q(x)f(x)+R(x) …(2)
(2)式の右辺に着目する。ここで、剰余多項式R(x)の次数はnより小さく、Q(x)f(x)における、剰余多項式R(x)に委ねている次数部分は0である。ここで、(1)式の右辺と同様な次数を考慮すると、(2)式は、(3)式のように書くことができる。
【0044】
=R(x) …(3)
(1)式と(3)式との比較から、剰余多項式R(x)の係数が、遅延量dだけ遅れたM系列xを形成させるための、r〜rn−1になっている。すなわち、遅延量dだけ遅れたM系列xを形成させるためには、xを特性多項式f(x)で割って得られた剰余多項式R(x)の係数を取り出せば良い。
【0045】
(A−3)無線タグの個別データ書込装置の動作
次に、無線タグの個別データ書込装置の動作を説明する。
【0046】
制御部7は、新たな白紙の無線タグが書込み対象となったときには、信号系列生成部3の全てのシフトレジスタSR0〜SRrに初期値を設定させると共に、書込み対象の無線タグに関する管理番号を管理番号/遅延用データ変換部2に与える。管理番号/遅延用データ変換部2は、管理番号を遅延用データ群R0〜Rrに変換し、信号系列生成部3の乗算器群D0〜Drに設定させる。
【0047】
このような初期化処理が終了すると、制御部7は、信号系列生成部3に対して、クロックに基づいた動作を起動させる。
【0048】
M系列生成部10−0のM系列生成本体20−0は、クロック毎に、シフトレジスタSR0の段の内容を書き換える。可変遅延器21−0の乗算器群D0は、シフトレジスタSR0の段の内容に対し、設定された遅延用データ群R0の値を乗算し、乗算結果が、排他的論理和回路ExOR02によって加算(排他的論理和)され、遅延用データ群R0の値に応じた遅延量だけ遅延されたM系列a(j+d)として出力される。
【0049】
他のM系列生成部10−1〜10−rも同様に動作し、遅延されたM系列a(j+d)〜a(j+d)を出力する。
【0050】
排他的論理和回路11は、全てのM系列生成部10−0〜10−rからの遅延されたM系列a(j+d)〜a(j+d)を加算(排他的論理和)して個別データとして出力する。
【0051】
出力された個別データは、ビット幅拡張部4によって、ビット幅が拡張されると共に、「1」のビットの割合を、「0」のビットの割合より十分に小さくされる。
【0052】
ビット幅拡張後の個別データは、個別データ書込部5によって、書込み対象の無線タグに書き込まれる。また、データ対応付け記憶部6によって、遅延用データ群(又は管理番号)と、ビット幅拡張後の個別データとが対応付けて記憶される。
【0053】
(A−4)信号生成の考え方
M系列については、同じ次数のM系列で、異なる特性多項式をもつM系列との相互相関関数の最大値が最小になるM系列のペアは、上述のように、プリファードペアと呼ばれている。互いにプリファードペアになるM系列の個数の最大値Hは、図5に示すようになることが分かっている(上記文献A参照)。しかし、具体的にどのペアがプリファードペアになるかということは示されていない。
【0054】
この実施形態は、互いにプリファードペアになるM系列を組み合わせて発生させた系列は、互いに相関の小さい系列になることに着目したものである。
【0055】
図5において、仮に、互いにプリファードペアになる集合の最大のもの(要素数はH)を全て信号発生に用いるとすると、n×Hが大きいほど沢山の情報を送ることができる。互いにプリファードペアになる集合要素の最大値がHとなる組み合わせがr個あったとすると、送ることのできる情報は、合計r×2n×H個となる。
【0056】
この実施形態は、2つのM系列を用いるGold系列や、3つのM系列を用いるKasami系列などとは異なり、互いにプリファードペアになるH個のM系列の全て又はその大半を用いて、そのそれぞれに遅延を与えた後、加算することにより、入れる情報の型を大きくした干渉の少ない信号系列の発生法である。
【0057】
図5によると、M系列の次数nと、プリファードペアになる個数の最大値Hとの積が大きいほど、載せられる情報は大きくなるので、次数nとして7を例に選んで信号の発生法を説明する。
【0058】
次数7については、特性多項式の総数が18であることが分かっているから、この中から6個(最大値H)選んで、その中のいずれのペアもプリファードペアになる組み合わせを探索した結果、図6に示される18組のM系列を見出した。
【0059】
なお、図6における特性多項式を規定する値は8進表示であり、以下のようなことを表している。次数は7ではないが、特性多項式f(x)=1+x+x+x+xの場合を例とする。この場合に、各べき乗の係数を0、1で表し、係数だけを取り出して表現すると、特性多項式f(x)を、f(x)=100011101(2進数)のように表現することができる。このような2進表示を8進表示すると、特性多項式f(x)を、f(x)=435(8進数)のように表現することができる。図6は、このような8進表示を適用している。
【0060】
図6の18組中の1組を選択し、その1組の6個の特性多項式f(x)〜f(x)に従うように、図3の信号系列生成部3を形成するr+1個(=H個=6個)の7次のM系列生成部10−0〜10−rを形成する。また、遅延用データ群R0〜Rrも、選択した組の6個の特性多項式f(x)〜f(x)を利用して得る。
【0061】
7次のM系列を用いる場合の信号の生成は、M系列生成部10−0〜10−rの個数が6個であるので、(4)式のようになる。
【数1】

【0062】
信号系列生成部3から出力された個別データは、干渉も少ない多量の情報量を載せることができる耐雑音性の良い信号系列となっている。しかしながら、この信号系列は「1」及び「0」が概ね同量混在しているため、無線タグ読取装置が複数の無線タグの同時読取が可能なシステムに、この信号系列を適用した場合、各信号の「1」が重なり、受信信号から各信号を弁別し難くなる。
【0063】
そのため、ビット幅拡張部4によって「1」のビットの割合を、「0」のビットの割合より十分に小さくなるようにビット幅を拡張することとした。
【0064】
(A−5)無線タグ通信システム及び通信方法
図7は、上述した個別データ書込装置10によって、拡張された個別データが書き込まれた無線タグとの通信を行う無線タグ通信システムの構成を示すブロック図である。
【0065】
図7において、無線タグ通信システム30は、無線タグ31と、無線タグリーダ32と、上位装置33とを有する。
【0066】
無線タグ31は、上述した個別データ書込装置10によって、拡張された個別データが書き込まれたものであり、物品や個体の識別や認証などの管理のために、物品や個体に取り付けられたり、個体が所持したりするものである。無線タグ31は、ループ状の送受信アンテナ40と、拡張された個別データを記録している個別データメモリ41と、当該無線タグ31の動作を制御する制御部42と、無線タグリーダ32からの質問信号を受信して制御部42に与えると共に、制御部42が個別データメモリ41から読み出した拡張された個別データを送信させる送受信部43とを有する。
【0067】
例えば、ループ状の送受信アンテナ40と、送受信部43若しくは制御部42の一部構成要素とによって、質問信号のキャリア周波数に共振する共振回路(例えばLC共振回路)が構成され、共振によって、当該無線タグ31の動作電源が得られるようになされている。また、個別データメモリ41は不揮発性メモリであることが好ましい。無線タグ31及び無線タグリーダ32間のデジタル変調方式は問われないものであるが、例えば、ASK(振幅シフトキーイング)変調方式、FSK(周波数シフトキーイング)変調方式、PSK(位相シフトキーイング)変調方式を適用可能である。
【0068】
無線タグリーダ32は、上位装置33の制御下で、自己の周囲に対し、質問信号を放射し、当該無線タグリーダ32の近傍に存在している無線タグ31の拡張された個別データを取得するものである。無線タグリーダ32は、無指向性若しくは指向性の送受信アンテナ50と、送信系及び受信系を切り分けるデュプレックス部51と、制御部54から与えられたベースバンドの質問信号をデジタル変調してデュプレックス部51に与える送信部52と、デュプレックス部51からの受信信号をベースバンド信号に変換し、さらに、2値(デジタル値)信号に変換する受信部53と、質問信号を放射させると共に、当該無線タグリーダ32の近傍に存在している無線タグ31に割り当てられている拡張された個別データの同定を行う制御部54と、上述したデータ対応付け記憶部6と同様な遅延用データ群(又は管理番号)とビット幅拡張後の個別データとの対応付け情報を記憶している参照用データベース55と、制御部54の同定処理時に得られたビット幅拡張後の個別データ若しくは遅延用データ群(又は管理番号)の候補をバッファリングする候補格納部56とを有する。
【0069】
無線タグリーダ32としては、少なくとも送受信アンテナ50、送信部52、受信部53、制御部54を備えていれば良い。
【0070】
この実施形態の場合、受信部53は、ベースバンド信号を2値(デジタル値)信号に変換する際のサンプリングレートとしては、無線タグ31が出力するビット幅拡張後の個別データのサンプリングレートの3倍(他の2以上の整数倍であっても良い)のレートを適用する。この3倍のレートでサンプリングされた個別データを制御部54にそのまま出力するか、若しくは、雑音除去処理を行ってから制御部54に出力する。受信部53が得たベースバンド信号が図8のような場合には、縦線で示すサンプリングタイミングでサンプリングされる。図8の場合、このサンプリングによって雑音NI1及びNI2が除去されるが、仮に、「1」とサンプリングされたとする。例えば、「1」はその前後のいずれかも「1」でなければ「0」に置き換えるというノイズ除去ルールを適用すれば、雑音NI1及びNI2が仮に「1」とサンプリングされたとしても「0」に置き換えられて雑音が除去される。
【0071】
制御部54は、以下のようにして、近傍に存在している無線タグ31に割り当てられている拡張された個別データを同定する。制御部54は、受信部53から与えられたサンプリングデータを内部にバッファリングする。ここで、バッファリングは、例えば、「1」が到来した以降に行う。
【0072】
そしてまず、バッファリングした先頭の「1」が、拡張された個別データにおけるビット0の位置(図2参照)での値であると仮定して、参照用データベース55に格納されている拡張後の個別データ(サンプリングレートが3倍に引き延ばされている)のうち、ビット0の位置の値が「1」であるものとの相関値を求め、相関値がしきい値以上のものを候補格納部56に格納する。
【0073】
ここで、サンプリングレートが3倍にされているので、ビット0の位置も3等分し、ビット0の最初の3等分の位置、ビット0の2番目の3等分の位置、ビット0の最後の3等分の位置毎に相関を求めて候補を得るようにしても良い。
【0074】
また、全期間の相関値を求めた場合、無線タグリーダ32の周囲に多くの無線タグ31が存在する場合には、該当する無線タグ31の個別データとの相関値であっても小さくなってしまう。そこで、参照用データベース55に格納されている個別データを基準とし、この参照側の個別データで「1」をとる期間だけに限定して(マスキングをして)相関値を求めるようにしても良い。
【0075】
次に、バッファリングした先頭の「1」が、拡張された個別データにおけるビット1の位置(図2参照)での値であると仮定して、参照用データベース55に格納されている拡張後の個別データのうち、ビット1の位置の値が「1」であるものとの相関値を求め、相関値がしきい値以上のものを候補格納部56に格納する。
【0076】
これ以降、同様に、バッファリングした先頭の「1」が、拡張された個別データにおけるビットx(x=2〜15のいずれか)での値であると仮定して、参照用データベース55に格納されている拡張後の個別データのうち、ビットxの位置の値が「1」であるものとの相関値を求め、相関値がしきい値以上のものを候補格納部56に格納する。
【0077】
制御部54は、ビット15での候補探索を終了したときに、候補格納部56に格納されている候補のデータを上位装置33に送出する。なお、質問信号の送信と候補探索とを複数回実行し、複数回の探索で所定回数(例えば過半数)以上で候補となったものを上位装置33に送出するようにしても良い。
【0078】
以上では、受信して得たベースバンド信号から、個別データを同定する処理を無線タグリーダ32が実行するものを示したが、上位装置33が個別データを同定する処理を実行するようにしても良い。
【0079】
(A−6)実施形態の効果
上記実施形態は、発生が容易なM系列を用いて、互いにプリファードペアになるH個(例えば、7次の場合、H=6、11次の場合、H=4)のM系列に、それぞれ遅延を加えた後、排他的論理和によって加算して信号系列(拡張前の個別データ)を得、その後、ビット幅を拡張して出力する個別データ(拡張後の個別データ)を生成するようにしたので、互いに相互相関が小さく、干渉も少ない多量の情報量を載せることができる耐雑音性の良い信号系列を生成することができる。
【0080】
載せられる情報量としては、例えば、7次のM系列(系列長127)を用いる場合、18×242個の情報量になり、極めて多量の情報量を載せることができる。
【0081】
しかも、この系列は異なる情報を持つほかの系列とは相関が小さく、かつ耐雑音特性も優れているため、上記実施形態のような無線タグ等を利用した物品や個体の識別又は認証システムなどに応用すると極めて大きな効果をもたらすことができる。
【0082】
特に、リーダが複数の無線タグの同時読み取り機能を備えている場合であっても、ビット拡張によって、「1」区間の衝突をほとんどなくすことができ、無線タグ等を利用した物品や個体の識別又は認証システムなどに応用すると極めて大きな効果をもたらすことができる。
【0083】
(B)他の実施形態
上記では、本発明の信号系列生成回路を、無線タグの個別データ書込装置に適用したものを示したが、本発明の信号系列生成回路の用途はこれに限定されるものではない。例えば、認証側の装置に、本発明の信号系列生成回路を適用することができる。例えば、遅延データ群でなるパスワード又はIDをキーボードなどから入力させ、その入力された遅延データ群で生成させた信号系列と、無線タグから読み取った信号系列との照合によって、認証や識別を行うようにしても良い。また例えば、バーコードとして記述するための信号系列を、本発明の信号系列生成回路によって生成するようにしても良い。
【0084】
また、上記実施形態では、生成されたM系列を遅延させる構成が、乗算器群と排他的論理和とでなるものを示したが、他の可変遅延構成を適用するようにしても良い。例えば、遅延量の範囲が狭いものであれば、遅延用のシフトレジスタと、その遅延用のシフトレジスタの任意の段の出力を取り出す構成を、可変遅延構成とするようにしても良い。
【0085】
さらに、上記実施形態では、互いにプリファードペアになる最大個数(H)分のM系列を発生させ、遅延を付与して加算するものを示したが、M系列の発生数を、最大個数(H)より少なくするようにしても良く、また、発生数そのものも可変できるようにしても良い。
【0086】
本発明で用いる無線タグとしては、特に限定されるものではないが、電池を内蔵し自ら電波を発信するものや外部の電波を利用してデータのやり取りをするものなどを用いることができる。さらには、電磁誘導を利用したものや、放射電磁界を利用したものなどを用いることができる。無線タグにおける電気回路(アンテナ回路)としては、コイル状やダイポール型などを挙げることができる。
【0087】
上記実施形態の通信システムでは、無線タグに拡張後の個別データが記憶されたものを示したが、拡張後の個別データのサンプリングレートを高めた個別データを記憶させ、質問信号の到来時に送信させるようにしても良い。また、無線タグに個別データを記憶させるのではなく、無線タグに信号系列生成回路を搭載すると共に、遅延データ群を記憶させ、質問信号の到来時に、個別データの生成処理を行って送信させるようにしても良い。
【0088】
本発明の通信システムは無線タグ通信システムに限定されない。例えば、バーコードから信号系列を読取って処理するような通信システムに対しても、本発明を適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】実施形態に係る信号系列生成回路を適用した、無線タグの個別データ書込装置の構成を示すブロック図である。
【図2】実施形態に係るビット幅拡張部でのビット幅の拡張方法の説明図である。
【図3】実施形態に係る信号系列生成部の構成を示すブロック図である。
【図4】実施形態における遅れたM系列を得る方法を説明するためのM系列生成本体及び可変遅延器のモデルを示すブロック図である。
【図5】M系列の次数と、互いにプリファードペアになるM系列の最大個数との関係を示す説明図である。
【図6】次数7のM系列で、互いにプリファードペアになる最大個数のM系列の特性多項式を示す説明図である。
【図7】実施形態に係る通信システムの構成を示すブロック図である。
【図8】図7の受信部のサンプリング処理の説明図である。
【符号の説明】
【0090】
3…信号系列生成部、4…ビット幅拡張部、6…データ対応付け記憶部、10−0〜10−r…M系列生成部、11…排他的論理和回路、20−0〜20−r…M系列生成本体、21−0〜21−r…可変遅延器、30…無線タグ通信システム、31…無線タグ、32…無線タグリーダ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2個ずつを取り出して見た場合に互いにプリファードペアになる複数のM系列を生成する複数M系列生成手段と、
生成された複数のM系列にそれぞれ、遅延を付与する可変遅延付与手段と、
遅延が付与された複数のM系列に、排他的論理和演算を施し、演算後の信号系列を出力する加算手段と、
上記加算手段から出力された信号系列のPビット毎に、変換後において、「1」及び「0」の割合が偏るようにQ(Q>P)ビットに変換するビット幅拡張手段と
を備えたことを特徴とする信号系列生成回路。
【請求項2】
上記排他的論理和演算を施すM系列の数が、その次数において、2個ずつを取り出して見た場合に互いにプリファードペアになる最大個数に等しいことを特徴とする請求項1に記載の信号系列生成回路。
【請求項3】
複数M系列生成手段、可変遅延付与手段、加算手段及びビット幅拡張手段を有し、
上記複数M系列生成手段が、2個ずつを取り出して見た場合に互いにプリファードペアになる複数のM系列を生成し、
上記可変遅延付与手段が、生成された複数のM系列にそれぞれ、遅延を付与し、
上記加算手段が、遅延が付与された複数のM系列に、排他的論理和演算を施し、演算後の信号系列を出力し、
上記ビット幅拡張手段が、上記加算手段から出力された信号系列のPビット毎を、変換後において、「1」及び「0」の割合が偏るようにQ(Q>P)ビットに変換する
ことを特徴とする信号系列生成方法。
【請求項4】
コンピュータを、
2個ずつを取り出して見た場合に互いにプリファードペアになる複数のM系列を生成する複数M系列生成手段と、
生成された複数のM系列にそれぞれ、遅延を付与する可変遅延付与手段と、
遅延が付与された複数のM系列に、排他的論理和演算を施し、演算後の信号系列を出力する加算手段と、
上記加算手段から出力された信号系列のPビット毎に、変換後において、「1」及び「0」の割合が偏るようにQ(Q>P)ビットに変換するビット幅拡張手段と
して機能させることを特徴とする信号系列生成プログラム。
【請求項5】
請求項1に記載の信号系列生成回路と、通信手段を用いて、
上記信号系列生成回路で生成した個別データをIDとして利用することを特徴とする通信システム。
【請求項6】
IDとしての個別データを、予め格納されている複数の参照用個別データと照合する際に、サンプリングレートを高めて照合することを特徴とする請求項5に記載の通信システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−217494(P2009−217494A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−59862(P2008−59862)
【出願日】平成20年3月10日(2008.3.10)
【出願人】(000102980)リンテック株式会社 (1,750)
【出願人】(597019609)株式会社 シーディエヌ (22)
【Fターム(参考)】