説明

倒立顕微鏡

【課題】顕微鏡本体の小型軽量化を図りつつ、覗きやすい位置に標本の像を導く。
【解決手段】対物光学系3により集光された無限遠光束の少なくとも一部を反射する反射部材15と、該反射部材15により反射された無限遠光束を集光して被写体Aの像を結像させる結像光学系16と、該結像光学系16により結像される被写体Aの像を拡大する接眼光学系20とを備える倒立顕微鏡1を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、倒立顕微鏡に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、対物レンズにより集光された鉛直下方に向かう無限遠光束の光路上に、対物レンズの像を撮像素子の撮像面に結像するための結像レンズを配置し、該結像レンズによって集光された光束の一部を分岐して、標本の像をU字型あるいはV字型の光路によってリレーすることにより、覗き易い位置に配置された接眼レンズまで導く倒立顕微鏡が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−91809号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の倒立顕微鏡は、結像レンズによって鉛直下方に集光した光束をU字型あるいはV字形の光路によって顕微鏡本体内を通過させるため、装置本体が大型化するという不都合がある。
【0005】
本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであって、顕微鏡本体の小型軽量化を図りつつ、覗きやすい位置に標本の像を導くことができる倒立顕微鏡を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
本発明は、被写体からの光を集光する対物光学系と、該対物光学系により集光された無限遠光束の少なくとも一部を反射する反射部材と、該反射部材により反射された前記無限遠光束を集光して前記被写体の像を結像させる結像光学系と、該結像光学系により結像される前記被写体の像を拡大する接眼光学系とを備える倒立顕微鏡を提供する。
【0007】
本発明によれば、対物光学系により集光された被写体からの光は、無限遠光束となって鉛直下方に導かれ、反射部材によって反射された後に結像光学系によって集光され、接眼光学系に導かれる。観察者は、接眼光学系を介して被写体の像を拡大観察することができる。この場合において、本発明によれば、対物光学系により集光された無限遠光束が、結像光学系を通過する前に反射部材によって反射されて、接眼光学系に指向されるので、結像レンズを通過した後に反射される従来の倒立顕微鏡と比較して、接眼光学系に至るまでの光路長を短縮でき、小型軽量化を図ることができる。
【0008】
上記発明においては、前記対物光学系により集光された無限遠光束を集光して前記被写体の像を結像させる撮影用結像光学系と、該撮影用結像光学系により結像された前記被写体の像を撮影する撮像素子とを備え、前記反射部材が、前記対物光学系と前記撮影用結像光学系との間の光路に挿脱可能に設けられていてもよい。
【0009】
このようにすることで、反射部材を光路上に挿入することで、対物光学系によって集光された無限遠光束が反射部材で反射された後に結像光学系により集光されて接眼光学系へ指向される。一方、反射部材を光路上から離脱させると、対物光学系によって集光された無限遠光束は、撮影用結像光学系によって集光されることにより被写体の像を撮像素子の撮像面に結像させることができる。
【0010】
また、上記発明においては、前記反射部材が、前記対物光学系からの前記無限遠光束の少なくとも一部を反射させずに通過可能に設けられ、前記反射部材を透過した無限遠光束を集光して前記被写体の像を結像させる撮影用結像光学系と、該撮影用結像光学系により結像された前記被写体の像を撮影する撮像素子とを備えていてもよい。
【0011】
このようにすることで、対物光学系からの無限遠光束のうち、反射部材において反射された部分は結像光学系によって集光されて接眼光学系に導かれ、反射部材を透過した部分は撮影用結像光学系によって集光されて撮像素子の撮像面に結像される。これにより、撮像素子により取得される被写体の像と同一の像を接眼光学系において同時に観察することができる。
【0012】
また、上記発明においては、前記反射部材が、前記対物光学系と前記撮影用結像光学系との間の光路に挿脱可能に設けられていてもよい。
このようにすることで、反射部材を光路に挿入したときには、撮像素子により取得される被写体の像と同一の像を接眼光学系において同時に観察でき、反射部材を光路から離脱させたときには、接眼光学系による観察を行うことなく撮像素子によって被写体の像を取得することができる。この場合に、反射部材は無限遠光束の光路に対して挿脱されるので、挿脱によって光路長が変化せず、光路長の補正を行わなくて済む。すなわち、反射部材を光路から離脱させた際に、代わりにダミーガラスを光路に挿入する等の処置を行う必要がない。
【0013】
また、上記発明においては、前記反射部材が、前記無限遠光束を2回反射させる2つの反射面を備え、該反射面のなす角度θが以下の条件式を満たすことが好ましい。
20°<θ<40°
【0014】
θが20°より小さいと、反射部材がプリズムで構成されている場合には、後段の反射面で全反射しなくなる。また、反射部材がミラーで構成されている場合には、ミラーの間隔を広くしないと後段の反射面を構成するミラーが光束を遮ってしまう。これを回避するためには、ミラーが配置されるスペースが大きくなってしまう。
【0015】
θが40°より大きいと、後段の反射面に浅い角度で光束が入射する。このため、反射部材がプリズムで構成されている場合には、プリズムが長く大きくなってしまい高価になる。反射部材がミラーで構成されている場合には、後段の反射面を構成するミラーが長くなるので、反射面の面精度を保つために、ミラーを厚くする必要があり、ミラーが配置されるスペースが大きくなってしまう。
【0016】
また、上記発明においては、前記反射面のうち、後段の前記反射面と前記対物光学系の光軸とのなす角度βが以下の条件式を満たすことが好ましい。
80°<β<100°
【0017】
後段の反射面は、その面積が比較的大きいので対物光学系の光軸にほぼ直交(β=90°)することが望ましい。βが80°より小さいか100°より大きいと後段の反射面が傾くことにより対物光学系の光軸方向にスペースをとってしまうことになる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、顕微鏡本体の小型軽量化を図りつつ、覗きやすい位置に対物光学系の像を導くことができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態に係る倒立顕微鏡を示す図である。
【図2】図1の倒立顕微鏡の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の一実施形態に係る倒立顕微鏡1について、図面を参照して以下に説明する。
本実施形態に係る倒立顕微鏡1は、図1に示されるように、被写体である標本Aを搭載するステージ2の下方に配置された対物光学系3と、該対物光学系3を介して標本Aに照射する照明光を供給する照明光学系4と、対物光学系3により集光されて鉛直方向下方に向かう無限遠光束からなる標本Aからの光を集光して撮影する撮像光学系5と、無限遠光束からなる標本Aからの光を集光して目視により観察するための観察光学系6とを備えている。
【0021】
照明光学系4は、照明光を発生する水銀灯のような光源7と、光源7からの照明光を集光する集光光学系8と、該集光光学系8により集光された照明光を対物光学系3の光軸Cに沿う方向に偏向するダイクロイックミラー9とを備えている。集光光学系8の焦点位置を対物光学系3の後側焦点位置に一致させることにより、略平行光からなる照明光を標本Aに照射することができるようになっている。
【0022】
対物光学系3は、標本Aから発せられた光を集光して略無限遠光束として鉛直下方に導くようになっている。
撮像光学系5は、対物光学系3により導かれた略無限遠光束を波長毎に分岐するダイクビームスプリッタ10と、該ビームスプリッタ10により分岐された光をそれぞれ集光して結像させる2つの結像光学系(撮影用結像光学系)11,12と、これら結像光学系11,12の焦点位置にそれぞれ撮像面を配置する撮像素子13,14とを備えている。
【0023】
観察光学系6は、ダイクロイックミラー9とビームスプリッタ10との間の光路に配置され、対物光学系3により鉛直下方に導かれてきた略無限遠光束の一部を略水平方向に分岐するビームスプリッタ15と、該ビームスプリッタ15により分岐された光を集光して結像させる結像光学系16と、該結像光学系16により形成された中間像をリレーするリレー光学系17と、該リレー光学系17を通過した光を斜め上方に傾斜した方向に反射するプリズム18と、該プリズム18によって反射された光を2つに分割する双眼分割用プリズム19と、リレー光学系17によってリレーされた標本Aの像を拡大して、ユーザの両眼Eの網膜が配置される位置にそれぞれ結像させる接眼光学系20とを備えている。図中、符号21はミラーである。
【0024】
このように構成された本実施形態に係る倒立顕微鏡1の作用について以下に説明する。
本実施形態に係る倒立顕微鏡1によれば、照明光学系4の光源7から発せられた照明光は、集光光学系8によって集光された後、ダイクロイックミラー9によって対物光学系3の光軸Cに沿う方向に偏向され、対物光学系3によって、該対物光学系3の鉛直上方のステージ2上に配置されている標本Aに照射される。
【0025】
標本Aから下方に発せられた光は、対物光学系3により集光されて、鉛直下方に向かう略無限遠光束となり、ダイクロイックミラー9を透過した部分の一部がビームスプリッタ15により観察光学系6に分岐される。ビームスプリッタ15により分岐された略無限遠光束は、分岐後に結像光学系16によって集光され、リレー光学系17によってリレーされて、双眼分割用プリズム19によって2つに分割された後、接眼光学系20によって試料Aの像が拡大されて、ユーザの両眼Eの網膜が配置される位置に結像される。ユーザは接眼光学系20の焦点位置に目を配置しておくことにより、試料Aの像を詳細に観察することができる。
【0026】
この場合において、本実施形態に係る倒立顕微鏡1によれば、対物光学系3により集光された略無限遠光束が、結像光学系16を通過する前にビームスプリッタ15によって反射されて、接眼光学系6に指向されるので、結像光学系16を通過した後に反射される従来の倒立顕微鏡と比較して、接眼光学系20に至るまでの光路長を短縮することができるという利点がある。その結果、小型軽量の倒立顕微鏡1を提供することができる。
【0027】
一方、ダイクロイックミラー9を透過した略無限遠光束の内、ビームスプリッタ15を透過した部分は、撮影光学系5に入射され、ビームスプリッタ10によって分岐された後に、結像光学系11,12によってそれぞれ集光されて、撮像素子13,14の撮像面に標本Aの像を結像する。これにより、各撮像素子13,14は、波長毎に、標本Aの像を撮影することができる。
【0028】
この場合において、本実施形態に係る倒立顕微鏡1によれば、観察光学系6に設けられた接眼光学系20用の結像光学系16とは別の結像光学系11,12によって標本Aの像を結像するので、観察光学系6の配置に束縛されることなく、撮影光学系5を自由にレイアウトすることができるという利点がある。例えば、図2に示されるように略無限遠光束からなる光路に他のビームスプリッタ10’を配置して、他の結像光学系12’および撮像素子14’を設けることもできる。
【0029】
なお、本実施形態においては、観察光学系6が、ビームスプリッタ15により略無限遠光束を90°偏向する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、図2に示されるように、斜め下方に分岐するプリズム22を採用してもよい。
このプリズム22としては、略無限遠光束を2回反射させる2つの反射面22a,22bを有し、これらの反射面22a,22bのなす角度θが以下の条件式を満たすことが好ましい。
20°<θ<40°
【0030】
θが20°より小さいと、反射面22bで全反射しなくなる。θが40°より大きいと、反射面22bに浅い角度で光束が入射する。このため、プリズム22が長く大きくなってしまい高価になる。
【0031】
さらに、反射面22a,22bのうち、後段の反射面22bと対物光学系3の光軸Cとのなす角度βが以下の条件式を満たすことが好ましい。
80°<β<100°
後段の反射面22bは、その面積が比較的大きいので対物光学系3の光軸にほぼ直交(β=90°)することが望ましい。βが80°より小さいか100°より大きいと反射面22bが傾くことにより対物光学系3の光軸方向にスペースをとってしまうことになる。
【0032】
また、プリズム22に代えてミラーを使用してもよい。この場合には、θが20°より小さいと、ミラーの間隔を広くしないと後段の反射面22bを構成するミラーが光束を遮ってしまうので、これを回避するためには、ミラーが配置されるスペースが大きくなってしまう。また、θが40°より大きいと、後段の反射面22bを構成するミラーが長くなってしまう。このため、反射面22bの面精度を保つために、ミラーを厚くする必要があり、ミラーが配置されるスペースが大きくなってしまう。
【0033】
また、本実施形態においては、ビームスプリッタ15を光軸Cから挿脱させることにしてもよい。この場合に、ビームスプリッタ15はダイクロイックミラー9と撮像光学系5との間の略無限遠光束からなる光路に配置されるので、ビームスプリッタ15を挿脱しても光路長が変動せず、ビームスプリッタ15を離脱させた際に、代わりにダミーガラスを挿入するなどの光路長の調節を行わなくて済むという利点がある。なお、光路に挿脱する場合には、ビームスプリッタ15に代えて、ミラーを採用してもよい。
【符号の説明】
【0034】
A 標本(被写体)
1 倒立顕微鏡
3 対物光学系
11,12,12’ 結像光学系(撮影用結像光学系)
13,14,14’ 撮像素子
15 ビームスプリッタ(反射部材)
16 結像光学系
20 接眼光学系
22 プリズム(反射部材)
22a,22b 反射面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被写体からの光を集光する対物光学系と、
該対物光学系により集光された無限遠光束の少なくとも一部を反射する反射部材と、
該反射部材により反射された前記無限遠光束を集光して前記被写体の像を結像させる結像光学系と、
該結像光学系により結像される前記被写体の像を拡大する接眼光学系とを備える倒立顕微鏡。
【請求項2】
前記対物光学系により集光された無限遠光束を集光して前記被写体の像を結像させる撮影用結像光学系と、
該撮影用結像光学系により結像された前記被写体の像を撮影する撮像素子とを備え、
前記反射部材が、前記対物光学系と前記撮影用結像光学系との間の光路に挿脱可能に設けられている請求項1に記載の倒立顕微鏡。
【請求項3】
前記反射部材が、前記対物光学系からの前記無限遠光束の少なくとも一部を反射させずに通過可能に設けられ、
前記反射部材を透過した無限遠光束を集光して前記被写体の像を結像させる撮影用結像光学系と、
該撮影用結像光学系により結像された前記被写体の像を撮影する撮像素子とを備える請求項1に記載の倒立顕微鏡。
【請求項4】
前記反射部材が、前記対物光学系と前記撮影用結像光学系との間の光路に挿脱可能に設けられている請求項3に記載の倒立顕微鏡。
【請求項5】
前記反射部材が、前記無限遠光束を2回反射させる2つの反射面を備え、
該反射面のなす角度θが以下の条件式を満たす請求項1から請求項4のいずれかに記載の倒立顕微鏡。
20°<θ<40°
【請求項6】
前記反射面のうち、後段の前記反射面と前記対物光学系の光軸とのなす角度βが以下の条件式を満たす請求項5に記載の倒立顕微鏡。
80°<β<100°

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−220526(P2012−220526A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−82790(P2011−82790)
【出願日】平成23年4月4日(2011.4.4)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】