説明

偏光ガラス

【課題】可視光域において良好な偏光特性を得ることができる。
【解決手段】基本ガラスに形状異方性を有する金属を分散および配向させた二色性を示す偏光ガラスであって、基本ガラスは、波長を変数とした場合の入射光の吸収端が350nm以下である透明ガラスであり、金属の誘電率の実数部が負である、または、エネルギーを変数とした場合に3.5eVより高いエネルギーで0を横切り、金属の反射率が可視光域において80%以上であることを特徴とする偏光ガラスが提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶テレビ、液晶プロジェクター等の映像機器に用いることのできる偏光ガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
光を直線偏光にする偏光子は、様々な種類のものが知られているが、吸収型、すなわち二色性を示すものとして、ガラス、例えばアルミノホウケイ酸系ガラスを材料とした偏光子である偏光ガラスが知られている。偏光ガラスは、銀あるいは銅などの金属粒子を含んだガラスを延伸して、ガラス中に分散して含まれる金属粒子を楕円体形状に延伸・配向させて得られる(例えば、特許文献1および特許文献2を参照)。
【特許文献1】特開2004−86100号公報
【特許文献2】特開平8−50205号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
偏光ガラスは、主に光通信分野で利用されており、例えば光通信用の光アイソレータに用いられている。光通信に用いられる部品は、非常に高い信頼性が要求され、過酷な試験にパスした部品だけが採用されることから、偏光ガラスの信頼性は実証されている。このように、偏光ガラスは、信頼性が高いにもかかわらず、使用されるのは光通信の波長である近赤外域にほぼ限られており、液晶分野など可視光域ではほとんど利用されていない。これは、偏光ガラスの可視光域での利用において次のような課題があることに起因する。
【0004】
図1は、楕円体形状である銀粒子を分散・配向した偏光ガラスに対して、TM波、TE波がそれぞれ入射したときの透過率を示す。ここで、TE波(S波)は、楕円体である金属の長軸に対して垂直に電場が振動する波であり、TM波(P波)は、楕円体である金属の長軸に対して平行に電場が振動する波である。また、偏光ガラスの透過率はTE波の透過率であり、コントラスト比はTE波とTM波との透過率の比である。したがって、図1に示すように、楕円体形状である銀粒子を分散・配向した偏光ガラスは、可視光域であるRGB波長域のうち、Gの波長域(500nm近傍)の光の透過率が低く、また、Bの波長域(400nm近傍)の光の透過率およびコントラスト比が低い。このように、楕円体形状である銀粒子を分散・配向した偏光ガラスは、可視光域の特定の波長域において良好な偏光特性を示すものの、主にBの波長域の光の偏光特性が課題である。
【0005】
一方、楕円体形状である銅粒子を分散・配向した偏光ガラスは、上記の楕円体形状である銀粒子を分散・配向した偏光ガラスのように、TE波とTM波の透過率が逆転する波長域はない。しかしながら、GとBの波長域のほぼ全域に渡って透過率は40%以下になり、特にBの波長域では、透過率は30%以下になる。したがって、これらの波長域では、コントラスト比は低くなる。
【0006】
このように、楕円体形状である銀粒子または銅粒子を分散・配向した偏光ガラスは、可視光域における特定の波長域で透過率およびコントラスト比が低いという課題があるので、RGB波長域全てにおいて良好な偏光特性を示す偏光ガラスは得られていない。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の第1の形態においては、基本ガラスに形状異方性を有する金属を分散および配向させた二色性を示す偏光ガラスであって、基本ガラスは、波長を変数とした場合の入射光の吸収端が350nm以下である透明ガラスであり、金属の誘電率の実数部が負である、または、エネルギーを変数とした場合に3.5eVより高いエネルギーで0を横切り、金属の反射率が可視光域において80%以上であることを特徴とする偏光ガラスが提供される。これにより、可視光域において良好な偏光特性を得ることができる。
【0008】
上記偏光ガラスに対するTE波のプラズマ共鳴吸収は、4.0eVより高いエネルギーのTE波に対して起きることが好ましい。これにより、可視光域内の特に短波長側においてTE波の透過率の高い偏光ガラスを得ることができる。
【0009】
上記偏光ガラスに対するTM波のプラズマ共鳴吸収は、1.2eVより高いエネルギーのTM波に対して起きることが好ましい。これにより、可視光域においてTM波の消光特性に優れた偏光ガラスを得ることができる。
【0010】
上記偏光ガラスにおいて、可視光域における透過率が65%以上であることが好ましい。これにより、可視光域において透過率の高い偏光ガラスを得ることができる。
【0011】
上記偏光ガラスにおいて、可視光域におけるコントラスト比が100:1以上であることが好ましい。これにより、可視光域においてコントラスト比に優れた偏光ガラスを得ることができる。
【0012】
上記偏光ガラスにおいて、エネルギーを変数とした場合の金属の吸収端は、基本ガラスの吸収端より高いエネルギー側にあることが好ましい。これにより、基本ガラスの透過波長域全体に渡って透過率の高い偏光ガラスを得ることができる。
【0013】
上記偏光ガラスにおいて、金属の微粒子のアスペクト比が1.5:1以上であることが好ましい。これにより、TM波の消光特性に優れた偏光ガラスを得ることができる。
【0014】
上記偏光ガラスにおいて、金属は、アルミニウムおよびインジウムの少なくとも一方を含んでもよい。これにより、可視光域において良好な偏光特性を得ることができる。
【0015】
本発明の第2の形態によれば、基本ガラスに金属を分散および配向させた二色性を示す偏光ガラスであって、基本ガラスは、波長を変数とした場合の入射光の吸収端が350nm以下である透明ガラスであり、金属は、アルミニウムおよびインジウムの少なくとも一方を含む偏光ガラスが提供される。これにより、第1の形態と同様の効果を奏する。
【0016】
なお、上記の発明の概要は、本発明の必要な特徴の全てを列挙したものではなく、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた、発明となりうる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではなく、また実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0018】
本発明の発明者らは、偏光ガラスに分散・配向する金属の特性について精意検討した結果、RGB波長域全てにおいて良好な偏光特性を示す偏光ガラスが得られる金属の特性を見出した。以下に、良好な偏光特性を示す偏光ガラスが得られる金属の特性について説明する。
【0019】
偏光ガラスは、基本ガラスの内部または表面に分散・配向された金属の二色性を利用している。二色性は、偏光ガラスに入射した一つの光軸を持つ直線偏光に対する分光吸収係数と、その直線偏光と直交する直線偏光に対する分光吸収係数とが異なる性質であり、それぞれの分光吸収係数の差は、金属の種類によって異なる。したがって、一方の直線偏光に対しては吸収が少なく、他方の直線偏光に対してはより大きな吸収を示す金属が偏光ガラスに用いるのに適している。ここで、より大きな吸収には、金属のプラズマ共鳴吸収が大きく寄与する。すなわち、プラズマ共鳴吸収を示すエネルギーでは、入射した光の大部分は金属に吸収されるので、金属が分散・配向された偏光ガラスの透過率は低くなる。このようなプラズマ共鳴吸収は、金属内でバンド間遷移が起きることによって生じると考えられる。ローレンツ理論によれば、バンド間遷移は、光が金属に入射したときに金属内に生じる電子分極が関係して起きるので、プラズマ共鳴吸収は金属の誘電率に関係する。ここで、誘電率(ε)は、ε=ε+iεと複素数で表され、実数部分は分極のできやすさに関係し、虚数部は損失(光の吸収)を表す。なお、エネルギーは、光を含む電磁波の波長に反比例する。
【0020】
金属は、形状が球状であるか楕円体形状であるかに関わらず、プラズマ共鳴吸収を示す。また、金属が楕円体形状である場合、プラズマ共鳴吸収を示すエネルギーは、当該楕円体の長軸と短軸との比であるアスペクト比(長軸/短軸)によって異なり、TE波とTM波とでその傾向は異なる。ここで、TM波のプラズマ共鳴吸収を示すエネルギーは、アスペクト比が大きくなる、すなわち金属粒子が細長くなるのに伴って低エネルギー側にシフトする。また、TE波のプラズマ共鳴吸収を示すエネルギーは、アスペクト比が大きくなるのに伴って、アスペクト比が1のときのプラズマ共鳴吸収を示すエネルギーから僅かに高エネルギー側にシフトするものの、ほぼ一定となる。よって、金属は、球状である場合は二色性を示さず、楕円体形状である場合は二色性を示す。
【0021】
例えば銀の場合、アスペクト比が1、すなわち球状のとき、約3.1eV(400nm近傍)でプラズマ共鳴吸収を示す。また、アスペクト比が1よりも大きい、すなわち楕円体形状である銀粒子を分散・配向した偏光ガラスは、図1に示すような偏光特性を示す。すなわち、TM波は3.1eVより低エネルギー側(長波長側)でプラズマ共鳴吸収を示して透過率が低くなり、TE波は3.1eV近傍でプラズマ共鳴吸収を示して透過率が低くなる。
【0022】
ところで、ドルーデ理論によれば、金属に光が入射すると、金属の自由電子の作用により、電磁波の電界が金属中ですぐに打ち消されるので、光の電界を遮断してしまう。したがって、光が物質中に入り込めずに強い反射が起きる。このとき、光の波長域における誘電率の実数部は負となり、反射率が非常に高い。基本的に誘電率の虚数部分(ε)が+∞(ε→+∞)で反射率R→1となることが知られている。ここで金属の誘電率特性において、ε→+∞の時、ε→−∞となるので、実数部分が負であると光は金属内に入り込めず強い反射を起こすことは明らかである。言い換えると、ε→0となると、反射率は低下する。そして実際の金属では、自由電子のプラズマ振動による影響の他に、上記ローレンツ理論に基づくバンド間遷移による誘電率の分散(プラズマ共鳴吸収)が重畳するので、エネルギーを変数としてみた場合に、誘電率の実数部はε→0となり、特定のエネルギーにおいて0を横切り正となる。この現象は、ハイブリッドプラズマと呼ばれる。また、このハイブリッドプラズマにより誘電率の実数部が0を横切るときの光のエネルギーは吸収端と呼ばれる。このような吸収端の近傍では、金属に入射する光の大部分は吸収されるので、金属の反射率は著しく低下する。
【0023】
図1において、銀の吸収端のエネルギーは約3.8eV(320nm近傍)であり、このエネルギーよりも高エネルギー側(短波長側)では、銀粒子の形状、あるいはTE波、TM波などの入射光の偏光方向に関わらず、銀粒子が分散・配向された偏光ガラスの透過率は著しく低下する。
【0024】
図2は、金、銀、銅の入射波長に対する反射率特性を示す。図2に示すように、金および銅の反射率は、銀の反射率のように、特定の入射波長での著しい低下は見られない。これは、銀のように誘電率の実数部が特定のエネルギーにおいて0を横切らないことによると考えられる。ただし、金および銅の反射率は、それぞれバンド間遷移が始まるエネルギーである約3eV(412nm近傍)、および約2eV(619nm近傍)より高エネルギー側で低下が見られる。したがって、ハイブリッドプラズマによる明確な吸収端が存在する金属、および明確な吸収端が存在しない金属があるものの、いずれもバンド間遷移が始まると考えられるエネルギーで反射率が低下すると考えられる。
【0025】
入射光のエネルギーを変数としてみたときの吸収端は、偏光ガラスに供される基本ガラス、すなわち金属を含まない原料ガラスにも存在する。偏光ガラスに用いられる基本ガラスの一例であるアルミノホウケイ酸系ガラスの吸収端は、4.6eV(約270nm)である。また、このような基本ガラスは、3.5eV(約350nm)より低エネルギー側(長波長側)では、90%以上の透過率を示すことから、可視光域において基本ガラスは非常に高い透過率を示す。また、鉛系ガラスの吸収端は、3.5eV(約350nm)である。また、このような基本ガラスは3.1eV(約400nm)より低いエネルギー側(長波長側)では、70%以上の透過率を示すことから、可視光域において基本ガラスは比較的高い透過率を示す。
【0026】
以上の考察により、上記基本ガラスに分散・配向して偏光ガラスとするのに好ましい金属の第1の条件は、誘電率の実数部が0を横切らないか、あるいは基本ガラスの吸収端である3.5eV(約350nm)よりも高エネルギー側(短波長側)で0を横切り、さらに好ましくは4.6eV(約270nm)よりも高エネルギー側(短波長側)で0を横切ることであることが分かった。これにより、エネルギーを変数とした場合の金属の吸収端は、基本ガラスの吸収端より高いエネルギー側にくる。よって、上記基本ガラスにそのような金属の楕円体を分散・配向しても、少なくとも可視光域の短波長側において、金属を入れたことによる入射光の透過率の低下は少ないと考えられる。
【0027】
上記のように、金属の誘電率の実数部はバンド間遷移の始まりに関連して増加し、反射率はバンド間遷移が始まると考えられるエネルギーで低下する。よって、金属の誘電率の実数部の増減は、反射率の増減と反比例の関係にあると考えられる。そこで、さらに種々の金属について、入射光のエネルギーに対する反射率の変化を見ることにより、入射光のエネルギーに対する誘電率の実数部の変化を考察した。図3は、銀(Ag)、鉛(Pb)、インジウム(In)、およびアルミニウム(Al)の反射率特性を示す。図3において、AlおよびInでは、エネルギーを変数としてみた場合に反射率の大幅な低下はみられない。したがって、Alは、誘電率の実数部は少なくとも可視光域において0を横切らないと考えられる。Inは、Alと同様の傾向が見られるが、550nmより短波長側の反射率のデータを得ることができなかった。図3に基づいて、AlおよびInは、偏光ガラスに適した第1の条件を満たす。
【0028】
上記第1の条件に加え、偏光ガラスに好ましい金属の第2の条件は、その金属が特定のアスペクト比の金属粒子として偏光ガラスに分散・配向された場合に、可視光域において、その偏光ガラスが、TM波に対してプラズマ共鳴吸収を示す一方で、TE波に対してプラズマ共鳴吸収を示さないことである。そこで、InおよびAlを他の金属と比較しつつ、それぞれ偏光ガラスに分散・配向された場合に、アスペクト比に応じてプラズマ共鳴吸収を示すかどうかを、ガンズ(Gans)の理論を利用してさらに検討した。ガンズによれば、金属粒子のアスペクト比、金属の誘電率、ガラスの誘電率などから、消光係数やアスペクト比と、プラズマ共鳴吸収を示すエネルギーとの関係を知ることができる。ここで、消光係数は、金属中における入射光の電界の振幅が減衰する程度を表す尺度であり、消光係数が最も高くなる入射光のエネルギーは、プラズマ共鳴吸収を示すエネルギーに対応する。
【0029】
図4から図6は、鉛(Pb)、アルミニウム(Al)およびインジウム(In)について、種々のアスペクト比(短軸/長軸)の金属を分散・配向した偏光ガラスにおける、γ/NVと入射光のエネルギーとの関係を示す。γ/NVは、上記ガンズの理論により求められる消光係数(γ)を、それぞれの金属の粒子を分散・配向した偏光ガラスの単位体積あたりの粒子数(N)、およびそれぞれの粒子の体積(V)で除した値である。ここでいうアスペクト比は、短軸/長軸であり、アスペクト比が小さいほど粒子は伸びていることを意味するので、上記アスペクト比とは逆数の関係にある。ガンズの理論において、金属は、上記値(γ/NV)がピークを示すエネルギーでは、プラズマ共鳴吸収を明確に示し、このエネルギーでTM波の透過率は十分低くなる。一方で、上記値(γ/NV)がピークを持たないエネルギーでは、プラズマ共鳴吸収を明確には示さず、このエネルギーでTM波の透過率は十分低くならない。ただし、それぞれの金属において誘電率が分かっているエネルギーが不連続であるので、図4から図6における上記値(γ/NV)のピークは、プラズマ共鳴吸収が最大となる波長と完全には一致しない。
【0030】
図4に示すように、Pbでは、上記値(γ/NV)は、赤外光域ではアスペクト比に応じてピークを示すが、可視光域ではピークを示さない。したがって、楕円体形状であるPbを分散・配向した偏光ガラスは、可視光域において、TM波の吸収率はあまり高くないと考えられる。さらに、図3において、Pbの反射率は可視光域で低い。すなわち、Pbでは1500nmあたりからバンド間遷移が始まっていると考えられる。その結果、短波長側に向かってだらだらと反射率が低下し、可視光域では、このハイブリッドプラズマの影響によってTE波はプラズマ共鳴吸収を示すと考えられる。したがって、Pbを分散・配向した偏光ガラスは、可視光域でTE波の透過率が低いと考えられる。よって、TE波の透過率とTM波の透過率との比であるコントラスト比は低いと考えられる。
【0031】
一方、図5に示すように、Alは、600nm以下の波長においてアスペクト比に応じてプラズマ共鳴吸収を示すので、この波長域において、TM波の吸収率は十分高いと考えられる。また、図6に示すように、Inは、可視光域全体に渡ってアスペクト比に応じてプラズマ共鳴吸収を示すので、可視光域において、TM波の吸収率は十分高いと考えられる。
【0032】
さらに、可視光域よりも高エネルギー側(短波長側)に吸収端がある金属として、モリブデン(Mo)、鉛(Pb)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、およびルテニウム(Ru)を特定し、上記と同様にプラズマ共鳴吸収の有無を調べたところ、いずれの金属も可視光域においてプラズマ共鳴吸収を示さなかった。なお、これら金属はそれぞれ約1200nm以下、約900nm以下、約1000nm以下、約600nm以下、約1300nm以下の波長域において反射率は80%以下である。
【0033】
図7は、銀(Ag)、アルミニウム(Al)およびインジウム(In)のアスペクト比(長軸/短軸)と、そのアスペクト比におけるTM波がプラズマ共鳴吸収を示すエネルギーとの関係を示す。図7に示すように、金属のアスペクト比と、TM波がプラズマ共鳴吸収を示すエネルギーとの関係は近似的に比例関係となる。したがって、図7におけるアスペクト比が1のときのプラズマ共鳴吸収を示すエネルギーは、当該金属を用いた偏光ガラスにおけるTE波の透過率が低くなるエネルギーである。ここで図7に示すように、AlおよびInのアスペクト比1における上記エネルギーを示す波長は、ともに約200nmと予想される。したがって、AlおよびInは、ともに可視光域においてTE波の透過率は低くならず、楕円体であるAlおよびInを分散・配向した偏光ガラスは、基本ガラスの透過波長域全体に渡ってTE波の透過率が高いと考えられる。
【0034】
以上の考察から、偏光ガラスに適した第2の条件は、TE波が可視光域のエネルギーについてプラズマ共鳴吸収を示さないことであり、これは、可視光域においてバンド間遷移によるハイブリッドプラズマの影響によってε→0となり難く、すなわち反射率が低下し難く、金属が高い反射率を保持していることであることが分かった。この場合に、可視光に対する反射率が80%以上であることが好ましい。また、偏光ガラスに対するTE波のプラズマ共鳴吸収は、4.0eVより高いエネルギーのTE波に対して起きることが好ましく、偏光ガラスに対するTM波のプラズマ共鳴吸収は、1.2eVより高いエネルギーのTM波に対して起きることが好ましい。図4および図7に基づいて、AlおよびInは、偏光ガラスに適した第2の条件を満たす。
【0035】
上記第1および第2の条件を満たした金属を用いた偏光ガラスは下記の通りに製造される。まず、基本ガラスを熔融して、上記金属とハロゲンとを基本ガラスに分散して母材とする。この母材を熱処理して金属の粒子を成長させた後に、引っ張ることにより金属の粒子を楕円体形状に変形させる。その後、還元処理をすることにより偏光ガラスが製造される。なお、偏光ガラスの製造方法は上記方法に限られない。また、この場合に、上記第1および第2の条件を満たした金属を用いて偏光ガラスは、可視光域におけるコントラスト比が100:1以上であることが好ましい。また、偏光ガラス内の金属の微粒子のアスペクト比が1.5:1以上であることが好ましい。さらにまた、金属が分散・配向された偏光ガラスにおいて、可視光域における透過率が65%以上であることが好ましい。
【0036】
図8は、実施形態の他の例である液晶プロジェクタ100の模式図を示す。図8に示すように、液晶プロジェクタ100において、光源150からの入射光は、ハーフミラー510、530、およびミラー520、540、550によって、赤、緑、青の波長域の光に分配されて、赤色の波長域の光は赤色入射側偏光ガラス210へ、緑色の波長域の光は緑色入射側偏光ガラス310へ、青色の波長域の光は青色入射側偏光ガラス410へ、それぞれ入射する。
【0037】
可視光域の赤色光および赤外光を含む赤色の波長域の光は、赤色入射側偏光ガラス210を透過した後、液晶シャッター220に表示された映像を透過し、さらに赤色出射側偏光ガラス230を透過して可視光域の赤色偏光となり、プリズム600より外部へ出射される。
【0038】
可視光域の青色光および紫外光を含む青色の波長域の光は、青色入射側偏光ガラス410を透過した後、液晶シャッター420に表示された映像を透過し、さらに青色出射側偏光ガラス430を透過して可視光域の青色偏光となり、プリズム600より外部へ出射される。上記赤色の波長域の光および青色の波長域の光を除く波長域の光は、緑色入射側偏光ガラス310を透過した後、液晶シャッター320に表示された映像を透過し、さらに緑色出射側偏光ガラス330を透過して可視光域の緑色偏光となり、プリズム600より外部へ出射される。
【0039】
このように、本実施形態の液晶プロジェクタ100は、従来の液晶プロジェクタに用いられている偏光フィルムに代えて偏光ガラスを用いて赤、緑、青それぞれの可視光域の偏光を得ている。したがって、従来の液晶プロジェクタでは、本実施形態の液晶プロジェクタ100の青色入射側偏光ガラス410にあたる部分に配された偏光フィルムは、入射する青色の波長域の光に含まれる紫外光による光劣化が課題であったが、本実施形態の液晶プロジェクタ100の青色入射側偏光ガラス410は、光劣化に対して強い耐性を持つ。
【0040】
また、従来の液晶プロジェクタでは、本実施形態の液晶プロジェクタ100の緑色入射側偏光ガラス310および緑色出射側偏光ガラス330にあたる部分に配された偏光フィルムは、入射光の光量が光源からの光量の80〜85%であるので、これらの偏光フィルムに入射光の一部を吸収させた場合、偏光フィルムに含まれる色素が分解する可能性があった。これに対して、本実施形態の液晶プロジェクタ100の緑色入射側偏光ガラス310および緑色出射側偏光ガラス330は、入射光の吸収に伴う上記のような色素の分解を生じない。このように、本実施形態の液晶プロジェクタ100は、従来の液晶プロジェクタと比べて、寿命が長く、映像の劣化が生じにくい。
【0041】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることができることは当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】楕円体形状である銀粒子を分散・配向した偏光ガラスに対して、TM波、TE波がそれぞれ入射したときの透過率を示す。
【図2】金、銀、銅の入射波長に対する反射率特性を示す。
【図3】銀(Ag)、鉛(Pb)、インジウム(In)、および、アルミニウム(Al)の反射率特性を示す。
【図4】鉛(Pb)について、種々のアスペクト比の金属を分散・配向した偏光ガラスにおける、γ/NVと入射光のエネルギーとの関係を示す。
【図5】アルミニウム(Al)について、種々のアスペクト比の金属を分散・配向した偏光ガラスにおける、γ/NVと入射光のエネルギーとの関係を示す。
【図6】インジウム(In)について、種々のアスペクト比の金属を分散・配向した偏光ガラスにおける、γ/NVと入射光のエネルギーとの関係を示す。
【図7】銀(Ag)、アルミニウム(Al)およびインジウム(In)のアスペクト比と、そのアスペクト比におけるTM波がプラズマ共鳴吸収示すエネルギーとの関係を示す。
【図8】実施形態の他の例である液晶プロジェクタ100の模式図を示す。
【符号の説明】
【0043】
100 液晶プロジェクタ、150 光源、200 偏光ガラス、210 赤色入射側偏光ガラス、230 赤色出射側偏光ガラス、310 緑色入射側偏光ガラス、330 緑色出射側偏光ガラス、410 青色入射側偏光ガラス、430 青色出射側偏光ガラス、220 液晶シャッター、320 液晶シャッター、420 液晶シャッター、510 ハーフミラー、530 ハーフミラー、520 ミラー、540 ミラー、550 ミラー、600 プリズム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基本ガラスに形状異方性を有する金属を分散および配向させた二色性を示す偏光ガラスであって、
前記基本ガラスは、波長を変数とした場合の入射光の吸収端が350nm以下である透明ガラスであり、
前記金属の誘電率の実数部が負である、または、エネルギーを変数とした場合に3.5eVより高いエネルギーで0を横切り、
前記金属の反射率が可視光域において80%以上であることを特徴とする偏光ガラス。
【請求項2】
前記偏光ガラスに対するTE波のプラズマ共鳴吸収は、4.0eVより高いエネルギーの前記TE波に対して起きることを特徴とする請求項1に記載の偏光ガラス。
【請求項3】
前記偏光ガラスに対するTM波のプラズマ共鳴吸収は、1.2eVより高いエネルギーの前記TM波に対して起きることを特徴とする請求項1または2に記載の偏光ガラス。
【請求項4】
可視光域における透過率が65%以上であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の偏光ガラス。
【請求項5】
可視光域におけるコントラスト比が100:1以上であることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の偏光ガラス。
【請求項6】
エネルギーを変数とした場合の前記金属の吸収端は、前記基本ガラスの吸収端より高いエネルギー側にあることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の偏光ガラス。
【請求項7】
前記金属の微粒子のアスペクト比が1.5:1以上であることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の偏光ガラス。
【請求項8】
前記金属は、アルミニウムおよびインジウムの少なくとも一方を含む請求項1から7のいずれかに記載の偏光ガラス。
【請求項9】
基本ガラスに金属を分散および配向させた二色性を示す偏光ガラスであって、
前記基本ガラスは、波長を変数とした場合の入射光の吸収端が350nm以下である透明ガラスであり、
前記金属は、アルミニウムおよびインジウムの少なくとも一方を含む偏光ガラス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−178977(P2007−178977A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−119911(P2006−119911)
【出願日】平成18年4月24日(2006.4.24)
【出願人】(000155698)株式会社有沢製作所 (117)
【Fターム(参考)】