説明

偏光子の製造方法

【課題】偏光子を得る方法として、ポリビニルアルコールフィルムを、ヨウ素を含む染色液で染色した後、延伸し、ヨウ化カリウム水溶液に浸漬してヨウ素イオン含浸処理を行ない、さらに、アルコール液に浸漬してアルコール液浸漬処理を行なう方法が知られている。ヨウ素を含むポリビニルアルコール系樹脂層からなる偏光子において、偏光度の高い偏光子の得られる製造方法を提供する。
【解決手段】ヨウ素を含む膜厚が0.6μm〜5μmのポリビニルアルコール系樹脂層からなる偏光子を製造する方法であり、次の工程A〜工程Cを含む。工程A:ポリビニルアルコール系樹脂層を延伸して、延伸層を得る工程。工程B:延伸層を、ヨウ素を含む染色液中に浸漬して、三刺激値Yから求められる吸光度が、0.4〜1.0である染色層を得る工程。工程C:吸光度が0.03〜0.7低下するように、染色層に吸着したヨウ素の一部を除去する工程。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヨウ素を含むポリビニルアルコール系樹脂層からなる偏光子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリビニルアルコールフィルムをヨウ素を含む染色液で染色した後、延伸して偏光子を得る製造方法が知られている(例えば特許文献1)。上記の製造方法においては、染色および延伸したフィルムを、ヨウ化カリウム水溶液に浸漬してヨウ素イオン含浸処理を行ない、さらに、アルコール液に浸漬してアルコール液浸漬処理を行なう。
【0003】
この製造方法により得られる偏光子は、黄色味が小さく、加熱環境下でも色相変化が少ない。黄色味が小さいのは、可視光の全波長領域で、吸光度がほぼ一定であるからである。
【0004】
しかし、上記の偏光子には、偏光度が低いという問題点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−270440号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
偏光子を得る方法として、ポリビニルアルコールフィルムを、ヨウ素を含む染色液で染色した後、延伸し、ヨウ化カリウム水溶液に浸漬してヨウ素イオン含浸処理を行ない、さらに、アルコール液に浸漬してアルコール液浸漬処理を行なう方法が知られている。しかし、この製造方法により得られる偏光子には、偏光度が低いという問題点がある。
【0007】
本発明は、ヨウ素を含むポリビニルアルコール系樹脂層からなる偏光子において、偏光度の高い偏光子の得られる製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の要旨は以下の通りである。
(1)本発明は、ヨウ素を含む、膜厚が0.6μm〜5μmのポリビニルアルコール系樹脂層からなる偏光子を製造する方法である。本発明の製造方法は、下記の工程A〜工程Cを含むことを特徴とする。
工程A:ポリビニルアルコール系樹脂層を延伸して、延伸層を得る工程。
工程B:延伸層を、ヨウ素を含む染色液中に浸漬して、三刺激値Yから求められる吸光度が0.4〜1.0(透過率T=40%〜10%)である染色層を得る工程。
工程C:染色層の吸光度が0.03〜0.7低下するように、染色層に吸着したヨウ素の一部を除去する工程。但し、染色層の吸光度が0.3より小さくならないようにする。
(2)本発明の製造方法は、工程Aにおいて、支持体上にポリビニルアルコール系樹脂層を形成し、ポリビニルアルコール系樹脂層を、支持体と共に延伸することを特徴とする。
(3)本発明の製造方法は、工程Aにおいて、延伸方法が乾式延伸であることを特徴とする。
(4)本発明の製造方法は、工程Aにおいて、延伸時の温度(延伸温度)が130℃〜170℃であることを特徴とする。
(5)本発明の製造方法は、工程Bにおいて、染色層の膜厚が0.6μm〜5μmのとき、吸光度は0.4〜1.0(T=40%〜10%)であることを特徴とする。
(6)本発明の製造方法は、工程Bにおいて、染色液が、ヨウ素と、ヨウ化アルカリまたはヨウ化アンモニウムとを含む水溶液であることを特徴とする。
(7)本発明の製造方法は、工程Cにおいて、ヨウ化アルカリまたはヨウ化アンモニウムを含む脱色液に染色層を浸漬することにより、染色層に吸着したヨウ素の一部を除去することを特徴とする。
(8)本発明の製造方法は、工程Cの完了時点において、偏光子の吸光度が、0.3〜0.4(T=50%〜40%)であることを特徴とする。
(9)本発明の製造方法は、さらに、ホウ酸と、ヨウ化アルカリまたはヨウ化アンモニウムとを含む架橋液に染色層、または、一部脱色された染色層を浸漬する工程を含むことを特徴とする。
(10)本発明の製造方法は、さらに、偏光子を乾燥させる工程を含むことを特徴とする。
【0009】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、次の工程A〜工程Cの3つの工程を順次経ることによって、偏光度の高い偏光子が得られることを見出した。図1〜2を参照して、各工程を説明する。なお図1〜2は、支持体上にポリビニルアルコール系樹脂層を形成し、ポリビニルアルコール系樹脂層を支持体と共に延伸する場合を示す。
【0010】
図1(a)は、支持体30上に形成された、延伸前のポリビニルアルコール系樹脂層10の、模式的な断面図である。ポリビニルアルコール系樹脂層10は、非晶部11と結晶化部12からなる。結晶化部12は、非晶部11の中に、ランダムに存在する。矢印13は次工程の延伸方向を示す。
【0011】
[工程A] 染色前の延伸
まず、ポリビニルアルコール系樹脂層10を支持体30と共に延伸する。ポリビニルアルコール系樹脂層10は延伸後、延伸層14と呼ばれる。図1(b)は、延伸層14の模式的な断面図である。本発明の製造方法における第1のポイントは、染色前に、ポリビニルアルコール系樹脂層10の延伸を行なうことである。矢印15は延伸方向を示す。延伸によって、延伸層14内のポリマー鎖(図示しない)を結晶化させて、非晶部16の中に、より配向性の高い結晶化部17を生成させる。
【0012】
[工程B] 過剰染色
次に、延伸層14を染色する。染色とは、ヨウ素の吸着処理である。延伸層14は染色後、染色層18と呼ばれる。図2(c)は、染色層18の模式的な断面図である。本発明の製造方法における第2のポイントは、延伸層14を、ヨウ素を含む染色液中に浸漬して、過剰染色することである。過剰染色とは、三刺激値Yから求められる吸光度Aが、0.4以上となるように染色することを意味する。吸光度Aの添え字Bは、工程Bを表わす。
【0013】
一般的な偏光子の、三刺激値Yから求められる吸光度Aは、0.37程度である。例えば、透過率T=43%の偏光子の吸光度Aは、A=0.367である。したがって、本発明のような、吸光度Aが0.4以上となる染色は、過剰染色と考えられる。
【0014】
ポリマー鎖の結晶化部17は、非晶部16と比較して、染色されにくい。しかし、延伸層14を過剰に染色することによって、結晶化部17にも、ヨウ素を十分吸着させることができる。吸着したヨウ素は、染色層18内で、I3−やI5−などの、ポリヨウ素イオン錯体19を形成する。ポリヨウ素イオン錯体19は、可視光領域(波長380nm〜780nm)で、吸収二色性を示す。
【0015】
[工程C] 脱色(ヨウ素の一部除去)
次に、染色層18に吸着したヨウ素を、一部除去する。これを脱色という。脱色後、染色層18は偏光子20と呼ばれる。ヨウ素は、ポリヨウ素イオン錯体19の形で、染色層18に吸着している。図2(d)は、偏光子20の模式的な断面図である。本発明の製造方法における第3のポイントは、過剰染色した染色層18から、ポリヨウ素イオン錯体19を、一部除去することである。染色層18から、ポリヨウ素イオン錯体19を除去するために、例えば、染色層18を、ヨウ化カリウム水溶液(脱色液)に浸漬する。このとき、吸光度Aが0.03〜0.7低下するように、ポリヨウ素イオン錯体19を除去する。但し、染色層の吸光度が0.3より小さくならないようにする。吸光度Aの添え字Cは、工程Cを表わす。
【0016】
ポリヨウ素イオン錯体19を除去するとき、非晶部16に吸着していたポリヨウ素イオン錯体19が、優先的に除去される。その結果、結晶化部17に吸着していたポリヨウ素イオン錯体19が、相対的に、多く残存する。
【0017】
非晶部16に吸着したポリヨウ素イオン錯体19は、吸収二色性への寄与が小さい。一方、結晶化部17に吸着したポリヨウ素イオン錯体19は、吸収二色性への寄与が大きい。しかし、非晶部16に吸着したポリヨウ素イオン錯体19と、結晶化部17に吸着したポリヨウ素イオン錯体19は、同じように吸光度を高くする。本発明の製造方法によれば、吸収二色性への寄与が小さいにもかかわらず吸光度を高くする、非晶部16に吸着したポリヨウ素イオン錯体19を、優先的に除去できる。従って、吸収二色性への寄与が大きい、結晶化部17に吸着したポリヨウ素イオン錯体19が相対的に多くなる。吸収二色性への寄与が大きいとは、偏光度が高いことである。従って、本発明の製造方法により、吸光度の低い割に、偏光度の高い偏光子20が得られる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の製造方法によれば、吸収二色性への寄与が大きい、結晶化部17に吸着したポリヨウ素イオン錯体19が多くなるため、吸光度の低い割に、偏光度の高い偏光子20が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】(a)本発明の製造工程の前段階を示す模式図、(b)本発明の製造工程Aを示す模式図
【図2】(c)本発明の製造工程Bを示す模式図、(d)本発明の製造工程Cを示す模式図
【図3】本発明の製造工程を示す模式図
【図4】偏光子の吸光度対偏光度のグラフ
【図5】染色層の吸光度対偏光度のグラフ
【発明を実施するための形態】
【0020】
[本発明の製造方法]
図3は、本発明の製造工程を示す模式図である。本発明の製造方法は、ヨウ素を含むポリビニルアルコール系樹脂層からなる偏光子20の製造方法である。
【0021】
支持体30上に形成された、フィルム状の未処理のポリビニルアルコール系樹脂層10が、支持体30と共に、繰り出し部21から、順次、処理のために引き出される。
【0022】
工程Aで、ポリビニルアルコール系樹脂層10は、支持体30と共に、延伸ロール22間を通過しながら延伸され、延伸層14になる。
【0023】
工程Bで、延伸層14は、ヨウ素を含む染色液23に浸漬され、染色層18になる。染色層18の、三刺激値Yから求められる吸光度Aは、0.4〜1.0である(T=40%〜10%)。
【0024】
工程Cで、染色層18は、脱色液24(ヨウ化カリウム水溶液)に浸漬され、ヨウ素を一部除去されて、偏光子20となる。このとき、偏光子20の吸光度Aが、工程C直前の染色層18の吸光度Aに比べて、0.03〜0.7低下する。但し、染色層の吸光度が0.3より小さくならないようにする。
【0025】
完成した偏光子20は、巻き取り部25に巻き取られる。
【0026】
本発明の製造方法は、上記の工程A、工程B、工程Cを、この順に含むものであれば、他の工程を含んでいてもよい。他の工程としては、例えば、染色層18を、工程Bと工程Cの間で、架橋液(ホウ酸、および、必要に応じてヨウ化カリウムを含む水溶液)に浸漬し、ポリビニルアルコール系樹脂層を架橋させる工程がある。また、工程Cにより得られた偏光子20を、乾燥させる工程がある。
【0027】
[工程A]
本発明に用いられる工程Aは、ポリビニルアルコール系樹脂層10を延伸して、延伸層14を得る工程である。
【0028】
本発明に用いられるポリビニルアルコール系樹脂層10は、ポリビニルアルコール系樹脂を層状に成形したものである。ポリビニルアルコール系樹脂層10は、支持体30上に形成されることが好ましい。
【0029】
ポリビニルアルコール系樹脂は、代表的には、ポリ酢酸ビニル系樹脂を鹸化することによって得られる。本発明に用いられるポリビニルアルコール系樹脂は、例えば、ポリビニルアルコール、または、エチレン−ビニルアルコール共重合体である。本発明に用いられるポリビニルアルコール系樹脂の鹸化度は、耐水性が高くなること、および、高倍率の延伸が可能になることから、85モル%〜100モル%が好ましく、95モル%〜100モル%がより好ましく、98モル%〜100モル%がさらに好ましい。本発明に用いられるポリビニルアルコール系樹脂の重合度は、結晶化部17に吸着したポリヨウ素イオン錯体を増加させ、偏光度を高くできることから、1,000〜10,000が好ましい。
【0030】
ポリビニルアルコール系樹脂層10を延伸する方法は、ロール延伸やテンター延伸などの、既知の任意の延伸方法が用いられる。ポリビニルアルコール系樹脂層10の延伸倍率は、通常、元長に対して3倍〜7倍である。
【0031】
ポリビニルアルコール系樹脂層10の延伸は、乾式延伸が好ましい。乾式延伸とは、空気中で延伸することである。乾式延伸の方が、湿式延伸よりも、結晶化度を高くできるため好ましい。この場合の延伸温度は、80℃〜170℃が好ましく、130℃〜170℃がより好ましい。延伸温度を130℃以上とすることによって、ポリビニルアルコール系樹脂層10内のポリマー鎖の結晶化を促進させることができる。その結果、結晶化部17に吸着したポリヨウ素イオン錯体19を増加させ、偏光度を高くすることができる。また、延伸温度を170℃以下とすることにより、ポリマー鎖の結晶化が進行しすぎることを防ぎ、工程Bにおける染色時間の短縮を図ることができる。ポリビニルアルコール系樹脂層10は、好ましくは、延伸後の結晶化度が20%〜50%となるように、より好ましくは32%〜50%となるように、延伸される。延伸後の結晶化度が20%〜50%であれば、結晶化部17に吸着したポリヨウ素イオン錯体19が多くなり、偏光度を高くすることができる。
【0032】
ポリビニルアルコール系樹脂層10は、ヨウ素以外の、他の添加剤を含有していてもよい。他の添加剤としては、界面活性剤、酸化防止剤、架橋剤などが挙げられる。
【0033】
延伸前のポリビニルアルコール系樹脂層10の膜厚tは、通常、2μm〜30μmであり、好ましくは、3μm〜15μmである。延伸前のポリビニルアルコール系樹脂層10の膜厚が薄いため、単独での延伸が困難な場合は、支持体30上にポリビニルアルコール系樹脂層10を形成し、支持体30と共にポリビニルアルコール系樹脂層10を延伸する。
【0034】
延伸層14の膜厚tは、通常、0.4μm〜7μmであり、好ましくは、0.6μm〜5μmである。延伸層14の膜厚tが、5μm以下であれば、短時間で目的の吸光度に染色することができる。
【0035】
[工程B]
本発明に用いられる工程Bでは、工程Aにより得られた延伸層14を、ヨウ素を含む染色液23に浸漬して、染色層18を得る。染色層18の吸光度Aは、好ましくは、0.4〜1.0(T=40%〜10%)である。染色層18の吸光度Aは、さらに好ましくは、0.5〜1.0(T=31.6%〜10%)である。染色層18の吸光度Aが、0.4未満の場合(Tが40%を超える場合)、ポリマー鎖の結晶化部17に、十分なポリヨウ素イオン錯体19を吸着されない場合がある。
【0036】
本発明において、吸光度Aは式(1)により算出される。
A=log10(1/T)...(1)
ここで、透過率TはJIS Z 8701(1995)の、2度視野に基づくXYZ表色系の、三刺激値Yの値である。本明細書において透過率Tの値は、T=1を100%として、パーセントで表わす。
【0037】
染色層18の、三刺激値Yから求められる吸光度Aは、工程Bの直後に規定の範囲(0.4〜1.0)に入れば、その後変化してもよい。
【0038】
本発明に用いられる染色液23は、通常、ヨウ素と、ヨウ化アルカリまたはヨウ化アンモニウムとを含む水溶液である。染色液23において、ヨウ化アルカリまたはヨウ化アンモニウムは、水に対するヨウ素の溶解性を高くするために用いられる。染色液23のヨウ素含有量は、水100重量部に対して、好ましくは、1.1重量部〜5重量部である。ヨウ化アルカリとしてヨウ化カリウムを用いた場合、染色液23のヨウ化カリウム含有量は、水100重量部に対して、好ましくは、3重量部〜30重量部である。
【0039】
染色液23の温度や浸漬時間は、染色液23の濃度や延伸層14の膜厚に応じて、本発明に規定の特性を満足するように、適宜設定される。染色液23の温度は、好ましくは、20℃〜40℃である。染色液23への浸漬時間は、好ましくは、60秒〜1200秒である。
【0040】
[工程C]
本発明に用いられる工程Cでは、工程Bにより得られた染色層18から、ポリヨウ素イオン錯体19を一部除去して、偏光子20を得る。ポリヨウ素イオン錯体19の除去により、偏光子20の吸光度Aが、染色層18の吸光度Aよりも、0.03〜0.7低くなるようにする。但し、染色層の吸光度Aが0.3より小さくならないようにする。
【0041】
偏光子20の、三刺激値Yから求められる吸光度Aは、好ましくは、0.3〜0.4(T=50%〜40%)である。上記の範囲の吸光度Aを得るため、工程Cにおける吸光度の低下幅ΔA(=A−A)は、好ましくは、0.03〜0.7である。工程Cにおける吸光度の低下幅ΔAは、さらに好ましくは、0.05〜0.65である。吸光度の低下幅ΔAが、0.03未満であると、偏光度の高い偏光子20が得られない場合がある。
【0042】
染色層18から、ポリヨウ素イオン錯体19を一部除去するとき、例えば、ヨウ化アルカリまたはヨウ化アンモニウムの水溶液が用いられる。この目的で使用される、ヨウ化アルカリまたはヨウ化アンモニウムの水溶液を脱色液24という。染色層18から、ポリヨウ素イオン錯体19を一部除去する処理を、脱色という。脱色は、染色層18を脱色液24に浸漬してもよいし、脱色液を染色層18の表面に塗布ないし噴霧してもよい。
【0043】
脱色液24においては、ヨウ素イオンの働きにより、染色層18からポリヨウ素イオン錯体19が溶出しやすくなる。ヨウ素イオンは、ヨウ化カリウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化リチウム、ヨウ化マグネシウム、ヨウ化カルシウムなどのヨウ化アルカリから得られる。あるいは、ヨウ素イオンはヨウ化アンモニウムから得られる。脱色液24のヨウ素イオン濃度は、染色液23のヨウ素イオン濃度よりも、十分低いことが好ましい。ヨウ化カリウムを用いた場合、脱色液24のヨウ化カリウム含有量は、水100重量部に対して、好ましくは、1重量部〜20重量部である。
【0044】
脱色液24の温度や浸漬時間は、染色層18の膜厚に応じて、適宜設定される。脱色液24の温度は、好ましくは、45℃〜75℃である。脱色液24への浸漬時間は、好ましくは、20秒〜600秒である。
【0045】
[本発明の製造方法により得られる偏光子]
本発明の製造方法により得られる偏光子20は、ヨウ素を含むポリビニルアルコール系樹脂層からなる。上記のポリビニルアルコール系樹脂層は、延伸および染色が行なわれており、ポリマー鎖が一定方向に配向したものである。ヨウ素は、ポリビニルアルコール系樹脂層中で、I3−やI5−などの、ポリヨウ素イオン錯体19を形成しており、可視光領域(波長380nm〜780nm)で吸収二色性を示す。
【0046】
偏光子20の膜厚tは、通常、延伸層14の膜厚tと同一であり、通常、0.4μm〜7μm、好ましくは、0.6μm〜5μmである。
【0047】
本発明の製造方法によれば、吸光度Aが0.37(T=43%)程度で、膜厚tが5μm以下である偏光子20の偏光度を、99.9%以上とすることができる。
【実施例】
【0048】
[実施例1]
(1)膜厚150μmのノルボルネン系樹脂フィルム(JSR社製ARTON)からなる支持体の表面に、ポリビニルアルコールの7重量%水溶液を塗布し、ポリビニルアルコール膜を形成した。ポリビニルアルコールの重合度は4,200、鹸化度は99%以上であった。
(2)ポリビニルアルコール膜と支持体を、80℃で8分間乾燥して、膜厚7μmのポリビニルアルコール層を支持体上に成膜し、ポリビニルアルコール層と支持体の積層体を得た。
(3)ポリビニルアルコール層と支持体の積層体を、二軸延伸機(岩本製作所製)を用いて、乾式一軸延伸した。延伸温度は150℃であった。延伸倍率は、元長の4.8倍になるようにした。延伸の結果、延伸層と支持体の積層体を得た。支持体も延伸層と同じ倍率で延伸されている。
(4)延伸層と支持体の積層体を、ヨウ素とヨウ化カリウムを含む水溶液からなる染色液に浸漬し、延伸層にポリヨウ素イオン錯体を吸着・配向させ、染色層と支持体の積層体を得た。染色液への浸漬時間は600秒であった。染色液の液温は25℃であった。染色液の組成は、重量比で、ヨウ素:ヨウ化カリウム:水=1.1:7.8:100であった。染色直後の吸光度は0.602であった。
(5)染色層と支持体の積層体を、ヨウ化カリウムを含む脱色液に浸漬し、染色層のポリヨウ素イオン錯体を一部除去した。脱色液の組成は、重量比で、水:ヨウ化カリウム=100:5.3であった。脱色液の液温は60℃であった。脱色液への浸漬時間を調整して、出来上がった偏光子の吸光度が0.357〜0.377となる5種類のサンプルを作製した。
(6)一部脱色された染色層と支持体の積層体を、ホウ酸とヨウ化カリウムを含む架橋液に浸漬した。架橋液の組成は、重量比で、水:ホウ酸:ヨウ化カリウム=100:11.8:5.9であった。架橋液への浸漬時間は60秒であった。架橋液の液温は60℃であった。
(7)架橋処理をした染色層と支持体の積層体を、60℃で120秒間、乾燥した。
以上のようにして、偏光子(膜厚2.9μm)と支持体の積層体を形成した。偏光子の吸光度(A)対偏光度のグラフを図4に示す。また、染色層の吸光度(A)対偏光度のグラフを図5に示す。
【0049】
[実施例2]
実施例1と同様にして、偏光子(膜厚2.9μm)と支持体の積層体を形成した。ただし、以下の点で、実施例1と異なる。
(1)染色液への浸漬時間を調整して、染色直後の吸光度を0.921とした。
(2)脱色液への浸漬時間を調整して、出来上がった偏光子の吸光度が0.359〜0.377となる5種類のサンプルを作製した。
偏光子の吸光度(A)対偏光度のグラフを図4に示す。また、染色層の吸光度(A)対偏光度のグラフを図5に示す。
【0050】
[実施例3]
実施例1と同様にして、偏光子(膜厚2.9μm)と支持体の積層体を形成した。ただし、以下の点で、実施例1と異なる。
(1)染色液への浸漬時間を調整して、染色直後の吸光度を0.420とした。
(2)脱色液への浸漬時間を調整して、出来上がった偏光子の吸光度が0.362〜0.377となる4種類のサンプルを作製した。
偏光子の吸光度(A)対偏光度のグラフを図4に示す。また、染色層の吸光度(A)対偏光度のグラフを図5に示す。
【0051】
[実施例4]
実施例1と同様にして、偏光子(膜厚2.9μm)と支持体の積層体を形成した。ただし、以下の点で、実施例1と異なる。
(1)染色液への浸漬時間を調整して、染色直後の吸光度を0.959とした。
(2)脱色液への浸漬時間を調整して、出来上がった偏光子の吸光度が0.357〜0.376となる4種類のサンプルを作製した。
(3)延伸温度は100℃であり、延伸倍率は、元長の4.5倍であった。
偏光子の吸光度(A)対偏光度のグラフを図4に示す。
【0052】
[実施例5]
実施例1と同様にして、偏光子(膜厚3.5μm)と支持体の積層体を形成した。ただし、以下の点で、実施例1と異なる。
(1)ポリビニルアルコールの5重量%水溶液を塗布した。
(2)延伸温度は140℃であり、延伸倍率は、元長の4.0倍であった。
(3)染色液の組成は、重量比で、ヨウ素:ヨウ化カリウム:水=1:7:92であり、染色液への浸漬時間は300秒であった。
(4)染色直後の吸光度は0.613であった。
(5)脱色液のヨウ化カリウムの含有量は、重量比で、水:ヨウ化カリウム=95:5であった。脱色液への浸漬時間は30秒で、出来上がった偏光子の吸光度は0.380であった。
(6)架橋液の組成は、重量比で、水:ホウ酸:ヨウ化カリウム=85:10:5であった。
偏光子の吸光度(A)対偏光度のグラフを図4に示す。
【0053】
[実施例6]
実施例5と同様にして、偏光子(膜厚3.5μm)と支持体の積層体を形成した。ただし、以下の点で、実施例5と異なる。
(1)染色液への浸漬時間が600秒であった。染色直後の吸光度は0.417であった。
(2)脱色液への浸漬時間が2秒であった。出来上がった偏光子の吸光度は0.380であった。
偏光子の吸光度(A)対偏光度のグラフを図4に示す。
【0054】
[実施例7]
実施例5と同様にして、偏光子(膜厚3.5μm)と支持体の積層体を形成した。ただし、以下の点で、実施例5と異なる。
(1)支持体として、膜厚200μmの非晶質ポリエチレンテレフタレートフィルム(三菱樹脂社製ノバクリアSG007)を用いた。
(2)延伸温度が110℃であった。
(3)染色液の組成が、重量比で、ヨウ素:ヨウ化カリウム:水=0.2:1.4:98.4であった。
(4)染色液への浸漬時間は600秒であった。染色直後の吸光度は0.577であった。
(5)脱色液への浸漬時間は8秒で、出来上がった偏光子の吸光度は0.380であった。
偏光子の吸光度(A)対偏光度のグラフを図4に示す。
【0055】
[比較例1]
実施例1と同様にして、偏光子(膜厚2.9μm)と支持体の積層体を形成した。ただし、以下の点で、実施例1と異なる。
(1)染色液への浸漬時間を調整して、出来上がった偏光子の吸光度が0.367〜0.387となる4種類のサンプルを作製した。
(2)脱色工程は行なわなかった。
偏光子の吸光度(A)対偏光度のグラフを図4に示す。また、染色層の吸光度(A)対偏光度のグラフを図5に示す。
【0056】
[比較例2]
実施例1と同様にして、偏光子(膜厚2.9μm)と支持体の積層体を形成した。ただし、以下の点で、実施例1と異なる。
(1)染色液への浸漬時間を調整して、出来上がった偏光子の吸光度が0.367〜0.384となる4種類のサンプルを作製した。
(2)脱色工程は行なわなかった。
(3)延伸温度は100℃であり、延伸倍率は、元長の4.5倍であった。
偏光子の吸光度(A)対偏光度のグラフを図4に示す。
【0057】
[比較例3]
実施例5と同様にして、偏光子(膜厚3.5μm)と支持体の積層体を形成した。ただし、以下の点で、実施例5と異なる。
(1)染色液の組成が、重量比で、ヨウ素:ヨウ化カリウム:水=0.5:3.5:96.0であった。
(2)染色液への浸漬時間は25秒であった。染色直後の吸光度は0.395であった。
(3)脱色工程は行なわなかった。
偏光子の吸光度(A)対偏光度のグラフを図4に示す。
【0058】
[評価]
図4:偏光子の吸光度(A)対偏光度のグラフを説明する。
(1)実施例1〜3を比較すると、偏光度の高い順に、実施例2、実施例1、実施例3となる。これは脱色による吸光度低下の多い順となっている。実施例2の吸光度低下は0.544〜0.562、実施例1の吸光度低下は0.225〜0.245、実施例3の吸光度低下は0.043〜0.058である。従って、実施例1〜3の偏光度の差は、脱色による吸光度低下の違いによると考えられる。
(2)実施例4の方が実施例3より偏光度が高い。実施例4の延伸条件は100℃、4.5倍である。実施例3の延伸条件は150℃、4.8倍である。従って、延伸条件は、実施例4の方が不利である。一方、実施例4の吸光度低下は0.583〜0.602、実施例3の吸光度低下は0.043〜0.058である。従って、吸光度低下に関して、実施例4は有利である。実施例4の吸光度低下の有利な効果が、延伸条件の不利な効果を上回ったため、実施例3より実施例4の方が、偏光度が高くなったと考えられる。
(3)実施例5と6は延伸条件が同じである。しかし、脱色による吸光度低下は、実施例5は大きく(0.243)、実施例6は小さい(0.037)。従って、実施例5と実施例6は、吸光度低下の差により、偏光度が異なると考えられる。
(4)実施例7の延伸温度(110℃)は、実施例5、6の延伸温度(140℃)より低い。そのため実施例7は偏光度が低いと考えられる。
(5)比較例1、2、3の偏光度が低い理由は、脱色による吸光度低下を実施していないためであると考えられる。
【0059】
図5:染色層の吸光度(A)対偏光度のグラフを説明する。このグラフの実施例、比較例は、延伸条件がいずれも150℃、4.8倍である。従って、このグラフは、脱色による吸光度低下の効果のみを表わしている。
このグラフは、偏光子の吸光度(A)を0.367にしたときの偏光度をプロットしたものである。従って、染色層の吸光度(A)が高いほど、脱色による吸光度低下が多い。脱色による吸光度低下の多い順に、実施例2、実施例1、実施例3である。比較例1は脱色を行なっていない。グラフから分かるように、偏光度は、脱色による吸光度低下の多いほど高い。
【0060】
[測定方法]
[吸光度]
吸光度Aは、積分球付分光光度計(村上色彩技術研究所製Dot−41)を用いて、試料の透過率Tを測定し、式(1)により算出した。
A=log10(1/T) ...(1)
ここで、透過率Tは、JIS Z 8701(1995)の、2度視野に基づくXYZ表色系の、三刺激値Yの値である。
【0061】
[偏光度]
偏光度は、積分球付分光光度計(村上色彩技術研究所製Dot−41)を用いて、試料の平行透過率Hおよび直交透過率H90を測定し、式(2)により算出した。
偏光度(%)={(H−H90)/(H+H90)}1/2×100 ...(2)
平行透過率は、同条件で作製した2枚の偏光子を、透過軸が互いに平行になるように積層して、測定したときの透過率である。直交透過率は、同条件で作製した2枚の偏光子を、透過軸が互いに直交するように積層して、測定したときの透過率である。平行透過率および直交透過率は、JIS Z 8701(1995)の、2度視野に基づくXYZ表色系の、三刺激値Yの値である。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の偏光子は、液晶テレビ、コンピューターディスプレイ、カーナビゲーション、携帯電話、ゲーム機などの液晶表示装置に、好適に用いられる。
【符号の説明】
【0063】
10 ポリビニルアルコール系樹脂層
11 非晶部
12 結晶化部
13 延伸方向を示す矢印
14 延伸層
15 延伸方向を示す矢印
16 非晶部
17 結晶化部
18 染色層
19 ポリヨウ素イオン錯体
20 偏光子
21 繰り出し部
22 延伸ロール
23 染色液
24 脱色液
25 巻き取り部
30 支持体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヨウ素を含む、膜厚が0.6μm〜5μmのポリビニルアルコール系樹脂層からなる偏光子の製造方法であって、下記工程A〜工程Cを含むことを特徴とする製造方法。
工程A:ポリビニルアルコール系樹脂層を延伸して、延伸層を得る工程。
工程B:前記延伸層を、ヨウ素を含む染色液中に浸漬して、三刺激値Yから求められる吸光度が、0.4〜1.0(透過率T=40%〜10%)である染色層を得る工程。
工程C:前記染色層の前記吸光度が0.03〜0.7低下するように、前記染色層に吸着したヨウ素の一部を除去し、かつ、前記染色層の前記吸光度が0.3より小さくならないようにする工程。
【請求項2】
前記工程Aにおいて、支持体上に前記ポリビニルアルコール系樹脂層を形成し、前記ポリビニルアルコール系樹脂層を、前記支持体と共に延伸することを特徴とする、請求項1に記載の偏光子の製造方法。
【請求項3】
前記工程Aにおいて、前記延伸方法が乾式延伸であることを特徴とする、請求項1または2に記載の偏光子の製造方法。
【請求項4】
前記工程Aにおいて、前記延伸時の温度が130℃〜170℃であることを特徴とする、請求項1から3のいずれかに記載の偏光子の製造方法。
【請求項5】
前記工程Bにおいて、前記染色層の膜厚が0.6μm〜5μmのとき、前記吸光度は0.4〜1.0(T=40%〜10%)であることを特徴とする、請求項1から4のいずれかに記載の偏光子の製造方法。
【請求項6】
前記工程Bにおいて、前記染色液が、ヨウ素と、ヨウ化アルカリまたはヨウ化アンモニウムとを含む水溶液であることを特徴とする、請求項1から5のいずれかに記載の偏光子の製造方法。
【請求項7】
前記工程Cにおいて、ヨウ化アルカリまたはヨウ化アンモニウムを含む脱色液に前記染色層を浸漬することにより、前記染色層に吸着したヨウ素の一部を除去することを特徴とする、請求項1から6のいずれかに記載の偏光子の製造方法。
【請求項8】
前記工程Cの完了時点において、前記偏光子の吸光度が、0.3〜0.4(T=50%〜40%)であることを特徴とする、請求項1から7のいずれかに記載の偏光子の製造方法。
【請求項9】
さらに、ホウ酸と、ヨウ化アルカリまたはヨウ化アンモニウムとを含む架橋液に、前記染色層、または、一部脱色された前記染色層を浸漬する工程を含むことを特徴とする、請求項1から8のいずれかに記載の偏光子の製造方法。
【請求項10】
さらに、前記偏光子を乾燥させる工程を含むことを特徴とする、請求項1から9のいずれかに記載の偏光子の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2011−2816(P2011−2816A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−100528(P2010−100528)
【出願日】平成22年4月26日(2010.4.26)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】