説明

偏光子及びアイソレータ並びに製造方法

偏光ガラス物品、偏光ガラス物品を有する光アイソレータ並びに偏光ガラス物品及び光アイソレータの製造方法が開示される。製造方法は改善されたコントラスト比を示すアイソレータを製造するために用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光ガラス物品、そのような物品の製造方法及びそのような物品を有するデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
偏光効果は、ハロゲン化銀、ハロゲン化銅またはハロゲン化銅カドミウムの結晶などのハロゲン化金属結晶を含有するガラスで得ることができる。これらの結晶は、限定するものではないが、適量の上記金属及びハロゲン元素を含有する組成を有するホウケイ酸ガラスなどのガラス内に、当業界で公知のプロセスにしたがって析出させることができる。
【0003】
これらの結晶を含有するガラスを引き延ばし、次いで、引き延ばされたガラスの表面を還元雰囲気にさらすことによって、そのようなガラスに偏光効果が生じる。ガラスは、ガラスを引き延ばすことによって結晶を引き延ばして配向させるために、一般にガラスアニーリング温度より高い温度において応力の下におかれる。引き延ばされた物品は次いで、約250℃より高いが、ガラスアニーリング温度より約100°より高くはない温度において還元雰囲気にさらされる。これにより、ハロゲン化金属結晶の少なくとも一部が元素金属、例えば銀または銅に還元された表面層が発現する。偏光ガラスを製造するためのプロセスの例は、特許文献1及び特許文献2に詳細に説明されており、これらの文献の内容は参照によって本明細書に含まれる。
【0004】
上述したタイプの偏光ガラスは、限定するものではないが、光通信装置、光記録装置、光センサ及び光干渉計などの装置に用いられる偏光素子を作成するために用いられる。光通信システムに用いられる光アイソレータは、一般に、ホルダ内で光軸上に配置された、第1の偏光子、ファラデー回転子及び第2の偏光子を有する。光アイソレータの2つの主要な用途は、光通信システムにおける使用及び光ファイバ増幅器における使用である。
【0005】
光アイソレータの機能の1つはレーザなどの光源を有する光通信システムにおける光の後方進行を防止することである。アイソレータは通常、‘背面反射’すなわち後方進行光を防止するために、前方進行光の経路に配置される。例えば、光ファイバシステムでは、レーザのような光源から送られる光が、システム内の、相接している材料間の屈折率の変化または光ファイバのアライメントずれのような不整に遭遇するときに背面反射がおこり得る。背面反射の結果、システム性能の低下が生じ、時には、通常はレーザである送光源に悪影響を及ぼすこともある。アイソレータは光源から前方向に進行する光しか通さず、光源に向かって背面反射された光を阻止する。
【特許文献1】米国特許第4304584号明細書
【特許文献2】米国特許第4479819号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
偏光ガラス物品及び光アイソレータを製造するための様々な方法が存在するが、改善された製造方法が提供されることが望ましいであろう。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のいくつかの実施形態は偏光ガラス物品に関し、別の実施形態は偏光ガラス物品を用いる光アイソレータに関する。その他の実施形態は偏光ガラス物品の製造方法に関する。本製造方法は改善されたアイソレーションすなわちコントラスト比を示すアイソレータを製造するために用いることができる。
【0008】
本発明の利点は以下の詳細な説明から明らかになるであろう。上述の全般的説明及び以下の詳細な説明が例示であり、特許請求される本発明を詳しく説明することを目的とするものであることを理解すべきである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明のある実施形態にしたがえば、光通信システムに用いることができる偏光ガラス物品及び光アイソレータの性能が最適化される。改善された偏光軸一様性を有する偏光ガラス物品及び改善されたコントラスト比を有する光アイソレータが提供される。
【0010】
図1A及び1Bは代表的な偏光依存性光アイソレータ10を示す。光アイソレータ10は、2つの偏光子12,14,すなわち第1の偏光子12及び、検光子と呼ばれることが多い第2の偏光子14を有し、これら2つの偏光子は光透過軸の方向に関して45°の差を有する。アイソレータは偏光子間に配置された45°ファラデー回転子も有する。前進方向の光が第1の偏光子12を通過すると入射光は直線偏光に変換され、この光がファラデー回転子16を通過すると直線偏光の偏光面が45°回転する。直線偏光は、光の偏光面が今では、ファラデー回転の向きに偏光子から45°傾けられている検光子の光透過軸と同じ向きにあるから、無損失で検光子14を通過する。後進方向の光は、検光子14を通過すると、透過軸に関して45°の傾きをもつ直線偏光に変換され、ファラデー回転子を通過すると、後進光の偏光面は初めの傾きと同じ方向に45°回転する。後進光は、後進光の偏光面が今では偏光子の光透過軸から90°ずれているから、ほぼ完全に消光される。
【0011】
偏光軸がガラスシートまたはガラス層の面内で一様には配向されていない細長い金属粒子を含有する偏光ガラスがあることが見いだされた。言い換えれば、偏光軸の角度は偏光ガラスシートの表面を横切る直線距離すなわち位置の関数として若干変化する。従来技術にしたがえば、Polacor(商標)ガラス偏光子の8mm×8mmの正方形シートの面内での測定された偏光軸の角変化は約0.35°と大きく、これは0.043°/mmの偏光軸の角変化である。本発明のある実施形態にしたがえば、8mmの距離にわたっては約0.3°であろう0.0375°/mmの偏光軸の角変化を示す改善された偏光ガラスシートを製造できる。本発明のある実施形態にしたがえば、8mm×8mm,11mm×11mm,15mm×15mm及び30mm×30mmのシート寸法に対して約0.030°/mmの偏光軸の角変化を示す、改善された偏光ガラスシートを製造することができる。偏光角変化はガラスシートを横切る距離に偏光軸の角変化を乗じることによって計算される。すなわち、シート内で0.24°の偏光角変化を示す8mm×8mmの偏光ガラスシート、シート内で0.33°の偏光角変化を示す11mm×11mmの偏光ガラスシート、全シート内で0.45°の偏光角変化を示す15mm×15mmの偏光ガラスシート、及びシート内で0.9°の偏光角変化を示す30mm×30mmの偏光ガラスシートを作成することが可能である。約0.020°/mmの偏光軸の角変化、すなわち、8mm×8mmシート内で0.16°、15mm×15mmシート内で0.3°、30mm×30mmシート内で0.6°の偏光角変化を示す、30mm×30mmまでの寸法を有する改善された偏光ガラスシートを、本発明のある実施形態にしたがって製造できる。
【0012】
本発明のある実施形態にしたがえば、偏光ガラス物品を製造するための標準的プロセスを修正して、試料の偏光軸のばらつきを最小限に抑えるために、偏光ガラス物品の延伸中にガラスの面内の温度プロファイル及び/または応力などの製造パラメータを変えることができる。本発明は特定の理論に限定されるべきではないが、偏光角のばらつきは、偏光ガラス内の金属粒子の長軸が、ある程度はガラス製造中の非一様な応力及び/または温度により試料の面内で平行ではないという事実によると考えられる。
【0013】
図2は偏光ガラス物品を製造するための一般的な装置40を示す。装置40は、偏光ガラス材料シート形成の従来技術で知られているような延伸炉によって一般に提供される加熱ゾーン42を有する。ハロゲン化金属結晶を含有するガラスプリフォーム44が加熱ゾーン42を通過させられ、引張ローラー46による張力の下で引き延ばされて、引き延ばされたガラスシート48が形成される。出願人等は、ガラスの延伸中に印加される応力に概ね垂直な方向において(すなわち延伸されているシートの幅にわたって)ガラスの面内の応力すなわち張力が一様ではないことを示す実験を実施した。加熱ゾーン42の温度を調節することにより、及び、延伸中にガラスに印加される応力すなわち張力を、応力の方向に概ね垂直な方向に、すなわちシートの幅にわたって、さらに一様に近くなり得るように調節することにより、偏光軸のばらつきを最小限に抑えることができると考えられる。
【0014】
本発明のある実施形態にしたがえば、ガラスシートを延伸し、偏光角ばらつきを測定して、偏光角ばらつきを小さくするために延伸応力すなわち張力及び温度を調節することにより、偏光ガラスシートの偏光角ばらつきを小さくすることができる。本方法は、ハロゲン化金属結晶を含有するガラス物品を、応力の方向に結晶を引き延ばすために、高温において応力の下で引き延ばす工程及び、次いで、引き延ばされたガラス物品を、結晶の金属への還元を開始するために、高温において還元雰囲気にさらす工程を含む。物品が形成された後、印加応力の方向に概ね垂直な方向における距離L間の偏光軸の角変化が測定される。次いで、ガラスを製造するためのプロセスの少なくとも温度プロファイル及び/または応力プロファイルを距離L間の偏光軸の角変化が小さくなるような態様で調節することができる。偏光角ばらつきが許容値まで小さくなるまで、この一連の工程が反復される。ある好ましい実施形態において、応力すなわち張力を、延伸中にガラスにかかる応力がガラスの引き伸ばし方向に概ね垂直な方向で一様であるように調節することができる。
【0015】
ある好ましい実施形態において、ガラスシートの少なくとも8mmの距離にわたる偏光角ばらつきは約0.3°より小さく、これは約0.0375°/mmより小さいと表すこともできよう。別の好ましい実施形態において、少なくとも8mmの距離にわたる偏光軸の角変化は0.1°より小さく、これは0.0125°/mmより小さいと表すこともできよう。別の実施形態において、少なくとも15mmの距離L間の偏光軸の角変化は0.3°より小さく、これは約0.02°/mmより小さいと表すこともできよう。また別の実施形態において、偏光軸の角変化は15mmの距離にかけて約0.1°より小さく、これは約0.0067°/mmより小さいと表すこともできよう。
【0016】
偏光ガラスシートにおける偏光角ばらつきは、そのようなシートを組み込んでいるアイソレータのコントラスト比に影響を及ぼすであろう。ばらつきは、偏光子のアライメントを動的にとることによって補償できるが、動的アライメントには時間がかかり、高価な装置が必要となり、アイソレータの製造コストを増加させる。理想的には、ファラデー回転子を挟み込む偏光子の大きなシートのアライメントを受動的にとり、許容できるコントラスト比すなわちアイソレーション値を有するアイソレータを提供するために貼り合すことができれば、有利であろう。
【0017】
コントラスト比すなわちアイソレーション対互いに約90°をなして貼り合わされた2つの偏光子の偏光軸間角のグラフである、図3を次に参照すれば、x軸上の偏光軸間角は等しい偏光角ばらつきを有する2つの偏光子の最悪の場合を表す。すなわち、最善の場合のシナリオでは、偏光子のアライメントが完全にとられ、偏光角ばらつきが全くなければ、コントラスト比は2つの偏光子のコントラスト比の関数となるであろうし、これはコントラスト比が最も高い偏光子に等価であろう。それぞれの試料の偏光角ばらつきが0.10°であり、選ばれた1つの場所において偏光子のアライメントが完全にとられていれば、2つの試料の偏光軸間角が2×0.10°すなわち0.20°となる領域があるであろう。グラフは、そのような試料では最大アイソレーションすなわち最大コントラスト比が約50dBに制限されるであろうことを示す。同様に、それぞれの偏光子の偏光角ばらつきが約0.29°であり、2つの完全にアライメントがとられた偏光子の偏光軸間角が約0.58°であれば、アイソレーションすなわちコントラスト比は約40dBであろう。
【0018】
すなわち、本発明のある実施形態にしたがえば、ファラデー回転子層を挟み込む2つの偏光ガラス層を有する材料の積層により、受動的にアライメントがとられた光アイソレータを提供することができ、アイソレータのコントラスト比は約40dBより高い。いくつかの好ましい実施形態において、層の長さ及び幅は少なくとも8mmであり、別の好ましい実施形態において、層の長さ及び幅は少なくとも15mmである。ある好ましい実施形態において、約50dBより高いアイソレーションすなわちコントラスト比を示す、受動的にアライメントがとられた光アイソレータが提供される。ある実施形態において、偏光ガラスシートをファラデー回転子と貼り合せることによってアイソレータが提供され、シートの長さ及び幅は少なくとも8mmであり、いくつかの実施形態において、長さ及び幅は約15mmである。大きなアイソレータシートを製造した後、小さな、一般には0.5mm×0.5mm正方または2mm×2mm正方のアイソレータを大きなシートから切り出すことができる。光アイソレータを製造するために材料シートを重ね合わせて直接に接合するための方法は、本願出願人に譲渡された、名称を「光アイソレータ及び製造方法(Optical Isolators and Methods of Manufacture)」とする、2002年5月2日に出願された米国特許出願第10/139664号の明細書に説明されている。この明細書の内容は本明細書に参照として含まれる。
【0019】
本発明の別の実施形態にしたがえば、細長いハロゲン化金属結晶を含有する偏光ガラスシートを延伸し、ハロゲン化金属結晶を還元することにより、改善されたアイソレーションすなわちコントラスト比を有する光アイソレータを提供することができる。シートの製造後、シートの端から端までの距離に対して偏光角ばらつきが測定され、偏光角はシートの少なくとも1つの端に対して関係付けられる。シートの端から端までの偏光角ばらつきがわかると、最小の偏光角ばらつきを示すガラスシート領域を選ぶことができる。このガラス領域は、シートから切り出された領域を、40dBより高いコントラスト比を有する光アイソレータを製造するために、ガラスシートを別の偏光ガラスシートと受動的にアライメントを取るために用いることができるように選ばれることが好ましい。
【0020】
本発明の精神または範囲を逸脱することなく本発明に様々な改変及び変更がなされ得ることが当業者には明らかであろう。したがって、本発明の改変及び変更が添付される特許請求項またはその等価物の範囲内に入れば、本発明はそれらの改変及び変更を包含すると目される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1A】本発明の一実施形態にしたがう偏光物品を有する偏光依存性光アイソレータを通過する光を示す
【図1B】本発明の一実施形態にしたがう偏光物品を有する偏光依存性光アイソレータを通過する光を示す
【図2】本発明の一実施形態にしたがう偏光ガラス物品の製造方法の略図である
【図3】コントラスト比対本発明の一実施形態にしたがう2枚の偏光ガラスシートに対する偏光軸間角のグラフである
【符号の説明】
【0022】
10 偏光依存性光アイソレータ
12,14 偏光子
16 ファラデー回転子


【特許請求の範囲】
【請求項1】
細長い金属粒子を含有する偏光ガラス物品において、約0.0375°/mmより小さい偏光軸の変化を示すことを特徴とする偏光ガラス物品。
【請求項2】
少なくとも8mmにかけて約0.16°より小さい偏光軸の変化を示すことを特徴とする請求項1に記載の偏光ガラス物品。
【請求項3】
少なくとも15mmの距離にわたる偏光軸の前記変化が約0.3°より小さいことを特徴とする請求項1に記載の偏光ガラス物品。
【請求項4】
前記ガラス物品が、シートの形態をしており、15mmまでの距離にわたって0.030°/mmの偏光軸の変化を示す細長い金属粒子を含有することを特徴とする請求項1に記載の偏光ガラス物品。
【請求項5】
ファラデー回転子層を挟み込む2つの偏光ガラス層を有する材料の積層を含む受動的にアライメントがとられた光アイソレータにおいて、前記アイソレータのコントラスト比が約40dBより高いことを特徴とする光アイソレータ。
【請求項6】
前記層の長さ及び幅が少なくとも8mmであることを特徴とする請求項5に記載の光アイソレータ。
【請求項7】
前記アイソレータのコントラスト比が約50dBより高いことを特徴とする請求項5に記載の光アイソレータ。
【請求項8】
光アイソレータの製造方法において、
約0.02°/mmより小さい偏光軸の変化を示す少なくとも2つの偏光ガラスシートを選択する工程、及び
光アイソレータを提供するために、前記偏光ガラスシートを前記ガラスシートの間に挟み込まれたファラデー回転子と貼り合わせる工程、
を有してなることを特徴とする方法。
【請求項9】
前記シートの幅及び長さが少なくとも8mm×8mmであることを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記シートの幅及び長さが少なくとも15mm×15mmであることを特徴とする請求項8に記載の方法。

【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2006−511834(P2006−511834A)
【公表日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−563644(P2004−563644)
【出願日】平成15年12月9日(2003.12.9)
【国際出願番号】PCT/US2003/040135
【国際公開番号】WO2004/058655
【国際公開日】平成16年7月15日(2004.7.15)
【出願人】(397068274)コーニング インコーポレイテッド (1,222)
【Fターム(参考)】