説明

偏光子支持基材用フィルム

【課題】一軸配向ポリエステルフィルムにおいて、従来はフィルムの配向方向が不均一になりやすくかったフィルム両端の部位についても配向方向が均一に制御された高度な光軸安定性を有し、フィルム両端部まで支持基材として使用しても液晶ディスプレイの色シフトおよび色斑を防止することができるとともに、さらに偏光子に対する優れた接着性を有し、偏光子の長期耐久化が可能な偏光子支持基材用フィルムを提供する。
【解決手段】広角X線回折測定で得られるフィルムTD方向のPET結晶(−105)面の配向度、フィルム面内遅相軸とフィルムTD方向とのなす角度αおよびフィルム面内遅相軸とフィルムTD方向とのなす角度のばらつきβの関係が下記式(1)、(2)を満たし、
fcTD(−105)≧0.35 ・・・(1)
(式(1)中、fcTD(−105)は、広角X線回折測定で得られるフィルムTD方向のPET結晶(−105)面の配向度を表わす)
0≦α+β≦15° ・・・(2)
該フィルムの少なくとも片面にガラス転移点20〜90℃の共重合ポリエステルをバインダー成分の重量を基準として40〜80重量%およびケン化度80〜90mol%のポリビニルアルコールをバインダー成分の重量を基準として20〜60重量%含む塗布層が設けられてなる偏光子支持基材用フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は偏光子支持基材用フィルムに関する。更に詳しくは液晶ディスプレイの色シフトおよび色斑を防止することができる光軸の安定性を確保し、さらに偏光子に対する優れた接着性を有しており、偏光子の長期耐久化が可能な偏光子支持基材用フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイは、直交配置した偏光板間の液晶分子の配向を制御して液晶層の位相差を変化させることで入射光の偏光方向を変化させ、出射光量を調整するものである。そのため、良好な表示画像品位を得るためには、液晶層へ入射する光の偏光方向が安定していることが求められる。
【0003】
多くの液晶ディスプレイに用いられている偏光板は、吸収型のフィルムタイプのものであり、二色性分子をマトリックス中に一軸配向させた偏光子の両面を、透明支持基材ではさんだ構成からなる。多くの場合、二色性分子としてポリヨウ素イオンを用い、偏光子としてヨウ素を含浸させたポリビニルアルコールフィルムを一軸延伸したものが用いられている。
【0004】
また、偏光子を保護する支持基材として、現在ほとんどの場合、セルロールトリアセテート(TAC)フィルムが用いられている。透明性に優れた素材であるTACフィルムは、光学等方性に優れ、面内にほとんど位相差を持たないため、入射直線偏光の振動方向を変化させることが極めて少なく、偏光子支持基材として適した素材であるが、反面、現在の技術では溶液キャスト法でしか製造できないためコスト的には不利な素材である。また、使用される用途によってはTACフィルムでは耐湿、耐熱性が十分でないことがある。
【0005】
ポリエチレンテレフタレートなどの芳香族ポリエステルフィルムは、透明性、耐熱性、機械強度に優れ、かつ、TACに比べて安価な素材であるため、過去にTACフィルムに代わる偏光子支持基材としてポリエチレンテレフタレートを適用する色々な試みがなされている。
偏光子の支持基材によって入射直線偏光の振動方向の変化が生じないよう、支持基材としてTACフィルムのような光学等方性に優れるフィルムが用いられていたのに対し、芳香族ポリエステルフィルムは、分子鎖中に分極率の大きい芳香族環を持つため固有複屈折が極めて大きく、優れた透明性、耐熱性、機械強度を付与させるための延伸処理による分子鎖の配向に伴ってフィルム複屈折が発現しやすく、輝度斑、色シフトが発生しやすい。そこでポリエステルフィルムを支持基材として用いるべく、以下のような検討がなされている。
【0006】
例えば特許文献1において、偏光子および偏光子に接する一軸延伸プラスチックフィルムからなる一対の基板を具備する表示パネルにおいて、一軸延伸プラスチックフィルムの光学的主軸方向と偏光子の偏光軸方向とのなす角度を略±3度以下にすることが開示されており、一軸延伸フィルムとして一軸延伸ポリエステルフィルムを用いることが記載されている。特許文献1によれば、一軸延伸フィルムの光学的主軸方向と偏光子の偏光軸方向とのなす角度が適切でないと複屈折現象に伴う干渉色が発生し、コントラスト比が低下し、表示品質が低下することが開示されている。
【0007】
また、膜面に平行な一方向に特に強く延伸されたポリエステルフィルムにおいて、主延伸方向の屈折率とその垂直方向の屈折率との特定の関係式を満たすフィルムが偏光フィルムの少なくとも片面に接着剤の層を介して貼りあわされた偏光板が特許文献2に開示されており、かかるフィルムを用いれば色斑が生じないことが記載されている。
【0008】
また、例えば特許文献3には偏光フィルムの表面保護フィルムとして一軸延伸ポリエステルフィルムが開示されており、また車載用などの過酷な条件下での使用に特に有利なポリエステルフィルムとして、縦または横方向のみに少なくとも5%、実用的には50〜800%延伸して約100℃で60分間〜約280℃で5分間の範囲でヒートセットしてなるものが好ましいことが記載されている。
【0009】
特許文献4には、偏光子の透明支持基材として一軸延伸ポリエステルフィルムを用い、一軸延伸親水性高分子フィルムと一軸延伸ポリエステルフィルムとの延伸方向が平行関係または直交関係となるように貼着し、その際の角度のズレを小さくするほど光透過性などの点で好ましいことが開示されている。また該一軸延伸ポリエステルフィルムとしてリタデーション値が8000nmのものが開示されている。
【0010】
このように、一軸延伸ポリエステルフィルムを用い、その主軸方向と偏光子の偏光軸方向との差を小さくすることによる色斑などの解消が従来より検討されている。一方で、偏光子支持基板に求められる配向方向の均一性の精度は非常に高く、単に一軸方向に延伸するだけではフィルム周辺部においても実用に耐える光軸の安定性が得られにくいという課題があった。また液晶画面の大型化に伴い、支持基材に対しても大面積化が求められ、使用される面積において均一な性能が求められており、延伸による複屈折率の増大が大きいポリエステルフィルムに対して、フィルム両端部も含めて色シフトおよび色斑の発生のないフィルムが求められている。
【0011】
さらに、偏光子支持基材は偏光子と貼り合わせて偏光板とするため、偏光子として一般的に使用されるポリビニルアルコールフィルムとの優れた接着性が要求される。ポリビニルアルコールフィルムを用いた偏光子は耐湿性に乏しく、支持基板との接着性が十分でないと偏光機能が経時的に低下するためである。しかしながら、延伸された分子配向ポリエステルフィルムは一般的に他の材料との接着性に乏しく、特にポリビニルアルコールとの接着性が低いことから、延伸された配向ポリエステルフィルムを偏光子支持基板に用いる上で偏光子との接着性の向上が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開昭58−143305号公報
【特許文献2】特開昭60−26304号公報
【特許文献3】特開昭61−241703号公報
【特許文献4】特開昭63−226603号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、一軸配向ポリエステルフィルムにおいて、従来はフィルムの配向方向が不均一になりやすかったフィルム両端の部位についても配向方向が均一に制御された高度な光軸安定性を有し、フィルム両端部まで支持基材として使用しても液晶ディスプレイの色シフトおよび色斑を防止することができるとともに、さらに偏光子に対する優れた接着性を有し、偏光子の長期耐久化が可能な偏光子支持基材用フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、従来の一軸延伸ポリエステルフィルムでは、フィルム製膜中に生じるボーイング現象のためにフィルム両端部位までフィルムの配向方向を均一に制御することが難しく、偏光子支持基材用途に提案されながら実用レベルでの使用が制限されていたところ、本願発明では延伸工程時に延伸速度および張力も含めて制御することにより、クリップ部分がスリットされる以外はフィルム両端部までフィルムの配向方向が均一に制御され光軸の安定したフィルムが得られ、偏光子支持基材用フィルムとして用いることができることを見出した。また、該ポリエステルフィルムの表面にガラス転移点を最適化した共重合ポリエステルおよびケン化度を高めたポリビニルアルコールを一定量存在せしめた塗布層を形成すれば偏光子との優れた接着性が得られ、偏光子支持基材に好適なポリエステルフィルムを提供できることを見出したものである。
【0015】
すなわち本発明の目的は、一軸配向芳香族ポリエステルフィルムにおいて、該芳香族ポリエステルのモノマーユニットの75モル%以上がエチレンテレフタレートであり、広角X線回折測定で得られるフィルムTD方向のPET結晶(−105)面の配向度、フィルム面内遅相軸とフィルムTD方向とのなす角度αおよびフィルム面内遅相軸とフィルムTD方向とのなす角度のばらつきβの関係が下記式(1)、(2)を満たしており、
fcTD(−105)≧0.35 ・・・(1)
(式(1)中、fcTD(−105)は、広角X線回折測定で得られるフィルムTD方向のPET結晶(−105)面の配向度を表わす)
0≦α+β≦15° ・・・(2)
(式(2)中、αはフィルム面内遅相軸とフィルムTD方向とのなす角度を表わし、エリプソメーターを用いてフィルム両端部についてMD方向に100mmおきに5点ずつ測定した10点の平均値で表わされ、βはフィルム面内遅相軸とフィルムTD方向とのなす角度のばらつきを表わし、エリプソメーターを用いてフィルム両端部についてMD方向に100mmおきに5点ずつ測定した10点の標準偏差値の3倍で表わされる)
該フィルムの少なくとも片面にガラス転移点20〜90℃の共重合ポリエステルをバインダー成分の重量を基準として40重量%以上80重量%以下およびケン化度80mol%以上90mol%以下のポリビニルアルコールをバインダー成分の重量を基準として20重量%以上60重量%以下含む塗布層が設けられている偏光子支持基材用フィルムによって達成される。
【0016】
また本発明の偏光子支持基材用フィルムは、その好ましい態様として、塗布層中にさらにオキサゾリン基およびポリアルキレンオキシド鎖を有するアクリル樹脂をバインダー成分の重量を基準として10重量%以上20重量%以下含有してなること、該ポリエステルフィルムの面内位相差が1000nm以上であり、かつそのばらつきが100nm以下であること、該ポリエステルフィルムのPET結晶(100)面の結晶サイズが下記式(3)を満足しており、かつフィルムのヘーズ値が7%以下であること、
3.0nm≦χc(100)≦4.5nm ・・・(3)
(式(3)中、χc(100)は、広角X線回折測定で得られるフィルムのPET結晶(100)面の結晶サイズ[nm]を表わす)
塗布層中の共重合ポリエステルが、スルホン酸塩基を有するジカルボン酸成分を全カルボン酸成分あたり1〜16モル%含有する共重合ポリエステルであること、塗布層表面の表面エネルギーが50〜65dyne/cmであること、120℃×30分の非拘束熱処理後のフィルム収縮率が、フィルムMD方向、フィルムTD方向のいずれにおいても5%以下であること、の少なくともいずれか1つを具備するものも包含する。
本発明はまた、偏光子の支持基材として本発明の偏光子支持基材用フィルムを用いた偏光板に関するものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、フィルム両端の部位についてもフィルム面内遅相軸とフィルムTD方向とのなす角度およびそのばらつきが小さく、液晶ディスプレイの色シフトおよび色斑を防止することができる高度な光軸の安定性を確保するとともに、さらに偏光子との接着性に優れ、偏光子の長期耐久化が可能な偏光子支持基材用フィルムを提供することができる。かかるフィルムを用いた偏光板により、低コストながら色シフトおよび色斑などの発生のない表示画像品位に優れた液晶ディスプレイ製品を提供でき、さらに大型化にも対応できる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を詳しく説明する。
<芳香族ポリエステル>
本発明の一軸配向芳香族ポリエステルフィルムを構成する芳香族ポリエステルは、モノマーユニットの75モル%以上がエチレンテレフタレートである。かかるポリエステルを用いることにより、一方向に主配向軸を有する配向結晶化によって主配向軸方向の配向度を高め、偏光子の支持基材として好適な屈折率特性のフィルムが得られるとともに、透明性、耐熱性、機械強度の高いフィルムを得ることができる。かかるモノマーユニット成分は、80モル%以上であることがより好ましく、90モル%であることがさらに好ましく、95モル%以上であることが特に好ましい。
【0019】
芳香族ポリエステルは、従たる成分を含む場合、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ポリアルキレングリコール等のジオール成分、アジピン酸、セバシン酸、フタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸等のジカルボン酸成分が例示される。
【0020】
<一軸配向芳香族ポリエステルフィルム>
本発明の芳香族ポリエステルフィルムは一軸配向の芳香族ポリエステルフィルムである。ここで本発明における「一軸配向」の定義は、一方にのみ延伸した一軸配向フィルムのみならず、二方向に延伸したフィルムのうち主配向方向とその直交方向の配向度の差が大きいフィルムも包含され、後述のPET結晶(−105)面の配向度を満たす一軸配向性を有するフィルムであれば本定義に含まれる。
【0021】
(結晶配向度)
本発明の一軸配向芳香族ポリエステルフィルムは、広角X線回折測定で得られるフィルムTD方向のPET結晶(−105)面の配向度が下記式(1)を満たすことが必要である。
fcTD(−105)≧0.35 ・・・(1)
(式(1)中、fcTD(−105)は、広角X線回折測定で得られるフィルムTD方向のPET結晶(−105)面の配向度を表わす)
本発明のフィルムは一軸配向フィルムであり、延伸により得られる分子配向は、得られたフィルムの配向結晶化の挙動を広角X線回折測定で観察することで確認できる。
詳しくは、広角X線回折測定により、観察したい結晶面に対応するブラッグ角に固定したサンプルを全球にわたり回転させX線回折ポールフィギュアを測定し、得られた結晶配向方向の全球中の分布挙動から配向度を算出して求められる。
ここで結晶配向度fcは、−0.5〜1の値をとり、fcが1に近いほど測定結晶面の法線ベクトルと評価している方向が平行なものが多く分布し、fcが−0.5に近いほど法線ベクトルと評価方向が直交しているものが多く分布する。
PET結晶(−105)面の法線ベクトルは、ほぼ分子鎖に沿ったものであり、fcTD(−105)が式(1)の範囲を満たす範囲であれば、分子鎖がフィルム主延伸方向に多く配向しており、本発明においてはその方向がフィルムTD方向(以下、幅方向または横方向と称することがある)である。
【0022】
本発明の一軸配向芳香族ポリエステルフィルムが、フィルムTD方向において、かかる配向度の範囲で配向結晶していることにより、TD方向に高度に配向した主配向軸を有し、本フィルムを偏光子支持基材として偏光子と積層させる際、本フィルムによる偏光光の偏光状態変化に伴う色シフトおよび色斑の発生を抑制することができる。ここで、フィルムの主配向軸方向は、光の振動挙動の面からみると遅相軸に相当し、フィルム面内遅相軸と称することがある。
偏光子支持基材と偏光子とを積層させる方向性は、偏光子支持基材の主配向軸と偏光子の透過軸とが、直交方向または平行方向のいずれかであれば色シフトおよび色斑を抑制できる。一方、フィルム両端部分についても配向方向が均一に制御された高度な光軸安定性を得るためには、フィルム製膜工程においてTD方向が主配向となるよう延伸する方法が必要であり、得られるフィルムの結晶配向度の主方向はTD方向となる。
【0023】
また、偏光子と偏光子支持基板とを連続して製造できる観点から、偏光子はフィルムMD方向(以下連続製膜方向、長手方向または縦方向と称することがある)と偏光子の光吸収軸とが平行になるように積層されることが好ましく、得られる直線偏光および偏光子透過軸はフィルムTD方向となることが好ましい。
【0024】
fcTD(−105)で表わされる結晶配向度は、より好ましくは0.38以上であり、さらに好ましくは0.40以上、特に好ましくは0.43以上である。かかる結晶配向度はより高い方が好ましいが、その上限はポリマー特性および製造可能な製膜を考慮すると、0.55以下、もしくは0.50以下であることが好ましい。
一方、フィルムのfcTD(−105)が下限値に満たない場合、偏光子透過軸とフィルム分子配向の角度の乖離が大きく、色シフトおよび色斑が発生し、表示画像品位が低下する。
【0025】
かかる結晶配向度のフィルムを得るためには、フィルム製造方法において詳述するように、フィルムTD方向およびフィルムMD方向の延伸倍率比(RTD/RMD)が3.0を超え7.0以下となる範囲で延伸処理を行い、かかるフィルムMD方向の延伸倍率(RMD)を0.7倍以上2.0倍以下の範囲で行うことにより一軸配向ポリエステルフィルムを得た後、該ポリエステルのガラス転移点以上、(融点−15℃)以下の範囲で熱固定処理を行うこと、かかる延伸を行うに際して、MD方向の張力を適度に高めた状態で行い、またTD方向の延伸速度を高めることによって達成される。
【0026】
(遅相軸角度αおよび遅相軸角度のばらつきβ)
また、本発明の一軸配向芳香族ポリエステルフィルムは、フィルム面内遅相軸とフィルムTD方向とのなす角度α(以下、遅相軸角度αと称することがある)およびフィルム面内遅相軸とフィルムTD方向とのなす角度のばらつきβ(以下、遅相軸角度のばらつきβと称することがある)の関係が下記式(2)を満たすことが必要である。
0≦α+β≦15° ・・・(2)
(式(2)中、αはフィルム面内遅相軸とフィルムTD方向とのなす角度を表わし、エリプソメーターを用いてフィルム両端部についてMD方向に100mmおきに5点ずつ測定した10点の平均値で表わされ、βはフィルム面内遅相軸とフィルムTD方向とのなす角度のばらつきを表わし、エリプソメーターを用いてフィルム両端部についてMD方向に100mmおきに5点ずつ測定した10点の標準偏差値の3倍で表わされる)
(α+β)で表わされる値がかかる範囲を超えるものは、フィルム両端部において色シフトが生じるのみならず色斑が生じる。
遅相軸角度α単独の値は15°以下であることが好ましく、より好ましくは10°以下、さらに好ましくは8°以下、特に好ましくは5°以下、最も好ましくは3°以下である。また、遅相軸角度のばらつきβ単独の値は5°以下であることが好ましく、より好ましくは2°以下、さらに好ましくは1°以下、特に好ましくは0.5°以下、最も好ましくは0°である。式(2)で表わされる(α+β)の好ましい範囲は、α、βそれぞれの好ましい範囲内から導かれ、その中でも特に好ましくは5°以下であり、最も好ましくは3°以下である。
【0027】
本発明における遅相軸角度αは、フィルムの両端部(エッジ部と称することがある)における遅相軸とフィルムTD方向とのなす角度を表わしたものであり、エリプソメーターを用いてフィルム両端部についてMD方向に100mmおきに5点ずつ測定した10点の平均値で表わされる。また本発明における遅相軸角度のばらつきβは、フィルムの両端部におけるフィルム面内遅相軸とフィルムTD方向とのなす角度のばらつきを表わしたものであり、αと同様、エリプソメーターを用いてフィルム両端部についてMD方向に100mmおきに5点ずつ測定した10点の標準偏差値の3倍で表わされる。
ここで、フィルムの両端部とは、フィルム製膜工程におけるテンタークリップ把持部にあたる部分をスリットした後のフィルム両端部を指し、具体的にはフィルム製膜工程におけるテンタークリップ把持部にあたる部分を除去するスリットが、スリット前のフィルムの両端から4%〜10%の範囲内で行われることにより得られたフィルムの両端部を指す。
【0028】
延伸製膜して得られたフィルムは、通常フィルムの両端になるほどボーイング現象により延伸方向と配向軸とのずれが大きくなり、遅相軸角度αおよび遅相軸角度のばらつきβが大きくなる傾向にある。本発明においては、フィルムの製膜方法をコントロールすることにより、クリップ部分をスリットして得られたフィルム両端部についても遅相軸角度αおよび遅相軸角度のばらつきβを小さくしたものであり、その結果、フィルム両端部まで使用しても液晶ディスプレイの色シフトおよび色斑を防止することができる光軸の安定性を確保することができ、表示画像品位の画面内のばらつきの少ない、より高性能の表示画像品位が発現するものである。
【0029】
式2で表される(α+β)を得るためには、フィルム製造方法において詳述するように、フィルムTD方向およびフィルムMD方向の延伸倍率比(RTD/RMD)が3.0を超え7.0以下となる範囲で延伸処理を行い、かかるフィルムMD方向の延伸倍率(RMD)を0.7倍以上2.0倍以下の範囲で行うことにより一軸配向ポリエステルフィルムを得た後、該ポリエステルのガラス転移点以上、(融点−15℃)以下の範囲で熱固定処理を行うこと、かかる延伸を行うに際して、MD方向の張力を適度に高めた状態で行い、またTD方向の延伸速度を高めることによって達成される。
【0030】
(面内位相差)
本発明の一軸配向芳香族ポリエステルフィルムは、フィルムの面内位相差が1000nm以上であることが好ましい。また、かかる面内位相差は、より好ましくは3000nm以上、さらに好ましくは5000nm以上、特に好ましくは7000nm以上である。
【0031】
本発明のフィルムの用途である偏光子支持基材は、偏光子により得られる直線偏光をできる限り乱さないものであることが好ましい。そのため、TACフィルムなどにおいては、フィルムの位相差、すなわち複屈折をフィルム厚みで乗じたものが小さいほど偏光子支持基材に適していた。しかしながら芳香族ポリエステルを用いた場合、分子構造に起因する比較的大きな固有複屈折を持つため、分子鎖配向によるフィルム位相差が発現しやすく、これを小さな値に制御することが難しい。そこで一軸配向のフィルムにし、フィルムの面内位相差をかかる範囲にすることによってフィルムの位相差値を可視光線の波長を越える大きなものとし、入射する直線偏光への影響が小さくなる結果、表示画像品位に及ぼす影響が無視しうる程度に小さくなり、より優れた表示画像品位を得ることができる。
【0032】
かかる面内位相差は、得られたフィルムの両最端部、中央部、それらの中間位置、の幅方向5点、それら幅方向5箇所の位置について、フィルム製膜方向に100mmおきに5点ずつ、合計25枚のサンプルを切り出し、エリプソメーターを用いて測定を行い、サンプルごとに得られた最大位相差の平均値で表わされる。
【0033】
また、面内位相差のばらつきは100nm以下であることが好ましい。面内位相差のばらつきは表示画像品位の画面内のばらつきの直結するため、その値が小さいほど好ましく、より好ましくは50nm以下である。
これらの面内位相差は、同一厚みのフィルムにおいては、フィルムTD方向およびフィルムMD方向の延伸倍率比(RTD/RMD)が3.0を超え7.0以下となる範囲で延伸処理を行うことによって達成される。
【0034】
(結晶サイズ、透明性)
本発明のフィルムの用途である偏光子支持基材は、直線偏光の透過率を高めるために透明なものであることが好ましく、フィルム中の結晶化領域のサイズを特定の大きさにすることが好ましい。具体的には、該ポリエステルフィルムのPET結晶(100)面の結晶サイズが下記式(3)を満足していることが好ましい。
3.0nm≦χc(100)≦4.5nm ・・・(3)
(式(3)中、χc(100)は、広角X線回折測定で得られるフィルムのPET結晶(100)面の結晶サイズ[nm]を表わす)
χc(100)は、広角X線回折測定で得られるフィルムのPET結晶(100)面の結晶サイズ[nm]を表わしている。広角X線回折測定を用いたχc(100)は、具体的にはサンプルを中心にX線入射角と計測器のフィルム面に対する角度が常に等しくなるようサンプルおよび計測器を回転させながらX線回折測定を行い(2θ−θスキャン)、モニターしたい結晶面に対応するブラッグ角におけるピーク半値幅から結晶サイズを算出した値で表わされる。
式(3)で表わされる結晶サイズの上限は4.0nmであることがさらに好ましい。
式(3)の値が上限を越えるものは、フィルム内の構造不均一性に基づく光散乱要因が多く、フィルムの透明性に劣り、ヘーズ値が高くなることがある。一方で式(3)の値が3.0nm未満のものは、透明ではあるものの、フィルム両端部の光軸安定性の低下につながることがある他、結晶化度が小さすぎ、その他の特性、特に後述する熱収縮率を好ましい値に制御しにくくなることがある。
【0035】
かかる結晶サイズは、フィルム延伸後の熱固定温度によって定まり、延伸後のフィルムに該ポリエステルのガラス転移点以上、(融点−15℃)以下の範囲で熱固定処理を行うことが好ましく、さらに180℃〜240℃の範囲であることが好ましい。
【0036】
フィルムの透明性に関する特性として、フィルムのヘーズ値が7%以下であることが好ましく、さらに好ましくは5%以下、特に好ましくは1.5%以下である。
かかるヘーズ値を有する透明性の高いフィルムを達成する手段として、上述の結晶サイズを特定の大きさにすること、またフィルムが滑剤などの粒子を含有しないか、含有する場合はフィルム重量を基準として0.1重量%以下のごく少量の範囲で用いる方法が挙げられる。また、滑り性向上の目的で添加される塗布層中の粒子含有量もヘーズ値に影響するため、一定の含有量範囲で用いることでヘーズ値を下げることができる。
【0037】
(熱収縮率)
本発明の一軸配向芳香族ポリエステルフィルムは、120℃×30分の非拘束熱処理後のフィルム収縮率が、フィルムMD方向、フィルムTD方向のいずれにおいても5%以下であることが好ましく、さらに好ましくは3%以下であり、特に好ましくは2%以下である。
【0038】
偏光板の製造、あるいは得られた偏光板を液晶セルと複合化させる工程など、本発明のフィルムは多くの被熱工程を通るため、良好な寸法安定性が求められ、かかる範囲の熱収縮率を有することにより、該加工工程後に偏光子など貼り合せる部材との熱収縮率差が小さく、そりなどが発生しにくくなる。一方、熱収縮率の値が上限を超える場合、そりなどが発生することがある。
【0039】
これらの熱収縮率特性を得るための手段として、延伸後のフィルムに該ポリエステルのガラス転移点以上、(融点−15℃)以下の範囲で熱固定処理を行うことが好ましい。また、ボーイング現象によりフィルム両端部の光軸安定性が損なわれない範囲内でトーインをつけてもよい。
【0040】
<塗布層>
本発明の偏光子支持基材用フィルムは、一軸配向芳香族ポリエステルフィルムの少なくとも片面にガラス転移点20〜90℃の共重合ポリエステルをバインダー成分の重量を基準として55重量%以上85重量%以下およびケン化度80mol%以上90mol%以下のポリビニルアルコールをバインダー成分の重量を基準として15重量%以上45重量%以下含む塗布層が設けられる。また、塗布層中にさらにオキサゾリン基およびポリアルキレンオキシド鎖を有するアクリル樹脂をバインダー成分の重量を基準として5重量%以上25重量%以下含有してなることが好ましい。
塗布層の構成成分について以下に記載する。
【0041】
(高分子バインダー)
塗布層を構成する高分子バインダー成分として、ガラス転移点20〜90℃の共重合ポリエステルおよびケン化度80〜90mol%のポリビニルアルコールを含むことが必要である。
高分子バインダーの含有量は、塗布層の重量を基準として30重量%以上90重量%以下であることが好ましい。また高分子バインダーの含有量は、より好ましくは50重量%以上80重量%以下であり、さらに好ましくは60重量%以上75重量%以下である。
高分子バインダーの含有量がかかる範囲にあることにより、偏光子との接着性を強固なものにすることができ、偏光子の長期耐久化が可能となる。
【0042】
(共重合ポリエステル)
共重合ポリエステルのガラス転移点(以下Tgと略記することがある)は20〜90℃であり、好ましくは25〜80℃である。ガラス転移点が下限値に満たないとフィルム同士がブロッキングし、一方、ガラス転移点が上限値を超えると偏光子との接着性が低下する。
【0043】
また共重合ポリエステルの含有量は、バインダー成分の重量を基準として40〜80重量%である。共重合ポリエステルの含有量は好ましくは40〜70重量%である。共重合ポリエステルの含有量が下限に満たないとポリエステルフィルムとの密着性が十分でない。また共重合ポリエステルの含有量が上限を超えると偏光子との接着性が低下する。
【0044】
共重合ポリエステルとして、以下に示す多塩基酸またはそのエステル形成誘導体とポリオールまたはそのエステル形成誘導体から得られるポリエステルを挙げることができ、多塩基酸、ポリオールの少なくとも一方が2種以上の成分を含むものである。
共重合ポリエステルの多塩基酸成分として、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、無水フタル酸、2、6−ナフタレンジカルボン酸、1、4−シクロヘキサンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、ダイマー酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸等を挙げることができる。これら酸成分が2種以上の共重合ポリエステルであることが好ましい。なおポリエステルには、若干量であればマレイン酸、イタコン酸等の不飽和多塩基酸成分、或いはp−ヒドロキシ安息香酸等のヒドロキシカルボン酸成分が含まれていてもよい。
【0045】
ポリエステル樹脂のポリオール成分として、エチレングリコール、1、4−ブタンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1、6−ヘキサンジオール、1、4−シクロヘキサンジメタノール、キシレングリコール、ジメチロールプロパン、ポリ(エチレンオキシド)グリコール、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコールなどが挙げられる。
【0046】
共重合ポリエステルは、スルホン酸塩基を有するジカルボン酸成分を全カルボン酸成分あたり1〜16モル%含有することが好ましく、かかるジカルボン酸成分として、5―ナトリウムスルホイソフタル酸、5―カリウムスルホイソフタル酸、5―カリウムスルホテレフタル酸等が挙げられる。
スルホン酸塩基を有するジカルボン酸成分量はさらに好ましくは1.5〜14モル%である。かかる成分が下限値に満たない場合は共重合ポリエステルの親水性が不足することがある。一方かかる成分が上限値を超える場合は塗布層の耐湿性が低下し、偏光子の機能を低下させることがある。
【0047】
共重合ポリエステルのガラス転移点の範囲は、上記成分の共重合比率を適度なものとすることによって得られる。具体的にガラス転移点の上限については、例えば2,6−ナフタレンジカルボン酸のような芳香族ジカルボン酸成分が共重合ポリエステルの全酸成分を基準として80モル%を超えないよう用いることにより、ガラス転移点がかかる範囲の上限を超えないようにすることができる。また、1、4−シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールAエチレンオキシド付加物のような脂環族ジオールおよび芳香族ジオール成分が共重合ポリエステルの全ジオール成分を基準として60モル%を超えないように有せしめることにより、ガラス転移点がかかる範囲の上限を超えないようにすることができる。
【0048】
一方、共重合ポリエステルのガラス転移点の下限については、1、4−ブタンジオール、ジエチレングリコール、1、6−ヘキサンジオール、ポリ(エチレンオキシド)グリコール、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコールのような長鎖の脂肪族ジオール成分が共重合ポリエステルの全ジオール成分を基準として60モル%を超えないように有せしめることにより、ガラス転移点がかかる範囲の下限を下回らないようにすることができる。
【0049】
本発明は塗布層をフィルム上に形成するにあたり、水または多少の有機溶剤を含有させた水溶液に塗布層組成物を溶解または分散させて塗布するため、塗布層を構成する共重合ポリエステルは、水または多少の有機溶剤を含有させた水系溶液に可溶または分散性のポリエステルであることが好ましい。水分散性を高めるためにはスルホン酸塩のような電離度の高い官能基を持つ共重合成分、ポリアルキルエーテルのような親水性の高い共重合成分、などが含まれていることが好ましい。
【0050】
(ポリビニルアルコール)
本発明のポリビニルアルコールとして、ケン化度が80〜90mol%のポリビニルアルコールを用いる。かかるポリビニルアルコールとして、ビニルアルコール−酢酸ビニル共重合体、ビニルアルコール−ビニルブチラール共重合体、エチレン−ビニルアルコール共重合体が例示され、これらの中でもビニルアルコール−酢酸ビニル共重合体、エチレン−ビニルアルコール共重合体が好ましい。通常、ビニルアルコールの共重合比率がケン化度で表わされる。
【0051】
本発明のポリビニルアルコールはケン化度がかなり高いことを特徴としており、かかるケン化度の範囲のポリビニルアルコールを用いることにより、ポリビニルアルコールフィルムからなる偏光子との強固な接着性が発現する。
ケン化度が80mol%未満であると吸収性偏光フィルムとの接着性が低下し、90mol%を超えると易接着層の耐湿性が低下する。
【0052】
ポリビニルアルコールの含有量は、バインダー成分の重量を基準として20〜60重量%である。ポリビニルアルコールの含有量は好ましくは20〜50重量%である。ポリビニルアルコールの含有量が下限に満たないと偏光子との接着性が低下する。またポリビニルアルコールの含有量が上限を超えるとポリエステルフィルムとの密着性が十分でない。
【0053】
(アクリル樹脂)
また、本発明の塗布層を構成する高分子バインダー成分として、上記の共重合ポリエステルおよびポリビニルアルコールに加え、さらにオキサゾリン基およびポリアルキレンオキシド鎖を有するアクリル樹脂を含有することが好ましい。ポリビニルアルコール成分は経時的にもろくなりやすいため、偏光子との接着性が高まるものの塗布層強度は経時的に低下することがある。そのため、さらにオキサゾリン基を有するアクリル樹脂を含有することにより、該樹脂が自己架橋してネットワーク構造を形成し、塗布層強度を経時的に維持することができる。後述するような架橋剤を用いることでも塗布層強度を向上させることができるが、多くの場合ポリビニルアルコール成分のOH基と反応することで架橋するものであるため、接着性が劣ることがある。
【0054】
オキサゾリン基およびポリアルキレンオキシド鎖を有するアクリル樹脂の含有量は、高分子バインダー成分の重量を基準として0重量%以上20重量%以下であることが好ましく、さらに好ましくは10重量%以上20重量%以下である。該アクリル樹脂の含有量が下限値に満たないと塗布層強度が経時的に低下することがある。一方、該アクリル樹脂の含有量が上限値を超えると相対的に、共重合ポリエステル成分やポリビニルアルコール成分の比率が小さくなるため、接着性などが劣ることがある。
【0055】
オキサゾリン基およびポリアルキレンオキシド鎖を有するアクリル樹脂は、水または少量の有機溶剤を含む水系に可溶性または分散性のアクリルが好ましい。
具体的にはオキサゾリン基を有するモノマー成分、ポリアルキレンオキシド鎖を有するモノマー成分、およびその他の共重合モノマー成分を含む共重合体である。
【0056】
オキサゾリン基を有するモノマーとして、2−ビニル−2−オキサゾリン、2−ビニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−ビニル−5−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−5−メチル−2−オキサゾリンが挙げられ、これらの1種または2種以上の混合物を使用することができる。これらの中でも、2−イソプロペニル−2−オキサゾリンが工業的に入手しやすく好適である。オキサゾリン基を有するアクリル樹脂を用いることにより、塗布層強度が向上し、さらに塗布層の耐久性を高めることができる。
オキサゾリン基を有するモノマー成分は、アクリル樹脂の繰り返し単位を基準として、5モル%以上80モル%以下であることが好ましく、10モル%以上50モル%以下であることがさらに好ましい。
【0057】
ポリアルキレンオキシド鎖を有するモノマーとして、アクリル酸、メタクリル酸のエステル部にポリアルキレンオキシドを付加させたものを挙げることができる。ポリアルキレンオキシド鎖はポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリブチレンオキシド等を挙げることができる。ポリアルキレンオキシド鎖の繰り返し単位は3〜100であることが好ましい。
ポリアルキレンオキシド鎖を有するアクリル樹脂を用いることで、塗布層中のポリエステル樹脂とアクリル樹脂との相溶性がポリアルキレンオキシド鎖を含有しないアクリル樹脂に比べて良くなり、塗布層の透明性を向上させることができる。
ポリアルキレンオキシド鎖の繰り返し単位が3より少ないとポリエステル樹脂とアクリル樹脂との相溶性が低下し、塗布層の透明性が低下することがある。またポリアルキレンオキシド鎖の繰り返し単位が100より大きいと塗布層の耐湿熱性が下がり、高湿度、高温下で塗布層の耐久性が低下することがある。
【0058】
アクリル樹脂を構成するその他の共重合成分として、アルキルアクリレート、アルキルメタクリレート;2−ヒドロキシアルキルアクリレート、2−ヒドロキシアルキルメタクリレート等のヒドロキシル基含有モノマー;グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、アリルグリシジルエーテル等のエポキシ基含有モノマー;アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマール酸、クロトン酸、スチレンスルホン酸及びその塩などのカルボキシル基またはその塩を有するモノマー;アクリルアミド、メタクリルアミド、N−アルキルアクリルアミド、N−アルキルメタクリルアミド、N,N−ジアルキルアクリルアミド、N,N−ジアルキルメタクリルアミド、N−アルコキシアクリルアミド、N−アルコキシメタクリルアミド、N,N−ジアルコキシアクリルアミド、N,N−ジアルコキシメタクリルアミド、アクリロイルモルホリン、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド、N−フェニルアクリルアミド、N−フェニルメタクリルアミド等のアミド基を有するモノマー;無水マレイン酸、無水イタコン酸等の酸無水物のモノマー;ビニルイソシアネート、アリルイソシアネート、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル、ビニルトリアルコキシシラン、アルキルマレイン酸モノエステル、アルキルフマール酸モノエステル、アルキルイタコン酸モノエステル、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、塩化ビニリデン、エチレン、プロピレン、塩化ビニル、酢酸ビニル、ブタジエンが挙げられる。
これらの共重合成分のうち、アルキル基として、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、2−エチルヘキシル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。また、アルコキシ基として、メトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基等が挙げられる。
【0059】
(粒子)
塗布層中にはフィルムの滑り性を付与する目的で、塗布層の重量を基準として粒子を3〜25重量部含有することが好ましい。粒子の含有量は5〜20重量部であることがさらに好ましい。粒子の含有量が下限値に満たないとフィルムの滑性、すなわち搬送性が不足することがあり、一方、上限を超える場合はフィルムのヘーズ値が低下し、ディスプレイ用途に使用できなくなることがある。
【0060】
かかる粒子として、例えば炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化カルシウム、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化ケイ素、ケイ酸ソーダ、水酸化アルミニウム、酸化鉄、酸化ジルコニウム、硫酸バリウム、酸化チタン、酸化錫、三酸化アンチモン、カーボンブラック、二硫化モリブデン等の無機微粒子、アクリル系架橋重合体、スチレン系架橋重合体、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、フェノール樹脂、ナイロン樹脂等の有機微粒子を挙げることができる。これらのうち、水不溶性の固体物質は、水分散液中で沈降するのを避けるため、比重が3を超えない粒子を選ぶことが好ましい。また粒子の平均粒径は20〜80nmであることが好ましい。
【0061】
(架橋剤)
塗布層中には塗布層の重量を基準として下記式(I)で表わされる架橋剤を5〜20重量部さらに含有することが好ましい。
【0062】
【化1】

【0063】
かかる化合物を架橋剤として用いることにより、塗布層とポリビニルアルコールフィルムからなる偏光子との接着性をさらに強固なものとすることが可能である。しかしながら架橋剤が上限値を超えると耐ブロッキング性の低下、ポリエステルフィルムとの接着性が低下することがある。
【0064】
偏光子との接着性およびフィルムの巻き取り性を確保する目的で、共重合ポリエステル、ポリビニルアルコール、粒子および架橋剤を含む塗布層、または共重合ポリエステル、ポリビニルアルコール、オキサゾリン基等を有するアクリル樹脂、粒子および架橋剤を含む塗布層などの態様が例示される。
【0065】
(塗布層の表面エネルギー)
塗布層表面の表面エネルギーは、好ましくは50〜65dyne/cm、さらに好ましくは52〜60dyne/cmである。表面エネルギーが下限値に満たないと、親水性である偏光子との接着性が十分でないことがある。一方、表面エネルギーが上限値を超えるとポリエステルフィルムとの密着性が不足したり、塗膜の耐湿性が不足することがある。
該表面エネルギーは、上述の成分からなる塗布層を、例えば0.01〜1μmの厚さで積層することにより得ることができる。塗布層の厚さは好ましくは0.01〜0.3μm、さらに好ましくは0.02〜0.25μmの範囲である。塗布層の厚さが薄過ぎると接着力が不足することがあり、逆に厚過ぎるとブロッキングを起こしたり、ヘーズ値が高くなったりする可能性がある。
【0066】
(塗布層の表面粗さ)
塗布層の表面中心線平均粗さ(Ra)は、10nm〜250nmの範囲にあることが、フィルムの耐ブロッキング性や搬送性が良好となるため好ましい。
【0067】
(塗布層の形成方法)
塗布層の塗設に用いられる上記組成物は、塗布層(以下『塗膜』いうことがある)を形成させるために、水溶液、水分散液或いは乳化液等の水性塗液の形態で使用されることが好ましい。塗膜を形成するために、必要に応じて、前記組成物以外の他の成分、例えば帯電防止剤、着色剤、界面活性剤、紫外線吸収剤等を添加することができる。
【0068】
本発明に用いる水性塗液の固形分濃度は、通常20重量%以下であるが、特に1〜10重量%であることが好ましい。この割合が下限値に満たないとポリエステルフィルムへの塗れ性が不足することがあり、一方、上限値を超えると塗液の安定性や塗布層の外観が悪化することがある。
【0069】
水性塗液のポリエステルフィルムへの塗布は任意の段階で実施することができるが、ポリエステルフィルムの製造過程で実施するのが好ましく、更には配向結晶化が完了する前のポリエステルフィルムに塗布するのが好ましい。
ここで、結晶配向が完了する前のポリエステルフィルムとは、後述する未延伸フィルム、未延伸フィルムを縦方向または横方向の何れか一方に配向せしめた一軸配向フィルム、更には縦方向および横方向の二方向に低倍率延伸配向せしめたもの(最終的に縦方向また横方向に再延伸せしめて配向結晶化を完了せしめる前の二軸延伸フィルムをいう)等を含むものである。
なかでも、未延伸フィルムまたは一方向に配向せしめた一軸延伸フィルムに、上記組成物の水性塗液を塗布し、そのまま縦延伸および/または横延伸と熱固定とを施すのが好ましい。
【0070】
水性塗液をフィルムに塗布する際には、塗布性を向上させるための予備処理としてフィルム表面にコロナ表面処理、火炎処理、プラズマ処理等の物理処理を施すか、あるいは組成物と共にこれと化学的に不活性な界面活性剤を併用することが好ましい。
【0071】
かかる界面活性剤は、ポリエステルフィルムへの水性塗液の濡れを促進するものであり、例えば、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン−脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、脂肪酸金属石鹸、アルキル硫酸塩、アルキルスルホン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩等のアニオン型、ノニオン型界面活性剤を挙げることができる。界面活性剤は、塗膜を形成する組成物中に、1〜10重量%含まれていることが好ましい。
【0072】
塗布方法としては、公知の任意の塗工法が適用できる。例えばロールコート法、グラビアコート法、ロールブラッシュ法、スプレーコート法、エアーナイフコート法、含浸法、カーテンコート法等を単独または組合せて用いることができる。尚、塗膜は、必要に応じ、フィルムの片面のみに形成してもよいし、両面に形成してもよい。
【0073】
(フィルム厚み)
本発明の一軸配向芳香族ポリエステルフィルムのフィルム厚みは、10μm以上250μm以下の範囲が好ましく、さらに好ましくは20μm以上100μm以下である。フィルム厚みが下限に満たない場合、偏光子支持基材として用いた場合に支持基材として十分な機能が発現しないことがある。また液晶ディスプレイのディスプレイ厚みを低減するため、使用される部材は機能を発現する範囲内でより薄さが求められており、フィルム厚みの上限値はかかる範囲であることが好ましい。
【0074】
<フィルムの製造方法>
(溶融押出キャスティング)
本発明の一軸配向フィルムは、芳香族ポリエステル樹脂組成物を溶融押出キャスティングにより製膜した後、少なくとも一方向に延伸して得られる。なお塗布層の形成時期、形成方法は上述の塗布層の形成方法に従う。
【0075】
溶融押出には従来公知の手法を用いることができる。具体的には、乾燥した前述の芳香族ポリエステル樹脂組成物ペレットを押出機に供給し、Tダイなどのスリットダイより溶融樹脂を押出す方法や、樹脂ペレットを供給した押出機にベント装置をセットし、溶融押出時に水分や発生する各種気体成分を排出しながら、同じくTダイなどのスリットダイより溶融樹脂を押出す方法が挙げられる。
【0076】
スリットダイより押出された溶融樹脂は、キャストされ冷却固化させる。冷却固化の方法は、従来公知のいずれの方法をとっても良いが、回転する冷却用ロール上に溶融樹脂をキャストし、シート化する方法が例示される。
【0077】
冷却用ロールの表面温度は、樹脂組成物のガラス転移点(Tg)に対して、(Tg−100)℃〜(Tg+20)℃の範囲に設定するのが好ましい。また冷却用ロールの表面温度は、樹脂組成物のガラス転移点(Tg)に対して、(Tg−70)℃〜(Tg−5)℃の範囲に設定するのがさらに好ましい。冷却ロールの表面温度が上限を超える場合、溶融樹脂が固化する前に該ロールに粘着することがある。また冷却ロールの表面温度が下限に満たない場合、固化が速すぎて該ロール表面を滑ってしまい、得られるシートの平面性が損なわれることがある。
【0078】
冷却ロールへのキャスティングの際に、溶融樹脂が冷却ロール上へ着地する位置近傍に金属ワイヤーを張り、電流を流すことで静電場を発生させ樹脂を帯電させて、冷却ロールの金属表面上への密着性を高めることもフィルムの平面性を高める観点から有効である。その際、樹脂組成物中に、本発明の趣旨を超えない範囲で電解質性物質を添加してもよい。
【0079】
(延伸)
溶融押出キャスティングにより得られたシート状物は、少なくとも一方向に延伸することにより、フィルムの光学特性および機械特性を本発明の目的と合致させることができる。
かかる延伸の方法は、従来公知の方法を用いることができ、例えば縦方向に延伸する場合は、2個以上のロールの周速差を用いて延伸する方法や、オーブン中で延伸する方法が挙げられる。
【0080】
ロールを用いる延伸方法において、シート状物(未延伸フィルム)の加熱方法は、熱媒を通したロールで誘導加熱する方法、赤外加熱ヒーターなどで外部から加熱する方法が例示され、一つないし複数の方法をとってよい。またオーブン中で延伸する方法において、シート状物(未延伸フィルム)の加熱方法は、フィルム両端をクリップなどにより把持するテンター式オーブンにてクリップ間隔を延伸倍率にしたがって広げる方法、オーブン中にロール系を設置しフィルムをパスさせて延伸する方法、オーブン内で幅方向をまったくフリーにして入側と出側の速度差のみで延伸する方法が例示され、一つないし複数の方法をとってよい。
【0081】
また、横方向に延伸する場合は、クリップなどにより端部を把持する方式のテンターオーブン中で入側と出側のクリップ搬送レール間隔に差をつけて延伸する方法が挙げられる。さらに、縦、横の二方向に延伸する場合は、縦、横両方向を逐次に延伸する方法が好ましい。後述の延伸張力を満たす範囲であれば同時に縦、横方向に延伸する方法で延伸してもよい。
【0082】
(延伸温度)
本発明におけるフィルム延伸温度(Td)は、Tg〜(Tg+40℃)の温度とするのが好ましい。フィルムの延伸温度がTg(ポリエスエルのガラス転移点温度)に満たない場合は、延伸自体が困難であり、一方延伸温度が(Tg+40℃)を超える場合は、延伸に要する応力が極端に低くなってしまうため、分子鎖の配向が不足し、上述したような諸特性を確保できなくなってしまうことがある。延伸温度のより好ましい範囲は、Tg〜(Tg+20℃)である。
【0083】
(延伸倍率)
延伸を行うに際し、下記式(4)で表わされるフィルムTD方向およびフィルムMD方向の延伸倍率比は、3.0を超え7.0以下であることが必要である。
フィルム延伸倍率比=RTD/RMD ・・・(4)
かかる延伸倍率比は、好ましくは3.2以上5.5以下であり、さらに好ましくは3.2以上4.5以下である。
【0084】
TD方向の配向度、遅相軸角度αおよび遅相軸角度のばらつきβを良好なものとするために、かかる範囲の延伸倍率比で延伸を行うことが必要である。延伸倍率比が下限に満たない場合は、これらの特性を十分なものとすることができない。一方、延伸倍率比が上限を超える場合は、縦方向(MD方向)の強度が低下して破断が生じる。
【0085】
延伸を行うに際し、かかる延伸倍率比の範囲で、かつフィルムMD方向の延伸倍率(RMD)は、0.7倍以上2.0倍以下の範囲であることが必要である。
またフィルムMD方向の延伸倍率(RMD)は、好ましくは0.95倍以上1.75倍以下の範囲であり、さらに好ましくは1.0倍以上1.5倍以下の範囲である。
【0086】
本発明の一軸配向フィルムを得るための製膜方法は、一軸延伸または二軸延伸によるものの他、縦方向を収縮させる製膜方法も包含しており、RMDが1未満の場合は縦方向を収縮させる製膜方法であることを意味する。
MDが下限値に満たない場合、すなわち極端な収縮は、フィルムの平面性や均一性を損なうばかりか、この場合も延伸倍率の低い方向に極端に脆くなる。またRMDが上限値を超える場合は、ボーイング現象が過大となり、TD方向の配向度、遅相軸角度αおよび遅相軸角度のばらつきβを本発明に規定した範囲とすることができない。
フィルムTD方向の延伸倍率RTDは、上述の延伸倍率比とフィルムMD方向の延伸倍率との関係より導かれるが、3.0倍以上6.0倍以下であることが好ましい。
【0087】
(延伸速度)
MD方向の延伸速度は5〜500000%/分であることが好ましい。一方、本発明において、TD方向の延伸速度は、TD方向の配向度、遅相軸角度αおよび遅相軸角度のばらつきβを本発明に規定した範囲とするために、従来よりも早い速度で行うことが必要であり、300%/分以上で行うことが好ましく、より好ましくは500%/分以上、さらに好ましくは700%/分以上、さらに好ましくは1200%/分以上で行われる。上限は装置の種類によるが高々500000%/分である。
【0088】
(延伸張力)
また、TD方向の配向度、遅相軸角度αおよび遅相軸角度のばらつきβを本発明に規定した範囲とするために、延伸工程においてMD方向の張力を適度に高くすることが必要である。適度に高いMD方向の張力を得るためには、フィルム製造工程の上流のフィルム搬送速度より、下流のフィルム搬送速度を高くすることが有効である。具体的には、MD方向、TD方向の順に逐次二軸延伸を行う場合には、MD方向延伸工程の最下流の搬送速度(搬送ロール回転速度)を、TD方向延伸の搬送速度(フィルム把持クリップ移動速度)の0.995〜0.998とする。なお、TD方向に一軸延伸を行う場合は、TD方向の延伸を行う前の搬送速度をTD方向延伸の搬送速度(フィルム把持クリップ移動速度)の0.995〜0.998とする。
また、TD方向延伸終了後のフィルム引取の搬送速度(搬送ロール回転速度)を、TD方向延伸の搬送速度の1.003〜1.010とする。
【0089】
(熱固定温度)
かかる延伸方法によって得られたフィルムに、さらに該ポリエステルのガラス転移点以上、(融点−15℃)以下の範囲で熱固定処理を行う。また熱固定温度は、180℃以上240℃以下の範囲であることが好ましい。
かかる熱固定処理を行うことによって、本発明のTD方向の配向度、遅相軸角度αおよび遅相軸角度のばらつきβ、結晶サイズおよび熱収縮率特性を得ることができる。
【0090】
(フィルムの後加工)
延伸したフィルムは、他部材との貼合時の接着性向上などの必要に応じて、表面活性化処理(コーティング、コロナ放電、プラズマ処理など)などの後加工を施しても良い。この後加工は、フィルム延伸工程中に行ってもよく、また別工程で行ってもよい。
【0091】
<偏光子支持基材>
本発明の一軸配向ポリエステルフィルムは、フィルムTD方向に高い配向度を有し、かつフィルム両端部においても遅相軸角度αおよび遅相軸角度のばらつきβが小さいため、偏光子支持基材として有用である。
【0092】
<偏光板>
本発明の偏光子支持基材用フィルムを偏光子の支持基材として用い、偏光子と複合化させることで偏光板を製造することができる。本発明のフィルムを偏光子の支持基材として用いることにより、偏光子との密着性を高め、偏光子の耐久性を高めつつ、液晶ディスプレイの色シフトおよび色斑を防止することができる。
【0093】
偏光子との複合化の方法については特に限定されるものでなく、二色性分子をマトリックス中に一軸配向させたフィルム状偏光子との貼合せが例示される。二色性分子は特に限定されないが、一般的にポリヨウ素イオンが用いられる。またフィルム状偏光子素材として、多くの場合はポリビニルアルコールフィルムが用いられる。
偏光子との複合化の方法について、偏光子フィルムと積層させる方法以外に塗布方法を用いてもよい。塗布タイプにおいては、液晶分子をコーティング剪断力により配向させたり、塗布した反応性液晶分子を偏光などの照射により配向固化させる方法などを例示することができる。
【0094】
かかる偏光板は、さらに具体的には、偏光子と本発明の一軸配向芳香族ポリエステルフィルムとが、偏光子の透過軸方向と本発明のフィルムのフィルムTD方向とが平行になるように複合化させることによって得ることができ、その場合に本フィルムによる直線偏光への影響、すなわち偏光状態の変化を小さくすることが可能となる。
また得られた偏光板は、液晶ディスプレイの色シフトおよび色斑を防止することができる光軸の安定性を確保することができ、ディスプレイに組み込んだ場合に表示画像品位の画面内のばらつきが少ない、より高性能の表示画像品位が発現する。
【0095】
また偏光子との貼合せにおいて、偏光子の両側に貼り合せる支持基板のうち、一方のみに本発明のフィルムを用いてもよく、両方に用いてもよい。
偏光子と本発明のフィルムとの複合化に際し、易接着層を介して偏光子と本発明のフィルムとを直接積層させることが好ましいが、偏光子と接着層とを積層し、さらに該接着層と本発明の易接着層とを貼り合せてもよい。
【実施例】
【0096】
以下、実施例により本発明を詳述するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、各特性値は以下の方法で測定した。また、実施例中の部および%は、特に断らない限り、それぞれ重量部および重量%を意味する。
【0097】
(1)塗布層の組成および含有量
H−NMR測定より組成および各成分量を特定した。
【0098】
(2)ガラス転移点(ガラス転移温度)
共重合ポリエステル試料を20mgサンプリングし、アルミニウムパンに充填したものをDSC装置(DuPont Instrument 910 DSC)にセットし、20℃/分の速度で室温から昇温した。空のアルミニウムパンを対照として熱量変化を記録し、ガラス転移温度(℃)を読み取った。不明瞭な場合は、DSC熱量変化曲線の2次微分曲線のピークをガラス転移温度とした。
【0099】
(3)結晶配向度
X線回折装置(理学電機製ROTAFLEX RINT2500HL)および極点試料台(理学電機製多目的試料台)を用いた広角X線回折極点測定により、フィルムの結晶面(−105)の法線ベクトルのTD方向における方向余弦の積分平均値、<cosΦTD,−105>、を求め、次式(5)より結晶配向度fcTD(−105)を求めた。
fcTD(−105)=2/3<cosΦTD,−105>−1/2 ・・・(5)
【0100】
(4)遅相軸角度α
得られたフィルムの最端部から、0.5°の精度でMDおよびTDに平行な、60mm四方の正方形のサンプルを切り出した。該サンプルを、エリプソメーター(日本分光製 装置名 M−220)の複屈折測定用サンプルステージに、0.5°の精度で取り付けた後、自動測定にて550nm入射光に対して最大の位相差を示すサンプルステージ回転移動角度を計測し、遅相軸角度(°)を求めた。TD方向を0°とし、反時計回りに正の値をとるようにした。
両端部にてフィルム製膜方向に100mmおきの5点、合計10点のサンプリングを行い、それらの測定値の絶対値の平均にて評価した。
【0101】
(5)遅相軸角度のばらつきβ
(4)の方法に従って得られた10点の測定結果の標準偏差を求め、この値を3倍してβとした。
【0102】
(6)面内位相差
得られたフィルムの両最端部、中央部、それらの中間位置、の幅方向5点、それら幅方向5箇所の位置について、フィルム製膜方向に100mmおきに5点ずつ、合計25枚のサンプルを切り出し、(4)と同様の測定方法で計測されたサンプルごとの最大位相差をもとに、全サンプルの平均値を求め、フィルムの面内位相差(nm)とした。
また、上記n=25測定におけるサンプルごとの最大位相差の最大値と最小値の差をもって、面内位相差のばらつきとした。
【0103】
(7)結晶サイズ
粉末X線回折装置(理学電機RINT2500HL)を用いて、以下の条件にて測定した。X線源としてCuK−αをもちいて、発散スリット1/2°、散乱スリット1/2°、受光スリット0.15mm、スキャンスピード1.000°/分の条件で2θ角度10°から80°まで測定し、Pseudo Voightピークモデルを用いた多重ピーク分離法により、結晶面由来の回折ピーク、アモルファス由来のハロー、バックグラウンドを分離する。結晶面由来の回折ピークの内、結晶(100)面に相当する回折ピークの半値幅から、下記Scherrerの式(6)を用いて、結晶サイズχc(100)(nm)を算出した。
χc(100)=(0.9λ)/(Hcosθ) ・・・(6)
ここで、λはX線の波長(nm)、Hは回折ピークの半値幅(°)、θはブラッグ角(°)である。
【0104】
(8)フィルムのヘーズ値
得られたフィルムを、ヘーズメーター(日本精密光学(株)製、POICヘーズメーター SEP−HS−D1)内にセットし、JISK7105に準拠してヘーズ値(%)を測定した。
【0105】
(9)フィルムの熱収縮率
温度120℃に設定されたオーブン中に、フィルムの縦方向および横方向がマーキングされ、あらかじめ正確な長さを測定した長さ30cm四方のフィルムを無荷重で入れ、30分間保持処理した後取り出し、室温に戻してからその寸法の変化を読み取る。熱処理前の長さ(L)と熱処理による寸法変化量(ΔL)より、下記式(7)からMD方向およびTD方向の熱収縮率(%)をそれぞれ求めた。
熱収縮率=(ΔL/L)×100 ・・・(7)
【0106】
(10)表面エネルギー
W.A.Zisman:“Contact Augle, Wettability and Adhesion”,Am.Chem.Soc.,(1964)に従い、得られたフィルムを測定して求められた臨界表面張力γcをもって、表面エネルギーとした。
【0107】
(11)摩擦係数(μs)
JIS−K7125に従い、塗布層面の静摩擦係数(μs)を測定した。測定は5回行い、平均値を結果とした。
【0108】
(12)接着性評価
(i)PVAフィルム
得られたフィルムの塗膜形成面に市販のポリビニルアルコールフィルムを貼り合せ、碁盤目のクロスカット(1mmのマス目を100個)を施し、その上に24mm幅の「セロハンテープ」(商標名、ニチバン社製)を貼り付け、180°の剥離角度で急激に剥がした後、剥離面を観察し、下記の基準で評価した。
5:剥離面積が10%未満 ……接着力極めて良好
4:剥離面積が10%以上20%未満 ……接着力良好
3:剥離面積が20%以上30%未満 ……接着力やや良好
2:剥離面積が30%以上40%未満 ……接着力不良
1:剥離面積が40%を超えるもの ……接着力極めて不良
【0109】
(13)耐ブロッキング性
2枚のフィルムを、塗膜形成面と非形成面が接するように重ね合せ、これに、60℃、80%RHの雰囲気下で17時間にわたって0.6kg/cmの圧力をかけ、その後、剥離して、その剥離力により耐ブロッキング性を下記の基準で評価した。
○:98mN/5cm≦剥離力<147mN/5cm ・・・耐ブロッキング性良好
△:147mN/5cm≦剥離力<196mN/5cm・・耐ブロッキング性やや良好
×:196mN/5cm≦剥離力 ・・・耐ブロッキング性不良
【0110】
(14)画像品位評価
(偏光板の作製)
実施例および比較例で得られたフィルム(A)、ポリビニルアルコール偏光膜および市販のTACフィルム(富士写真フィルム製、フジタック、厚み80μm)(R)をこの順で貼合せて偏光板を作製し、その耐久性を評価した。
ポリビニルアルコール偏光膜は、厚さ120μmのポリビニルアルコールフィルムをヨウ素1部、ヨウ化カリウム2部、ホウ酸4部を含む水溶液に浸漬し、50℃で4倍に延伸することにより得た。
また、この偏光膜に上述の2種のフィルムを貼合せて偏光板を得る手順は、下記のとおりである。
(i)40cm×30cmの長方形の形状に切り取った、上述のフィルム(A)およびフィルム(R)のそれぞれの片側の表面に、コロナ放電処理(処理電力=800W(200V、4A)、電極〜フィルム間距離=1mm、処理速度=12m/分)を施す。ここで、フィルム(A)はフィルム両端部のうちの少なくとも一方の端部を含むよう切り出した。
(ii)フィルム(A)およびフィルム(R)と同じサイズに調整した偏光膜(偏光子)を固形分2質量%のポリビニルアルコール接着剤槽中に1〜2秒間浸漬する。
(iii)偏光膜(偏光子)に付着した過剰の接着剤を軽く取り除き、偏光子を、フィルム(A)およびフィルム(R)が挟みこむ状態となるよう、フィルム(A)のコロナ処理面上にのせ、更にフィルム(R)のコロナ処理面と接着剤とが接する様に積層し配置する。その際、フィルム(A)のMD方向と偏光子の延伸方向が直交するよう、すなわちフィルム(A)のTD方向と偏光子の延伸方向が平行になるように配置する。
(iv)ハンドローラで、フィルム(A)、偏光膜、およびフィルム(R)からなる積層体の端部から過剰の接着剤および気泡を取り除き貼合せる。ハンドローラは、20〜30N/cmの圧力をかけて、ローラスピードは約2m/分とした。
(v)80℃の乾燥器中に得られた試料を2分間放置し、偏光板(PF)を作製した。
【0111】
次いで、偏光板(PF)を液晶セルの片面に、液晶セルの近接する基板面のラビング軸方向と偏光板透過軸が直交し、偏光板のフィルム(PF)と液晶セルとが接するように貼合し、液晶セルの反対側の面には、市販の偏光板をその吸収軸が偏光板(PF)の吸収軸と直交するように貼合し、液晶表示装置を作製した。液晶セルは、市販のLCDモニターのものを、バックライト側に貼合されていた偏光板を剥がして使用した。
得られた液晶表示装置と、バックライト側の偏光板を交換していない同機種のLCDモニターに、同時にR,G,Bの3原色と白色(W)をそれぞれモニター全面に表示したものを、目視観察、および、ELDIM社製EZ−contrastにより計測し得られた色差ΔEから、下記の基準にて評価した。
○: 比較モニター対比、R,G,B,WのいずれにおいてもΔE<0.5、かつ色斑がほとんど確認できない
×: 比較モニター対比、R,G,B,Wのいずれかにおいて0.5≦ΔE≦1.0、または、わずかな色斑が観察される
××: 比較モニター対比、R,G,B,Wのいずれかにおいて0.5≦ΔE≦1.0、および/または、顕著な色斑が観察される
【0112】
(15)長期耐久性
サンプルフィルムを湿度95%、温度65℃環境中に1000時間放置し、平面状に放置した際のサンプルフィルム処理前後の偏光度変化から、下記に従って評価した。
○: 処理後の偏光度が処理前の95%以上
×: 処理後の偏光度が処理前の95%未満
【0113】
[実施例1]
ポリエチレンテレフタレート(PET)99.93重量%に平均粒径0.15μmのシリカ粒子 0.07重量%を混合したもののペレット(帝人ファイバー(株)製、固有粘度(o−クロロフェノール、25℃)=0.6dl/g)を170℃で3時間乾燥後、一軸混練押出機に供給し、溶融温度285℃で溶融後、フィルターで濾過し、ダイから押出した。
この溶融物を、表面温度25℃の回転冷却ドラム上に押出し、厚み320μmの未延伸フィルムを得た。
得られた未延伸フィルムの両面に、表3に示す塗剤の濃度8%水性塗液をロールコーターで均一に塗布した。塗剤を構成する塗布層用組成物は表1に示すとおりである。また表1中、共重合ポリエステルの具体的組成は表2に示すとおりである。
【0114】
塗布後の未延伸フィルムを、テンター直前の搬送ロールの回転速度がテンターのフィルム把持クリップ移動速度の0.996となるようにテンターに供給し、85℃にて横方向に750%/分の延伸速度で4.0倍に延伸し、引き続きテンター内で定幅を保ったまま、200℃にて1分間の熱処理を施した。テンターから出てきたフィルムを、フィルム把持クリップ移動速度の1.008倍の速度の搬送ロールにて引き取り、さらにフィルムの両端から5%の位置でスリットしてテンタークリップ把持部を取り除き、一定幅の80μm厚みの延伸フィルムを得た。得られたフィルムの特性を表3に示す。
【0115】
[実施例2〜12、比較例1〜10]
表3、4に示した組成、製造条件に変更する以外は、実施例1に準じてそれぞれ延伸フィルムを得た。
【0116】
【表1】

【0117】
PEs1〜8: 表2に示す共重合組成の共重合ポリエステル
PVA1: ケン化度86〜89mol%のポリビニルアルコール
PVA2: ケン化度74〜78mol%のポリビニルアルコール
PVA3: ケン化度92〜95mol%のポリビニルアルコール
Ac1: メチルメタクリレート30モル%/2−イソプロペニル−2−オキサゾリン30モル%/ポリエチレンオキシド(n=10)メタクリレート10モル%/アクリルアミド30モル%で構成されるアクリル樹脂(Tg=50℃)。
Ptcl1: 平均粒径40nmの架橋アクリル粒子
【0118】
CL1: 架橋剤として下記式(II)で表わされる化合物を用いた。
【化2】

【0119】
CL2: 架橋剤として下記式(III)で表わされる化合物を用いた。
【化3】

【0120】
SAA: 界面活性剤としてポリオキシエチレン(n=7)ラウリルエーテル(三洋化成株式会社製 商品名ナロアクティーN−70)を用いた。
【0121】
【表2】

【0122】
TA: テレフタル酸
IA: イソフタル酸
2,6−NDCA: 2,6ナフタレンジカルボン酸
IA−5−SO3Na: 5−ナトリウムスルホイソフタル酸
IA−5−SO3K: 5−カリウムスルホイソフタル酸
EG: エチレングリコール
DEG: ジエチレングリコール
BD: 1,4−ブタンジオール
NPG: ネオペンチルグリコール
【0123】
【表3】

【0124】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0125】
フィルム両端の部位についてもフィルム面内遅相軸とフィルムTD方向とのなす角度およびそのばらつきが小さく、液晶ディスプレイの色シフトおよび色斑を防止することができる高度な光軸の安定性を確保するとともに、さらに偏光子との接着性に優れ、偏光子の長期耐久化が可能な偏光子支持基材用フィルムを提供することができる。かかるフィルムを用いた偏光板により、低コストながら色シフトおよび色斑などの発生のない表示画像品位に優れた液晶ディスプレイ製品を提供でき、さらに大型化にも対応できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一軸配向芳香族ポリエステルフィルムにおいて、該芳香族ポリエステルのモノマーユニットの75モル%以上がエチレンテレフタレートであり、広角X線回折測定で得られるフィルムTD方向のPET結晶(−105)面の配向度、フィルム面内遅相軸とフィルムTD方向とのなす角度αおよびフィルム面内遅相軸とフィルムTD方向とのなす角度のばらつきβの関係が下記式(1)、(2)を満たしており、
fcTD(−105)≧0.35 ・・・(1)
(式(1)中、fcTD(−105)は、広角X線回折測定で得られるフィルムTD方向のPET結晶(−105)面の配向度を表わす)
0≦α+β≦15° ・・・(2)
(式(2)中、αはフィルム面内遅相軸とフィルムTD方向とのなす角度を表わし、エリプソメーターを用いてフィルム両端部についてMD方向に100mmおきに5点ずつ測定した10点の平均値で表わされ、βはフィルム面内遅相軸とフィルムTD方向とのなす角度のばらつきを表わし、エリプソメーターを用いてフィルム両端部についてMD方向に100mmおきに5点ずつ測定した10点の標準偏差値の3倍で表わされる)
該フィルムの少なくとも片面にガラス転移点20〜90℃の共重合ポリエステルをバインダー成分の重量を基準として40重量%以上80重量%以下およびケン化度80mol%以上90mol%以下のポリビニルアルコールをバインダー成分の重量を基準として20重量%以上60重量%以下含む塗布層が設けられていることを特徴とする偏光子支持基材用フィルム。
【請求項2】
塗布層中にさらにオキサゾリン基およびポリアルキレンオキシド鎖を有するアクリル樹脂をバインダー成分の重量を基準として10重量%以上20重量%以下含有してなる請求項1に記載の偏光子支持基材用フィルム。
【請求項3】
該ポリエステルフィルムの面内位相差が1000nm以上であり、かつそのばらつきが100nm以下である請求項1または2に記載の偏光子支持基材用フィルム。
【請求項4】
該ポリエステルフィルムのPET結晶(100)面の結晶サイズが下記式(3)を満足しており、
3.0nm≦χc(100)≦4.5nm ・・・(3)
(式(3)中、χc(100)は、広角X線回折測定で得られるフィルムのPET結晶(100)面の結晶サイズ[nm]を表わす)
かつフィルムのヘーズ値が7%以下である請求項1〜3のいずれかに記載の偏光子支持基材用フィルム。
【請求項5】
塗布層中の共重合ポリエステルが、スルホン酸塩基を有するジカルボン酸成分を全カルボン酸成分あたり1〜16モル%含有する共重合ポリエステルである請求項1〜4のいずれかに記載の偏光子支持基材用フィルム。
【請求項6】
塗布層表面の表面エネルギーが50〜65dyne/cmである請求項1〜5のいずれかに記載の偏光子支持基材用フィルム。
【請求項7】
120℃×30分の非拘束熱処理後のフィルム収縮率が、フィルムMD方向、フィルムTD方向のいずれにおいても5%以下である請求項1〜6のいずれかに記載の偏光子支持基材用フィルム。
【請求項8】
偏光子の支持基材として請求項1〜7のいずれかに記載の偏光子支持基材用フィルムを用いた偏光板。

【公開番号】特開2011−8170(P2011−8170A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−153769(P2009−153769)
【出願日】平成21年6月29日(2009.6.29)
【出願人】(301020226)帝人デュポンフィルム株式会社 (517)
【Fターム(参考)】