説明

偏光板、及びそれを用いた液晶表示装置

【課題】本発明は、長時間耐久処理や高温高湿などの耐久処理を行っても、偏光板の寸法安定性に優れ、コーナームラ(光漏れ)がなく、かつ湿度変動時の視野角安定性が高い偏光板等を提供する。
【解決手段】本発明の偏光板は2枚の透明支持体A、Bにより偏光子を挟持してなり、(i)透明支持体Aは非リン酸エステル系可塑剤を含有し、かつ実質的にリン酸エステル系可塑剤を含まない延伸セルロースエステルフィルムであり、(ii)透明支持体BはRoが0〜10nm、かつRtが−30〜20nmの範囲で、分子内に芳香環と親水性基を有しないエチレン性不飽和モノマーと分子内に芳香環を有せず親水性基を有するエチレン性不飽和モノマーとを共重合して得られたポリマーX、及び芳香環を有さないエチレン性不飽和モノマーを重合して得られたポリマーYの2種類からなるアクリル系ポリマーを含有する延伸セルロースエステルフィルムである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光板、及びそれを用いた液晶表示装置に関し、特に横電界スイッチングモード型液晶表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置の高性能・高品位化に伴い、偏光板に用いられる偏光板保護フィルムとして、様々な要求がなされている。
【0003】
現在一般に用いられている液晶表示装置の偏光板保護フィルムとしては、セルロースエステルを材料としたフィルムが用いられている。セルロースエステルフィルムは一般に平面性の確保等の観点から溶液流延製膜法がとられており、フィルム面内の屈折率に対して厚み方向の屈折率が低くなる傾向がある。
【0004】
特許文献1においてエチレン性ポリマーを添加することによって光学的異方性が低減されたセルロースエステルフィルムについて記載されているが、特にRtを低減したフィルムでは長時間耐久後に偏光子が劣化し易いことが分かった。
【0005】
また、偏光板は、液晶ディスプレーの表示性能(視野角、色味、階調)に強く影響するため、特に長時間使用時や高温高湿耐久後の寸法安定性や、レターデーションの安定性に優れていること、特に偏光子の吸収軸方向の寸法安定性や偏光子劣化が優れていることが要求される。
【0006】
長時間耐久処理後や高温高湿耐久後の偏光板の寸法変化が大きいと、偏光板と粘着剤、または粘着層を介して接着されている液晶セルとの間に応力が生じ、黒表示時に色が白く抜ける、いわゆるコーナームラと呼ばれる現象が発生する。
【0007】
特に、横電界スイッチングモード型(以降、IPS型という)液晶表示装置において、上記光学的異方性が低減されたセルロースエステルフィルムを有する偏光板を使用すると、長時間の使用または画面の輝度を調整すると、バックライトからの大量の発熱により、上記コーナームラと呼ばれる現象やコントラスト低下、カラーシフト等の視認性の変化があることが分かり早急な改善が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−12859号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、その目的は、長時間耐久処理や高温高湿という過酷な耐久処理を行っても、偏光板の寸法安定性に優れ、コーナームラ(光漏れ)がなく、かつ湿度変動時のレターデーション安定性が高いセルロースエステルフィルム、それを用いた視野角安定性が高い偏光板及びIPS、FFS等の、IPS型液晶表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の上記課題は以下の構成により達成される。
【0011】
(1)2枚の透明支持体A、Bにより、偏光子を挟持してなる偏光板において、(i)前記透明支持体Aは、非リン酸エステル系可塑剤を含有し、かつ実質的にリン酸エステル系可塑剤を含まない延伸セルロースエステルフィルム(a)であり、(ii)前記透明支持体Bは、下記式(I)により定義されるレターデーション値Roが0〜10nm、かつ下記式(II)により定義されるレターデーション値Rtが−30〜20nmの範囲で、分子内に芳香環と親水性基を有しないエチレン性不飽和モノマーと分子内に芳香環を有せず、親水性基を有するエチレン性不飽和モノマーとを共重合して得られた重量平均分子量5000以上30000以下のポリマーX、及び芳香環を有さないエチレン性不飽和モノマーを重合して得られた重量平均分子量500以上3000以下のポリマーYの2種類からなるアクリル系ポリマーを含有する延伸セルロースエステルフィルム(b)であることを特徴とする偏光板。
【0012】
式(I) Ro=(nx−ny)×d
式(II) Rt={(nx+ny)/2−nz}×d
(式中、nxは、フィルム面内の遅相軸方向の屈折率であり、nyは、フィルム面内の進相軸方向の屈折率であり、nzはフィルム厚み方向の屈折率であり、dはフィルムの厚さ(nm)である。)
(2)前記透明支持体Bが、前記式(I)により定義されるレターデーション値Roが0〜5nmであり、かつ前記式(II)により定義されるレターデーション値Rtが−10〜10nmの範囲にあることを特徴とする前記(1)項に記載の偏光板。
【0013】
3)前記透明支持体Aに含まれる非リン酸エステル系可塑剤が、多価カルボン酸エステル系可塑剤、グリコレート系可塑剤、フタル酸エステル系可塑剤、脂肪酸エステル系可塑剤、多価アルコールエステル系可塑剤、ポリエステル系可塑剤、及びポリマー系可塑剤から選択されることを特徴とする前記(1)または(2)項に記載の偏光板
【0014】
)前記透明支持体Aに含まれる可塑剤の少なくとも1種が、多価アルコールエステル系可塑剤であることを特徴とする前記(1)〜(3)項に記載の偏光板。
【0015】
(5)前記透明支持体Bが、多価アルコールエステル系可塑剤、ポリエステル系可塑剤、アクリルポリマー系可塑剤から選択される少なくとも1種を含有することを特徴とする前記(1)〜(4)項に記載の偏光板
【0016】
)前記透明支持体A、Bの膜厚が10〜70μmであることを特徴とする前記(1)〜(5)項に記載の偏光板。
【0017】
)前記(1)〜()項のいずれか1項に記載の偏光板を用いたことを特徴とする液晶表示装置。
【0018】
)横電界スイッチングモード型液晶表示装置であることを特徴とする前記()に記載の液晶表示装置。
【発明の効果】
【0019】
本発明により、長時間耐久処理や高温高湿という過酷な耐久処理を行っても、偏光板の寸法安定性に優れ、コーナームラ(光漏れ)がなく、かつ湿度変動時のレターデーション安定性が高いセルロースエステルフィルム、それを用いた視野角安定性が高い偏光板及びIPS、FFS等の、IPS型液晶表示装置を提供することが出来る。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明する。
【0021】
以下本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0022】
本発明の偏光板は、2枚の透明支持体A、Bにより、偏光子を挟持してなる偏光板において、(i)前記透明支持体Aは、非リン酸エステル系可塑剤を含有し、かつ実質的にリン酸エステル系可塑剤を含まない延伸セルロースエステルフィルム(a)であり、(ii)前記透明支持体Bは、下記式(I)により定義されるレターデーション値Roが0〜10nm、かつ下記式(II)により定義されるレターデーション値Rtが−30〜20nmの範囲で、分子内に芳香環と親水性基を有しないエチレン性不飽和モノマーと分子内に芳香環を有せず、親水性基を有するエチレン性不飽和モノマーとを共重合して得られた重量平均分子量5000以上30000以下のポリマーX、及び芳香環を有さないエチレン性不飽和モノマーを重合して得られた重量平均分子量500以上3000以下のポリマーYの2種類からなるアクリル系ポリマーを含有する延伸セルロースエステルフィルム(b)であることを特徴とする。(以下、本発明の透明支持体A、B、延伸セルロースエステルフィルム(a)、延伸セルロースエステルフィルム(b)を単にセルロースエステルフィルムという場合もある。)
式(I) Ro=(nx−ny)×d
式(II) Rt={(nx+ny)/2−nz}×d
(式中、nxは、フィルム面内の遅相軸方向の屈折率であり、nyは、フィルム面内の進相軸方向の屈折率であり、nzはフィルム厚み方向の屈折率であり、dはフィルムの厚さ(nm)である。)
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、偏光子を挟持する偏光板保護フィルムの一方が、非リン酸エステル系可塑剤を含有し、かつ実質的にリン酸エステル系可塑剤を含まない延伸セルロースエステルフィルムであり、もう一方が光学的異方性の低減された延伸セルロースエステルフィルムである時に、寸法安定性に優れ、コーナームラ(光漏れ)がなく、かつ湿度変動時のレターデーション安定性が高い偏光板が得られることを見出したものである。
【0023】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0024】
(透明支持体A)
本発明における透明支持体Aの基材は、セルロースエステルフィルムであり、Mw/Mnの値は、1.4〜3.0であるセルロースエステルフィルムを含有することが好ましい。セルロースエステルの合成過程で1.4未満とすることは困難であり、ゲル濾過などによって分画することで分子量の揃ったセルロースエステルを得ることは出来るが、コストが著しくかかるため好ましくない。また、3.0を超えると平面性の維持効果が低下するため好ましくない。尚、より好ましくは1.7〜2.2である。
【0025】
また、セルロースエステルの数平均分子量(Mn)が80000〜200000であることが好ましい。
【0026】
本発明の効果は、セルロースエステルの分子量が大きく、分子量の分布が少ないと、添加されている可塑剤や紫外線吸収剤が溶出しにくくなり発現するものと推測される。この効果は2軸延伸によってセルロースエステル分子が横方向に配向することで更に顕著になるものと推測している。セルロースエステルの総アシル基置換度が2.6〜3.0の範囲、特に2.7〜2.9の範囲にあることも、適度な割合で未置換の水酸基がセルロース主鎖に残っていることも水素結合等によって可塑剤や紫外線吸収剤の溶出を防止するのに寄与しているものと考えられる。使用する可塑剤は特に限定はされないが、その際に、従来、一般的に使用されているリン酸エステル系の可塑剤は実質的に含有しないことが必要である。実質的に含有しないとは、セルロースエステルフィルム中の固形分総量に対し、リン酸エステル系の可塑剤の含有量が1質量%未満であることを意味し、好ましくは0.1質量%未満であり、0質量%(検出限界以下)であることが好ましい。
【0027】
即ち、本発明のセルロースエステルフィルムは非リン酸エステル系の可塑剤を含有し、該可塑剤はクエン酸エステル系可塑剤、グリコレート系可塑剤、フタル酸エステル系可塑剤、脂肪酸エステル系可塑剤及び多価アルコールエステル系可塑剤、ポリエステル系可塑剤、アクリル系可塑剤から選択されることが好ましい。リン酸エステル系可塑剤を含有すると、それ自身が溶出し易いというだけでなく、他の可塑剤も溶出し易くなり、セルロースエステルから可塑剤が多く抜けてしまうことで偏光板保護フィルムとしての特性が劣化し易い。
【0028】
以下、更に本発明を詳細に説明する。
【0029】
本発明に用いられるセルロースエステルの分子量は、数平均分子量(Mn)で80000〜200000のものが好ましく用いられる。100000〜200000のものが更に好ましく、150000〜200000が特に好ましい。
【0030】
本発明に用いられるセルロースエステルは、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比、Mw/Mnが、前記のように1.4〜3.0であるが、好ましくは1.7〜2.2の範囲である。
【0031】
セルロースエステルの平均分子量及び分子量分布は、高速液体クロマトグラフィーを用いて公知の方法で測定することが出来る。これを用いて数平均分子量、重量平均分子量を算出し、その比(Mw/Mn)を計算することが出来る。
【0032】
測定条件は以下の通りである。
溶媒: メチレンクロライド
カラム: Shodex K806,K805,K803G(昭和電工(株)製を3本接続して使用した)
カラム温度:25℃
試料濃度: 0.1質量%
検出器: RI Model 504(GLサイエンス社製)
ポンプ: L6000(日立製作所(株)製)
流量: 1.0ml/min
校正曲線: 標準ポリスチレンSTK standard ポリスチレン(東ソー(株)製)Mw=1000000〜500迄の13サンプルによる校正曲線を使用した。13サンプルは、ほぼ等間隔に用いることが好ましい。
【0033】
本発明に用いられるセルロースエステルは、炭素数2〜22程度のカルボン酸エステルであり、特にセルロースの低級脂肪酸エステルであることが好ましい。セルロースの低級脂肪酸エステルにおける低級脂肪酸とは炭素原子数が6以下の脂肪酸を意味し、例えば、セルロースアセテート、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート、セルロースアセテートフタレート等や、特開平10−45804号、同8−231761号、米国特許第2,319,052号等に記載されているようなセルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート等の混合脂肪酸エステルを用いることが出来る。或いは、特開2002−179701、特開2002−265639、特開2002−265638に記載の芳香族カルボン酸とセルロースとのエステル、セルロースアシレートも好ましく用いられる。上記記載の中でもでも、特に好ましく用いられるセルロースの低級脂肪酸エステルは、セルローストリアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレートである。これらのセルロースエステルは混合して用いることも出来る。
【0034】
透明支持体Aに用いられるセルロースエステルは、総アシル基置換度2.6〜3.0のものが用いられる。後述する透明支持体Bに用いられるセルロースエステルは、総アシル基置換度2.8〜3.0のものが好ましく用いられるが、この点以外は透明支持体Aで用いられるセルロースエステルと同様の特性のものが用いられる。
【0035】
セルローストリアセテート以外で好ましいセルロースエステルは、炭素原子数2〜4のアシル基を置換基として有し、アセチル基の置換度をXとし、プロピオニル基、もしくはブチリル基の置換度をYとした時、下記式(a)及び(b)を同時に満たすセルロースエステルである。
【0036】
式(a) 2.6≦X+Y≦3.0
式(b) 0≦X≦2.95
中でも1.5≦X≦2.95、0.1≦Y≦1.5のセルロースアセテートプロピオネート(総アシル基置換度=X+Y)、もしくはセルロースアセテートブチレートが好ましい。アシル基で置換されていない部分は通常水酸基として存在している。これらは公知の方法で合成することが出来る。
【0037】
これらアシル基置換度は、ASTM−D817−96に規定の方法に準じて測定することが出来る。
【0038】
セルロースエステルは綿花リンター、木材パルプ、ケナフ等を原料として合成されたセルロースエステルを単独或いは混合して用いることが出来る。特に綿花リンター(以下、単にリンターとすることがある)、木材パルプから合成されたセルロースエステルを単独或いは混合して用いることが好ましい。
【0039】
また、これらから得られたセルロースエステルはそれぞれ任意の割合で混合使用することが出来る。これらのセルロースエステルは、セルロース原料をアシル化剤が酸無水物(無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸)である場合には、酢酸のような有機酸やメチレンクロライド等の有機溶媒を用い、硫酸のようなプロトン性触媒を用いて常法により反応させて得ることが出来る。
【0040】
アセチルセルロースの場合、酢化率を上げようとすれば、酢化反応の時間を延長する必要がある。但し、反応時間を余り長くとると分解が同時に進行し、ポリマー鎖の切断やアセチル基の分解などが起り、好ましくない結果をもたらす。従って、酢化度を上げ、分解をある程度抑えるためには反応時間はある範囲に設定することが必要である。反応時間で規定することは反応条件が様々であり、反応装置や設備その他の条件で大きく変わるので適切でない。ポリマーの分解は進むにつれ、分子量分布が広くなっていくので、セルロースエステルの場合にも、分解の度合いは通常用いられる重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)の値で規定出来る。即ちセルローストリアセテートの酢化の過程で、余り長過ぎて分解が進み過ぎることがなく、かつ酢化には十分な時間酢化反応を行わせしめるための反応度合いの一つの指標として重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)の値を用いることが出来る。
【0041】
セルロースエステルの製造法の一例を以下に示すと、セルロース原料として綿化リンター100質量部を解砕し、40質量部の酢酸を添加し、36℃で20分間前処理活性化をした。その後、硫酸8質量部、無水酢酸260質量部、酢酸350質量部を添加し、36℃で120分間エステル化を行った。24%酢酸マグネシウム水溶液11質量部で中和した後、63℃で35分間ケン化熟成し、アセチルセルロースを得た。これを10倍の酢酸水溶液(酢酸:水=1:1(質量比))を用いて、室温で160分間攪拌した後、濾過、乾燥させてアセチル置換度2.75の精製アセチルセルロースを得た。このアセチルセルロースはMnが92,000、Mwが156,000、Mw/Mnは1.7であった。同様にセルロースエステルのエステル化条件(温度、時間、攪拌)、加水分解条件を調整することによって置換度、Mw/Mn比の異なるセルロースエステルを合成することが出来る。
【0042】
尚、合成されたセルロースエステルは、精製して低分子量成分を除去したり、未酢化の成分を濾過で取り除くことも好ましく行われる。
【0043】
また、混酸セルロースエステルの場合には、特開平10−45804号公報に記載の方法によって得ることが出来る。アシル基の置換度の測定方法はASTM−D817−96の規定に準じて測定することが出来る。
【0044】
また、セルロースエステルは、セルロースエステル中の微量金属成分によっても影響を受ける。これらは製造工程で使われる水に関係していると考えられるが、不溶性の核となり得るような成分は少ない方が好ましく、鉄、カルシウム、マグネシウム等の金属イオンは、有機の酸性基を含んでいる可能性のあるポリマー分解物等と塩形成することにより不溶物を形成する場合があり、少ないことが好ましい。鉄(Fe)成分については、1ppm以下であることが好ましい。カルシウム(Ca)成分については、地下水や河川の水等に多く含まれ、これが多いと硬水となり、飲料水としても不適当であるが、カルボン酸や、スルホン酸等の酸性成分と、また多くの配位子と配位化合物、即ち錯体を形成し易く、多くの不溶なカルシウムに由来するスカム(不溶性の澱、濁り)を形成する。
【0045】
カルシウム(Ca)成分は60ppm以下、好ましくは0〜30ppmである。マグネシウム(Mg)成分については、やはり多過ぎると不溶分を生ずるため、0〜70ppmであることが好ましく、特に0〜20ppmであることが好ましい。鉄(Fe)分の含量、カルシウム(Ca)分含量、マグネシウム(Mg)分含量等の金属成分は、絶乾したセルロースエステルをマイクロダイジェスト湿式分解装置(硫硝酸分解)、アルカリ溶融で前処理を行った後、ICP−AES(誘導結合プラズマ発光分光分析装置)を用いて分析を行うことによって求めることが出来る。
【0046】
〈可塑剤〉
本発明に係る透明支持体Aに用いられるセルロースエステルフィルムは、トリフェニルホスフェート等のリン酸エステル系可塑剤を実質的に含有しない。「実質的に含有しない」とはリン酸エステル系可塑剤の含有量が1質量%未満、好ましくは0.1質量%であり、特に好ましいのは添加していないことである。
【0047】
可塑剤は特に限定されないが、好ましくは、多価カルボン酸エステル系可塑剤、グリコレート系可塑剤、フタル酸エステル系可塑剤、脂肪酸エステル系可塑剤及び多価アルコールエステル系可塑剤、ポリエステル系可塑剤、アクリル系可塑剤等から選択される。そのうち、可塑剤を2種以上用いる場合は、少なくとも1種は多価アルコールエステル系可塑剤であることが好ましい。
【0048】
多価アルコールエステル系可塑剤は2価以上の脂肪族多価アルコールとモノカルボン酸のエステルよりなる可塑剤であり、分子内に芳香環またはシクロアルキル環を有することが好ましい。好ましくは2〜20価の脂肪族多価アルコールエステルである。
【0049】
本発明に用いられる多価アルコールは次の一般式(1)で表される。
【0050】
一般式(1) R−(OH)n
但し、Rはn価の有機基、nは2以上の正の整数、OH基はアルコール性、及び/またはフェノール性水酸基を表す。
【0051】
好ましい多価アルコールの例としては、例えば以下のようなものを挙げることが出来るが、本発明はこれらに限定されるものではない。アドニトール、アラビトール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ジブチレングリコール、1,2,4−ブタントリオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ヘキサントリオール、ガラクチトール、マンニトール、3−メチルペンタン−1,3,5−トリオール、ピナコール、ソルビトール、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、キシリトール等を挙げることが出来る。特に、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ソルビトール、トリメチロールプロパン、キシリトールが好ましい。
【0052】
本発明に用いられる多価アルコールエステルに用いられるモノカルボン酸としては、特に制限はなく、公知の脂肪族モノカルボン酸、脂環族モノカルボン酸、芳香族モノカルボン酸等を用いることが出来る。脂環族モノカルボン酸、芳香族モノカルボン酸を用いると透湿性、保留性を向上させる点で好ましい。
【0053】
好ましいモノカルボン酸の例としては以下のようなものを挙げることが出来るが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0054】
脂肪族モノカルボン酸としては、炭素数1〜32の直鎖または側鎖を有する脂肪酸を好ましく用いることが出来る。炭素数は1〜20であることが更に好ましく、1〜10であることが特に好ましい。酢酸を含有させるとセルロースエステルとの相溶性が増すため好ましく、酢酸と他のモノカルボン酸を混合して用いることも好ましい。
【0055】
好ましい脂肪族モノカルボン酸としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、2−エチル−ヘキサン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ヘプタデシル酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、ヘプタコサン酸、モンタン酸、メリシン酸、ラクセル酸等の飽和脂肪酸、ウンデシレン酸、オレイン酸、ソルビン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸等の不飽和脂肪酸等を挙げることが出来る。
【0056】
好ましい脂環族モノカルボン酸の例としては、シクロペンタンカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸、シクロオクタンカルボン酸、またはそれらの誘導体を挙げることが出来る。
【0057】
好ましい芳香族モノカルボン酸の例としては、安息香酸、トルイル酸等の安息香酸のベンゼン環にアルキル基を導入したもの、ビフェニルカルボン酸、ナフタレンカルボン酸、テトラリンカルボン酸等のベンゼン環を2個以上有する芳香族モノカルボン酸、またはそれらの誘導体を挙げることが出来る。特に安息香酸が好ましい。
【0058】
多価アルコールエステルの分子量は特に制限はないが、300〜1500であることが好ましく、350〜750であることが更に好ましい。分子量が大きい方が揮発し難くなるため好ましく、透湿性、セルロースエステルとの相溶性の点では小さい方が好ましい。
【0059】
多価アルコールエステルに用いられるカルボン酸は1種類でもよいし、2種以上の混合であってもよい。また、多価アルコール中のOH基は、全てエステル化してもよいし、一部をOH基のままで残してもよい。
【0060】
以下に、多価アルコールエステルの具体的化合物を例示する。
【0061】
【化1】

【0062】
【化2】

【0063】
【化3】

【0064】
【化4】

【0065】
グリコレート系可塑剤は特に限定されないが、アルキルフタリルアルキルグリコレート類が好ましく用いることが出来る。アルキルフタリルアルキルグリコレート類としては、例えばメチルフタリルメチルグリコレート、エチルフタリルエチルグリコレート、プロピルフタリルプロピルグリコレート、ブチルフタリルブチルグリコレート、オクチルフタリルオクチルグリコレート、メチルフタリルエチルグリコレート、エチルフタリルメチルグリコレート、エチルフタリルプロピルグリコレート、メチルフタリルブチルグリコレート、エチルフタリルブチルグリコレート、ブチルフタリルメチルグリコレート、ブチルフタリルエチルグリコレート、プロピルフタリルブチルグリコレート、ブチルフタリルプロピルグリコレート、メチルフタリルオクチルグリコレート、エチルフタリルオクチルグリコレート、オクチルフタリルメチルグリコレート、オクチルフタリルエチルグリコレート等が挙げられる。
【0066】
フタル酸エステル系可塑剤としては、ジエチルフタレート、ジメトキシエチルフタレート、ジメチルフタレート、ジオクチルフタレート、ジブチルフタレート、ジ−2−エチルヘキシルフタレート、ジオクチルフタレート、ジシクロヘキシルフタレート、ジシクロヘキシルテレフタレート等が挙げられる。
【0067】
クエン酸エステル系可塑剤としては、クエン酸アセチルトリメチル、クエン酸アセチルトリエチル、クエン酸アセチルトリブチル等が挙げられる。
【0068】
脂肪酸エステル系可塑剤として、オレイン酸ブチル、リシノール酸メチルアセチル、セバシン酸ジブチル等が挙げられる。
【0069】
リン酸エステル系可塑剤としては、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート、ジフェニルビフェニルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリブチルホスフェート等が挙げられるが、これらのリン酸エステル系可塑剤は本発明を構成する透明支持体Aのセルロースエステルフィルム中には実質的に含有しないものである。前述のように、実質的に含有しないとは、含有量が、1質量%未満であり、好ましくは0.1質量%未満であり、全く含有しないことが特に好ましい。
【0070】
透明支持体Bでは、リン酸エステル系可塑剤を含有してもよいが、好ましくはリン酸エステル系可塑剤の含有量は1質量%未満であり、更に好ましくは0.1質量%未満であり、全く含有しないことが特に好ましい。
【0071】
前述のように、リン酸エステル系可塑剤が含まれると活性線硬化樹脂層を形成する際に基材が変形し易くなるため、好ましくない。
【0072】
多価カルボン酸エステル化合物としては、2価以上、好ましくは2価〜20価のの多価カルボン酸とアルコールのエステルよりなる。また、脂肪族多価カルボン酸は2〜20価であることが好ましく、芳香族多価カルボン酸、脂環式多価カルボン酸の場合は3価〜20価であることが好ましい。
【0073】
多価カルボン酸は次の一般式(2)で表される。
【0074】
一般式(2) R(COOH)(OH)
(但し、Rは(m+n)価の有機基、mは2以上の正の整数、nは0以上の整数、COOH基はカルボキシル基、OH基はアルコール性またはフェノール性水酸基を表す)
好ましい多価カルボン酸の例としては、例えば以下のようなものを挙げることが出来るが、本発明はこれらに限定されるものではない。トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸のような3価以上の芳香族多価カルボン酸またはその誘導体、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、シュウ酸、フマル酸、マレイン酸、テトラヒドロフタル酸のような脂肪族多価カルボン酸、酒石酸、タルトロン酸、リンゴ酸、クエン酸のようなオキシ多価カルボン酸などを好ましく用いることが出来る。特にオキシ多価カルボン酸を用いることが、保留性向上などの点で好ましい。
【0075】
本発明に用いられる多価カルボン酸エステル化合物に用いられるアルコールとしては特に制限はなく公知のアルコール、フェノール類を用いることが出来る。例えば炭素数1〜32の直鎖または側鎖を持った脂肪族飽和アルコールまたは脂肪族不飽和アルコールを好ましく用いることが出来る。炭素数1〜20であることが更に好ましく、炭素数1〜10であることが特に好ましい。また、シクロペンタノール、シクロヘキサノールなどの脂環式アルコールまたはその誘導体、ベンジルアルコール、シンナミルアルコールなどの芳香族アルコールまたはその誘導体なども好ましく用いることが出来る。
【0076】
多価カルボン酸としてオキシ多価カルボン酸を用いる場合は、オキシ多価カルボン酸のアルコール性またはフェノール性の水酸基をモノカルボン酸を用いてエステル化しても良い。好ましいモノカルボン酸の例としては以下のようなものを挙げることが出来るが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0077】
脂肪族モノカルボン酸としては炭素数1〜32の直鎖または側鎖を持った脂肪酸を好ましく用いることが出来る。炭素数1〜20であることが更に好ましく、炭素数1〜10であることが特に好ましい。
【0078】
好ましい脂肪族モノカルボン酸としては酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、2−エチル−ヘキサンカルボン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ヘプタデシル酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、ヘプタコサン酸、モンタン酸、メリシン酸、ラクセル酸などの飽和脂肪酸、ウンデシレン酸、オレイン酸、ソルビン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸などの不飽和脂肪酸などを挙げることが出来る。
【0079】
好ましい脂環族モノカルボン酸の例としては、シクロペンタンカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸、シクロオクタンカルボン酸、またはそれらの誘導体を挙げることが出来る。
【0080】
好ましい芳香族モノカルボン酸の例としては、安息香酸、トルイル酸などの安息香酸のベンゼン環にアルキル基を導入したもの、ビフェニルカルボン酸、ナフタリンカルボン酸、テトラリンカルボン酸などのベンゼン環を2個以上もつ芳香族モノカルボン酸、またはそれらの誘導体を挙げることが出来る。特に酢酸、プロピオン酸、安息香酸であることが好ましい。
【0081】
多価カルボン酸エステル化合物の分子量は特に制限はないが、分子量300〜1000の範囲であることが好ましく、350〜750の範囲であることが更に好ましい。保留性向上の点では大きい方が好ましく、透湿性、セルロースエステルとの相溶性の点では小さい方が好ましい。
【0082】
本発明に用いられる多価カルボン酸エステルに用いられるアルコール類は一種類でも良いし、二種以上の混合であっても良い。
【0083】
本発明に用いられる多価カルボン酸エステル化合物の酸価は1mgKOH/g以下であることが好ましく、0.2mgKOH/g以下であることが更に好ましい。酸価を上記範囲にすることによって、レターデーションの環境変動も抑制されるため好ましい。
【0084】
(酸価、水酸基価)
酸価とは、試料1g中に含まれる酸(試料中に存在するカルボキシル基)を中和するために必要な水酸化カリウムのミリグラム数をいう。水酸基価とは、試料1gをアセチル化させたとき、水酸基と結合した酢酸を中和するのに必要とする水酸化カリウムのmg数と定義される。酸価及び水酸基価はJIS K0070に準拠して測定したものである。
【0085】
特に好ましい多価カルボン酸エステル化合物の例を以下に示すが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、トリエチルシトレート、トリブチルシトレート、アセチルトリエチルシトレート(ATEC)、アセチルトリブチルシトレート(ATBC)、ベンゾイルトリブチルシトレート、アセチルトリフェニルシトレート、アセチルトリベンジルシトレート、酒石酸ジブチル、酒石酸ジアセチルジブチル、トリメリット酸トリブチル、ピロメリット酸テトラブチル等が挙げられる。
【0086】
ポリエステル系可塑剤は特に限定されないが、分子内に芳香環またはシクロアルキル環を有するポリエステル系可塑剤を好ましく用いることが出来る。好ましいポリエステル系可塑剤としては、特に限定されないが、例えば、下記一般式(3)で表せる芳香族末端エステル系可塑剤が好ましい。
【0087】
一般式(3) B−(G−A)n−G−B
(式中、Bはベンゼンモノカルボン酸残基、Gは炭素数2〜12のアルキレングリコール残基または炭素数6〜12のアリールグリコール残基または炭素数が4〜12のオキシアルキレングリコール残基、Aは炭素数4〜12のアルキレンジカルボン酸残基または炭素数6〜12のアリールジカルボン酸残基を表し、またnは1以上の整数を表す。)
一般式(3)中、Bで示されるベンゼンモノカルボン酸残基とGで示されるアルキレングリコール残基またはオキシアルキレングリコール残基またはアリールグリコール残基、Aで示されるアルキレンジカルボン酸残基またはアリールジカルボン酸残基とから構成されるものであり、通常のポリエステル系可塑剤と同様の反応により得られる。
【0088】
本発明に用いられるポリエステル系可塑剤のベンゼンモノカルボン酸成分としては、例えば、安息香酸、パラターシャリブチル安息香酸、オルソトルイル酸、メタトルイル酸、パラトルイル酸、ジメチル安息香酸、エチル安息香酸、ノルマルプロピル安息香酸、アミノ安息香酸、アセトキシ安息香酸等があり、これらはそれぞれ1種または2種以上の混合物として使用することが出来る。
【0089】
本発明に用いられるポリエステル系可塑剤の炭素数2〜12のアルキレングリコール成分としては、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,2−プロパンジオール、2−メチル1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール(ネオペンチルグリコール)、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール(3,3−ジメチロ−ルペンタン)、2−n−ブチル−2−エチル−1,3プロパンジオール(3,3−ジメチロールヘプタン)、3−メチル−1,5−ペンタンジオール1,6−ヘキサンジオール、2,2,4−トリメチル1,3−ペンタンジオール、2−エチル1,3−ヘキサンジオール、2−メチル1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,12−オクタデカンジオール等があり、これらのグリコールは、1種または2種以上の混合物として使用される。特に炭素数2〜12のアルキレングリコールがセルロースエステルとの相溶性に優れているため、特に好ましい。
【0090】
また、本発明に用いられる芳香族末端エステルの炭素数4〜12のオキシアルキレングリコール成分としては、例えば、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール等があり、これらのグリコールは、1種または2種以上の混合物として使用できる。
【0091】
本発明に用いられる芳香族末端エステルの炭素数4〜12のアルキレンジカルボン酸成分としては、例えば、コハク酸、マレイン酸、フマール酸、グルタール酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸等があり、これらは、それぞれ1種または2種以上の混合物として使用される。炭素数6〜12のアリーレンジカルボン酸成分としては、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、1,5ナフタレンジカルボン酸、1,4ナフタレンジカルボン酸等がある。
【0092】
本発明に用いられるポリエステル系可塑剤は、数平均分子量が、好ましくは300〜1500、より好ましくは400〜1000の範囲が好適である。また、その酸価は、0.5mgKOH/g以下、水酸基価は25mgKOH/g以下、より好ましくは酸価0.3mgKOH/g以下、水酸基価は15mgKOH/g以下のものが好適である。
【0093】
以下、本発明に用いられる芳香族末端エステル系可塑剤の合成例を示す。
【0094】
〈サンプルNo.1(芳香族末端エステルサンプル)〉
反応容器にフタル酸410部、安息香酸610部、ジプロピレングリコール737部、及び触媒としてテトライソプロピルチタネート0.40部を一括して仕込み窒素気流中で攪拌下、還流凝縮器を付して過剰の1価アルコールを還流させながら、酸価が2以下になるまで130〜250℃で加熱を続け生成する水を連続的に除去した。次いで200〜230℃で1.33×10Pa〜最終的に4×10Pa以下の減圧下、留出分を除去し、この後濾過して次の性状を有する芳香族末端エステル系可塑剤を得た。
【0095】
粘度(25℃、mPa・s);43400
酸価 ;0.2
〈サンプルNo.2(芳香族末端エステルサンプル)〉
反応容器に、フタル酸410部、安息香酸610部、エチレングリコール341部、及び触媒としてテトライソプロピルチタネート0.35部を用いる以外はサンプルNo.1と全く同様にして次の性状を有する芳香族末端エステルを得た。
【0096】
粘度(25℃、mPa・s);31000
酸価 ;0.1
〈サンプルNo.3(芳香族末端エステルサンプル)〉
反応容器に、フタル酸410部、安息香酸610部、1,2−プロパンジオール418部、及び触媒としてテトライソプロピルチタネート0.35部を用いる以外はサンプルNo.1と全く同様にして次の性状を有する芳香族末端エステルを得た。
【0097】
粘度(25℃、mPa・s);38000
酸価 ;0.05
〈サンプルNo.4(芳香族末端エステルサンプル)〉
反応容器に、フタル酸410部、安息香酸610部、1,3−プロパンジオール418部、及び触媒としてテトライソプロピルチタネート0.35部を用いる以外はサンプルNo.1と全く同様にして次の性状を有する芳香族末端エステルを得た。
【0098】
粘度(25℃、mPa・s);37000
酸価 ;0.05
以下に、本発明に用いられる芳香族末端エステル系可塑剤の具体的化合物を示すが、本発明はこれに限定されない。
【0099】
【化5】

【0100】
【化6】

【0101】
本発明のセルロースエステルフィルムは下記ポリマー系可塑剤を含有することも好ましい。
【0102】
〔ポリエステル〕
(一般式(4)または(5)で表されるポリエステル)
本発明のセルロースエステルフィルムは下記一般式(4)または(5)で表されるポリエステルを含有することが好ましい。
【0103】
一般式(4) B−(G−A−)G−B
一般式(5) B−(A−G−)A−B
一般式(4)、(5)において、Bはモノカルボン酸成分を表し、Bはモノアルコール成分を表し、Gは2価のアルコール成分を表し、Aは2塩基酸成分を表し、これらによって合成されたことを表す。B、B、G、Aはいずれも芳香環を含まないことが特徴である。m、nは繰り返し数を表す。
【0104】
また、一般式(4)、(5)において、左右のB、Bは同じであっても良いし、異なってもよい。
【0105】
で表されるモノカルボン酸としては、特に制限はなく公知の脂肪族モノカルボン酸、脂環族モノカルボン酸等を用いることができる。
【0106】
好ましいモノカルボン酸の例としては以下のようなものを挙げることができるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0107】
脂肪族モノカルボン酸としては炭素数1〜32の直鎖または側鎖を持った脂肪酸を好ましく用いることができる。炭素数1〜20であることがさらに好ましく、炭素数1〜12であることが特に好ましい。酢酸を含有させるとセルロースエステルとの相溶性が増すため好ましく、酢酸と他のモノカルボン酸を混合して用いることも好ましい。
【0108】
好ましい脂肪族モノカルボン酸としては蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、2−エチル−ヘキサンカルボン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ヘプタデシル酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、ヘプタコサン酸、モンタン酸、メリシン酸、ラクセル酸等の飽和脂肪酸、ウンデシレン酸、オレイン酸、ソルビン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸等の不飽和脂肪酸等を挙げることができる。
【0109】
で表されるモノアルコール成分としては、特に制限はなく公知のアルコール類を用いることができる。例えば炭素数1〜32の直鎖または側鎖を持った脂肪族飽和アルコールまたは脂肪族不飽和アルコールを好ましく用いることができる。炭素数1〜20であることがさらに好ましく、炭素数1〜12であることが特に好ましい。
【0110】
Gで表される2価のアルコール成分としては、以下のようなものを挙げることができるが、本発明はこれらに限定されるものではない。例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,2−ブチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、1,4−ブチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,5−ペンチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール等を挙げることができるが、これらのうちエチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,2−ブチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、1,4−ブチレングリコール、1,6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコールが好ましく、さらに、1,3−プロピレングリコール、1,4−ブチレングリコール1,6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコールを好ましく用いられる。
【0111】
Aで表される2塩基酸(ジカルボン酸)成分としては、脂肪族2塩基酸、脂環式2塩基酸が好ましく、例えば、脂肪族2塩基酸としては、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸等、特に、脂肪族ジカルボン酸としては炭素原子数4〜12もの、これらから選ばれる少なくとも一つのものを使用する。つまり、2種以上の2塩基酸を組み合わせて使用してよい。
【0112】
m、nは繰り返し数を表し、1以上で170以下が好ましい。
【0113】
(一般式(6)または(7)で表されるポリエステル)
本発明のセルロースエステルフィルムは下記一般式(6)または(7)で表されるポリエステルを含有することが好ましい。
【0114】
一般式(6) B−(G−A−)G−B
一般式(7) B−(A−G−)A−B
一般式(6)、(7)において、Bは炭素数1〜12のモノカルボン酸成分を表し、Bは炭素数1〜12のモノアルコール成分を表し、Gは炭素数2〜12の2価のアルコール成分を表し、Aは炭素数2〜12の2塩基酸成分を表し、これらによって合成されたことを表す。B、B、G、Aはいずれも芳香環を含まない。m、nは繰り返し数を表す。
【0115】
また、一般式(6)、(7)において、左右のB、Bは同じであっても良いし、異なってもよい。
【0116】
、Bは、前述の一般式(4)または(5)におけるB、Bと同義である。
【0117】
G、Aは前述の一般式(4)または(5)におけるG、Aの中で炭素数2〜12のアルコール成分または2塩基酸成分である。
【0118】
ポリエステルの重量平均分子量は20000以下が好ましく、10000以下であることがさらに好ましい。特に重量平均分子量が500〜10000のポリエステルは、セルロースエステルとの相溶性が良好であり、好ましく用いられる。
【0119】
ポリエステルの重縮合は常法によって行われる。例えば、上記2塩基酸とグリコールの直接反応、上記の2塩基酸またはこれらのアルキルエステル類、例えば2塩基酸のメチルエステルとグリコール類とのポリエステル化反応またはエステル交換反応により熱溶融縮合法か、あるいはこれら酸の酸クロライドとグリコールとの脱ハロゲン化水素反応の何れかの方法により容易に合成し得るが、重量平均分子量がさほど大きくないポリエステルは直接反応によるのが好ましい。低分子量側に分布が高くあるポリエステルはセルロースエステルとの相溶性が非常によく、フィルム形成後、透湿度も小さく、しかも透明性に富んだセルロースエステルフィルムを得ることができる。分子量の調節方法は、特に制限なく従来の方法を使用できる。例えば、重合条件にもよるが、1価の酸または1価のアルコールで分子末端を封鎖する方法により、これらの1価のものの添加する量によりコントロールできる。この場合、1価の酸がポリマーの安定性から好ましい。例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸等を挙げることができるが、重縮合反応中には系外に溜去せず、停止して反応系外にこのような1価の酸を系外に除去するときに溜去し易いものが選ばれるが、これらを混合使用してもよい。また、直接反応の場合には、反応中に溜去してくる水の量により反応を停止するタイミングを計ることによっても重量平均分子量を調節できる。その他、仕込むグリコールまたは2塩基酸のモル数を偏らせることによってもできるし、反応温度をコントロールしても調節できる。
【0120】
本発明に用いられるポリエステルは、セルロースエステルに対し1〜40質量%含有することが好ましく、一般式(6)または(7)で表されるポリエステルは2〜30質量%含有することが好ましい。特に5〜15質量%含有することが好ましい。
【0121】
ポリエステルの添加されたフィルムを用いることにより、高温高湿による劣化の少ない偏光板が得られる。また、この偏光板を用いることにより、高コントラスト、広視野角が長期間維持され、表面の平面性に優れる横電界駆動式表示装置が得られる。
【0122】
(アクリル系ポリマー)
本発明のセルロースエステルフィルムは、アクリル系ポリマーを含有することが好ましい。
【0123】
アクリル系ポリマーを添加したフィルムを用いることにより、高温高湿による偏光子劣化が大幅に改善された偏光板が得られる。また、この偏光板を用いることにより、高コントラストがさらに長期間維持され、劣悪な環境下においても偏光板寸法変化が著しくよいためコーナームラが発生しない。
【0124】
本発明においてアクリル系ポリマーとは、分子内に芳香環を持たないアクリル酸またはメタクリル酸アルキルエステル等のモノマーから合成されるホモポリマーまたはコポリマーを指す。
【0125】
芳香環を持たないアクリル酸エステルモノマーとしては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル(i−、n−)、アクリル酸ブチル(n−、i−、s−、t−)、アクリル酸ペンチル(n−、i−、s−)、アクリル酸ヘキシル(n−、i−)、アクリル酸ヘプチル(n−、i−)、アクリル酸オクチル(n−、i−)、アクリル酸ノニル(n−、i−)、アクリル酸ミリスチル(n−、i−)、アクリル酸(2−エチルヘキシル)、アクリル酸(ε−カプロラクトン)、アクリル酸(2−ヒドロキシエチル)、アクリル酸(2−ヒドロキシプロピル)、アクリル酸(3−ヒドロキシプロピル)、アクリル酸(4−ヒドロキシブチル)、アクリル酸(2−ヒドロキシブチル)、アクリル酸(2−メトキシエチル)、アクリル酸(2−エトキシエチル)等、または上記アクリル酸エステルをメタクリル酸エステルに変えたものを挙げることができる。
【0126】
また、前記アクリル系ポリマーがコポリマーの場合は、X(親水基を有するモノマー成分)及びY(親水基を持たないモノマー成分)からなり、X:Y(モル比)が1:1〜1:99が好ましく、この範囲外内ではフィルムを偏光板にした際に、偏光子の劣化が少なく好ましい。また含有量は、セルロースエステルに対して1〜20質量%であることが好ましい。
【0127】
アクリル系ポリマーの重量平均分子量が500〜30000のものであれば、セルロースエステルとの相溶性が良好で、製膜中において蒸発も揮発も起こりにくい。特に、アクリル系ポリマーを側鎖に有するアクリル系ポリマーについて、好ましくは500〜10000のものであれば、上記に加え、製膜後のセルロースエステルフィルムの透明性が優れ、透湿度も極めて低く、偏光板用保護フィルムとして優れた性能を示す。
【0128】
上記アクリルポリマーは、特開2003−12859に記載されている方法を参考にして合成することができる。
【0129】
(重量平均分子量測定方法)
重量平均分子量Mwは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いて測定した。
【0130】
測定条件は以下の通りである。
【0131】
溶媒: メチレンクロライド
カラム: Shodex K806,K805,K803G(昭和電工(株)製を3本接続して使用した)
カラム温度:25℃
試料濃度: 0.1質量%
検出器: RI Model 504(GLサイエンス社製)
ポンプ: L6000(日立製作所(株)製)
流量: 1.0ml/min
校正曲線: 標準ポリスチレンSTK standard ポリスチレン(東ソー(株)製)Mw=1000000〜500迄の13サンプルによる校正曲線を使用した。13サンプルは、ほぼ等間隔に用いる。
【0132】
セルロースエステルフィルム中の可塑剤の総含有量は、固形分総量に対し、3〜40が好ましく、5〜20質量%がさらに好ましい。また、2種の可塑剤を用いる場合の含有量は各々少なくとも1質量%以上であり、好ましくは各々2質量%以上含有することである。
【0133】
〈紫外線吸収剤〉
本発明に係る透明支持体Aのセルロースエステルフィルムは、紫外線吸収剤を含有することが好ましい。紫外線吸収剤は400nm以下の紫外線を吸収することで、耐久性を向上させることを目的としており、特に波長370nmでの透過率が10%以下であることが好ましく、より好ましくは5%以下、更に好ましくは2%以下である。
【0134】
本発明に用いられる紫外線吸収剤は特に限定されないが、例えばオキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノン系化合物、シアノアクリレート系化合物、トリアジン系化合物、ニッケル錯塩系化合物、無機粉体等が挙げられる。
【0135】
例えば、5−クロロ−2−(3,5−ジ−sec−ブチル−2−ヒドロキシルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、(2−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−6−(直鎖及び側鎖ドデシル)−4−メチルフェノール、2−ヒドロキシ−4−ベンジルオキシベンゾフェノン、2,4−ベンジルオキシベンゾフェノン等があり、また、チヌビン109、チヌビン171、チヌビン234、チヌビン326、チヌビン327、チヌビン328等のチヌビン類があり、これらはいずれもチバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製の市販品であり好ましく使用出来る。
【0136】
本発明で好ましく用いられる紫外線吸収剤は、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、トリアジン系紫外線吸収剤であり、特に好ましくはベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、である。
【0137】
例えば、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤としては下記一般式(A)で示される化合物を用いることが出来る。
【0138】
【化7】

【0139】
式中、R、R、R、R及びRは同一でも異なってもよく、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、ヒドロキシル基、アルキル基、アルケニル基、アリール基、アルコキシル基、アシルオキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、モノ若しくはジアルキルアミノ基、アシルアミノ基または5〜6員の複素環基を表し、RとRは閉環して5〜6員の炭素環を形成してもよい。
【0140】
また、上記記載のこれらの基は、任意の置換基を有していてよい。
【0141】
以下に本発明に用いられるベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤の具体例を挙げるが、本発明はこれらに限定されない。
【0142】
UV−1:2−(2′−ヒドロキシ−5′−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール
UV−2:2−(2′−ヒドロキシ−3′,5′−ジ−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール
UV−3:2−(2′−ヒドロキシ−3′−tert−ブチル−5′−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール
UV−4:2−(2′−ヒドロキシ−3′,5′−ジ−tert−ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール
UV−5:2−(2′−ヒドロキシ−3′−(3″,4″,5″,6″−テトラヒドロフタルイミドメチル)−5′−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール
UV−6:2,2−メチレンビス(4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール)
UV−7:2−(2′−ヒドロキシ−3′−tert−ブチル−5′−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール
UV−8:2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−6−(直鎖及び側鎖ドデシル)−4−メチルフェノール(TINUVIN171)
UV−9:オクチル−3−〔3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−(クロロ−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェニル〕プロピオネートと2−エチルヘキシル−3−〔3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−(5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェニル〕プロピオネートの混合物(TINUVIN109)
更に、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤としては下記一般式(B)で表される化合物が好ましく用いられる。
【0143】
【化8】

【0144】
式中、Yは水素原子、ハロゲン原子またはアルキル基、アルケニル基、アルコキシル基、及びフェニル基を表し、これらのアルキル基、アルケニル基及びフェニル基は置換基を有していてもよい。Aは水素原子、アルキル基、アルケニル基、フェニル基、シクロアルキル基、アルキルカルボニル基、アルキルスルホニル基または−CO(NH)n-1−D基を表し、Dはアルキル基、アルケニル基または置換基を有していてもよいフェニル基を表す。m及びnは1または2を表す。
【0145】
上記において、アルキル基としては、例えば、炭素数24までの直鎖または分岐の脂肪族基を表し、アルコキシル基としては例えば、炭素数18までのアルコキシル基を表し、アルケニル基としては例えば、炭素数16までのアルケニル基でアリル基、2−ブテニル基等を表す。また、アルキル基、アルケニル基、フェニル基への置換基としてはハロゲン原子、例えば、塩素原子、臭素原子、フッ素原子等、ヒドロキシル基、フェニル基(このフェニル基にはアルキル基またはハロゲン原子等を置換していてもよい)等が挙げられる。
【0146】
以下に一般式(B)で表されるベンゾフェノン系紫外線吸収剤の具体例を示すが、本発明はこれらに限定されない。
【0147】
UV−10:2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン
UV−11:2,2′−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン
UV−12:2−ヒドロキシ−4−メトキシ−5−スルホベンゾフェノン
UV−13:ビス(2−メトキシ−4−ヒドロキシ−5−ベンゾイルフェニルメタン)
この他、1,3,5トリアジン環を有する円盤状化合物も紫外線吸収剤として好ましく用いられる。
【0148】
本発明に係わるセルロースエステルフィルムは紫外線吸収剤を2種以上を含有することが好ましい。
【0149】
また、紫外線吸収剤としては高分子紫外線吸収剤も好ましく用いることが出来、特に特開平6−148430号記載のポリマータイプの紫外線吸収剤が好ましく用いられる。
【0150】
紫外線吸収剤の添加方法は、メタノール、エタノール、ブタノール等のアルコールやメチレンクロライド、酢酸メチル、アセトン、ジオキソラン等の有機溶媒或いはこれらの混合溶媒に紫外線吸収剤を溶解してからドープに添加するか、または直接ドープ組成中に添加してもよい。無機粉体のように有機溶剤に溶解しないものは、有機溶剤とセルロースエステル中にデゾルバーやサンドミルを使用し、分散してからドープに添加する。
【0151】
紫外線吸収剤の使用量は、紫外線吸収剤の種類、使用条件等により一様ではないが、セルロースエステルフィルムの乾燥膜厚が30〜200μmの場合は、セルロースエステルフィルムに対して0.5〜4.0質量%が好ましく、0.6〜2.0質量%が更に好ましい。
【0152】
〈微粒子〉
本発明に係るセルロースエステルフィルムには、微粒子を含有することが好ましい。
【0153】
本発明に用いられる微粒子としては、無機化合物の例として、二酸化珪素、二酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、炭酸カルシウム、炭酸カルシウム、タルク、クレイ、焼成カオリン、焼成ケイ酸カルシウム、水和ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム及びリン酸カルシウムを挙げることが出来る。微粒子は珪素を含むものが濁度が低くなる点で好ましく、特に二酸化珪素が好ましい。
【0154】
微粒子の一次粒子の平均粒径は5〜50nmが好ましく、更に好ましいのは7〜20nmである。これらは主に粒径0.05〜0.3μmの2次凝集体として含有されることが好ましい。セルロースエステルフィルム中のこれらの微粒子の含有量は0.05〜1質量%であることが好ましく、特に0.1〜0.5質量%が好ましい。共流延法による多層構成のセルロースエステルフィルムの場合は、表面にこの添加量の微粒子を含有することが好ましい。
【0155】
二酸化珪素の微粒子は、例えば、アエロジルR972、R972V、R974、R812、200、200V、300、R202、OX50、TT600(以上日本アエロジル(株)製)の商品名で市販されており、使用することが出来る。
【0156】
酸化ジルコニウムの微粒子は、例えば、アエロジルR976及びR811(以上日本アエロジル(株)製)の商品名で市販されており、使用することが出来る。
【0157】
ポリマーの例として、シリコーン樹脂、フッ素樹脂及びアクリル樹脂を挙げることが出来る。シリコーン樹脂が好ましく、特に三次元の網状構造を有するものが好ましく、例えば、トスパール103、同105、同108、同120、同145、同3120及び同240(以上東芝シリコーン(株)製)の商品名で市販されており、使用することが出来る。
【0158】
これらの中でもでアエロジル200V、アエロジルR972Vがセルロースエステルフィルムの濁度を低く保ちながら、摩擦係数を下げる効果が大きいため特に好ましく用いられる。本発明で用いられるセルロースエステルフィルムにおいては反射防止層の裏面側の動摩擦係数が0.2〜1.0であることが好ましい。
【0159】
〈染料〉
本発明の透明支持体Aであるセルロースエステルフィルムには、色味調整のため染料を添加することも出来る。例えば、フィルムの黄色味を抑えるために青色染料を添加してもよい。好ましい染料としてはアンスラキノン系染料が挙げられる。
【0160】
アンスラキノン系染料は、アンスラキノンの1位から8位迄の任意の位置に任意の置換基を有することが出来る。好ましい置換基としてはアニリノ基、ヒドロキシル基、アミノ基、ニトロ基、または水素原子が挙げられる。特に特開2001−154017記載の青色染料、特にアントラキノン系染料を含有することが好ましい。
【0161】
各種添加剤は製膜前のセルロースエステル含有溶液であるドープにバッチ添加してもよいし、添加剤溶解液を別途用意してインライン添加してもよい。特に微粒子は濾過材への負荷を減らすために、一部または全量をインライン添加することが好ましい。
【0162】
添加剤溶解液をインライン添加する場合は、ドープとの混合性をよくするため、少量のセルロースエステルを溶解するのが好ましい。好ましいセルロースエステルの量は、溶剤100質量部に対して1〜10質量部で、より好ましくは、3〜5質量部である。
【0163】
本発明においてインライン添加、混合を行うためには、例えば、スタチックミキサー(東レエンジニアリング製)、SWJ(東レ静止型管内混合器 Hi−Mixer)等のインラインミキサー等が好ましく用いられる。
【0164】
〈セルロースエステルフィルムの製造方法〉
次に、本発明のセルロースエステルフィルムの製造方法について説明する。ここでは本発明の透明支持体A及びBに共通した製造方法を説明する。
【0165】
本発明のセルロースエステルフィルムの製造は、セルロースエステル及び添加剤を溶剤に溶解させてドープを調製する工程、ドープを無限に移行する無端の金属支持体上に流延する工程、流延したドープをウェブとして乾燥する工程、金属支持体から剥離する工程、延伸または幅保持する工程、更に乾燥する工程、仕上がったフィルムを巻取る工程により行われる。
【0166】
ドープを調製する工程について述べる。ドープ中のセルロースエステルの濃度は、濃い方が金属支持体に流延した後の乾燥負荷が低減出来て好ましいが、セルロースエステルの濃度が濃過ぎると濾過時の負荷が増えて、濾過精度が悪くなる。これらを両立する濃度としては、10〜35質量%が好ましく、更に好ましくは、15〜25質量%である。
【0167】
本発明のドープで用いられる溶剤は、単独で用いても2種以上を併用してもよいが、セルロースエステルの良溶剤と貧溶剤を混合して使用することが生産効率の点で好ましく、良溶剤が多い方がセルロースエステルの溶解性の点で好ましい。良溶剤と貧溶剤の混合比率の好ましい範囲は、良溶剤が70〜98質量%であり、貧溶剤が2〜30質量%である。良溶剤、貧溶剤とは、使用するセルロースエステルを単独で溶解するものを良溶剤、単独で膨潤するかまたは溶解しないものを貧溶剤と定義している。そのため、セルロースエステルの平均酢化度(アセチル基置換度)によっては、良溶剤、貧溶剤が変わり、例えばアセトンを溶剤として用いる時には、セルロースエステルの酢酸エステル(アセチル基置換度2.4)、セルロースアセテートプロピオネートでは良溶剤になり、セルロースの酢酸エステル(アセチル基置換度2.8)では貧溶剤となる。
【0168】
本発明に用いられる良溶剤は特に限定されないが、メチレンクロライド等の有機ハロゲン化合物やジオキソラン類、アセトン、酢酸メチル、アセト酢酸メチル等が挙げられる。特に好ましくはメチレンクロライドまたは酢酸メチルが挙げられる。
【0169】
また、本発明に用いられる貧溶剤は特に限定されないが、例えば、メタノール、エタノール、n−ブタノール、シクロヘキサン、シクロヘキサノン等が好ましく用いられる。また、ドープ中には水が0.01〜2質量%含有していることが好ましい。また、セルロースエステルの溶解に用いられる溶媒は、フィルム製膜工程で乾燥によりフィルムから除去された溶媒を回収し、これを再利用して用いられる。
【0170】
上記記載のドープを調製する時の、セルロースエステルの溶解方法としては、一般的な方法を用いることが出来る。加熱と加圧を組み合わせると常圧における沸点以上に加熱出来る。溶剤の常圧での沸点以上でかつ加圧下で溶剤が沸騰しない範囲の温度で加熱しながら攪拌溶解すると、ゲルやママコと呼ばれる塊状未溶解物の発生を防止するため好ましい。また、セルロースエステルを貧溶剤と混合して湿潤或いは膨潤させた後、更に良溶剤を添加して溶解する方法も好ましく用いられる。
【0171】
加圧は窒素ガス等の不活性気体を圧入する方法や、加熱によって溶剤の蒸気圧を上昇させる方法によって行ってもよい。加熱は外部から行うことが好ましく、例えばジャケットタイプのものは温度コントロールが容易で好ましい。
【0172】
溶剤を添加しての加熱温度は、高い方がセルロースエステルの溶解性の観点から好ましいが、加熱温度が高過ぎると必要とされる圧力が大きくなり生産性が悪くなる。好ましい加熱温度は45〜120℃であり、60〜110℃がより好ましく、70℃〜105℃が更に好ましい。また、圧力は設定温度で溶剤が沸騰しないように調整される。
【0173】
若しくは冷却溶解法も好ましく用いられ、これによって酢酸メチルなどの溶媒にセルロースエステルを溶解させることが出来る。
【0174】
次に、このセルロースエステル溶液を濾紙等の適当な濾過材を用いて濾過する。濾過材としては、不溶物等を除去するために絶対濾過精度が小さい方が好ましいが、絶対濾過精度が小さ過ぎると濾過材の目詰まりが発生し易いという問題がある。このため絶対濾過精度0.008mm以下の濾材が好ましく、0.001〜0.008mmの濾材がより好ましく、0.003〜0.006mmの濾材が更に好ましい。
【0175】
濾材の材質は特に制限はなく、通常の濾材を使用することが出来るが、ポリプロピレン、テフロン(登録商標)等のプラスチック製の濾材や、ステンレススティール等の金属製の濾材が繊維の脱落等がなく好ましい。濾過により、原料のセルロースエステルに含まれていた不純物、特に輝点異物を除去、低減することが好ましい。
【0176】
輝点異物とは、2枚の偏光板をクロスニコル状態にして配置し、その間にセルロースエステルフィルムを置き、一方の偏光板の側から光を当てて、他方の偏光板の側から観察した時に反対側からの光が漏れて見える点(異物)のことであり、径が0.01mm以上である輝点数が200個/cm以下であることが好ましい。より好ましくは100個/cm以下であり、更に好ましくは50個/m以下であり、更に好ましくは0〜10個/cm以下である。また、0.01mm以下の輝点も少ない方が好ましい。
【0177】
ドープの濾過は通常の方法で行うことが出来るが、溶剤の常圧での沸点以上で、かつ加圧下で溶剤が沸騰しない範囲の温度で加熱しながら濾過する方法が、濾過前後の濾圧の差(差圧という)の上昇が小さく、好ましい。好ましい温度は45〜120℃であり、45〜70℃がより好ましく、45〜55℃であることが更に好ましい。
【0178】
濾圧は小さい方が好ましい。濾圧は1.6MPa以下であることが好ましく、1.2MPa以下であることがより好ましく、1.0MPa以下であることが更に好ましい。
【0179】
ここで、ドープの流延について説明する。
【0180】
流延(キャスト)工程における金属支持体は、表面を鏡面仕上げしたものが好ましく、金属支持体としては、ステンレススティールベルト若しくは鋳物で表面をメッキ仕上げしたドラムが好ましく用いられる。キャストの幅は1〜4mとすることが出来る。流延工程の金属支持体の表面温度は−50℃〜溶剤の沸点未満の温度で、温度が高い方がウェブの乾燥速度が速く出来るので好ましいが、余り高過ぎるとウェブが発泡したり、平面性が劣化する場合がある。好ましい支持体温度は0〜40℃であり、5〜30℃が更に好ましい。或いは、冷却することによってウェブをゲル化させて残留溶媒を多く含んだ状態でドラムから剥離することも好ましい方法である。金属支持体の温度を制御する方法は特に制限されないが、温風または冷風を吹きかける方法や、温水を金属支持体の裏側に接触させる方法がある。温水を用いる方が熱の伝達が効率的に行われるため、金属支持体の温度が一定になるまでの時間が短く好ましい。温風を用いる場合は目的の温度よりも高い温度の風を使う場合がある。
【0181】
セルロースエステルフィルムが良好な平面性を示すためには、金属支持体からウェブを剥離する際の残留溶媒量は10〜150質量%が好ましく、更に好ましくは20〜40質量%または60〜130質量%であり、特に好ましくは、20〜30質量%または70〜120質量%である。
【0182】
本発明においては、残留溶媒量は下記式で定義される。
【0183】
残留溶媒量(質量%)={(M−N)/N}×100
尚、Mはウェブまたはフィルムを製造中または製造後の任意の時点で採取した試料の質量で、NはMを115℃で1時間の加熱後の質量である。
【0184】
また、セルロースエステルフィルムの乾燥工程においては、ウェブを金属支持体より剥離し、更に乾燥し、残留溶媒量を1質量%以下にすることが好ましく、更に好ましくは0.1質量%以下であり、特に好ましくは0〜0.01質量%以下である。
【0185】
フィルム乾燥工程では一般にロール乾燥方式(上下に配置した多数のロールをウェブを交互に通し乾燥させる方式)やテンター方式でウェブを搬送させながら乾燥する方式が採られる。
【0186】
本発明のセルロースエステルフィルムを作製するためには、金属支持体より剥離した直後のウェブの残留溶剤量の多いところで搬送方向(縦方向)に延伸し、更にウェブの両端をクリップ等で把持するテンター方式で幅方向(横方向)に延伸を行うことが特に好ましい。縦方向、横方向ともに好ましい延伸倍率は1.05〜1.3倍であり、1.05〜1.15倍が更に好ましい。縦方向及び横方向延伸により面積が1.12倍〜1.44倍となっていることが好ましく、1.15倍〜1.32倍となっていることが好ましい。これは縦方向の延伸倍率×横方向の延伸倍率で求めることが出来る。縦方向と横方向の延伸倍率のいずれかが1.05倍未満では活性線硬化樹脂層を形成する際の紫外線照射による平面性の劣化が大きく好ましくない。また、延伸倍率が1.3倍を超えても平面性が劣化し、ヘイズも増加するため好ましくない。
【0187】
剥離直後に縦方向に延伸するために、剥離張力を210N/m以上で剥離することが好ましく、特に好ましくは220〜300N/mである。
【0188】
ウェブを乾燥させる手段は特に制限なく、一般的に熱風、赤外線、加熱ロール、マイクロ波等で行うことが出来るが、簡便さの点で熱風で行うことが好ましい。
【0189】
ウェブの乾燥工程における乾燥温度は40〜200℃で段階的に高くしていくことが好ましく、50〜140℃の範囲で行うことが寸法安定性を良くするため更に好ましい。
【0190】
セルロースエステルフィルムの膜厚は、特に限定はされないが10〜200μmが用いられる。特に膜厚は10〜70μmであることが特に好ましい。更に好ましくは20〜60μmである。最も好ましくは35〜60μmである。
【0191】
本発明のセルロースエステルフィルムは、幅1〜4mのものが用いられる。特に幅1.4〜4mのものが好ましく用いられ、特に好ましくは1.4〜2mである。4mを超えると搬送が困難となる。
【0192】
〈物性〉
本発明のセルロースエステルフィルムの透湿度は、40℃、90%RHで10〜1200g/m・24hが好ましく、さらに20〜1000g/m・24hが好ましく、20〜850g/m・24hが特に好ましい。透湿度はJIS Z 0208に記載の方法に従い測定することが出来る。
【0193】
本発明のセルロースエステルフィルムは破断伸度は10〜80%であることが好ましく20〜50%であることが更に好ましい。
【0194】
本発明のセルロースエステルフィルムの可視光透過率は90%以上であることが好ましく、93%以上であることが更に好ましい。
【0195】
本発明のセルロースエステルフィルムのヘイズは1%未満であることが好ましく0〜0.1%であることが特に好ましい。
【0196】
本発明の透明支持体Aの面内レターデーション値Roは0〜70nm以下であることが好ましい。より好ましくは0〜30nm以下であリ、より好ましくは0〜10nm以下である。膜厚方向のレターデーション値Rtは、400nm以下であることが好ましく、−50〜200nmであることが好ましく、更に−5〜100nmであることが好ましい。
【0197】
レターデーション値Ro、Rtは前記式(I)、(II)によって求めることが出来る。
【0198】
尚、レターデーション値Ro、Rtは自動複屈折率計を用いて測定することが出来る。例えば、KOBRA−21ADH(王子計測機器(株))を用いて、23℃、55%RHの環境下で、波長が590nmで求めることが出来る。
【0199】
また、遅相軸はフィルムの幅手方向±1°若しくは長尺方向±1°にあることが好ましい。
【0200】
得られたセルロースエステルフィルム(a)には、後述する活性線硬化樹脂層及び反射防止層が塗設され、反射防止フィルムとして用いることも出来る。
【0201】
次に本発明に係る透明支持体Bについて説明する。
【0202】
本発明に係る透明支持体Bは、前記式(I)により定義されるレターデーション値Roが0〜10nm、かつ前記式(II)により定義されるレターデーション値Rtが−30〜20nmの範囲である延伸セルロースエステルフィルム(b)であることを特徴とする。
【0203】
更に前記式(I)により定義されるレターデーション値Roが0〜5nmであり、かつ前記式(II)により定義されるレターデーション値Rtが−10〜10nmの範囲であることが本発明の効果を得る上で好ましい。
【0204】
〈ポリマー〉
本発明のセルロースエステルフィルム(b)は、上記レターデーション値Ro、Rtを同時に満足する為に、延伸方向に対して負の複屈折を示すポリマーを含有させることが好ましい。該ポリマーとして特に限定されるものではないが、例えばエチレン性不飽和モノマーを重合して得られた重量平均分子量が500以上30000以下であるポリマーを含有することが好ましい。
【0205】
更に、本発明のセルロースエステルフィルム(b)は、延伸方向に対して負の複屈折を示す重量平均分子量が500以上30000以下であるアクリル系ポリマーを含有することも好ましく、該アクリル系ポリマーは芳香環を側鎖に有するアクリル系ポリマーまたはシクロヘキシル基を側鎖に有するアクリル系ポリマーであることが好ましい。
【0206】
該ポリマーの重量平均分子量が500〜30000以下のもので該ポリマーの組成を制御することで、セルロースエステルと該ポリマーとの相溶性を良好にすることができる。特に、アクリル系ポリマー、芳香環を側鎖に有するアクリル系ポリマーまたはシクロヘキシル基を側鎖に有するアクリル系ポリマーについて、好ましくは重量平均分子量が500〜10000のものであれば、上記に加え、製膜後のセルロースエステルフィルムの透明性が優れ、透湿度も極めて低く、偏光板用保護フィルムとして優れた性能を示す。
【0207】
該ポリマーは重量平均分子量が500以上30000以下であるから、オリゴマーから低分子量ポリマーの間にあると考えられるものである。このようなポリマーを合成するには、通常の重合では分子量のコントロールが難しく、分子量をあまり大きくしない方法で出来るだけ分子量を揃えることの出来る方法を用いることが望ましい。かかる重合方法としては、クメンペルオキシドやt−ブチルヒドロペルオキシドのような過酸化物重合開始剤を使用する方法、重合開始剤を通常の重合より多量に使用する方法、重合開始剤の他にメルカプト化合物や四塩化炭素等の連鎖移動剤を使用する方法、重合開始剤の他にベンゾキノンやジニトロベンゼンのような重合停止剤を使用する方法、更に特開2000−128911号または同2000−344823号公報にあるような一つのチオール基と2級の水酸基とを有する化合物、或いは、該化合物と有機金属化合物を併用した重合触媒を用いて塊状重合する方法等を挙げることが出来、何れも本発明において好ましく用いられるが、特に、該公報に記載の方法が好ましい。
【0208】
本発明に有用なポリマーを構成するモノマー単位としてのモノマーを下記に挙げるがこれに限定されない。
【0209】
エチレン性不飽和モノマーを重合して得られるポリマーを構成するエチレン性不飽和モノマー単位としては:ビニルエステルとして、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、吉草酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプロン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ミリスチン酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、シクロヘキサンカルボン酸ビニル、オクチル酸ビニル、メタクリル酸ビニル、クロトン酸ビニル、ソルビン酸ビニル、安息香酸ビニル、桂皮酸ビニル等;アクリル酸エステルとして、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル(i−、n−)、アクリル酸ブチル(n−、i−、s−、t−)、アクリル酸ペンチル(n−、i−、s−)、アクリル酸ヘキシル(n−、i−)、アクリル酸ヘプチル(n−、i−)、アクリル酸オクチル(n−、i−)、アクリル酸ノニル(n−、i−)、アクリル酸ミリスチル(n−、i−)、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸(2−エチルヘキシル)、アクリル酸ベンジル、アクリル酸フェネチル、アクリル酸(ε−カプロラクトン)、アクリル酸(2−ヒドロキシエチル)、アクリル酸(2−ヒドロキシプロピル)、アクリル酸(3−ヒドロキシプロピル)、アクリル酸(4−ヒドロキシブチル)、アクリル酸(2−ヒドロキシブチル)、アクリル酸−p−ヒドロキシメチルフェニル、アクリル酸−p−(2−ヒドロキシエチル)フェニル等;メタクリル酸エステルとして、上記アクリル酸エステルをメタクリル酸エステルに変えたもの;不飽和酸として、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸、クロトン酸、イタコン酸等を挙げることが出来る。上記モノマーで構成されるポリマーはコポリマーでもホモポリマーでもよく、ビニルエステルのホモポリマー、ビニルエステルのコポリマー、ビニルエステルとアクリル酸またはメタクリル酸エステルとのコポリマーが好ましい。
【0210】
本発明において、アクリル系ポリマーという(単にアクリル系ポリマーという)のは、芳香環或いはシクロヘキシル基を有するモノマー単位を有しないアクリル酸またはメタクリル酸アルキルエステルのホモポリマーまたはコポリマーを指す。芳香環を側鎖に有するアクリル系ポリマーというのは、必ず芳香環を有するアクリル酸またはメタクリル酸エステルモノマー単位を含有するアクリル系ポリマーである。また、シクロヘキシル基を側鎖に有するアクリル系ポリマーというのは、シクロヘキシル基を有するアクリル酸またはメタクリル酸エステルモノマー単位を含有するアクリル系ポリマーである。
【0211】
芳香環及びシクロヘキシル基を有さないアクリル酸エステルモノマーとしては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル(i−、n−)、アクリル酸ブチル(n−、i−、s−、t−)、アクリル酸ペンチル(n−、i−、s−)、アクリル酸ヘキシル(n−、i−)、アクリル酸ヘプチル(n−、i−)、アクリル酸オクチル(n−、i−)、アクリル酸ノニル(n−、i−)、アクリル酸ミリスチル(n−、i−)、アクリル酸(2−エチルヘキシル)、アクリル酸(ε−カプロラクトン)、アクリル酸(2−ヒドロキシエチル)、アクリル酸(2−ヒドロキシプロピル)、アクリル酸(3−ヒドロキシプロピル)、アクリル酸(4−ヒドロキシブチル)、アクリル酸(2−ヒドロキシブチル)、アクリル酸(2−メトキシエチル)、アクリル酸(2−エトキシエチル)等、または上記アクリル酸エステルをメタクリル酸エステルに変えたものを挙げることが出来る。
【0212】
アクリル系ポリマーは上記モノマーのホモポリマーまたはコポリマーであるが、アクリル酸メチルエステルモノマー単位が30質量%以上を有していることが好ましく、また、メタクリル酸メチルエステルモノマー単位が40質量%以上有することが好ましい。特にアクリル酸メチルまたはメタクリル酸メチルのホモポリマーが好ましい。
【0213】
芳香環を有するアクリル酸またはメタクリル酸エステルモノマーとしては、例えば、アクリル酸フェニル、メタクリル酸フェニル、アクリル酸(2または4−クロロフェニル)、メタクリル酸(2または4−クロロフェニル)、アクリル酸(2または3または4−エトキシカルボニルフェニル)、メタクリル酸(2または3または4−エトキシカルボニルフェニル)、アクリル酸(oまたはmまたはp−トリル)、メタクリル酸(oまたはmまたはp−トリル)、アクリル酸ベンジル、メタクリル酸ベンジル、アクリル酸フェネチル、メタクリル酸フェネチル、アクリル酸(2−ナフチル)等を挙げることが出来るが、アクリル酸ベンジル、メタクリル酸ベンジル、アクリル酸フェニチル、メタクリル酸フェネチルを好ましく用いることが出来る。
【0214】
芳香環を側鎖に有するアクリル系ポリマー中、芳香環を有するアクリル酸またはメタクリル酸エステルモノマー単位が20〜40質量%を有し、且つアクリル酸またはメタクリル酸メチルエステルモノマー単位を50〜80質量%有することが好ましい。該ポリマー中、水酸基を有するアクリル酸またはメタクリル酸エステルモノマー単位を2〜20質量%有することが好ましい。
【0215】
シクロヘキシル基を有するアクリル酸エステルモノマーとしては、例えば、アクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸(4−メチルシクロヘキシル)、メタクリル酸(4−メチルシクロヘキシル)、アクリル酸(4−エチルシクロヘキシル)、メタクリル酸(4−エチルシクロヘキシル)等を挙げることが出来るが、アクリル酸シクロヘキシル及びメタクリル酸シクロヘキシルを好ましく用いることが出来る。
【0216】
シクロヘキシル基を側鎖に有するアクリル系ポリマー中、シクロヘキシル基を有するアクリル酸またはメタクリル酸エステルモノマー単位を20〜40質量%を有し且つ50〜80質量%有することが好ましい。また、該ポリマー中、水酸基を有するアクリル酸またはメタクリル酸エステルモノマー単位を2〜20質量%有することが好ましい。
【0217】
上述のエチレン性不飽和モノマーを重合して得られるポリマー、アクリル系ポリマー、芳香環を側鎖に有するアクリル系ポリマー及びシクロヘキシル基を側鎖に有するアクリル系ポリマーは何れもセルロース樹脂との相溶性に優れる。
【0218】
これらの水酸基を有するアクリル酸またはメタクリル酸エステルモノマーの場合はホモポリマーではなく、コポリマーの構成単位である。この場合、好ましくは、水酸基を有するアクリル酸またはメタクリル酸エステルモノマー単位がアクリル系ポリマー中2〜20質量%含有することが好ましい。
【0219】
本発明において、側鎖に水酸基を有するポリマーも好ましく用いることが出来る。水酸基を有するモノマー単位としては、前記したモノマーと同様であるが、アクリル酸またはメタクリル酸エステルが好ましく、例えば、アクリル酸(2−ヒドロキシエチル)、アクリル酸(2−ヒドロキシプロピル)、アクリル酸(3−ヒドロキシプロピル)、アクリル酸(4−ヒドロキシブチル)、アクリル酸(2−ヒドロキシブチル)、アクリル酸−p−ヒドロキシメチルフェニル、アクリル酸−p−(2−ヒドロキシエチル)フェニル、またはこれらアクリル酸をメタクリル酸に置き換えたものを挙げることが出来、好ましくは、アクリル酸−2−ヒドロキシエチル及びメタクリル酸−2−ヒドロキシエチルである。ポリマー中に水酸基を有するアクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステルモノマー単位はポリマー中2〜20質量%含有することが好ましく、より好ましくは2〜10質量%である。
【0220】
前記のようなポリマーが上記の水酸基を有するモノマー単位を2〜20質量%含有したものは、勿論セルロース樹脂との相溶性、保留性、寸法安定性が優れ、透湿度が小さいばかりでなく、偏光板用保護フィルムとしての偏光子との接着性に特に優れ、偏光板の耐久性が向上する効果を有している。
【0221】
アクリルポリマーの主鎖の少なくとも一方の末端に水酸基を有するようにする方法は、特に主鎖の末端に水酸基を有するようにする方法であれば限定ないが、アゾビス(2−ヒドロキシエチルブチレート)のような水酸基を有するラジカル重合開始剤を使用する方法、2−メルカプトエタノールのような水酸基を有する連鎖移動剤を使用する方法、水酸基を有する重合停止剤を使用する方法、リビングイオン重合により水酸基を末端に有するようにする方法、特開2000−128911号または2000−344823号公報にあるような一つのチオール基と2級の水酸基とを有する化合物、或いは、該化合物と有機金属化合物を併用した重合触媒を用いて塊状重合する方法等により得ることが出来、特に該公報に記載の方法が好ましい。この公報記載に関連する方法で作られたポリマーは、綜研化学社製のアクトフロー・シリーズとして市販されており、好ましく用いることが出来る。上記の末端に水酸基を有するポリマー及び/または側鎖に水酸基を有するポリマーは、本発明において、ポリマーの相溶性、透明性を著しく向上する効果を有する。
【0222】
更に、延伸方向に対して負の複屈折性を示すエチレン性不飽和モノマーとして、スチレン類を用いたポリマーであることが負の屈折性を発現させるために好ましい。スチレン類としては、例えば、スチレン、メチルスチレン、ジメチルスチレン、トリメチルスチレン、エチルスチレン、イソプロピルスチレン、クロロメチルスチレン、メトキシスチレン、アセトキシスチレン、クロロスチレン、ジクロロスチレン、ブロモスチレン、ビニル安息香酸メチルエステルなどが挙げられるが、これらに限定される物ではない。前記不飽和エチレン性モノマーとして挙げた例示モノマーと共重合してもよく、また複屈折を制御する目的で、2種以上の上記ポリマーをもちいてセルロース樹脂に相溶させて用いても良い。
【0223】
本発明のRoおよびRtを調整する方法としては、種々の方法が知られておりいずれを採用することもできるが、透明性の点から、分子内に芳香環と親水性基を有しないエチレン性不飽和モノマーXaと分子内に芳香環を有せず、親水性基を有するエチレン性不飽和モノマーXbとを共重合して得られた重量平均分子量5000以上30000以下のポリマーX、そしてより好ましくは、芳香環を有さないエチレン性不飽和モノマーYaを重合して得られた重量平均分子量500以上3000以下のポリマーYとを含有したセルロースエステルフィルムであることが好ましい。
【0224】
一般にモノマー中、特に主鎖に芳香環を有する物質はセルロースエステルの複屈折性と同様に正の複屈折性を持つことが知られており、セルロースエステルフィルムのリターデーション値Rtを打ち消さないため、負の複屈折性を持つ材料をフィルム中に添加することが好ましい。
【0225】
本発明のポリマーXは分子内に芳香環と親水性基を有しないエチレン性不飽和モノマーXaと分子内に芳香環を有せず、親水性基を有するエチレン性不飽和モノマーXbとを共重合して得られた重量平均分子量5000以上30000以下のポリマーである。
【0226】
好ましくは、Xaは分子内に芳香環と親水性基を有しないアクリルまたはメタクリルモノマー、Xbは分子内に芳香環を有せず親水性基を有するアクリルまたはメタクリルモノマーである。
【0227】
本発明のポリマーXは、下記一般式(8)で表される。
【0228】
一般式(8)
−(Xa)m−(Xb)n−(Xc)p−
さらに好ましくは、下記一般式(8−1)で表されるポリマーである。
【0229】
一般式(8−1)
−[CH−C(−R)(−CO)]m−[CH−C(−R)(−CO
−OH)−]n−[Xc]p−
(式中、R、Rは、それぞれHまたはCHを表す。Rは炭素数1〜12のアルキル基またはシクロアルキル基を表す。Rは−CH−、−C−または−C−を表す。Xcは、Xa、Xbに重合可能なモノマー単位を表す。m、nおよびpは、モル組成比を表す。ただしm≠0、n≠0、m+n+p=100である。)
本発明に用いられるポリマーXを構成するモノマー単位としてのモノマーを下記に挙げるがこれに限定されない。
【0230】
Xにおいて、親水性基とは、水酸基、エチレンオキシド連鎖を有する基をいう。
【0231】
分子内に芳香環と親水性基を有しないエチレン性不飽和モノマーXaは、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル(i−、n−)、アクリル酸ブチル(n−、i−、s−、t−)、アクリル酸ペンチル(n−、i−、s−)、アクリル酸ヘキシル(n−、i−)、アクリル酸ヘプチル(n−、i−)、アクリル酸オクチル(n−、i−)、アクリル酸ノニル(n−、i−)、アクリル酸ミリスチル(n−、i−)、アクリル酸(2−エチルヘキシル)、アクリル酸(ε−カプロラクトン)、アクリル酸(2−ヒドロキシエチル)、アクリル酸(2−エトキシエチル)等、または上記アクリル酸エステルをメタクリル酸エステルに変えたものを挙げることが出来る。中でも、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル(i−、n−)であることが好ましい。
【0232】
分子内に芳香環を有せず、親水性基を有するエチレン性不飽和モノマーXbは、水酸基を有するモノマー単位として、アクリル酸またはメタクリル酸エステルが好ましく、例えば、アクリル酸(2−ヒドロキシエチル)、アクリル酸(2−ヒドロキシプロピル)、アクリル酸(3−ヒドロキシプロピル)、アクリル酸(4−ヒドロキシブチル)、アクリル酸(2−ヒドロキシブチル)、またはこれらアクリル酸をメタクリル酸に置き換えたものを挙げることが出来、好ましくは、アクリル酸(2−ヒドロキシエチル)及びメタクリル酸(2−ヒドロキシエチル)、アクリル酸(2−ヒドロキシプロピル)、アクリル酸(3−ヒドロキシプロピル)である。
【0233】
本発明では、上記Xcとしては、Xa、Xb以外のものでかつ共重合可能なエチレン性不飽和モノマーであれば、特に制限はないが、芳香環を有していないものが好ましい。
【0234】
Xa、XbおよびXcのモル組成比m:nは99:1〜65:35の範囲が好ましく、更に好ましくは95:5〜75:25の範囲である。Xcのpは0〜10である。Xcは複数のモノマー単位であってもよい。
【0235】
Xaのモル組成比が多いとセルロースエステルとの相溶性が良化するがフィルム厚み方向のリターデーション値Rthが大きくなる。Xbのモル組成比が多いと上記相溶性が悪くなるが、Rthを低減させる効果が高い。また、Xbのモル組成比が上記範囲を超えると製膜時にヘイズが出る傾向があり、これらの最適化を図りXa、Xbのモル組成比を決めることが好ましい。
【0236】
ポリマーXの分子量は重量平均分子量が5000以上30000以下であり、更に好ましくは8000以上25000以下である。
【0237】
重量平均分子量を5000以上とすることにより、セルロースエステルフィルムの、高温高湿下における寸法変化が少ない、偏光板保護フィルムとしてカールが少ない等の利点が得られ好ましい。重量平均分子量が30000を以内とした場合は、セルロースエステルとの相溶性がより向上し、高温高湿下においてのブリードアウト、さらには製膜直後でのヘイズの発生が抑制される。
【0238】
本発明に用いられるポリマーXの重量平均分子量は、公知の分子量調節方法で調整することが出来る。そのような分子量調節方法としては、例えば四塩化炭素、ラウリルメルカプタン、チオグリコール酸オクチル等の連鎖移動剤を添加する方法等が挙げられる。また、重合温度は通常室温から130℃、好ましくは50℃から100℃で行われるが、この温度または重合反応時間を調整することで可能である。
【0239】
本発明に用いられるポリマーYは芳香環を有さないエチレン性不飽和モノマーYaを重合して得られた重量平均分子量500以上3000以下のポリマーであり、下記一般式(9)で表されるポリマーであることが好ましい。
【0240】
重量平均分子量500以上ではポリマーの残存モノマーが減少し好ましい。また、3000以下とすることは、リターデーション値Rt低下性能を維持するために好ましい。Yaは、好ましくは芳香環を有さないアクリルまたはメタクリルモノマーである。
【0241】
本発明のポリマーYは、下記一般式(9)で表される。
【0242】
一般式(9)
−(Ya)k−(Yb)q−
さらに好ましくは、下記一般式(9−1)で表されるポリマーである。
【0243】
一般式(9−1)
−[CH−C(−R)(−CO)]k−[Yb]q−
(式中、Rは、HまたはCHを表す。Rは炭素数1〜12のアルキル基またはシクロアルキル基を表す。Ybは、Yaと共重合可能なモノマー単位を表す。kおよびqは、モル組成比を表す。ただしk≠0、k+q=100である。)
Ybは、Yaと共重合可能なエチレン性不飽和モノマーであれば特に制限はない。Ybは複数であってもよい。k+q=100、qは好ましくは0〜30である。
【0244】
芳香環を有さないエチレン性不飽和モノマーを重合して得られるポリマーYを構成するエチレン性不飽和モノマーYaはアクリル酸エステルとして、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル(i−、n−)、アクリル酸ブチル(n−、i−、s−、t−)、アクリル酸ペンチル(n−、i−、s−)、アクリル酸ヘキシル(n−、i−)、アクリル酸ヘプチル(n−、i−)、アクリル酸オクチル(n−、i−)、アクリル酸ノニル(n−、i−)、アクリル酸ミリスチル(n−、i−)、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸(2−エチルヘキシル)、アクリル酸(ε−カプロラクトン)、アクリル酸(2−ヒドロキシエチル)、アクリル酸(2−ヒドロキシプロピル)、アクリル酸(3−ヒドロキシプロピル)、アクリル酸(4−ヒドロキシブチル)、アクリル酸(2−ヒドロキシブチル)、メタクリル酸エステルとして、上記アクリル酸エステルをメタクリル酸エステルに変えたもの;不飽和酸として、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸、クロトン酸、イタコン酸等を挙げることが出来る。
【0245】
Ybは、Yaと共重合可能なエチレン性不飽和モノマーであれば特に制限はないが、ビニルエステルとして、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、吉草酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプロン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ミリスチン酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、シクロヘキサンカルボン酸ビニル、オクチル酸ビニル、メタクリル酸ビニル、クロトン酸ビニル、ソルビン酸ビニル、桂皮酸ビニル等が好ましい。Ybは複数であってもよい。
【0246】
ポリマーX、Yを合成するには、通常の重合では分子量のコントロールが難しく、分子量をあまり大きくしない方法で出来るだけ分子量を揃えることの出来る方法を用いることが望ましい。かかる重合方法としては、クメンペルオキシドやt−ブチルヒドロペルオキシドのような過酸化物重合開始剤を使用する方法、重合開始剤を通常の重合より多量に使用する方法、重合開始剤の他にメルカプト化合物や四塩化炭素等の連鎖移動剤を使用する方法、重合開始剤の他にベンゾキノンやジニトロベンゼンのような重合停止剤を使用する方法、更に特開2000−128911号または同2000−344823号公報にあるような一つのチオール基と2級の水酸基とを有する化合物、あるいは、該化合物と有機金属化合物を併用した重合触媒を用いて塊状重合する方法等を挙げることが出来、何れも本発明において好ましく用いられるが、特に、分子中にチオール基と2級の水酸基とを有する化合物を連鎖移動剤として使用する重合方法が好ましい。この場合、ポリマーXおよびポリマーYの末端には、重合触媒および連鎖移動剤に起因する水酸基、チオエーテルを有することとなる。この末端残基により、ポリマーX、Yとセルロースエステルとの相溶性を調整することができる。
【0247】
ポリマーXおよびYの水酸基価は30〜150[mgKOH/g]であることが好ましい。
【0248】
(水酸基価の測定方法)
この測定は、JIS K 0070(1992)に準ずる。この水酸基価は、試料1gをアセチル化させたとき、水酸基と結合した酢酸を中和するのに必要とする水酸化カリウムのmg数と定義される。具体的には試料Xg(約1g)をフラスコに精秤し、これにアセチル化試薬(無水酢酸20mlにピリジンを加えて400mlにしたもの)20mlを正確に加える。フラスコの口に空気冷却管を装着し、95〜100℃のグリセリン浴にて加熱する。1時間30分後、冷却し、空気冷却管から精製水1mlを加え、無水酢酸を酢酸に分解する。次に電位差滴定装置を用いて0.5mol/L水酸化カリウムエタノール溶液で滴定を行い、得られた滴定曲線の変曲点を終点とする。更に空試験として、試料を入れないで滴定し、滴定曲線の変曲点を求める。水酸基価は、次の式によって算出する。
【0249】
水酸基価={(B−C)×f×28.05/X}+D
(式中、Bは空試験に用いた0.5mol/Lの水酸化カリウムエタノール溶液の量(ml)、Cは滴定に用いた0.5mol/Lの水酸化カリウムエタノール溶液の量(ml)、fは0.5mol/L水酸化カリウムエタノール溶液のファクター、Dは酸価、また、28.05は水酸化カリウムの1mol量56.11の1/2を表す)
上述のXポリマーポリマーYは何れもセルロースエステルとの相溶性に優れ、蒸発や揮発もなく生産性に優れ、偏光板用保護フィルムとしての保留性がよく、透湿度が小さく、寸法安定性に優れている。
【0250】
ポリマーXとポリマーYのセルロースエステルフィルム中での含有量は、下記式(i)、式(ii)を満足する範囲であることが好ましい。ポリマーXの含有量をXg(質量%=ポリマーXの質量/セルロースエステルの質量 ×100)、ポリマーYの含有量をYg(質量%)とすると、
式(i) 5≦Xg+Yg≦35(質量%)
式(ii) 0.05≦Yg/(Xg+Yg)≦0.4
式(i)の好ましい範囲は、10〜25質量%である。
【0251】
ポリマーXとポリマーYは総量として5質量%以上であれば、リターデーション値Rthの低減に十分な作用をする。また、総量として35質量%以下であれば、偏光子PVAとの接着性が良好である。
【0252】
ポリマーXとポリマーYは後述するドープ液を構成する素材として直接添加、溶解するか、もしくはセルロースエステルを溶解する有機溶媒に予め溶解した後ドープ液に添加することが出来る。
【0253】
本発明の透明支持体A及びBであるセルロースエステルフィルムは、高い透湿性、寸法安定性などから液晶表示用部材に用いられるのが好ましい。液晶表示用部材とは液晶表示装置に使用される部材のことで、例えば、偏光板、偏光板用保護フィルム、位相差板、反射板、視野角向上フィルム、光学補償フィルム、防眩フィルム、無反射フィルム、帯電防止フィルム、反射防止フィルム、光拡散フィルム等が挙げられる。上記記載の中でも、偏光板、偏光板用保護フィルム、反射防止フィルムに用いるのが好ましい。特に、偏光板保護フィルムとして液晶表示装置の最表面に用いられる場合は、フィルム表面に反射防止層を設けることが好ましい。
【0254】
(活性線硬化樹脂層)
本発明は、前記セルロースエステルフィルム上に活性線硬化樹脂層が塗設されることが好ましい。特に透明支持体Aに活性線硬化樹脂層が設けられることが好ましい。
【0255】
該活性線硬化樹脂層は、ハードコート層であることが好ましく、JIS−S−6006が規定する試験用鉛筆を用いて、JIS−K−5400が規定する鉛筆硬度評価を行い、鉛筆硬度H〜8Hであることが好ましく、2H〜4Hであることが特に好ましい。
【0256】
以下、ハードコート層として用いられる活性線硬化樹脂層の製造方法について述べる。
【0257】
本発明のセルロースエステルフィルムに用いられる、ハードコート層として活性線硬化樹脂層が好ましく用いられる。
【0258】
活性線硬化樹脂層とは紫外線や電子線のような活性線照射により架橋反応等を経て硬化する樹脂を主たる成分とする層をいう。活性線硬化樹脂としては、エチレン性不飽和二重結合を有するモノマーを含む成分が好ましく用いられ、紫外線や電子線のような活性線を照射することによって硬化させてハードコート層が形成される。活性線硬化樹脂としては紫外線硬化性樹脂や電子線硬化性樹脂等が代表的なものとして挙げられるが、紫外線照射によって硬化する樹脂が好ましい。
【0259】
紫外線硬化性樹脂としては、例えば、紫外線硬化型ウレタンアクリレート系樹脂、紫外線硬化型ポリエステルアクリレート系樹脂、紫外線硬化型エポキシアクリレート系樹脂、紫外線硬化型ポリオールアクリレート系樹脂、または紫外線硬化型エポキシ樹脂等が好ましく用いられる。
【0260】
紫外線硬化型アクリルウレタン系樹脂は、一般にポリエステルポリオールにイソシアネートモノマー、またはプレポリマーを反応させて得られた生成物に更に2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート(以下アクリレートにはメタクリレートを包含するものとしてアクリレートのみを表示する)、2−ヒドロキシプロピルアクリレート等の水酸基を有するアクリレート系のモノマーを反応させることによって容易に得ることが出来る。例えば、特開昭59−151110号に記載のものを用いることが出来る。
【0261】
例えば、ユニディック17−806(大日本インキ(株)製)100部とコロネートL(日本ポリウレタン(株)製)1部との混合物等が好ましく用いられる。
【0262】
紫外線硬化型ポリエステルアクリレート系樹脂としては、一般にポリエステルポリオールに2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシアクリレート系のモノマーを反応させると容易に形成されるものを挙げることが出来、特開昭59−151112号に記載のものを用いることが出来る。
【0263】
紫外線硬化型エポキシアクリレート系樹脂の具体例としては、エポキシアクリレートをオリゴマーとし、これに反応性希釈剤、光反応開始剤を添加し、反応させて生成するものを挙げることが出来、特開平1−105738号に記載のものを用いることが出来る。
【0264】
紫外線硬化型ポリオールアクリレート系樹脂の具体例としては、トリメチロールプロパントリアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、アルキル変性ジペンタエリスリトールペンタアクリレート等を挙げることが出来る。
【0265】
これら紫外線硬化性樹脂の光反応開始剤としては、具体的には、ベンゾイン及びその誘導体、アセトフェノン、ベンゾフェノン、ヒドロキシベンゾフェノン、ミヒラーズケトン、α−アミロキシムエステル、チオキサントン等及びこれらの誘導体を挙げることが出来る。光増感剤と共に使用してもよい。上記光反応開始剤も光増感剤として使用出来る。また、エポキシアクリレート系の光反応開始剤の使用の際、n−ブチルアミン、トリエチルアミン、トリ−n−ブチルホスフィン等の増感剤を用いることが出来る。紫外線硬化樹脂組成物に用いられる光反応開始剤また光増感剤は該組成物100質量部に対して0.1〜15質量部であり、好ましくは1〜10質量部である。
【0266】
樹脂モノマーとしては、例えば、不飽和二重結合が一つのモノマーとして、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、ベンジルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、酢酸ビニル、スチレン等の一般的なモノマーを挙げることが出来る。また不飽和二重結合を二つ以上持つモノマーとして、エチレングリコールジアクリレート、プロピレングリコールジアクリレート、ジビニルベンゼン、1,4−シクロヘキサンジアクリレート、1,4−シクロヘキシルジメチルアジアクリレート、前出のトリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリルエステル等を挙げることが出来る。
【0267】
本発明において使用し得る紫外線硬化樹脂の市販品としては、アデカオプトマーKR・BYシリーズ:KR−400、KR−410、KR−550、KR−566、KR−567、BY−320B(旭電化(株)製);コーエイハードA−101−KK、A−101−WS、C−302、C−401−N、C−501、M−101、M−102、T−102、D−102、NS−101、FT−102Q8、MAG−1−P20、AG−106、M−101−C(広栄化学(株)製);セイカビームPHC2210(S)、PHC X−9(K−3)、PHC2213、DP−10、DP−20、DP−30、P1000、P1100、P1200、P1300、P1400、P1500、P1600、SCR900(大日精化工業(株)製);KRM7033、KRM7039、KRM7130、KRM7131、UVECRYL29201、UVECRYL29202(ダイセル・ユーシービー(株)製);RC−5015、RC−5016、RC−5020、RC−5031、RC−5100、RC−5102、RC−5120、RC−5122、RC−5152、RC−5171、RC−5180、RC−5181(大日本インキ化学工業(株)製);オーレックスNo.340クリヤ(中国塗料(株)製);サンラッドH−601、RC−750、RC−700、RC−600、RC−500、RC−611、RC−612(三洋化成工業(株)製);SP−1509、SP−1507(昭和高分子(株)製);RCC−15C(グレース・ジャパン(株)製)、アロニックスM−6100、M−8030、M−8060(東亞合成(株)製)等を適宜選択して利用出来る。
【0268】
また、具体的化合物例としては、トリメチロールプロパントリアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、アルキル変性ジペンタエリスリトールペンタアクリレート等を挙げることが出来る。
【0269】
これらの活性線硬化樹脂層はグラビアコーター、ディップコーター、リバースコーター、ワイヤーバーコーター、ダイコーター、インクジェット法等公知の方法で塗設することが出来る。
【0270】
紫外線硬化性樹脂を光硬化反応により硬化させ、硬化皮膜層を形成する為の光源としては、紫外線を発生する光源であれば制限なく使用出来る。例えば、低圧水銀灯、中圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、カーボンアーク灯、メタルハライドランプ、キセノンランプ等を用いることが出来る。照射条件はそれぞれのランプによって異なるが、活性線の照射量は好ましくは、5〜150mJ/cmであり、特に好ましくは20〜100mJ/cmである。
【0271】
また、活性線を照射する際には、フィルムの搬送方向に張力を付与しながら行うことが好ましく、更に好ましくは幅方向にも張力を付与しながら行うことである。付与する張力は30〜300N/mが好ましい。張力を付与する方法は特に限定されず、バックロール上で搬送方向に張力を付与してもよく、テンターにて幅方向、若しくは2軸方向に張力を付与してもよい。これによって更に平面性が優れたフィルムを得ることが出来る。
【0272】
紫外線硬化樹脂層組成物塗布液の有機溶媒としては、例えば、炭化水素類(トルエン、キシレン、)、アルコール類(メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、シクロヘキサノール)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン)、エステル類(酢酸メチル、酢酸エチル、乳酸メチル)、グリコールエーテル類、その他の有機溶媒の中から適宜選択し、或いはこれらを混合し利用出来る。プロピレングリコールモノアルキルエーテル(アルキル基の炭素原子数として1〜4)またはプロピレングリコールモノアルキルエーテル酢酸エステル(アルキル基の炭素原子数として1〜4)等を5質量%以上、より好ましくは5〜80質量%以上含有する上記有機溶媒を用いるのが好ましい。
【0273】
また、紫外線硬化樹脂層組成物塗布液には、特にシリコン化合物を添加することが好ましい。例えば、ポリエーテル変性シリコーンオイルなどが好ましく添加される。ポリエーテル変性シリコーンオイルの数平均分子量は、例えば、1000〜100000、好ましくは、2000〜50000が適当であり、数平均分子量が1000未満では、塗膜の乾燥性が低下し、逆に、数平均分子量が100000を越えると、塗膜表面にブリードアウトしにくくなる傾向にある。
【0274】
シリコン化合物の市販品としては、DKQ8−779(ダウコーニング社製商品名)、SF3771、SF8410、SF8411、SF8419、SF8421、SF8428、SH200、SH510、SH1107、SH3749、SH3771、BX16−034、SH3746、SH3749、SH8400、SH3771M、SH3772M、SH3773M、SH3775M、BY−16−837、BY−16−839、BY−16−869、BY−16−870、BY−16−004、BY−16−891、BY−16−872、BY−16−874、BY22−008M、BY22−012M、FS−1265(以上、東レ・ダウコーニングシリコーン社製商品名)、KF−101、KF−100T、KF351、KF352、KF353、KF354、KF355、KF615、KF618、KF945、KF6004、シリコーンX−22−945、X22−160AS(以上、信越化学工業社製商品名)、XF3940、XF3949(以上、東芝シリコーン社製商品名)、ディスパロンLS−009(楠本化成社製)、グラノール410(共栄社油脂化学工業(株)製)、TSF4440、TSF4441、TSF4445、TSF4446、TSF4452、TSF4460(GE東芝シリコーン製)、BYK−306、BYK−330、BYK−307、BYK−341、BYK−344、BYK−361(ビックケミ−ジャパン社製)日本ユニカー(株)製のLシリーズ(例えばL7001、L−7006、L−7604、L−9000)、Yシリーズ、FZシリーズ(FZ−2203、FZ−2206、FZ−2207)等が挙げられ、好ましく用いられる。
【0275】
これらの成分は基材や下層への塗布性を高める。積層体最表面層に添加した場合には、塗膜の撥水、撥油性、防汚性を高めるばかりでなく、表面の耐擦り傷性にも効果を発揮する。これらの成分は、塗布液中の固形分成分に対し、0.01〜3質量%の範囲で添加することが好ましい。
【0276】
紫外線硬化性樹脂組成物塗布液の塗布方法としては、前述のものを用いることが出来る。塗布量はウェット膜厚として0.1〜30μmが適当で、好ましくは、0.5〜15μmである。また、ドライ膜厚としては0.1〜20μm、好ましくは1〜10μmである。
【0277】
紫外線硬化性樹脂組成物は塗布乾燥中または後に、紫外線を照射するのがよく、前記の5〜150mJ/cmという活性線の照射量を得る為の照射時間としては、0.1秒〜5分程度がよく、紫外線硬化性樹脂の硬化効率または作業効率の観点から0.1〜10秒がより好ましい。
【0278】
また、これら活性線照射部の照度は50〜150mW/mであることが好ましい。
【0279】
こうして得た硬化樹脂層に、ブロッキングを防止する為、また対擦り傷性等を高める為、或いは防眩性や光拡散性を持たせる為また屈折率を調整する為に無機化合物或いは有機化合物の微粒子を加えることも出来る。
【0280】
ハードコート層に使用される無機微粒子としては、酸化珪素、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸カルシウム、タルク、クレイ、焼成カオリン、焼成珪酸カルシウム、水和珪酸カルシウム、珪酸アルミニウム、珪酸マグネシウム及びリン酸カルシウムを挙げることが出来る。特に、酸化珪素、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウムなどが好ましく用いられる。
【0281】
また有機微粒子としては、ポリメタアクリル酸メチルアクリレート樹脂粉末、アクリルスチレン系樹脂粉末、ポリメチルメタクリレート樹脂粉末、シリコン系樹脂粉末、ポリスチレン系樹脂粉末、ポリカーボネート樹脂粉末、ベンゾグアナミン系樹脂粉末、メラミン系樹脂粉末、ポリオレフィン系樹脂粉末、ポリエステル系樹脂粉末、ポリアミド系樹脂粉末、ポリイミド系樹脂粉末、或いはポリ弗化エチレン系樹脂粉末等が挙げられる。特に好ましくは、架橋ポリスチレン粒子(例えば、綜研化学製SX−130H、SX−200H、SX−350H)、ポリメチルメタクリレート系粒子(例えば、綜研化学製MX150、MX300)が挙げられる。
【0282】
これらの微粒子粉末の平均粒径としては、0.005〜5μmが好ましく0.01〜1μmであることが特に好ましい。紫外線硬化樹脂組成物と微粒子粉末との割合は、樹脂組成物100質量部に対して、0.1〜30質量部となるように配合することが望ましい。
【0283】
紫外線硬化樹脂層は、JIS B 0601で規定される中心線平均粗さ(Ra)が1〜50nmのクリアハードコート層であるか、若しくはRaが0.1〜1μm程度の防眩層であることが好ましい。中心線平均粗さ(Ra)は光干渉式の表面粗さ測定器で測定することが好ましく、例えばWYKO社製RST/PLUSを用いて測定することが出来る。
【0284】
又、あらかじめ凹凸が設けられたエンボスロールを用いて、表面に凹凸を有する紫外線硬化樹脂層を形成したり、インクジェット法や印刷法によって、表面に凹凸を形成することで防眩性を付与した紫外線硬化樹脂層も好ましく用いられる。
【0285】
〈バックコート層〉
本発明に用いられるハードコートフィルムのハードコート層を設けた側と反対側の面にはバックコート層を設けることが好ましい。バックコート層は、塗布やCVDなどによって、ハードコート層やその他の層を設けることで生じるカールを矯正する為に設けられる。即ち、バックコート層を設けた面を内側にして丸まろうとする性質を持たせることにより、カールの度合いをバランスさせることが出来る。尚、バックコート層は好ましくはブロッキング防止層を兼ねて塗設され、その場合、バックコート層塗布組成物には、ブロッキング防止機能を持たせる為に微粒子が添加されることが好ましい。
【0286】
バックコート層に添加される微粒子としては無機化合物の例として、二酸化珪素、二酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、炭酸カルシウム、炭酸カルシウム、タルク、クレイ、焼成カオリン、焼成珪酸カルシウム、酸化錫、酸化インジウム、酸化亜鉛、ITO、水和珪酸カルシウム、珪酸アルミニウム、珪酸マグネシウム及びリン酸カルシウムを挙げることが出来る。微粒子は珪素を含むものがヘイズが低くなる点で好ましく、特に二酸化珪素が好ましい。
【0287】
これらの微粒子は、例えば、アエロジルR972、R972V、R974、R812、200、200V、300、R202、OX50、TT600(以上日本アエロジル(株)製)の商品名で市販されており、使用することが出来る。酸化ジルコニウムの微粒子は、例えば、アエロジルR976及びR811(以上日本アエロジル(株)製)の商品名で市販されており、使用することが出来る。ポリマー微粒子の例として、シリコーン樹脂、弗素樹脂及びアクリル樹脂を挙げることが出来る。シリコーン樹脂が好ましく、特に三次元の網状構造を有するものが好ましく、例えば、トスパール103、同105、同108、同120、同145、同3120及び同240(以上東芝シリコーン(株)製)の商品名で市販されており、使用することが出来る。
【0288】
これらの中でもアエロジル200V、アエロジルR972Vがヘイズを低く保ちながら、ブロッキング防止効果が大きい為特に好ましく用いられる。本発明で用いられるハードコートフィルムは、ハードコート層の裏面側の動摩擦係数が0.9以下、特に0.1〜0.9であることが好ましい。
【0289】
バックコート層に含まれる微粒子は、バインダーに対して0.1〜50質量%好ましくは0.1〜10質量%であることが好ましい。バックコート層を設けた場合のヘイズの増加は1%以下であることが好ましく0.5%以下であることが好ましく、特に0.0〜0.1%であることが好ましい。
【0290】
バックコート層は、具体的にはセルロースエステルフィルムを溶解させる溶媒または膨潤させる溶媒を含む組成物を塗布することによって行われる。用いる溶媒としては、溶解させる溶媒及び/または膨潤させる溶媒の混合物の他更に溶解させない溶媒を含む場合もあり、これらを透明樹脂フィルムのカール度合や樹脂の種類によって適宜の割合で混合した組成物及び塗布量を用いて行う。
【0291】
カール防止機能を強めたい場合は、用いる溶媒組成を溶解させる溶媒及び/または膨潤させる溶媒の混合比率を大きくし、溶解させない溶媒の比率を小さくするのが効果的である。この混合比率は好ましくは(溶解させる溶媒及び/または膨潤させる溶媒):(溶解させない溶媒)=10:0〜1:9で用いられる。このような混合組成物に含まれる、透明樹脂フィルムを溶解または膨潤させる溶媒としては、例えば、ジオキサン、アセトン、メチルエチルケトン、N,N−ジメチルホルムアミド、酢酸メチル、酢酸エチル、トリクロロエチレン、メチレンクロライド、エチレンクロライド、テトラクロロエタン、トリクロロエタン、クロロホルムなどがある。溶解させない溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、i−プロピルアルコール、n−ブタノール或いは炭化水素類(トルエン、キシレン、シクロヘキサノール)などがある。
【0292】
これらの塗布組成物をグラビアコーター、ディップコーター、リバースコーター、ワイヤーバーコーター、ダイコーター等を用いて透明樹脂フィルムの表面にウェット膜厚1〜100μmで塗布するのが好ましいが、特に5〜30μmであることが好ましい。バックコート層のバインダーとして用いられる樹脂としては、例えば塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、酢酸ビニルとビニルアルコールの共重合体、部分加水分解した塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニル−アクリロニトリル共重合体、エチレン−ビニルアルコール共重合体、塩素化ポリ塩化ビニル、エチレン−塩化ビニル共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体等のビニル系重合体或いは共重合体、ニトロセルロース、セルロースアセテートプロピオネート(好ましくはアセチル基置換度1.8〜2.3、プロピオニル基置換度0.1〜1.0)、ジアセチルセルロース、セルロースアセテートブチレート樹脂等のセルロース誘導体、マレイン酸及び/またはアクリル酸の共重合体、アクリル酸エステル共重合体、アクリロニトリル−スチレン共重合体、塩素化ポリエチレン、アクリロニトリル−塩素化ポリエチレン−スチレン共重合体、メチルメタクリレート−ブタジエン−スチレン共重合体、アクリル樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリエステルポリウレタン樹脂、ポリエーテルポリウレタン樹脂、ポリカーボネートポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリアミド樹脂、アミノ樹脂、スチレン−ブタジエン樹脂、ブタジエン−アクリロニトリル樹脂等のゴム系樹脂、シリコーン系樹脂、フッ素系樹脂等を挙げることが出来るが、これらに限定されるものではない。例えば、アクリル樹脂としては、アクリペットMD、VH、MF、V(三菱レーヨン(株)製)、ハイパールM−4003、M−4005、M−4006、M−4202、M−5000、M−5001、M−4501(根上工業株式会社製)、ダイヤナールBR−50、BR−52、BR−53、BR−60、BR−64、BR−73、BR−75、BR−77、BR−79、BR−80、BR−82、BR−83、BR−85、BR−87、BR−88、BR−90、BR−93、BR−95、BR−100、BR−101、BR−102、BR−105、BR−106、BR−107、BR−108、BR−112、BR−113、BR−115、BR−116、BR−117、BR−118等(三菱レーヨン(株)製)のアクリル及びメタクリル系モノマーを原料として製造した各種ホモポリマー並びにコポリマーなどが市販されており、この中から好ましいモノを適宜選択することも出来る。
【0293】
特に好ましくはジアセチルセルロース、セルロースアセテートプロピオネートのようなセルロース系樹脂層である。
【0294】
バックコート層を塗設する順番はセルロースエステルフィルムの、バックコート層とは反対側の層(クリアハードコート層或いはその他の例えば帯電防止層等の層)を塗設する前でも後でも構わないが、バックコート層がブロッキング防止層を兼ねる場合は先に塗設することが望ましい。或いはハードコート層の塗設の前後に2回以上に分けてバックコート層を塗布することも出来る。
【0295】
(反射防止層)
本発明に用いられる光干渉による反射防止層について説明する。
【0296】
(反射防止層の構成)
本発明に用いられる反射防止層は低屈折率層のみの単層構成でも、また多層の屈折率層でもどちらでも構成出来る。透明なフィルム支持体上に、ハードコート層(クリアハードコート層あるいは防眩層)を有しその表面上に光学干渉によって反射率が減少するように屈折率、膜厚、層の数、層順等を考慮して積層出来る。反射防止層は、支持体よりも屈折率の高い高屈折率層と、支持体よりも屈折率の低い低屈折率層を組み合わせて構成したり、特に好ましくは、3層以上の屈折率層から構成される反射防止層であり、支持体側から屈折率の異なる3層を、中屈折率層(支持体またはハードコート層よりも屈折率が高く、高屈折率層よりも屈折率の低い層)/高屈折率層/低屈折率層の順に積層されているものが好ましい。ハードコート層が高屈折率層を兼ねても良い。
【0297】
本発明に用いられる反射防止フィルムの好ましい層構成の例を下記に示す。ここで/は積層配置されていることを示している。
【0298】
バックコート層/支持体/ハードコート層/低屈折率層
バックコート層/支持体/ハードコート層/高屈折率層/低屈折率層
バックコート層/支持体/ハードコート層/中屈折率層/高屈折率層/低屈折率層
バックコート層/支持体/帯電防止層/ハードコート層/中屈折率層/高屈折率層/低屈折率層
帯電防止層/支持体/ハードコート層/中屈折率層/高屈折率層/低屈折率層バックコート層/支持体/ハードコート層/高屈折率層/低屈折率層/高屈折率層/低屈折率層
汚れや指紋のふき取りが容易となるように、最表面の低屈折率層の上に、更に防汚層を設けることも出来る。防汚層としては、含フッ素有機化合物が好ましく用いられる。
【0299】
〈低屈折率層〉
本発明に用いられる低屈折率層では以下の中空シリカ系微粒子が好適に用いられる。
【0300】
(中空シリカ系微粒子)
中空微粒子は、(I)多孔質粒子と該多孔質粒子表面に設けられた被覆層とからなる複合粒子、または(II)内部に空洞を有し、かつ内容物が溶媒、気体または多孔質物質で充填された空洞粒子である。尚、低屈折率層には(I)複合粒子または(II)空洞粒子のいずれかが含まれていればよく、また双方が含まれていてもよい。
【0301】
尚、空洞粒子は内部に空洞を有する粒子であり、空洞は粒子壁で囲まれている。空洞内には、調製時に使用した溶媒、気体または多孔質物質等の内容物で充填されている。このような中空球状微粒子の平均粒子径が5〜300nm、好ましくは10〜200nmの範囲にあることが望ましい。使用される中空球状微粒子は、形成される透明被膜の厚さに応じて適宜選択され、形成される低屈折率層等の透明被膜の膜厚の2/3〜1/10の範囲にあることが望ましい。これらの中空球状微粒子は、低屈折率層の形成のため、適当な媒体に分散した状態で使用することが好ましい。分散媒としては、水、アルコール(例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール)及びケトン(例えば、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン)、ケトンアルコール(例えばジアセトンアルコール)が好ましい。
【0302】
複合粒子の被覆層の厚さまたは空洞粒子の粒子壁の厚さは、1〜20nm、好ましくは2〜15nmの範囲にあることが望ましい。複合粒子の場合、被覆層の厚さが1nm未満の場合は、粒子を完全に被覆することが出来ないことがあり、後述する塗布液成分である重合度の低いケイ酸モノマー、オリゴマー等が容易に複合粒子の内部に内部に進入して内部の多孔性が減少し、低屈折率の効果が十分得られないことがある。また、被覆層の厚さが20nmを越えると、前記ケイ酸モノマー、オリゴマーが内部に進入することはないが、複合粒子の多孔性(細孔容積)が低下し低屈折率の効果が十分得られなくなることがある。また空洞粒子の場合、粒子壁の厚さが1nm未満の場合は、粒子形状を維持出来ないことがあり、また厚さが20nmを越えても、低屈折率の効果が十分に現れないことがある。
【0303】
複合粒子の被覆層または空洞粒子の粒子壁は、シリカを主成分とすることが好ましい。また、シリカ以外の成分が含まれていてもよく、具体的には、Al、B、TiO、ZrO、SnO、CeO、P、Sb、MoO、ZnO、WO等が挙げられる。複合粒子を構成する多孔質粒子としては、シリカからなるもの、シリカとシリカ以外の無機化合物とからなるもの、CaF、NaF、NaAlF、MgF等からなるものが挙げられる。このうち特にシリカとシリカ以外の無機化合物との複合酸化物からなる多孔質粒子が好適である。シリカ以外の無機化合物としては、Al、B、TiO、ZrO、SnO、CeO、P、Sb、MoO、ZnO、WO等との1種または2種以上を挙げることが出来る。このような多孔質粒子では、シリカをSiOで表し、シリカ以外の無機化合物を酸化物換算(MOx)で表したときのモル比MOx/SiOが、0.0001〜1.0、好ましくは0.001〜0.3の範囲にあることが望ましい。多孔質粒子のモル比MOx/SiOが0.0001未満のものは得ることが困難であり、得られたとしても細孔容積が小さく、屈折率の低い粒子が得られない。また、多孔質粒子のモル比MOx/SiOが、1.0を越えると、シリカの比率が少なくなるので、細孔容積が大きくなり、更に屈折率が低いものを得ることが難しいことがある。
【0304】
このような多孔質粒子の細孔容積は、0.1〜1.5ml/g、好ましくは0.2〜1.5ml/gの範囲であることが望ましい。細孔容積が0.1ml/g未満では、十分に屈折率の低下した粒子が得られず、1.5ml/gを越えると微粒子の強度が低下し、得られる被膜の強度が低下することがある。尚、このような多孔質粒子の細孔容積は水銀圧入法によって求めることが出来る。また、空洞粒子の内容物としては、粒子調製時に使用した溶媒、気体、多孔質物質等が挙げられる。溶媒中には空洞粒子調製する際に使用される粒子前駆体の未反応物、使用した触媒等が含まれていてもよい。また多孔質物質としては、前記多孔質粒子で例表した化合物からなるものが挙げられる。これらの内容物は、単一の成分からなるものであってもよいが、複数成分の混合物であってもよい。
【0305】
このような中空球状微粒子の製造方法としては、例えば特開平7−133105号公報の段落番号[0010]〜[0033]に開示された複合酸化物コロイド粒子の調製方法が好適に採用される。
【0306】
このようにして得られた中空微粒子の屈折率は、内部が空洞であるので屈折率が低く、それを用いた本発明に用いられる低屈折率層の屈折率は、1.30〜1.50であることが好ましく、1.35〜1.44であることが更に好ましい。
【0307】
外殻層を有し、内部が多孔質または空洞である中空シリカ系微粒子の低屈折率層塗布液中の含量(質量)は、10〜80質量%が好ましく、更に好ましくは20〜60質量%である。
【0308】
(テトラアルコキシシラン化合物またはその加水分解物)
本発明に用いられる低屈折率層には、ゾルゲル素材としてテトラアルコキシシラン化合物またはその加水分解物が含有されることが好ましい。
【0309】
本発明に用いられる低屈折率層用の素材として、前記無機珪素酸化物以外に有機基を有する珪素酸化物を用いることも好ましい。これらは一般にゾルゲル素材と呼ばれるが、金属アルコレート、オルガノアルコキシ金属化合物及びその加水分解物を用いることが出来る。特に、アルコキシシラン、オルガノアルコキシシラン及びその加水分解物が好ましい。これらの例としては、テトラアルコキシシラン(テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン等)、アルキルトリアルコキシシラン(メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン等)、アリールトリアルコキシシラン(フェニルトリメトキシシラン等)、ジアルキルジアルコキシシラン、ジアリールジアルコキシシラン等が挙げられる。
【0310】
本発明に用いられる低屈折率層は前記珪素酸化物と下記シランカップリング剤を含むことが好ましい。
【0311】
具体的なシランカップリング剤の例としては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリメトキシエトキシシラン、メチルトリアセトキシシラン、メチルトリブトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、ビニルトリメトキシエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルトリアセトキシシラン等が挙げられる。
【0312】
また、珪素に対して2置換のアルキル基を持つシランカップリング剤の例として、ジメチルジメトキシシラン、フェニルメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、フェニルメチルジエトキシシラン等が挙げられる。
【0313】
シランカップリング剤の具体例としては、信越化学工業株式会社製KBM−303、KBM−403、KBM−402、KBM−403、KBM−1403、KBM−502、KBM−503、KBE−502、KBE−503、KBM−603、KBE−603、KBM−903、KBE−903、KBE−9103、KBM−802、KBM−803等が挙げられる。
【0314】
これらシランカップリング剤は予め必要量の水で加水分解されていることが好ましい。シランカップリング剤が加水分解されていると、前述の珪素酸化物粒子及び有機基を有する珪素酸化物の表面が反応し易く、より強固な膜が形成される。また、加水分解されたシランカップリング剤を予め塗布液中に加えてもよい。
【0315】
また、低屈折率層は、5〜50質量%の量のポリマーを含むことも出来る。ポリマーは、微粒子を接着し、空隙を含む低屈折率層の構造を維持する機能を有する。ポリマーの使用量は、空隙を充填することなく低屈折率層の強度を維持出来るように調整する。ポリマーの量は、低屈折率層の全量の10〜30質量%であることが好ましい。ポリマーで微粒子を接着するためには、(1)微粒子の表面処理剤にポリマーを結合させるか、(2)微粒子をコアとして、その周囲にポリマーシェルを形成するか、或いは(3)微粒子間のバインダーとして、ポリマーを使用することが好ましい。
【0316】
バインダーポリマーは、飽和炭化水素またはポリエーテルを主鎖として有するポリマーであることが好ましく、飽和炭化水素を主鎖として有するポリマーであることが更に好ましい。バインダーポリマーは架橋していることが好ましい。飽和炭化水素を主鎖として有するポリマーは、エチレン性不飽和モノマーの重合反応により得ることが好ましい。架橋しているバインダーポリマーを得るためには、二以上のエチレン性不飽和基を有するモノマーを用いることが好ましい。2以上のエチレン性不飽和基を有するモノマーの例としては、多価アルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル(例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ジクロヘキサンジアクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、1,2,3−シクロヘキサンテトラメタクリレート、ポリウレタンポリアクリレート、ポリエステルポリアクリレート)、ビニルベンゼン及びその誘導体(例えば、1,4−ジビニルベンゼン、4−ビニル安息香酸−2−アクリロイルエチルエステル、1,4−ジビニルシクロヘキサノン)、ビニルスルホン(例えば、ジビニルスルホン)、アクリルアミド(例えば、メチレンビスアクリルアミド)及びメタクリルアミドが挙げられる。
【0317】
また、本発明に用いられる低屈折率層が、熱または電離放射線により架橋する含フッ素樹脂(以下、「架橋前の含フッ素樹脂」ともいう)の架橋からなる低屈折率層であってもよい。
【0318】
架橋前の含フッ素樹脂としては、含フッ素ビニルモノマーと架橋性基付与のためのモノマーから形成される含フッ素共重合体を好ましく挙げることが出来る。上記含フッ素ビニルモノマー単位の具体例としては、例えばフルオロオレフィン類(例えば、フルオロエチレン、ビニリデンフルオライド、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロ−2,2−ジメチル−1,3−ジオキソール等)、(メタ)アクリル酸の部分または完全フッ素化アルキルエステル誘導体類(例えば、ビスコート6FM(大阪有機化学製)やM−2020(ダイキン製)等)、完全または部分フッ素化ビニルエーテル類等が挙げられる。架橋性基付与のためのモノマーとしては、グリシジルメタクリレートや、ビニルトリメトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルグリシジルエーテル等のように分子内に予め架橋性官能基を有するビニルモノマーの他、カルボキシル基やヒドロキシル基、アミノ基、スルホン酸基等を有するビニルモノマー(例えば、(メタ)アクリル酸、メチロール(メタ)アクリレート、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、アリルアクリレート、ヒドロキシアルキルビニルエーテル、ヒドロキシアルキルアリルエーテル等)が挙げられる。後者は共重合の後、ポリマー中の官能基と反応する基ともう1つ以上の反応性基を持つ化合物を加えることにより、架橋構造を導入出来ることが特開平10−25388号、同10−147739号に記載されている。架橋性基の例には、アクリロイル、メタクリロイル、イソシアナート、エポキシ、アジリジン、オキサゾリン、アルデヒド、カルボニル、ヒドラジン、カルボキシル、メチロール及び活性メチレン基等が挙げられる。含フッ素共重合体が、加熱により反応する架橋基、若しくは、エチレン性不飽和基と熱ラジカル発生剤若しくはエポキシ基と熱酸発生剤等の相み合わせにより、加熱により架橋する場合、熱硬化型であり、エチレン性不飽和基と光ラジカル発生剤若しくは、エポキシ基と光酸発生剤等の組み合わせにより、光(好ましくは紫外線、電子ビーム等)の照射により架橋する場合、電離放射線硬化型である。
【0319】
架橋前の含フッ素共重合体を形成するために用いられる上記各モノマーの使用割合は、含フッ素ビニルモノマーが好ましくは20〜70モル%、より好ましくは40〜70モル%、架橋性基付与のためのモノマーが好ましくは1〜20モル%、より好ましくは5〜20モル%、併用されるその他のモノマーが好ましくは10〜70モル%、より好ましくは10〜50モル%の割合である。
【0320】
本発明に用いられる低屈折率層は、ディップコート法、エアーナイフコート法、カーテンコート法、ローラーコート法、ワイヤーバーコート法、グラビアコート法やエクストルージョンコート法(米国特許2681294号)により、塗布により形成することが出来る。また、2以上の層を同時に塗布してもよい。同時塗布の方法については、米国特許2,761,791号、同2,941,898号、同3,508,947号、同3,526,528号及び原崎勇次著、コーティング工学、253頁、朝倉書店(1973)に記載がある。
【0321】
本発明に用いられる低屈折率層の膜厚は50〜200nmであることが好ましく、60〜150nmであることがより好ましい。
【0322】
〈高屈折率層及び中屈折率層〉
本発明においては、反射率の低減のために透明支持体と低屈折率層との間に、高屈折率層を設けることが好ましい。また、該透明支持体と高屈折率層との間に中屈折率層を設けることは、反射率の低減のために更に好ましい。高屈折率層の屈折率は、1.55〜2.30であることが好ましく、1.57〜2.20であることが更に好ましい。中屈折率層の屈折率は、透明支持体の屈折率と高屈折率層の屈折率との中間の値となるように調整する。中屈折率層の屈折率は、1.55〜1.80であることが好ましい。高屈折率層及び中屈折率層の厚さは、5nm〜1μmであることが好ましく、10nm〜0.2μmであることが更に好ましく、30nm〜0.1μmであることが最も好ましい。高屈折率層及び中屈折率層のヘイズは、5%以下であることが好ましく、3%以下であることが更に好ましく、1%以下であることが最も好ましい。高屈折率層及び中屈折率層の強度は、1kg荷重の鉛筆硬度でH以上であることが好ましく、2H以上であることが更に好ましく、3H以上であることが最も好ましい。
【0323】
本発明に用いられる中、高屈折率層は下記一般式(10)で表される有機チタン化合物のモノマー、オリゴマーまたはそれらの加水分解物を含有する塗布液を塗布し乾燥させて形成させた屈折率1.55〜2.5の層であることが好ましい。
【0324】
一般式(10) Ti(OR
式中、Rとしては炭素数1〜8の脂肪族炭化水素基がよいが、好ましくは炭素数1〜4の脂肪族炭化水素基である。また、有機チタン化合物のモノマー、オリゴマーまたはそれらの加水分解物は、アルコキシド基が加水分解を受けて−Ti−O−Ti−のように反応して架橋構造を作り、硬化した層を形成する。
【0325】
本発明に用いられる有機チタン化合物のモノマー、オリゴマーとしては、Ti(OCH、Ti(OC、Ti(O−n−C、Ti(O−i−C、Ti(O−n−C、Ti(O−n−Cの2〜10量体、Ti(O−i−Cの2〜10量体、Ti(O−n−Cの2〜10量体等が好ましい例として挙げられる。これらは単独で、または2種以上組み合わせて用いることが出来る。中でもTi(O−n−C、Ti(O−i−C、Ti(O−n−C、Ti(O−n−Cの2〜10量体、Ti(O−n−Cの2〜10量体が特に好ましい。
【0326】
本発明に用いられる有機チタン化合物のモノマー、オリゴマーまたはそれらの加水分解物は、塗布液に含まれる固形分中の50.0質量%〜98.0質量%を占めていることが望ましい。固形分比率は50質量%〜90質量%がより好ましく、55質量%〜90質量%が更に好ましい。この他、塗布組成物には有機チタン化合物のポリマー(予め有機チタン化合物の加水分解を行って架橋したもの)或いは酸化チタン微粒子を添加することも好ましい。
【0327】
本発明に用いられる高屈折率層及び中屈折率層は、微粒子として金属酸化物粒子を含み、更にバインダーポリマーを含むことが好ましい。
【0328】
上記塗布液調製法で加水分解/重合した有機チタン化合物と金属酸化物粒子を組み合わせると、金属酸化物粒子と加水分解/重合した有機チタン化合物とが強固に接着し、粒子のもつ硬さと均一膜の柔軟性を兼ね備えた強い塗膜を得ることが出来る。
【0329】
高屈折率層及び中屈折率層に用いる金属酸化物粒子は、屈折率が1.80〜2.80であることが好ましく、1.90〜2.80であることが更に好ましい。金属酸化物粒子の1次粒子の重量平均径は、1〜150nmであることが好ましく、1〜100nmであることが更に好ましく、1〜80nmであることが最も好ましい。層中での金属酸化物粒子の重量平均径は、1〜200nmであることが好ましく、5〜150nmであることがより好ましく、10〜100nmであることが更に好ましく、10〜80nmであることが最も好ましい。金属酸化物粒子の平均粒径は、20〜30nm以上であれば光散乱法により、20〜30nm以下であれば電子顕微鏡写真により測定される。金属酸化物粒子の比表面積は、BET法で測定された値として、10〜400m/gであることが好ましく、20〜200m/gであることが更に好ましく、30〜150m/gであることが最も好ましい。
【0330】
金属酸化物粒子の例としては、Ti、Zr、Sn、Sb、Cu、Fe、Mn、Pb、Cd、As、Cr、Hg、Zn、Al、Mg、Si、P及びSから選択される少なくとも一種の元素を有する金属酸化物であり、具体的には二酸化チタン(例、ルチル、ルチル/アナターゼの混晶、アナターゼ、アモルファス構造)、酸化錫、酸化インジウム、酸化亜鉛、及び酸化ジルコニウムが挙げられる。中でも、酸化チタン、酸化錫及び酸化インジウムが特に好ましい。金属酸化物粒子は、これらの金属の酸化物を主成分とし、更に他の元素を含むことが出来る。主成分とは、粒子を構成する成分の中で最も含有量(質量%)が多い成分を意味する。他の元素の例としては、Ti、Zr、Sn、Sb、Cu、Fe、Mn、Pb、Cd、As、Cr、Hg、Zn、Al、Mg、Si、P及びS等が挙げられる。
【0331】
金属酸化物粒子は表面処理されていることが好ましい。表面処理は、無機化合物または有機化合物を用いて実施することが出来る。表面処理に用いる無機化合物の例としては、アルミナ、シリカ、酸化ジルコニウム及び酸化鉄が挙げられる。中でもアルミナ及びシリカが好ましい。表面処理に用いる有機化合物の例としては、ポリオール、アルカノールアミン、ステアリン酸、シランカップリング剤及びチタネートカップリング剤が挙げられる。中でも、シランカップリング剤が最も好ましい。
【0332】
高屈折率層及び中屈折率層中の金属酸化物粒子の割合は、5〜65体積%であることが好ましく、より好ましくは10〜60体積%であり、更に好ましくは20〜55体積%である。
【0333】
上記金属酸化物粒子は、媒体に分散した分散体の状態で、高屈折率層及び中屈折率層を形成するための塗布液に供される。金属酸化物粒子の分散媒体としては、沸点が60〜170℃の液体を用いることが好ましい。分散溶媒の具体例としては、水、アルコール(例、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、ベンジルアルコール)、ケトン(例、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン)、エステル(例、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、蟻酸メチル、蟻酸エチル、蟻酸プロピル、蟻酸ブチル)、脂肪族炭化水素(例、ヘキサン、シクロヘキサン)、ハロゲン化炭化水素(例、メチレンクロライド、クロロホルム、四塩化炭素)、芳香族炭化水素(例、ベンゼン、トルエン、キシレン)、アミド(例、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、n−メチルピロリドン)、エーテル(例、ジエチルエーテル、ジオキサン、テトラハイドロフラン)、エーテルアルコール(例、1−メトキシ−2−プロパノール)が挙げられる。中でも、トルエン、キシレン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン及びブタノールが特に好ましい。
【0334】
また金属酸化物粒子は、分散機を用いて媒体中に分散することが出来る。分散機の例としては、サンドグラインダーミル(例、ピン付きビーズミル)、高速インペラーミル、ペッブルミル、ローラーミル、アトライター及びコロイドミルが挙げられる。サンドグラインダーミル及び高速インペラーミルが特に好ましい。また、予備分散処理を実施してもよい。予備分散処理に用いる分散機の例としては、ボールミル、三本ロールミル、ニーダー及びエクストルーダーが挙げられる。
【0335】
本発明に用いられる高屈折率層及び中屈折率層は、架橋構造を有するポリマー(以下、架橋ポリマーともいう)をバインダーポリマーとして用いることが好ましい。架橋ポリマーの例として、ポリオレフィン等の飽和炭化水素鎖を有するポリマー、ポリエーテル、ポリウレア、ポリウレタン、ポリエステル、ポリアミン、ポリアミド及びメラミン樹脂等の架橋物が挙げられる。中でも、ポリオレフィン、ポリエーテル及びポリウレタンの架橋物が好ましく、ポリオレフィン及びポリエーテルの架橋物が更に好ましく、ポリオレフィンの架橋物が最も好ましい。
【0336】
本発明に用いられるモノマーとしては、2個以上のエチレン性不飽和基を有するモノマーが最も好ましいが、その例としては、多価アルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル(例、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ジクロヘキサンジアクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、1,2,3−シクロヘキサンテトラメタクリレート、ポリウレタンポリアクリレート、ポリエステルポリアクリレート)、ビニルベンゼン及びその誘導体(例、1,4−ジビニルベンゼン、4−ビニル安息香酸−2−アクリロイルエチルエステル、1,4−ジビニルシクロヘキサノン)、ビニルスルホン(例、ジビニルスルホン)、アクリルアミド(例、メチレンビスアクリルアミド)及びメタクリルアミド等が挙げられる。アニオン性基を有するモノマー、及びアミノ基または4級アンモニウム基を有するモノマーは市販のモノマーを用いてもよい。好ましく用いられる市販のアニオン性基を有するモノマーとしては、KAYAMARPM−21、PM−2(日本化薬(株)製)、AntoxMS−60、MS−2N、MS−NH4(日本乳化剤(株)製)、アロニックスM−5000、M−6000、M−8000シリーズ(東亞合成化学工業(株)製)、ビスコート#2000シリーズ(大阪有機化学工業(株)製)、ニューフロンティアGX−8289(第一工業製薬(株)製)、NKエステルCB−1、A−SA(新中村化学工業(株)製)、AR−100、MR−100、MR−200(第八化学工業(株)製)等が挙げられる。また、好ましく用いられる市販のアミノ基または4級アンモニウム基を有するモノマーとしてはDMAA(大阪有機化学工業(株)製)、DMAEA,DMAPAA(興人(株)製)、ブレンマーQA(日本油脂(株)製)、ニューフロンティアC−1615(第一工業製薬(株)製)等が挙げられる。
【0337】
ポリマーの重合反応は、光重合反応または熱重合反応を用いることが出来る。特に光重合反応が好ましい。重合反応のため、重合開始剤を使用することが好ましい。例えば、ハードコート層のバインダーポリマーを形成するために用いられる熱重合開始剤、及び光重合開始剤が挙げられる。
【0338】
重合開始剤として市販の重合開始剤を使用してもよい。重合開始剤に加えて、重合促進剤を使用してもよい。重合開始剤と重合促進剤の添加量は、モノマーの全量の0.2〜10質量%の範囲であることが好ましい。
【0339】
反射防止層の各層またはその塗布液には、前述した成分(金属酸化物粒子、ポリマー、分散媒体、重合開始剤、重合促進剤)以外に、重合禁止剤、レベリング剤、増粘剤、着色防止剤、紫外線吸収剤、シランカップリング剤、帯電防止剤や接着付与剤を添加してもよい。
【0340】
本発明に用いられる中〜高屈折率層及び低屈折率層の塗設後、金属アルコキシドを含む組成物の加水分解または硬化を促進するため、活性エネルギー線を照射することが好ましい。より好ましくは、各層を塗設するごとに活性エネルギー線を照射することである。
【0341】
本発明に使用する活性エネルギー線は、紫外線、電子線、γ線等で、化合物を活性させるエネルギー源であれば制限なく使用出来るが、紫外線、電子線が好ましく、特に取り扱いが簡便で高エネルギーが容易に得られるという点で紫外線が好ましい。紫外線反応性化合物を光重合させる紫外線の光源としては、紫外線を発生する光源であれば何れも使用出来る。例えば、低圧水銀灯、中圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、カーボンアーク灯、メタルハライドランプ、キセノンランプ等を用いることが出来る。また、ArFエキシマレーザ、KrFエキシマレーザ、エキシマランプまたはシンクロトロン放射光等も用いることが出来る。照射条件はそれぞれのランプによって異なるが、照射光量は20mJ/cm〜10,000mJ/cmが好ましく、更に好ましくは、100mJ/cm〜2,000mJ/cmであり、特に好ましくは、400mJ/cm〜2,000mJ/cmである。
【0342】
(偏光板)
本発明の偏光板、それを用いた本発明の液晶表示装置について説明する。
【0343】
本発明の偏光板は、前記本発明に係る2枚の透明支持体A、Bにより、偏光子を挟持してなる偏光板であることが特徴である。本発明の液晶表示装置は少なくとも一方の液晶セル面に本発明の偏光板が積層される。
【0344】
〈偏光子〉
偏光板の主たる構成要素である偏光子とは、一定方向の偏波面の光だけを通す素子であり、現在知られている代表的な偏光膜は、ポリビニルアルコール系偏光フィルムで、これはポリビニルアルコール系フィルムにヨウ素を染色させたものと二色性染料を染色させたものがある。
【0345】
本発明では、特にエチレン単位の含有量1〜4モル%、重合度2000〜4000、けん化度99.0〜99.99モル%のエチレン変性ポリビニルアルコールから製膜され、熱水切断温度が66〜73℃であるエチレン変性ポリビニルアルコールフィルムも好ましく用いられる。また、フィルムのTD方向に5cm離れた二点間の熱水切断温度の差が1℃以下であることが、色斑を低減させるうえでさらに好ましく、さらにフィルムのTD方向に1cm離れた二点間の熱水切断温度の差が0.5℃以下であることが、色斑を低減させるうえでさらに好ましい。さらにまたフィルムの厚みが10〜50μmであることが色斑を低減させるうえで特に好ましい。
【0346】
本発明に用いられるエチレン変性ポリビニルアルコール(エチレン変性PVA)としては、エチレンとビニルエステル系モノマーとを共重合して得られたエチレン−ビニルエステル系重合体をけん化し、ビニルエステル単位をビニルアルコール単位としたものを用いることができる。このビニルエステル系モノマーとしては、例えば、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサティック酸ビニル等を挙げることができ、これらのなかでも酢酸ビニルを用いるのが好ましい。
【0347】
エチレン変性PVAにおけるエチレン単位の含有量(エチレンの共重合量)は、1〜4モル%であり、好ましくは1.5〜3モル%であり、より好ましくは2〜3モル%である。エチレン単位の含有量が1モル%未満の場合には、得られる偏光フィルムにおける偏光性能および耐久性能の向上効果や色斑の低減効果が小さくなり、好ましくない。一方、エチレン単位の含有量が4モル%を超えると、エチレン変性PVAの水との親和性が低くなり、フィルム膜面の均一性が低下して、偏光フィルムの色斑の原因となりやすいため不適である。
【0348】
さらに、エチレンとビニルエステル系モノマーを共重合させる際には、必要に応じて、共重合可能なモノマーを発明の効果を損なわない範囲内(好ましくは15モル%以下、より好ましくは5モル%以下の割合)で共重合させることもできる。
【0349】
このようなビニルエステル系モノマーと共重合可能なモノマーとしては、例えば、プロピレン、1−ブテン、イソブテン等の炭素数3〜30のオレフィン類;アクリル酸およびその塩;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸i−プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸i−ブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸2−エチルへキシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸オクタデシル等のアクリル酸エステル類;メタクリル酸およびその塩;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸i−プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸i−ブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸2−エチルへキシル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸オクタデシル等のメタクリル酸エステル類;アクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、アクリルアミドプロパンスルホン酸およびその塩、アクリルアミドプロピルジメチルアミンおよびその塩、N−メチロールアクリルアミドおよびその誘導体等のアクリルアミド誘導体;メタクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド、N−エチルメタクリルアミド、メタクリルアミドプロパンスルホン酸およびその塩、メタクリルアミドプロピルジメチルアミンおよびその塩、N−メチロールメタクリルアミドおよびその誘導体等のメタクリルアミド誘導体;N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド、N−ビニルピロリドン等のN−ビニルアミド類;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、i−プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、i−ブチルビニルエーテル、t−ブチルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、ステアリルビニルエーテル等のビニルエーテル類;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル類;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン等のハロゲン化ビニル類;酢酸アリル、塩化アリル等のアリル化合物;マレイン酸およびその塩またはそのエステル;イタコン酸およびその塩またはそのエステル;ビニルトリメトキシシラン等のビニルシリル化合物;酢酸イソプロペニル、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド、N−ビニルピロリドン等のN−ビニルアミド類を挙げることができる。
【0350】
偏光子を構成するエチレン変性PVAの重合度は、偏光フィルムのPVAの重合度は偏光性能と耐久性の点から2000〜4000であり、2200〜3500が好ましく、2500〜3000が特に好ましい。エチレン変性PVAの重合度が2000より小さい場合には、偏光フィルムの偏光性能や耐久性能が低下し、好ましくない。また、重合度が4000以下であると、偏光子の色斑が生じにくく好ましい。
【0351】
エチレン変性PVAの重合度は、GPC測定から求めた重量平均重合度である。この重量平均重合度は、単分散PMMAを標品として移動相に20ミリモル/リットルのトリフルオロ酢酸ソーダを加えたヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)を用い、40℃でGPC測定を行って求めた値である。
【0352】
偏光子を構成するエチレン変性PVAのけん化度は、偏光フィルムの偏光性能および耐久性の点から99.0〜99.99モル%であり、99.9〜99.99モル%がより好ましく、99.95〜99.99モル%が特に好ましい。
【0353】
エチレン変性PVAフィルムを製造する方法として、水を含むエチレン変性PVAを使用した溶融押出方式による製膜法の他に、例えばエチレン変性PVAを溶剤に溶解したエチレン変性PVA溶液を使用して、流延製膜法、湿式製膜法(貧溶媒中への吐出)、ゲル製膜法(エチレン変性PVA水溶液を一旦冷却ゲル化した後、溶媒を抽出除去し、エチレン変性PVAフィルムを得る方法)、およびこれらの組み合わせによる方法などを採用することができる。これらのなかでも流延製膜法および溶融押出製膜法が、良好なエチレン変性PVAフィルムを得る観点から好ましい。得られたエチレン変性PVAフィルムは、必要に応じて乾燥および熱処理が施される。
【0354】
エチレン変性PVAフィルムを製造する際に使用されるエチレン変性PVAを溶解する溶剤としては、例えば、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、エチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、トリメチロールプロパン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、グリセリン、水などを挙げることができ、これらのうち1種または2種以上を使用することができる。これらのなかでも、ジメチルスルホキシド、水、またはグリセリンと水の混合溶媒が好適に使用される。
【0355】
エチレン変性PVAフィルムを製造する際に使用されるエチレン変性PVA溶液または水を含むエチレン変性PVAにおけるエチレン変性PVAの割合はエチレン変性PVAの重合度に応じて変化するが、20〜70質量%が好適であり、25〜60質量%がより好適であり、30〜55質量%がさらに好適であり、35〜50質量%が最も好適である。エチレン変性PVAの割合が70質量%を超えるとエチレン変性PVA溶液または水を含むエチレン変性PVAの粘度が高くなり過ぎて、フィルムの原液を調製する際に濾過や脱泡が困難となり、異物や欠点のないフィルムを得ることが困難となる。また、エチレン変性PVAの割合が20質量%より低いとエチレン変性PVA溶液または水を含むエチレン変性PVAの粘度が低くなり過ぎて、目的とする厚みを有するPVAフィルムを製造することが困難になる。また、このエチレン変性PVA溶液または水を含むエチレン変性PVAには、必要に応じて可塑剤、界面活性剤、二色性染料などを含有させてもよい。
【0356】
エチレン変性PVAフィルムを製造する際に可塑剤として、多価アルコールを添加することが好ましい。多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジグリセリン、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、トリメチロールプロパンなどを挙げることができ、これらのうち1種または2種以上を使用することができる。これらの中でも延伸性向上効果からジグリセリンやエチレングリコールやグリセリンが好適に使用される。
【0357】
多価アルコールの添加量としてはエチレン変性PVA100質量部に対し1〜30質量部が好ましく、3〜25質量部がさらに好ましく、5〜20質量部が最も好ましい。1質量部より少ないと、染色性や延伸性が低下する場合があり、30質量部より多いと、エチレン変性PVAフィルムが柔軟になりすぎて、取り扱い性が低下する場合がある。
【0358】
エチレン変性PVAフィルムを製造する際には、界面活性剤を添加することが好ましい。界面活性剤の種類としては特に限定はないが、アニオン性またはノニオン性の界面活性剤が好ましい。アニオン性界面活性剤としては、たとえば、ラウリン酸カリウムなどのカルボン酸型、オクチルサルフェートなどの硫酸エステル型、ドデシルベンゼンスルホネートなどのスルホン酸型のアニオン性界面活性剤が好適である。ノニオン性界面活性剤としては、たとえば、ポリオキシエチレンオレイルエーテルなどのアルキルエーテル型、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテルなどのアルキルフェニルエーテル型、ポリオキシエチレンラウレートなどのアルキルエステル型、ポリオキシエチレンラウリルアミノエーテルなどのアルキルアミン型、ポリオキシエチレンラウリン酸アミドなどのアルキルアミド型、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンエーテルなどのポリプロピレングリコールエーテル型、オレイン酸ジエタノールアミドなどのアルカノールアミド型、ポリオキシアルキレンアリルフェニルエーテルなどのアリルフェニルエーテル型などのノニオン性界面活性剤が好適である。これらの界面活性剤の1種または2種以上の組み合わせで使用することができる。
【0359】
界面活性剤の添加量としては、エチレン変性PVA100質量部に対して0.01〜1質量部が好ましく、0.02〜0.5質量部がさらに好ましく、0.05〜0.3質量部が最も好ましい。0.01質量部より少ないと、製膜性や剥離性向上の効果が現れにくく、1質量部より多いと、界面活性剤がエチレン変性PVAフィルムの表面に溶出してブロッキングの原因になり、取り扱い性が低下する場合がある。
【0360】
エチレン変性PVAフィルムの熱水切断温度は66〜73℃であることが好ましく、68〜73℃がより好ましく、70℃〜73℃がさらに好ましい。エチレン変性PVAフィルムの熱水切断温度が66℃よりも低い場合には、溶解しかけたフィルムを延伸するような状態となり分子配向が起こりにくいため、偏光フィルムの偏光性能が不十分になる。熱水切断温度が73℃より高いと、フィルムが延伸されにくくなり、偏光フィルムの偏光性能が低くなるため好ましくない。エチレン変性PVAフィルムに乾燥および熱処理を施す際に、その処理の温度および時間を変化させることにより、フィルムの熱水切断温度を調整することができる。
【0361】
偏光子の作製に用いられるエチレン変性PVAフィルムは厚みは10〜80μm、更に好ましくは10〜50μmであることが好ましく、20〜40μmであることがさらに好ましい。厚みが10μmより厚いと、均一な延伸が行い易く、偏光フィルムの色斑が発生しにくくなる。厚みが80μm以下、好ましくは50μm以下になると、エチレン変性PVAフィルムを一軸延伸して偏光フィルムを作成した際に端部のネックインによる厚み変化が発生しにくくなり、偏光フィルムの色斑が目立たなくなる。
【0362】
また、エチレン変性PVAフィルムから偏光フィルムを製造するには、例えばエチレン変性PVAフィルムを染色、一軸延伸、固定処理、乾燥処理をし、さらに必要に応じて熱処理を行えばよく、染色、一軸延伸、固定処理の操作の順番に特に制限はない。また、一軸延伸を二回またはそれ以上行っても良い。
【0363】
染色は、一軸延伸前、一軸延伸時、一軸延伸後のいずれでも可能である。染色に用いる染料としては、ヨウ素−ヨウ化カリウム;ダイレクトブラック17、19、154;ダイレクトブラウン44、106、195、210、223;ダイレクトレッド2、23、28、31、37、39、79、81、240、242、247;ダイレクトブルー1、15、22、78、90、98、151、168、202、236、249、270;ダイレクトバイオレット9、12、51、98;ダイレクトグリーン1、85;ダイレクトイエロー8、12、44、86、87;ダイレクトオレンジ26、39、106、107などの二色性染料などが、1種または2種以上の混合物で使用できる。通常染色は、PVAフィルムを上記染料を含有する溶液中に浸漬させることにより行うことが一般的であるが、PVAフィルムに混ぜて製膜するなど、その処理条件や処理方法は特に制限されるものではない。
【0364】
一軸延伸は、湿式延伸法または乾熱延伸法が使用でき、ホウ酸水溶液などの温水中(前記染料を含有する溶液中や後記固定処理浴中でもよい)または吸水後のエチレン変性PVAフィルムを用いて空気中で行うことができる。延伸温度は、特に限定されないが、エチレン変性PVAフィルムを温水中で延伸(湿式延伸)する場合は30〜90℃が好適であり、また乾熱延伸する場合は50〜180℃が好適である。また一軸延伸の延伸倍率(多段の一軸延伸の場合には合計の延伸倍率)は、偏光フィルムの偏光性能の点から4倍以上が好ましく、特に5倍以上が最も好ましい。延伸倍率の上限は特に制限はないが、8倍以下であると均一な延伸が得られやすいので好ましい。延伸後のフィルムの厚さは、2〜20μmが好ましく、10〜20μmがより好ましい。
【0365】
エチレン変性PVAフィルムへの上記染料の吸着を強固にすることを目的に、固定処理を行うことが多い。固定処理に使用する処理浴には、通常、ホウ酸および/またはホウ素化合物が添加される。また、必要に応じて処理浴中にヨウ素化合物を添加してもよい。
【0366】
得られた偏光子の乾燥処理は、30〜150℃で行うのが好ましく、50〜150℃で行うのがより好ましい。
【0367】
以上のようにして得られた偏光子は、通常、その両面または片面に、光学的に透明で、かつ機械的強度を有した保護膜を貼り合わせて偏光板として使用される。また、貼り合わせのための接着剤としては、PVA系の接着剤やウレタン系の接着剤などを挙げることができるが、なかでもPVA系の接着剤が好ましく用いられる。
【0368】
偏光板は一般的な方法で作製することが出来る。本発明のセルロースエステルフィルム(a)、(b)の裏面側をアルカリ鹸化処理し、処理したセルロースエステルフィルムを、前記ヨウ素溶液中に浸漬延伸して作製した偏光子に、完全鹸化型ポリビニルアルコール水溶液を用いて貼り合わせることが好ましい。
【0369】
液晶表示装置の少なくとも一方の液晶セル面に本発明の偏光板が積層されるが、もう一方の面にも本発明の偏光板を用いても、別の偏光板保護フィルムが用いられた偏光板が配置されてもよい。本発明の偏光板に対して、もう一方の面に用いられる偏光板の偏光板保護フィルムは市販のセルロースエステルフィルムを用いることが出来る。例えば、市販のセルロースエステルフィルムとして、KC8UX2M、KC4UX、KC5UX、KC4UY、KC8UY、KC12UR、KC8UCR−3、KC8UCR−4、KC8UY−HA、KC8UX−RHA(以上、コニカミノルタオプト(株)製)、フジタックTD80UF、フジタックT80UZ、フジタックT40UZ、反射防止フイルム(富士フイルムCVクリアビューUA、富士写真フイルム(株)製)等が好ましく用いられる。
【0370】
また、もう一方の面に用いられる偏光板保護フィルムは8〜20μmの厚さのハードコート層もしくはアンチグレア層を有することも好ましく、例えば、特開2003−114333号公報、特開2004−203009号公報、2004−354699号公報,2004−354828号公報等記載のハードコート層もしくはアンチグレア層を有する偏光板保護フィルムが好ましく用いられる。
【0371】
或いは更にディスコチック液晶、棒状液晶、コレステリック液晶などの液晶化合物を配向させて形成した光学異方層を有している光学補償フィルムを兼ねる偏光板保護フィルムを用いることも好ましい。例えば、特開2003−98348記載の方法で光学異方性層を形成することが出来る。本発明の偏光板と組み合わせて使用することによって、平面性に優れ、安定した視野角拡大効果を有する液晶表示装置を得ることが出来る。或いは、セルロースエステルフィルム以外の環状オレフィン樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル、ポリカーボネート等のフィルムをもう一方の面の偏光板保護フィルムとして用いてもよい。この場合は、ケン化適性が低い為、適当な接着層を介して偏光板に接着加工することが好ましい。
【0372】
偏光子は一軸方向(通常は長手方向)に延伸されているため、偏光板を高温高湿の環境下に置くと延伸方向(通常は長手方向)は縮み、延伸と垂直方向(通常は幅方向)には伸びる。偏光板保護用フィルムの膜厚が薄くなるほど偏光板の伸縮率は大きくなり、特に偏光膜の延伸方向の収縮量が大きい。通常、偏光子の延伸方向は偏光板保護用フィルムの流延方向(MD方向)と貼り合わせるため、偏光板保護用フィルムを薄膜化する場合は、特に流延方向の伸縮率を抑える事が重要である。本発明のセルロースエステルフィルムは寸法安定に優れる為、このような偏光板保護フィルムとして好適に使用される。
【0373】
偏光板は、更に該偏光板の一方の面にプロテクトフィルムを、反対面にセパレートフィルムを貼合して構成することが出来る。プロテクトフィルム及びセパレートフィルムは偏光板出荷時、製品検査時等において偏光板を保護する目的で用いられる。この場合、プロテクトフィルムは、偏光板の表面を保護する目的で貼合され、偏光板を液晶板へ貼合する面の反対面側に用いられる。また、セパレートフィルムは液晶板へ貼合する接着層をカバーする目的で用いられ、偏光板を液晶セルへ貼合する面側に用いられる。
【0374】
(横電界スイッチングモード型液晶表示装置)
本発明の偏光板を市販のIPS(In Plane Switching:横電界スイッチング)モード型液晶表示装置に組み込むことによって、視認性に優れ、視野角が拡大された本発明の液晶表示装置を作製することが出来る。
【0375】
本発明の横電界スイッチングモードとは、フリンジ電場スイッチング(FFS:Fringe−Field Switching)モードも本発明に含み、IPSモードと同様に本発明の偏光板を組み込むことができ、同様の効果をもつ本発明の液晶表示装置を作製することが出来る。
【実施例】
【0376】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるもの
ではない。
【0377】
実施例1
(アクリルポリマーの合成)
(AC1〜6の合成)
攪拌機、2個の滴下ロート、ガス導入管および温度計の付いたガラスフラスコに、表1記載の種類及び比率のモノマー混合液40g、連鎖移動剤のメルカプトプロピオン酸3.0gおよびトルエン30gを仕込み、90℃に昇温した。その後、一方の滴下ロートから、表1記載の種類及び比率のモノマー混合液60gを3時間かけて滴下すると共に、同時にもう一方のロートからトルエン14gに溶解したアゾビスイソブチロニトリル0.6gを3時間かけて滴下した。その後さらに、トルエン56gに溶解したアゾビスイソブチロニトリル0.6gを2時間かけて滴下した後、さらに2時間反応を継続させ、AC1を得た。次いで、AC1の合成において、連鎖移動剤のメルカプトプロピオン酸の添加量を変えて同様の合成を行い、AC2〜6を得た。
【0378】
該AC1〜6の重量平均分子量は下記測定法により表1に示した。
【0379】
表1記載の、MA、MMA、HEMA、及びHEAはそれぞれ以下の化合物の略称である。
【0380】
MA :メチルアクリレート
MMA:メタクリル酸メチル
HEMA:2−ヒドロキシエチルメタクリレート
HEA:β−ヒドロキシエチルアクリレート
(分子量測定)
重量平均分子量の測定は、高速液体クロマトグラフィーを用いて測定した。
【0381】
測定条件は以下の通りである。
【0382】
溶媒: メチレンクロライド
カラム: Shodex K806,K805,K803G(昭和電工(株)製を3本接続して使用した)
カラム温度:25℃
試料濃度: 0.1質量%
検出器: RI Model 504(GLサイエンス社製)
ポンプ: L6000(日立製作所(株)製)
流量: 1.0ml/min
校正曲線: 標準ポリスチレンSTK standard ポリスチレン(東ソー(株)製)Mw=1000000〜500迄の13サンプルによる校正曲線を使用した。13サンプルは、ほぼ等間隔に用いる。
【0383】
(AC7、8の合成)
特開2000−344823号公報に記載の重合方法により塊状重合を行った。すなわち、攪拌機、窒素ガス導入管、温度計、投入口及び環流冷却管を備えたフラスコに下記メチルメタクリレートとルテノセンを導入しながら内容物を70℃に加熱した。次いで、充分に窒素ガス置換した下記β−メルカプトプロピオン酸の半分を攪拌下フラスコ内に添加した。β−メルカプトプロピオン酸添加後、攪拌中のフラスコ内の内容物を70℃に維持し2時間重合を行った。更に、窒素ガス置換したβ−メルカプトプロピオン酸の残りの半分を追加添加後、更に攪拌中の内容物の温度が70℃に維持し重合を4時間行った。反応物の温度を室温に戻し、反応物に5質量%ベンゾキノンのテトラヒドロフラン溶液を20質量部添加して重合を停止させた。重合物をエバポレーターで減圧下80℃まで徐々に加熱しながらテトラヒドロフラン、残存モノマー及び残存チオール化合物を除去してアクリルポリマーAC7、8を得た。
【0384】
メチルアクリレート若しくはメタクリル酸メチル 100質量部
ルテノセン(金属触媒) 0.05質量部
β−メルカプトプロピオン酸 12質量部
(セルロースエステルフィルム1の作製)
(ドープ組成物)
セルローストリアセテート(表中TACと記載)(酢化度:61.5 %,Mn:110000,Mw/Mn=2.0) 100質量部
可塑剤1:AC5 5質量部
可塑剤2:ATBC 5質量部
メチレンクロライド 430質量部
エタノール 40質量部
ドープ組成物を密封容器に投入し、70℃まで加熱し、撹拌しながら、セルローストリアセテート(TAC)を完全に溶解しドープを得た。溶解に要した時間は4時間であった。ドープ組成物を濾過した後、ベルト流延装置を用い、ドープ温度35℃で22℃のステンレスバンド支持体上に均一に流延した。ステンレスバンド支持体の温度は20℃であった。
【0385】
その後、剥離可能な範囲まで乾燥させた後、ステンレスバンド支持体上からドープを剥離した。このときのドープの残留溶媒量は80%であった。ドープ流延から剥離までに要した時間は3分であった。ステンレスバンド支持体から剥離した後、テンターで幅方向に1.03倍に延伸しながら120℃で乾燥させた後、幅保持を解放して、多数のロールで搬送させながら120℃で乾燥させた後、さらに135℃の乾燥ゾーンで乾燥を終了させ、フィルム両端に幅10mm、高さ5μmのナーリング加工を施して、膜厚40μmのセルロースエステルフィルム1を作製した。フィルム幅は1300mm、巻き取り長は3000mとした。巻き取り張力は、初期張力150N/1300mm、最終巻張力100N/1300mmとした。
【0386】
(セルロースエステルフィルム2〜4、6〜9、11〜23、28〜29、31〜34の作製)
セルロースエステルフィルム1の作製において、可塑剤1、2の種類とその添加量を表1、表2、表3記載の化合物とその添加量に変え、膜厚を表2、表3記載のように変えてセルロースエステルフィルム2〜4、6〜9、11〜23、28〜29、31〜34を作製した。
【0387】
(セルロースエステルフィルム5、10、30の作製)
セルロースエステルフィルム1の作製において、可塑剤1、2の種類とその添加量を表1、表2、表3記載の化合物とその添加量に変え、膜厚を表2、表3記載のように変えて、さらに、セルローストリアセテート(酢化度61.5%)100質量部をセルロースアセテートプロピオネート(表中CAPと記載)(アセチル基置換度:2.0、プロピオニル基置換度:0.9、Mn:80000、Mw/Mn=2.5)に変えてセルロースエステルフィルム5、10、30を作製した。
【0388】
(セルロースエステルフィルム24〜27の作製)
セルロースエステルフィルム1の作製において、可塑剤1、2の種類とその添加量を表1、表3記載の化合物とその添加量に変え、膜厚を表3記載のように変え、さらに、
チヌビン109(チバスペシャルティケミカルズ(株)製) 1.5質量部
チヌビン171(チバスペシャルティケミカルズ(株)製) 0.7質量部
を加えてセルロースエステルフィルム24〜27を作製した。
【0389】
【表1】

【0390】
【表2】

【0391】
【表3】

【0392】
(偏光子P1の作製)
120μmのポリビニルアルコールフィルムを沃素1質量部、ホウ酸4質量部を含む水溶液100質量部に浸漬し、50℃で4倍に延伸して偏光子P1を作製した。膜厚は25μmであった。
【0393】
(偏光子P2の作製)
エチレン単位の含有量2.1モル%、けん化度99.92モル%、重合度3000のエチレン変性ポリビニルアルコール100質量部に、グリセリン10質量部、水200質量部を含浸させ、これを溶融混練し、脱泡した後、Tダイから金属ロールに溶融押出し、乾燥させて膜厚40μmのエチレン変性ポリビニルアルコールフィルムを得た。
【0394】
得られたエチレン変性ポリビニルアルコールフィルムを予備膨潤、染色、一軸延伸、固定処理、乾燥、熱処理の順番で連続的に処理して偏光子1を作製した。すなわち、前記エチレン変性ポリビニルアルコールフィルムを30℃の水中に60秒間浸して予備膨潤し、ホウ酸濃度40g/リットル、ヨウ素濃度0.4g/リットル、ヨウ化カリウム60g/リットルの35℃の水溶液中に2分間浸した。続いて、ホウ酸濃度4%の55℃の水溶液中で6倍に一軸延伸を行い、ヨウ化カリウム濃度60g/リットル、ホウ酸濃度40g/リットル、塩化亜鉛濃度10g/リットルの30℃の水溶液中に5分間浸漬して固定処理を行った。この後、エチレン変性ポリビニルアルコールフィルムを取り出し、常湿下、40℃で熱風乾燥し、さらに100℃で5分間熱処理を行った。
【0395】
得られた偏光子P2の透過率は43%、偏光度は99.9%であった。膜厚は15μmであった。
【0396】
(偏光板1〜48の作製)
上記セルロースエステルフィルム1〜34を、40℃の2.5mol/L水酸化ナトリウム水溶液で60秒間アルカリ処理し、3分間水洗して鹸化処理層を形成し、アルカリ処理フィルムを得た。
【0397】
次に上記作製した偏光子P1、P2(表中PVAと記載)及びアルカリ処理を行ったセルロースエステルフィルム1〜34を、完全鹸化型ポリビニルアルコール5%水溶液を粘着剤として各々1枚目(表)、2枚目(裏)として表4、表5記載の構成で貼り合わせ、偏光板1〜48を作製した。
【0398】
〔評価〕
得られた上記セルロースエステルフィルム1〜34について下記の評価を行った。
【0399】
(Ro、Rtの測定)
アッベ屈折率計(4T)を用いてセルロースエステルフィルムの平均屈折率を測定した。また、市販のマイクロメーターを用いてフィルムの厚さを測定した。
【0400】
自動複屈折計KOBRA−21ADH(王子計測機器(株)製)を用いて、23℃、55%RHの環境下24時間放置したフィルムにおいて、同環境下、波長が590nmにおけるフィルムのリターデーション測定を行った。上述の平均屈折率と膜厚を下記式に入力し、セルロースエステルフィルム1〜34の面内リターデーション(Ro)及び厚み方向のリターデーション(Rt)の値を得て、表2、表3に記載した。
【0401】
式(I) Ro=(nx−ny)×d
式(II) Rt=((nx+ny)/2−nz)×d
(式中、nx、ny、nzはそれぞれ屈折率楕円体の主軸x、y、z方向の屈折率を表し、かつ、nx、nyはフィルム面内方向の屈折率を、nzはフィルムの厚み方向の屈折率を表す。また、nx≧nyであり、dはフィルムの厚み(nm)を表す。)
次に、得られた偏光板1〜48について下記の評価を行った。
【0402】
(偏光板劣化)
上記作製した偏光板を80℃、90%RHで120時間処理し、処理前と処理後の透過率を測定し、下記基準で4段階評価した。
【0403】
透過率の差ΔT(%)=Td(高温、高湿処理後の透過率)−T0(高温、高湿処理前の透過率)
◎:ΔTが1%未満
○:ΔTが1%〜5%未満
△:ΔTが5%〜10%未満
×:ΔTが10%以上
(偏光板寸法変化)
作製した偏光板に、偏光子の吸収軸の方向に目印(十字)をそれぞれ2箇所つけて80℃、90%RHで120時間処理し、処理前と処理後の目印(十字)の距離を光学顕微鏡で測定し、下記基準で6段階評価した。
【0404】
寸法変化率(%)=〔(a1−a2)/a1〕×100
a1:熱処理前の距離
a2:熱処理後の距離
A:寸法変化率が0.1%未満
B:寸法変化率が0.1%〜0.5%未満
C:寸法変化率が0.5%〜1.0%未満
D:寸法変化率が1.0%〜1.5%未満
E:寸法変化率が1.5%〜2.0%未満
F:寸法変化率が2.0%以上
(液晶表示装置の作製)
視野角測定を行う液晶パネルを以下のようにして作製し、液晶表示装置としての特性を評価した。
【0405】
IPSモード型液晶表示装置である日立製液晶テレビWooo W17−LC50の予め貼合されていた表側(観察者側)の偏光板のみを剥がして、上記作製した偏光板1〜48をそれぞれ液晶セルのガラス面に貼合した。
【0406】
その際、偏光板の貼合の向きは予め貼合されていた偏光板と同一の方向に吸収軸が向くよう、更に偏光板保護フィルムの2枚目(裏)が液晶セル側になるように行い、液晶表示装置1〜48を各々作製した。
【0407】
次に、液晶表示装置1〜48に対して下記の評価を行った。
【0408】
23℃、55%RHの環境で、ELDIM社製EZ−Contrast160Dを用いて液晶表示装置の視野角測定を行った。視野角は、コントラスト(白表示と黒表示の比)が20以上の領域を有効視野角とした。続いて上記偏光板を60℃、90%RHで500時間処理し、同様に測定を行った。さらに、上記偏光板を60℃、90%RHで1000時間処理したものを同様に測定し、下記基準で4段階評価した。
【0409】
◎:有効視野角に変動がない
○:有効視野角がやや変動する
△:有効視野角が狭くなる
×:有効視野角が著しく狭くなる
(CM(コーナームラ))
上記記載の視野角評価と同様に、偏光板1〜48を貼り付け、液晶表示装置1〜48を作製した。これらの液晶表示装置1〜48を、60℃で300時間処理した後、23℃55%RHに戻した。その後、電源を入れてバックライトを点灯させてから2時間後の黒表示の光漏れを目視で観察し、下記基準で評価した。
◎:光漏れが全くない
○:弱い光漏れが1〜2箇所ある
△:強い光漏れが1〜2箇所ある
×:強い光漏れが3箇所以上ある
以上の評価の結果を表4、5に示す。
【0410】
【表4】

【0411】
【表5】

【0412】
表4、表5より、本発明のセルロースエステルフィルムを用いた本発明の偏光板は偏光板劣化、寸法安定性に優れている。また、本発明の偏光板を用いた液晶表示装置はコーナームラ(光漏れ)に優れ、視野角安定性が高いIPSモード型液晶表示装置であることが分かる。
【0413】
実施例2
実施例1で使用したIPSモード型液晶表示装置である日立製液晶テレビWooo W17−LC50の替わりに、FFSモード型液晶表示装置である日立製液晶テレビWooo W32−L7000を使用した以外は実施例1と同様な液晶表示装置を作製し、実施例1と同様な評価をしたところ、実施例1を再現し本発明に係る液晶表示装置は優れたコーナームラ(光漏れ)、視野角安定性を示した。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
2枚の透明支持体A、Bにより、偏光子を挟持してなる偏光板において、(i)前記透明支持体Aは、非リン酸エステル系可塑剤を含有し、かつ実質的にリン酸エステル系可塑剤を含まない延伸セルロースエステルフィルム(a)であり、(ii)前記透明支持体Bは、下記式(I)により定義されるレターデーション値Roが0〜10nm、かつ下記式(II)により定義されるレターデーション値Rtが−30〜20nmの範囲で、分子内に芳香環と親水性基を有しないエチレン性不飽和モノマーと分子内に芳香環を有せず、親水性基を有するエチレン性不飽和モノマーとを共重合して得られた重量平均分子量5000以上30000以下のポリマーX、及び芳香環を有さないエチレン性不飽和モノマーを重合して得られた重量平均分子量500以上3000以下のポリマーYの2種類からなるアクリル系ポリマーを含有する延伸セルロースエステルフィルム(b)であることを特徴とする偏光板。
式(I) Ro=(nx−ny)×d
式(II) Rt={(nx+ny)/2−nz}×d
(式中、nxは、フィルム面内の遅相軸方向の屈折率であり、nyは、フィルム面内の進相軸方向の屈折率であり、nzはフィルム厚み方向の屈折率であり、dはフィルムの厚さ(nm)である。)
【請求項2】
前記透明支持体Bが、前記式(I)により定義されるレターデーション値Roが0〜5nmであり、かつ前記式(II)により定義されるレターデーション値Rtが−10〜10nmの範囲にあることを特徴とする請求項1に記載の偏光板。
【請求項3】
前記透明支持体Aに含まれる非リン酸エステル系可塑剤が、多価カルボン酸エステル系可塑剤、グリコレート系可塑剤、フタル酸エステル系可塑剤、脂肪酸エステル系可塑剤、多価アルコールエステル系可塑剤、ポリエステル系可塑剤、及びポリマー系可塑剤から選択されることを特徴とする請求項1又は2に記載の偏光板
【請求項4】
前記透明支持体Aに含まれる可塑剤の少なくとも1種が、多価アルコールエステル系可塑剤であることを特徴とする請求項に記載の偏光板。
【請求項5】
前記透明支持体Bが、多価アルコールエステル系可塑剤、ポリエステル系可塑剤、アクリルポリマー系可塑剤から選択される少なくとも1種を含有することを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の偏光板
【請求項6】
前記透明支持体A、Bの膜厚が10〜70μmであることを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の偏光板。
【請求項7】
請求項1〜6の何れか1項に記載の偏光板を用いたことを特徴とする液晶表示装置。
【請求項8】
横電界スイッチングモード型液晶表示装置であることを特徴とする請求項に記載の液晶表示装置。


【公開番号】特開2012−78862(P2012−78862A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−281530(P2011−281530)
【出願日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【分割の表示】特願2007−533159(P2007−533159)の分割
【原出願日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【出願人】(303000408)コニカミノルタオプト株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】