説明

偏光板の製造方法

【課題】偏光フィルムに紫外線硬化型接着剤を介して透明樹脂フィルムを重ね合わせ、ロールに密着させながら紫外線を照射する方法を採用しながら、ウェーブカールの発生が抑制された偏光板を製造しうる方法を提供する。
【解決手段】偏光フィルム1を一定方向に搬送しながら、そこに紫外線硬化型接着剤を介して透明樹脂フィルム2,3を重ね合わせて積層体4とし、その積層体4を、凸曲面が積層体4の搬送方向に沿うよう配置されたロール23に密着させ、積層体4のロール23に密着する面とは反対側から紫外線照射装置16により紫外線を照射して上記の接着剤を硬化させ、偏光板を製造する方法であって、ロール23の凸曲面は、表面粗さがその輪郭曲線の最大高さRzで表して0.4〜1.2μmの範囲内となり、そこに密着される積層体4の表面との静摩擦係数が0.2〜1.0の範囲内となるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶表示装置を構成する光学部品の一つとして有用な偏光板を製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、消費電力が小さく、低電圧で動作し、軽量でかつ薄型の液晶表示装置が、携帯電話、携帯情報端末、コンピュータ用のモニター、及びテレビ等の情報用表示デバイスとして急速に普及してきている。
【0003】
液晶表示装置を構成する光学部品の一つとして用いられる偏光板は、二色性色素が吸着配向しているポリビニルアルコール系樹脂からなる偏光フィルムの少なくとも片面、通常は両面に透明樹脂フィルムが貼合された構成を有し、粘着剤層を介して液晶セルに貼着され、液晶パネルとして使用される。偏光フィルムの一方の面に貼合される透明樹脂フィルムは、ポリビニルアルコール系樹脂からなる偏光フィルムを保護する、いわゆる保護フィルムとしての機能を有するものであるが、偏光フィルムの両面に透明樹脂フィルムを貼合する場合、もう一方の透明樹脂フィルムは、単なる保護フィルムとしての機能のほか、液晶セルの光学補償や液晶表示装置の視野角改良を目的とした、いわゆる光学補償フィルムとしての機能を有するものとすることも多い。
【0004】
偏光フィルムと透明樹脂フィルムの貼合には、従来からポリビニルアルコール系樹脂を主成分とする水溶液が接着剤として用いられてきたが、かかる水溶液系の接着剤は、適用できる樹脂フィルムに限りがあり、また乾燥・硬化のために相応の時間を要する。そして近年では、多種多様な透明樹脂フィルムが、保護フィルムとして、また光学補償フィルムとして、偏光フィルムに貼合されることが求められている。そこで、各種の透明樹脂フィルムに適用でき、硬化時間が短く、有害物質を大気中に放散しないなどの利点を有することから、紫外線硬化型接着剤を用いる提案がなされている。例えば、特開 2004-245925号公報(特許文献1)には、芳香環を含まないエポキシ化合物を主成分とする組成物からなる接着剤を用いて偏光フィルムに透明樹脂フィルム(同文献では「保護膜」と呼称されている)を重ね合わせ、そこに紫外線を代表例とする活性エネルギー線を照射して接着剤を硬化させ、偏光板とする技術が開示されている。
【0005】
ところが、このような紫外線硬化型接着剤を用いて製造される偏光板は、液晶セルに貼着される側が凹となるようにカールする、いわゆる逆カールを生じたり、長尺で製造された状態で幅方向に波打つ、いわゆるウェーブカールを生じたりするという問題があった。かかる逆カールやウェーブカールは、液晶セルに貼着するとき、貼着面に気泡を残しやすく、液晶パネルに不良を発生する原因となる。そのため偏光板には従来から、逆カールやウェーブカールがなく、カールしないか、又はカールしても液晶セルに貼着する側が凸となる、いわゆる正カールとなっていることが望まれている。
【0006】
そこで、特開 2009-134190号公報(特許文献2)には、偏光フィルムに接着剤を介して透明樹脂フィルムが重ね合わされた積層体を、正カールとなるように曲げた状態で接着剤を重合硬化させることにより、逆カール及びウェーブカールの発生を抑制する技術が開示されている。この文献の実施例では、偏光フィルムの片面にトリアセチルセルロースフィルムを、他面には非晶性ポリオレフィン樹脂フィルムを、それぞれ紫外線硬化型接着剤を介して重ね合わせて積層体とし、この積層体のトリアセチルセルロースフィルム側を、その長手方向(搬送方向)に沿って冷却ロールの外周面に密着させながら、非晶性ポリオレフィン樹脂フィルム側から紫外線を照射して上記の接着剤を重合硬化させている。また、積層体を密着させる冷却ロールは、その外周面が鏡面仕上げされているとの記載もあるところ、鏡面仕上げされた冷却ロールに上記の積層体を密着させて紫外線を照射した場合、その冷却ロールに密着されるフィルムとの組合せや操業条件によっては、依然としてウェーブカールを生じることがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−245925号公報
【特許文献2】特開2009−134190号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで本発明の課題は、偏光フィルムに紫外線硬化型接着剤を介して透明樹脂フィルムを重ね合わせ、その長手方向に沿って形成された凸曲面を有する接触体に密着させながら紫外線を照射する方法を採用しながら、ウェーブカールの発生が抑制された偏光板を製造しうる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる課題を解決するべく鋭意研究を重ねた結果、偏光フィルムに紫外線硬化型接着剤を介して透明樹脂フィルムを重ね合わせた積層体を、所定の表面粗さとなるようにある程度粗面化された凸曲面を有し、そこに密着される積層体表面との静摩擦係数が所定範囲となる接触体を用いることにより、ウェーブカールの発生が抑制されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち本発明によれば、ポリビニルアルコール系樹脂からなる偏光フィルムを一定方向に搬送しながら、そこに紫外線硬化型接着剤を介して透明樹脂フィルムを重ね合わせて積層体とし、得られる積層体をその搬送方向に沿って円弧状に形成された凸曲面を有する接触体に密着させ、上記積層体の接触体に密着している面とは反対側から紫外線を照射して上記の接着剤を硬化させ、偏光板を製造する方法であって、上記接触体の凸曲面は、表面粗さがその輪郭曲線の最大高さRzで表して0.4〜1.2μmの範囲内にあり、そこに密着される上記積層体の表面との静摩擦係数が0.2〜1.0の範囲内にある、偏光板の製造方法が提供される。
【0011】
この方法は、偏光フィルムの両面にそれぞれ紫外線硬化型接着剤を介して透明樹脂フィルムを重ね合わせて積層体とし、その積層体の一方の透明樹脂フィルムを上記の接触体に密着させ、他方の透明樹脂フィルム側から紫外線を照射して上記接着剤を硬化させる場合に、特に有効である。これらの方法において、上記の凸曲面を有する接触体は、典型的には金属ロールで構成されるが、さらに表面温度調節機能を有し、上記の積層体を冷却しながらそこに紫外線が照射されるようにすることが好ましい。これらの方法により製造される偏光板は、典型的には液晶セルに貼合されて液晶パネルを構成するものであり、液晶セルに貼合される面とは反対側の面が上記の接触体に密着されることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の方法によれば、ウェーブカールの発生が抑制された偏光板を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の方法を実施するのに適した偏光板の製造装置の一例を示す概略側面図である。
【図2】後述する実施例において、偏光板に生じるウェーブカールの評価方法を示す図であって、(A)は、波数と波長Lを説明するための斜視図、及び振幅の測定個所を示す図、(B)は、波長Lと振幅Aを説明するための拡大側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1を参照して、本発明では、偏光フィルム1を一定方向に搬送しながら、そこに紫外線硬化型接着剤を介して透明樹脂フィルム2,3を重ね合わせて積層体4とし、得られる積層体4をその搬送方向に沿って円弧状に形成された凸曲面を有する接触体23に密着させ、その積層体4の接触体23に密着している面とは反対側に、紫外線照射装置16から紫外線を照射して、上記の接着剤を硬化させ、偏光板5を製造する。
【0015】
偏光フィルム1と透明樹脂フィルム2,3の重ね合わせには貼合用ニップロール21,22が用いられる。透明樹脂フィルム2,3は、偏光フィルム1の片面に貼合してもよいし、偏光フィルム1の両面に貼合してもよいが、好ましくは図示のとおり、偏光フィルム1の両面に貼合される。いずれの場合も、得られる偏光板5を液晶セルに貼着して液晶パネルとするとき、その液晶セルに貼着される面とは反対側の面が接触体23に密着され、液晶セルに貼着される側の面に、紫外線照射装置16からの紫外線が照射されるように、換言すれば、得られる偏光板5が正カールとなるように配置されることが好ましい。接触体23は、好ましくは図示のようにロールで構成される。製造された偏光板5は、搬送用ガイドロール24及び巻取り前ニップロール25,26を経て、製品ロール30に巻き取られる。偏光フィルム1の一方の面や、第一の透明樹脂フィルム2及び第二の透明樹脂フィルム3のそれぞれ接着剤が塗布されない面には、搬送用のガイドロール28,28が適宜設けられる。図中の直線矢印はフィルムの流れ方向を意味し、曲線矢印はロールの回転方向を意味する。
【0016】
以下では、偏光板5を構成する偏光フィルム1、透明樹脂フィルム2,3、及び接着剤についてまず説明し、次いで偏光板の製造方法に関する説明へと進んでいく。
【0017】
[偏光フィルム]
偏光フィルム1は、ポリビニルアルコール系樹脂からなり、このポリビニルアルコール系樹脂は、ポリ酢酸ビニル系樹脂をケン化することにより得られる。ポリ酢酸ビニル系樹脂は、酢酸ビニルの単独重合体であるポリ酢酸ビニルのほか、酢酸ビニルとそれに共重合可能な他の単量体との共重合体であってもよい。酢酸ビニルに共重合される他の単量体としては、例えば、不飽和カルボン酸類、不飽和スルホン酸類、オレフィン類、ビニルエーテル類、アンモニウム基を有するアクリルアミド類などが挙げられる。ポリビニルアルコール系樹脂のケン化度は、通常85〜100モル%であり、好ましくは98モル%以上である。ポリビニルアルコール系樹脂はさらに変性されていてもよく、例えば、アルデヒド類で変性されたポリビニルアセタールなども用いることができる。ポリビニルアルコール系樹脂の平均重合度は、通常1,000〜10,000程度であり、好ましくは 1,500〜5,000の範囲である。
【0018】
ポリビニルアルコール系樹脂をフィルム状に製膜したものが、偏光フィルムの原反フィルムとして用いられる。ポリビニルアルコール系樹脂を製膜する方法は特に限定されず、公知の方法で製膜することができる。ポリビニルアルコール系樹脂からなる原反フィルムは、例えば、10〜150μm 程度の膜厚とすることができる。
【0019】
偏光フィルムは通常、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを延伸する工程、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを二色性色素で染色してその二色性色素を吸着させる工程、二色性色素が吸着されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムをホウ酸水溶液で処理する工程、及びこのホウ酸水溶液による処理後に水洗する工程を経て製造される。
【0020】
延伸は、二色性色素による染色の前に行ってもよいし、染色と同時に行ってもよいし、染色の後で行ってもよい。延伸を染色の後で行う場合、この延伸は、ホウ酸処理の前に行ってもよいし、ホウ酸処理中に行ってもよい。もちろん、これらの複数の段階で延伸を行うことも可能である。延伸にあたっては、周速の異なるニップロール間で延伸してもよいし、熱ロールを用いて延伸してもよい。また、大気中で延伸を行う乾式延伸であってもよいし、溶剤にて膨潤させた状態で延伸を行う湿式延伸であってもよい。その延伸倍率は、通常3〜8倍程度である。
【0021】
ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを二色性色素で染色するには、例えば、二色性色素を含む水溶液にポリビニルアルコール系樹脂フィルムを浸漬する方法が採用される。二色性色素として、具体的には、ヨウ素又は二色性の有機染料が用いられる。なお、二色性色素による染色処理の前に、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムは、水への浸漬処理を施して、十分に膨潤させておくことが好ましい。
【0022】
二色性色素としてヨウ素を用いる場合は、通常、ヨウ素及びヨウ化カリウムを含む水溶液に、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを浸漬して染色する方法が採用される。この水溶液におけるヨウ素及びヨウ化カリウムの含有量は、水100重量部あたり、ヨウ素が通常0.01〜1重量部であり、ヨウ化カリウムが通常0.5〜20重量部である。染色に用いる水溶液の温度は、通常20〜40℃であり、この水溶液への浸漬時間(染色時間)は、通常20〜1,800秒である。
【0023】
一方、二色性色素として二色性の有機染料を用いる場合は、通常、水溶性の二色性有機染料を含む水溶液に、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを浸漬して染色する方法が採用される。この水溶液における二色性染料の含有量は、水100重量部あたり、通常1×10-4〜10重量部であり、好ましくは1×10-3〜1重量部である。この水溶液は、硫酸ナトリウムのような無機塩を染色助剤として含有してもよい。染色に用いる染料水溶液の温度は、通常20〜80℃であり、この水溶液への浸漬時間(染色時間)は、通常10〜1,800秒である。
【0024】
二色性色素による染色後のホウ酸処理は、染色されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムをホウ酸含有水溶液に浸漬する方法によって行われる。ホウ酸含有水溶液におけるホウ酸の量は、水100重量部あたり、通常2〜15重量部であり、好ましくは5〜12重量部である。二色性色素としてヨウ素を用いた場合には、このホウ酸含有水溶液はさらにヨウ化カリウムを含有することが好ましい。ホウ酸含有水溶液におけるヨウ化カリウムの量は、水100重量部あたり、通常 0.1〜15重量部であり、好ましくは5〜12重量部である。ホウ酸含有水溶液への浸漬時間は、通常 60〜1,200秒であり、好ましくは150〜600秒、さらに好ましくは200〜400秒である。ホウ酸含有水溶液の温度は、通常50℃以上であり、好ましくは50〜85℃、さらに好ましくは60〜80℃である。
【0025】
ホウ酸処理後のポリビニルアルコール系樹脂フィルムは、通常、水洗処理される。水洗処理は、例えば、ホウ酸処理されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムを水に浸漬する方法によって行うことができる。水洗処理における水の温度は、通常2〜40℃であり、浸漬時間は、通常2〜120秒である。水洗後は、乾燥処理が施されて、偏光フィルムが得られる。乾燥処理は、熱風乾燥機や遠赤外線ヒーターなどを用いて行うことができる。この乾燥処理は、40〜100℃、好ましくは50〜100℃に保たれた乾燥炉の中で、30〜600秒程度かけて行われる。乾燥炉は複数あってもよく、乾燥炉を複数設ける場合は、各々の温度が同一でも異なっていてもよい。複数の乾燥炉を設けて乾燥を行う場合は特に、乾燥炉前段から乾燥炉後段に向かって温度が高くなるように温度勾配をつけるのが好ましい。
【0026】
こうして得られる偏光フィルムの厚みは、例えば5〜40μm 程度とすることができ、好ましくは10〜35μm である。
【0027】
[透明樹脂フィルム]
本発明では、上記のようにして製造されるポリビニルアルコール系樹脂からなる偏光フィルム1の片面又は両面に、紫外線硬化型接着剤を介して透明樹脂フィルム2,3を貼合して偏光板5を製造する。
【0028】
透明樹脂フィルム2,3は、透明性を有する熱可塑性樹脂からなるフィルムであればよく、偏光板の分野で用いられている各種のものが、本発明においても同様に使用することができる。透明樹脂フィルム2,3となりうる樹脂の例を挙げると、トリアセチルセルロースやジアセチルセルロースを代表例とする酢酸セルロース系樹脂、シクロオレフィン系樹脂を代表例とする非晶性ポリオレフィン樹脂、ポリプロピレン系樹脂を代表例とする結晶性ポリオレフィン樹脂、メタクリル酸メチル系樹脂を代表例とするアクリル系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂を代表例とするポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂などがある。
【0029】
酢酸セルロース系樹脂は、セルロースの部分又は完全エステル化物であって、例えば、セルロースの酢酸エステル、プロピオン酸エステル、酪酸エステル、それらの混合エステルなどを挙げることができる。より具体的には、トリアセチルセルロース、ジアセチルセルロース、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレートなどが挙げられる。酢酸セルロース系樹脂からなるフィルムは、適宜の市販品を用いることができる。本発明で採用するのに好適な市販されている酢酸セルロース系樹脂フィルムの例を挙げると、いずれも商品名で、富士フイルム株式会社から販売されている“フジタック TD80”、“フジタック TD80UF” 及び“フジタック TD80UZ”、コニカミノルタオプト株式会社から販売されている“KC8UX2M”、“KC8UY” 及び“KC4UY”などがある。
【0030】
酢酸セルロース系樹脂フィルムは、偏光板を液晶セルに貼着するとき、液晶セル側に配置されることがある。その場合、この酢酸セルロース系樹脂フィルムには、光学補償機能を付与することが好ましい。例えば、酢酸セルロース系樹脂に位相差調整機能を有する化合物を含有させたフィルム、酢酸セルロース系樹脂フィルムの表面に位相差調整機能を有する化合物を塗布したフィルム、酢酸セルロース系樹脂フィルムを一軸又は二軸に延伸したフィルムなどが挙げられる。市販されている酢酸セルロース系光学補償フィルムの例を挙げると、富士フイルム株式会社から販売されている“WV(Wide View) フィルム WV BZ 438”及び“WV(WIDE VIEW) フィルム WV EA”、コニカミノルタオプト株式会社から販売されている“KC4FR-1”、“KC4HR-1”及び“KC4UEW”などがある。
【0031】
非晶性ポリオレフィン樹脂は、ノルボルネンや多環ノルボルネン系モノマーのような環状オレフィンに由来する構造単位を有する樹脂であり、環状オレフィンと他の重合性炭素−炭素二重結合を有する化合物との共重合体であってもよい。具体的には、ノルボルネン又はその誘導体を開環メタセシス重合し、得られる重合体に水素添加して不飽和結合をなくした熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂と呼ばれるもの、ノルボルネン又はその誘導体に鎖状オレフィン及び/又は芳香族ビニル化合物を付加重合させたものなどが挙げられる。非晶性ポリオレフィン樹脂からなるフィルムは、適宜の市販品を用いることができる。本発明で採用するのに好適な市販されている非晶性ポリオレフィン樹脂フィルムの例を挙げると、いずれも商品名で、JSR株式会社から販売されている“アートンフィルム”、日本ゼオン株式会社から販売されている“ゼオノアフィルム”、積水化学工業株式会社から販売されている“エスシーナ位相差フィルム”などがある。
【0032】
結晶性ポリオレフィン樹脂は、エチレンやプロピレンのような鎖状オレフィンを主要な構造単位とする結晶性の樹脂であり、特にポリプロピレン系樹脂が代表的である。ポリプロピレン系樹脂には、プロピレンの単独重合体のほか、プロピレンとこれに共重合可能な他のモノマー、例えばエチレンやα−オレフィンとのランダム共重合体、ブロック共重合体などが包含される。ポリプロピレン系樹脂からなるフィルムも、適宜の市販品を用いることができる。適当な市販されているポリプロピレン系樹脂フィルムの例を挙げると、いずれも商品名で、三井化学東セロ株式会社から販売されている“トーセロ”、東洋紡績株式会社から販売されている“パイレンフィルム”、東レ株式会社から販売されている“トレファン”、サン・トックス株式会社から販売されている“サントックス”、 FILMAX 社から販売されている“FILMAX CPP フィルム”などがある。
【0033】
アクリル系樹脂は、メタクリル酸アルキルを主要な構造単位とする樹脂であり、なかでも、メタクリル酸メチルを主要な構造単位とするメタクリル酸メチル系樹脂が代表的である。アクリル系樹脂からなるフィルムも、適宜の市販品を用いることができる。適当な市販されているアクリル系樹脂フィルムの例を挙げると、いずれも商品名で、住友化学株式会社から販売されている“テクノロイ”、三菱レイヨン株式会社から販売されている“アクリプレン”などがある。
【0034】
ポリエステル樹脂は、主鎖にエステル結合−COO−を有する樹脂であり、ポリエチレンテレフタレート系樹脂やポリブチレンテレフタレート系樹脂、ポリエチレンナフタレート系樹脂などがあり、なかでも、ポリエチレンテレフタレート系樹脂が代表的である。ポリエチレンテレフタレート系樹脂は通常、繰り返し単位の80モル%以上がエチレンテレフタレートで構成される樹脂であり、他の共重合成分に由来する構造単位を含んでいてもよい。ポリエチレンテレフタレート系樹脂からなるフィルムも、適宜の市販品を用いることができる。適当な市販されているポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムの例を挙げると、いずれも商品名で、三菱樹脂株式会社から販売されている“ダイアホイル”、帝人デュポンフィルム株式会社から販売されている“テイジンテトロンフィルム”、東洋紡績株式会社から販売されている“東洋紡エステルフィルム”及び“コスモシャイン”、東レ株式会社から販売されている“ルミラー”、ユニチカ株式会社から販売されている“エンブレット”などがある。
【0035】
ポリカーボネート樹脂は、主鎖にカーボネート結合−O−CO−O−を有する樹脂であり、例えば、ビスフェノールAを原料とする樹脂が代表的である。ポリカーボネート樹脂からなるフィルムも、適宜の市販品を用いることができる。適当な市販されているポリカーボネート樹脂の例を挙げると、いずれも商品名で、三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社から販売されている“ユーピロンシート”、帝人化成株式会社から販売されている“パンライトシート”などがある。
【0036】
透明樹脂フィルム2,3には、偏光フィルム1への貼合に先立って、貼合面に、ケン化処理、コロナ処理、プライマ処理、アンカーコーティング処理などの易接着処理が施されてもよい。また、透明樹脂フィルム2,3の偏光フィルム1への貼合面と反対側の面は、ハードコート層、反射防止層、防眩層などの各種処理層を有していてもよい。透明樹脂フィルム2,3の厚みは、通常5〜200μm 程度の範囲であり、好ましくは10〜120μm 、さらに好ましくは10〜85μm である。
【0037】
[接着剤]
偏光フィルム1と透明樹脂フィルム2,3とを貼合するための接着剤には、耐候性や屈折率、カチオン重合性などの観点から、紫外線硬化型接着剤を用いる。紫外線硬化型接着剤には、ラジカル重合によって硬化するものと、カチオン重合によって硬化するものがあるが、特に、前記した特許文献1(特開 2004-245925号公報)に記載されるような、分子内に芳香環を含まないエポキシ化合物を主成分とするカチオン重合性の接着剤が好ましく用いられる。このような、分子内に芳香環を含まないエポキシ化合物としては、例えば、水素化エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、脂肪族エポキシ樹脂などがある。エポキシ化合物を代表例とするカチオン重合性の化合物に、紫外線の照射によってカチオン種又はルイス酸を発生し、カチオン重合性化合物のカチオン重合を開始させる光カチオン重合開始剤を配合して、紫外線硬化型接着剤が調製される。紫外線硬化型接着剤にはその他、加熱によってカチオン種又はルイス酸を発生し、カチオン重合性化合物のカチオン重合を開始させる熱カチオン重合開始剤、光増感剤など、各種の添加剤を配合することもできる。
【0038】
[偏光板の製造方法]
次に図1を参照しながら、本発明に係る偏光板の製造方法について説明する。図1の装置について改めて説明すると、この例では、一定方向に搬送される偏光フィルム1の一方の面に、第一の透明樹脂フィルム2が供給され、偏光フィルム1の他方の面には、第二の透明樹脂フィルム3が供給され、これら3枚のフィルムが貼合用ニップロール21,22によって重ね合わされて積層体4となり、紫外線照射装置16からの紫外線照射を受けた後、搬送用ガイドロール24及び巻取り前ニップロール25,26を経て、得られる偏光板5が製品ロール30に巻き取られるように、装置が構成されている。
【0039】
偏光フィルム1は、図示しない偏光フィルム製造工程において、先述した方法により、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムに、一軸延伸、二色性色素による染色、及び染色後のホウ酸処理を経て製造された状態でそのまま供給されることが多いが、もちろん、偏光フィルム製造工程において製造されたものを一旦ロールに巻き取った後、繰出し機により繰り出すようにしてもよい。一方、第一の透明樹脂フィルム2及び第二の透明樹脂フィルム3は、それぞれ図示しないロールから繰出し機により繰り出される。それぞれのフィルムは、同じ搬送速度で、流れ方向が同じになるように搬送される。
【0040】
第一の透明樹脂フィルム2は、その偏光フィルム1へ貼合される面に第一の塗工機11から接着剤が予め塗布された後、その接着剤塗布面が偏光フィルム1の片面に重ね合わされる。一方、第二の透明樹脂フィルム3は、その偏光フィルム1へ貼合される面に第二の塗工機13から接着剤が予め塗布された後、その接着剤塗布面が偏光フィルム1の他面に重ね合わされる。
【0041】
第一の塗工機11及び第二の塗工機13では、それぞれが備えるグラビアロール12,14から、第一の透明樹脂フィルム2及び第二の透明樹脂フィルム3にそれぞれ接着剤を塗布するようになっている。ここでグラビアロールとは、凹溝を有するロールであって、その凹溝に予め接着剤が充填され、その状態で透明樹脂フィルム2,3上を回転することにより、透明樹脂フィルム2,3上に接着剤を転写するようになっている。ここに示す例では、グラビアロール12,14が、第一の透明樹脂フィルム2及び第二の透明樹脂フィルム3のそれぞれ搬送方向に対し、それぞれの接触部で逆向きに回転するようになっている。塗工機11,13にはそのほか、ドクターブレード、ワイヤーバー、ダイコーター、カンマコーターなど、別の塗工方式を適用することもできるが、薄膜塗工、パスラインの自由度、幅広化への対応などを考慮すると、図示のようなグラビアロール12,14を備えるグラビアコーターが好ましい。
【0042】
第一の塗工機11及び第二の塗工機13として、グラビアロール12,14を備えるグラビアコーターを用いて接着剤の塗布を行う場合、透明樹脂フィルム2,3の進行速度に相当するライン速度と、グラビアロール12,14の回転周速度との比を調整することによって、接着剤層の厚さを適宜調節することができる。接着剤層の塗布厚さは、例えば、約1〜10μm とすることが好ましい。
【0043】
接着剤が塗布された第一の透明樹脂フィルム2及び第二の透明樹脂フィルム3は、それぞれ接着剤塗布面が偏光フィルム1に重ね合わされ、貼合用ニップロール21,22により挟んで厚み方向に加圧され、三者の積層体4となって、接触体23へと搬送される。接触体23は、上記積層体4の搬送方向(長手方向)に沿って円弧状に形成された凸曲面を有する。そして、積層体4をその凸曲面に密着させながら搬送し、その過程で積層体4は紫外線照射装置16からの紫外線照射を受けて接着剤が重合硬化される。図示の例では、接触体23はロールで構成されている。接触体23はそのほか、例えば、無端ベルトなどで構成することもできるが、図示のようなロール、それも金属ロールで構成するのが一般的である。
【0044】
特に、積層体4への紫外線照射によって接着剤を重合硬化させる際、熱を発生することがあるが、このような場合には、接触体23を金属ロールで構成し、そこに温度調節機能を持たせ、冷却ロールとして作用させるのが有効である。温度調節機能は、金属ロールの内部に流体通路を設け、そこに冷却用の流体、例えば水を流す方式などにより、付与することができる。その場合、冷却ロールの表面温度は、20〜25℃程度とするのが好ましい。接触体23を金属ロールで構成する場合、その表面にハードクロムメッキ処理やセラミック溶射処理などを施して、表面硬度を高めておくことも有効である。
【0045】
好ましくはロールで構成される接触体23は、得られる偏光板5の安定性の観点から、図示のとおり、接触体23自体を回転可能とし、積層体4の搬送に従って回転するか、又はその回転に伴って積層体4が搬送されるようにすることが好ましい。ただし、本発明で規定するように、その表面をある程度粗面化し、そこに密着される積層体4の表面との静摩擦係数を所定の範囲に保てば、積層体4のライン速度と接触体23の外周移動速度が完全に一致せず、両者の間にある程度滑りが生じる状態であっても、表面欠陥がなく、ウェーブカールもない偏光板を製造することができる。
【0046】
積層体4の第二の透明樹脂フィルム3側を接触体23に密着させ、積層体4の反対側、すなわち第一の透明樹脂フィルム2側に、紫外線照射装置16から紫外線が照射される。この紫外線照射によって、第一の透明樹脂フィルム2と偏光フィルム1との間にある接着剤、及び偏光フィルム1と第二の透明樹脂フィルム3との間にある接着剤が、それぞれ硬化され、第一の透明樹脂フィルム2と偏光フィルム1、及び第二の透明樹脂フィルム3と偏光フィルム1とが接着される。
【0047】
紫外線照射装置16に用いる光源は特に限定されないが、波長400nm以下に発光分布を有する、例えば、低圧水銀灯、中圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、ケミカルランプ、ブラックライトランプ、マイクロウェーブ励起水銀灯、メタルハライドランプなどを用いることができる。紫外線硬化型接着剤への光照射強度は、用いる接着剤の組成などに応じて決定すればよく、やはり特に限定されないが、開始剤の活性化に有効な波長領域の照射強度が0.1〜1,000mW/cm2 となるようにすることが好ましい。
【0048】
積層体4への紫外線の照射時間は、使用する紫外線硬化型接着剤の組成などに応じて決定され、やはり特に限定されないが、照射強度と照射時間の積として表される積算光量が10〜2,000mJ/cm2となるように設定されることが好ましい。積層体4が接触体23に密着した状態で接着剤を十分に重合硬化させる観点から、積層体4が接触体23を通過する間に、この積算光量10〜2,000mJ/cm2が達成されるようにすることが、特に好ましい。このときの積算光量が少なすぎると、開始剤由来の活性種の発生が十分でなく、接着剤の硬化が不十分となる可能性がある。一方で、その積算光量が大きすぎると、照射される紫外線によって、透明樹脂フィルム、偏光フィルム及び/又は接着剤に劣化を生じることがある。
【0049】
積層体4のライン速度も特に限定されないが、搬送方向(長手方向)に100〜800Nの張力をかけながら、少なくとも照射強度が0.1mW/cm2以上、照射時間が 0.3秒以上となる条件で搬送することが好ましい。紫外線照射装置16側に位置する透明樹脂フィルム2は、照射される紫外線によって接着剤を有効に硬化させるため、接着剤を構成する開始剤の活性化に有効な波長領域の一部又は全領域における透過率が60%以上となるものであることが好ましい。
【0050】
紫外線の照射を受け、接着剤が硬化された後の積層体4は、偏光板5となり、搬送用ガイドロール24及び巻取り前ニップロール25,26を経て、製品ロール30に巻き取られる。
【0051】
[接触体(ロール)23とそこに密着される積層体4の表面との関係]
本発明では、得られる偏光板5のウェーブカールを抑える観点から、好ましくはロールで構成される接触体23と、そこに密着される積層体4の表面、すなわち図1の例でいえば、第二の透明樹脂フィルム3との間の静摩擦係数が0.2〜1.0の範囲内となるようにする。
【0052】
二つの物体が相接したまま相対運動をしようとするときに、その接触面で運動を阻止しようとしてその接触面の接線方向に働く力を静摩擦力といい、二つの物体がまさにすべり始めようとするときに静摩擦力は最大となり、この値を最大静摩擦力という。このとき、接触面の垂直方向にも荷重がかかっている。そして、二つの相接する物体に働く最大静摩擦力Fと垂直荷重Pとの比F/Pを静摩擦係数といい、この静摩擦係数は、二つの物体を構成する材料の組合せのほか、面の清浄度、滑らかさ、質などに支配される値である。そこで、接触体(ロール)23と積層体4との間の静摩擦係数は、積層体4を構成する第二の透明樹脂フィルム3の材質や、接触体(ロール)23の表面状態によって、主に支配されることになる。
【0053】
二つの物体がともにフィルム又はシート状である場合の摩擦係数の試験は、JIS K 7125:1999「プラスチック−フィルム及びシート−摩擦係数試験方法」 に規定されているが、最近では、検出部に一方の物体(こちらはフィルム又はシート状である必要がある)を貼ってもう一方の物体上に置くだけで、両物体の間の静摩擦係数が表示されるように構成された測定機も市販されている。そのような測定機の一つに、新東科学株式会社から販売されている“トライボギア ポータブル摩擦計 ミューズ TYPE:94i2”がある。この摩擦計の詳細は、同社のホームページ中、<URL:http://www.heidon.co.jp/support/catalog/tst/pdf/TYPE94i.pdf>(平成23年3月24日検索) で公開されている。このポータブル摩擦計を用いると、静摩擦係数を簡便に測定することができる。
【0054】
接触体(ロール)23に密着される透明樹脂フィルム3を適当な大きさに切ってこのポータブル摩擦計の検出部に貼り付け、静止状態の接触体(ロール)23上に静置してスタートボタンを押せば、両者の間の静摩擦係数が表示される。必要に応じてこの測定を複数回行い、平均値を両者の静摩擦係数とすることもできる。真値に近い静摩擦係数を求めるためには、このように複数回の測定を行って得られる平均値を採用することが好ましい。
【0055】
接触体(ロール)23と第二の透明樹脂フィルム3との間の静摩擦係数が 0.2を下回ると、接着剤の硬化収縮に伴って偏光板5が縮み、ウェーブカールが発生しやすくなる。一方、この静摩擦係数が 1.0を上回ると、接触体(ロール)23と積層体4との密着力が強くなりすぎ、接触体(ロール)23と巻取り前ニップロール25,26との間において張力異常が発生し、積層体4が変形したまま偏光板化されるため、同様にウェーブカールが発生しやすくなる。
【0056】
上記のような静摩擦係数を達成するため、接触体(ロール)23の表面粗さは、その輪郭曲線の最大高さRzで表して0.4〜1.2μmの範囲内となるようにする。このRz は、0.4〜0.8μm の範囲内となるようにすることがより好ましい。この範囲から、接触体(ロール)23に密着される透明樹脂フィルム3の材質などを勘案して、最適な値を適宜選択すればよい。表面粗さRz が0.4μmを下回ると、接触体(ロール)23とそこに密着する第二の透明樹脂フィルム3との密着力が増し、静摩擦係数が 1.0を超える可能性が大きくなる。一方で、そのRz が1.2μmを超えると、そこに密着される第二の透明樹脂フィルム3に微小な傷を発生させる可能性が大きくなる。
【0057】
輪郭曲線の最大高さRzは、JIS B 0601:2001「製品の幾何特性仕様(GPS)−表面性状:輪郭曲線方式−用語,定義及び表面性状パラメータ」に規定される値である。本発明で採用する接触体(ロール)23についていえば、その表面凹凸の最大高さに相当する。輪郭曲線の最大高さRz は、市販の表面粗さ計を用いて測定することができる。後述する実施例で用いた、株式会社東京精密から販売されている“ハンディサーフ E-35A”は、市販されている表面粗さ計の一つである。
【0058】
接触体23を金属ロールで構成する場合は、例えば、その表面にハードクロムメッキ処理を施した後、そのハードクロムメッキ面を砥石やバフなどで研磨し、その際、砥石研磨であれば砥石の粒度を選ぶことにより、またバフ研磨であれば研磨剤の種類や粒度を選ぶことにより、任意の表面粗さにすることができる。
【0059】
[その他の説明]
先述のとおり、本発明の方法によって製造される偏光板は、液晶セルに貼着され、液晶パネルを構成するのに好適に用いられる。そして、液晶セルに貼着するときに正カールを与える偏光板を製造することができる。最終的なカールの状態は、偏光板を製造した後の熱履歴や粘着剤層の形成方法によっても左右されるが、積層体4を接触体(ロール)23の外周面に密着させる際、液晶セルに貼着される面が外側(凸)、すなわち紫外線照射装置16側で、その反対面が内側、すなわち接触体(ロール)23側とし、その後の巻き状態も接触体(ロール)23に密着させるときの凸状態が維持されるようにすれば、正カールが得られやすい。この形態で、図1に示す例のように偏光フィルム1の両面に透明樹脂フィルム2,3を貼合する場合は、液晶セルに貼着される面が、第一の透明樹脂フィルム2となるようにすればよい。液晶セルに貼着される面には、その貼着のために粘着剤層を設けるのが通例である。
【0060】
一方で、偏光フィルム1の片面にのみ透明樹脂フィルムを貼合して偏光板とする場合、通常はその透明樹脂フィルムが貼合されていない偏光フィルム面を液晶セルに貼着することが多い。そこでその場合には、偏光フィルム/透明樹脂フィルムの層構成で重ね合わされた積層体の偏光フィルム面が外側(凸)、すなわち紫外線照射装置16側で、透明樹脂フィルム面が内側、すなわち接触体(ロール)23側とし、その後の巻き状態も、接触体(ロール)23に密着させるときの凸状態が維持されるようにすれば、やはり正カールが得られやすい。この場合も、液晶セルに貼着される偏光フィルム面には、その貼着のために粘着剤層を設けるのが通例である。そこで、偏光フィルム1の片面にのみ透明樹脂フィルムを貼合する場合は、接着剤を硬化させた後の巻き状態が、接触体(ロール)23に密着させるときの凸状態が維持されることを前提にすれば、図1における第一の透明樹脂フィルムを省略し、第二の透明樹脂フィルム3のみが、偏光フィルム1に重ね合わされる状態とするのが好ましい。
【実施例】
【0061】
以下に実施例を示して、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【0062】
[実施例1]
概ね図1に示すように配置された装置を用いて、ポリビニルアルコールフィルムにヨウ素が吸着配向している厚さ約30μm の偏光フィルム1を連続的に搬送し、その片面に、日本ゼオン株式会社から入手した厚さが60μmで幅が1,330mmの非晶性ポリオレフィン樹脂フィルムである“ゼオノアフィルム”を第一の透明樹脂フィルム2として、他面には、富士フイルム株式会社から入手した厚さが80μmで幅がやはり1,330mmのトリアセチルセルロースフィルムである“フジタック TD80” を第二の透明樹脂フィルム3として、それぞれ供給した。そして、第一の透明樹脂フィルム2の偏光フィルム1への貼合面には、グラビアロール12を備える第一の塗工機11(富士機械株式会社製の“マイクロチャンバードクター”)から、また第二の透明樹脂フィルム3の偏光フィルム1への貼合面にも、やはりグラビアロール14を備える第二の塗工機13(同じく富士機械株式会社製の“マイクロチャンバードクター”)から、それぞれエポキシ化合物と光カチオン重合開始剤が配合された紫外線硬化型接着剤を、厚さが約2μm となるように塗工した。
【0063】
次に、第一の透明樹脂フィルム2及び第二の透明樹脂フィルム3のそれぞれ接着剤塗布面を偏光フィルム1の両面に重ね、貼合用ニップロール21,22で挟んで貼合し、積層体4とした。積層体4は引き続き、その第二の透明樹脂フィルム3であるトリアセチルセルロースフィルム側を、表面温度が23℃に設定された冷却ロール23の外周面に密着させて巻きつけながら、ライン速度11m/分で、長手方向に600Nの張力をかけて搬送した。冷却ロール23は、スチールロールの表面にハードクロムメッキ処理を施した後、3000番の砥石で研磨することによって、表面粗さが輪郭曲線の最大高さRz で表して0.4μmとなったものを用いた。表面粗さは、株式会社東京精密製の表面粗さ計“ハンディサーフ E-35A”により測定した値である(以下同じ)。また、この冷却ロールと、そこに密着されるトリアセチルセルロースフィルムとの間の静摩擦係数を、新東科学株式会社製の“トライボギア ポータブル摩擦計 ミューズ TYPE:94i-2” により測定したところ、静摩擦係数は 0.9であった。この静摩擦係数は、上記ポータブル摩擦計の検出部に一方の摩擦体であるトリアセチルセルロースフィルムを貼ってそのフィルム面を静止状態の冷却ロール23上に置き、3回の測定値の平均値として求めた値である。
【0064】
冷却ロール23に密着しながら搬送される積層体4のロール23と反対側(第一の透明樹脂フィルム2である非晶性ポリオレフィン樹脂フィルム側)には、紫外線照射装置16から紫外線を照射して接着剤を硬化させた。紫外線照射装置は株式会社GSユアサ製で、そこに備えられた紫外線ランプである“EHAN1700NAL 高圧水銀ランプ”2灯から紫外線を照射した。紫外線の積算光量は、波長280〜320nmのUVB領域の照射をもとに計測される値として400mJ/cm2 であった。引き続き、搬送用ガイドロール24及び巻取り前ニップロール25,26をこの順で通過させた後、偏光フィルム1の片面に非晶性ポリオレフィン樹脂フィルム2が、他面にはトリアセチルセルロースフィルム3がそれぞれ貼合され、厚さが約174μm の偏光板5を得、これを製品ロール30に巻き取った。
【0065】
[実施例2]
偏光フィルム1の両面に貼合する透明樹脂フィルム2,3を、いずれも厚さが60μm で幅が1,330mm の非晶性ポリオレフィン樹脂フィルムである“ゼオノアフィルム”とし、貼合後の一方を、実施例1で用いたのと同じRz が0.4μmで表面温度が23℃に設定された冷却ロール23の外周面に密着させたこと以外は、実施例1と同様にして偏光板を製造し、製品ロール30に巻き取った。この例で用いた冷却ロール23と、そこに密着される非晶性ポリオレフィン樹脂フィルムとの間の静摩擦係数を、実施例1と同様の方法で測定したところ、静摩擦係数はやはり0.9であった。
【0066】
[比較例1]
第二の透明樹脂フィルム3(トリアセチルセルロースフィルム)を密着させる冷却ロール23として、スチールロールの表面にハードクロムメッキ処理を施した後、6000番の砥石で研磨して鏡面仕上げすることにより、表面粗さが輪郭曲線の最大高さRz で表して0.1μmとなったものを用いること以外は、実施例1と同様にして偏光板を製造し、製品ロール30に巻き取った。この例で用いた冷却ロール23と、そこに密着されるトリアセチルセルロースフィルム3との間の静摩擦係数を、実施例1と同様の方法で測定したところ、静摩擦係数は1.0であった。
【0067】
[比較例2]
比較例1と同じRz が0.1μmの冷却ロール23を用い、その他は実施例2と同様にして偏光板を製造し、製品ロール30に巻き取った。この例で用いた冷却ロール23と、そこに密着される非晶性ポリオレフィン樹脂フィルムとの間の静摩擦係数を、実施例1と同様の方法で測定したところ、静摩擦係数は1.2であった。
【0068】
[偏光板のウェーブカールの評価]
以上の実施例及び比較例で得られた幅が1,330mm の偏光板を、それぞれ長手方向に600mm長さで裁断した。こうして裁断された1,330mm×600mm の偏光板サンプルについて、以下の方法でウェーブカールの度合いを評価した。すなわち、図2(A)に示すように、冷却ロール23の外周面に密着させた第二の透明樹脂フィルム3(実施例1及び比較例1ではトリアセチルセルロースフィルム、実施例2及び比較例2では一方の非晶性ポリオレフィン樹脂フィルム)が貼合された面を下にして、偏光板5を平面上(ここでは机の上)に置き、そこに生じている波数、波長及び振幅をそれぞれ求めた。図1(A)では、波の状態がわかりやすくなるよう、フィルムの厚み方向を誇張して表示していることを付記する。
【0069】
波数は、偏光板5の1,330mm 幅方向に現れる波の山の数である。図2(A)には、丸付き数字で1〜10の番号が付されている10個の山を有し、波数が10である例が示されている。波長Lは、図2(A)に示すように、波を構成する一つの山の頂点から隣接する山の頂点までの水平距離である。ウェーブカールが生じている場合、波が密になっている部分と粗になっている部分があるので、ここでは、密になっている部分の代表的な山の間隔を波長Lとした。振幅Aは、図2(A)に示すように、偏光板5の幅方向一端から100mmの位置a、400mmの位置b、700mmの位置c、1,000mm の位置d、及び1,230mm の位置e(偏光板5の幅方向他端からは100mmの位置)の5点について測定した。図2(B)には、同(A)の位置aを抽出して、振幅Aの意味するところを示した。すなわち、測定位置aに最も近い山の頂点と、同じく最も近い谷の頂点(低点)の垂直距離を求め、その半分の値を振幅Aとした。図2(B)には、波長Lの意味するところも併せて示されている。これらの測定結果を表1にまとめた。表1には、冷却ロールに密着させた側の第二の透明樹脂フィルム3の種類、冷却ロール23の表面粗さの測定結果、及び冷却ロール23とそれに密着される第二の透明樹脂フィルム3との間の静摩擦係数の測定結果も、併せて示した。
【0070】
【表1】

【0071】
表1に示すとおり、鏡面仕上げされて表面粗さRz が0.1μmとなった冷却ロール23を用いた比較例1及び比較例2で製造された偏光板は、いずれもウェーブカールを生じていた。これに対し、粗い砥石で表面仕上げされて表面粗さRz が0.4μmとなった冷却ロール23を用いた実施例1及び実施例2で製造された偏光板は、いずれもウェーブカールを生じなかった。
【符号の説明】
【0072】
1……偏光フィルム、 2……第一の透明樹脂フィルム、 3……第二の透明樹脂フィルム、 4……硬化前の積層体、 5……偏光板、11……第一の塗工機、12……第一の塗工機が備えるグラビアロール、13……第二の塗工機、14……第二の塗工機が備えるグラビアロール、16……紫外線照射装置、21,22……貼合用ニップロール、
23……接触体(冷却ロール)、24……搬送用ガイドロール、25,26……巻取り前ニップロール、28……ガイドロール、30……製品ロール、
a,b,c,d,e……振幅の測定位置、 L……波長、 A……振幅。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルアルコール系樹脂からなる偏光フィルムを一定方向に搬送しながら、そこに紫外線硬化型接着剤を介して透明樹脂フィルムを重ね合わせて積層体とし、得られる積層体をその搬送方向に沿って円弧状に形成された凸曲面を有する接触体に密着させ、前記積層体の前記接触体に密着している面とは反対側から紫外線を照射して前記接着剤を硬化させ、偏光板を製造する方法であって、
前記接触体の凸曲面は、表面粗さがその輪郭曲線の最大高さRz で表して0.4〜1.2μm の範囲内にあり、そこに密着される前記積層体の表面との静摩擦係数が0.2〜1.0の範囲内にあることを特徴とする、偏光板の製造方法。
【請求項2】
前記偏光フィルムの両面にそれぞれ紫外線硬化型接着剤を介して透明樹脂フィルムを重ね合わせて積層体とし、積層体の一方の透明樹脂フィルムを前記接触体に密着させ、他方の透明樹脂フィルム側から紫外線を照射して前記接着剤を硬化させる、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記凸曲面を有する接触体は金属ロールであり、表面温度調節機能を有する、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
得られる偏光板は、液晶セルに貼着されて液晶パネルを構成するものであり、液晶セルに貼着される面とは反対側の面が前記接触体に密着される、請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−61377(P2013−61377A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−197928(P2011−197928)
【出願日】平成23年9月12日(2011.9.12)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】