説明

偽造防止の織ラベルおよび偽造防止の織編物の製造法

【課題】織ラベルおよびファスナなどの繊維製品について、紫外線や赤外線の照射によって真正商品を確認でき且つユーザごとに情報付与でき、さらに織ラベルを含む偽造防止の織編物を随意に製造する方法を提供する。
【解決手段】発色が異なる少なくとも2種の蛍光フィラメントと、該蛍光フィラメントと同質であって蛍光物質を含まない通常フィラメントとを撚糸した特定糸を用い、この特定糸を織成時に横糸または縦糸として織り込むことにより、可視光が照射されても全体が無色であり、一方、紫外線および/または赤外線を照射すると、織り込んだ撚糸である特定糸が複数色に発色する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線や赤外線の照射によって真正商品を確認でき且つユーザごとに情報付与(informative)できる織ラベルおよびファスナに関し、さらに織ラベルを含む偽造防止の織編物を随意に製造する方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、著名ブランドの商品に人気が集中するとともに、そのブランドを不正使用した偽造商品が市場に大量に出回っている。これにより、ブランド商品の売り上げを阻害するだけでなく、ブランド商品の品質に対する信用を失墜させる事態が頻発している。特に、偽造商品は低開発国の安い労働力を利用して大量に製造され、ブランド商品よりも遥かに安価で輸入販売されることにより、ブランド商品の製造・販売業者に著しい損害を与える。この種の偽造商品は、衣料品に関する染色技術および縫製技術の高度化に伴ってブランド商品と酷似し、専門の取引業者でもブランド商品と識別することが困難である場合が多い。識別困難な場合には、偽造商品がブランド商品と同様の販売ルートで長期間存在し、ブランド商品の製造・販売業者は多大の損害を被むる。
【0003】
衣料品について、不当な偽造商品を早期に摘発するために、現在、種々の摘発方法が提案されている。その一例として、欧州特許出願公開第0328320号、特開平6−306727号、特開平7−92911号では、無機または有機の蛍光体を混入した発光糸を通常の糸とともに織成した織ラベルを製造する。この織ラベルを衣料品に縫着することにより、必要時に紫外線を該ラベルに照射すると、発光糸の存在の有無によって模造品か否かを識別できる。特開平7−92911号は、赤色、青色や緑色の蛍光体またはこれらの蛍光体を組み合わせて種々の色を発色させ、織ラベルまたは布地全体に織り込んでいる。また、発明者がこの出願人の従業員である特許第2986714号でも、赤色、青色または緑色に発光する紫外線蛍光体を用いている。
【特許文献1】欧州特許出願公開第0328320号明細書
【特許文献2】特開平6−306727号公報
【特許文献3】特開平7−92911号公報
【特許文献4】特許第2986714号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記の偽造防止織ラベルは、既に繊維業界では広く認知されている。この織ラベルは、特定の蛍光糸が織り込まれたことが公知になるまで、比較的短期間であっても真贋判定の効果を有する。この種の織ラベルについて、ラベル製造業者が複数のユーザである縫製メーカなどから同様の注文を受けた場合、ユーザごとに異なる発色の織ラベルを納品しなければ偽造防止の意味が無くなる。このため、ラベル製造業者は、各ユーザの織ラベルごとに異なる本数の蛍光糸を織り込み、複数本織り込む場合には、該蛍光糸の間隔などを特定することでユーザを分別する。このような分別措置を加えても、蛍光糸の本数や間隔を細分化しすぎるとユーザ間で混乱するので、対応できるユーザの数は多くても十数社にすぎない。
【0005】
織ラベルは、主として衣料品の衿裏、カバン、衣料小物や毛布等に縫着される装飾的な商標表示ラベルであり、該ラベルはジャガード機を搭載した織機を用いて複雑で美麗な紋様を織り出す。蛍光糸を図柄や文字を表示する色糸の浮き糸の多い中央部に織り込むと、該蛍光糸が沈み込んで紫外線照射による判別作業が困難になったりデザインに違和感が生じやすいため、蛍光糸はラベル周辺部に織り込むしかない。この蛍光糸の織り込みをラベル周辺部に限定すれば、対応できるユーザの数が減って十社前後になってしまい、ユーザが百社を超える本出願人では全く対応不可能である。
【0006】
さらに別の問題として、商標表示の織ラベルは、同一ユーザであっても衣料品の種類別や品質別に寸法や平面形状が異なり、縦糸や横糸の本数、幅、長さ、密度が異なるラベルが多数存在する。同一ユーザの大小異なる織ラベルについて、常に同一本数の蛍光糸を同じ縦糸および横糸位置や間隔で織り込むには、縦糸の場合には整経作業において数多い織ラベルごとに蛍光糸の本数と織り込み位置を正確に定めることが必要であり、これはコンピュータで管理する現在でも大変な作業である。
【0007】
本発明者は、ラベル製造業者の観点から、偽造防止織ラベルに関する前記の問題点を検討した。この検討において、蛍光糸である特定糸をそれぞれ異なる複数の色に発色できれば、織ラベルに1本だけ織り込んでも多数のユーザをそれぞれ識別できることに着目した。織ラベルにおいて特定糸が横糸または縦糸の1本であれば、ユーザにおいて織ラベルの寸法が種々雑多であっても、その織り込み位置はラベル周辺において任意であり、汎用性の高い偽造防止ラベルを作製することが可能になる。
【0008】
したがって、本発明は、紫外線や赤外線の照射によって類似商品を容易に検出できる偽造防止の織ラベルおよびファスナを提供することを目的としている。本発明の他の目的は、織込み本体がどんな寸法であっても、紫外線や赤外線の照射で複数色に発色する特定糸が存在する偽造防止の織ラベルおよびファスナを提供することである。本発明の別の目的は、ラベル製造業者が容易に織編成することができ、且つ安価且つ迅速に納品できる偽造防止の織編物の製造法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る織ラベルは、特定糸を複数色に発色させることでユーザごとに個別の情報を付与できる。本発明の織ラベルは、発色が異なる少なくとも2種の蛍光フィラメントと、該蛍光フィラメントと同質であって蛍光物質を含まない通常フィラメントとを撚糸した特定糸を用いる。この特定糸を織成時に横糸または縦糸として織り込むことにより、可視光が照射されても全体が無色であり、一方、紫外線および/または赤外線を照射すると、織り込んだ撚糸である特定糸が複数色に発色する。
【0010】
本発明に係るファスナは、特定糸を複数色に発色させることでユーザごとに個別の情報を付与できる。本発明のファスナは、発色が異なる少なくとも2種の蛍光フィラメントと、該蛍光フィラメントと同質であって蛍光物質を含まない通常フィラメントとを撚糸した特定糸を用いる。この特定糸を織成時にスライドファスナのテープ部または面ファスナ本体に織り込むことにより、可視光が照射されても全体が無色であり、一方、紫外線および/または赤外線を照射すると、織り込んだ撚糸である特定糸が複数色に発色する。
【0011】
前記の織ラベルまたはファスナでは、特定糸において、少なくとも1種の紫外線発光の蛍光フィラメントと、赤外線発光の蛍光フィラメントとを撚糸することにより、紫外線および赤外線の照射によるダブルロックを達成させると好ましい。
【0012】
本発明に係る織編物の製造法では、発色が異なる多数の蛍光フィラメントと、該蛍光フィラメントと同質であって蛍光物質を含まない通常フィラメントとを保有し、織編物に偽造防止の情報を付与する依頼をユーザから受けた際に、該ユーザに特定した少なくとも2種の異なる発色の蛍光フィラメントを選択する。これを複数本の通常フィラメントとともに撚糸してから、この特定糸を織機または編機において所定の個所に織り込みながら織編物を織成または編成する。
【0013】
本発明の織編物の製造法において、それぞれ蛍光フィラメントは、紫外線の照射によってそれぞれ赤色、青色、緑色、黄色および/またはそれ以外の色に発色する。また、蛍光フィラメントは、赤外線の照射によってそれぞれ赤色、緑色および/またはそれ以外の色に発色してもよい。蛍光フィラメントおよび通常フィラメントは、無漂白のポリエステル繊維またはナイロン繊維からなると好ましい。
【0014】
本発明を具体的に説明すると、本発明方法を実施するには、ラベル製造業者は、紫外線や赤外線の照射で発色が異なる複数の蛍光フィラメント1(図1)をあらかじめ製造し、さらに該蛍光フィラメントと実質的に同質であって蛍光物質を含まない通常フィラメント2(図2)も製造して保有することを要する。保有完了の後に、所定の織編物に偽造防止の情報を付与する依頼をユーザから受ければ、異なる発色である蛍光フィラメント1を2種以上選択し、当該ユーザを特定させてこれらを複数本の通常フィラメント2とともに撚糸して、偽造防止用の特定糸3(図3)を用意する。
【0015】
蛍光フィラメント1は、図1に例示するように、粒径が約4〜7μmである無機の蛍光体5を紡糸原液に練り込んで紡糸によって製造する。蛍光体5を練り込む紡糸原液である樹脂4は、市販のポリエステル、ポリアミド、アクリル、アセテート、ポリオレフィン、酢酸セルロースなどであればよく、一般に耐久性と価格の点からポリエステル繊維を使用すると好ましい。一方、通常フィラメント2は、図2のように、通常、樹脂4だけからなり、蛍光フィラメント1と同一または類似の素材と繊径を有し、蛍光体5を含んでいないので紫外線や赤外線を照射しても発色しない。フィラメント1,2は、一部の染料や顔料を除いて、所定の色に先染めまたは後染めすることは可能である。
【0016】
蛍光フィラメント1に練り込む無機化合物の蛍光体5は、紫外線照射で発色させるならば、例えば青色発色の場合には、化学組成がSrAl1425:Eu,Dy(発光ピーク波長490nm)、Sr(POCl:Eu(発光ピーク波長445nm)、ZnS:Ag(発光ピーク波長450nm)、CaWO(発光ピーク波長425nm)などがある。緑色発色の場合には、化学組成がSrAl:Eu,Dy(発光ピーク波長520nm)、ZnGeO:Mn(発光ピーク波長534nm)、ZnS:Cu,Al(発光ピーク波長530nm)、ZnSiO:Mn(発光ピーク波長525nm)などがある。赤色発色の場合には、化学組成がYS:Eu(発光ピーク波長626nm)、Y:Eu(発光ピーク波長611nm)、YVO:Eu(発光ピーク波長619nm)などである。紫色発色の場合には、化学組成がCaAl:Eu,Nd(発光ピーク波長440nm)である。他の蛍光体またはこれらの蛍光体を複数種混合すると、黄色、水色、淡紫色、オレンジ色、ピンク色、クリーム色発色などで識別可能な約12色の蛍光フィラメント1を得ることが可能である。蛍光フィラメント1は、例えば、励起波長300〜400nmの紫外線を放射するブラックライト7(図5)などの小型ランプで照射すると所定の蛍光色に発光し、残光性が殆ど無く、通常の可視光の照射では発光しない。
【0017】
無機化合物の蛍光体は、赤外線照射で発色する蛍光フィラメント8(図3)であってもよく、この場合には蛍光体としてユウロピウム系化合物、サマリウム系化合物、硫化亜鉛系化合物、酸化亜鉛系化合物、ケイ酸亜鉛系化合物などが例示できる。具体的には、LiAlO:Fe、(Zn・Cd)S:Cu、YVO:Ndなどを用い、赤色または緑色に発色させることが可能である。赤外線発色の蛍光体は、平均粒径が2〜3μm、95%が粒径7μm以下であり、紡糸原液に対して約3〜10重量%添加すると好ましい。この際に、3重量%未満では発光が弱くなって感知しにくくなり、10重量%を超えると不経済であるうえに紡糸作業に悪影響を与えやすい。この蛍光フィラメント8は、通常、励起波長780nm〜1mmの赤外線を照射することにより、一時的に励起されて容易に判別できる緑、赤色などの可視光を発光し、可視光や光源なしでは発光せず、残光性が殆ど無く、長期間に亘って発光性を保持できる
【0018】
赤外線発色の蛍光フィラメント8は、特定糸3(図3)において、紫外線発色の蛍光フィラメント1とともに使用すればよく、該フィラメント単独では使用しない。赤外線発色の蛍光体は、結晶体であると特定の不純物を加えることにより明るい発光が生じる場合があり、このような不純物として無機質の賦活剤または増感剤を添加すると好ましい。この蛍光体は、樹脂原液に添加の際に安定性を良くするために、クロムやマンガンなどの酸化物や塩によって表面処理してもよい。
【0019】
通常の製品態様では、少なくとも1種の紫外線発光の蛍光フィラメント1に加えて、赤外線発色の蛍光フィラメント8を特定糸3の中に必ず撚り入れ、紫外線照射と赤外線照射のダブルロックを行うと好ましい。この場合、偽造業者は、紫外線発光糸による偽造防止を感知することができても、さらに赤外線照射による偽造防止措置も行っているのを認識することは非常に困難である。特に、低パワーの赤外線レーザ放射機器は、市販されている紫外線照射用のブラックライト7に比べて一般的でなく、偽造業者は赤外線レーザ放射機器を購入することは容易ではない。
【0020】
蛍光フィラメント1,8は、2種または3種以上選択し、図3に示すように通常フィラメント2とともに多数本を撚り、織編物における他の縦糸および横糸とほぼ同じ太さの特定糸3を得る。例えば、発色が異なる10種の蛍光フィラメント1,8を保有していると、その内の2種を取り出した組合せは 10=45パターン、3種を取り出した組合せは 10=120パターン、4種を取り出した組合せは 10=210パターンであり、以下、10種を取り出す組み合わせまで全てを加算すると、(45+120+210+252+210+120+45+1)=1003パターンであるから十分に実用可能である。発色が異なる10種を保有するならば、赤外線発色の蛍光フィラメント8を常に撚り入れても、5種まで撚糸するだけでも627パターンになる。
【0021】
図5や図6を参照すると、特定糸3は、織ラベル10(図5)やファスナ12(図6)などに織り込まれる。特定糸3において、発色が異なる2種以上の蛍光フィラメント1,8が撚糸され、その特定発色と発色数によってラベル使用先を識別できる。一方、図4に示す織ラベル10は、可視光下であるので蛍光フィラメント1,8が発色せず、特定糸3は他の横糸や縦糸の中に埋没している。図6に示すファスナはスライドファスナ12であるが、テープ状に織成する面ファスナに適用することも容易である。
【0022】
織ラベル用テープ14は、図7に例示するように、通常、特定糸3を通常の横糸または縦糸として織成した広幅織物11(図8)を多数本の帯状にヒートカットして製造する。所望に応じて、テープ14は、ニードル織機などの細幅織機を用いて1本ずつ織成することも可能であり、この場合にはヒートカットは不要である。例えば、図7では特定糸3を横糸としてテープ14に織り込み、図6ではファスナ12のテープ部16に縦糸として織り込んでいる。
【0023】
図8は、テープ14を織成する織機18の全体側面を概略的に示し、例えばワープビーム19をレピア織機である高速の広幅織機18の後方に回転自在に設置する。織機18において、通常の縦糸20はワープビーム19から、バックローラ22、複数本のヘルド24およびレピア26を経て織前28に繋がっている。縦糸20は、直交方向に配置したあや棒30で上下に分けてから、各縦糸ごとにヘルド24の孔を通過する。各ヘルドは上下運動を行って、縦糸群を上下に開口させるとともに、レピア26またはシャットルによって横糸を通入し、且つ特定糸3を織りパターンごとに通入する。横糸および特定糸3は、スレー(図示しない)によって織前28まで打ち寄せ、縦糸20と直交させて広幅織物11を得る。
【0024】
織成された広幅織物11は、織前28から、ガイドローラ32を介して服巻ロール34に達し、該ロールと1対のプレスロール36,36を通過する。織機18において、プレスロール36,36の前方または後方に多数本のホットナイフ38を斜めに取り付け、通過する広幅織物11をラベル幅W(図7)に加熱切断する。得た多数本の織ラベル10は、その形状を安定化させるためにアイロニングロール40を通し、クロスビーム52に巻き取られる。また、広幅織物は、クロスリール42に巻き取った後に、別の加熱切断機で多数本の織ラベル10にヒートカットすることも可能である。
【0025】
図7に例示するように、広幅織物11を織成する際に、特定糸3が織りパターンごとに織り込まれ、該織物をヒートカットによって多数本の織ラベル10(図4)を製造する。織ラベル10がどのような寸法であっても織ラベル10ごとに、特定糸3が1本以上織り込まれていればよい。この結果、ラベル製造業者は、ユーザである縫製メーカが要求する織ラベル10の寸法が多種雑多であっても、そのメーカ独自の偽造防止処理を施すことが容易である。
【0026】
本発明方法で得た織ラベル10およびファスナ12は、可視光の下では通常のものと同一である。ユーザ自身や取引者が、ブラックライト7などで紫外線や赤外線を照射すれば、特定糸3がユーザ独自の複数色に発色し、真正商品であるか否かを容易に確認できる。織ラベル10やファスナ12において、特定糸3は周囲の通常糸と同じ繊径で無色であるから、模倣業者が特定糸が織り込んであることを知ることは難しく、たとえ特定糸の存在が確認できても、複数の発光糸による発色パターンを認識することができない。このため、模倣業者が織ラベル10に織り込むことはほぼ不可能である。紫外線蛍光フィラメント1や赤外線蛍光フィラメント8が含有する無機の蛍光体は、有機化合物の蛍光体に比べて有毒性が少なく、耐候性や印刷性も良好である。
【発明の効果】
【0027】
本発明に係る織ラベルおよびファスナでは、発色が異なる複数種の蛍光フィラメントと、蛍光物質を含まない通常フィラメントとを適宜選択し、これを撚糸して特定糸を製造してから、この特定糸を織編成時に織り込むだけでよい。複数種の蛍光フィラメントおよび通常フィラメントは、あらかじめ所定量を紡糸して保有することを要し、極細の繊維故に保有時に保管場所は狭くてもよく、これらのフィラメントからユーザ専用の特定糸を撚糸することも容易な作業である。
【0028】
本発明の織ラベルおよびファスナは、特定糸が縦糸または横糸として織り込まれていても、可視光の下では通常のものと全く同一である。商品の真贋に疑問が生じれば、紫外線や赤外線を照射して特定糸を識別し、該特定糸の複数発色によって真正商品であるか否かを容易に確認できる。この織ラベルおよびファスナは、目視しただけでは特定糸の存在が不明であり、類似商品の製造業者が同一ラベルやファスナを製造することは実質上困難である。この結果、この織ラベルやファスナを縫着した衣類または鞄類などについて、専門の取引業者でも外観から識別できないほど類似商品が酷似していても、この織ラベルやファスナに基づいてその類似商品を早期且つ確実に摘発できる。
【0029】
本発明に係る織編物の製造法は、その織編成時に特定糸を横糸または縦糸とともに織り込むことにより、通常の織編物と全く同様に製造できる。したがって、ユーザが要求する織ラベルやファスナの寸法が多種雑多であっても、織ラベルなどの製造業者は、ユーザ専用の特定糸を撚糸して織り込むだけで容易に対処できる。織ラベルなどの製造業者は、雑多な大きさの織ラベルやファスナを要求するユーザが百社を超えても、各ユーザ専用の偽造防止の織ラベルまたはファスナを容易に提供することができ、その管理および保存も一般品とほぼ同様である。
【実施例1】
【0030】
次に、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。各蛍光フィラメント1,8は、粒径4〜7μmの無機蛍光体をポリエステル樹脂4に練り込んで溶融紡糸した。一方、通常フィラメント2は、紡糸原液のポリエステル樹脂4を溶融紡糸した。これらのフィラメントは総数で12本を使用し、これを撚糸すると、特定糸3の繊度は7.5デニールであった。
【0031】
蛍光フィラメント1について、発色が異なる9種として、青色発色体(化学組成、SrAl1425:Eu,Dy)、緑色発色体(化学組成、SrAl:Eu,Dy)、赤色発色体(化学組成、YS:Eu、Y:Eu)、紫色発色体(化学組成、CaAl:Eu,Nd)、水色、黄色、淡紫色、オレンジ色、ピンク色、クリーム色の発色体を用いた。これらの蛍光体は、紫外線で照射すると所定の色に発光し、通常の太陽光や蛍光灯光の照射では発光しない性質を有する。それぞれの蛍光体を練り込んで10種の蛍光フィラメント1を製造して保有した。
【0032】
一方、蛍光フィラメント8について、赤色発色体(化学組成、LiAlO:Fe)を用いた。この蛍光体は、赤外線で照射すると赤色に発光し、通常の太陽光や蛍光灯光の照射では発光しない性質を有する。この蛍光体を練り込んで蛍光フィラメント8は、図3に示すように必ず撚り入れている。
【0033】
撚糸工程において、異なる発色の蛍光フィラメント1は10種であり、この内から適当なものを選択し、1本の蛍光フィラメント8および適宜数の通常フィラメント2を加えて総数で12本を撚糸して特定糸3を製造する。図3では、蛍光フィラメント1を4種選んだ例を示し、1本の蛍光フィラメント8および7本の通常フィラメント2を加えて総数で12本を撚糸している。10種から4種を取り出す組合せは 10=210パターンあり、その内から10パターンを示している。図3において、紫外線で赤色発色の蛍光フィラメント1R、緑色発色の蛍光フィラメント1G、オレンジ色発色の蛍光フィラメント1D、青色発色の蛍光フィラメント1B、紫色発色の蛍光フィラメント1M、ピンク色発色の蛍光フィラメント1P、黄色発色の蛍光フィラメント1Y、クリーム色発色の蛍光フィラメント1C、空色発色の蛍光フィラメント1Sである。
【0034】
織成工程では、図8に示すレピア織機18において、後方にワープビーム19から引き出した縦糸20は、ジャカード(図示しない)を用いて縦糸の開口運動を行い、この開口運動で生じたひ道に無色のポリエステル糸をレピア26によって横糸として通入し、且つ特定糸3を織りパターンごとに通入することにより、広幅織物11を織成した。レピア織機18には、多数本のホットナイフ38をプレスロール36,36の後方に取り付け、広幅織物11を帯状ヒートカットすることにより、該広幅織物から織ラベル用テープ14を多数本同時に製造でき、これをそれぞれクロスリール42に巻取った。
【0035】
テープ14は、図8に示すようにカットアンドホールド機のカッタ部で直線54ごとに寸断し、続いてカットアンドホールド機のホルダ部に送って真ん中でホールドしてプレスすることにより、表示マークごとに寸断された織ラベル10(図4)を形成した。織ラベル10は、通常、衣料品の裏側などに縫着する。
【0036】
織ラベル10は、縫着後において、可視光の下では特定糸3の蛍光フィラメント1,8が発色しないで通常のラベルにすぎない。ユーザ自身や取引者が、ブラックライト7で紫外線や赤外線を照射すれば、特定糸3がユーザ独自の複数色に発色し、真正商品であるか否かを容易に確認できる。例えば、図3(1)において、特定糸3は紫外線照射で赤、青、緑、紫色に発色し、赤外線照射で赤色に発色する。図3(2)では、紫外線照射で赤、黄、緑、紫色に発色し、赤外線照射で赤色に発色する。
【0037】
織ラベル10では、赤外線発色の蛍光フィラメント8を特定糸3の中に必ず撚り入れることにより、紫外線照射と赤外線照射のダブルロックを行っている。低パワーの赤外線レーザ光放射機器を偽造鑑定に使用することは、紫外線照射のブラックライト7に比べて一般的でないので、偽造業者は織ラベル10がダブルロックされていることを感知することはきわめて困難になる。
【実施例2】
【0038】
図6には、対向側面に務歯列56を有する2本のテープ部16,16をかみ合わせ、スライダ(図示しない)で開閉するスライドファスナ12を示す。テープ部16,16は、一般に、ニードル織機のような公知の細幅織機によって織成する。テープ部16の少なくとも一方には、特定糸3が縦糸として織り込まれている。務歯列としては、金属またはプラスチック製の個別の務歯56をテープ側縁に挟着させた態様または一連の樹脂コイルをテープ側縁に縫着した態様である。
【0039】
スライドファスナ12は、ファスナ自動製造装置(図示しない)から引き出してロール状に巻いている。ファスナ12は、対向側面に務歯列を有するテープ部16,16をかみ合わせた長尺状の態様である。スライドファスナ12を所定の寸法に寸断した後に、一端部に上止具および他端部に下止金具または開金具を取り付ける。
【0040】
得たスライドファスナ12は、鞄類やブルゾンなどの衣類において所定の個所に縫着すればよい。スライドファスナ12は、縫着後において、可視光の下では特定糸3が発色しないで通常のスライドファスナにすぎない。ユーザ自身や取引者が、ブラックライト7で紫外線を照射しさらに赤外線を照射すれば、特定糸3がユーザ独自の複数色に発色し、真正商品であるか否かを容易に確認できる。
【実施例3】
【0041】
図9に示す面ファスナ58はナイロン繊維製であり、フック状エレメント60およびループ状エレメント62が混在して立設されている。長寸の面ファスナテープは、広幅の基布本体に複数列の幅21mmのエレメント立設部を間隔4mmをおいて織成し、さらにエレメント立設部ごとに特定糸3が織り込まれている。基布本体の裏面に接着剤を塗布し且つフック状エレメント60の形成や熱処理などの加工を施した後に、エレメントを有さない幅4mmの間隙の中間で加熱切断して製造する。
【0042】
基布64の両側縁を包み込む縁縫い部66,66は、オーバーロックミシンにおける針糸の糸締めを強くし、且つ下糸のテンションを比較的弱くして、該下糸で基布64の側縁を包み込む。この縫い目形式では、縁縫い部66の幅を1.5mmに定める。下糸はマルチフィラメントのバルキー加工糸であり、比較的硬い側縁を完全に隠蔽する。
【0043】
面ファスナ58を得るには、両側縁を縁縫いしたファスナテープをさらに別個のヒートカット装置(図示しない)で1枚ごとに横方向にヒートカットする。得た面ファスナ58は、コートやブルゾンなどの衣類において所定の個所に縫着すればよい。面ファスナ58を衣服に縫着すると、その着用者の肌を傷つけることを解消し、セーターや中衣シャツを毛羽立てることもない。面ファスナ58は、縫着後において、可視光の下では特定糸3が発色しないで通常の面ファスナにすぎない。ユーザ自身や取引者が、ブラックライト7で紫外線を照射しさらに赤外線を照射すれば、特定糸3がユーザ独自の複数色に発色し、真正商品であるか否かを容易に確認できる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明で用いる蛍光フィラメントを例示する拡大断面図である。
【図2】本発明で用いる通常フィラメントを示す拡大断面図である。
【図3】蛍光フィラメントと通常フィラメントで撚糸した特定糸の断面図であり、(1)から(10)はそれぞれ異なる色に発色する。
【図4】太陽光や蛍光灯光のような可視光下にある織ラベルを示す平面図である。
【図5】図4の織ラベルをブラックライトで照射した状態を示す平面図である。
【図6】スライドファスナをブラックライトで照射した状態を示す平面図である。織ラベルへのヒートカット前の広幅織物を例示する部分平面図であり、該織物を紫外線で照射した態様で図示している。
【図7】織ラベル用テープを示す部分平面図である。
【図8】ワープビームから広幅織物を織成した直後に多数本の織ラベルにヒートカットする広幅織機を示す説明図である。
【図9】面ファスナをブラックライトで照射した状態を示す平面図である。
【符号の説明】
【0045】
1 蛍光フィラメント
2 通常フィラメント
3 特定糸
5 蛍光体
7 ブラックライト
8 蛍光フィラメント
10 織ラベル
11 広幅織物
12 ファスナ
18 広幅織機


【特許請求の範囲】
【請求項1】
特定糸を複数色に発色させることでユーザごとに個別の情報を付与できる織ラベルであって、発色が異なる少なくとも2種の蛍光フィラメントと、該蛍光フィラメントと同質であって蛍光物質を含まない通常フィラメントとを多数本撚糸した特定糸を用い、この特定糸を織成時に横糸または縦糸として織り込むことにより、可視光が照射されても全体が無色であり、一方、紫外線および/または赤外線を照射すると、織り込んだ撚糸である特定糸が複数色に発色する偽造防止の織ラベル。
【請求項2】
特定糸において、少なくとも1種の紫外線発光の蛍光フィラメントと、赤外線発光の蛍光フィラメントとを撚糸することにより、紫外線および赤外線の照射によるダブルロックを達成する請求項1記載の織ラベル。
【請求項3】
特定糸を複数色に発色させることでユーザごとに個別の情報を付与できるファスナであって、発色が異なる少なくとも2種の蛍光フィラメントと、該蛍光フィラメントと同質であって蛍光物質を含まない通常フィラメントとを多数本撚糸した特定糸を用い、この特定糸を織成時にスライドファスナのテープ部または面ファスナ本体に織り込むことにより、可視光が照射されても全体が無色であり、一方、紫外線および/または赤外線を照射すると、織り込んだ撚糸である特定糸が複数色に発色する偽造防止のファスナ。
【請求項4】
特定糸において、少なくとも1種の紫外線発光の蛍光フィラメントと、赤外線発光の蛍光フィラメントとを撚糸することにより、紫外線および赤外線の照射によるダブルロックを達成する請求項3記載のファスナ。
【請求項5】
発色が異なる多数の蛍光フィラメントと、該蛍光フィラメントと同質であって蛍光物質を含まない通常フィラメントとを保有し、織編物に偽造防止の情報を付与する依頼をユーザから受けた際に、該ユーザに特定した少なくとも2種の異なる発色の蛍光フィラメントを選択し、これを複数本の通常フィラメントとともに撚糸してから、この特定糸を織機または編機において所定の個所に織り込みながら織編物を織成または編成する偽造防止の織編物の製造法。
【請求項6】
多数の蛍光フィラメントが、紫外線の照射によってそれぞれ赤色、青色、緑色、黄色および/またはそれ以外の色に発色する請求項5に記載の織編物の製造法。
【請求項7】
蛍光フィラメントが、赤外線の照射によってそれぞれ赤色、緑色および/またはそれ以外の色に発色する請求項5に記載の織編物の製造法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2007−92254(P2007−92254A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−286157(P2005−286157)
【出願日】平成17年9月30日(2005.9.30)
【出願人】(391015627)日本ダム株式会社 (8)
【Fターム(参考)】