説明

偽造防止印刷物

【課題】凸状の画線により可視画像と潜像模様を形成した偽造防止印刷物であって、潜像模様の視認性を向上させるために、潜像模様を視認する際には可視画像が消失する印刷物を提供する。
【解決手段】第1の方向に沿って所定のピッチで規則的に配置し、かつ、少なくとも二段階以上の高低差を有する凸状の画線で不可視画像の潜像部と背景部が形成され、第1の画線の非画線部に相当する領域に配置された第2の画線によって可視画像が形成され、第2の画線の高さを第1の画線における最も低い画線高さより低い画線高さによって形成することで、潜像模様を視認する際に、可視画像が消失する印刷物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀行券、株券、債券等の有価証券、各種証明書及び重要書類等の偽造防止又は複製防止が必要とされる偽造防止印刷物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
銀行券、株券、債券等の有価証券、各種証明書及び重要書類等において、真正物か偽造物であるかを真偽判別するための技術として、古くから潜像凹版と呼ばれる偽造防止技術がある。この潜像凹版は、凹版インキ等で盛り上がって印刷された画線を用いることで効果を奏するものである。例えば、図11の印刷物11に示されたように、印刷模様12の背景を成す画線群13と、潜像模様15を成す画線群14は、90度の2方向の差異を持った万線状の画線によって配置している。この印刷物11の印刷面を真正面から見た観察した場合、施されている潜像模様15の「P」文字を容易に認識することができないが、図12に示されたように、斜めから観察すると、例えば、凹版インキのような盛り上がった画線では、画線群13で隣り合う画線との視角によって重なり合うため、実際の潜像部を成す画線14よりも低明度(高濃度)となる。これにより、潜像模様15の「P」文字が顕像となって出現する。この技術の特徴は、別途判別具を用意せずとも簡単に真偽判別することができることである。
【0003】
また、2方向の万線状の画線でなくとも、凹版インキの盛り上がりの高さにおける差異によって、1方向の万線で実現することもできる(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
さらに、特開平5−339900号公報では、各種万線模様又はレリーフ模様、及びそれら双方の模様のいずれかの凹凸形状を有する素材と、素材の色及び無色透明以外の異なった他の色による一定な間隔を持つ各種万線画線又は網点画線、及びそれら双方のいずれかを組み合わせることによって、ある特定の方向から観察するときにのみ、特定の文字、図柄等を認識することができるようにした潜像模様形成体とその作製方法が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
また、特公昭56−19273号公報では、印刷物を傾けて観察して画像を現出するような方法として、印刷基材上に縦横の画線で構成される画像を凹版印刷することで印刷面を真上から観察した場合には、確認することができない潜像が角度を変えて観察すると顕像化される方法が開示されている(例えば、特許文献3参照。)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実公平2−43747号
【特許文献2】特開平5−339900号
【特許文献3】特公昭56−19273号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した従来の印刷物では、この技術の特徴は別途判別具を用意せずとも簡単に真偽判別を可能とする、優れた技術である。しかし、図11に示された従来の潜像凹版の例のように、そのままでは施されている潜像模様15が認識されてしまうことがある。そこで、図13に示されたように、潜像模様15をより認識できないように、印刷模様12の背景を成す画線群13と潜像を成す画線群14のそれぞれにまたがるカモフラージュ模様16を設ける技術がある。このカモフラージュ模様16は、印刷模様12中の画線群13と画線群14の画線幅を部分的に変えていることにより、印刷物11を真正面からの観察した際に模様として認識することができるものである。
【0008】
しかし、この技術は、図14に示されたように斜めからの観察においても、潜像模様15が顕像となっている状態でもカモフラージュ模様16もそのまま見えてしまい、顕像となった潜像模様15の視認性を妨げるという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の偽造防止印刷物は、基材に、第1の方向に沿って所定のピッチで規則的に複数配置された第1の画線と、複数配置された第1の画線の間に第2の画線が配置された偽造防止印刷物であって、第1の画線は、少なくとも二種類の高さを有し、第2の画線は、第1の画線の最小画線高さh1より低い画線高さh2を有し、第1の画線によって第1の画像が形成され、第2の画線によって第2の画像が形成され、第1の画線における最小画線高さh1の境界部から、第2の画線における画線高さh2の境界部を結ぶ距離d2と、第2の画線における画線高さh2の境界部から、向かって後方の第1の画線における印刷面との境界部の印刷面上の距離d1において、基材を90°の角度から視認した場合に、第1の画像のみが視認され、基材を{tan-1(h1/d2)}/(π/180)≧θ3≧{tan-1(h1/d2)-tan-1{h1/(d1+d2)}}/(π/180)の角度域から視認した場合に、前記第2の画像のみが視認され、基材を90°≧θ4>{tan-1(h1/d2)}/(π/180)の角度から視認した場合に、第1の画像と前記第2の画像の両方が視認されることを特徴とする偽造防止印刷物である。
【0010】
また、本発明の偽造防止印刷物における第1の画線は、少なくとも二種類の高さの間で、高さが段階的に変化する画線によって形成されたことを特徴とする偽造防止印刷物である。
【0011】
また、本発明の偽造防止印刷物における第1の画線は、少なくとも二種類の高さの間で、高さが連続的に変化する画線によって形成されたことを特徴とする偽造防止印刷物である。
【0012】
また、本発明の偽造防止印刷物は、基材を90°≧θ4>{tan-1(h1/d2)}/(π/180)の角度から視認した場合に、第1の画像と第2の画像によって合成された第3の画像が形成されたことを特徴とする偽造防止印刷物である。
【0013】
また、本発明の偽造防止印刷物における第2の画線は、分断された画線によって画線面積率が100%から0%の範囲で段階的又は連続的に変化させることで、第1の画像が連続階調を有する画像として形成されたことを特徴とする偽造防止印刷物である。
【0014】
また、本発明の偽造防止印刷物における第2の画線は、所定の画線幅によって形成され、所定の画線幅を100%とした場合に、第2の画線を100%から0%の範囲で段階的又は連続的に変化させることで、第1の画像が連続階調を有する画像として形成されたことを特徴とする偽造防止印刷物である。
【0015】
また、第2の画線における所定の画線幅は、近接する第1の画線との間の少なくとも一方に非画線部が形成されたことを特徴とする偽造防止印刷物である。
【発明の効果】
【0016】
本発明における印刷物上の画線構成により、カモフラージュ模様が潜像模様の視認性をまったく妨げることなく、印刷物を真正面から見ていた観察者からは、印刷物を斜めから見ることによって、それまで見えていた模様がまったく別の模様に入れ替わったように見えるという新たな効果を、印刷物画線で実現することを可能にしている。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の立体的な構成を示す説明図。
【図2】図1に示された印刷物1の断面図。
【図3】本発明の印刷物1の平面図とその斜視図。
【図4】任意の模様を施した印刷物1の解説図。
【図5】図4に示された印刷物1を真正面から目視で見た状態を示した説明図。
【図6】図5に示された印刷物1を図2で示された角度θ3の角度域から成る視角をもって観察した際の斜視図。
【図7】本発明の立体的な構成を示す説明図。
【図8】図7に示された印刷物1の断面図。
【図9】本発明の印刷物1の平面図とその斜視図。
【図10】本発明の印刷物1の平面図とその斜視図。
【図11】凹版インキ等で盛り上がって印刷された従来の画線の構成を示す説明図。
【図12】図11に示された印刷物11の斜視図。
【図13】カモフラージュ模様16を設けた従来の画線の構成を示す説明図。
【図14】図13に示された印刷物11の斜視図。
【図15】主画線3の低画線の低画線部a1と高画線部a2の高低差が連続性を有する例を示す説明図。
【図16】図15(a)に示された印刷物1を真正面から目視で見た状態を示した説明図。
【図17】図15(b)に示された印刷物1を図2で示された角度θ3の角度域から成る視角をもって観察した際の斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の偽造防止印刷物について、本発明を実施するための形態として、図面を用いて説明する。しかしながら、本発明は以下に述べる実施するための形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載されている技術の範疇であれば、その他いろいろな実施の形態が含まれる。
【0019】
図1は、本発明の特徴である画線の立体的な構成が示された説明図である。印刷物1上の印刷模様2は、印刷面からの盛り上がりの高さの異なる低画線部a1と高画線部a2によって長手方向に平行して構成された主画線3と、主画線3の低画線部a1よりも低い盛り上がりの副画線4で構成されている。また、主画線3の長手方向と垂直方向に沿って所定のピッチで規則的に配置され、さらに、主画線3と副画線4とが交互に配置されている。すなわち、主画線3の非画線部に相当する領域に配置された副画線4の画線幅w2は、主画線3の画線幅w1よりも短くなっている。これにより、連なる主画線3の間に配置される副画線4において、垂直方向の両側に非画線部を確保している状態となっている。本発明の特徴を図1の断面A及び断面Bの部分においてより詳細に説明する。
【0020】
図2(a)は図1の断面Aを示した断面図である。図2(a)に示された印刷物1を、真正面の観察位置[1]から観察した視線e1からは、図3(a)の平面図で示されたように、主画線3の画線幅w1は同じ長さとなって観察されている。よって、視線e1からの観察では、主画線3で構成される模様には何ら変化はなく、副画線4で構成される模様のみが観察される。
【0021】
また、図2(a)で示された印刷物1を斜めの観察位置[2]から観察すると、観察位置[2]から見て前方の低画線部a1から成る主画線3の視認幅e2と、観察位置[2]から見て後方の高画線部a2から成る主画線3の視認幅e3とで見かけ上の幅の違いが現れる。これは、低画線部a1における視線との境界部m1と印刷面との境界部p1までの盛り高さh1と、高画線部a2における視線との境界部m2と印刷面との境界部p2までの盛り高さh3との違いによって、見かけの違いが生ずるものである。すなわち、図3(b)の斜視図に示されたように、低画線部a1に示された境界にて生ずる視認幅e2より高画線部a2にて生ずる視認幅e3のほうが長く見えている。
【0022】
さらに、図2(a)に示されたように、副画線4における視線との境界部m3までの印刷面からの盛り高さh2は、主画線3に示された盛り高さh1よりも低くなっている。これにより、観察位置[2]において、境界部m1と境界部m3を結ぶ距離d2を用いて得られた所定の角度θ1以下での観察では、副画線4の見える位置が視認幅e2の範囲に含まれ、図3(b)に示されたように、主画線3が副画線4を遮蔽するような位置関係となる。
【0023】
またさらに、図2(a)に示されたように、観察位置[2]から見て前方の主画線3の低画線部a1に示された境界部m1と副画線4に示された境界部m3とを視線で結ぶとき、少なくとも主画線3と副画線4が存在しない空白の領域、すなわち図3(b)で示された印刷物1上の非画線部を観察することができる視認幅e4を認識することができる。
【0024】
そしてさらに、図2(a)に示されたように、観察位置[2]から見て前方の主画線3の低画線部a1に示された境界部m1と、観察位置[2]から見て後方の主画線3における印刷面との境界部p2とを視線で結ぶとき、印刷物1上の非画線部が視認できない。すなわち、副画線4に示された境界部m3と、後方主画線3に示された印刷面との境界部p2における印刷面上の距離d1を用いて得られた所定の角度θ2以下では、印刷物1上の非画線部が視認できない。
【0025】
一方、図2(b)は図1の断面Bを示した断面図である。図2(b)で示された印刷物1を斜めの観察位置[2]から観察すると、観察位置[2]から見て前方の高画線部a2から成る主画線3の視認幅e3と、観察位置[2]から見て後方の低画線部a1から成る主画線3の視認幅e2とで見かけ上の幅の違いが現れる。しかし、高画線部a2における視線との境界部m2と印刷面との境界部p2までの盛り高さh3と、低画線部a1における視線との境界部m1と印刷面との境界部p1までの盛り高さh1との違いによって、斜めの観察位置[2]からでは印刷物1上の非画線部を視認することができない。
【0026】
すなわち、図3(b)の斜視図に示されたように、後方の主画線3が前方の主画線3によって、その一部が重なって見える。図3(a)の平面図のように、印刷物1を観察位置[1]つまり真正面から観察した場合、低画線部a1と高画線部a2との盛り上がりの高さの違いは認識されないが、観察位置[2]から観察した場合、図3(b)の斜視図のように、低画線部a1と高画線部a2との盛り上がりの高さの違いを認識することができる。
【0027】
また、観察位置[2]から見て、低画線部a1と高画線部a2との盛り上がりの高さの違いを最も明瞭に認識することができる条件としては、印刷物1上の非画線部を視認することができる角度、すなわち、副画線4が低画線部a1から成る主画線3によって遮蔽される角度θ1から、印刷物1上の非画線部を視認することができない角度θ2を差し引いた角度θ3の角度域であることが望ましい。
【0028】
なお、上述したように、主画線3の非画線部に相当する領域に配置された副画線4の画線幅w2は、主画線3の画線幅w1よりも短くなっている。これにより、連なる主画線3の間に配置される副画線4において、垂直方向の両側に非画線部を確保している状態となっていることから、図2(a)の斜めの観察位置[3]から観察した場合は、図2(b)の斜めの観察位置[2]から観察したときと同条件となり、図2(b)の斜めの観察位置[3]から観察した場合は、図2(a)の斜めの観察位置[2]から観察したときと同条件となる。
【0029】
図4は、任意の模様を施した印刷物1の解説図であり、印刷物1上に印刷模様2が形成されている。この印刷模様2の具体的な構成は、等間隔で配置された複数の主画線3と副画線4から成り、主画線3は図1の斜視図で示されたように、印刷物1における印刷面からの盛り上がりの高さの異なる低画線部a1と高画線部a2から成る。これにより、印刷物1を真正面から観察した場合、低画線部a1と高画線部a2との盛り上がりの高さは認識されない。
【0030】
すなわち、背景模様を構成する低画線部a1に対し、高画線部a2で構成する領域を不可視画像5として施すことができる。例えば、図4に示されるような「P」のアルファベットの文字を成した不可視画像5として配置されている(本発明を実施するための最良の形態では、位置をわかりやすくするため、境界を点線で表現しているが、点線自体は印刷されるものではない)。
【0031】
さらに、複数の主画線3と交互に副画線4が配置されている。副画線4を有する領域は、印刷物1を真正面から見て観察することができる可視画像6として施すことができる。例えば、図4に示されるような幾何学模様を成した可視画像6として配置されている(本発明を実施するための最良の形態では、位置をわかりやすくするため、境界を点線で表現しているが、点線自体は印刷されるものではない)。
【0032】
図5は、図4に示された印刷物1を真正面から目視で見た状態を示したものである。このとき、観察者には、図4で示された不可視画像5を認識することができないが、図4で示された可視画像6は認識することができている。図5に示された印刷物1を、図2で示された角度θ3の角度域から成る視角をもって観察した際、図6に示されたように低画線部a1と高画線部a2の高さによって、主画線3の見え方の違いが現れる。
【0033】
すなわち、印刷模様2において、図3(b)の斜視図で示されたのと同様に、低画線部a1の視認幅e2よりも高画線部a2の視認幅e3の方が長く見えることから、低画線部a1より高画線部a2の方が高濃度で観察される。これにより、図6に示された印刷模様2中の主画線3において、高画線部a2で構成された領域から成る不可視画像5が、斜めから観察することにより該領域が可視画像となって出現している。
【0034】
一方、図6に示された副画線4は、図3(b)の斜視図で示されたのと同様に、副画線4の見える位置が視認幅e2の範囲に含まれ、主画線3が副画線4を遮蔽するような位置関係となる。これにより、副画線4で構成された可視画像6が不可視画像となって消失する。すなわち、印刷物1を所定の角度から視認した場合に、可視画像6を形成する副画線4は、主画線3との高低差によって死角となることで視認されなくなる。したがって、印刷物1を真正面から見ていた観察者からは、印刷物1を斜めから見ることによって、それまで見えていた模様がまったく別の模様に入れ替わったように見える。
【0035】
さらに、図5に示された印刷物1をカラー複写機で複写すると、主画線3における低画線部a1と高画線部a2の盛り高さの違いはなく、斜めから見た際の不可視画像5が可視画像として出現したり、可視画像6が不可視画像となって消失したりすることはなく、これが複写されたものであることが一目瞭然となる。
【0036】
また、主画線3と副画線4の位置関係は、上記の配置に限るものではない。例えば、図7に示されたように、主画線3と副画線4が隣接していても良い。この場合も図1に示された画線構成と同じく、主画線3の低画線部a1よりも低い盛り上がりの副画線4で構成されている。また、主画線3の長手方向と垂直方向に沿って所定のピッチで規則的に配置されているが、図7に示された画線構成では、主画線3に副画線4が隣接しながら交互に配置されている。また、主画線3の非画線部に相当する領域に配置された副画線4の画線幅w2は、主画線3の画線幅w1よりも短くなっている。これにより、連なる主画線3の間に配置される副画線4において、垂直方向の片側に非画線部を確保している状態となっている。本発明の特徴を図7の断面A及び断面Bの部分においてより詳細に説明する。
【0037】
図8(a)は、図7の断面Aを示した断面図である。図8(a)に示された印刷物1を真正面の観察位置[1]から観察した視線e1からは、図9(a)の平面図で示されたように、主画線3の画線幅w1は同じ長さとなって観察されている。よって、視線e1からの観察では、主画線3で構成される模様には何ら変化はなく、副画線4で構成される模様のみが観察される。
【0038】
また、図8(a)で示された印刷物1を斜めの観察位置[2]から観察すると、観察位置[2]から見て前方の低画線部a1から成る主画線3の視認幅e2と、観察位置[2]から見て後方の高画線部a2から成る主画線3の視認幅e3とで見かけ上の幅の違いが現れる。これは、図2(a)に示された状態と同様につき、説明を省略する。すなわち、図9(b)の斜視図に示されたように、低画線部a1に示された境界にて生ずる視認幅e2より高画線部a2にて生ずる視認幅e3の方が長く見え、かつ、所定の角度θ1以下での観察では、副画線4の見える位置が視認幅e2の範囲に含まれ、図9(b)に示されたように、主画線3が副画線4を遮蔽するような位置関係となる。
【0039】
また、図8(a)に示されたように、観察位置[2]から見て前方の主画線3の低画線部a1に示された境界部m1と副画線4に示された境界部m3とを視線で結ぶとき、少なくとも主画線3と副画線4が存在しない空白の領域、すなわち、図9(b)で示された印刷物1上の非画線部を観察することができる視認幅e4を認識することができる。
【0040】
さらに、図2(a)に示された状態と同様に、図8(a)においても副画線4に示された境界部m3と、後方主画線3に示された印刷面との境界部p2における印刷面上の距離d1を用いて得られた所定の角度θ2以下では、印刷物1上の非画線部を視認することができない。この場合、連なる主画線3の間に配置される副画線4において、垂直方向の片側に非画線部を充分確保しているため、図2(a)に示された状態と比較して図8(a)に示された状態では、観察角度[2]の角度が高くなるという特徴がある。
【0041】
一方、図8(b)は図1の断面Bを示した断面図である。図8(b)で示された印刷物1を斜めの観察位置[2]から観察すると、図9(b)の斜視図に示されたように、後方の主画線3が前方の主画線3によって、その一部が重なって見える。すなわち、図9(a)の平面図のように、印刷物1を観察位置[1]つまり真正面から観察した場合、低画線部a1と高画線部a2との盛り上がりの高さの違いは認識されないが、観察位置[2]から観察した場合、図9(b)の斜視図のように、低画線部a1と高画線部a2との盛り上がりの高さの違いを認識することができる。
【0042】
また、観察位置[2]から見て、低画線部a1と高画線部a2との盛り上がりの高さの違いを最も明瞭に認識することができる条件としては、印刷物1上の非画線部を視認することができる角度、すなわち、副画線4が低画線部a1から成る主画線3によって遮蔽される角度θ1から、印刷物1上の非画線部を視認することができない角度θ2を差し引いた角度θ3の角度域であることが望ましい。
【0043】
図10は、印刷物1を真正面から目視で見た状態を示したものである。図9で示されたように、主画線3と副画線4とが隣接した関係をもって観察者には可視画像6を認識することができている。また、不可視画像5は認識することができない。図10に示された印刷物1を図8で示された角度θ3の角度域から成る視角をもって観察した際、図6に示されたのと同様に低画線部a1と高画線部a2の高さによって主画線3の見え方の違いが現れる。すなわち、印刷模様2において、図9(b)の斜視図で示されたのと同様に、低画線部a1の視認幅e2よりも高画線部a2の視認幅e3の方が長く見えることから、低画線部a1より高画線部a2の方が高濃度で観察される。これにより、図6に示された印刷模様2中の主画線3において、高画線部a2で構成された領域から成る不可視画像5が、斜めから観察することにより該領域が可視画像となって出現している。一方、図6に示された副画線4は、図9(b)の斜視図で示されたのと同様に、副画線4の見える位置が視認幅e2の範囲に含まれ、主画線3が副画線4を遮蔽するような位置関係となる。これにより、副画線4で構成された可視画像6が不可視画像となって消失する。したがって、印刷物1を真正面から見ていた観察者からは、印刷物1を斜めから見ることによって、それまで見えていた模様がまったく別の模様に入れ替わったように見える。
【0044】
図15は、主画線3の低画線部a1と高画線部a2の高低差が連続性を有する例を説明するものである。図15(a)は、印刷物を図2に示された真正面の観察位置[1]から観察した状態が示されたものである。図15(a)の状態では、主画線3の低画線部a1から高画線部a2に至る高さの変化を認識することはない。併せて、副画線4は断続的な空白部が備わっていることによって画線面積率が100%から0%の範囲で段階的又は連続的に変化している。これにより、図16に示された印刷物1の印刷模様2のように、副画線4によって任意の連続調画像が視認される。
【0045】
一方、図15(b)は、印刷物を図2に示された斜めの観察位置[2]から観察した状態が示されたものである。図15(b)の状態では、主画線3の低画線部a1から高画線部a2に至る連続的な高さの変化が、主画線3の見かけ上の重なりによって視認される。併せて、副画線4は主画線3によって遮蔽されているため、副画線4の画線面積率が連続的に変化することで備わっている連続階調画像を認識することはない。これにより、図17に示されたように、印刷物1の印刷模様2を斜めから観察すると、副画線4が主画線3によって遮蔽され、さらに主画線3に備わっている画線の連続的な高さの変化によって任意の連続調画像が視認される。
【0046】
また、副画線4の画線幅w2が所定の画線幅によって形成され、副画線4の画線幅w2を100%とした場合に、副画線4の画線幅w2を100%から0%の範囲で段階的又は連続的に変化していることで、可視画像6を連続階調画像となっても良い。
【0047】
なお、主画線3における画線ピッチ並びに低画線部a1と高画線部a2の高さに何ら制限はないが、低画線部a1と高画線部a2の画線幅w1は200〜600μmで画線ピッチは300〜800μm、低画線部a1の盛り高さは10〜30μmで高画線部a2の盛り高さは20〜60μm程度が望ましい。低画線部a1の盛りの高さと、高画線部a2の盛り高さの差は特に限定されることはないが、低画線部a1の盛り高さにからさらに10〜50μm程度の差が好ましい。
【0048】
本発明の効果を奏するためのより具体的な数値としては、主画線2の低画線部a1における視線との境界部m1までの印刷面からの盛り高さh1が12μmで、副画線4における視線との境界部m3までの印刷面からの盛り高さh2は2μmであった。また、境界部m1と境界部m3を結ぶ距離d2は150μmであることから、これらの数値をもとに、可視画像6が不可視にされる角度を逆三角関数(アークタンジェント)にて定義すると、副画線4で形成された可視画像6が主画線4によって死角となる角度θ1は約4°以下となる。さらに、副画線4に示された境界部m3と、後方主画線3に示された印刷面との境界部p2における印刷面上の距離d1は50μmなので、副画線4に示された境界部m3と、後方主画線3に示された印刷面との境界部p2における印刷面上の距離d1を用いて得られた所定の角度θ2は約3°となる。すなわち、可視画像5と不可視画像6とが完全に入れ替わり、不可視画像6のみが見える理想の角度域θ3は、以下の関係式を満たすものである。
【0049】
【数1】

【0050】
また、可視画像5のみが見える理想の角度は、図2又は図8に示された印刷物1を真正面の観察位置[1]から観察した視線e1、すなわち、印刷面に対して90°の角度である。これに対し、不可視画像6が可視画像となって見える角度域は、副画線4で形成された可視画像6が主画線4によって死角となる角度θ1以下の角度となる。よって、可視画像5を視認することができる角度域θ4は、90°から角度θ1までの以下の関係式を満たすものである。
【0051】
【数2】

【0052】
また、副画線4の画線幅w2及び印刷面からの盛り高さh2は、図2に示された断面図上の位置関係を満たすものであれば特に限定するものではないが、角度θ3の角度域から成る視角を充分に確保するため、できるだけ盛り高さが低いことが望ましい。また、印刷物1に用いられる印刷媒体は上質紙、コート紙等、何ら制限するものはなく、印刷模様2を印刷媒体に転写するための製版及び印刷方式も凹版印刷、スクリーン印刷等、素材を印刷面から盛り上がらせることが可能ならば何ら限定するものではない。
【符号の説明】
【0053】
1 印刷物
2 印刷模様
3 主画線
4 副画線

6 可視画像
11 印刷物
12 印刷模様
13 画線群
14 画線群
15 潜像模様
16 カモフラージュ模様
a1 低画線部
a2 高画線部
A 断面
B 断面
d1 距離
d2 距離
e1 視線
e2 視認幅
e3 視認幅
e4 視認幅
m1 境界部
m2 境界部
m3 境界部
p1 境界部
p2 境界部
w1 画線幅
w2 画線幅
θ1 角度
θ2 角度
θ3 角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材に、第1の方向に沿って所定のピッチで規則的に複数配置された第1の画線と、前記複数配置された第1の画線の間に第2の画線が配置された偽造防止印刷物であって、
前記第1の画線は、少なくとも二種類の高さを有し、
前記第2の画線は、前記第1の画線の最小画線高さh1より低い画線高さh2を有し、
前記第1の画線によって第1の画像が形成され、
前記第2の画線によって第2の画像が形成され、
前記第1の画線における最小画線高さh1の境界部から、前記第2の画線における画線高さh2の境界部を結ぶ距離d2と、
前記第2の画線における画線高さh2の境界部から、向かって後方の前記第1の画線における印刷面との境界部の印刷面上の距離d1において、
前記基材を90°の角度から視認した場合に、前記第1の画像のみが視認され、
前記基材を{tan-1(h1/d2)}/(π/180)≧θ3≧{tan-1(h1/d2)-tan-1{h1/(d1+d2)}}/(π/180)の角度域から視認した場合に、前記第2の画像のみが視認され、
前記基材を90°≧θ4>{tan-1(h1/d2)}/(π/180)の角度から視認した場合に、前記第1の画像と前記第2の画像の両方が視認されることを特徴とする偽造防止印刷物。
【請求項2】
前記第1の画線は、前記少なくとも二種類の高さの間で、高さが段階的に変化する画線によって形成されたことを特徴とする請求項1記載の偽造防止印刷物。
【請求項3】
前記第1の画線は、前記少なくとも二種類の高さの間で、高さが連続的に変化する画線によって形成されたことを特徴とする請求項1記載の偽造防止印刷物。
【請求項4】
前記基材を90°≧θ4>{tan-1(h1/d2)}/(π/180)の角度から視認した場合に、前記第1の画像と前記第2の画像によって合成された第3の画像が形成されたことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の偽造防止印刷物。
【請求項5】
前記第2の画線は、分断された画線によって画線面積率が100%から0%の範囲で段階的又は連続的に変化させることで、前記第1の画像が連続階調を有する画像として形成されたことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載の偽造防止印刷物。
【請求項6】
前記第2の画線は、所定の画線幅によって形成され、前記所定の画線幅を100%とした場合に、前記第2の画線を100%から0%の範囲で段階的又は連続的に変化させることで、前記第1の画像が連続階調を有する画像として形成されたことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載の偽造防止印刷物。
【請求項7】
前記第2の画線における所定の画線幅は、近接する前記第1のとの間の少なくとも1方に非画線部が形成されたことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項記載の偽造防止印刷物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2011−42049(P2011−42049A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−190125(P2009−190125)
【出願日】平成21年8月19日(2009.8.19)
【出願人】(303017679)独立行政法人 国立印刷局 (471)
【Fターム(参考)】