説明

偽造防止用スレッド

【課題】従来のスレッド入り紙は、スレッドを抄き込む技術、間欠的に窓開き部にスレッドを露出させる技術、窓開き部にすき入れを施す技術、スレッドにマイクロ文字やマイクロ画像を形成する技術などの高度の技術を要するため、偽造防止手段として好ましく採用されているが、万全といえるものではない。
【解決手段】スレッド入り紙において、表示材料や記録材料を内包した透明中空繊維ユニットをスレッドとして挿入することにより、表示の色や濃度が可逆的に変化するという新規な偽造防止手段を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偽造防止用のスレッド、およびそのスレッドを用いた偽造防止用紙に関するものである。更に詳しくは、表示材料および/または記録材料が内包された透明中空繊維ユニットをスレッドに用いた偽造防止用紙に関する。
【背景技術】
【0002】
有価証券類の偽造は大きな社会問題となっており、紙幣、商品券、小切手、株券、パスポート、身分証明書、カードなどは不正に変造、偽造できないように、各種の偽造防止対策が施されている。偽造防止対策は、非特許文献1記載のように、二つに大別できる。万人が自らの力ではっきりと対象物の真贋を判定できる「眼に見える、公開された偽造防止対策」(オバート)と、専用の機器を用いなければ真贋判定できず、一般にはその内容が知らされていない「眼に見えない、非公開の偽造防止対策」(コバート)である。
【非特許文献1】先端偽造防止技術―事例集―、技術情報協会、p.5−18(2004)
【0003】
オバートは、偽造品を第一次的に直接授受する一般の人々が知っておく必要があるものである。したがって、複雑な操作を必要とする道具などを使わずに、人間の持つ五感を使って、直ちに真贋判別できる判定のしやすい技法が好ましい。
紙の分野では、代表的なオバート技術としてすかしが挙げられる。すかしの技術は、紙幣、有価証券、旅券など、広く使われている。その他のオバート技術としては、紙へ特殊物質を混入する方法がある。特殊物質として着色繊維や蛍光発光繊維などの表示材料を混入した紙が、有価証券などの用紙に使用されている。
【0004】
一方コバートは、一般には関係者以外には秘密を保ちながら、多くの場合特殊な機器を使用しながら専門家が真贋判定するものである。また、自動販売機、ATMなどの紙幣処理機器など機器による真贋判定技術もコバート技術に含まれる。
紙に関わるコバート技術には、赤外線インキによる印刷などそれ独自の独立した方法もあるが、多くの技法はオバート技術の延長上にある。例えば、紙へ特殊物質を混入する場合には、レアメタルなど一般には検知できない物質を混入する。その他、紙層中に金属繊維、磁性材などを混入し、その分布状態をコンピュータに記録した後、真贋判定においてそれを検知・照合する方法がある。コバートにおいて混入される特殊物質としては、金属繊維、磁性材料などの情報記録材が一般的である。したがって、トレーサビリティなどにも用いることができる。
【0005】
近年、コンピュータ、スキャナー、プリンターなどの高性能化や廉価化によって、比較的容易に偽造紙幣などを作ることが可能になり、プロの偽造集団ではない素人による偽造が増えている。したがって、一般の人々が(あまり精巧ではないが)偽造紙幣などに接する機会が増えており、紙幣の真贋を彼ら自身が行わなければならなくなってきている。このような現状においては、コバートのような隠れた偽造防止技術以上に、誰にでも見分けられるオバート技術の重要性が増している。
【0006】
スレッド入り紙と呼ばれる偽造防止用紙もオバートの一種であり、各国の紙幣などで多く使用されている。紙層中に抄き込むスレッドの形態は、一般に10〜100μm程度の厚みで、0.2〜30mmの巾の糸状あるいはテープ状のものであり、例えば、金糸、銀糸、プラスチックフィルム、金属蒸着フィルム等が使用される。
【0007】
スレッド入り紙には大きく分けて2種類がある。スレッドが紙層内に埋没されていて用紙表面に露出しない種類のものであり、もう一つは、スレッドの一部が用紙表面に露出した窓開きスレッド入り紙である。後者は、用紙の流れ方向に間欠的に厚みを薄くした窓開き部を形成し、この窓開き部でスレッドが露出していることが特徴である。したがって、一般には窓開きタイプの方が、オバート効果は高い。また、このようなスレッド入り紙の偽造防止効果をより一層高めるために、窓開きスレッド入り紙の窓開き部内にすき入れを施したり(特許文献1参照)、スレッド表面に金属蒸着層からなるマイクロ文字やマイクロ画像を形成したりすることも行われている。
【0008】
一方、紙またはフィルム状の媒体の偽造防止を行う目的で、何らかの表示材料および/または記録材料を内包した透明中空繊維ユニット(以下、透明中空繊維ユニットとする)を混入した、特許文献2のような偽造防止用紙が提案されている。
特許文献2における、偽造防止用紙の形態を、図5に示す。偽造防止用紙500の全面に均一に分散された透明中空繊維ユニット510の構成について、透明中空繊維ユニット510は、透明中空繊維511、表示材料や記録材料(以下、内包物質とする)512からなる。図5では、内包物質512として黒色粒子が例示されている。例えば、黒色粒子が磁性粉である場合、510aの状態にある透明中空繊維ユニット内部には磁性粉が表示材料として観察されるので、オバート機能を発現する。また、磁石を近づけることにより磁性粉が移動するという独特の効果もある。
一方、510bの状態にある透明中空繊維ユニットは紙層内部にあるため、オバート機能はない。しかし、磁性粉を内包しているので、磁気センサーなどに検知される記録材料として働き、コバート機能を発現する。また、紙層内部のオバート機能、つまり視認性を向上させるために、特許文献3では、透明中空繊維中に蛍光染料などを内包させる技術が開示されている。
【0009】
【特許文献1】特許第2845197号公報
【特許文献2】特願2005−370641号公報
【特許文献3】特願2006−204264号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記の従来のスレッド入り紙は、スレッドを抄き込む技術、間欠的に窓開き部にスレッドを露出させる技術、窓開き部にすき入れを施す技術、スレッドにマイクロ文字やマイクロ画像を形成する技術などの高度の技術を要するため、偽造防止手段として好ましく採用されている。
【0011】
しかしこれらの偽造防止手段も万全といえるものではないため、より一層偽造困難な偽造防止手段が求められている。そこで本発明は、スレッドを抄き込んだ従来の偽造防止用紙における偽造防止効果をさらに高めるために、前記の透明中空繊維の技術との融合を提案する。すなわち、前記の偽造防止用紙では、短繊維として紙に透きこんでいた透明中空繊維を、スレッドとして挿入する。スレッドとして透明中空繊維ユニットを含む偽造防止用紙は、透明中空繊維の製造、透明中空繊維への表示材料や記録材料の内包、スレッド化など、偽造が困難な要素をいくつも含んでいる点で、高度な偽造防止手段として好ましい。また、透明中空繊維中には様々な表示材料や記録材料の内包が可能であり、したがって多くのバリエーションが可能である。さらに、個体毎に異なる特徴を持たせることができるので、原本性の確保が重要な有価証券類の用途に好ましく用いることができる。
また、内包する材料によっては、電界、磁界、熱、光などの外部刺激に反応するタイプも可能であり、従来変化しないことを特徴としていた偽造防止用紙に、表示の色や濃度が可逆的に変化するという新しい特長を持たせることができる点において、新規な偽造防止手段と言える。さらに、履歴を記録できるような材料を透明中空繊維中に入れれば、トレーサビリティへの応用も可能である。
【0012】
さらに、特許文献2、3の発明においては視認性の向上が課題とされているが、本発明のスレッドとして透明中空繊維ユニットを含む偽造防止用紙は、この課題を解決するものでもある。すなわち、特許文献2、3の発明では、透明中空繊維ユニットを短繊維の状態でランダムに紙に抄きこむため視認できない場合があった。一方、本発明ではセンチメートル単位の長繊維をスレッドとして挿入するため、透明中空繊維の位置も容易に特定でき、視認性が大きく向上する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、スレッド入り紙において、表示材料や記録材料を内包した透明中空繊維ユニットをスレッドとして用いることにより、新規な偽造防止手段を提供するものである。すなわち、本発明は以下の(1)、(2)の構成を含む。
【0014】
(1)表示材料および/または記録材料を内包する透明中空繊維からなるスレッド。
(2)前記スレッドを少なくとも一本挿入したことを特徴とする偽造防止用紙。
【発明の効果】
【0015】
本発明の、紙に表示材料および/または記録材料をスレッドとして挿入した偽造防止用紙によれば、単にスレッドを抄き込むことによる偽造防止手段に加えて、多くのバリエーションが可能であること、電界、磁界、光や熱などの外部刺激によって表示を変化させることができること、トレーサビリティの機能も付与できることなどで真偽を直ちに判定でき、より一層高度で確実な偽造防止手段を付与できる。
また、透明中空繊維ユニットをスレッドとして紙に挿入する点で、単繊維として透明中空繊維を混入した特許文献2や特許文献3の発明に比べ、視認性が高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明について詳しく説明する。
本発明の偽造防止用紙は、表示材料や情報記録材料を内包した透明中空繊維をスレッドとして紙に挿入させることにより構成される。
本発明の偽造防止用紙の一例の概念図を図1に、断面図を図2に示す。図1および図2に示すように、偽造防止用紙100は、何らかの表示材料および/または記録材料を内包した透明中空繊維ユニット(以下、透明中空繊維ユニットとする)110がスレッドとして挿入された状態で形成される。紙にスレッドとして挿入された透明中空繊維ユニット110は一本以上であれば、紙に挿入できる限り何本でもよい。図1および図2においては、窓開きタイプを示しているが、視認できる限りにおいては窓開きタイプでなくともよく、紙層中に埋没していてもよい。特に、埋没タイプでは、透明中空繊維内に蛍光染料を入れるなど視認性を向上させる工夫が必要な場合もある。
【0017】
図1および図2に示した偽造防止用紙100に挿入された透明中空繊維ユニット110の構成と機能について、一例を挙げて説明する。透明中空繊維ユニット110は、透明中空繊維111、表示材料や記録材料(以下、内包物質とする)112からなる。図1および図2では、これに限定されるものではないが、内包物質112として黒色粒子が例示されている。例えば、黒色粒子が磁性粉である場合、透明中空繊維ユニット内部には磁性粉が表示材料として観察されるので、オバート機能を発現する。また、磁石を近づけることにより磁性粉が移動するという独特の効果もある。さらに、磁性粉を内包しているので、磁気センサーなどに検知される記録材料として働き、コバート機能を発現する。
【0018】
次に本発明の偽造防止用紙の材料について説明する。
透明中空繊維111の材料としては、実質的に表示材料等が認識できる程度の透明性があればよい。透明性の観点から選択できる具体的な材料としては、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン系共重合体(ABS系樹脂)、フッ素系樹脂(例えば、4フッ化エチレン樹脂)、シリコーン系樹脂、ナイロン系樹脂、塩化ビニル系樹脂などを挙げることができる。
【0019】
透明中空繊維111の材料の中でも、セルロイドやアセチルセルロースなどは好適に用いられる。これからの材料は、特に紙との親和性が強い。セルロイドやアセチルセルロースなどからなる透明中空繊維ユニットを、本発明の偽造防止用紙から剥離しようとした場合、該透明中空繊維ユニットは紙からうまく剥がれず、むしろユニットそのものが壊れてしまう。したがって、偽造を目的とした透明中空繊維ユニットの再利用が困難である。
【0020】
前記透明中空繊維は外径として10μmから500μm程度のものが使用できる。10μm未満では、オバートとして用いた時に観察しにくいおそれがある。一方、500μmを超えると、紙に挿入するのが困難なことがある。さらに、前記透明中空繊維は内径として5μmから490μm程度のものが使用できる。5μm未満では、オバートとして用いた時に観察しにくいおそれがある。一方、490μmを超えると、好ましい外径範囲を考えると、中空繊維の肉厚が薄すぎて脆くなり、内包物質が漏れてしまうおそれがある。
【0021】
透明中空繊維に内包する物質112は、固体でも液体でも気体でも、これらのゲル化物や混合物でもよい。例えば、図1および図2の磁性粉を内包した透明中空繊維ユニットの場合、磁性粉だけでなく酸化チタンを混ぜてコントラストを上げたり、シリコーンオイルのような液体を併用し磁性粉の移動をスムースにさせたり、蛍光染料を添加することなどにより、オバート機能を向上させることができる。
【0022】
透明中空繊維に内包する固体としては、無機系粒子、有機ポリマー粒子、無機・有機複合粒子などが使用されるが、特に、これらに制限されるわけではない。無機系粒子としては、酸化チタン、水酸化チタン、亜鉛華、硫化亜鉛、酸化アンチモン、炭酸カルシウム、鉛白、タルク、シリカ、ケイ酸カルシウム、アルミナホワイト、カドミウムイエロー、カドミウムレッド、カドミウムオレンジ、チタンイエロー、紺青、群青、コバルトブルー、コバルトグリーン、コバルトバイオレット、酸化鉄、カーボンブラック、マンガンフェライトブラック、コバルトフェライトブラック、銅粉、アルミニウム粉などが挙げられる。有機ポリマー粒子としては、ウレタン系、ナイロン系、フッ素系、シリコーン系、メラミン系、フェノール系、スチレン系、スチレン−アクリル系、ウレタン−アクリル系などが挙げられる。また、スチレン−アクリル系から成る中空粒子も挙げられる。これらの粒子は顔料や染料により着色されたものであってもよい。
【0023】
透明中空繊維に内包する固体の中でも、特に磁性粉は好適に用いられる。磁性粉は表示材料としてオバート機能を発現し、記録材料としてコバート機能を発現するからである。ここで言う磁性粉とは、磁性体単独、或いは2種以上の磁性体の混合、又は磁性体とポリマーからなる混合物などからなり、例えばマグネタイト、フェライトをはじめとする鉄、コバルト、ニッケルなどの強磁性を示す金属、あるいはこれらの元素を含む合金、または化合物(例えば酸化物など)の微粒子が挙げられる。
【0024】
透明中空繊維に内包する液体としては、種々の液体が使用され、例えば、シリコーン系オイル、脂肪族炭化水素系オイル、芳香族炭化水素系オイル、脂環式炭化水素系オイル、ハロゲン化炭化水素系オイル、各種エステル類、またはその他の種々の油などを単独、または適宜混合したものが使われる。また、これらの液体は着色して用いることもできる。これらの液体の着色には、アゾ系、ビスアゾ系、トリアゾ系、アントラキノン系、トリフェニルメタン系、フェロシアン化合物、酸化コバルト化合物、フタロシアニン化合物、イソインドリノン化合物、モリブテン化合物などの各顔料や染料などが挙げられる。さらに、スチルベン系、ピラニン系化合物など蛍光発光するものなども好適に用いることができる。
透明中空繊維に内包する液体として、水も用いることができる。水を内包させる場合、透明中空繊維の材質によってが、水蒸気が透過しやすく、内包物質の減少につながることもある。このような場合には、グリセリンなど吸湿性の高い材料を混入することで、内包物質の減少を抑えることができる。
【0025】
気体としては、空気、窒素などが用いられるが、取り扱いが容易であることなどから、空気が好ましく使用される。
【0026】
次に、本発明の偽造防止用紙100の用紙の原料となるパルプ繊維について説明する。パルプ繊維としては、針葉樹や広葉樹などの木材パルプからなる植物繊維、イネ、エスパルト、バガス、麻、亜麻、ケナフ、カンナビスなどの非木材パルプからなる植物繊維、またはポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリアクリレート、ポリ塩化ビニルなどのプラスチックから作られた合成繊維などが用いられる。
【0027】
本発明に用いる用紙は、原料である前記のパルプ繊維を水中にて叩解し、抄いて絡ませた後、脱水・乾燥させて作られる。このとき、紙は主成分であるセルロースの水酸基間の水素結合により繊維間強度が得られる。また、紙に用いるてん料としてはクレー、タルク、炭酸カルシウム、二酸化チタンなどがあり、サイズ剤としてはロジン、アルキル・ケテン・ダイマー、無水ステアリン酸、アルケニル無水コハク酸、ワックスなどがあり、紙力増強剤には変性デンプン、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリアミドポリアミンエピクロルヒドリン樹脂、尿素−ホルムアルデヒド、メラミン−ホルムアルデヒド、ポリエチレンイミンなどがあり、これらの材料をそれぞれ抄紙時に加え、長網抄紙機、円網抄紙機などで抄造する。
【0028】
また、植物繊維以外の例えば合成繊維を混入した紙の場合は、合成繊維間に水素結合などの結合力を持たないため結着剤を必要とすることが多いので、合成繊維比率と結着剤量は、紙の強度を落とさない程度に適宜決めるのが好ましい。
【0029】
次に本発明の偽造防止用紙の製造法について説明する。
透明中空繊維は、例えば、以下のようにして製造できる。略同心円状の二層構造のポリマー繊維を溶融紡糸法などにより製造し、該繊維を延伸して外径10〜500μm程度の繊維を得る。このときに、内層は成形後に水洗や有機溶剤などで溶解する樹脂である。溶解によって内層の樹脂を取り除くことにより、透明中空繊維を得ることができる。あるいは、内層の溶解性樹脂の代わりに予め流体を導入しておけば、後から樹脂を取り除く必要がなくなり、より簡便に透明中空繊維を製造することが可能になる。この際、導入する流体としては、空気や窒素ガスのような気体が好ましい。
【0030】
次に、予め内包する物質を用意しておき、内包物質を前記透明中空繊維に含浸する。具体的には、透明中空繊維を多数本束ねてチャンバー内に置き、チャンバーを真空に引き、続いて、内包物質をチャンバー内に導入することにより、該内包物質で中空繊維を充満することができる。
また、図3に示すような押出成型機を用いて、表示材料や記録材料を内包した透明中空繊維ユニットを一時に作製することも可能である。押出成型機は、略同軸のノズル部1およびノズル部2を有する。ノズル部1は、内包物質を押出す部分であり、ノズル部2は、透明中空繊維用材料を押出す部分である。このようなノズルを使用して、加熱しながら同時に押出し、延伸して所定の直径になるように延伸して繊維化する。
【0031】
透明中空繊維は糸状のままでも、スレッドとして用いることができるが、特開2005−250066号公報で開示されている図4のような装置を用いて、繊維を束ねシート状に加工してもよい。幅広のスレッドを形成できるほかに、繊維毎に内包材料を変えれば、様々バリエーションのスレッドを形成することができる。例えば(1)内部の磁性粉が磁力で動く繊維、(2)内部の感温性ゲルが熱により発色/消色を繰り返す繊維を交互に並べ、接着剤を塗布し、乾燥させることにより、磁力にも熱にも反応するスレッドを形成することができる。接着は、中空繊維同士を接触させ、加熱することより繊維を熱融着させることも可能である。繊維ユニット同士の接着剤としては、水系接着剤、エマルジョン系接着剤、溶剤系等の一般に公知の接着剤が適宜使用されるが、溶剤系の接着剤が好ましく用いられる。例えば、ウレタン系、エポキシ系、ポリエステル系、アルキド系、アミド系、アクリル系などの接着剤が使用できる。
【0032】
前記透明中空繊維ユニットをスレッドとして挿入した偽造防止用紙の抄紙方法は、通常のスレッド入り紙の製造に用いられる方法でよい。すなわち、多層抄き抄紙機の少なくとも最終の抄き合わせの前に、スレッドを挿入し、抄き合わせ時の水分および乾燥工程においてスレッドと紙を接合することによって偽造防止用紙が得られる。
以下、オバートに優れる窓開きタイプがオバートの観点から好ましいため、窓開きタイプのスレッド紙の製造法につき示すが、スレッド埋没タイプを本発明から除外するものではない。
【0033】
以下、オバートに優れる窓開きタイプがオバートの観点から好ましいため、窓開きタイプのスレッド紙の製造法につき示すが、スレッド埋没タイプを本発明から除外するものではない。
窓開きスレッド入り紙を製造する方法としては、ワイヤ上の紙料懸濁液に、凹凸部を有するガイドの凸部先端にスレッドを通した溝を有するベルト機構を埋没して製造する方法(特許文献4参照)や、凹凸状に加工した網を円網抄紙機の上網に使用し、スレッドを網表面の凹凸部に接触させながら挿入して窓開き部分にスレッドを抄き込む方法(特許文献5参照)や、円網抄紙機の円網シリンダー表面上にテープを一定間隔で貼り付けて網目を塞いでおき穴が空いた紙層を形成する方法(特許文献6参照)や、長網抄紙機のワイヤ上の回転ドラム内に圧縮空気ノズルを内蔵させ、予め紙匹に挿入したスレッド上のスラリーを圧縮空気で間欠的に吹き飛ばしてスレッドを用紙表面に露出させる方法(特許文献7参照)等が提案されている。窓開きスレッド入り紙を製造する方法としては上記の方法を含めどのような方法でもかまわない
【0034】
【特許文献4】特公平5−85680号公報
【特許文献5】米国特許第4462866号公報
【特許文献6】特開平10−292293号公報
【特許文献7】特開平6−272200号公報
【0035】
本発明の偽造防止策が施された偽造防止用紙への印刷は、従来の紙の場合と同じ設備と方法が使用可能である。すなわち、オフセット印刷法、スクリーン印刷法、グラビア印刷法、凸版印刷法、凹版印刷法などの印刷法で文字や絵柄を印刷することができる。
【0036】
本発明の偽造防止用紙の断裁加工は、内包物質を混入した透明中空繊維ユニットがスレッドとして挿入されているため、断裁前に断裁部分を熱融着加工し、内包物質が外に漏れないように注意する必要がある。
【0037】
本発明の偽造防止用紙は、スレッドとして挿入された透明中空ユニットに内包された表示材料の存在により、特別な器具を用いなくとも目視により真偽判定するものである。また透明中空ユニットに内包された記録材料の存在により、専用機器を用いて真贋判定するものである。すなわち、オバートとコバートを両立するものである。なお、ここで言う専用機器とは、磁気センサーや金属センサー、紫外線、赤外線鑑定機など含むが、これらに限定されるものではない。
【実施例】
【0038】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。なお実施例中の「%」は、特に断らない限り、「質量%」を意味する。
【0039】
実施例1
<内包物質の作製>
磁性粉(商標:BL−100、チタン工業製、平均粒子径0.4μm)10g、酸化チタン(商標:TITANIX JRNC、テイカ製、平均粒径0.3μm)5gを乳鉢で物理的に混合した。次に、容量200mlのビーカーに、蒸留水25g、グリセリン(東京化成試薬特級)を58g、スチルベンジスルホン酸系蛍光増白剤の水溶液(商標:Whitex BPS liquis conc、住友化学製)8g、分散剤としてポリカルボン酸ナトリウム(商標:SNディスパーサント5045、サンノプコ製)の10%水溶液2gを混合し、溶媒を調製した。混合した溶媒中に、スパチュラで攪拌しながら磁性粉と酸化チタンの混合物25g全量を添加し、さらに15分間超音波処理し内包物質を得た。
【0040】
<透明中空繊維の作製>
溶融押出成型機を用い、ノズルの中心部のガス吐出孔から前記内包物質を流しつつ、該中心部の周りのノズルから、ポリ塩化ビニル樹脂を押し出した。押出機温度は150℃にした。溶融したポリプロピレン樹脂の押出し速度は0.20kg/hrであった。押出機出口の溶融繊維を引き伸ばし、外径90μm、内径60μmの透明中空繊維を得た。
【0041】
<偽造防止用紙の作製>
用紙の原料としては、水中で濃度が0.5%の針葉樹クラフトパルプ(叩解度:430ccCSF)に紙力増強剤(商品名:AF−255、荒川化学工業製)を絶乾パルプ当り0.1%添加した紙料を用いた。
一方、二槽のシリンダーバットを備えた円網抄紙機の、一槽目の円網シリンダーの同一円周表面上にあらかじめ1cm×1cmの形のテープを1cm間隔で貼り付けて網目を塞いでおき、第一紙層(風乾米坪35g/m)として1cmおきに1cm×1cmの穴が空いた紙層を形成するようにした。二槽目の円網シリンダーには細工を施さず、無地の第二紙層(風乾米坪70g/m)を形成するようにした。また、スレッド巻き出し装置を一槽目と二槽目のシリンダー間に設置し、前記透明中空繊維からなるスレッドが第一紙層の穴と重なる位置に、第二紙層とアルミ蒸着面側が接する向きで挿入されるようにした。用紙の原料として、前記の紙料を用い、第一紙層と接するヤンキードライヤーとこれに続くシリンダードライヤーで乾燥後、マシンカレンダー処理した。上記工程により、透明中空繊維ユニットをスレッドとする窓開きタイプのスレッド入り偽造防止用紙を得た。
【0042】
<偽造防止の効果>
スレッドとして紙の表面にある透明中空繊維ユニット部で、磁石を当てた際に磁性粉の移動状況を目視観察して、オバートの効果を確認した。また、本偽造防止用紙を300μmのセルギャップのITOガラス電極にサンドイッチし、電圧を印加すると、透明中空繊維ユニット中の酸化チタンが、電界の向きに対応して電気泳動する様子も観察され、電圧印加によるオバート効果も確認できた。これらのオバート効果は、ブラックライトにより紫外光を与えたとき蛍光染料が発光することにより、さらに向上した。
一方、磁気センサー(商品名:ST008型、日本シーディーアール製)のヘッドを本偽造防止用紙に当てながら左右にスライドさせた際、ヘッドが透明中空繊維ユニットからなるスレッドに近づいた時に、磁気センサーが磁性粉に反応しピーという音が発生し、コバートの効果も確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明の、紙に表示材料および/または記録材料をスレッドとして挿入した偽造防止用紙によれば、単にスレッドを抄き込むことによる偽造防止手段に加えて、多くのバリエーションが可能であること、磁力や熱によって表示を変化させることができること、トレーサビリティの機能も付与できることなどで真偽を直ちに判定できる。より一層高度で確実な偽造防止手段を付与できる点で、産業上の利用価値が高い。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の偽造防止用紙の概念図
【図2】本発明の偽造防止用紙の断面図
【図3】本発明の押出し成型機の概念図
【図4】透明中空繊維ユニットのシート化装置
【図5】透明中空繊維ユニットを混入した偽造防止用紙の断面図(特許文献2)
【符号の説明】
【0045】
100:本発明の偽造防止用紙
110:本発明の透明中空繊維ユニット
111:本発明の透明中空繊維
112:本発明の内包物質の一例
500:透明中空繊維ユニットを混入した偽造防止用紙
510:透明中空繊維ユニットを混入した透明中空繊維ユニット
510a:透明中空繊維ユニットが紙表面に表れている状態
510b:透明中空繊維ユニットが紙層内部にある状態
511:透明中空繊維ユニットを混入した透明中空繊維
512:透明中空繊維ユニットを混入した内包物質の一例

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表示材料および/または記録材料を内包する透明中空繊維からなるスレッド。
【請求項2】
前記スレッドを少なくとも一本挿入したことを特徴とする偽造防止用紙。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2008−115485(P2008−115485A)
【公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−297569(P2006−297569)
【出願日】平成18年11月1日(2006.11.1)
【出願人】(000122298)王子製紙株式会社 (2,055)
【Fターム(参考)】