説明

偽造防止用紙および偽造防止用紙の製造方法

【課題】スレッドを紙層中に抄き込んだ偽造防止用紙において、その後の印刷や断裁等の加工工程時および、最終形態での使用時にスレッドの位置が変化しない偽造防止用紙を提供する。
【解決手段】熱可塑性樹脂と固体可塑剤を基本成分とする感熱性粘着剤を少なくとも表面の一部分に有する糸状又はテープ状のスレッドを紙層中に抄き込んだことを特徴とする偽造防止用紙である。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、偽造防止用紙に関するものである。詳しくは、抄紙機で紙層間の所定の位置にスレッドを挿入し、抄紙した偽造防止用紙およびその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】紙幣、商品券、小切手、株券、パスポート、身分証明書、カードなどは不正に変造、偽造できないように、各種の偽造防止対策が施されている。例えば、紙層中に糸状物(スレッドと称す)を抄き込んだ、いわゆる糸入り紙と称する偽造防止用紙がある(特開昭48−75808号,特公昭52−48660号,特開昭51−130308号等)。
【0003】スレッドについて説明をすると、その形態は通常10〜100μm程度の厚みで、0.2〜30mm程度の巾のテープ状或いは糸状といった長尺ものである。例えば、プラスチックフィルム(更に金属蒸着等の加工を施したもの)のテープ状物、糸(特に金糸、銀糸など)等が使用されている。スレッドはこのような形態であるため、スレッドには薄く且つ細くてもその強度が優れていること、またその他にも耐候性、耐薬品性、耐水性等が要求されている。
【0004】一般的にはポリエステルフィルムをベースフィルムとしたものが、上記要求を満たしているので好んで使用され、例えばその片面または両面にアルミニウム等を蒸着したもの、黄色などの染料でフィルムや蒸着層を着色したもの、その表面に文字や図柄等を印刷したもの、特開昭56−151598号、特開昭58−54099号、特開昭63−182497号等に提案されているように、スレッドに特殊な情報を付加さて偽造防止効果を高めたもの等の偽造防止の工夫を適宜施したものが使用され、マイクロスリッター等で細巾にスリットして製造したものが使用される。
【0005】しかしながら、スレッドを抄き込んだ偽造防止用紙において、印刷や断裁する工程の際や、さらには使用上折り曲げ等の外力によって紙層中のスレッドの位置が左右にずれたり、スレッドが紙層から僅かながらもとび出したりし、また、スレッドを引っ張ると抜けて、本来の偽造防止効果を持たない紙切れとなってしまうというなどの問題がある。スレッドにアンカー塗工剤や表面保護剤等の樹脂層を設けたものも検討されているが、充分な品質に至っていない。
【0006】取り分け、偽造防止用紙片表面にスレッドが一定の間隔で露出と埋没と繰り返したタイプの偽造防止用紙では、スレッドの露出している部分については、スレッド表面と紙層表面との接触がないために、前述のようなスレッドの位置ずれ等の問題が発生しやすい。
【0007】これらの問題点に対して、一般的には、抄紙工程におけるサイズプレスの澱粉やポリビニルアルコール等の水溶性接着剤の量を多くしたり、または、例えば、特開平7−56377号に記載されているように、スチレン−ブタジエン共重合ラテックス、メチルメタクリレート・ブタジエン共重合ラテックス等の合成ゴムラテックスやポリアクリル酸エステルエマルジョン、ポリ酢酸ビニルエマルジョン等の合成樹脂エマルジョン等の熱可塑性樹脂接着剤や澱粉、カゼイン、ポリビニルアルコール等の天然糊剤もしくは合成糊剤等の水溶性接着剤をベースフィルム表面に塗工して、スレッドと紙層との接着強度を向上させていた。しかしながら、これらの方法ではその接着性について乏しく前記のような問題を完全に直すに至っていない。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、スレッドを紙層中に抄き込んだ偽造防止用紙において、その後の印刷や断裁等の加工工程時および、最終形態での使用時にスレッドの位置が変化しない偽造防止用紙を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】本発明者等は、かかる課題を解決するために、あらかじめスレッド表面に塗工する接着剤を設けることにより紙層に固定できないか鋭意研究を行った。接着剤として前述の種々の熱可塑性樹脂接着剤や水溶性接着剤を使用した場合は、それらの樹脂皮膜の硬度が硬たいため、平滑なスレッド表面とパルプ繊維の絡みによって発生した凹凸の多い紙層表面とを結合させ固定するには不適当であった。 即ち、十分な接着性を有するためには、紙層表面の凹凸に容易に浸透できるような流動性が、接着剤に必要となることを見いだした。因みに、前述の熱可塑性樹脂接着剤や水溶性接着剤も抄紙機のドライヤーパートでの高温によって軟化はするものの紙層表面の凹凸に浸透できる程の流動性は得られない。
【0010】本発明者等は、更に接着剤について研究を重ねた結果、熱可塑性樹脂と固体可塑剤を基本成分とする感熱性粘着剤をスレッド表面に設けると、ドライヤーパートの熱で流動化され、スレッドと紙層を十分接着できることを見出し、本発明に至った。
【0011】即ち、本発明は、熱可塑性樹脂と固体可塑剤を基本成分とする感熱性粘着剤を少なくとも表面の一部分に有する糸状又はテープ状のスレッドを紙層中に抄き込んだことを特徴とする偽造防止用紙である。
【0012】また、感熱性粘着剤層を設けたスレッドを、効率よく偽造防止用紙中に固着させるには、例えば、該スレッドを、少なくとも最終の抄き合わせ工程よりも先に粘着性を発現していない状態で導入し、その後乾燥ドライヤーを通すことで、該感熱性粘着剤層の粘着性を発現させ、紙料中に固着させることで得られるのである。
【0013】即ち、本発明は、多層抄き抄紙機で、少なくとも最終の抄き合わせを行うよりも前に、熱可塑性樹脂と固体可塑剤を基本成分とする感熱性粘着剤を少なくとも表面の一部分に有する糸状又はテープ状のスレッドを重ね合わせること、および乾燥工程において該感熱性粘着剤を活性化して接合することを特徴とする偽造防止用紙の製造方法である。
【0014】
【発明の実施の形態】本発明で使用する感熱性粘着剤は、一般の粘着剤とは異なり、常温での粘着性はなく、加熱することにより粘着性を発現するものである。熱可塑性樹脂と固体可塑剤を基本成分とするものであり、これに適宜粘着付与剤やブロッキング防止剤等を加えたものである。
【0015】熱可塑性樹脂としては、例えば、酢酸ビニル、酢酸ビニル−エチレン共重合体、酢酸ビニル−エチレン−塩化ビニル共重合体、酢酸ビニル−エチレン−アクリル共重合体、酢酸ビニル−アクリル−スチレン共重合体、酢酸ビニル−アクリル共重合体、スチレン−アクリル共重合体、エチレン−塩化ビニル共重合体、(メタ)アクリル酸エステル共重合体、NBR、SBR等の樹脂でガラス転移温度が−35〜60℃、好ましくは−20〜30℃の範囲のものが挙げられる。因みに−35℃未満であると常温でも粘着性を有してしまうという問題があり、また60℃を超えると加熱した際の粘着性が現れにくいという問題がある。
【0016】スレッドの材質としてポリエステルを用いる場合、前記熱可塑性樹脂の中でも酢酸ビニル−エチレン共重合体、酢酸ビニル−エチレン−塩化ビニル共重合体、酢酸ビニル−エチレン−アクリル共重合体、エチレン−塩化ビニル共重合体等の成分中にエチレンを含んだ熱可塑性樹脂がポリエステルフィルムとの接着性が良好な点から好ましい。尚、これらの熱可塑性樹脂は、一般に固形分濃度40〜60重量%程度の水分散体(エマルジョン)の形で使用される。
【0017】感熱性粘着剤に使用される固体可塑剤は、例えば、フタル酸ジシクロヘキシル(融点63℃)、フタル酸ジヘキシル(融点65℃)、フタル酸ジヒドロアビエチル(融点65℃)、イソフタル酸ジメチル(融点66℃)、安息香酸スクロース(融点98℃)、二安息香酸エチレングリコール(融点70℃)、三安息香酸トリメチロールエタン(融点73℃)、四安息香酸ペンタエリトット(融点95℃)、八酢酸スクロース(融点89℃)、N−シクロヘキシル−p−トルエンスルホンアミド(融点86℃)等が挙げられる。
【0018】本発明のように抄紙機内の乾燥工程におけるドライヤーの温度を利用して、感熱粘着剤層を効率よく粘着化させるには、その中でも融点が70℃以下の、フタル酸ジシクロヘキシル、フタル酸ジヘキシル、フタル酸ジヒドロアビエチル、イソフタル酸ジメチル等のフタル酸のエステル誘導体の使用が好ましい。因みに、融点が70℃を越える固体可塑剤の場合は、感熱性粘着剤層を粘着化させるために、ドライヤー温度を高温に設定する必要があり、そのために紙が過剰に乾燥されて紙くせ(カール)の悪い、詳しくは紙面片方向に湾曲したりするため、後に紙平衡水分になるよう加湿等の水分調整が必要となる。なお、固体可塑剤の融点が50℃未満の場合、常温で僅かながら粘着性が発現するため、スレッドの巻き取りでの耐ブロッキング性が劣るので、50℃以上であることが好ましい。
【0019】かかる固体可塑剤は、平均粒子径が1〜10μm程度のものが好ましい。平均粒子径が1μm未満のものは、スレッドの巻き取りでの耐ブロッキング性が劣る傾向にあり、10μmを越えるものはその可塑化作用が劣り接着性が不十分となり易い。
【0020】固体可塑剤をこのような粒子径に調製する方法としては、特に制限はなく、例えば前述した固体可塑剤の少なくとも一つと分散剤と水とを混合して、ボールミルやサンドミル等を用いて、一般の湿式粉砕方法で作ることができる。分散剤としては、例えばメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、アクリル酸誘導体、スルホン酸誘導体、無水マレイン酸誘導体、ゼラチン等の各種水溶性高分子化合物やアニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤等の各種界面活性剤が使用できる。固体可塑剤と分散剤との混合比は固体可塑剤100固体重量部に対して分散剤0.5〜10固体重量部程度、好ましくは1〜5固体重量部である。分散剤が0.5固体重量部未満の場合は水に対する固体可塑剤の分散が不十分であり微細化された一次粒子が再凝集を起こしてし易く、また10固体重量部を越えると接着性能を低下させる問題が生じ易い。また、これら固体可塑剤の水分散体は、一般に固形分濃度40〜60重量%程度に仕上げられる
【0021】感熱性粘着剤における熱可塑性樹脂および固体可塑剤の配合比は、熱可塑性樹脂100固体重量部にに対して固体可塑剤50〜300固体重量部である。因みに、固体可塑剤が50固体重量部未満であると、感熱性接着剤としての粘着性が現れ難く接着性能が劣り、固体可塑剤を300固体重量部を越えての使用は凝集力が不足し接着性能が劣るという問題がある。
【0022】感熱性粘着剤には、熱可塑性樹脂及び固体可塑剤の他に粘着付与剤を併用して、接着機能をより優れたものにすることができる。この場合の配合比は熱可塑性樹脂100固体重量部に対して粘着付与剤10〜150固体重量部が好ましい。より好ましくは30〜100固体重量部である。粘着付与剤が10固体重量部未満の場合は接着機能を高める効果に乏しく、150固体重量部を越えると耐ブロッキング性を著しく低下させるという問題がある。使用される粘着付与剤の種類としては、ロジン系粘着付与剤、フェノール樹脂系粘着付与剤、テルペン樹脂系粘着付与剤、キシレン系樹脂系粘着付与剤、石油樹脂系粘着付与剤等が挙げられる。
【0023】なお、感熱性粘着剤の性質を阻害しない範囲で、消泡剤、粘度調整剤、レベリング剤、防腐剤、染料等の種々の助剤を必要に応じて加えることもできる。
【0024】感熱性粘着剤の塗布量については、特に限定するものではないが、テープ状のスレッドを用いる場合、スレッドの少なくとも片面に、乾燥重量で1〜20g/m2 、好ましくは5〜15g/m2 程度である。因みに塗布量が1g/m2 未満であると、十分な接着力が得られず、また、20g/m2 を越えることは接着機能が飽和し経済上好ましくない。
【0025】感熱性粘着剤を塗布する方法としては、ハケ塗り、スプレー塗布、スクリーン印刷、グラビア印刷、オフセット印刷、活版印刷、メイヤーバーコーター、キスロールコーター、ダイレクトロールコーター、オフセットロールコーター、マイクログラビアロールコーター、リバースロールコーター、ロッドコーター、ブレードコーター、エアーナイフコーター、ダイコーター、リップコーター等の各種塗布装置によって形成される。中でも、マイクログラビアロールコーターが塗布量の均一性の点から好ましい。
【0026】乾燥は塗布を行う上記の装置に組み合わせた従来の方法で行う事ができるが、感熱性粘着剤塗被層の温度が、使用する固体可塑剤の融点より低い温度で乾燥を行わなければならない。乾燥が固体可塑剤の融点より高い温度となると、直ちにその固体可塑剤が溶融し感熱性接着剤層が粘着性を発現するからである。なお以上の理由から一般的に乾燥温度は、50℃以下であることが好ましい。また50℃を越える温度で乾燥させる場合には感熱性粘着剤塗被層がその固体可塑剤の融点を越えないように塗布スピードを上げて調整することもできる。
【0027】本発明で使用するスレッドとしては、特に限定するものではなく、プラスチックフィルム等のテープ状物や金糸、銀糸等の糸状物など公知のスレッドが使用でる。特に、ポリエステルフィルムをベースフィルムにしたスレッドは、強度等に優れるので好ましい。このポリエステルフィルムを用いたスレッドは、厚みは10〜100μm程度のものが使用できる。なお、ポリエステルフィルムの表面には、コロナ処理、一般のアンカー剤塗工処理等を施すと、フィルム表面と感熱性粘着剤層表面との密着性が向上するので好ましい。
【0028】ポリエステルフィルムには、金属蒸着層を設けることもできる。金属蒸着層としては、例えば、アルミニウム、錫、亜鉛、クロム、コバルト、ニッケル、銅、金、銀等を、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の公知の方法で形成すればよい。蒸着層の厚みは、通常200〜1500Å程度である。安価であること、腐食しにくいこと、金属光沢に優れること等により、一般にはアルミニウムが使用されるが、本発明は、使用する金属、および蒸着方法について特に限定されるものではない。また、スレッドへの文字、図柄等の印刷したり、磁気記録層を設けてこれに情報等を付与したり、あるいは光の干渉を利用して立体的な画像を再生しうる所謂ホログラム等の光学的な特殊処理を施したりすることについても特に制限するものではない。
【0029】尚、フィルムは、感熱性粘着剤を塗布した後、さらにマイクロスリッター等を用いてスリットしてテープ状のスレッドが得られる。スリットの方法は特に限定されず、通常のマイクロスリッターの使用方法に準じて作成ができる。スレッドの巾は製品により異なるが、通常は0.2〜30mm巾程度である。本発明は、常温では粘着性がない感熱性粘着剤を用いているので、フィルムと同様にしてマイクロスリッター等で広幅のものから巻き戻しながら細巾にスリットすることができる。一般の粘着テープのような離型剤塗工層を設けたり、剥離紙を接合することが不要のためコストメリットがあり、またスレッド加工の作業上優れる。
【0030】かくして得られたスレッドは、多層抄き抄紙機の少なくとも最終の抄き合わせを行うよりも前に導入し、その後乾燥工程において該感熱性粘着剤を活性化して接合することによって偽造防止用紙が得られる。
【0031】多層抄き抄紙機としては、公知の抄合せ抄紙機が使用でき、例えば長網と長網、長網と短網、長網と円網、短網と円網、複数の円網など、ウェットパートを組合せた抄紙機が適宜使用できる。また、乾燥工程としては、シリンダードライヤーやヤンキードライヤー等の公知の乾燥機が使用でき、この乾燥の温度を利用して、スレッドの感熱性粘着剤層の粘着性が発現することができるので、それまでの工程でなんら変更もなく、悪影響も及ぼさない。
【0032】例えば、少なくとも二槽のシリンダバットを備えた円網抄紙機の第一の円網にて形成された第一紙層と第二の円網にて形成された第二紙層の間に、前述のスレッドを挿入して製造される。この場合はスレッドが完全に紙層中に埋没した偽造防止用紙になる。また、前記の第一の円網の円周表面の同一円周上に、予め仮に1cm×1cmの形のテープを1cmの一定間隔で連続して網目を塞ぐと、そのテープの部分だけパルプ繊維が存在しなく、1cm×1cmのテープの部分が窓となって、連続的な格子状に穴の空いた第一紙層を抄紙することができ、次にその格子状の位置にスレッドを沿うように挿入し、さらに前記テープ貼着の操作をしない第二の円網で抄いた全面の第二紙層と貼り合わせると、偽造防止用紙の片面において、スレッドが露出と埋没を交互に繰り返したタイプの偽造防止用紙が製造できる。勿論、本発明の偽造防止用紙は、これらの例に限定するものではない。
【0033】本発明で得られた偽造防止用紙は、通常、さらに、所望の印刷、および断裁等を行うことで、紙幣や商品券等に、磁気記録層等を設けて切符やプリペイドカード等を作成することができる。
【0034】
【実施例】以下に実施例を示して本発明をより具体的に説明するが、もちろんこれらに限定するものではない。なお、実施例における「重量部」は特に指定しない限り「固形分重量部」を示し、また「濃度%」は「固形分濃度%」のことを示す。
【0035】〔実施例1〕
(感熱性粘着剤の作成)固体可塑剤としてフタル酸ジシクロヘキシル(大阪有機化学工業株式会社製)融点63℃を100重量部と、分散剤としてノニオン系界面活性剤(商品名;「ノイゲンEA−120」第一工業製薬株式会社製)を3重量部とを混合し、水を加えてして濃度50%の混合液を作り、ボールミルで24時間かけて平均粒子径3μmの固体可塑剤分散液を作成した。熱可塑性樹脂としてガラス転移温度−12℃の酢酸ビニル−エチレン共重合体(商品名;「スミカフレックス S200」,住友化学工業株式会社製)100重量部と上記固体可塑剤分散液150重量部とを混合し良く撹拌して感熱性粘着剤を作成した。
【0036】(スレッドの作成)ポリエステルフィルムにアルミニウムを真空蒸着させた、厚さ12μmの市販のアルミ蒸着フィルム(商品名;「G1302E−12」,ダイヤホイルヘキスト株式会社製)のポリエステルフィルム面に、得られた感熱性粘着剤をマイクログラビヤロールコーターで乾燥重量が10g/m2 になるように塗工し、ドライヤー温度40℃で乾燥した。ついで、マイクロスリッターで巾1.2mmのスリットを行い、スレッドを得た。
【0037】(偽造防止用紙の作成)二槽のシリンダバットを備えた円網抄紙機の第一の円網を、あらかじめ円網の円周表面の同一円周上に、1cm×1cmの形のテープを1cmの一定間隔で連続して網目を塞いでおいた。まず、第一の円網で、1cm×1cmの穴が1cm間隔で格子状に空いた第一紙層にを抄紙し、その格子状の位置に沿って本発明のスレッドを挿入する。挿入方法として、スレッドの感熱性粘着剤塗工層が、前記作成の第一紙層と面しないように挿入する。次に、第二の円網で抄いた、穴のない全面の第二紙層と重ね合わせて偽造防止用紙の原型となる湿潤紙(含水分率約30%)を作成し、ヤンキードライヤー(表面温度:約70℃)、シリンダードライヤー4本(各ドライヤー表面温度:約70℃)を通して乾燥および感熱性粘着剤層を粘着化させて、含水分率約5%の本発明の偽造防止用紙を作成した。この偽造防止用紙の片面は、スレッドが露出と埋没を交互に繰り返したタイプの偽造防止用紙である。
【0038】〔実施例2〕感熱性粘着剤として、市販の感熱性粘着剤(商品名;ヒートマジック「DW−1040」,東洋インキ株式会社製)を用いた以外は実施例1と同様にして偽造防止用紙を作成した。
【0039】〔実施例3〕実施例1の感熱性粘着剤の作成方法の中で、固体可塑剤をフタル酸ジシクロヘキシル(融点63℃)50重量部、フタル酸ジヘキシル(融点65℃)25重量部、及び、フタル酸ジヒドロアビエチル(融点65℃)25重量部の併用にし、また、熱可塑性樹脂をガラス転移温度−20℃の酢酸ビニル−エチレン−アクリル共重合体(商品名「スミカフレックス S900」,住友化学工業株式会社製)にした以外は実施例1と同様にして偽造防止用紙を作成した。
【0040】〔実施例4〕実施例1の感熱性粘着剤の作成方法の中で、固体可塑剤を八酢酸スクロース(融点89℃)50重量部、N−シクロヘキシル−p−トルエンスルホンアミド(融点86℃)50重量部の併用にし、また、熱可塑性樹脂をガラス転移温度30℃の酢酸ビニル−エチレン−塩化ビニル共重合体(商品名「スミカフレックスS850」,住友化学工業株式会社製)にした以外は実施例1と同様にしてスレッドを作成し、更にヤンキードライヤーおよびシリンダードライヤーの表面温度を100℃とした以外は実施例1と同様に偽造防止用紙を作成した。但し、得られた偽造防止用紙の含水分率は約2%であったため、カール等の紙くせが悪く、さらに調湿工程を経て含水分率5%になるように仕上げた。
【0041】〔実施例5〕熱可塑性樹脂をガラス転移温度0℃のアクリル系共重合体(商品名「AE333」,日本合成ゴム株式会社製)にした以外は実施例1と同様にして偽造防止用紙を作成した。
【0042】〔比較例1〕接着剤として、熱可塑性樹脂接着剤であるガラス転移温度−12℃の酢酸ビニル−エチレン共重合体(商品名;「スミカフレックス S200」,住友化学工業株式会社製)を乾燥重量で10g/m2 塗工した以外は実施例1と同様にして偽造防止用紙を作成した。
【0043】〔比較例2〕接着剤を全く塗布しないスレッドを用いた以外は実施例1と同様にして偽造防止用紙を作成した。
【0044】<評価項目>スレッドの接着性を評価するために、下記の接着力と位置ずれ試験を行った。
【0045】〔接着力測定方法〕1.2mmのスレッドと紙料とを180度方向に引き剥がす、いわいる剥離スピード300mm/分のT型180度剥離で接着強度を測定する。(単位:gf/1.2mm)
評価としては、スレッドが露出しているところ(窓部)の剥離強度を測定した。測定値が大きい程、スレッドと紙料との接着強度が高く好ましい。
【0046】〔位置ずれ試験〕スレッドの接着性を評価するため、スレッドの部分を手で左右に10回づつ折り曲げて、しごきに対する窓部のスレッド浮きを目視で判定した。
○:接着性に変化なし。
△:スレッドが浮いているものの、位置には変化なし。
×:スレッドの浮きがひどく、さらに位置もずれてしまった。
【0047】
【表1】


【0048】
【発明の効果】表1の結果から明らかなように本発明の偽造防止用紙は、スレッドに特定の接着剤即ち感熱性粘着剤を積層することで、通常のスレッドの入った偽造防止用紙(糸入り紙)を作成する方法で容易に得ることがでる。また本発明の製造方法で得られた偽造防止用紙は、スレッドの接着性が強く品質においても良好なものであった。更に、抄紙機の乾燥工程で接着するので、既存の設備で製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】熱可塑性樹脂と固体可塑剤を基本成分とする感熱性粘着剤を少なくとも表面の一部分に有する糸状又はテープ状のスレッドを紙層中に抄き込んだことを特徴とする偽造防止用紙。
【請求項2】固体可塑剤の融点が50〜70℃のフタル酸のエステル誘導体である請求項1記載の偽造防止用紙。
【請求項3】スレッドが部分的に表面に現れている請求項1又は2記載の偽造防止用紙。
【請求項4】多層抄き抄紙機で、少なくとも最終の抄き合わせを行うよりも前に、熱可塑性樹脂と固体可塑剤を基本成分とする感熱性粘着剤を少なくとも表面の一部分に有する糸状又はテープ状のスレッドを重ね合わせること、および乾燥工程において該感熱性粘着剤を活性化して接合することを特徴とする偽造防止用紙の製造方法。

【公開番号】特開平10−1898
【公開日】平成10年(1998)1月6日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平8−150688
【出願日】平成8年(1996)6月12日
【出願人】(000122298)王子製紙株式会社 (2,055)
【出願人】(391005488)安倍川製紙株式会社 (1)