説明

傾斜地緑化工法

【課題】植物の生育を促進し得る傾斜地緑化工法を提供する。
【解決手段】傾斜地1に固定されるアンカー材2と、アンカー材2に固定した土留板3とを備えた緑化用アンカー4を用い、複数の緑化用アンカー4を相互に間隔をあけて傾斜地1に対して固定した後、傾斜地1に対して基盤材5を吹き付け施工する際に、各緑化用アンカー4の土留板3の山側に施工する基盤材5の厚さが、土留板3から山側へ行くにしたがって薄くなるように基盤材5を吹き付け施工して、基盤材5の上面に傾斜地1よりも緩傾斜の緑化促進面6を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、山の傾斜地、特にコンクリ−トやモルタル等を施工した擁壁面を緑化するのに好適な傾斜地緑化工法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリ−トやモルタル等を打設して強化した擁壁面は、固化したコンクリ−トが露出して景観を害するとともに、自然環境を損なうことから、新設の擁壁面は勿論のこと、既設の擁壁面においても、緑化工事が推進されている。
【0003】
緑化工事の方法としては、擁壁面に打ち込まれるアンカーピンと、アンカーピンに固定した土留板とを備えた緑化用アンカーを用い、この緑化用アンカーを傾斜地の傾斜方向及び直交方向に相互に間隔をあけて複数固定した後、土留板が略埋まるまで傾斜地に対して基盤砂を吹き付け施工し、次に基盤砂の上側に保護網を敷設施工し、その後植生基盤を保護網上に吹き付け施工する傾斜地緑化工法が提案され、実施されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
また、植生基盤として、植物種子と、種子の発芽・育生を行うための土壌改良材と、肥料等を混合した植生基盤を用い、植物の生育を促進するように構成した傾斜地緑化工法も提案され、実施されている(例えば、特許文献2参照。)。
【特許文献1】特開平10−37220号公報
【特許文献2】特開平7−48841号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、植物は、傾斜面よりも水平面の方が育ち易いことが知られているが、擁壁等においては45°以上の急勾配の場合も多々あり、特許文献1、2記載の傾斜地緑化工法では、吹き付けた基盤材の表面が擁壁面と略並行な傾斜面となる関係上、どうしても植物の生育が遅くなるという問題があった。
【0006】
本発明の目的は、植物の生育を促進し得る傾斜地緑化工法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る傾斜地緑化工法は、傾斜地に固定されるアンカー材と、アンカー材に固定した土留板とを備えた緑化用アンカーを用い、複数の緑化用アンカーを相互に間隔をあけて傾斜地に対して固定した後、傾斜地に対して基盤材を吹き付け施工する際に、各緑化用アンカーの土留板の山側に施工する基盤材の厚さが、土留板から山側へ行くにしたがって薄くなるように基盤材を吹き付け施工して、基盤材の上面に傾斜地よりも緩傾斜の緑化促進面を形成するものである。
【0008】
この傾斜地緑化工法では、傾斜面に対して緑化用アンカーを施工した後、基盤材を吹き付け施工するときに、緑化用アンカーの土留板の山側に施工する基盤材の厚さが、土留板から山側へ行くにしたがって薄くなるように基盤材を吹き付け施工して、基盤材の上面に傾斜地よりも緩傾斜の緑化促進面を形成するので、緑化促進面における植物の生育を促進できる。また、緑化促進面が緩傾斜になるので、降雨による基盤材の流失も抑制できる。
【0009】
ここで、前記基盤材として基盤砂と植生基盤とを用い、基盤砂を吹き付け施工した後、基盤砂の上側に保護網を施工し、その後植生基盤を保護網上に吹き付け施工することが好ましい実施の形態である。この場合には、基盤材の吹き付け厚さが厚い場合に特に有効である。つまり、基盤材としては、バーク堆肥、木質破砕チップ等の母材に対して、植物の種子や肥料や結合材を混合した植生基盤が広く使用されているが、吹き付け厚さが厚い場合には、土中深くに配置された種子については発芽しないことがある。このため、植生基盤は、必要以上に厚くしても、植物の生育の促進にはなんら寄与しない点と、傾斜地においては、雨水が地表に沿って流れてしまい、植物の生育に必要な水分を十分に確保できない点から、本発明のように、保水性に優れた基盤砂を吹き付けた後、植生基盤を吹き付けて、基盤材を2層構造に構成し、植生基盤を適正な厚さに設定しつつ、基盤砂により保水性を高めて、植物の生育を促進することが好ましい。
【0010】
前記基盤材の吹き付け前に、土留板の前側の傾斜地上に保水材を施工することも好ましい実施の形態である。この場合には、植物の生育に必要な水分を保水材によっても確保できるので、緑化促進面における植物の生育を一層促進することができる。
【0011】
前記緑化促進面上に砂礫層を吹き付け施工することも好ましい実施の形態である。このように構成することで、砂礫層により、緑化促進面における水分の蒸発を抑制して、緑化促進面における植物の生育を一層促進することができる。
【0012】
前記緑化用アンカーとして、アンカーピンの上部に土留板を固定したものを用いることができる。このように構成すると、アンカーピンと土留板とで緑化用アンカーを構成できるので、緑化用アンカーの製作コストを低減できるとともに、1本のアンカーピンを傾斜地に打ち込むだけでよいので、緑化用アンカーの施工性を向上できる。
【0013】
前記アンカー材として、傾斜地への取付部と土留板の固定部とを有する固定具と、固定具の取付部を傾斜地に対して固定するためのアンカーピン又はアンカー釘とを有するものを用いることもできる。この場合には、アンカー材の構成が多少複雑になるが、コンクリート釘等からなるアンカー釘によりアンカー材を傾斜面に固定できるので、アンカーピンのみで固定する場合と比較して、緑化用アンカーの施工性を向上できる。
【0014】
前記緑化用アンカーを、傾斜地の傾斜方向及びそれと直交する方向に千鳥掛け状に固定することもできる。千鳥掛け状とは、傾斜地の傾斜方向及びそれと直交する方向を、上下方向及び左右方向と定義して説明すると、上下方向及び左右方向にそれぞれ一定ピッチで複数の緑化用アンカーを傾斜地に固定するとともに、上下に隣接配置される緑化用アンカーの左右方向への配設ピッチの位相を半ピッチだけ左右方向にずらし、しかも上下に隣接配置される緑化用アンカーの土留板の両端部が、左右方向の同じ位置に配置されるか、あるいは一定長さ重複するように配置されていることを意味する。そして、このように緑化用アンカーを千鳥掛け状に配置することで、雨水とともに流下しようとする基盤材を傾斜地の略全ての部分で阻止することが可能となる。
【0015】
前記土留板として、竹を用いることもできる。土留板としては、鉄板等の金属板を用いることもできるが、竹を用いることで、その製作コストを低減できるし、自然環境にも優しい傾斜地緑化が可能となる。竹は半割にして用いることもできるが、腐敗を極力防止するため、1本ものの竹を設定長さに切断して用いることができる。このような竹は、土中において4〜5年間、朽ちることなくその強度を保持でき、その間に植物が十分に根付くので、竹が朽ちた後においても、基盤材が剥離することはない。また、現地で調達した竹を利用して緑化用アンカーを構成することも可能なので、地場産業の発展にも貢献できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る傾斜地緑化工法によれば、傾斜面に対して緑化用アンカーを施工した後、基盤材を吹き付け施工するときに、緑化用アンカーの土留板の山側に施工する基盤材の厚さが、土留板から山側へ行くにしたがって薄くなるように基盤材を吹き付け施工して、基盤材の上面に傾斜地よりも緩傾斜の緑化促進面を形成するので、緑化促進面における植物の生育を促進できる。また、緑化促進面が緩傾斜になるので、降雨による基盤材の流失も抑制できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
図1に示すように、傾斜地緑化工法は、傾斜地1に固定されるアンカー材2と、アンカー材2に固定した土留板3とを備えた緑化用アンカー4を用い、複数の緑化用アンカー4を相互に間隔をあけて傾斜地に対して固定した後、傾斜地1に対して基盤材5を吹き付け施工する際に、各緑化用アンカー4の土留板3の山側に施工する基盤材5の厚さが、土留板3から山側へ行くにしたがって薄くなるように基盤材5を吹き付け施工して、土留板3の山側における基盤材5の上面に傾斜地1よりも緩傾斜の緑化促進面6が形成されるように基盤材5を吹き付け施工するものである。本実施の形態では、基盤材5の吹き付け前に、土留板3の山側の傾斜地1上に保水材7を敷設施工し、また基盤材5として基盤砂8と植生基盤9とを用い、基盤砂8を吹き付け施工した後、基盤砂8の上側に保護網10を施工し、その後植生基盤9を保護網10上に吹き付け施工するように構成されている。また、本実施の形態では、地盤11の上面にコンクリート又はモルタルなどからなる硬質傾斜地12を予め施工した法面からなる傾斜地1を緑化する場合について説明するが、地肌が露出した地盤11からなる傾斜地を緑化する場合についても本発明を同様に適用できる。
【0018】
緑化用アンカー4は、図1、図2に示すように、下端を先鋭に構成したステンレス製丸棒のアンカーピンからなるアンカー材2と、アンカー材2の上部にアンカー材2から側方へ張り出すように固定した土留板3とを備えている。
【0019】
アンカー材2としては、丸棒のアンカーピン以外にパイプ状や板状に形成したものを採用することもできる。またアンカー材2の素材は、ステンレス鋼に限らず、炭素工具鋼、コーテッド超硬合金、ハイス等の金属、また、軽合金、セラミックス、プラスチック、硬質ゴム等を採用することもできる。
【0020】
この土留板3は、鋼材、アルミニウム合金等の金属材料、強化プラスチック材料または、エンジニアリングプラスチックス材料等からなる、正面視略長方形状の板状部材で構成することができる。単なる平板状の板状部材で構成することもできるが、アンカー材2を中心とした曲げ方向への強度剛性を高めるため、側面視波型形状の板状部材や、長手方向に細長い凹部を形成した板状部材を用いることが好ましい。また、自然環境を保護するため、木材や竹などの木質系材料で構成するこのも可能で、特に竹は木材と比較して腐敗し難いので好ましい。
【0021】
アンカー材2に対する土留板3の固定方法は、溶接又は接着により固定したり、ボルトなどの固定具を用いて固定したり、これらを任意に組み合わせて固定することができる。また、土留板3とアンカー材2との接触面積を大きく設定して、両者の結合強度を高めるため、土留板3の長手方向の中央部にアンカー材2が嵌合する上下方向の凹溝を形成することもできる。更に、2枚の板状部材を重ね合わせて土留板3を構成し、アンカー材2を両板状部材間に挟持して、土留板3とアンカー材2を一体化することも可能である。
【0022】
尚、傾斜地1に対する基盤材5の吹き付け時、緑化用アンカー4が回転しないように、アンカー材2の途中部や先端部に側方へ張り出した突起を設け、この突起を傾斜地1に係合させることで、緑化用アンカー4の回転が規制されるように構成することも好ましい実施の形態である。
【0023】
アンカー材2の上端部と土留板3の上端部とは同じ高さに設定することもできるが、アンカー材2の上端部を土留板3の上端部よりも一定高さ高い位置に設定すると、アンカー材2の上端部が保護網10に係合して、保護網10の位置ズレを防止できるとともに、植生基盤9の吹き付け高さをアンカー材2の上端部の突出具合で確認しながら植生基盤9を吹き付け施工できるので、植生基盤9を適正分量だけ精度良く吹き付け施工することができる。土留板3の上縁の両端部には取付孔13が形成され、この取付孔13には保護網10を土留板3に固定するための金属製或いは合成樹脂製の固定紐14が取り付けられている。
【0024】
基盤材5は、基盤砂8と植生基盤9とを備えている。基盤材5を施工するときには、先ず土留板3の山側に保水材7を配置させ、その後傾斜地1に基盤砂8を吹き付けてから、基盤砂8の上に保護網10を敷設し、最後に保護網10の上側から植生基盤9を吹き付け施工することで、傾斜地1上に施工されている。
【0025】
基盤砂8は、川砂又は山砂と、水と、バインダーと、緑化基盤材と、植物生育材とを混合したものである。砂としては、施工場所の土や山砂を採用できる。バインダーとしては、各種セメント、水ガラス、石膏、その他有機系高分子物質等を採用できる。緑化基盤材としては、例えばヤシガラ、稲ワラ等の有機系繊維状物、有機系活性肥料、腐葉土、ピートモス、バーク堆肥、その他の腐植酸物質等を採用できる。植物生育材としては、例えば窒素(N)、燐酸(P)、カリ(K)等の固形肥料、または化成肥料、石灰(Ca)、マンガン(Mn)、モリブデン(Mo)等の微量要素、その他各種の植生生育促進剤等を採用できる。基盤砂8を構成する各素材の配合比率は傾斜地の環境等に応じて任意に設定できる。
【0026】
植生基盤9は、有機系活性肥料と、鉱物焼成軽量材と、腐植酸物質と、高分子凝集剤と、植物種子とを混合したものである。植物種子としては、例えば芝生、ケンタッキー、クリーピング、チモシー、ヤマハギ等を採用できる。有機系活性肥料としては、例えばバーク堆肥、ピートモス、腐葉土(緑肥)等の各種植物系再生利用材を採用できる。高分子凝集剤としては、例えばアクリル系樹脂、ポリビニル系(PVC)樹脂、メラミン樹脂等の粘着性高分子材料を採用できる。鉱物焼成軽量材としては、例えば真珠岩焼死発泡体、黒曜石焼成発泡体、ひる石焼成発泡体、珪藻土焼成粒等がある。上記腐植酸物質としては、例えばモミガラ、稲ワラ、落葉等の腐植酸物質、緑肥等の各種植物系再生利用材を採用できる。植生基盤9を構成する各素材の配合比率は施工環境等に応じて任意に設定できる。
【0027】
保護網10は、金網や合成樹脂網で構成でき、本発明では特に基盤材5の上面に沿って容易に変形操作可能な比較的軟質な素材からなる金網や合成樹脂網を好適に利用できる。合成樹脂網としては、土木分野で広く用いられているジオテキスタイルのうち、ポリプロピレンやポリアミドなどの合成高分子材料を素材とする引張強度に優れたジオグリッドを採用できる。
【0028】
保水材7としては、ポリウレタンなどの発泡合成樹脂などに限らず、たとえば石綿、ガラス綿、微粉鉱物などを素材にした保水材7を用いてもよい。そして、その施工方法も液状にして吹き付ける方法、微粉状にして吹き付ける方法、あるいは板状に構成して敷設する方法等から任意に選択できる。本実施の形態では、土留材3付近における土留材3の山側のみに保水材7を敷設したが、緑化促進面6に対応する範囲に保水材7を配置させることも好ましい実施の形態である。
【0029】
各緑化用アンカー4の土留板3の山側に施工する基盤砂8の厚さは、土留板3から山側へ行くにしたがって薄くなるように吹き付け施工され、土留板3に最も近い厚肉部分において土留板3の高さと略同じになるように設定されている。植生基盤9の厚さは、全体に亙って略一様になるように吹き付け施工され、これによって基盤材5の厚さは、土留板3から山側へ行くにしたがって薄くなり、基盤材5の上面に傾斜地1よりも緩傾斜の緑化促進面6が形成されることによって、緑化促進面6における植物の生育が促進される。但し、植生基盤9についても、土留板3から山側へ行くにしたがって薄くなるように吹き付け施工することも可能である。また、本実施の形態では、緑化促進面6を勾配が略一様な略平坦な傾斜面で構成したが、土留板3から上側へ行くにしたがって、勾配が大きくなるような湾曲面状に構成することができ、例えば上下に隣接配置される土留板3間において、下側の土留板3付近の緑化促進面6が略水平面となり、上側の土留板3付近の緑化促進面6が傾斜地1と略同じ勾配となるような側面視2次曲線状の湾曲面状に形成することもできる。
【0030】
土留板3の具体的な厚さは、土留板3の高さが12cmの場合には、基盤砂8の最も厚い部分を12cmと、最も薄い部分を2〜3cmに設定することができる。この場合には、植生基盤9の厚さは3〜7cm程度に設定することになる。
【0031】
尚、図1に仮想線で示すように、緑化促進面6の上側に更に砂や小石などを吹き付け施工して砂礫層17を形成し、基盤材5からの水分の蒸発を抑制するように構成することも好ましい実施の形態である。
【0032】
次に、傾斜地緑化工法について説明する。この傾斜地緑化工法は、コンクリート又はモルタルなどからなる硬質傾斜地12が予め施工された傾斜地1に本発明を適用した場合のものであるが、地肌が露出した傾斜地に対しても本発明を同様に適用できる。
【0033】
先ず、図3、図4に示すように、厚さ10〜30cmの既設の硬質傾斜地12に、図示外の削岩機により、直径が例えば20〜60mmの貫通孔15を、1m2 当り、例えば4〜10個の割合で上下左右に間隔をあけて形成する。この貫通孔15は、例えば地盤11側の浸透水を集めて、基盤砂8側へ吸水し易くするための導水管(例えば毛細管作用を有する植生用筒体)を嵌挿したり、基盤砂8を充分に注入充填したりして、基盤砂8側へ十分な水分が供給されるようにするためのものである。また、この貫通孔15とは別に、アンカー材2の直径に適合する孔径の挿通孔16を、例えば左右方向に1mのピッチで且つ上下方向に1mのピッチで形成するとともに、隣接する上下の挿通孔16の配設ピッチを左右方向に半ピッチ、即ち50cmだけ位相をずらして千鳥状に形成する。
【0034】
次に、図3、図4に示すように、挿通孔16にアンカー材2を差し込んで、土留板3が傾斜地1の傾斜方向に対して略直交するように、各挿通孔16に緑化用アンカー4を打ち込み固定し、傾斜地1に対して複数の緑化用アンカー4を千鳥掛け状に固定する。つまり、土留板3の長さが50cmなので、上下に隣接する土留板3の両端部が左右方向に対して同じ位置に配置されるように、傾斜地1に対して緑化用アンカー4が固定されることになる。そして、このように傾斜地1に対して緑化用アンカー4を千鳥掛け状に配置させているので、雨水とともに流下しようとする植生基盤9を傾斜地1の略全ての部分で阻止することが可能となる。勿論、この緑化用アンカー4は、そのアンカー材2に一体化した土留板3が傾斜地に対して垂直に打ち込むことが、植生基盤9の流下を防止する上で最も有効である。各緑化用アンカー4の配列密度としては、少なくとも1本/m2 とすることが好ましい。
【0035】
次に、図4に示すように、土留板3の前側に保水材7を敷設した後、基盤砂8を吹き付け施工する。このとき、左右方向の同じ位置おいて上下に隣接配置される土留板3間における基盤砂8の厚さが、下側の土留板3から上側の土留板3側へ行くにしたがって基盤砂8の厚さが薄くなるように吹き付けることになり、下側の土留板3においては土留板3の上端が埋まる程度に基盤材5を吹き付け施工し、上側の土留板3においては1つ目の波形部が埋まる程度に基盤砂8を吹き付け施工する。ただし、基盤砂8の厚さが最も薄くなる薄肉部の位置は、必ずしも上側の土留板3或いはその付近に設定する必要はない。しかし、緑化促進面6の面積を十分に確保しつつ、緑化促進面6を極力水平面に近づけるため、両土留板3の中間位置よりも上側の位置に薄肉部が配置されるように設定することが好ましい。
【0036】
次に、図1に示すように、基盤砂8を吹き付け施工した後、基盤砂8に沿って保護網10を敷設し、土留板3に取り付けた固定紐14で、土留板3を保護網10に固定する。
【0037】
次に、図1に示すように、保護網10の上側から植生基盤9を略一様な厚さで吹き付け施工する。但し、土留板3の下側における植生基盤9の崩落を防止するため、土留板3の下側付近の植生基盤9は、他の部分よりも厚肉に植生基盤9を吹き付け施工することになる。
【0038】
こうして、基盤砂8と植生基盤9からなる基盤材5を吹き付けた状態で、上下に隣接配置される土留板3間には傾斜地1の勾配よりも小さな勾配の緑化促進面6が形成されることになる。尚、緑化促進面6の勾配は、植物の生育を促進させるためには極力ゼロに近づけることが好ましいが、傾斜地1の勾配が大きい場合には、緑化促進面6の幅が狭くなり、傾斜地1全体を考慮すると、反対に植物の生育を阻害することがあるので、傾斜地1の勾配と緑化促進面6の勾配との差が20°以下、好ましくは10°以下になるように設定することが好ましい。
【0039】
このように、緑化促進面6が少なくとも傾斜地1よりも緩傾斜となるので、その分緑化促進面6における植物の生育が促進されることになる。また、緑化促進面6における基盤材5の雨水による流失も防止できることになる。
【0040】
次に、緑化用アンカー4の構成を部分的に変更した他の実施の形態について説明する。尚、前記実施の形態と同一部材には同一符号を付してその詳細な説明を省略する。
【0041】
(1)図5(a)に示す緑化用アンカー4Aのように、土留板3におけるアンカー材2とは反対側の面に平板状の保水材7Aを接着剤などにより固定することができる。また、図5(b)に示す緑化用アンカー4Bのように、土留板3におけるアンカー材2とは反対側の面の下部に棒状の保水材7Bを接着剤などにより固定することができる。更に、図5(c)に示す緑化用アンカー4Cのように、土留板3におけるアンカー材2とは反対側の面の凹溝20に保水材7Cを充填状に設けることもできる。更に、図5(d)に示す緑化用アンカー4Dのように、土留板3におけるアンカー材2とは反対側の面側に平板状の保水材7Dを設け、保水材7Dの下端部を土留板3の下部にヒンジ21を介して連結し、緑化用アンカー4Dの輸送時には、実線で図示の折畳姿勢に保水材7Dを保持させて、緑化用アンカー4Dの輸送性を確保し、緑化用アンカー4Dの施工時には、仮想線で図示の使用姿勢に回動させて、その上側に吹き付けられる基盤材5の保水性を向上できるように構成することも好ましい実施の形態である。
【0042】
(2)図6に示す緑化用アンカー4Eように、アンカー材2に代えて、傾斜地1への取付部25と土留板3の固定部26とを有する側面視略L字状の固定具27と、固定具27の取付部25を傾斜地1に対して固定するためのアンカーピン28又はアンカー釘29とを有するアンカー材2Eを用いることもできる。この場合には、傾斜地1の勾配や使用目的等に応じて、アンカーピン28又はアンカー釘29で緑化用アンカー4Eを固定できるので、緑化用アンカー4Eの施工作業性を向上できる。例えば、勾配が比較的小さい傾斜地1においては、コンクリート釘などからなるアンカー釘29を用いて、緑化用アンカー4を傾斜地1に対して簡易に固定でき、勾配が比較的大きい場合には、アンカーピン28を用いて、傾斜地1に対する緑化用アンカー4の結合強度を十分に確保することができる。固定具27に対して土留板3を溶接等により一体的に固定することもできるが、固定具27に対して土留板3を着脱可能に固定すると、輸送時等において、固定具27から土留板3を切り離して、両者をそれぞれ別個に梱包できるので、緑化用アンカー4Eの輸送性を向上できる。
【0043】
(3)図7に示す緑化用アンカー4Fのように、アンカー材2に代えて、土留板3の山裾側の面に固定した固定部30と、固定部30の下端部から傾斜地1に沿って山側へ延びる第1取付部31と、固定部30の上端部から山裾側へ斜めに延びる支持部32と、支持部32の下端部から傾斜地1に沿って山裾側へ延びる第2取付部33とを有する固定具34と、固定具34の両取付部31、33を傾斜地1に対して固定するためのアンカーピン35又はアンカー釘36とを有するアンカー材2Fを用いることもできる。この緑化用アンカー4Fでは、傾斜地1の勾配や使用目的等に応じて、アンカーピン35又はアンカー釘36で緑化用アンカー4Fを固定できるので、緑化用アンカー4Fの施工作業性を向上できる。尚、固定部30に対して土留板3を溶接等により一体的に固定したが、ビス等の固定具34を用いて、固定部30に対して土留板3を着脱自在に固定することもできる。
【0044】
(4)図8に示す緑化用アンカー4Gのように、アンカー材2に代えて、金属線を側面視3角形状に折り曲げて成る支持具40と、支持具40を傾斜地1に固定するアンカー釘41とを有するアンカー材2Gを用い、アンカー釘41を支持具40の山側端部に設けたリング部材42に挿通させて、緑化用アンカー4Gを傾斜地1に固定することもできる。アンカー材2Gは土留板3の長さ方向の中央部に支持具40の金属線を掛けて溶接等により固定することができる。この場合には、アンカー材2Gの製作コストを低減できる。
【0045】
(5)図9に示す緑化用アンカー4Hのように、金属製の土留板3に代えて、半割にした竹45を上下に複数併設し、隣接する竹45を連結リング46などにより連結してなる土留板3Hを用いることもできる。この場合には、土留板3Hを竹45で構成できるので、より一層環境に優しい傾斜地緑化工法を実現できる。
【0046】
(6)図10に示す緑化用アンカー4Jのように、金属製の土留板3に代えて、1本ものの竹50を設定長さに切断してなる土留板3Jを用い、アンカー材2の上部に2本のピン部材51を突出形成し、ピン部材51を竹50に挿通させて、その端部をかしめることにより、竹50をアンカー材2に固定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】傾斜地緑化工法を施した後の傾斜地の縦断面図
【図2】緑化用アンカーの斜視図
【図3】緑化用アンカー施工時の説明図
【図4】基盤砂施工時の説明図
【図5】(a)〜(d)は他の構成の緑化用アンカーの側面図
【図6】他の構成の緑化用アンカーにおける、(a)は傾斜地への施工時の説明図、(b)は斜視図
【図7】他の構成の緑化用アンカーにおける、(a)は傾斜地への施工時の説明図、(b)は斜視図
【図8】他の構成の緑化用アンカーにおける、(a)は傾斜地への施工時の説明図、(b)は斜視図
【図9】他の構成の緑化用アンカーにおける、(a)は傾斜地への施工時の説明図、(b)は斜視図
【図10】他の構成の緑化用アンカーにおける、(a)は傾斜地への施工時の説明図、(b)は斜視図
【符号の説明】
【0048】
1 傾斜地 2 アンカー材
3 土留板 4 緑化用アンカー
5 基盤材 6 緑化促進面
7 保水材 8 基盤砂
9 植生基盤 10 保護網
11 地盤 12 硬質傾斜地
13 取付孔 14 固定紐
15 貫通孔 16 挿通孔
17 砂礫層
4A 緑化用アンカー 7A 保水材
4B 緑化用アンカー 7B 保水材
7C 保水材 4C 緑化用アンカー
20 凹溝
4D 緑化用アンカー 7D 保水材
21 ヒンジ
2E アンカー材 4E 緑化用アンカー
25 取付部 26 固定部
27 固定具 28 アンカーピン
29 アンカー釘
2F アンカー材 4F 緑化用アンカー
30 固定部 31 第1取付部
32 支持部 33 第2取付部
34 固定具 35 アンカーピン
36 アンカー釘
2G アンカー材 4G 緑化用アンカー
40 支持具 41 アンカー釘
42 リング部材
3H 土留板 4H 緑化用アンカー
45 竹 46 連結リング
4J 緑化用アンカー 3J 土留材
50 竹 51 ピン部材


【特許請求の範囲】
【請求項1】
傾斜地に固定されるアンカー材と、アンカー材に固定した土留板とを備えた緑化用アンカーを用い、複数の緑化用アンカーを相互に間隔をあけて傾斜地に対して固定した後、傾斜地に対して基盤材を吹き付け施工する際に、各緑化用アンカーの土留板の山側に施工する基盤材の厚さが、土留板から山側へ行くにしたがって薄くなるように基盤材を吹き付け施工して、基盤材の上面に傾斜地よりも緩傾斜の緑化促進面を形成することを特徴とする傾斜地緑化工法。
【請求項2】
前記基盤材として基盤砂と植生基盤とを用い、基盤砂を吹き付け施工した後、基盤砂の上側に保護網を施工し、その後植生基盤を保護網上に吹き付け施工する請求項1記載の傾斜地緑化工法。
【請求項3】
前記基盤材の吹き付け前に、土留板の前側の傾斜地上に保水材を施工する請求項1又は2記載の傾斜地緑化工法。
【請求項4】
前記緑化促進面上に砂礫層を吹き付け施工した請求項1〜3のいずれか1項記載の傾斜地緑化工法。
【請求項5】
前記緑化用アンカーとして、アンカーピンの上部に土留板を固定したものを用いた請求項1〜4のいずれか1項記載の傾斜地緑化工法。
【請求項6】
前記アンカー材として、傾斜地への取付部と土留板の固定部とを有する固定具と、固定具の取付部を傾斜地に対して固定するためのアンカーピン又はアンカー釘とを有するものを用いた請求項1〜4のいずれか1項記載の傾斜地緑化工法。
【請求項7】
前記緑化用アンカーを、傾斜地の傾斜方向及びそれと直交する方向に千鳥掛け状に固定した請求項1〜6のいずれか1項記載の傾斜地緑化工法。
【請求項8】
前記土留板として、竹を用いた請求項1〜7のいずれか1項記載の傾斜地緑化工法。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2007−297889(P2007−297889A)
【公開日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−129068(P2006−129068)
【出願日】平成18年5月8日(2006.5.8)
【出願人】(599108482)
【Fターム(参考)】