説明

傾斜記録用磁気記録媒体及びその製造方法

【課題】少ないエネルギ消費で効率良く磁気記録媒体を加熱し、記録層に用いる規則合金の規則度が変化しても長期間にわたり書き込み性能を向上することができる磁気記録媒体を提供する。
【解決手段】剛体基板10上に軟磁性層141を形成し、その上に非磁性中間層142を介して軟磁性層143を形成後、酸化物からなる中間層16、結晶配向性制御兼低熱伝導中間層18、規則化が進んだ段階でL10構造をとることが期待される組成で構成されるFe−Pt合金を主成分とするグラニュラ記録層20、Fe−Pt合金或いはCo−Cr−Pt−B合金からなるキャップ層22、保護層24及び潤滑層26を形成した構造とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高密度磁気記録を実現する傾斜記録に適した磁気記録媒体及びその製造方法関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、基体への熱の影響を最小限に抑えながら磁気記録層を加熱することを目的とし、断熱層を基体と磁気記録層との間に形成する磁気記録媒体が提案されている。特許文献3には、熱伝導率の低い材料で形成されたディスクの表面に、磁性膜を形成した磁気ディスクが提案されている。特許文献4には、非磁性基体上に非磁性下地層及び強磁性層を積層し、非磁性下地層は熱伝導率が、20℃〜300℃の温度範囲で30W/(m・K)以下を示す材料により構成し、強磁性層はCrを含有する強磁性金属からなる磁気記録媒体が提案されている。これらの磁気記録媒体は、いずれも記録層に熱を閉じ込めるために、記録層の下部に記録層よりも熱伝導率の低い層を設けている。
【0003】
一方、特許文献2には、少なくとも部分的に薄膜の膜厚を貫通して延在する低熱伝導率材料の領域と、低熱伝導率材料の領域を分離する高熱伝導率材料の領域とを備え、これらの領域が、低熱伝導率の領域よりも高熱伝導率の領域で、薄膜の膜厚を貫通する熱伝導がより大きくなるように構成及び配置された薄膜が提案されている。
【0004】
さらに、ハードディスクドライブの高密度磁気記録を実現するため、金属間化合物を用いた磁気記録媒体が提案されている。例えば、特許文献5に記載のように軟磁性下地層と、軟磁性下地層の上部に(111)配向を持つL10磁性材料とを有する傾斜記録用磁気記録媒体が提案されている。また、特許文献6には、L10構造の規則化を高めるためにCu,Au,Zn,Sn及びPdを添加したFePt合金利用の垂直磁気記録媒体が提案されている。或いはFePt合金に替わり、CoPt,FePd合金の規則度を向上させた垂直磁気記録媒体が提案されている。
【0005】
特許文献7には、熱支援記録の方式例が示されている。特許文献8にも、ニア−フィールドのヒーター(Near Field Heater)利用等、局所的に加熱する方法が例示されている。また、特許文献9に記載のように、必要に応じて通電して発熱させることにより磁極先端部を熱膨張させて突出させるようにした薄膜抵抗体を形成した薄膜磁気ヘッド素子を有する磁気ヘッドや、磁気ヘッドが磁気ディスクに対してリード・ライトを行うときに、通電して発熱させることにより、磁極先端部を熱膨張させて突出させるようにした薄膜抵抗体を薄膜磁気ヘッド素子の絶縁体層の内部に形成し、磁極先端部の突出によりこれと磁気ディスク面との間隙を小さくするように構成することが提案されている。特許文献10には、スライダの底部に近接場光を発生させるための散乱体の上部に磁極が配置されている熱アシスト記録装置用ヘッドも提案されている。
【0006】
【特許文献1】特開平7−65357号公報
【特許文献2】特開2006−196151号公報
【特許文献3】特開昭59−165243号公報
【特許文献4】特開昭63−249925号公報
【特許文献5】特開2006−19000号公報
【特許文献6】特許第3730518号
【特許文献7】US2006/0154110A1
【特許文献8】US2002/0101673A1
【特許文献9】特開平5−20635号公報
【特許文献10】特開2007−128573号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
面記録密度の増加に対応し、記録層に用いる結晶粒径を微細化する必要がある。しかしながら、記録層の結晶粒径を微細化すると、熱的な揺らぎによる記録磁化の不安定性が顕著になる。この対策として、(1)記録層の結晶性の向上、(2)結晶粒径分散の低減、(3)磁気異方性の大きな記録材料の利用、(4)書き込み性能の異なる磁性層の積層化等が提案されている。特に、磁気異方性の大きな記録材料を利用する際には、記録層を加熱し、保磁力を低減して書き込み性能を向上することが提案されている。
【0008】
しかしながら、金属間化合物の強磁性体を利用した磁気記録媒体では、加熱による書き込みを繰り返していくことにより、規則化が進んだ段階でL10構造をとることが期待される組成で構成される金属間化合物の規則度が向上し、結果として磁気異方性が増加するため書き込み性能が劣化する可能性があることについて十分な対策がなされていなかった。また、軟磁性下地層を用いた傾斜記録用磁気記録媒体で熱伝導率を考慮し、同時に書き込み性能を向上させた磁気記録媒体は提案されていなかった。磁気記録を行なう上での軟磁性下地層の役割を考慮し、軟磁性下地層と記録層の間隔を詰められる結晶性が高くかつ薄い低熱伝導率層を設けた磁気記録媒体も提案されていなかった。
【0009】
このような背景から、本発明が解決しようとする課題は、磁気記録媒体に磁気的な書き込みをする際に熱伝導率を考慮して、少ないエネルギ消費で効率良く磁気記録媒体を加熱し、同時に記録層に用いる規則合金の規則度が変化しても長期間にわたり書き込み性能を向上することができる磁気記録媒体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の傾斜記録用磁気記録媒体は、剛体基板上に接着層を介して或いは直接基板上に軟磁性層を形成し、軟磁性層上に非磁性中間層を介して軟磁性層を形成後、酸化物からなる中間層、結晶配向性制御兼低熱伝導中間層、規則化が進んだ段階でL10構造をとることが期待される組成で構成されるFe−Pt合金を主成分とするグラニュラ記録層、Fe−Pt合金或いはCo−Cr−Pt−B合金からなるキャップ層、保護層及び潤滑層をこの順に形成した構造を有する。
【0011】
接着層としてAl−Ti合金だけでなくCr−Ti合金等を用いることもできる。酸化物からなる中間層に替わり、非磁性Ni基合金からなる中間層を設けてもよい。また、規則化が進んだ段階でL10構造をとることが期待される組成で構成されるFe−Pt合金を主成分とするグラニュラ記録層がさらにCuを含有していてもよい。これらのFe−Pt合金或いはFe−Cu−Pt合金は、規則化が進んだ段階でL10構造をとることが期待される組成で構成され、これらの金属間化合物を構成する組成に対しさらにSiO2或いはTiO2やTaの酸化物から選ばれる少なくとも1種の酸化物を添加してグラニュラ記録層を構成する。
【0012】
結晶配向性制御兼低熱伝導中間層は、Ti−Al−V合金或いはハステロイC合金とすることができる。Ti−Al−V合金の組成としては、工業的に代表される組成としてTi−6wt.%Al−4wt.%V合金が挙げられる。この他、一般的に流通されている組成範囲として、各添加元素について概ね±0.5wt.%の組成揺らぎがある材料を用いてもよい。あるいは、結晶配向性制御兼低熱伝導中間層と規則化が進んだ段階でL10構造をとることが期待される組成で構成されるFe−Pt合金を主成分とするグラニュラ記録層の間に、Ruからなる結晶配向性制御層を形成してもよい。
【0013】
規則化が進んだ段階でL10構造をとることが期待される組成で構成されるFe−Pt合金に替わり、規則化が進んだ段階でL10構造をとることが期待される組成で構成されるCo−Pt合金を用いてもよい。グラニュラ記録層に規則化が進んだ段階でL10構造をとることが期待される組成で構成されるCo−Pt合金を用いる場合、Coに対してNiを置換するように添加しても良い。これらのCo−Pt合金或いはCo−Ni−Pt合金は、規則化が進んだ段階でL10構造をとることが期待される組成で構成され、これらの金属間化合物を構成する組成に対しさらに酸化物を添加してグラニュラ記録層を構成する。
【0014】
剛体基板上に接着層を介して或いは直接基板上に軟磁性層を形成し、軟磁性層上に非磁性中間層を介して軟磁性層を形成した基板を大気中に取り出し、別の真空プロセスで酸化物からなる中間層、結晶配向性制御兼低熱伝導中間層、規則化が進んだ段階でL10構造をとることが期待される組成で構成されるFe−Pt合金あるいはCo−Pt合金を主成分とするグラニュラ記録層、Fe−Pt合金、Co−Pt合金或いはCo−Cr−Pt−B合金からなるキャップ層、保護層を形成後、熱処理を行ない、その後潤滑層を形成することにより、グラニュラ記録層のL10構造が期待される合金部分の規則度を向上させて、本発明の傾斜記録用磁気記録媒体を作製することができる。キャップ層に用いるFe−Pt合金、或いはCo−Pt合金のPt組成は40at.%未満であれば良い。Ptの添加濃度を減らしすぎると耐食性が劣化するため、20at.%以上Ptを含有していれば良い。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、消費電力を低減して磁気記録媒体を加熱でき、同時に書き込み性能が常に優れた傾斜記録用磁気記録媒体を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明では、軟磁性下地層を用いた傾斜記録用磁気記録媒体において、軟磁性下地層と記録層の距離を低減するために、記録層を結晶配向性制御兼低熱伝導中間層上にヘテロエピタキシャル成長させ軟磁性下地層と記録層間の距離を最適化した。同時に結晶配向性制御兼低熱伝導中間層の熱伝導率を低下することにより、軟磁性下地層まで加熱しなくても記録層の保磁力を低下でき、低消費電力で磁化反転が可能となる。
【0017】
剛体基板上に接着層を介して軟磁性下地層を形成すると機械的な信頼性が向上するため好ましい。軟磁性下地層の膜厚が30nm程度以下の場合には、膜応力が小さいため接着層は必ずしも設ける必要はない。軟磁性下地層上に酸化被膜を形成すると、酸化被膜の熱伝導率が1W/(m・K)程度と金属膜に比べ小さいため、記録時に軟磁性下地層を加熱せずに記録層を加熱しやすくなる。さらにこの酸化物からなる中間層上に結晶配向性制御兼低熱伝導中間層を形成すると、この合金中間層の稠密面が基板面に平行に成長する。結果として、この結晶配向性制御兼低熱伝導中間層上に形成するグラニュラ記録層は(111)面が基板面と平行にヘテロエピタキシャル成長する。結晶配向性制御兼低熱伝導中間層として稠密六方充填構造をとり、バルクの熱伝導率が7.5W/(m・K)であるTi−Al−V合金を用いた場合は、稠密六方充填構造の(001)面が基板面と平行に成長する。或いは結晶配向性制御兼低熱伝導中間層としてバルクの熱伝導率が12W/(m・K)であるハステロイC合金を用いた場合は、面心立方構造の(111)面が基板面と平行に成長する。Tiがおよそ17W/(m・K)の低熱伝導率材料であるのに対し、前記結晶配向性制御兼低熱伝導中間層用合金は更に熱伝導率が小さく、かつ結晶配向を制御しやすい合金である。これらの結晶配向性制御兼低熱伝導中間層は、薄いと結晶配向性と粒径が同時に制御でき、その上に形成する記録層の粒径と結晶成長方位も制御できる。記録層と結晶配向性制御兼低熱伝導中間層の間に、熱伝導率は105〜117W/(m・K)と高いものの、真空プロセスの雰囲気に影響されにくい表面を形成するため稠密六方充填構造の(001)面が基板面と平行に成長するRu層を形成することも有効である。
【0018】
Fe−Pt合金を主成分とするグラニュラ記録層を形成する際に、FeをCuで置換するように添加すると、L10規則構造を形成しやすくなるので好ましい。Co−Pt合金を主成分とするグラニュラ記録層を形成する際に、CoをNiで置換するように添加しても、L10規則構造を形成しやすくなるので好ましい。記録層をグラニュラ化するのにSiO2やTiO2の他、Ta酸化物あるいはこれらの混合物を添加することもできる。
【0019】
磁気記録媒体を形成した直後にはL10規則合金の規則度は必ずしも高くない。しかしながら、加熱記録を繰り返すうちに徐々に規則度が向上し、保磁力が増加する。グラニュラ記録層の保磁力が増加しても、磁化反転のきっかけを与えるキャップ層をグラニュラ記録層の上に形成することにより、書き込み性能に問題が生じない。キャップ層として用いることができる材料はグラニュラ記録層よりも異方性磁界が小さな材料であれば良い。例えばPtに比べCo或いはFe濃度が高いFe−Pt合金、Co−Pt合金や、Co−Cr−Pt−B合金などからなるキャップ層を用いることができる。
【0020】
Co−Cr−Pt−B合金からなるキャップ層の組成の効果は以下の通りである。PtとBの濃度を固定してCoとCrの割合を変えた場合、Cr濃度を増加することにより書き込み性能が向上したが、書き込みトラック幅が増加した。この観点からCrの添加濃度は、Co−Cr−12at.%Pt−8at.%B合金の場合、添加上限濃度は20at.%程度とすることが好ましい。また、耐食信頼性の観点からCr添加濃度の下限は12at.%である。すなわち、Co−(12〜20)at.%Cr−12at.%Pt−8at.%Bが好ましい。Bの添加濃度はCo−15at.%Cr−12at.%Pt−B合金の場合、添加上限濃度はタ−ゲットの作りやすさから10at.%程度が好ましく、また結晶粒径の粗大化による再生ノイズの観点から、B添加濃度の下限は4at.%である。CrとBの濃度を固定してCoとPtの濃度を変えた場合、Pt濃度を上げてゆくとオーバーライト特性が劣化した。この観点から、Pt濃度の上限は16at.%以下が好ましい。またPtを添加しないと耐食信頼性が低下したため、4at.%以上Ptを添加することが好ましい。これらの結果から、Co−Cr−Pt−B合金の場合には、Co−(12〜20)at.%Cr−(4〜16)at.%Pt−(4〜10)at.%B合金を用いることが好ましい。
【0021】
キャップ層を形成した後に設ける保護層としては、窒素あるいは水素を含んだ炭素を主成分とする保護層のほか、窒化珪素を主成分とする保護層を形成することも加熱のしやすさの観点からから好ましい。
【0022】
「酸化物からなる中間層」に替わり、非磁性Ni基合金からなる中間層を設けると、軟磁性下地層に起因したイオンの溶出を止めることも可能となり、信頼性を向上する上で好ましい。具体的な合金系としてはNi−Ti,Ni−Ta,Ni−W,Ni−Cr,Ni−Cr−Ti,Ni−W−Cr,Ni−Ta−Cr合金である。Ti,Ta,Wから選択される材料をNiに添加すると結晶粒を微細化させ、同時に面心立方構造の(111)面を基板面に平行に成長させることができ、連続して形成する結晶配向性制御兼低熱伝導中間層の粒径制御と結晶成長も制御できる。結晶配向性制御兼低熱伝導中間層とFe−Pt合金を主成分とするグラニュラ記録層の間にRuからなる結晶配向性制御層を形成することも好ましい。
【0023】
以下、図面を参照して、実施例について説明する。
【実施例1】
【0024】
図1は、実施例1による磁気記録媒体の構成を示す断面図である。この磁気記録媒体は、基板10上に接着層12、軟磁性下地層141、非磁性層142、軟磁性下地層143、酸化物中間層16,結晶配向性制御兼低熱伝導中間層18、グラニュラ記録層20、キャップ層22、保護層24及び潤滑層26を有する。
【0025】
次に磁気記録媒体の製造方法について説明する。基板10として厚さ0.508mm、外径48mmの化学強化したガラス基板を用いた。インライン式の枚葉式DC/RFマグネトロンスパッタリング装置を用い、全てのチャンバを2×10-5Pa以下の真空まで排気した。その後、基板10を載せたキャリアを各プロセスチャンバに移動させて、グラニュラ記録層20を除き、放電用Arガス圧を0.7PaとしてDCマグネトロンスパッタリング法で以下の薄膜形成を行なった。薄膜の形成方法はDCマグネトロンスパッタに限定されない。グラニュラ記録層20の形成には、期待される規則合金の結晶性を高めるため、高周波マグネトロンスパッタ法を用いた。また、酸化物を含有した薄膜形成時にDCパルススパッタ法を併用することも可能である。
【0026】
本実施例では、ガラス基板10として、硼珪酸ガラス、或いはアルミノシリケートガラスからなる基板表面を化学強化した基板を洗浄後、乾燥して用いた。化学強化したガラス基板に替え、アルミニウム合金基板上にNi−Pめっき後表面研磨した基板や、SiやTi合金からなる剛体基板を用いることもできる。基板の外径は48mmに限定されることなく、65mmや84mm等から選択できる。基板の厚みも剛性が保たれる範囲で選択でき、0.635mmや0.8mm等から選択できる。接着層12として、厚さ5nmの50at.%Al−50at.%Ti合金膜を形成した。
【0027】
軟磁性層141として厚さ20nmの51at.%Fe−34at.%Co−10at.%Ta−5at.%Zr合金膜を形成し、非磁性層142として厚さ0.7nmのRu膜を形成後、再び軟磁性下地層143として厚さ20nmの51at.%Fe−34at.%Co−10at.%Ta−5at.%Zr合金膜を形成した。軟磁性層141,143の組成は前記組成に限定されないが、TaとZrの添加元素の濃度は合計で5at.%添加されている場合、5秒以内の酸化プロセスで安定した酸化物中間層16を形成することができた。TaとZrの添加元素の濃度は、合計で20at.%添加されている場合に、軟磁性下地層141と143をそれぞれ20nmより厚くすれば書き込み特性が向上した。TaとZrの添加元素の濃度を15at.%に固定したまま、51at.%Fe−34at.%Co−10at.%Ta−5at.%Zr合金の替わりに、例えば48at.%Fe−37at.%Co−10at.%Ta−5at.%Zr合金に変更することも可能である。X線回折による反射曲線の測定結果から、これらのFe−Co−Ta−Zr合金膜はいずれも微結晶あるいは非晶質であると考えられる。
【0028】
非磁性層142はRu或いはRuを主成分とする合金として、Ru−50at.%Fe合金、Ru−40at.%Cr合金、Ru−30at.%Co合金などを用いることができる。その膜厚は、軟磁性層141と143が反強磁性結合できる範囲で変えることもできる。さらに、この反強磁性結合を用いて軟磁性層141と143の残留磁化を等しく反平行にすれば、再生ノイズを低減することができる。軟磁性下地層143を形成後、1vol.%酸素を含有したArガスを5秒暴露することにより、酸化物中間層16を形成した。
【0029】
酸化物中間層16を形成後、基板温度を280℃に加熱して、結晶配向性制御兼低熱伝導中間層18としてTi−6wt.%Al−4wt.%V合金膜を2nmから20nm形成した。バルクのTiの熱伝導率が17W/(m・K)であるのに対し、Ti−Al−V合金の熱伝導率は7.5W/(m・K)とTiの半分未満である。
【0030】
さらにグラニュラ記録層20として92mol%(50at.%Fe−50at.%Pt)−8mol%SiO2膜を12nm形成した。グラニュラ記録層20を形成する際の放電用Arガス圧を2Paとした。
【0031】
これらの試料について、銅の特性X線を用いた反射回折曲線を測定した。結果、Ti−6wt.%Al−4wt.%V合金膜の膜が厚くなるに従い、hcp構造に由来する002回折強度が増加することが確認された。この回折強度の増加に伴い、グラニュラ記録層に起因すると思われるfcc構造或いはfct構造に由来する111回折強度の増加が観測された。このことから、この媒体は記録層の磁化容易軸が膜面垂直方向から傾斜した傾斜記録媒体であることが確認された。
【0032】
グラニュラ記録層20を形成後、65at.%Fe−35at.%Pt合金、或いはCo−15at.%Cr−12at.%Pt−8at.%B合金からなるキャップ層22を3nmから10nm形成し、窒素あるいは水素を含有し炭素を主成分とする保護層24を3nm形成した。さらに窒素置換した不活性雰囲気中で300℃に1時間保持後、大気圧に戻し、フッ素を主成分とする潤滑層26を形成した。
【0033】
機械的な浮上特性を確認後、幾何学トラック幅PW 105nmの書き込み極で記録し、シールドギャップ長35nmを有するTMRヘッドを用いて磁気記録媒体の電磁変換特性を測定した。図2に、単磁極ヘッドと近接場光を発生させるための散乱体を組み合わせた記録ヘッドを中心とした断面図を示す。スライダ32の表面に近接場光を発生させるための散乱体34を形成し、その上に磁極36を形成した。波長785nmの半導体レーザ38を用いて光を発生させ、半導体レーザ38から発生する光をコア部40とクラッド部42から構成される導波路を用いて散乱体34まで導いた。導波路のコア部40はクラッド部42で囲まれている。薄膜コイル44を用いて発生させた磁界を主磁極46によって散乱体34の近くに導いた。主磁極46及び薄膜コイル44は、導波路に対して流出端48側に配置した。散乱体34の上部にある磁極36と主磁極46は、磁極50を用いて結合した。薄膜コイル44の反対側には、磁極51を介して閉磁路を形成するための補助磁極52を形成した。散乱体34上の磁極36と磁極50、主磁極46、磁極51、補助磁極52によって形成される磁気回路に、コイル44が鎖交している。導波路の横には、記録信号を再生するための、磁気再生素子54を形成した。磁気再生素子54の周辺には、周りからの磁界を遮蔽するためのシールド56を形成した。この再生素子は、補助磁極52の横(流出端48側)に置いても良いが、本実施例では図2に示す再生素子の配置とし、磁気再生素子54としてTMR素子を用いた。必要に応じて通電して発熱させることにより再生素子54を熱膨張させ突出させるようにした薄膜抵抗体58を形成した。
【0034】
記録時には、100mWの波長785nmの半導体レーザ38を用いて加熱した。再生時には半導体レーザ38を用いず、薄膜抵抗体58に60mW通電する条件で電磁変換特性を評価した。
【0035】
磁気記録媒体を90/s(=5400pm)で回転させ、半径21mmでヘッドのskew角度を0度とした。オーバーライト特性(O/W)は、47.2kFC/mm(=1200kFCI)で消磁後、35.4kFC/mm(=900kFCI)の信号を書き、7.01kFC/mm(=178kFCI)の信号を重ね書きし35.4kFC/mmの信号の消し残りを評価した。再生時には、薄膜抵抗体58に60mW通電して発熱させ、電磁変換特性を測定した。並行して同時に加熱して書き込み回数に対する経時変化を同一トラック上で測定した。
【0036】
その結果、加熱初期のオーバーライト特性に対して、1万回の重ね書きを実施後でもオーバーライト特性は±0.2dBの誤差範囲に入っており、規則合金の規則度が仮に変化したとしても長期間にわたり書き込み性能に問題ないことが明らかになった。また、キャップ層22として4nm以上の厚さとなるように形成すると、図3に示すようにオーバーライト特性が改善された。
【0037】
一方、書き込みトラック幅はキャップ層22が厚くなると広くなった。幾何学トラック幅(Pw)で規格化した書き込みトラック幅(Tw)とキャップ層22の厚さの関係を図4に示す。キャップ層の膜厚を増加すると(Tw/Pw)値が増加する傾向は、キャップ層の材料によらなかった。これらの結果から、キャップ層の厚さは少なくとも4nm程度必要であるが、トラック幅の広がりを考慮すると7nm程度形成すれば良いと考えられる。
【0038】
〔比較例1〕
上記実施例1で軟磁性下地層143を形成後、1vol.%酸素を含有したArガスを5秒暴露せずに、軟磁性下地層143上に、基板温度を280℃に加熱して、結晶配向性制御兼低熱伝導中間層18としてTi−6wt.%Al−4wt.%V合金膜を形成する代わりに、結晶配向性制御中間層としてTi膜を10nm形成した。その他のプロセスは実施例1と同様の条件でグラニュラ記録層20を形成後、Co−15at.%Cr−12at.%Pt−8at.%B合金からなるキャップ層22を3nmから10nm形成し、窒素あるいは水素を含有し炭素を主成分とする保護層24を3nm形成した。さらに窒素置換した不活性雰囲気中で300℃に1時間保持後、大気圧に戻し、フッ素を主成分とする潤滑層26を形成した。これらの磁気記録媒体について実施例1に記載の評価条件、すなわち、記録時には100mWの波長785nmの半導体レーザ38を用いて加熱し、再生時には半導体レーザ38を用いず、薄膜抵抗体58に60mW通電する条件で電磁変換特性を評価した。その結果、いずれのキャップ層の厚さの試料でも実施例1に比べてO/Wは3dBから5dB劣化していた。
【0039】
一方、記録時に110mWまで消費電力を増加させ、波長785nmの半導体レーザ38を用いて加熱し、再生時には半導体レーザ38を用いず薄膜抵抗体58に60mW通電する条件で、電磁変換特性を評価した結果、実施例1と同程度のO/W特性が得られた。
【0040】
バルクのTiの熱伝導率が17W/(m・K)であるのに対し、Ti−Al−V合金の熱伝導率は7.5W/(m・K)であり、これらの結果から、結晶配向性制御兼低熱伝導中間層の熱伝導率をTiの半分未満にすれば、同程度のO/W特性を得るための記録時の消費電力を低減できることが明らかとなった。
【実施例2】
【0041】
実施例1で軟磁性下地層143を形成後、一旦大気中に取り出し、別の製膜装置で以下のような後工程を設定した。2×10-5Pa以下まで真空排気後、300℃に加熱し、酸化物中間層161として酸化マグネシウムやTiの酸化物から選ばれる被膜を2nmから5nm形成した。酸化物中間層161を形成後、結晶配向性制御兼低熱伝導中間層18としてTi−5.8wt.%Al−4.3wt.%V合金膜を5nm形成した。さらにグラニュラ記録層20として(50at.%Fe−50at.%Pt)−(8、10、12mol%SiO2膜を12nm形成した。グラニュラ記録層20を形成する際に放電用のArガス圧を2Paとした。
【0042】
図5に示す断面構成を有するこれらの試料について、グラニュラ磁性層の平均結晶粒径を測定した。平均結晶粒径<D>は、透過電子顕微鏡(TEM)像から算出した。まず、基板面に平行な方向の記録層の結晶粒像を透過電子顕微鏡により撮影した。次に、得られた写真をスキャナで取り込み、画像のコントラストが観察されるコア部分を結晶粒と定義し、各結晶粒に存在するピクセル数を計算した。ピクセル数とスケールとの換算から、各結晶の面積を求め、得られた各結晶粒の面積と同じ面積の真円の直径として結晶粒径を定義し、個々の結晶粒の粒径Diを求めた。この計算を300個程度の結晶粒について行ない、得られた粒子径の算術平均値を平均結晶粒径<D>とした。
【0043】
8mol%SiO2を添加したFe−Pt−SiO2膜では、平均結晶粒径<D>が約8nmであった。10mol%SiO2を添加したFe−Pt−SiO2膜では、<D>が6.4nmあった。さらに12mol%SiO2を添加したFe−Pt−SiO2膜では、<D>が5.3nmまで減少した。
【0044】
Ti−Al−V合金膜が厚くなるに従い、hcp構造に由来する002回折強度が増加することが確認された。この中間層からのX線回折強度の増加に伴い、記録層のfcc構造或いはfct構造に由来する111回折強度の増加も観測された。これらのX線回折強度の挙動から、hcp構造をとる中間層とこの上に形成する記録層はヘテロエピタキシャル成長していると考えられる。
【0045】
グラニュラ記録層20を形成後、図6に示すように65at.%Fe−35at.%Pt合金、或いはCo−16at.%Cr−10at.%Pt−6at.%B合金からなるキャップ層22を3nmから10nm形成し、窒素あるいは水素を含有し炭素を主成分とする保護層24を2.5nm形成した。さらに窒素置換した不活性雰囲気中で300℃に1時間保持後、大気圧に戻し、フッ素を主成分とする潤滑層26を形成した。
【0046】
機械的な浮上特性を確認後、実施例1と同じヘッドを用い、記録時には80mWの波長785nmの半導体レーザ38を用いて加熱し、再生時には半導体レーザ38を用いず、薄膜抵抗体58に60mW通電加熱する条件で電磁変換特性を測定した。その結果、前記キャップ層22として4nm以上の厚さとなるように形成するとオーバーライト特性が改善された。一方、書き込みトラック幅はキャップ層22が厚くなると広くなった。この傾向、すなわちキャップ層が厚くなるとトラック幅が広くなるという傾向は、キャップ層の材料を変えても同様であった。これらの結果から、キャップ層の厚さは少なくとも4nm程度必要であるが、トラック幅の広がりを考慮すると6〜7nm程度形成すれば良いと考えられる。
【0047】
実施例1と同じヘッドを用いて記録時には80mWの波長785nmの半導体レーザ38を用いて光を発生させ記録時に加熱し、再生時には波長785nmの半導体レーザ38を用いず、薄膜抵抗体58に60mW通電加熱する条件で電磁変換特性を測定しても、実施例1と同程度のO/W特性が得られた。この結果は、300℃に加熱し、酸化物中間層161として酸化マグネシウムやTiの酸化物から選ばれる被膜を2nmから5nm形成することにより、結晶配向性を制御でき、かつ低熱伝導中間層を厚く形成することにより熱流が妨げられ、記録層が実効的に暖まり易くすることができたことによると考えられる。
【0048】
上述したように、酸化物中間層161として酸化マグネシウムやTiの酸化物から選ばれる被膜を2nmから5nm形成後、結晶配向性制御兼低熱伝導中間層18としてTi−5.8wt.%Al−4.3wt.%V合金膜を5nm形成した場合(実施例2)には、書き込み時に80mW程度の加熱でも十分なO/W特性が得られた。一方、実施例1に記載した酸化物層の厚さが薄い媒体の場合、実施例2と同程度のO/W特性を得るために書き込み時に80mWの加熱では不足しており、100mWの加熱が必要であった。これらの消費電力の比較から、酸化物中間層161を形成することも消費電力を低減する上で効果があることが明らかとなった。
【実施例3】
【0049】
図7に断面模式図を示す傾斜記録用磁気記録媒体を作製した。実施例1で軟磁性下地層143を形成後、酸化物中間層16を形成せずに、Ni−Cr−W合金からなる非磁性中間層17を厚さ5nm形成後、結晶配向性制御兼低熱伝導中間層18として厚さ3nmから10nmとなるようにTi−5.5wt.%Al−3.7wt.%V合金膜を形成した。さらに90mol%(50at.%Fe−50at.%Pt)−(10mol%SiO2)膜を11nm形成後、Co−18at.%Cr−10at.%Pt−8at.%B合金からなるキャップ層22を厚さで3nmから10nm形成した。さらに窒素あるいは水素を含有し炭素を主成分とする保護層24を3.3nm形成した。さらに窒素置換した不活性雰囲気中で300℃に1時間保持後、大気圧に戻し、パーフルオロポリエーテルを主成分とする潤滑層26を形成した。
【0050】
機械的な浮上特性を確認後、実施例1に記載のヘッドを用い、記録時には100mWの波長785nmの半導体レーザ38を用いて加熱し、再生時には半導体レーザ38を用いず、薄膜抵抗体58に60mW通電加熱する条件で電磁変換特性を測定した。その結果、キャップ層22を4nm以上の厚さとなるように形成すると、キャップ層22を形成しない場合に比べ、オーバーライト特性が4dB以上改善された。一方、キャップ層22が厚くなると書き込みトラック幅は広くなっていた。キャップ層22として5nm形成した媒体に対して、85mWの半導体レーザ(波長785nm)38を用いて光を発生させ記録時に加熱し、再生時には半導体レーザ38を用いず、薄膜抵抗体58に60mW通電加熱する条件で電磁変換特性を測定した。その結果、記録時の半導体レーザ(波長785nm)パワーを100mWから85mWに低下すると、O/W特性は劣化したものの−31dB得られ、半導体レーザ(波長785nm)の消費電力を低減できる場合があることが明らかとなった。
【実施例4】
【0051】
実施例3に記載のグラニュラ記録層形成時に、90mol%(50at.%Fe−50at.%Pt)−10mol%SiO2を11nm形成する代わりに、以下の合金からなるグラニュラ記録層を形成したことを除き、実施例3と同様にして磁気記録媒体を形成した。
92mol%[(45at.%Fe−5at.%Cu−50at.%Pt)]−8mol%SiO2
90mol%[(45at.%Fe−5at.%Cu−50at.%Pt)]−10mol%SiO2
88mol%[(45at.%Fe−5at.%Cu−50at.%Pt)]−12mol%SiO2
86mol%[(45at.%Fe−5at.%Cu−50at.%Pt)]−14mol%SiO2
84mol%[(45at.%Fe−5at.%Cu−50at.%Pt)]−16mol%SiO2
80mol%[(45at.%Fe−5at.%Cu−50at.%Pt)]−20mol%SiO2
72mol%[(45at.%Fe−5at.%Cu−50at.%Pt)]−28mol%SiO2
60mol%[(45at.%Fe−5at.%Cu−50at.%Pt)]−40mol%SiO2
50mol%[(45at.%Fe−5at.%Cu−50at.%Pt)]−50mol%SiO2
90mol%[(47at.%Fe−3at.%Cu−50at.%Pt)]−10mol%SiO2
90mol%[(40at.%Fe−10at.%Cu−50at.%Pt)]−10mol%SiO2
【0052】
上記グラニュラ記録層20を形成後、Co−18at.%Cr−10at.%Pt−8at.%B合金からなるキャップ層22を厚さで3nmから10nm形成した。さらに窒素あるいは水素を含有し炭素を主成分とする保護層24を3.3nm形成した。さらに窒素置換した不活性雰囲気中で300℃に1時間保持後、大気圧に戻し、フッ素を主成分とする潤滑層26を形成した。
【0053】
機械的な浮上特性を確認後、実施例1と同じヘッドを用い、記録時に、100mWの波長785nmの半導体レーザ38を用いて加熱した。再生時には半導体レーザ38を用いず、薄膜抵抗体58に60mW通電する条件で電磁変換特性を測定した。その結果、キャップ層22を4nm以上の厚さとなるように形成すると、キャップ層22を形成しない場合に比べオーバーライト特性が4dB以上改善された。4nm厚のキャップ層を形成した場合のオーバーライト特性について、グラニュラ記録層(100−x)mol%[(45at.%Fe−5at.%Cu−50at.%Pt)]−xmol%SiO2の組成依存性を図8に示す。SiO2の添加濃度を8mol%から50mol%まで増加するとオーバーライト特性は劣化し、SiO2の組成が30mol%を超えるとオーバーライト特性は−20dB以上と(絶対値が小さく)なった。一方、キャップ層22が厚くなると書き込みトラック幅は広くなった。
【0054】
媒体ノイズNdと再生信号出力Soの割合を対数表示したSo/Ndとグラニュラ記録層(100−x)mol%[(45at.%Fe−5at.%Cu−50at.%Pt)]−xmol%SiO2の組成の関係を図9に示す。この図から、28mol%SiO2を添加したグラニュラ記録層では概ね8mol%SiO2を添加したグラニュラ記録層とした場合と同等のSo/Ndが得られていた。しかしながら、SiO2の添加濃度を28mol%SiO2よりも高くしていくと、オーバーライト特性と共にSo/Ndは劣化した。これらの結果から、(45at.%Fe−5at.%Cu−50at.%Pt)に添加するSiO2の濃度の上限は28mol%とすることが好ましいことが明らかとなった。
【0055】
〔比較例2〕
実施例3に記載のグラニュラ記録層形成時に、90mol%(50at.%Fe−50at.%Pt)−10mol%SiO2膜を11nm形成する代わりに92mol%[(45at.%Fe−5at.%Zn−50at.%Pt)]−8mol%SiO2膜を形成した。初期に形成したグラニュラ膜と翌日試作したグラニュラ膜について蛍光X線分析した結果、グラニュラ記録層に含有されるZnの組成が低下していた。この結果から量産時の組成変動と磁気特性の安定性を考慮するとグラニュラ膜形成用の合金ターゲットを真空中に保持する場合、Zn濃度の変化を管理する必要があることが明らかとなった。
【実施例5】
【0056】
実施例1で軟磁性下地層143を形成後、酸化物中間層16を形成せずに、Ni−Cr−W合金からなる非磁性中間層17を厚さ5nm形成後、厚さ3nmから10nmとなるようにハステロイC合金からなる結晶配向性制御兼低熱伝導中間層18を形成した(図7)。この後は、実施例3と同様にして磁気記録媒体を形成した。本実施例で用いたハステロイC合金の熱伝導率はバルクで12W/(m・K)程度であり、Tiの熱伝導率約70%程度である。
【0057】
機械的な浮上特性を確認後、実施例1と同じヘッドを用い、記録時には100mWの波長785nmの半導体レーザ38を用いて光を発生させ加熱した。再生時には半導体レーザ38を用いず、薄膜抵抗体58に60mW通電する条件で電磁変換特性を測定した。その結果、ハステロイC合金からなる結晶配向性制御兼低熱伝導中間層18の厚さを3nmから10nmと増加するに従い、オーバーライト特性が向上した。この傾向は、熱伝導の低い中間層を厚くしていくに従い、膜厚方向に熱伝導しにくく、結果的にグラニュラ層の温度が上昇しやすくなったため書き込み性能が向上したと考えられる。
【実施例6】
【0058】
図10に断面模式図を示す傾斜記録用磁気記録媒体を作製した。実施例4で92mol%[(45at.%Fe−5at.%Cu−50at.%Pt)]−8mol%SiO2グラニュラ記録層を形成する前に0.4nmから6nmまで膜厚を変えてRuからなる結晶配向性制御層19を形成した。この他は、実施例4と同様にして磁気記録媒体を形成した。
【0059】
最大1.6MA/mの磁界を印加してKerr効果を用いて磁気記録媒体の磁気特性を測定した結果、Ruからなる結晶配向性制御層19を設けることにより、保磁力の垂直成分が45kA/m増加した。
【0060】
更に、銅の回転対陰極を用いたX線回折装置を用いて、加速電圧40kV、電流160mAとして、Ruの004回折曲線の半値幅Δθ50を測定した。Ti−5.5wt.%Al−3.7wt.%V合金からなる結晶配向性制御兼低熱伝導中間層18上に結晶配向性制御層19としてRuを介してグラニュラ記録層20を形成した結果、グラニュラ記録層20が化学的に安定して結晶配向性制御層19上に成長し、<D>は8.1nmから8.5nmまで増加し、結晶性の指標であるΔθ50も3.5°から3.1°までの向上が同時に実現できた。結晶配向性制御層19としてRuを厚くしていくと、軟磁性層143とグラニュラ記録層20の間隔が大きくなりすぎる。結晶配向性制御層19のRu厚は2nmから4nmあれば十分な書き込み性能が得られた。
【実施例7】
【0061】
実施例1で用いたキャップ層22についてCo−Cr−Pt−B合金の組成を変えた他は、実施例1と同様にして磁気記録媒体を作製した。機械的な浮上特性を確認後、実施例1と同じヘッドを用い、記録時には100mWの波長785nmの半導体レーザ38を用いて加熱した。再生時には半導体レーザ38を用いず、薄膜抵抗体58に60mW通電する条件で電磁変換特性を測定した。
【0062】
その結果、PtとBの濃度を固定して、CoとCrの割合を変えたCo−Cr−12at.%Pt−8at.%B合金の場合、Cr濃度を増加することにより書き込み性能が低下し、書き込みトラック幅が減少した。
【0063】
キャップ層22の厚さを6nmに固定した場合、58at.%Co−22at.%Cr−12at.%Pt−8at.%B合金キャップ層利用の場合にO/Wは、−24.3dBまで低下した。Coに対するCrの濃度を低下した60at.%Co−20at.%Cr−12at.%Pt−8at.%B合金キャップ層利用の場合に、O/Wは、−27.1dBまで向上した。これらの結果から、Cr濃度を20at.%以下に設定することによりO/W指標の目安である−25dB以下が達成できる。この観点からキャップ層22の厚さを6nmに固定した場合、Co−Cr−12at.%Pt−8at.%B合金のCrの添加濃度の上限は20at.%程度が好ましい。また耐食信頼性の観点からCr添加濃度の下限は12at.%であることが好ましかった。すなわち、Co−(12〜20)at.%Cr−12at.%Pt−8at.%Bが好ましい。
【0064】
CrとBの濃度を固定してCoとPtの濃度を変えたCo−16at.%Cr−Pt−8at.%B合金の場合、Pt濃度を増加するとオーバーライト特性が劣化した。
【0065】
キャップ層22の厚さを6nmに固定した場合、58at.%Co−16at.%Cr−18at.%Pt−8at.%B合金キャップ層利用の場合にO/Wは、−23.8dBまで低下した。一方、60at.%Co−16at.%Cr−16at.%Pt−8at.%B合金キャップ層利用の場合にO/Wは、−26.1dBまで向上した。これらの結果から、Co−16at.%Cr−Pt−8at.%B合金の場合、Pt濃度を16at.%以下に設定することによりO/W指標の目安である−25dB以下が達成できる。この観点からPt濃度の上限は16at.%以下が好ましい。またPtを添加しないと耐食信頼性が低下したため、4at.%以上Ptを添加することが好ましかった。すなわち、Co−16at.%Cr−(4〜16)at.%Pt−8at.%Bが好ましい。
【0066】
CrとPtの濃度を固定してCoとBの割合を変えたCo−15at.%Cr−12at.%Pt−B合金の場合、Bの添加濃度の上限は、ターゲットの作りやすさから10at.%程度が好ましい。
【0067】
キャップ層22の厚さを6nmに固定した場合、(63−X)at.%Co−15at.%Cr−12at.%Pt−Xat.%B合金のSo/Ndを、実施例1に記載のヘッドで評価した。Xを2,4,8,10とした媒体を試作し評価した結果、X=2ではSo/Ndが22.7dBであったのに対し、X=4から10の場合にはSo/Ndは23dB以上得られた。これらの結果から、再生ノイズ増加の観点からB添加濃度は少なくとも4at.%以上必要である。よって、Co−15at.%Cr−12at.%Pt−(4〜10)at.%Bが好ましい。
【0068】
以上、最もマージンが大きいと考えられるキャップ層22の厚さを6nmに固定した場合について述べたが、キャップ層の厚さは6nmに限定されず、組成に応じた最適化も可能である。
【0069】
これらの結果から、Co−Cr−Pt−B合金をキャップ層として用いた場合、Co−(12〜20)at.%Cr−(4〜16)at.%Pt−(4〜10)at.%B合金を用いれば、ターゲットの加工に問題なく、耐食信頼性に優れ、書き込みトラック幅の増加が小さく、オーバーライト性能の劣化が認められない媒体特性が得られた。
【実施例8】
【0070】
実施例1で、グラニュラ記録層20として92mol%(50at.%Fe−50at.%Pt)−8mol%SiO2膜に代わり90mol%(50at.%Co−50at.%Pt)−10mol%SiO2膜或いは90mol%(40at.%Co−10at.%Ni−50at.%Pt)−10mol%SiO2膜を12nm形成した。グラニュラ記録層20を形成する際の放電用Arガス圧を2Paとした。グラニュラ記録層20を形成後、66at.%Co−34at.%Pt合金、或いはCo−15at.%Cr−12at.%Pt−8at.%B合金からなるキャップ層22を3nmから10nm形成し、窒化珪素を主成分とする保護層24を3nm形成した。さらに窒素置換した不活性雰囲気中で300℃に1時間保持後、大気圧に戻し、フッ素を主成分とする潤滑層26を形成した。
【0071】
機械的な浮上特性を確認後、実施例1と同じヘッドを用い、記録時に100mWの波長785nmの半導体レーザ38を用いて加熱した。再生時には半導体レーザ38を用いず、薄膜抵抗体58に60mW通電する条件で電磁変換特性を測定した。その結果、キャップ層22を4nm以上の厚さとなるように形成するとオーバーライト特性が改善され、図11に示すように、−25dB以下の値が得られた。一方、書き込みトラック幅は、キャップ層22が4nmから10nmへ厚くなると広くなった。キャップ層22としてCo−15at.%Cr−12at.%Pt−8at.%B合金を用いた場合について、幾何学トラック幅で規格化した書き込みトラック幅とキャップ層厚の関係を、図12に示す。この傾向はキャップ層の材料によらなかった。これらの結果から、キャップ層の厚さは少なくとも4nm程度必要であるが、トラック幅の広がりを考慮すると6nmから8nm程度形成すれば良いことが明らかとなった。
【0072】
〔比較例3〕
上記実施例8で軟磁性下地層143を形成後、1vol.%酸素を含有したArガスを5秒暴露せずに、軟磁性下地層143上に、基板温度を280℃に加熱して、結晶配向性制御兼低熱伝導中間層18としてTi−6wt.%Al−4wt.%V合金膜を形成する代わりに、結晶配向性制御中間層としてTi膜を10nm形成した。この他のプロセスは実施例8と同様の条件でグラニュラ記録層20を形成後、Co−15at.%Cr−12at.%Pt−8at.%B合金からなるキャップ層22を3nmから10nm形成し、窒素あるいは水素を含有し炭素を主成分とする保護層24を3nm形成した。さらに窒素置換した不活性雰囲気中で300℃に1時間保持後、大気圧に戻し、フッ素を主成分とする潤滑層26を形成した。
【0073】
これらの磁気記録媒体について実施例1に記載の評価条件、すなわち、記録時には100mWの波長785nmの半導体レーザ38を用いて加熱し、再生時には半導体レーザ38を用いず、薄膜抵抗体58に60mW通電する条件で電磁変換特性を評価した。その結果、図13に示すように、いずれのキャップ層の厚さの試料でも実施例8に比べてO/Wは4dBから5dB劣化していた。
【0074】
一方、記録時に110mWまで波長785nmの半導体レーザ38の消費電力を増加させ、再生時には半導体レーザ38を用いず、薄膜抵抗体58に60mW通電する条件で電磁変換特性を評価した結果、図13に示すように実施例8と同程度のO/W特性が得られた。これらの結果から、バルクのTiの熱伝導率が17W/(m・K)であるのに対し、Ti−Al−V合金の熱伝導率は7.5W/(m・K)であり、結晶配向性制御兼低熱伝導中間層の熱伝導率をTiの半分未満にすれば、同程度のO/W特性を得るための記録時の消費電力を低減でき、かつグラニュラ層に用いる合金種が(50at.%Fe−50at.%Pt)−8mol%SiO2だけでなく、(50at.%Co−50at.%Pt)−10mol%SiO2や(40at.%Co−10at.%Ni−50at.%Pt)−10mol%SiO2でも実現できることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明の傾斜磁気記録媒体は、熱支援磁気記録媒体として使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明による磁気記録媒体の断面構成図。
【図2】熱支援記録の概念図。
【図3】オーバーライト特性とキャップ層の厚さの関係を示す図。
【図4】幾何学トラック幅で規格化した書き込みトラック幅とキャップ層の厚さの関係を示す図。
【図5】平均結晶粒径を測定するための試料の断面構成図。
【図6】本発明による磁気記録媒体の断面構成図。
【図7】本発明による磁気記録媒体の断面構成図。
【図8】オーバーライト特性のグラニュラ記録層組成依存性を示す図。
【図9】So/Ndのグラニュラ記録層の組成依存性を示す図。
【図10】本発明による磁気記録媒体の断面構成図。
【図11】オーバーライト特性とキャップ層の厚さの関係を示す図。
【図12】幾何学トラック幅で規格化した書き込みトラック幅とキャップ層の厚さの関係を示す図。
【図13】半導体レーザの消費電力を変えた場合のオーバーライト特性とキャップ層の厚さの関係を示す図。
【符号の説明】
【0077】
10…基板
12…接着層
14…軟磁性下地層
141…軟磁性下地層
142…非磁性層
143…軟磁性下地層
16…酸化物中間層
161…酸化物中間層
17…非磁性中間層
18…結晶配向性制御兼低熱伝導中間層
19…結晶配向性制層
20…グラニュラ記録層
22…キャップ層
24…保護層
26…潤滑層
30…磁気記録媒体
32…スライダ
34…近接場光を発生させるための散乱体
36…磁極
38…半導体レーザ
40…導波路コア部
42…導波路クラッド部
44…磁界発生用薄膜コイル
46…主磁極
48…流出端
50,51…磁極
52…補助磁極
54…磁気再生素子
56…シールド
58…薄膜抵抗体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
剛体基板上に直接或いは接着層を介して形成された第1の軟磁性層と、
前記第1の軟磁性層上に非磁性中間層を介して形成された第2の軟磁性層と、
前記第2の軟磁性層上に形成された酸化物からなる中間層と、
前記中間層上に形成された結晶配向性制御兼低熱伝導中間層と、
前記結晶配向性制御兼低熱伝導中間層上に形成された、規則化が進んだ段階でL10構造をとることが期待される組成で構成されるFe−Pt合金を主成分とするグラニュラ記録層と、
前記グラニュラ記録層上に形成されたFe−Pt合金或いはCo−Cr−Pt−B合金からなるキャップ層と、
前記キャップ層上に形成された保護層と
を有することを特徴とする傾斜記録用磁気記録媒体。
【請求項2】
請求項1に記載の傾斜記録用磁気記録媒体において、前記酸化物からなる中間層に替わり、非磁性Ni基合金からなる中間層を設けたことを特徴とする傾斜記録用磁気記録媒体。
【請求項3】
請求項1に記載の傾斜記録用磁気記録媒体において、前記Fe−Pt合金を主成分とするグラニュラ記録層がCuを含有していることを特徴とする傾斜記録用磁気記録媒体。
【請求項4】
請求項1に記載の傾斜記録用磁気記録媒体において、前記結晶配向性制御兼低熱伝導中間層がTi−Al−V合金からなることを特徴とする傾斜記録用磁気記録媒体。
【請求項5】
請求項1に記載の傾斜記録用磁気記録媒体において、前記結晶配向性制御兼低熱伝導中間層がハステロイC合金からなることを特徴とする傾斜記録用磁気記録媒体。
【請求項6】
請求項1に記載の傾斜記録用磁気記録媒体において、前記結晶配向性制御兼低熱伝導中間層と前記Fe−Pt合金を主成分とするグラニュラ記録層の間にRuからなる結晶配向性制御層を形成したことを特徴とする傾斜記録用磁気記録媒体。
【請求項7】
剛体基板上に接着層を介して或いは直接基板上に軟磁性層を形成し、前記軟磁性層上に非磁性中間層を介して軟磁性層を形成後、酸化物からなる中間層、結晶配向性制御兼低熱伝導中間層、規則化が進んだ段階でL10構造をとることが期待される組成で構成されるCo−Pt合金を主成分とするグラニュラ記録層、Co−Pt合金或いはCo−Cr−Pt−B合金からなるキャップ層、保護層及び潤滑層をこの順に形成したことを特徴とする傾斜記録用磁気記録媒体。
【請求項8】
剛体基板上に直接あるいは接着層を介して第1の軟磁性層を形成し、前記第1の軟磁性層上に非磁性中間層を介して第2の軟磁性層を形成した基板を大気中に取り出し、別の真空プロセスで真空排気後基板を加熱してから酸化物からなる中間層、結晶配向性制御兼低熱伝導中間層、規則化が進んだ段階でL10構造をとることが期待される組成で構成されるFe−Pt合金或いはCo−Pt合金を主成分とするグラニュラ記録層、Fe−Pt合金、Co−Pt合金或いはCo−Cr−Pt−B合金からなるキャップ層、保護層を形成後、熱処理を行ない、その後潤滑層を形成することを特徴とする傾斜記録用磁気記録媒体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2009−158053(P2009−158053A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−338105(P2007−338105)
【出願日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【出願人】(503116280)ヒタチグローバルストレージテクノロジーズネザーランドビーブイ (1,121)
【Fターム(参考)】