説明

像ぶれ補正装置およびその制御方法、並びに光学機器または撮像装置

【課題】動画撮影において像ぶれ補正を行う撮像装置において、大きな手振れやパンニング動作やチルティング動作が発生してもしなくても、安定して見えの良い動画撮影を提供する。
【解決手段】動画撮影が可能な撮像装置のための像ぶれ補正装置では、撮像装置の振れを検出することで出力された振れ信号が第1の生成部により積分されて第1の振れ量データが、第2の生成部により積分されて第2の振れ量データが生成される。第2の生成部は、第1の生成部よりも振れ信号に対して高い感度を有する。生成された第1または第2の振れ量データを用いて算出された振れ補正量に基づいて撮像装置の光学系を駆動することで、画像の振れが低減される。動画撮影中、振れ信号に基づいて定点撮影状態であるか否かが判定され、定点撮影状態であると判定された場合には第2の振れ量データが、他の場合には第1の振れ量データが、振れ補正量の算出に用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、像ぶれ補正装置およびその制御方法、並びに像ぶれ補正装置を有する光学機器または撮像装置に関する。
【背景技術】
【0002】
撮像装置の手ブレ等に起因した振れを検出して、この振れを補正するように撮像レンズを駆動する像ぶれ補正装置を備えた撮像装置が知られている。また近年では、動画記録時にワイド端側において防振範囲を広げてパンニング動作やチルティング動作が伴うことが前提として設計された振れ補正装置を備えた撮像装置が提案されている。この場合、動画撮影時には、フィルタのカットオフ周波数が大きく設定されるように設計され、駆動する撮像レンズが制御端に張り付くことを防止し、動画撮影時の見えを良くしている。
【0003】
特許文献1では、大きな手振れやパンニング動作やチルティング動作を伴わない撮影モードを有し、ユーザによってそのモードが選択された時は、フィルタカットオフ周波数が低く設定され、防振性能を高めるといった技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−308523号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1では、撮影するユーザ自身が状況に合わせながら撮影モードを切り替えなくてはならず、切り替えが適切に行えない場合に、見えの良い動画が撮影できない可能性が考えられる。
【0006】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、動画撮影において像ぶれ補正を行う撮像装置において、大きな手振れやパンニング動作やチルティング動作が伴う場合も伴わない場合も、安定して見えの良い動画撮影ができる像ぶれ補正装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するための本発明の一態様による像ぶれ補正装置は以下の構成を備える。すなわち、
少なくとも動画撮影が可能な撮像装置のための像ぶれ補正装置であって、
像ぶれを補正する補正部材と、
前記撮像装置の振れの速度を検出して振れ信号を出力する振れ検出手段と、
前記振れ信号に基づいて第1の振れ量を生成する第1の生成手段と、
前記第1の振れ量データよりも高い振れ補正効果が得られるように前記振れ信号に基づいて第2の振れ量データを生成する第2の生成手段と、
前記第1または第2の振れ量データを用いて前記補正部材の移動量である振れ補正量を算出する算出手段と、
前記振れ信号の大きさが所定の範囲にあるか否かに基づいて定点撮影状態であるか否かを判定する判定手段と、
前記動画撮影において、前記定点撮影状態であると判定された場合には前記第2の振れ量データを前記算出手段に提供し、前記定点撮影状態であると判定されなかった場合には前記第1の振れ量データを前記算出手段に提供する切替手段と、を備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、動画撮影において像ぶれ補正を行う撮像装置において、大きな手振れやパンニング動作やチルティング動作が伴う場合も伴わない場合も、安定して見えの良い動画撮影ができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施形態に係る撮像装置の構成例を示すブロック図である。
【図2】実施形態に係るぶれ防止制御部の構成例を示すブロック図である。
【図3】実施形態に係るパンニング制御部の動作を説明する図である。
【図4】実施形態に係る定点撮影モード判定部のフローチャートである。
【図5】実施形態に係る定点撮影モードにおける各部の処理を示すフローチャートである。
【図6】実施形態に係る振れ量切り替えを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明の好ましい実施形態の例を、添付の図面に基づいて詳細に説明する。
【0011】
図1は、実施形態に係る像ぶれ補正装置を備えた撮像装置の構成を示すブロック図である。この撮像装置は、静止画像と動画像の撮影を行うことが可能なデジタルカメラである。図1において、ズームユニット101は、変倍を行うズームレンズを含む。ズーム駆動制御部102は、ズームユニット101を駆動制御する。補正レンズユニット103は補正部材であり、光軸に対して垂直方向に移動可能な振れ補正用のレンズ(シフトレンズ)とそれを保持する機構を有する。振れ補正制御部104は、補正レンズユニット103を駆動制御する。
【0012】
絞り・シャッタユニット105は絞り・シャッタ駆動制御部106はによって駆動制御される。フォーカスレンズユニット107、ピント調節を行うフォーカスレンズを含む。フォーカス駆動制御部108は、フォーカスレンズユニット107を駆動制御する。なお、補正レンズユニット103と振れ補正制御部104により、本実施形態の像ぶれ補正装置120が構成される。
【0013】
撮像部109は、各レンズ群を通ってきた光像を電気信号に変換する。撮像信号処理部110は撮像部109から出力された電気信号を映像信号に変換処理する。映像信号処理部111は、撮像信号処理部110から出力された映像信号を用途に応じて加工する。表示部112は映像信号処理部111から出力された信号に基づいて、必要に応じて画像表示を行う。電源部113は、システム全体に用途に応じて電源を供給する。外部入出力端子部114は、外部との間で通信信号及び映像信号を入出力する。操作部115はユーザーがシステムを操作するためのボタンやスイッチ、タッチパネルなどからなる。記憶部116は、映像情報など様々なデータを記憶する。姿勢情報制御部117は、撮像装置の姿勢判定をして姿勢情報を映像信号処理部111や表示部112に提供する。カメラシステム制御部118はシステム全体を制御する。
【0014】
次に、上記構成を持つ撮像装置の概略動作について説明する。操作部115には、振れ補正モードを選択可能な振れ補正スイッチ(不図示)が含まれる。振れ補正スイッチにより振れ補正モードが選択されると、カメラシステム制御部118が振れ補正制御部104に振れ補正動作の実行を指示し、これを受けた振れ補正制御部104が振れ補正オフの指示がなされるまで振れ補正動作を行う。
【0015】
また、操作部115には、静止画撮影モードと動画撮影モードとのうちの一方を選択可能にする撮影モード選択スイッチ(不図示)が含まれており、それぞれの撮影時モードにおいて各アクチュエータの動作条件を変更することができる。また、操作部115は再生モードを選択するための再生モード選択スイッチ(不図示)が含まれており、再生モードが選択された場合には振れ補正動作は停止する。また、操作部115には動画記録スイッチ(不図示)が含まれる。動画記録スイッチが押下された後に動画記録が開始し、動画記録中に再度動画記録スイッチが押下されると動画記録が終了する。
【0016】
また、操作部115には、押し込み量に応じて第1スイッチ(SW1)および第2スイッチ(SW2)が順にオンするように構成されたシャッタレリーズボタン(不図示)が含まれる。シャッタレリーズボタンが約半分押し込まれたときにスイッチSW1がオンし、シャッタレリーズボタンが最後まで押し込まれたときにスイッチSW2がオンする構造となっている。スイッチSW1がオンされると、フォーカス駆動制御部108がフォーカスレンズユニット107を駆動してピント調節を行うとともに、絞り・シャッタ駆動制御部106が絞り・シャッタユニット105を駆動して適正な露光量に設定する。スイッチSW2がオンされると、撮像部109に露光された光像から得られた画像データが記憶部116に記憶される。
【0017】
また、操作部115には、ズーム変倍の指示を行う変倍スイッチ(不図示)が含まれる。変倍スイッチによりズーム変倍の指示があると、カメラシステム制御部118を介して指示を受けたズーム駆動制御部102がズームユニット101を駆動して、指示されたズーム位置にズームユニット101を移動させる。それとともに、撮像部109から送られた各信号処理部(110,111)にて処理された画像情報に基づいて、フォーカス駆動制御部108がフォーカスレンズユニット107を駆動してピント調節を行う。
【0018】
図2は、像ぶれ補正装置120の構成をより詳細に説明したブロック図である。なお、Pitch方向およびYaw方向で同じ構成となるため、以下では片軸のみで説明を行う。振れ検出部201は、主にジャイロセンサを用いて振れの速度(角速度)を検出して、電圧として出力する。すなわち、振れ検出部201は、像ぶれ補正装置120を有する撮像装置の手ブレ等を検出する。A/D変換部202は、振れ検出部201が出力した電圧をデジタルデータに変換して、振れ信号としての角速度データを得る。ハイパスフィルタ203は、角速度データからジャイロのオフセット成分や温度ドリフト成分を除去している。ハイパスフィルタ203から第1のゲイン演算部205までの系は、振れ信号から第1の振れ量データを生成する第1の生成系を構成している。また、ハイパスフィルタ203から第2のゲイン演算部208までの系は、振れ信号から、上記第1の生成系よりも高い振れ補正効果が得られる第2の振れ量データを生成する第2の生成系を構成している。
【0019】
ハイパスフィルタ203の出力(振れ信号)は、第1の振れ量演算部と第2の振れ量演算部に入力され、第1の振れ量データ、第2の振れ量データが生成される。第1の振れ量演算部は、第1のローパスフィルタ204、第1のゲイン演算部205を有する演算部である。また、第2の振れ量演算部は、位相補償部206、第2のローパスフィルタ207、第2のゲイン演算部208を有する演算部である。A/D変換部202、ハイパスフィルタ203、第1のローパスフィルタ204、第1のゲイン演算部205により、振れ検出部201の振れ信号から第1の振れ量データが生成されることになる。また、A/D変換部202、ハイパスフィルタ203、位相補償部206、第2のローパスフィルタ207、第2のゲイン演算部208により、振れ検出部201の振れ信号から第2の振れ量データが生成されることになる。通常の撮影状態では、動画撮影時(動画撮影モード)においては第1の振れ量演算部を、静止画撮影時(静止画撮影モード)においては第2の振れ量演算部を用いるものとする。また、第2の振れ量演算部では、第1の振れ量演算部よりも振れ補正の効果が高くなるように、高い感度で振れ量データが生成される。これは、位相補償の導入やローパスフィルタの低いカットオフ周波数の設定により実現されるが、詳細は後述する。
【0020】
第1のローパスフィルタ204は、ハイパスフィルタ203から出力される角速度データを積分し、位置の情報である角度データに変換して第1の振れ量を生成している。第1のゲイン演算部205は、第1の振れ量にジャイロゲインをかけることで、振れ検出部201が有するジャイロの感度ばらつきを吸収し、第1の振れ量データを出力する。位相補償部206は、角速度データの積分に先立って、角速度データの位相遅れ、または位相進み成分を補償しているフィルタである。この位相補償部206によって、位相補償を行わないときに比べて、振れのより低域側まで振れ補正の効果得られるようになる。第2のローパスフィルタ207は、位相補償部206による位相補償後の角速度データを積分し、角度データに変換して第2の振れ量を生成している。第2のゲイン演算部208は、第2の振れ量にジャイロゲインをかけることで、振れ検出部201が有するジャイロの感度ばらつきを吸収し、第2の振れ量データを出力する。なお、第1のローパスフィルタ207と第2のローパスフィルタ207では、パンニング制御を行ったときのカットオフ周波数の上げ方が異なる。ハイパスフィルタと2つのローパスフィルタのカットオフ周波数の変更方法については図3にて後述する。
【0021】
振れ量切替部209は、シフトレンズ位置指令値として採用すべき振れ量データとして、第1の振れ量データ(第1のゲイン演算部205の出力)を用いるか、第2の振れ量データ(第2のゲイン演算部208の出力)を用いるかを切り替える。振れ量切替部209は、カメラシステム制御部118からの撮影モード信号が動画撮影モードを示す場合には、第1のゲイン演算部205の出力を選択して敏感度演算部210へ出力する。また、撮影モード信号が静止画撮影モードを示す場合には、振れ量切替部209は、第2のゲイン演算部208の出力を選択して敏感度演算部210へ出力する。さらに、動画撮影モードにおいて、後述の定点撮影モードであると判定された場合、振れ量切替部209は、第2のゲイン演算部208の出力を選択して敏感度演算部210へ出力するように動作する。210は敏感度演算部であり、入力された第1または第2の振れ量データを、設定された敏感度に従ってシフトレンズ位置指令値に変換している。これは、振れ補正のためのシフトレンズの移動量であり、以下、振れ補正量という。敏感度は焦点距離毎に異なった値をもち、焦点距離が変わるごとに敏感度も変更される。なお、焦点距離の情報等は、カメラシステム制御部118から通知される。パンニング制御部211は、振れ量データまたは振れ補正量をモニタリングしながら、シフトレンズ215が制御端に張り付かないよう、ハイパスフィルタ203や第1、2のローパスフィルタ204,207のカットオフ周波数を制御する。本実施形態では、パンニング制御部211は、敏感度演算部210の出力(シフトレンズ215の位置指令)をモニタリングしてカットオフ周波数を制御するものとする。
【0022】
定点撮影モード判定部212は、振れ信号(ハイパスフィルタ203の出力)や振れ補正量(敏感度演算部210の出力)をモニタリングしながら、定点撮影モードON/OFFを判定している。この定点撮影モードについては後述する。PID制御部213は、敏感度演算部210からの振れ補正量と、位置検出部216から得られるシフトレンズ215の位置の偏差とからシフトレンズ215を駆動するためのドライブ量を演算する。ドライブ部214は、PID制御部213で計算されたドライブ量に基づいて、シフトレンズ215を駆動している。シフトレンズ215は、補正部材として、検出された手振れとは逆の方向に駆動させることで、撮影画像のブレをキャンセルさせるためのレンズである。位置検出部216は例えばホール素子からなり、シフトレンズの位置を検出する。このように、撮像装置における光学系を駆動することで画像の振れを低減する補正機構である補正レンズユニット103は、例えば、PID制御部213、ドライブ部214、シフトレンズ215、位置検出部216により構成される。
【0023】
次に、図3を用いてパンニング制御部211の動作について説明する。図3のグラフは、横軸がシフトレンズ215の位置であり、原点0をシフトレンズ215の中心としている。縦軸はハイパスフィルタ203またはローパスフィルタ(204,207)の、振れ信号に対するカットオフ周波数である。静止画撮影モード(第2のローパスフィルタ207)では、シフトレンズ215の位置が中心からある一定の距離であるA度までカットオフ周波数は変化しない。シフトレンズ215の位置がA度を超えると、制御端であるθ度までカットオフ周波数は大きくなり、最大でf1[Hz]までなる。一方、動画撮影モード(第1のローパスフィルタ204)では、シフトレンズが中心から離れるとすぐにカットオフ周波数は上がり始め、制御端θ度では最大でf2[Hz]まで大きくなる。ここで、f2>f1である。
【0024】
一般的に動画撮影モードのほうは、大きな手振れやパンニング動作やチルティング動作が伴うことが前提になっているため、第1のローパスフィルタ204のカットオフ周波数が大きくなりやすいように設計されている。こうして、動画撮影モードではシフトレンズ215が中心に戻りやすくなっている。これにより、大きな手振れやパンニング動作やチルティング動作を伴ってもシフトレンズが制御端に張り付くことなく、なめらかな動画撮影が可能となる。しかしこの反面、静止画モードに比べると、動画モードでは振れ補正性能が劣ってしまうことになる。なお、パンニング制御部211への動画撮影モード/静止画撮影モードの信号は、カメラシステム制御部118から供給されるものとする。
【0025】
図4は定点撮影モード判定部212による定点撮影モードの判定処理を示すフローチャートである。この判定処理はある一定の制御周期毎に繰り返し実行され、撮像装置が定点撮影状態か否かを判定する。S401において、定点撮影モード判定部212は、現在の状態が定点撮影モード状態であるか判定する。初期化時は定点撮影モードではなく通常撮影モードとなっている。現在の状態が定点撮影モードでない場合は、処理はS402に遷移し、撮像装置が定点撮影状態であるか否かを判定する。本実施形態では、振れ信号の大きさが第1の信号値範囲内であり、且つ、敏感度演算部210が出力する振れ補正量(シフトレンズ位置)が第1の位置範囲内にあるという状態が、所定時間にわたって継続した場合に定点撮影状態であると判定される。より具体的には、振れ信号の大きさが所定値Ain以内でかつシフトレンズ位置(敏感度演算部210の出力)が所定値Bin以内であるか判定する。S402でYESであった場合、定点撮影モード判定部212は、S403で定点撮影モード開始カウンタ(InCount)をインクリメントする。S402でNOと判定された場合は、定点撮影モード判定部212は、S406で定点撮影モード開始カウンタを0にクリアする。S404において、定点撮影モード判定部212は定点撮影モード開始カウンタが所定値Tinより大きいか判定する。定点撮影モード開始カウンタが所定値Tinより大きい場合、定点撮影モード判定部212は、定点撮影状態と判定し、S405において定点撮影モードフラグをTRUEにする。そして、S406において定点撮影モード判定部212は、定点撮影モード開始カウンタを0にクリアして処理をS401に戻す。S404において定点撮影モード開始カウンタがTin以下であった場合は、そのまま処理はS401に戻る。
【0026】
一方、現在、定点撮影状態である場合、定点撮影モード判定部212は、撮像装置の状態が低減撮影モードから離脱したか否かを判定する。この判定においては、振れ信号の大きさが第2の信号値範囲外であるか、または、敏感度演算部210が出力する振れ補正量(シフトレンズ位置)が第2の位置範囲外にあるという状態が、所定時間にわたって継続した場合に定点撮影状態であると判定される。すなわち、S407で振れ信号の大きさが所定値Aout以上かまたはシフトレンズ位置が所定値Bout以上であるかを判定する。S407でYESの場合、定点撮影モード判定部212は、S408で定点撮影モード終了カウンタ(OutCount)をインクリメントする。S407でNOと判定された場合は、定点撮影モード判定部212は、S411で定点撮影モード終了カウンタを0にクリアする。S409では、定点撮影モード判定部212は、定点撮影モード終了カウンタが所定値Toutより大きいか判定する。定点撮影モード終了カウンタが所定値Toutより大きい場合、定点撮影モード判定部212は、通常撮影モード状態と判定し、S410で定点撮影モードフラグをFALSEにする。そして、S411において定点撮影モード判定部212は、定点撮影モード終了カウンタを0にクリアして処理をS401に戻す。S409で定点撮影モード終了カウンタがTout以下であった場合は、処理はそのままS401に戻る。
【0027】
以上のように、定点撮影モード判定部212は、定点撮影モード状態でない場合は、振れ信号とシフトレンズの位置がある所定値以内である状態が所定時間続いた場合、定点撮影モードと判定する。また、定点撮影モードである場合は、振れ信号がある所定値以上かまたはシフトレンズ位置がある所定値以上である状態が所定時間続いた場合、通常撮影モードと判定する。ここで判定閾値であるAin,Bin、Aout、Boutは以下の関係であることが望ましい。
[数1]
Ain < Aout
Bin < Bout
【0028】
上記式を満たすことで、すなわち、上記第2の信号値範囲を上記第1の信号値範囲よりも大きく、上記第2の位置範囲を上記第1の位置範囲よりも大きく設定することで、判定にヒステリシスをもたせることができ、チャタリングなどの防止となる。なお、上記説明では、定点撮影モードか否かの判定において、振れ信号とシフトレンズ位置(敏感度演算部210の出力である指示位置)を用いたが、これに限られるものではない。例えば、振れ信号が所定の範囲にあるか否かの条件で用いて定点撮影モードか否かを判定するようにしてもよい。ただし、「定点撮影モードになった」ことを判定する場合には、上述したようにシフトレンズの位置を判定条件に加え、制御端等で定点撮影モードと判断されるような事態の発生を避けることが好ましい。また、「定点撮影モードではなくなった」ことを判定する場合には、振れ信号またはシフトレンズ位置の一方のみを参照するようにしてもよい。
【0029】
図5は定点撮影モード処理と通常撮影モード処理の切り替えに関するフローチャートである。この処理は定点撮影モードフラグが切り替わる毎に1回実行される。S501において、振れ量切替部209、パンニング制御部211は、定点撮影モードフラグがFALSEか否かを判定する。定点撮影モードフラグがFALSEだった場合、つまり通常撮影モードであった場合、処理はS502へ進む。S502において、振れ量切替部209は、第1のゲイン演算部205の出力(第1の振れ量データ)を選択して出力するように切り替える。なお、このとき採用する振れ量の切り替えによって生じる不連続を防止するために図6により後述するような遷移期間が設けられる。そして、S503において、パンニング制御部211はパンニング制御をONとする。パンニング制御をONにするということは、図3で示したように、シフトレンズ位置によって、フィルタのカットオフ周波数を変更する処理をスタートさせるということである。
【0030】
S501で定点撮影モードフラグがTRUEであった場合、つまり定点撮影モード状態であった場合、処理はS504,S505へ進む。S504において、振れ量切替部209は、第2のゲイン演算部208からの出力(第2の振れ量)を選択して出力するように切り替える。このとき、このとき採用する振れ量の切り替えによって生じる不連続を防止するために、図6で説明するようなオフセット値の演算が行なわれる。また、S505において、パンニング制御部211はパンニング制御をOFFにする。パンニング制御をOFFにすることで、図3に示したような、シフトレンズ位置によるフィルタのカットオフ周波数変更は行われなくなる。このとき防振性能を最大にするため、カットオフ周波数はできるだけ小さい値で固定にすることが望ましい。なお、S105において、パンニング制御をオフするのではなく、静止画用のパンニング制御を実行するように切り替えてもよい。
【0031】
図6は振れ量切り替え処理を示した時系列のグラフである。時刻0から時刻T1までは通常撮影モードとし、時刻T1から時刻T2までは定点撮影モードとする。また、時刻T2からT3までは上述のS502における状態遷移期間とし、T3以降は通常撮影モードとする。また上段のグラフは、第1のゲイン演算部205と第2のゲイン演算部208の出力そのものである。下段のグラフは、振れ量切替部209から出力される振れ量を示すグラフである。同図において、振れ量切替部209から出力される振れ量は実線で示されている。時刻T1からT3にわたる点線は第1のローパスフィルタ出力であり、時刻T2以降の点線は第2のローパスフィルタ出力から時刻T1時点のオフセットであるLPF12_Offsetを引いた信号である。
【0032】
時刻0から時刻T1までの通常撮影モードの場合、第1のゲイン演算部205の出力をそのまま敏感度演算部210に入力することで、振れ補正量を生成し、それをもとにシフトレンズ215を駆動している。時刻T1で定点撮影モードと判定されると、振れ量切替部209は、その時点の第1のゲイン演算部205の出力と第2のゲイン演算部208の出力の差分(LPF12_Offset)を第2のゲイン演算部208の出力から差し引いた信号を敏感度演算部210に入力する。これにより、定点撮影モードでは、位相補償部206、第2のローパスフィルタ207、第2のゲイン演算部208により得られた第2の振れ量に基づいた振れ補正量が生成され、シフトレンズ215が駆動される。また、通常撮影モードから定点撮影モードへの移行時に、振れ補正量に不連続点が生じるのを回避し、シフトレンズ215の駆動を連続的にできる。
【0033】
時刻T2で通常撮影モードと判定されると、定点撮影モードから通常撮影モードへと遷移する。その時点の第2のゲイン演算部208の出力からLPF12_Offsetを引いた信号と、第1のゲイン演算部205の出力には差があるため、そのまま切り替えると振れ量に不連続が生じてしまう。そこで、切り替えを検出したT2から所定時間を遷移期間として、振れ量に不連続が生じるのを防止する。本実施形態では、第1のゲイン演算部205からの振れ量データと第2のゲイン演算部208からの振れ量データ(LPF12_Offsetにより補正されたデータ)を重みづけ加算し、それらの重みづけの比率を徐々に変化させて振れ量データの連続性を維持する。例えば、第1のゲイン演算部205の出力信号をLPF1OUT、第2のゲイン演算部208の出力信号をLPF2OUT、振れ量切替部209が出力する振れ量データをOutPutとし、時刻T3までの遷移期間では以下の式により振れ量を算出する。なお、時刻T3は時刻T2から所定時間だけ経過したときの時刻である。
【0034】
[数2]
Out = P×( LPF2OUT - LPF12_Offset ) +Q×LPF1OUT
ただし、時刻T2の時点でp=1、q=0であり、時刻T3にかけてPは時間に比例して減少し、Qは時間に比例して増大し、時刻T3の時点でP=0、Q=1となる。そして時刻T3以降は、通常撮影モードとなって、第1のローパスフィルタ出力が振れ量となり振れ補正量を生成し、シフトレンズを駆動する。例えば、上記所定時間をT、時刻T2からの経過時間をtとすると、
P=(T−t)/T、Q=t/T
とすることができる。なお、PとQの変化のさせ方は、これに限られるものではない。
【0035】
大きな手ぶれに対して振れ補正制御が行われる動画撮影や、パンニング動作やチルティング動作が伴うことが前提として設計された動画撮影では、一般的に手振れ信号のフィルタのカットオフ周波数が大きく設定されるように設計される。駆動する撮像レンズが制御端に張り付くことを防止し、動画撮影時の見えを良くするためである。しかしこのように設計された動画モードでは、そうでない静止画モードに比べ防振性能が劣る。これに対して、上記実施形態の振れ補正装置では、動画撮影において、大きな手振れや、パンニング動作やチルティング動作パンニング動作やチルティング動作が伴う時は通常撮影モードに、伴わない時は定点撮影モードに、自動的に撮影モードが切り替わる。そのため、本実施形態によれば、大きな手振れやパンニング動作やチルティング動作が伴う場合であっても伴わない場合であっても、常に見えの良い動画撮影ができる撮像装置を提供することができる。
【0036】
なお、本発明は静止画像と動画像の撮影を行うことが可能なデジタルカメラで説明したが、本発明の像ぶれ補正装置は、デジタルビデオカメラにも適用できる。また、本発明の像ぶれ補正装置を有する撮影レンズ鏡筒や一眼レフやビデオカメラ用の交換レンズのような光学機器にも適用できる。また、本発明の像ぶれ補正装置を有する光学機器や撮像装置を用いた携帯電話やゲーム機などの電子機器にも適用できる。
【0037】
また、本発明は、以下の処理を実行することによっても実現される。即ち、上述した実施形態の機能を実現するソフトウェア(プログラム)を、ネットワーク又は各種記憶媒体を介してシステム或いは装置に供給し、そのシステム或いは装置のコンピュータ(またはCPUやMPU等)がプログラムを読み出して実行する処理である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも動画撮影が可能な撮像装置のための像ぶれ補正装置であって、
像ぶれを補正する補正部材と、
前記撮像装置の振れの速度を検出して振れ信号を出力する振れ検出手段と、
前記振れ信号に基づいて第1の振れ量を生成する第1の生成手段と、
前記第1の振れ量データよりも高い振れ補正効果が得られるように前記振れ信号に基づいて第2の振れ量データを生成する第2の生成手段と、
前記第1または第2の振れ量データを用いて前記補正部材の移動量である振れ補正量を算出する算出手段と、
前記振れ信号の大きさが所定の範囲にあるか否かに基づいて定点撮影状態であるか否かを判定する判定手段と、
前記動画撮影において、前記定点撮影状態であると判定された場合には前記第2の振れ量データを前記算出手段に提供し、前記定点撮影状態であると判定されなかった場合には前記第1の振れ量データを前記算出手段に提供する切替手段と、を備えることを特徴とする像ぶれ補正装置。
【請求項2】
前記所定の範囲は、第1の信号値範囲であり、
前記判定手段は、前記振れ信号の大きさが当該第1の信号値範囲内であることに加え、前記振れ補正量が示す位置が第1の位置範囲にある場合に、前記定点撮影状態であると判定することを特徴とする請求項1に記載の像ぶれ補正装置。
【請求項3】
前記判定手段は、前記振れ信号の大きさが前記第1の信号値範囲内であり、且つ、前記振れ補正量が前記第1の位置範囲内である状態が所定時間続いた場合に、前記定点撮影状態であると判定することを特徴とする、請求項2に記載の像ぶれ補正装置。
【請求項4】
前記所定の範囲はさらに、前記第1の信号値範囲よりも大きい第2の信号値範囲と、前記第1の位置範囲よりも大きい第2の位置範囲であり、
前記判定手段は、前記振れ信号の大きさが第2の信号値範囲外であるか、または振れ補正量が第2の位置範囲外である状態が所定時間続いた場合に、前記定点撮影状態でないと判定することを特徴とする、請求項2または3に記載の像ぶれ補正装置。
【請求項5】
前記第2の生成手段は、前記振れ信号の積分に先立って該振れ信号の位相補償を行なう位相補償手段を含むことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の像ぶれ補正装置。
【請求項6】
前記切替手段は、前記算出手段が用いる振れ量データを前記第1の振れ量データから前記第2の振れ量データに切り替えた場合、その切り替え時のそれら振れ量データの差分を前記第2の振れ量データから差し引いて得られる補正された第2の振れ量データを前記算出手段に提供する、ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の像ぶれ補正装置。
【請求項7】
前記切替手段は、前記定点撮影状態でないとの判定に応じて前記補正された第2の振れ量データから前記第1の振れ量データに切り替える際に、前記補正された第2の振れ量データと前記第1の振れ量データを重みづけ加算して得られた振れ量データを前記算出手段に提供し、
前記補正された第2の振れ量データと前記第1の振れ量データの前記重みづけ加算において用いられる重みづけを変更することで前記補正された第2の振れ量データから前記第1の振れ量データへ徐々に移行させることを特徴とする請求項6に記載の像ぶれ補正装置。
【請求項8】
前記振れ補正量に基づいて前記第1及び第2の生成手段におけるフィルタのカットオフ周波数を変更するパンニング制御手段を更に有し、
前記パンニング制御手段は、前記定点撮影状態においては前記カットオフ周波数の変更を停止することを特徴とする請求項1ないし7のいずれか1項に記載の像ぶれ補正装置。
【請求項9】
前記撮像装置は動画撮影と静止画撮影が可能であり、
前記切替手段は、前記静止画撮影のときには、前記算出手段が用いる振れ量データとして常に前記第2の振れ量データを選択することを特徴とする請求項1または2に記載の像ぶれ補正装置。
【請求項10】
請求項1乃至9の何れか1項に記載の像ぶれ補正装置を備えた光学機器。
【請求項11】
請求項1乃至9の何れか1項に記載の像ぶれ補正装置を備えた撮像装置。
【請求項12】
少なくとも動画撮影が可能な撮像装置のための、像ぶれを補正する補正部材を有する像ぶれ補正装置の制御方法であって、
検出手段が、前記撮像装置の振れの速度を検出して振れ信号を出力する工程と、
第1の生成手段が、前記振れ信号に基づいて第1の振れ量を生成する工程と、
第2の生成手段が、前記1の振れ量データよりも高い振れ補正効果が得られるように前記振れ信号に基づいて第2の振れ量データを生成する工程と、
算出手段が、前記第1または第2の振れ量データを用いて前記補正部材の移動量である振れ補正量を算出する工程と、
判定手段が、前記振れ信号の大きさが所定の範囲にあるか否かに基づいて定点撮影状態であるか否かを判定する工程と、
切替手段が、動画撮影において、前記定点撮影状態であると判定された場合には前記第2の振れ量データを前記算出手段に提供し、前記定点撮影状態ではないと判定された場合には前記第1の振れ量データを前記算出手段に提供する工程と、を有することを特徴とする像ぶれ補正装置の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−33160(P2013−33160A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−169598(P2011−169598)
【出願日】平成23年8月2日(2011.8.2)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】