説明

像振れ補正装置

【課題】角速度センサ等の振れ検出手段から出力される振れ信号から、振動に対する補正量を算出するための前処理を施した補正量算出用信号と、パン/チルト動作しているか否かのパン/チルト判断を行うための前処理を施していないパン/チルト判断用信号とを取得する場合に、製品ごとのバラツキを無くし、パン/チルト動作時における撮影画面上での画像の動き出しの挙動に違和感が生じないようにすることができる像振れ補正装置。
【解決手段】角速度センサ10から出力された角速度信号は、前処理部によって前処理を施された補正量算出用信号S1と、前処理を施されないパン/チルト判断用信号S2としてそれぞれCPU22に取得される。前処理部には、ゲイン調整部16が配置されており、そのゲイン調整部16によって補正量算出用信号S1のゲイン調整が行われることによって補正量算出用信号S1とパン/チルト判断用信号S2の振幅比が調整される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は像振れ補正装置に係り、特にカメラ等において振動による像振れを補正(防止)する像振れ補正装置に関する。
【背景技術】
【0002】
テレビカメラの像振れ補正装置として、撮影光学系に防振レンズを光軸と直交する面内で移動自在に配置し、カメラ(カメラの撮影光学系)に振動が加わると、その振動による像振れを打ち消すように防振レンズをアクチュエータで駆動して像振れを補正するようにしたものが知られている(例えば、特許文献1、2等参照)。また、光軸に直交する面内で移動する防振レンズを使用する方法以外にも像振れを補正する方法が知られている。カメラに加わった振動に対して像振れを打ち消すための補正量(防振レンズを使用する場合には防振レンズの変位量に相当)は、例えば、カメラに加わった振動を角速度センサ等の振れ検出センサによって検出し、その振れ検出センサから出力される振れ信号に基づいて算出される。
【0003】
また、従来、振れ検出センサから得られた振れ信号に基づいて、カメラがパン/チルト動作しているか否かを自動で判断し、パン/チルト動作していると判断した場合には、像振れ補正を停止又は像振れ補正の効力を低減することによって、パン/チルト動作時に像振れ補正が行われることによる画面の不自然さやパン/チルト操作に対する操作性の悪さを解消するものが提案されている(例えば、特許文献3等参照)。カメラがパン/チルト動作しているか否かの判断(パン/チルト判断)は、例えば、振れ検出センサからの振れ信号の大きさが所定のしきい値を一定時間以上継続して超えたか否か等の検出によって行われている。
【特許文献1】特開2001−142103号公報
【特許文献2】特開2003−107554号公報
【特許文献3】特開2002−229089号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、振れ検出センサから得られる振れ信号は、像振れを打ち消すための補正量の算出と、パン/チルト動作しているかのパン/チルト判断のために使用されており、補正量算出のための振れ信号(補正量算出用信号)とパン/チルト判断のための振れ信号(パン/チルト判断用信号)とは、異なる信号ラインを通じて取得することが必要な場合がある。例えば、補正量の算出には、振れ検出センサの出力信号をそのまま使用するのではなく、その出力信号にDCカット(HPF)やLPF等の前処理を施したものを使用する場合がある。その場合に、そのような前処理を施した補正量算出用信号をパン/チルト判断にも使用するとパン/チルト判断に必要な信号成分が除去されている等の事情から適正な判断を行うことができない。このような場合に、補正量算出用信号と、パン/チルト判断用信号とを異なる信号ラインを通じて取得すると共に、補正量算出用信号を取得する信号ラインにおいて所要の前処理を施すことが行われている。
【0005】
しかしながら、上述のように信号ラインを別に設けた場合であっても、前処理を施す前処理部の特性に製品ごとのバラツキ(抵抗値やコンデンサ容量等のバラツキ)があるため、前処理を施した補正量算出用信号にも製品ごとのバラツキが生じる。その補正量算出用信号のバラツキは、製品ごとの補正量にもバラツキを生じさせるため像振れ補正の精度に影響する。しかしながら、補正量算出用信号のバラツキが標準的なものであれば像振れ補正の精度への影響は大きな問題とはならない。
【0006】
一方、補正量算出用信号のバラツキは、パン/チルト判断用信号との関係においても製品ごとのバラツキを生じさせる。このバラツキは、パン/チルト動作していると判断して像振れ補正を停止(又は補正の効力を低減)させる際に、撮影画面上での画像の動き出しの挙動に顕著な影響を与えるという問題があった。例えば、パン/チルト判断用信号に対して補正量算出用信号に製品ごとのバラツキがあると、パン/チルト動作の開始後にパン/チルト動作していると判断したときの補正量の大きさ(防振レンズの変位量)や補正量の変化速度(防振レンズの移動速度)にバラツキが生じる。そのバラツキが、パン/チルト動作時における撮影画面上での画像の動き出しの挙動の違いとして顕著に表れる。特にパン/チルト判断用信号の大きさに対して補正量算出用信号の大きさが大きいほど、パン/チルト操作に対して画像の動き出しのタイミングが遅くなるという印象を与え、撮影画面上での画像の動き出しの挙動に違和感を生じさせる。
【0007】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、パン/チルト動作時における撮影画面上での画像の動き出しの挙動に違和感を生じさせないようにすることができる像振れ補正装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、請求項1に記載の像振れ補正装置は、光学系により結像される像の結像面における結像位置、又は、前記像のうち記録又は再生用の像として有効に撮像する撮像範囲を変位させることによって像を変位させる像変位手段と、前記光学系に加わった振動を検出すると共に該検出した振動に応じた振れ信号を出力する振れ検出手段と、前記振れ検出手段により出力された振れ信号から振動に対する補正量算出のための補正量算出用信号を取得する補正量算出用振れ信号取得手段と、前記振れ検出手段により出力された振れ信号からパン/チルト判断のためのパン/チルト判断用信号を取得するパン/チルト判断用振れ信号取得手段と、前記補正量算出用信号取得手段により取得された補正量算出用信号に基づいて振動に対する補正量を算出する補正量算出手段と、前記パン/チルト判断用信号取得手段により取得されたパン/チルト判断用信号に基づいてパン/チルト動作しているか否かを判断するパン/チルト判断手段と、前記パン/チルト判断手段によりパン/チルト動作していないと判断された場合において、前記補正量算出手段により算出された補正量に対応した変位量となるように前記像変位手段により像を変位させて前記光学系に加わった振動に起因する像振れを打ち消すことにより像振れ補正を行うと共に、前記パン/チルト判断手段によりパン/チルト動作していると判断された場合に、前記像振れ補正の態様をパン/チルト動作していない場合の態様からパン/チルト動作している場合の態様に切り替える像振れ補正手段と、前記補正量算出用信号取得手段により取得される補正量算出用信号と前記パン/チルト判断用信号取得手段により取得されるパン/チルト判断用信号との振幅比を変更する振幅比変更手段と、を備えたことを特徴としている。
【0009】
本発明によれば、振動に対する補正量(像振れを打ち消すための補正量)を算出するための補正量算出用信号と、パン/チルト動作しているか否かを判断するパン/チルト判断用信号との振幅比を変更できるようにしたため、好適な振幅比となるように設定してパン/チルト動作時における撮影画面上での画像の動き出しの挙動に違和感を生じさせないようにすることができる。
【0010】
請求項2に記載の像振れ補正装置は、請求項1に記載の発明において、前記補正量算出用信号取得手段は、前記振れ検出手段により出力された振れ信号に所定の前処理を施した信号を前記補正量算出用信号として取得し、前記パン/チルト判断用信号取得手段は、前記振れ検出手段により出力された振れ信号に前記前処理を施していない信号をパン/チルト判断用信号として取得することを特徴としている。本発明は、振れ検出手段により出力された振れ信号に所定の前処理を施した信号を補正量算出用信号として取得し、振れ検出手段により出力された振れ信号に前記前処理を施していない信号をパン/チルト判断用信号として取得する態様を示し、この態様によれば、前処理部の特性のバラツキによって補正量算出用信号に製品ごとのバラツキが生じ、パン/チルト判断用信号との関係でパン/チルト動作時における画像の動き出しの挙動に違和感を生じさせるおそれがある。これに対して、本発明では、振幅比変更手段によって補正量算出用信号とパン/チルト判断用信号の振幅比を変更することができるため、製品ごとに振幅比を調整することによって補正量算出用信号とパン/チルト判断用信号との関係を補正することができるため、パン/チルト動作時における画像の動き出しの挙動に違和感を生じさせないようにすることができる。
【0011】
請求項3に記載の像振れ補正装置は、請求項1又は2に記載の発明において、前記振幅比変更手段は、前記補正量算出用信号と前記パン/チルト判断用信号のうち少なくともいずれか一方のゲイン調整を行うことにより、前記振幅比を変更することを特徴としている。本発明のようにゲイン調整を行うことによって補正量算出用信号とパン/チルト判断用信号の振幅比を所望の値に調整することができる。
【0012】
請求項4に記載の像振れ補正装置は、請求項1、2、又は3に記載の発明において、前記振幅比変更手段は、前記補正量算出用信号取得手段と前記パン/チルト判断用信号取得手段のうち少なくともいずれか一方が備えたゲイン調整手段であって、前記振れ検出手段から出力された振れ信号に対して増幅処理を施すと共に、該増幅処理におけるゲイン値の変更が可能なゲイン調整手段を備えたことを特徴としている。本発明のように補正量算出用信号取得手段とパン/チルト判断用信号取得手段のうち少なくとも一方にゲイン調整のためのゲイン調整手段を設けることによって、補正量算出用信号とパン/チルト判断用信号の振幅比を所望の値に変更することができる。
【0013】
請求項5に記載の像振れ補正装置は、請求項1乃至4のうちいずれか1に記載の発明において、前記振幅比変更手段により前記振幅比を変更させることにより、前記像振れ補正の対象とする所定周波数の振動に対して前記振幅比が特定の値となるように前記振幅比を調整する振幅比調整手段を備えたことを特徴としている。本発明は、補正量算出用信号とパン/チルト判断用信号の振幅比を特定の値に調整するための手段を備えたもので振幅比の自動調整を可能にする。
【0014】
請求項6に記載の像振れ補正装置は、請求項1乃至5のうちいずれか1に記載の発明において、前記像振れ補正手段において、パン/チルト動作している場合の前記像振れ補正の態様は、前記像振れ補正を停止又は前記像振れ補正の効力を低減させた態様であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る像振れ補正装置によれば、パン/チルト動作時における撮影画面上での画像の動き出しの挙動に違和感を生じさせないようにすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下添付図面に従って本発明に係る像振れ補正装置の好ましい実施の形態について詳述する。
【0017】
図1は、本発明に係る像振れ補正装置の第1の実施の形態を示した構成図である。像振れ補正装置は、例えば、テレビカメラ用のレンズ装置(撮影レンズ)、ムービカメラ、又は、スチルカメラ等に搭載され、同図に示す防振レンズ30は、本装置が搭載されるレンズ装置又はカメラ等の光学系に配置されると共に、光学系の光軸に対して垂直な面内で上下(鉛直方向)、左右(水平方向)に移動可能に配置される。また、防振レンズ30は、モータ28により上下、又は、左右に駆動されるようになっており、カメラ(光学系)に振動が生じた場合には、このモータ28により像振れを補正する位置(振動による像振れを打ち消す位置)に移動するようになっている。尚、防振レンズ30は上下方向と左右方向のいずれの方向についても各方向に生じた振動に基づいて同様に駆動されるため、同図には一方向(例えば水平方向)に対する像振れ補正を行う構成についてのみ示し、他方向に対して同様に構成されるものとする。
【0018】
同図において、角速度センサ10は、光学系の振動を検出するためのジャイロセンサであり、レンズ鏡胴の上面等に設置される。角速度センサ10からは、光学系の例えば左右方向に生じた振動の角速度に応じた電圧の電気信号が角速度信号として出力される。
【0019】
角速度センサ10から出力された角速度信号は、増幅回路12により増幅処理された後、DCカット部(ハイパスフィルタ(HPF))14により主に直流成分(所定のカットオフ周波数以下の低域周波数成分)が遮断され、それ以外の周波数成分がDCカット部14を通過する。DCカット部14を通過した角速度信号は、続いて、詳細を後述するゲイン調整部16により角速度信号に対するゲイン調整が施された後、ローパスフィルタ(LPF)18に入力される。LPF18では、入力された角速度信号の周波数成分のうち像振れ補正の対象としない高域周波数成分が遮断されて、それ以外の周波数成分がLPF18を通過する。LPF18を通過した角速度信号は、A/D変換器20によりデジタル信号に変換された後、CPU22に入力される。尚、上記DCカット部14、ゲイン調整部16、LPF18から成る前処理部を通じてCPU22に取得される角速度信号を角速度信号S1と記す。
【0020】
CPU22は、上記のようにして入力された角速度信号S1をデジタルフィルタの演算処理により積分処理し、角速度信号S1を角度信号に変換する。即ち、光学系の振動によって生じる像振れに対してそれを打ち消す方向及び大きさで像を変位させるための防振レンズ30の基準位置からの変位量(像振れを打ち消して像振れを補正するための補正量)を、角速度信号S1を積分処理することによって求める。そして、求めた補正量(角度信号)の値を防振レンズ30の移動目標位置を示す値として出力する。
【0021】
CPU22から出力された角度信号はD/A変換器24によりアナログ信号に変換された後、モータ駆動回路26に入力される。モータ駆動回路26は、防振レンズ30を例えば左右方向に移動させるモータ28を駆動して、CPU22から出力された角度信号の値に対応した位置に防振レンズ30を移動させる。これによって光学系に加わった振動による像振れが補正される。
【0022】
尚、像振れ補正の方式は、本実施の形態で示した方式以外であってもよい。本実施の形態の方式は、防振レンズ30を変位させることによって光学系により結像される像の結像位置を意図的に結像面内で上下又は左右に変位させる像変位手段を用いたもので、その像変位手段により、光学系に加わった振動による像振れを打ち消すように像を変位させて像振れを補正している。このように像を意図的に変位させる像変位手段は本実施の形態のように防振レンズを用いるものでなくてもよく、例えば、カメラの撮像素子を変位させて記録又は再生用の像を有効に撮像する撮像範囲を変位させることによって像を意図的に変位させる像変位手段であってもよいし、また、カメラの撮像素子によって撮像される撮影画像の範囲内から記録又は再生用の画像信号を切り出す範囲を変位させて像を意図的に変位させる電子的な像変位手段であってもよい。このような他の方式の像振れ補正においても、角速度センサ10から得られた角速度信号に積分処理等を施すことによって、本実施の形態と同様に像振れを打ち消すために必要な変位量で像変位手段により像を変位させるための補正量の信号(上記角度信号に相当)を求めることができる。
【0023】
一方、角速度センサ10から出力されて増幅回路12により増幅された角速度信号は、上記DCカット部14、ゲイン調整部16、及び、LPF18からなる前処理部により所要の前処理が施される信号ラインを通じて角速度信号S1としてA/D変換器20に入力される以外に、増幅回路12からA/D変換器20に直結された前記前処理が施されない信号ラインを通じてA/D変換器20に入力され、その角速度信号がA/D変換器20によりデジタル信号に変換されて角速度信号S1と並行してCPU22に取得されるようになっている。
【0024】
これによってCPU22は、上述の補正量(角度信号)を算出するための前処理が施された角速度信号S1と並行して、前処理が施されていないパン/チルト判断のための角速度信号を取得する。尚、以下において、前処理部により前処理が施された角速度信号S1を補正量算出用信号S1と称し、増幅回路12からA/D変換器20に直結された信号ラインを通じて得られる前処理が施されていない角速度信号をパン/チルト判断用信号S2と称する。
【0025】
パン/チルト判断は、光学系がパン/チルト動作しているか否かの判断であり、その判断方法として様々な方法が提案されている。本実施の形態では、例えば、前処理が施されていないパン/チルト判断用信号S2の大きさ(絶対値の大きさ)が、所定のしきい値を一定時間以上継続して超えた場合にパン/チルト動作していると判断し、そうでなければパン/チルト動作していないと判断するものとする。
【0026】
CPU22は、パン/チルト判断用信号S2に基づいてパン/チルト判断を行い、それによってパン/チルト動作していると判断した場合には、上述の像振れ補正を停止させる処理を実行する。例えば、DCカット部(HPF)14のカットオフ周波数を高くして、補正量算出用信号S1を実質的に遮断する。これに対して、補正量(角度信号)の算出を継続して行うことによって補正量が徐々に0へと減少し、その補正量に基づいて防振レンズ30を駆動することによって防振レンズ30が基準位置に移動し、停止する。このようにパン/チルト動作している際に像振れ補正を停止させることによって、パン/チルト動作中に像振れ補正が行われることによる不具合が防止される。尚、パン/チルト動作していると判断した場合には、他の方法によって像振れ補正を停止させるようにしてもよい。また、パン/チルト動作していると判断した場合に、像振れ補正を完全に停止させるのではなく、像振れ補正の効力を低減させるようにしてもよい。
【0027】
続いて、上記前処理部におけるゲイン調整部16でのゲイン調整について説明する。角速度センサ10から出力された角速度信号に前処理を施すDCカット部14やLPF18などの前処理部の特性には製品ごとのバラツキ(抵抗値やコンデンサ容量等のバラツキ)がある。そのため、CPU22に入力される補正量算出用信号S1には、パン/チルト判断用信号S2との関係において製品ごとのバラツキが生じる。例えば、像振れ補正の対象とする周波数の振動が光学系に加わった場合に、補正量算出用信号S1の振幅Y1とパン/チルト判断用信号S2の振幅Y2が一致していることが望ましい。即ち、それらの振幅比Y1/Y2が1となることが望ましい。しかしながら、実際には、製品ごとに前処理部の特性にバラツキがあるため、振幅比Y1/Y2が1にならない場合がある。
【0028】
振幅比Y1/Y2が1でない場合において、図2に示すようにパン/チルト動作が開始された場合に得られる波形C2で示すパン/チルト判断用信号S2に対して、補正量算出用信号S1は、振幅比Y1/Y2が1より小さいときにはC1Lで示すような波形を示し、振幅比Y1/Y2が1より大きいときにはC1Hで示すような波形を示す。尚、振幅比Y1/Y2が1のときは補正量算出用信号S1の波形は、パン/チルト判断用信号S2の波形C2と略一致する。
【0029】
一方、パン/チルト判断において、パン/チルト判断用信号S2の大きさが同図に示すしきい値Ysを一定時間ts以上継続して超えた場合にパン/チルト動作していると判定するものとすると、同図に示すパン/チルト判断用信号S2に対してパン/チルト動作していると判定されるのはT1で示す時点となる。
【0030】
この場合に、補正量算出用信号S1が波形C1Lの場合と波形C1Hの場合とでは、パン/チルト動作が開始されてからパン/チルト動作していると判定されるまでの間、及び、パン/チルト動作していると判定された時点T1での値がパン/チルト判断用信号S2(振幅比Y1/Y2が1のときの補正量算出用信号S1)と相違するため、像振れ補正を停止させる処理に移行したときの補正量の大きさ及び変化速度、即ち、防振レンズ30の変位量及び移動速度が、振幅比Y1/Y2が1のときと相違する。この相違は、本像振れ補正装置を適用したカメラでのパン/チルト動作に対する撮影画面上での画像の動き出しの挙動に違和感を生じさせる。
【0031】
そこで、図1のように補正量算出用信号S1を得るための前処理部にゲイン調整部16を配置し、そのゲイン調整部16によって補正量算出用信号S1にゲイン調整を施すことによって、どの製品においても振幅比Y1/Y2が1となるように補正量算出用信号S1の大きさを補正できるようにしている。ゲイン調整部16は、入力された角速度信号を可変のゲイン値で増幅処理し、その増幅処理した角速度信号を出力する。ゲイン調整部16におけるゲイン値(利得)の調整は、次に示す第1〜第3の方法のようにして行うことができる。
【0032】
第1の方法では、ゲイン調整部16のゲイン値は、手動操作する所定の調整ツマミによって変更できるものとする。そして、ゲイン値の調整時に、像振れ補正の対象とする所定周波数の振動を光学系に意図的に加える。尚、この振動は所定の装置を用いて発生させた例えば所定周波数で一定振幅の振動であってもよいし、作業者が適当な振動を光学系に加えたものであってもよい。
【0033】
このとき、CPU22に入力される補正量算出用信号S1の振幅Y1とパン/チルト判断用信号S2の振幅Y2を何らかの方法で観測する。例えば、A/D変換器20に入力される直前の補正量算出用信号S1とパン/チルト判断用信号S2、又は、CPU22に入力された補正量算出用信号S1とパン/チルト判断用信号S2をオシロスコープ等の外部の測定機器に出力することによって、それらの波形をそのまま観測するようにしてもよい。又は、所定のスイッチによってCPU22にゲイン調整用のプログラムを実行させ、CPU22に入力された補正量算出用信号S1とパン/チルト判断用信号S2の振幅Y1、Y2をCPU22において測定し、測定した振幅Y1、Y2(又は振幅比Y1/Y2)のデータを外部機器又は像振れ補正装置やカメラに設置した表示器等に表示させるようにしてもよい。
【0034】
そして、作業者は、補正量算出用信号S1の振幅Y1とパン/チルト判断用信号S2の振幅Y2を観測しながら、それらの振幅Y1と振幅Y2が一致するように、ゲイン調整部16の調整ツマミを手動操作してゲイン値を調整する。これによって、全ての製品において振幅比Y1/Y2を1に設定することができる。尚、振幅比Y1/Y2が1以外の場合の方がパン/チルト動作に対する撮影画面上での画像の動き出しの挙動が好適な場合があり、必ずしも振幅比Y1/Y2を1に設定する必要はなく、1以外の特定の値又は使用者ごとに好適な挙動となる値に設定するようにしてもよい。
【0035】
第2の方法では、第1の方法と同様にゲイン調整部16のゲイン値は、手動操作する所定の調整ツマミによって変更できるものとする。そして、本像振れ補正装置を実際にカメラ等で使用している際に、パン/チルト操作したときの撮影画面上での画像の動き出しの挙動を観測し、その画像の動き出し挙動が好適な状態となるように作業者がゲイン調整部16のゲイン値を試行錯誤的に調整ツマミによって調整する。この場合、振幅比Y1/Y2が必ずしも1又は特定の値にはならないが、好適な状態として設定した振幅比であるため振幅比Y1/Y2が1でないことは問題ではない。
【0036】
第3の方法では、ゲイン調整部16のゲイン値は、CPU22からの制御信号によって変更できるものとする。そして、第1の方法と同様に像振れ補正の対象とする所定周波数の振動を意図的に光学系に加える。また、所定のスイッチによってCPU22にゲイン調整用のプログラムを実行させる。CPU22はそのプログラムを実行すると、CPU22に入力される補正量算出用信号S1の振幅Y1とパン/チルト判断用信号S2の振幅Y2を測定し、測定した振幅Y1、Y2に基づく振幅比Y1/Y2が1又は特定の値となるようにゲイン調整部16のゲイン値を調整する。この第3の方法によれば、ゲイン調整部16のゲイン値が自動で調整される。尚、振幅比Y1/Y2をどのような値となるようにゲイン値を設定するかを作業者等が所定の入力手段によってCPU22に指示入力できるようにしてもよい。
【0037】
次に、図3は、本発明に係る像振れ補正装置の第2の実施の形態を示した構成図である。同図において、図1と同様に作用するブロックには図1と同一符号を付し、その説明を省略する。図2の像振れ補正装置では、図1の像振れ補正装置で示したゲイン調整部16が前処理部に配置されておらず、補正量算出用信号S1のゲイン調整をCPU22で行うものとしている。CPU22には、書込みと読出しが可能なメモリとしてEEPROM32が接続されており、そのEEPROM32に補正量算出用信号S1をゲイン調整する際のゲイン値が記憶されている。CPU22は、そのEEPROM32に記憶されているゲイン値を読み出し、DCカット部14やLPF18の前処理部を含む信号ラインから取得した補正量算出用信号S1をそのゲイン値で増幅する。そして、その増幅した補正量算出用信号S1を積分処理して補正量を算出する。
【0038】
一方、EEPROM32に記憶されるゲイン値のデータは、CPU22によって所望の値に書き換えられることができ、そのゲイン値の書換えによってゲイン値を調整することができるようになっている。そこで、各製品ごとに、例えば、像振れ補正の対象とする周波数の振動が光学系に加わった場合に角速度信号S1の振幅Y1と角速度信号S2の振幅Y2との振幅比Y1/Y2が1となるようにEEPROM32に記憶させるゲイン値を調整することによって、パン/チルト判断用信号S2に対する補正量算出用信号S1の製品ごとのバラツキを無くことができる。
【0039】
本第2の実施の形態におけるゲイン値の調整は、第1の実施の形態における第1〜第3の方法と同様に次に示す第1〜第3の方法のようにして行うことができる。
【0040】
第1の方法では、EEPROM32に記憶するゲイン値は、EEPROM書換手段(書換ツール)34によって変更できるものとする。EEPROM書換手段34はCPU22に対してEEPROM32のデータの書換えを指示すると共に、書き換えるデータの内容を指示する手段である。そして、ゲイン値の調整時に、像振れ補正の対象とする所定周波数の振動を光学系に意図的に加える。このとき、作業者は、CPU22に入力される補正量算出用信号S1の振幅Y1とパン/チルト判断用信号S2の振幅Y2を第1の実施の形態における第1の方法と同様にして観測し、振幅Y1と振幅Y2が一致する(振幅比Y1/Y2が1となる)ゲイン値を求める。そして、その求めたゲイン値をEEPROM書換手段34を用いてEEPROM32に記憶させる。これによって、全ての製品において振幅比Y1/Y2を1に設定することができる。尚、第1の実施の形態でも説明したように振幅比Y1/Y2が1以外の場合の方がパン/チルト動作に対する撮影画面上での画像の動き出しの挙動が好適な場合があり、必ずしも振幅比Y1/Y2を1に設定する必要はなく、1以外の特定の値又は使用者ごとに好適な挙動となる値に設定するようにしてもよい。
【0041】
第2の方法では、第1の方法と同様にゲイン調整部のゲイン値は、EEPROM書換手段34によって変更できるものとする。そして、本像振れ補正装置を実際にカメラで使用している際に、パン/チルト操作したときの撮影画面上での画像の動き出しの挙動を観測し、その画像の動き出しの挙動が好適な状態になるゲイン値を作業者が予想し、EEPROM書換手段34を用いてEEPROM32に記憶させる。何度かこの作業を繰り返して撮影画面上での画像の動き出しの挙動が好適な状態になった場合に、作業を終了し、そのときにEEPROM32に記憶されているゲイン値でゲイン値の調整を終了する。この場合、振幅比Y1/Y2が必ずしも1又は特定の値にはならないが、上述のように好適な状態として設定した振幅比であるため振幅比Y1/Y2が1でないことは問題ではない。
【0042】
第3の方法では、ゲイン調整部のゲイン値は、CPU22により自動で変更されるものとし、図3のようなEEPROM書換手段34は不要とする。そして、第1の方法と同様に像振れ補正の対象とする所定周波数の振動を光学系に意図的に加える。また、所定のスイッチによってCPU22にゲイン値調整用のプログラムを実行させる。CPU22はそのプログラムを実行すると、CPU22に入力される補正量算出用信号S1の振幅Y1とパン/チルト判断用信号S2の振幅Y2を測定し、測定した振幅Y1、Y2に基づく振幅比Y1/Y2が1又は特定の値となるようにゲイン値を決定し、そのゲイン値をEEPROM32に書き込む。この第3の方法によれば、ゲイン調整におけるゲイン値が自動的に調整される。尚、振幅比Y1/Y2をどのような値となるようにゲイン値を設定するかを使用者等が所定の入力手段によってCPUに指示できるようにしてもよい。
【0043】
以上、上記実施の形態では、光学系に加わった振動を角速度センサにより検出し、角速度センサから出力される角速度信号に基づいて補正量を算出し、また、パン/チルト判断を行う場合について説明したが、光学系に加わった振動を角速度センサ以外の振れ検出手段、例えば角加速度センサ、加速度センサ、速度センサ、角変位センサ、又は、変位センサ等で検出し、振動に対応して振れ検出手段から出力される振れ信号に基づいて補正量算出やパン/チルト判断を行う場合においても本発明を適用することができる。
【0044】
また、上記実施の形態では、パン/チルト動作している場合における像振れ補正の態様として像振れ補正を停止又は像振れ補正の効力を低減する場合について説明したが、パン/チルト動作している場合における像振れ補正の態様はこれに限らず、本発明は、パン/チルト動作していない場合における像振れ補正の態様とパン/チルト動作している場合における像振れ補正の態様とを切り替える場合に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】図1は、本発明に係る像振れ補正装置の第1の実施の形態を示した構成図である。
【図2】図2は、補正量算出用信号とパン/チルト判断用信号との関係についての説明に使用した説明図である。
【図3】図3は、本発明に係る像振れ補正装置の第2の実施の形態を示した構成図である。
【符号の説明】
【0046】
10…角速度センサ、12…増幅回路、14…DCカット部(HPF)、16…ゲイン調整部、18…LPF、20…A/D変換器、22…CPU、24…D/A変換器、26…モータ駆動回路、28…モータ、30…防振レンズ、32…EEPROM、34…EEPROM書換手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学系により結像される像の結像面における結像位置、又は、前記像のうち記録又は再生用の像として有効に撮像する撮像範囲を変位させることによって像を変位させる像変位手段と、
前記光学系に加わった振動を検出すると共に該検出した振動に応じた振れ信号を出力する振れ検出手段と、
前記振れ検出手段により出力された振れ信号から振動に対する補正量算出のための補正量算出用信号を取得する補正量算出用振れ信号取得手段と、
前記振れ検出手段により出力された振れ信号からパン/チルト判断のためのパン/チルト判断用信号を取得するパン/チルト判断用振れ信号取得手段と、
前記補正量算出用信号取得手段により取得された補正量算出用信号に基づいて振動に対する補正量を算出する補正量算出手段と、
前記パン/チルト判断用信号取得手段により取得されたパン/チルト判断用信号に基づいてパン/チルト動作しているか否かを判断するパン/チルト判断手段と、
前記パン/チルト判断手段によりパン/チルト動作していないと判断された場合において、前記補正量算出手段により算出された補正量に対応した変位量となるように前記像変位手段により像を変位させて前記光学系に加わった振動に起因する像振れを打ち消すことにより像振れ補正を行うと共に、前記パン/チルト判断手段によりパン/チルト動作していると判断された場合に、前記像振れ補正の態様をパン/チルト動作していない場合の態様からパン/チルト動作している場合の態様に切り替える像振れ補正手段と、
前記補正量算出用信号取得手段により取得される補正量算出用信号と前記パン/チルト判断用信号取得手段により取得されるパン/チルト判断用信号との振幅比を変更する振幅比変更手段と、
を備えたことを特徴とする像振れ補正装置。
【請求項2】
前記補正量算出用信号取得手段は、前記振れ検出手段により出力された振れ信号に所定の前処理を施した信号を前記補正量算出用信号として取得し、前記パン/チルト判断用信号取得手段は、前記振れ検出手段により出力された振れ信号に前記前処理を施していない信号をパン/チルト判断用信号として取得することを特徴とする請求項1の像振れ補正装置。
【請求項3】
前記振幅比変更手段は、前記補正量算出用信号と前記パン/チルト判断用信号のうち少なくともいずれか一方のゲイン調整を行うことにより、前記振幅比を変更することを特徴とする請求項1又は2の像振れ補正装置。
【請求項4】
前記振幅比変更手段は、前記補正量算出用信号取得手段と前記パン/チルト判断用信号取得手段のうち少なくともいずれか一方が備えたゲイン調整手段であって、前記振れ検出手段から出力された振れ信号に対して増幅処理を施すと共に、該増幅処理におけるゲイン値の変更が可能なゲイン調整手段を備えたことを特徴とする請求項1、2、又は
3の像振れ補正装置。
【請求項5】
前記振幅比変更手段により前記振幅比を変更させることにより、前記像振れ補正の対象とする所定周波数の振動に対して前記振幅比が特定の値となるように前記振幅比を調整する振幅比調整手段を備えたことを特徴とする請求項1乃至4のうちいずれか1に記載の像振れ補正装置。
【請求項6】
前記像振れ補正手段において、パン/チルト動作している場合の前記像振れ補正の態様は、前記像振れ補正を停止又は前記像振れ補正の効力を低減させた態様であることを特徴とする請求項1乃至5のうちいずれか1に記載の像振れ補正装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−208570(P2006−208570A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−18274(P2005−18274)
【出願日】平成17年1月26日(2005.1.26)
【出願人】(000005430)フジノン株式会社 (2,231)
【Fターム(参考)】