説明

優れた伸長性及び屈曲疲労を有するポリアミド樹脂組成物並びにそれを使用する空気入りタイヤ及びホース

マトリックスとしてのポリアミド樹脂(A)及びその中に分散された、ポリアミド樹脂(A)と反応性の官能基(B)を有する変性用ポリマー(C)を含んでなり、変性用ポリマー(C)の破断点引張応力が、ポリアミド樹脂(A)の破断点引張応力の30〜70%であり、そして変性ポリマー(C)の破断点引張伸びが、ポリアミド樹脂(A)の破断点引張伸びの100〜500%である、優れた伸長性及び屈曲疲労を有するポリアミド樹脂組成物並びにそれを使用する空気入りタイヤ及びホース。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミド樹脂組成物並びそれを使用する空気入りタイヤ及びホースに関する。更に詳しくは、本発明は、優れた伸長性及び屈曲疲労を有するポリアミド樹脂組成物並びにそれを使用する空気入りタイヤ及びホースに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアミド樹脂は、優れた作業性(又は加工性)、耐薬品性及び耐熱性並びに低いガス透過性を有し、従って、これらの特性を利用して、射出成形製品、押出製品、吹込製品、フィルム等のために広く使用されている。しかしながら、ポリアミド樹脂は、耐衝撃性、耐疲労性等で必ずしも十分ではないので、動的歪みを受ける使用環境下でのこれらの特性の改良が要求されてきた。ポリアミド樹脂の耐衝撃性を改良するための手段として、当該技術分野に於いて、エラストマー成分から構成される変性剤をブレンドすることが知られている(例えば特許文献1及び特許文献2参照)。しかしながら、使用環境に依存する耐疲労性については、疲労の機構が複雑であり、エラストマーをブレンドするだけでは、改良の十分な効果を得ることはできなかった。ポリアミド樹脂、特にナイロン用の種々の変性剤が、メーカーによって提案されてきた。しかしながら、伸長及び屈曲疲労環境下で、大きい荷重が、ポリアミド−変性剤の界面及び変性剤の内部に作用し、それによって界面破壊又は変性剤破壊が起こり、変性剤による改良の十分な効果を得ることができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第4,174,358号明細書
【特許文献2】米国特許第4,594,386号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って、本発明の目的は、優れた伸長性及び屈曲疲労を有する変性されたポリアミド樹脂組成物並びにそれを使用する空気入りタイヤ及びホースを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に従えば、マトリックスとしてのポリアミド樹脂(A)及びその中に分散された、ポリアミド樹脂(A)と反応性の官能基(B)を有する変性用ポリマー(C)を含んでなり、変性用ポリマー(C)の破断時引張応力が、ポリアミド樹脂(A)の破断時引張応力の30〜70%であり、そして変性用ポリマー(C)の破断時引張伸びが、ポリアミド樹脂(A)の破断時引張伸びの100〜500%であるポリアミド組成物並びにそれを使用する空気入りタイヤ及びホースが提供される。
【発明の効果】
【0006】
本発明において、ポリアミド樹脂(A)と十分に反応して界面を強化することができる官能基(B)を有する変性用ポリマー(C)を、ポリアミド樹脂組成物中に組み入れることによって、即ち、ポリアミド樹脂(A)に対して十分に強い引張特性を有する変性剤をブレンドすることによって、伸長及び屈曲疲労特性が改良される。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明者らは、前記問題点を解決すべく鋭意検討した結果、ポリアミド樹脂(A)及びその中に分散された、ポリアミド樹脂(A)と反応することができる官能基(B)を有し、ポリアミド樹脂(A)の破断時引張応力の30%〜70%、好ましくは40〜70%の破断時引張応力を有し、そしてポリアミド樹脂(A)の破断時引張伸びの100%〜500%、好ましくは110〜500%の破断時引張伸びを有する変性用ポリマー(C)を含んでなるポリアミド樹脂組成物によって、前記問題点を解決することに成功した。
【0008】
本発明の好ましい態様に従えば、変性用ポリマー(C)の体積分率を40%以上、好ましくは40〜80%、更に好ましくは50〜80%にすることによって、優れた伸び抵抗及び曲げ疲労を有するポリアミド樹脂組成物を得ることができる。ここで、「体積分率(%)」は、ポリアミド樹脂組成物中に含有されている変性用ポリマー(C)の体積分率を意味する。更に、変性用ポリマー(C)及びポリアミド樹脂(A)の、体積分率と溶融粘度との比が下記の式(I)を満足するとき(α>1)、ポリアミド樹脂(A)の中に変性用ポリマー(C)を一層均一に分散させることが可能である。
【0009】
α=(φd/φm)×(ηm/ηd)<1 (I)
式中、φdは、変性用ポリマー(C)の体積分率を示し、
φmは、ポリアミド樹脂(A)の体積分率を示し、
ηdは、変性ポリマー(C)の溶融粘度を示し(注:測定条件:240℃の測定温度及び1200秒-1の剪断速度での毛細管粘度の測定のために、東洋精機キャピラリーレオメーターを使用した)、そして
ηmは、ポリアミド樹脂(A)の溶融粘度を示す(注:測定条件:240℃の測定温度及び1200秒-1の剪断速度での毛細管粘度の測定のために、東洋精機キャピラリーレオメーターを使用した)。
【0010】
本発明に於いて使用することができるポリアミド樹脂(A)としては、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン6・66、ナイロン612、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン46、ナイロン6・66・610、ナイロンMXD6等を挙げることができる。これらは単独で又はそれらの任意の組合せで使用することができる。
【0011】
本発明において使用することができるポリアミド樹脂(A)と反応性の官能基(B)としては、例えば酸無水物基、エポキシ基、ハロゲン基、カルボキシル基、アミノ基、ヒドロキシル基及びその他の官能基を挙げることができる。酸無水物基、例えばマレイン酸無水物基の使用が好ましい。
【0012】
本発明において使用することができる無水物基を有する変性用ポリマー(C)として、オレフィンのホモポリマー又はコポリマーを挙げることができる。エチレンと、プロピレン、ブテン、ヘキセン及びオクテンから選択された少なくとも1種のα−オレフィンとのコポリマーの使用が、破断時伸び及び破断時強度の観点から特に好ましい。
【0013】
前述の如く、ポリアミド樹脂組成物において、変性用ポリマー(C)が、それぞれ、ポリアミド樹脂(A)の値の30〜70%及び100〜500%の、破断時引張応力及び破断時引張伸び(共に、JIS K6251に従って−20℃で測定したもの)の値を有することが重要である。破断時引張応力の値が、上記の値よりも低い場合、変性用ポリマー(C)の材料破壊が好ましくなく起こり、ポリアミド樹脂(A)マトリックスから荷重が好ましくなく作用する。更に、破断時引張伸びの値が、上記の値よりも小さい場合、破断時引張応力と同様に、変性用ポリマー(C)の材料破壊が好ましくなく起こる。
【0014】
本発明に従ったポリアミド樹脂組成物には、前記の成分に加えて、カーボンブラック、シリカ又は他の充填剤、加硫又は架橋剤、加硫又は架橋促進剤、種々の種類の油、酸化防止剤、可塑剤、油、着色剤並びにゴム組成物及び樹脂組成物の中に一般的にブレンドされる種々の種類の他の添加物が含有されていてよい。これらの添加物は、それらを組成物の中に配合するための一般的な方法によって混合することができる。この配合量は、また、本発明の目的が損われない限り、従来の一般的な混合量にすることができる。
【実施例】
【0015】
本発明を更に説明するために実施例を使用するが、本発明の範囲を、これらの実施例に限定するものではない。
【0016】
実施例1〜9及び比較例1〜9
サンプルの製造
表I〜IVに示した成分を下記のように混合して、ポリアミド樹脂組成物を得た。
【0017】
表V〜表VIIに示した、変性用ポリマーのペレット及びポリアミド樹脂のペレットを、二軸スクリュー押出機(日本製鋼所製のTEX44)の中に装入し、溶融混合した。混合条件は220℃で、3分間及び1200秒-1の剪断速度であった。この材料を、押出機からストランドの形状で連続的に取り出し、水で冷却し、次いで、カッターによって切断して、ペレット形状のポリアミド樹脂組成物を得た。疲労試験用のシートを得るために、このポリアミド樹脂組成物の製造したペレットを、シート押出ダイを備えた一軸スクリュー押出機の中に装入し、シート形に成形した。
【0018】
このようにして得られたポリアミド樹脂組成物を、次いで、下記に示す試験方法による疲労試験に付した。結果は表I〜IVに示す。
【0019】
物理的特性評価のための試験方法
疲労試験:シート押出ダイによってシートに成形したポリアミド樹脂組成物を、JIS ダンベル状3号形(JIS K6251)に打ち抜き、次いで、このダンベル形状サンプルを取り付け、疲労試験後に、一定歪み及び曲げ試験に付した。試験は、54mmのチャック間隔、20%の引張歪み速度、20%の圧縮歪み速度、6.67Hzの繰り返し周期数及び−20℃の試験温度の条件下で実施した。この試験は、サンプルが破壊したとき終了させた。
【0020】
判定:良好・・・500,000よりも大きい(1,000,000Xでカットオフ)破壊までの繰り返し周期数。
【0021】
不良・・・500,000Xよりも少ない破壊までの繰り返し周期数。
【0022】
【表1】

【0023】
【表2】

【0024】
【表3】

【0025】
【表4】

【0026】
【表5】

【0027】
【表6】

【0028】
【表7】

【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明に従ったポリアミド樹脂組成物は、空気入りタイヤ等のインナーライナーとして使用することができ、更に、例えば、ホース用の、外側チューブ材料、内側チューブ内部層材料及び内側チューブ外部層材料として使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マトリックスとしてのポリアミド樹脂(A)及びその中に分散された、ポリアミド樹脂(A)と反応性の官能基(B)を有する変性用ポリマー(C)を含んでなり、変性用ポリマー(C)の引張応力が、ポリアミド樹脂(A)の破断時引張応力の30〜70%であり、そして変性用ポリマー(C)の破断時引張伸びがポリアミド樹脂(A)の破断時引張伸びの100〜500%であるポリアミド樹脂組成物。
【請求項2】
変性用ポリマー(C)が40〜80%の体積分率を有する請求項1に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項3】
変性用ポリマー(C)及びポリアミド樹脂(A)の体積分率と溶融粘度との比が、下記式(I):
α=(φd/φm)×(ηm/ηd)<1 (I)
[式中、φd:変性用ポリマー(C)の体積分率、φm:ポリアミド樹脂(A)の体積分率、ηd:変性用ポリマー(C)の溶融粘度、ηm:ポリアミド樹脂(A)の溶融粘度]
を満足する請求項1に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項4】
ポリアミド樹脂(A)がナイロン6、ナイロン66、ナイロン6/66、ナイロン6/12、ナイロン11及びナイロン12からなる群から選択された少なくとも1種の樹脂である請求項1に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項5】
官能基(B)が酸無水物基である請求項1に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項6】
変性用ポリマー(C)がエチレンと、プロピレン、ブタン、ヘキサン及びオクタンから選択された少なくとも1種のα−オレフィンとのコポリマーである請求項1に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1に記載のポリアミド樹脂組成物を、インナーライナーとして、使用する空気入りタイヤ。
【請求項8】
請求項1に記載のポリアミド樹脂組成物を、少なくとも1つの層として、使用するホース。

【公表番号】特表2010−516835(P2010−516835A)
【公表日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−546372(P2009−546372)
【出願日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際出願番号】PCT/US2007/060699
【国際公開番号】WO2008/088555
【国際公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【出願人】(505335740)エクソンモービル ケミカル パテンツ,インコーポレイティド (17)
【Fターム(参考)】