説明

元のカルシウムを含む低炭水化物ミルク

90〜250kJ/100gで、元のミルクカルシウムの実質的にすべてを維持し、及び元のミルクタンパク質のすべてを有し、安定化剤を含まず、口当たりの良い、低炭水化物のミルク製品、並びに限外ろ過前にミルク製品をpH7.0〜pH9.5に調整し、透過物をナノろ過し、さらにナノろ過透過物を限外ろ過未透過物の一部及び水と混合し、その後pHをミルクの通常のpHに調整する前記ミルク製品の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の目的は、元のミルクミネラル、特にカルシウムの実質的にすべて、及び全ミルクタンパク質、及び低量のラクトースを有する、安定化剤を含まず、口当たりの良い、低カロリーのミルク製品を提供することである。
【0002】
当該ミルク製品は添加カルシウムを含んでおらず、ゆえにカルシウムは強化されていない。通常、風味のために、ラクトースをすべては除かないことが得策である。しかし、当該製品がラクトース不耐症の人に適したものであるべきならば、より多くのラクトースを除くことが可能である。
【0003】
別の目的は、そのようなミルク製品の製造方法を提供することである。
【背景技術】
【0004】
チーズの製造工程におけるように、ミルクを限外ろ過(UF)にかけた場合、溶解しているカルシウムは透過物とともに除かれるため、カルシウム/タンパク質比は低下する。
【0005】
商業的見地から、ミルクと同じカルシウム/タンパク質比を含むものの、強化されることなく、さらにエネルギー供給がなく、通常の市販ミルクに使われる香味料を含まないミルクに対する潜在的な必要性がある。この潜在需要は、若者が成長するにつれ、ミルクを飲むことからミルク以外の製品を飲むことに切り替わるものの、やはりカルシウムに対する必要性に気づくという十分に裏付けされた事実に見られる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、通常のミルクと同じカルシウム/タンパク質比及びより低いカロリーを提供するミルクを生産及び商品化するのに成功することに大きな潜在需要がある。しかし、くせがなく且つすっきりした味を有し、着香料によってマスクされるべきであろう水っぽい味または他の不快な風味を有さないミルクを生産することにも大きな潜在需要がある。
【0007】
本発明の目的は、できる限り低くカルシウムの低下を維持し、且つできる限りよい味を維持する膜ろ過によって、低炭水化物ミルクを生産することである。
【0008】
限外ろ過工程で除かれたカルシウムを含むカルシウムを再導入するために、様々な試みがなされてきた。しかし、これは、ミルク中での石灰粒子の沈殿や非所望の石灰味に関する問題をもたらしている。
【0009】
安定化剤の使用によってこの問題を解決するための試みがなされているが、当然、そのような添加剤はミルク製品において好ましくない。
【課題を解決するための手段】
【0010】
ミルクのpHを7.0〜9.5に調整し、その後それを限外ろ過にかけ、限外ろ過透過物をナノろ過にかけ、ナノろ過透過物を限外ろ過未透過物及び水と混合し、さらにpHをミルクの元のpHに調整する、2段階のろ過工程によってミルク製品を製造する方法である本発明の方法によって、前述の不利点を回避できることが分かった。
【0011】
それによって、90〜250kJ/100gで、元のミルクカルシウムの実質的にすべてを維持し、及び元のミルクタンパク質のすべてを有し、カルシウムの添加なく、安定化剤を含まず、口当たりの良い、低炭水化物のミルク製品を得ることができ、当該ミルク製品は、ミルクの風味と飲み心地を有するものの、甘味が弱く、それゆえ、非所望の水っぽい味または他の不快な風味をマスクする必要がない。
【0012】
以下の定義及び略語が、本明細書において用いられる。
【0013】
表現「低炭水化物ミルク製品」は、約4.8%の元のラクトース含有量が低減されている任意のミルク製品を意味する。
【0014】
表現「ミルク」は、原則的に、すべての哺乳動物のミルクを網羅するが、ウシのミルクに焦点を当てている。ウシのミルクの脂肪含有量は、約0.05重量%から生乳における天然レベルの4.2重量%であり得る。他の哺乳動物由来のミルクは、種々の脂肪含有量を有し得る。
【0015】
CF=濃縮係数
UF=限外ろ過
NF=ナノろ過
【0016】
本発明の方法は、ミルクのpHを7.0〜9.5に調整し、その後ミルクを限外ろ過にかけ、限外ろ過透過物をナノろ過にかけ、ナノろ過透過物を限外ろ過未透過物及び水と混合し、さらにpHをミルクの元のpHに調整する、2段階のろ過工程による、安定化剤を含まず、口当たりの良い、低炭水化物のミルク製品の製造方法である。
【0017】
前記ろ過の前に、食品用塩、好ましくはKOH、NaOH、または混合物を用いて、ミルクをpH調整する。pHを7.0〜9.5に調整する。
【0018】
通常、低pHの使用は良くない効果をもたらし、一方で、9.5より高いpHはミセルを破壊する傾向がある。例えば7.5〜9.0のpH値が使用され得る。通常、pH8.5が好ましい。
【0019】
当該方法は、2〜50℃の任意の温度で実施され得る。これは、結果に重要ではない。しかし、細菌学の理由により、通常、約10℃が使用される。
【0020】
ろ過後、食品用酸、好ましくはクエン酸またはリン酸を用いて、最終生成物をミルクの元のpHレベルにpH調整する。
【0021】
通常のpHは6.6〜6.8、特に6.7であるが、ある特定の場合には、そこからいくらか外れ得る。
【0022】
UF未透過物をNF透過物及び水と混合し、最終生成物に所望のタンパク質及び/または脂肪量を与える。
【0023】
この方法において調製された生成物は、通常、開始物質のタンパク質、脂肪、及びカルシウムの含有量を有するであろう。当該生成物中に沈殿物は存在しない。
【0024】
残存するラクトースを低減または除去するために、調製された生成物をラクターゼ酵素による処理にかけることができる。それによって、より甘味のある製品、またはラクトース不耐症の人によって許容され得る製品が得られる。
【実施例】
【0025】
本発明は、以下の非制限的な実施例によってより詳細に説明される。
【0026】
<実施例1>
・ 15000リットルのスキムミルクを、約40kgの46% KOHを用いて8.5にpH調整した。
・ 前記スキムミルクを、スパイラル原理を備えたUFユニット(Desal;カットオフ:10000MW)で濃縮係数(CF)2.3に限外ろ過した。結果は、6500リットルのUF未透過物と8500リットルのUF透過物であった。
・ 前記UF透過物を、スパイラル原理を備えたナノろ過(NF)ユニット(Desal;カットオフ:200MW)で処理する。CFは3.4であり、2500リットルのNF未透過物と6000リットルのNF透過物を生じる。
・ 前記6000リットルのNF透過物を前記6500リットルのUF未透過物と混合した。
・ 前記混合物を、約90kgの20%クエン酸溶液を添加することによって、6.7にpH調整した。
・ 前記混合物を、水を添加することによって元のスキムミルクに標準化し、2.0%のラクトース、3.5%のタンパク質、及び元の値の98%に相当する0.119%のカルシウムを有するミルクを与えた。
【0027】
【表1】

【0028】
<比較例>
本発明の方法の使用によって、生成物(「Pro-pH8.5」)、並びに最初のpH増加及びその後のpH低下をせずに、その後にミルクミネラル混合物、アルラ・フーズ社製の「Capolac」の形態のカルシウムを添加された類似生成物(「Pro-pH6.7」)が生産された。
【0029】
1.pH=8.5におけるUF;Prod-pH8.5
pH調整 600リットルのスキムミルクを、希釈NaOHを用いて8.5にpH調整する。
UF装置 当該生成物の希釈を避けるために、ミルクを充填する。
フィード圧 2.0バール
差圧 2.5バール
温度 10℃
タンクへの未透過物 4〜5000リットル/時間
ダイアろ過 なし
CF 2.3
回収 25リットルの未透過物が回収される。
【0030】
<UF透過物を、以下の条件下でNF装置でろ過する>
フィード圧 20.0バール
差圧 2.0バール
温度 10℃
タンクへの未透過物 4〜5000リットル/時間
ダイアろ過 なし
回収 23リットルの透過物が回収される。
【0031】
<混合、低温殺菌、充填、及び表示>
混合 UF未透過物をNF透過物及び水と混合し、元のタンパク質量3.5にする。
pH調整 前記混合物を、20%クエン酸を用いて6.7にpH調整する。
低温殺菌 72℃、15秒間、さらに50℃、200バールで均質化する。
生成物表示 Prod-pH8.5
【0032】
[比較生成物]
2.pH=6.7におけるUF;Prod-pH6.7
pH調整 供給原料(feed)である600リットルのスキムミルクのpH調整なし
UF装置 当該生成物の希釈を避けるために、ミルクを充填する。
フィード圧 2.0バール
差圧 2.5バール
温度 10℃
タンクへの未透過物 4〜5000リットル/時間
ダイアろ過 なし
CF 2.3
回収 25リットルの未透過物が回収される。
【0033】
<UF透過物を、以下の条件下でNF装置でろ過する>
フィード圧 20.0バール
差圧 2.0バール
温度 10℃
タンクへの未透過物 4〜5000リットル/時間
ダイアろ過 なし
回収 23リットルの透過物が回収される。
【0034】
<混合、低温殺菌、充填、及び表示>
混合 UF未透過物をNF透過物及び水と混合し、元のタンパク質量3.5にする。
Ca投与 前記混合物に0.12%のCapolac(=0.03% Ca)を添加する。
低温殺菌 72℃、15秒間、さらに50℃、200バールで均質化する。
生成物表示 Prod-pH6.7
【0035】
その結果、以下の分析結果が得られた。
【0036】
【表2】

【0037】
従って、それは供給原料混合物に相当する2つの生成物、スキムミルクの問題であるが、エネルギー量は、ラクトース含有量の低下により低下する。当該2つの生成物においてカルシウム含有量は同じであるが、2つの生成物は沈殿作用において大きな差がある。「Prod-pH6.7」には振り混ぜるのが非常に困難な白色沈殿物があり、「Prod-pH8.5」には沈殿物がない。粒子測定により、「Prod-pH6.7」は、「Prod-pH8.5」には含まれない2〜10μmの粒子(Capolac)を含むことが示された。
【0038】
図2は、本発明の透明な生成物(「Prod-pH8.5」)及び白色沈殿物を含む比較生成物(「Prod-pH6.7」)を示す。当該写真は、Prod-pH6.7及びProd-pH8.5をそれぞれ空にした後の、1/2リットルPEボトルの底から撮られたものである。それは、Prod-pH6.7ボトルにおける懸濁するのが困難な沈殿物を示している。Prod-pH8.5ボトルには沈殿物がない。
【0039】
図3は、Prod-pH6.7と比較したProd-pH8.5の粒子サイズの分布を示す。Prod-pH6.7は1〜10μmの範囲に粒子を有し、一方、本発明の生成物であるProd-pH8.5はこの範囲に粒子を有さない。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】元のカルシウム/タンパク質比を有する低炭水化物ミルクの生産を示す実施例1の工程図。
【図2】比較例において得られた生成物の写真。
【図3】比較例において得られた生成物の粒子サイズ分布の測定結果。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
90〜250kJ/100gで、元のミルクカルシウムの実質的にすべてを維持し、及び元のミルクタンパク質のすべてを有し、カルシウムの添加なく、ミルクの風味と飲み心地を有するものの、甘味が弱く、それゆえ、非所望の水っぽい味または他の不快な風味をマスクする必要のない、安定化剤を含まず、口当たりの良い、低炭水化物のミルク製品。
【請求項2】
ミルクにより強い甘味をもたらすか、またはラクトース不耐症の人に適したものにするために、ラクターゼ酵素によって加水分解された、請求項1に記載の製品。
【請求項3】
ミルクのpHを7.0〜9.5に調整し、その後それを限外ろ過にかけ、限外ろ過透過物をナノろ過にかけ、ナノろ過透過物を限外ろ過未透過物及び水と混合し、さらにpHをミルクの元のpHに調整する、2段階のろ過工程による、請求項1に記載のミルク製品の製造方法。
【請求項4】
限外ろ過前にpHを7.5〜9.0に調整する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
限外ろ過前にpHを8.0〜8.5に調整する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
限外ろ過前にpHを8.5に調整し、さらに最終生成物においてpHを6.7に調整する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
最終混合物をラクターゼ酵素によって加水分解する、請求項3に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2009−521937(P2009−521937A)
【公表日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−548931(P2008−548931)
【出願日】平成19年1月5日(2007.1.5)
【国際出願番号】PCT/DK2007/000005
【国際公開番号】WO2007/076873
【国際公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【出願人】(501295969)アルラ・フーズ・エイ・エム・ビィ・エイ (11)
【Fターム(参考)】